第三十三話・捩曲の夢と現実少しだけ、分かったことがある。『 ゼロの使い魔の登場人物 ‐ Wikipxdia 』ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア 声‐佐々木良緒 二つ名は『絶望』。ルイズの親友で、才人が召喚されて初めてできた友人。 僻地に領地を持つメイルスティア家は貴族の中でも極端に貧しく、彼女自身辛い幼少時代を過ごしているが、それをおくびにも出さない明るい性格。 キュルケ、タバサ、ギーシュがルイズ達のよき友人になった背景には、彼女の働きによるところが大きい。 「水」のドットで趣味はオリジナル魔法薬作り。自作の薬を学院の使用人達にも分け与えており、身分にこだわらない希少な貴族として慕われている。使い魔は空飛ぶ巨大ムカデのココア。 灰色の髪に同色の瞳を持ち、やや鋭い目付きが特徴。 生まれ育った環境によるものか、自身の容姿や自身そのものにも価値を見出せていない節があり、他人の好意や評価に対しては極端に鈍い。 魔法の腕はドットとしても並以下だが、幼少より家計を助けるために狩りしていたせいか弓の腕は達人級で、タバサが師事するほど。 2巻でミョズニトニルンに操られた際には、空中で魔法使用中という超限定下だがワルドをも圧倒し、Wikipxdiaの説明がまた変化している。位置も、生徒(主要人物)の最上段。もはや“私”は完全に主要人物と化していた。それ以上スクロールはできないが、その先は何となく分かる。“私”が為してきた事が、第三者視点で見た“私”が記されているのだろう。あの日、“私”が死にかけた時を境に、“私”の…“新しい私”の記憶を持ち帰ることができるようになった。むしろ、“俺”がこうして動けるのは“私”の意識がなくなった時。主に睡眠だ。“俺”との共有は不可能、あくまで一方的に記憶する。“俺”の記憶は覚えていない悪夢としてだけ認識され、“俺”が知る情報を“私”が使う事はできない。あれから何回か“俺”は目を覚まし、それだけは確信することができた。相変わらず気分は最悪、頭痛と眠気でまともに行動できないし、肝心な矛盾の “始点”は思い出せないが、それでも大きな進歩だろう。ただ、新しい疑問が生まれた。“私”は恐らく、佐々木良夫を経て転生した“私”のはず。自慢でも何でもないが、俺は人並みに他人の気持ちも分かるし、それなりに友人だっている。25年間男として生きてきて、恋愛も全くしなかったわけじゃない。彼女いない歴が年齢だが、それでも青春の淡い思い出くらいはあるし、恋愛モノの本や映画だって見てきている。なのに、“私”はどうだ?ルイズ達から向けられる親愛に偽りはない。そこには友情なんてモノが確かに存在するはずだ。“茶番”や“ごっこ”で済ませられるような関係じゃない。なのに、“私”は彼らを友人と見ていない。ただ利用し、されるだけの相手としか思っていない。そして自分自身、今の“私”なんかに友人なんてできるはずがないと思い込んでいる。そしてウェールズ殿下の死を確実にしようと画策したのをはじめとする、徹底した利己主義。“俺”なら良心の呵責で苦しむだろう。いくら何でも他人の屍を踏み越えてまで自分の望みを果たそうとなんて考えない。“私”のように、淡々とやり過ごせたりはしないはずだ。異性を意識しないにも程がある。確かに“前回の私”は20エキューでも売れず、容姿に全く自信がなかったが、それでも限度はあるのだ。美人じゃないが、ブスでもない。並程度の容姿だとしても、誰にも相手にされないなんてこと自体があり得ないのに。それに、男として生きた経験があるのなら、どんな言葉や行動に相手が反応するかくらい分かるはずだ。“私”は“俺”だ。でも、“私”は本当に“俺”なのか?最初のラリカでもなく、佐々木良夫を継いだラリカでもないとしたら、“あの私”は一体何なのか。Wikipxdiaを抜け、『ゼロの使い魔 ラリカ』で検索をかける。公式HPに載っている画像、誰かが描いたイラスト。同人画像まである。ギャグやパロディならともかく、18禁な目に遭う“私”を見るのは妙な気分だ。容姿はだいぶ美化されているとは思うが。文章コンテンツには、二次小説と呼ばれる類の物もあった。才人が逆行して“ユンユーンの呪縛”を防ぐもの、序盤でゴーレムに潰されるもの、ルイズと立場が入れ替わったもの、オリジナルキャラクターが才人の代わりに呼び出され、そのキャラに惚れてしまうといったものまである。幾つかあった“もしラリカがいなかったら”という“IF”作品。もしかすると、その中に“俺”の知る、改変されていない原作があったかもしれない。頭痛と眠気が強くなってきた。どうやら、もう“私”が起きてしまうようだ。時間がない。記憶の持ち越しはできないが、“私”が知り得なかった情報を知っておきたい。小説を取り、頁を捲る。…え?ワルドが、クロムウェルとシェフィールドを暗殺しようとしている!?何だそれ!?何でそんな事に!?“あの時”の言葉がそんなふうに解釈され、いらない決意を与えてしまったらしい。しかも、フーケとのやりとりからしてワルドは…。嫌な予感がする。クロムウェルはともかく、いやクロムウェルでも問題だが、シェフィールドなんか殺してしまったら原作が確実に崩壊する。ジョゼフがどんな行動を起こすか、想像もできない。姫様とルイズの関係。友情が知っている原作とは程遠くなってきている。ルイズには心から信頼を寄せる“親友”ができており、彼女の他にも友情がしっかりと芽生えてしまった。姫様は今現在の“最愛のおともだち”ではないのだ。すでにキュルケといがみ合う事はなく、タバサとも普通に挨拶を交わす。ギーシュという男友達までできている。共に冒険し、飲み交わし、笑い合える友人に囲まれたルイズは、原作よりも早い精神的成長を遂げていた。劣等感が払拭され、視野が広がり、判断力の上がったルイズが、それまで姫様がしてきた言動をどう捉えたか。アルビオンの旅や、“ユンユーンの呪縛”事件で何を思ったのか。そして、才人の感情。ルイズとの関係は概ね良好。些細なケンカはあるが、大きなトラブルは一度もない。互いに互いをパートナーと認め、必要とし合っている。原作のような激しい波はないものの、着実に恋愛感情も育っているようだ。今の才人にとってルイズは “もっと必要とされたい相手”、“一緒にいると胸が高鳴る相手”。しかし、彼女とは別に“守りたい相手”が、“一緒にいると心が落ち着く相手”が存在する。才人の感情はその2人の間で激しく揺れている。逆にシエスタや姫様が占めているはずの場所には誰もいない。現状、メイドと女王は“ヒロイン候補”ですらないのだ。乖離が激しい。物語が進めば進むほど、綻びが大きくなる。バタフライ・エフェクトは、“私”だけでなく、全ての運命に影響し始めている。そして、“私”はまだ、事態を楽観視しているのだ。すぐ傍まで嵐は迫っているのに。まぶたが重い。次に“俺”が目を覚ます時、どれくらい話は進んでしまっているのだろうか。鈍くなってきた手で、他の巻を取る。字が霞んでよく分からない。挿絵?何だ…これは………“わたし”が、ジョゼフとむかいあって、なにがあった、んだ?“そんなかっこう”で、じょぜふと、なにを、はなし、て………、※※※※※※※※「うぇ」嫌な目覚めだ。せっかくいい気分で眠ったのに、何という台無し。悪夢の内容を覚えてないのが救いだな。でも昨日はお世辞と分かっていつつも、ガラにもなく褒められちゃったりして、微妙に嬉しい風味な感じがしたりして。まあ、今後の人生であそこまで容姿に感激されるなんて有り得ないしね。悪くはない経験だったかもかーも。かといって、もう一度やるかって言われたら大至急NOだけどな!さてと。今日は多分、朝の授業でミス・モンモンがセーラー服を着てきた後、何だかゴチャゴチャあって、惚れ薬事件勃発な日だ。何でそんな事になったかまでは覚えてないけど、私の出る幕は…、ノックもなしにドアが開く。現れたのは、最近よく現れては去っていくミス・モンモランシだった。珍しく(?)ワイン瓶を持ってない。「お邪魔するわよ、メイルスティア」「あ~、せめてノックはして欲しかったかも。うん、いいけどね。おはよう、ミス・モンモランシ」酔って部屋を間違えたんじゃないなら、何の用だ?この人とは全く交友がないはず。むしろメイルスティアってだけで蔑視されてるし。水メイジで貧乏で趣味が秘薬作り、彼女の超劣化コピーみたいな私はどーもアレらしい。平民と仲良くするのも気に食わないのかもかーも。プライド高いからなー、私はプライドなんて生まれたその日から捨ててるぜー。うん、とにかく蔑視こそされても、部屋を訪ねられるような係わり合いはなっしんぐだ。用件に至っては皆目検討もつかない。「ふぅん、地味な部屋ね」ダメ出しに来たのか?馬鹿にされるのは別に気にならないけど、朝っぱらからごくろーさんなコトですなぁ。「いや~、乙女チックとか似合わないって自覚してますから」「それ以前の問題じゃない?貴族らしく…ああ、あなたに貴族らしさなんて求めるのが間違いよね。ごめんなさい、忘れて」「あはは、それで何か用事でも?なかったら着替えとかしたいなーって」ケンカの訪問販売でも始めたのか?もちろん買わないけどな!同じ水メイジでも、実力に差があり過ぎるのです。「今夜、わたしの部屋に来てもらえるかしら。あんたに話したい事があるのよ。それと、ルイズとか妙な取り巻きは連れて来ない事。分かったわね?」「話したいことって?」「とても大事なことよ。いろいろ、そう、いろいろとね…」「何だか分かんないけど…とりあえず、りょーかいです」「用件はそれだけよ。じゃあ失礼するわ」で、踵を返して去って行くミス・モンモランシ。最初から最後まで実に高圧的でしたな~。うん、“前の私”時代から慣れてる反応だけど。より顕著になってるよーな。もしかして、怒ってるとか?心当たりないから、それはないか。う~ん、でも何の用だろ?なんだろなー。