第三話・恩を売りましょう早起きは三文の徳。三文て3ドニエくらい?だったら寝てた方がマシかもかーも。「おはよ~使い魔君。早起きだねー」翌朝、洗濯物を抱えた才人とばったり出会う。当然、偶然じゃないけど。「あんたは…、!?てことはム、ムカデがいるんだろ!?」振り返り、怯える才人。昨日のアレを思い出したのか。「上」笑顔で天井を指差す。廊下の天井にはココアが張り付いていた。「うわ、」「“サイレンス”」悲鳴を魔法で消す。早朝から大声を出されたら他の人に迷惑だろう。「見た目はアレだけど、襲ったりしないから大丈夫。昨日だってぐるぐる巻きにされただけで痛いコトされなかったでしょ?」こくこく頷く才人に微笑むと、魔法を解除する。「ふぅ。まあ、確かに俺をとって食おうって感じじゃなかったな」若干落ち着く才人。なかなか肝が据わっている。これならココアに慣れるのも難しくはなさそうだ。「だからあの子は君が気に入ったんだって。仲良くしてくれると私も嬉しいなーって。ええと、」「平賀才人。使い魔君じゃなくて名前で呼んでくれ」「ヒラガ・サイト君か。ヒラガって珍しい名前だねー」才人が名前って事は知っているが、“普通は”知らないだろう。すっとぼけてみる。「いや、俺のところじゃ才人が名前になるんだ。こっち風で言うと、サイト・ヒラガかな」「じゃあ才人君。私はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。ラリカって呼んでね。昨日も自己紹介したけど、聞いてなかったでしょ?改めて、よろしく」「あ、おう」フレンドリーな態度に少し戸惑いを見せつつ、才人は差し出した手を握ってくれた。「それで、才人君は朝早くから何を?」「ああ、ルイズ…俺の主人って子に洗濯しろって言われて。そうだ、洗濯できる場所教えてくれないか?」「お安い御用ですよー。それとその洗濯物、ココアに持たせよっか?」カサカサと天井からココアが降りてくる。ちょっと引いてる才人の手から洗濯籠を取り、それをココアの頭に乗せた。うん、ココアって書くと可愛らしいイメージになるなー。実際はムカデだが。「け、けっこう従順なんだな」「だ~から見た目は怖いけど凶暴じゃないって。それにこの子、才人君のこと気に入ってるみたいだから、きっと言うことも聞くと思うよ。試しに何か命令してみたら?」「え?じゃあ…“お廻り”」イヌじゃねえっての。しかし、ココアはその長細い巨体でくるりと廻って見せた。うん、我が使い魔ながらキモい。でも才人は少し嬉しそうだ。「おお!ホントにやってくれた!」「意外にいい子なのですよ。コレがまた」理性とか知性はないけど、命令には絶対だ。才人に従えって命令してあるので大概の事は聞いてくれるだろう。お前いいヤツだったんだなーとか言いながらココアの頭を撫でる才人。たかがお廻りしてくれたくらいで懐柔されるとは。まあ、都合がいいからいいけど。思えば、才人は昨日から悲惨な目に遭って、相当心がナイーブな感じになっているはず。まともに会話したのはルイズだけだし、そのルイズからの扱いも原作通りのきつーいものだっただろう。多少(?)不気味なムカデでも、言う事を聞いてくれたら心を開いてしまうかもしれない。※※※※※※※※「ルイズはどんな感じ?」てくてく歩きながら話を振る。ちなみにココアは私たちの後ろをいい子で付いて来ている。「あー、何かすげえ偉そう?貴族だか何だか知らないけど、俺のこと平民だとか犬だとか、まともに話もさせてくれねえ」…予想通りってか原作通りで安心。「でも、可愛いでしょ?」私の5倍は可愛いと自負(?)できる。整形したって敵わないだろうなー。「…それは否定できねえな。でも性格がアレじゃなぁ」「あの子、本当はとってもいい子なんだけどねー。でもちょ~っと今は混乱してるって言うか…使い魔は一生のパートナーだし、平民を呼び出すなんて前例がないし」「だからその平民とか貴族とかいう考えが分かんねえ。同じ人間だろ。なのに聞いてりゃまるで別の生き物みたいにさ」「その言い方からして、才人君は貴族と平民の格差がない地域から来たの?」「いや、そもそも貴族とか平民とか自体がなかった。…ラリカは俺が別の世界から来たって言ったら信じるか?」「友の言うことを信じないような女に見えますかな?」笑ってみせる。信じるも信じないも、“俺”はそんな世界で二十数年生きたわけだし。それにしても、こんな早い段階で本人の口から異世界宣言が聞けるとは。もう少し親しくならないとダメかとも思ってたし、最悪教えてもらえなくても問題はないとも思っていたけど…。「…ありがとな」「いえいえ、世の中いろいろあるからね。それで、その事はルイズにも?」「話した。一応、元の世界に戻す努力はするかもみたいな事は言ってくれたけど…正直不安だよ」「…まあ、ココアの事もあるし、心細くなったら話し相手くらいにはなるよ。でも、1つだけお願いが」「何?」「ルイズを嫌いにならないであげて欲しい。きつーい言葉の端にも彼女なりの優しさとか苦悩とかがあるから、それを受け止めてあげて。異世界から来て才人君自身も余裕ないかもしれないけど、どうかお願いする次第ですよ。それに、そうしてくうちに彼女のホントの魅力にも気付けるかもかも?」「…努力はするよ。それにアイツの機嫌損ねたら俺、生活できないだろうし」そうそう、よく分かってるじゃないか才人少年!というか君らが仲違いとかしたら、トリステインの未来が危ない。つまりトリステイン貴族の私の未来が危ない。しっかり頼むよ。「あ、それと今のはルイズには内緒の方向でお願いねー」「今のって、嫌いになるなとかいうの?何で?」「私から言われたとかじゃ逆効果だから。それに恥ずかしいじゃーないですか」「ラリカって優しいんだな」いえいえ、どっちかって言うと最低ですよ☆笑って誤魔化す。そうこうするうちに、水場に付いた。予想通り、先客にシエスタの姿がある。「おはよーシエスタ」「あ、ミス・メイルスティア。おはようございます。隣の方は…、ひっ!?」ん?ああ、ココアに気付いたの。「きゃ、」「“サイレンス”」まーた説明だよ。めんどくさ。※※※※※※※※説明疲れた。でも私の使い魔だと言う事でシエスタも落ち着いてくれた。信頼関係の大切さを思い知った。いや…例のワイロが実を結んだのか?「そうだったんですか。こちらこそよろしくお願いしますね、サイトさん」才人との自己紹介も終わったようだ。彼女もいずれ才人に惚れたり何だりするのだろう。ライバルは公爵の娘とか姫様だとか、やたらと強力な連中ですが頑張って下さいな。「じゃあ才人君、後はシエスタに聞いてね。シエスタ、後はよろしーく」「はい、ミス・メイルスティア」「ありがとな、ラリカ」※※※※※※※※2人と別れた私は自室に戻った。朝食にはまだ早い。てか、眠い。ちなみにココアはあの場に残してきた。洗濯の帰りも荷物係として才人が使うだろうし。欠伸を噛み殺し、鏡を見る。うん、相変わらず目つき悪い。“作った”キャラが似合ってないコトこの上ない。口調とか、笑顔とか、あれでも一応練習の成果なのですよ。ニセモノっぽいとか言わないで。自分が一番分かってるから。才人はこの後、ルイズを起こして着替えをさせられて、キュルケとの初顔合わせになるだろう。そして朝食。昨日言っておいたから見た目ほど悲惨な食事ではないはずだ。…ああ、そういえば授業で爆発する予定だったっけ。全身全霊をもって被害に遭わないよう気を付けよう。オマケ<Side 才人>「友の言うことを信じないような女に見えますかな?」ラリカはそう言った。正直、ああも簡単に信じるとは思ってなかった。ルイズなんて昨日あれだけ話してもまだ半信半疑なのに。そういえば、ラリカは最初から俺に“普通の”態度で接する。この世界での平民と貴族の関係ってもっとギスギスしてるはずなんじゃないのか?「サイトさん?」「ん?ああ、何だったっけ?」シエスタに呼ばれて考えるのをやめた。「ミス・メイルスティアといつの間に仲良くなったのかなぁって」「うん、ラリカが言うにはココアが俺を気に入ったからみたいだよ。それに、ルイズともそこそこ仲いいみたいだし。シエスタも何か親しそうだったな」「ええ。ミス・メイルスティアは平民である私たちにも優しいから、学院の平民には人気あるんですよ。特にメイドにはハンドクリームをくれるから慕う人が多いんです」ハンドクリーム?「…ふぅん。やっぱ他の奴らとは違うんだな」「ミス・メイルスティアみたいな貴族様は他にいないですよ」笑って言うシエスタ。ラリカか。悪い奴じゃない。むしろ、今のところこの世界で心を許せそうな唯一の存在だ。ルイズも彼女みたいな性格だったら良かったのになァ…。