幕間9・異世界の水兵服望郷?いいえ単なる欲望でしょーに。でも残念。私じゃ全然魅力不足。脱いだら凄いメイドじゃなくて、ごーめんね。「ラリカ、プレゼントだから着てくれ」笑顔だけど目が笑ってないぜ才人君よ。「これは水兵服じゃーないですか。プレゼントは嬉しいけど、軍服もらってもな~」「大丈夫、これは大丈夫な服だから」何だそりゃ。なーにが大丈夫なんだ?「そかそか。でもサイズが合わないだろーしなぁ」「大丈夫、サイズを教えてくれたら今すぐメイドに頼んで直してもらうから」全然大丈夫じゃーないでしょう。恐らく原作みたく、おヘソが動くたびにチラ見しちゃうような丈にするに違いない。いくら魅力ゼロを自負する私でも、それなりに羞恥心はあるのです。よって、コイツに任せちゃならん。「…それは自分で直すからいいよ~。こう見えても裁縫とか得意だったりするかもかーも。家庭的な貴族を目指してますからワタクシ」貧乏ゆえに身に付いたスキルなんだけどね。「そ、そうか。それでいつできる?」「ん~、頑張れば明日には間に合うよ。でも、」「是非頑張ってくれ!」「………おけ~い」「それと、その服は特殊で着る時は紺色の靴下じゃなくちゃいけないんだ。あと、スカートはなるべく膝上15センチで。靴はローファーが理想的なんだ」「スカートその他も指定?何故にほわ~い?」おいおい、こっちの世界の単位はセンチじゃなくてサントですよー。どこまで焦ってるんだキミは。でも膝上15センチって…。「実はこの服、俺の世界でセーラー服と呼ばれる学生の制服なんだ。俺が異世界から来たって知ってるよな?そこで俺は学生だったんだけど、現在進行形で女子生徒はそれを着てたんだよ。そして実は俺も現在進行形でホームシックなんだよ。くじけそうなんだよ。故郷の風を感じたいんだよ。…だからホントお願いします」…うわぁ。何というダメっぷり。シエスタ(原作の)凄いなぁ。尊敬するよ。でも、そのシエスタの運命をちょっと狂わせたのは私だし。才人も貰えるハズだった手作りマフラー貰えなかったし。まあ、少しくらいは付き合ってあげましょーかね。「あ~、靴下は問題なっしんぐ。スカートは、流石に膝上15サントは恥ずかしいゆえに、もーちょっと長くさせて欲しいかな。あと、ローファーって靴はこの世界にはないかも」「膝上12サント、それより長くは妥協できない!靴は…ないなら仕方ない、いつものブーツでいいよ…」「あー、うん、分かった。実にほんのり妥協してくれてありがとう」本格的にダメだな~この人。でもオトコなんてそんなモンなのか?“俺”の頃はどうだったっけ?制服とかはあんまり興味なかったよーな。嗜好が違ったか。「あ、でも」「まだ何かあるの!?ホント勘弁してくれよ」勘弁して欲しいのはこっちだっちゅ~に。「前に聞いた話だと、才人君の故郷のヒトって髪の毛の色、黒なんだよね。私みたいな灰色の髪じゃ、故郷と違うからホームシック治らないかも」シエスタは黒髪だったから余計に似合ったのだ。脱いだら凄くもなく、特に美少女でもないのに、髪の毛が灰色なんてダメ過ぎだろう。「何だ、そんな事か」ホッとしたように才人は笑う。そして、紙袋を差し出してきた。「黒髪のカツラだよ。良かったら使ってくれ」OK、分かった。そこまでされたら覚悟を決めよう。やってやろうじゃ~ないですか。今までの感謝と今後のサヨウナラを込めて、ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア、根性見せますよー。「分かったよ。じゃあ、明日までに仕上げて着る、でオーケィ?」「待った!」「…まだご注文が?」「中庭だ、朝、中庭で待ってるから来てくれ。そしてくるりと回転して、『お待たせっ!』って元気よく言ってくれ」うん、改めてダメだなコイツ。まあ、やってやると決めたのを覆すつもりはないけど。せいぜい、シエスタバージョンとの格差に絶望してくれたまえ。「りょ~かい。期待しないで待っててくれたまへ。似合わなくても笑っちゃダメダメだぜー」じゃあ、仕立て直しますか。何だかなー。伝説なのに、英雄予定なのに。アホだなー。※※※※※※※※お手製セーラー服を着て、部屋を出る。カツラはもちろん装着済み。誰かと出会ったら流石にはずかしーからね。変装的な意味も込めて。一応鏡で見てみたけど、シエスタバージョンと違いすぎる。明るく元気な女子高生というよりも目付きのきつい無愛想女。これで『お待たせっ!』はミスマッチだろう。「それでぼくは言ったんだ。その肉はぼくの、」とか思ってたら、さっそく人に会った。ギーシュとミスタ・グランドプレだ。2人は私を見て固まる。私が誰だか分かってないっぽいな。髪色変えるだけでも分かんなくなるもんなんだ。…よし、あんま目立ちたくもないから誤魔化そう。窓から直に中庭に行けばよかった。「おはよう、ミスタ・グラモン。ミスタ・グランドプレ」てきとーに微笑み、挨拶する。ワタシはメイルスティアなんて子じゃないデスヨ~。「え?あ、ああ、おはよう…ええと、ミス」「おぉ…おはよう…」で、早足で立ち去った。私はミス・モンモランシみたいに変わった格好で目立とうとか思わないのですよ。そもそも似合ってないだろうしね。思った以上に恥ずかしいぜ!さっさと才人に見せて、着替えようそうしよう。で、中庭。才人が忠犬みたく待っていた。原作でルイズに犬扱いされてたけど、その時もこんなだったのだろーか。人類としてのプライドだけは捨てないで欲しい。「おはよう、才人君」微かな笑顔で挨拶する。いきなり目の前で回転するのもアレだろうし、どーせ細かなシチュエーションを注文されるだろうから、『お待たせっ!』はその時でいい。…って才人?何か反応してくだされ。いくら似合ってないっていっても、無反応はちとカナシ~ぜよ。「お、」「お?うん、おはよう」「おおおおおおおおおおおおォォォォォォォォッ!!」咆哮し、両手を挙げる。そして跪きながら地面に拳を叩き付けた。何やってんだ一体?「うぉおおおおおおおおおおおおおォォォォォォッ!サイッコォオオオオオッ!!」バッと立ち上がり、私を指差す。「ラリカ最高ぉおおおおオオオオッ!!」………うわぁ。流石の私もちょーっとアレだな。何でアナタは半泣きなんでしょーか。でも、これがシエスタだったらもっと激しかっただろう。正直スマンかった、才人。私じゃ胸も足らないし、おヘソも見せてあげてないし。ギリギリのラインまでは短くしたから、何とか妥協して下さいな。「それで才人君、くるっと廻って『お待たせっ!』でいいんだよね?」でもさっさと終わらせてもらおう。「待ってくれ!!」はい?なぜ止める?別に止めるんなら大歓迎だけど。「キャラが違う!その台詞は…違うんだ!!」「あー、じゃあどんな台詞を言えばい~のかな?」「違うんだ!台詞うんぬんじゃなくて…喋り方を、その、クールにしてみてくれ!」キャラまで作れと?まあ、既に今の私が“作られたキャラ”だし、得意だけどね。「コホン、…なら、どんな台詞を言えばいいのかしら?」腕組みして口調を冷たく&目つきとかも冷ややかにしながら訊ねる。親指を立て、それだ!と頷く才人。そんな君に生温か~い微笑をあげよう。「私は君と違って授業も行かなきゃならないし、そんなに時間がないの。才人君、早くして欲しいな」「そ、そうだな、ええと…」「待ちたまえ!!」とかやってたら、ギーシュの声が響いた。振り返るとミスタ・グランドプレと一緒に向かって来てる。ついて来たんですかオマエら。ヒマだなぁ。「それはッ!何だね?その服は何だね!!」「けしからんッ!!実にけしからんぞッ!!なあギーシュ!!」ああ、そーいやこの人たちもアレだったっけ。「彼の故郷の制服らしいわ。そんな事より貴方たち、覗き見していたの?感心しないわね」「お、おぉ…し、失礼ミス、ええと…サイト!こちらのレディは?」「レディって、ラリカじゃんかよ」バラすな才人!…あぁ、もう。めんどくさいなー。「メメメメイルスティアだと!?そんな!メイルスティアはもっと無駄にフレンドリーかつ頭の悪そうな喋り、」「あら。ミスタ・グランドプレ。私の喋りが、何?」髪(といっても黒髪のカツラだけど)をかき上げながら睨んでみる。失礼な。一応、一生懸命明るい人を演じている結果なのに。「何でもないです」「そう、ならいいわ。あと一応コレ、才人君の要望ね。全く、キャラ作りなんてガラじゃないのに」「い、いやー、ノリノリに見えるがね」「頑張って演じてあげているのよ。あぁ、そろそろ授業に間に合わなくなるわね。戻らないと」小さくコホン、と咳をして“いつもの”私に戻る。「…とゆーわけでして、これにて終了でございーま。それでは皆さんさようならっと。ココア!」私はモンモンさんじゃないので、この姿で授業に出るつもりはない。さっさと着替えさせてもらいましょーかね。ココアを呼び、“フライ”で飛び上がる。また誰かに出くわすのは勘弁だから、窓から帰ろう。下の方で男3人が何か言ってるけど放っとく。サービス終了。ないだろーけど、次回にご期待下さい。カツラを外し、ココアに乗る。その時、バタンと窓が閉まる音が聞こえた。…ん?誰かに見られてた?ま、でもこっちは女子寮だし、1人くらいに見られたって問題ないかな。後は残りの水兵服をギーシュにやってセーラーモンモンさせるなり、ミスタ・グランドプレにあげてあっちの道に目覚めさせたり好きにやって下さいなと。あー、やけに疲れたぜ~。オマケ<Side Other>ラリカが“フライ”で飛び上がっていった。膝上12サントのスカートで。それを(真下から見上げながら)見送る漢たちの視線は、まるで我が子を慈しむ父親のようだった。「…いやぁ、朝から眼福だね。実にけしからん」「脳髄が直撃されたよ、ギーシュ。本当にけしからんな…」「お前ら“見た”よな?よし、後で決闘な」「はっはっは、君も同罪じゃないかサイト。僕らは共犯、いや、もはや戦友だよ」「ぼくも今まで君の事を誤解してたよ、使い魔君。いや、ミスタ・サイト」「戦友、か。サイトでいいぜマリコルヌ。ミスタなんていらねえよ」「うんうん、友が分かり合えて良かったよ。ところで、あの衣装はどこで買ったんだい?」「誰かにやるのか?」「モンモランシーにね。あれをプレゼントすれば機嫌を直してくれるような気がするんだよ。さあ、教えたまえ。どこで売ってた?」「まだあるから一着やるよ、その代わりモンモンとしっかりヨリ戻せよ?で、二度と浮気するな」「ぼ、ぼくにもくれないか?」「マリコルヌは誰にやんだよ?」「…冷静に考えたら、ぼくには着てくれるような相手がいないや。待てよ、自分で着て、」「待て。今度ラリカに着てもらう時に呼んでやるから、自分をそれ以上傷付けるな」「ありがとう。危うく道を踏み外すところだったよ…」「その時は僕もよろしく。ところで、あと何着あるのかね?」「残り一着だ」「なら君のご主人、ルイズにあげたらどうだい?少しサイズはぶかぶかになるかもだが、僕の予想では…それはそれでアリだと思うんだ」「…!!お前、天才じゃないか?」「やはりギーシュは見る目が違うね。その慧眼、ぼくも見習いたいよ」ラリカが去った空を見上げたまま、男3人の会話は続く。ちなみに授業の方は、バッチリ遅刻した。