幕間7・平穏で、平和な、小さな宴全部終わったら、何をしよう。恋人でも見付けようか。その前に、友達かな。 “私”にできるかどうかは不安だけど。誰かに聞いた話。嘘つきのジレンマ。嘘つきは、嘘を明かさない限り守られる。他人からも、自分からも。のらりくらーりとシリアスなイベントを避けてかわして、傷付けないように、傷付かないように生きられる。でも、嘘つきはやがて“本物”が欲しくなる。カンタンな生き方をしてるから、カンタンに手に入りそうだと錯覚してしまう。嘘つきは何も失わない代わりに、得ることもできないというのに。誰かに聞いた話だ。嘘しかつけない私には、どう頑張っても何も手に入らない?冗談。ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアは諦めない。嘘を纏って、嘘を引き摺り、それでも幸せになってやりますよ。やるので~す。「おぉ!ラリカ嬢ちゃん!そろそろ来る頃かと思ってたぜ」厨房に顔を出すと、マルトーはじめ数人の使用人たちが歓迎してくれた。まあ、目当ては例のアレなんだろうけど。「何と、私の行動はバレバレでしたか。でも、コレはバレてなかったはずですよー」いつものジェネリック秘薬、ハンドクリームと一緒に、ショボい香水の瓶を取り出す。新作の低コスト☆ワイロアイテムだ。「香水?学院メイドにか?…う~ん、でもメイドが香水の匂いなんてさせてたら貴族連中に何言われるか…」「ちっちっち、コレは特別なんです。まあ、ものは試しで…ちょっと失礼」一緒に覗き込んでいたメイドに、香水を吹きかける。ふわりと、セッケンの匂いが香った。「石鹸の匂い?」「はい。清潔感を前面に出した、名付けて『働くメイドの香り』。個性ゼロに加え、派手さも珍しさもないからお洒落には向いてないですけど、逆にメイドにはピッタリかもと」ミス・モンモランシが聞いたらバカにされること請け合いだろう。まずこの世界じゃ需要がない。買う層も貴族や金持ちが殆どだし、そもそも香水を買う目的は個性とかお洒落だからだ。誰がわざわざお金を払って普通の石鹸なんかの匂いを纏いたがるのかって話になる。「一生懸命働いてると、どーしても汗とか出ます。体臭とかが誤魔化せなくなる時も。でも、コレを吹き付けておけばアラ不思議。前を横切る度に、清潔そうな石鹸の香りがふわ~りと漂っ、」5つほど用意しておいた瓶が、メイド達に奪い去られた。「…あ~、どうやら使ってくれるみたいですね」「…そうみてえだな。ハンドクリームも消えてるし。大人気だな、ラリカ嬢ちゃん」「いやー、持ってきた甲斐があるってものですよ。じゃあ、いつものように秘薬の材料になりそうなモノ、いただいていいです?」明日は開戦前最後の虚無の曜日。どーせやる事もないので、秘薬作りでもしようと思ってる。お金はそこそこ貯まってるし、そんな稼ぐ必要はないんだけど、暇潰しにはもってこいだ。「もちろん!何でも持ってってくれよ!…でもよ、ラリカ嬢ちゃん。ちゃんとした秘薬を作らなくても俺らにくれてる薬を売れば、金持ちになれそうな気がするんだけどな」ジェネリック秘薬とかハンドクリームを?「売れるのは最初のうちだけですよ。作り方カンタンだし、材料も安いんで、すぐに真似されるのがオチですって。で、効率の悪い私のは結局売れなくなると。だったらお世話になってる皆さんにタダであげた方が何倍もいいじゃ~ないですか」それにジェネリック秘薬とかって効果がバラバラだし。てきとーに作ってるから仕方ないんだけど、そんなの売ったら後で大変なコトになりそう。「くぅ~っ!やっぱラリカ嬢ちゃんはいい子だ!!俺に息子がいたら是非とも嫁にって言うのによ!!」息子ってかマルトーって結婚してたっけ?特に興味ないので家族構成とか聞いた事がない。それと一応私、貴族なんですけどね。まあ、平民のお嫁さんも悪くないけど。「マルトーさん、ミス・メイルスティアは貴族様ですよ」メイドの1人が苦笑しながら言う。その苦笑に二重の意味を感じるのは気のせいじゃないだろう。“貴族様”の前に、不可聴の“一応”があるような気がしてならない。「そうだったな!いやぁ、すっかり忘れてたぜ!ラリカ嬢ちゃんは、普通の貴族連中と同じには見えないからな!」楽しそうに笑うマルトー。悪意がないだけに始末が悪い。私は学院の使用人たちに慕われてるのか?それとも馬鹿にされてるのか?どっちもなのか?まあ、別にいいんだけど。そんな事にいちいち怒るようなプライドはないし。私が実害を被らないのなら、多少のサービスもやぶさかじゃ~ないのです。※※※※※※※※袋いっぱいのキノコを手に、部屋に戻ったら…ドアの前に赤青コンビがいた。「や、キュルケ。ど~かした?あんどタバサ、はしばーみ」「何その『はしばーみ』って。あなた達だけで通じる合言葉か何かなの?」「そうなの?」キュルケがタバ子に訊き、タバ子は私を見る。そうか、分からないか。大丈夫、私も分かんないから。てきとー言っただけだし。「んー、私にも分からないな~。それよりどーした?」不思議そうにするタバ子をナデナデしながら再び訊ねる。「ああ、暇だから遊びに来たの。明日は虚無の曜日だから夜更かしでもしようかなって。でもドアは閉まってるし、“アンロック”で開けたけどいなかったから待ってたのよ」こっちの都合は無視ですか。とゆーか、主不在の部屋の鍵を開けるな。「なるなーる、つまるトコロ、ラ・ロシェールの夜みたく晩酌に付き合えと」「つまるところそれね」前回寝不足に陥り、二度とキュルケの晩酌には付き合わないと決心したんだが。「う~ん、でもタバサが、」「眠くない」やはりあの手は通用しないか。寝ないと大きくなれないぞ~?どこがとかは言わないけど。しかし、また3人で飲んだら確実に前回の二の舞だ。しかも私の部屋がえらいことになりそう。宿なら放置でチェックアウトできるが、自室は私が後始末しなきゃならない。できれば断りたいんだけど、どーせ無駄だろうなぁ。「でも3人この部屋じゃ狭いよーな気も」「別に構わないわよ」いや、私が構うんだって。何かいい方法は、と思ってたら、人生終了したみたいな顔をしたギーシュが歩いてきた。「あ、ギーシュ君。妙なトコロで会いますなー」ここは女子寮だ。男の子が闊歩してるのは問題でしょう。才人は別として。「やあ…ラリカ。キュルケにタバサもいるじゃないか。ははは…、仲いいんだね…」どんより暗い。心なしか、造花の杖もしなびて見える。「随分元気ないわね。モンモランシーに絶交されたとか?」「いや、それどころか全く口を利いてくれないんだ…。最近は他の女の子に声を掛けたりもしてないのに、一体何がどうなって…」はぁ、と深い溜息を漏らす。うん。十中八九、宝探しの所為だ。一応オトコはギーシュ以外にも才人がいたんだけど、ミス・モンモンにとって彼は平民=カウント外。実質、美少女3人(ルイズ・キュルケ・タバ子)&使用人2人(才人・シエスタ)、どーでもいいオマケ1人(私)で小旅行をしたって認識なのだろう。明らかに愛想尽かされるなコレは。まあ、放っておいてもそのうちヨリは戻るだろうけど。「何だかね、あんまり無視されるものだから、僕の存在自体が希薄になってくような気さえするんだよ…。今なら“フライ”なしでも空を飛べるかもね…あはは…」重症だ。「ちょっと!雰囲気暗くしないでよ!今から楽しく飲もうって時に!」「台無し」何気にタバ子も酷い。でも…うん、何だか突き詰めれば私の所為っぽいし、ココは少し元気付けてあげるべきよ~な気がする。ついでに私の部屋で晩酌するのを防いどこう。「よし!じゃあギーシュ君も一緒に飲も~か!てきとーな部屋でも借りて、宝探しの反省会って感じでどーでしょう?」「…反省会?まあ、それもいいわね。でもそんな場所借りれるの?」「教室とかは無理だけど、平民の皆さん用の部屋とかなら広いのあったような。マルトーさんにお願いすれば何とかなるんじゃないか~な。質素だったりするかもだけど、そこのトコロはご容赦くださいな」「あたしは別にどんな場所でも構わないわよ。じゃあ、ルイズとダーリンも呼びましょうか。シエスタは…タルブに残ったんだったっけ。ま、仕方ないわね」いくら反省会って名目だからとはいえ、キュルケの口からルイズも誘おうなんて言葉が出るとは。まあ、才人を呼ぶついでなんだろうけど。勝手に話が進み、ついていけないでいたギーシュに笑みを向ける。「と、いうワケでして。飲んで語り合って、辛いコトなど吹き飛ばしちゃおーか。で、ミス・モンモランシの機嫌を直す方法を皆で考えよう?」多分誰も考えてくれないけど。気晴らしにはなるだろう。男女の機微とかはてんで分からないゆえ、それくらいで勘弁して下さいなーっと。※※※※※※※※厨房のすぐ近くにある一室、普段はミーティングみたいな事をやるらしい部屋が“反省会”の会場になった。貴族のワガママなんかに…とか渋るかなーとも思ったが、すんなり部屋を貸してくれたし、簡単なおつまみも作ってくれた。加えて後片付けも免除。ワイロ効果は素晴らしい。まあ、流石に給仕とかは付けてくれなかったけど。「ぼくはねー、考え直したんだよ!ぼくという薔薇は、確かにたくさんの女の子をたのしませることができる!まちがいない!!でもね、ぼくは1人なんだよ!ぼくわねー!」泣きながら語るギーシュ。確か酔うと泣くタイプだったような気が。てかどれだけ飲んだんだ?しかもギーシュが語っている相手はタバ子だ。誰を相手に話しているのかすら分かってないのかもしれない。まあ、タバ子は微塵も聞いてないよーだけど。相変わらずのマイペースでぽくぽくと何か食べている。「ぼくはね、ぼくを得ることのできないたくさんの女性を傷付けたくないのさ。だから、今後はモンモランシーだけを、愛すると!心に決めたばかりだったんだ!なのにね…肝心のモンモランシーがあれじゃ、どうしようもないじゃないか!」「そう」一言で済まされ、ギーシュはさめざめと泣いた。元気になってもらえたらと思ってたけど、スマン、ダメだったみたいだネ☆「サイトぉぉぉ!!同じ男として!君なら僕の気持ちを分かってくれるよね!?」「いや、分かんねえよ。それとメソメソ泣くな、気持ち悪い」「ひどっ!!悲しみにくれる友に何てことを!?」…今度は才人に絡んでる。うん、若干楽しそうで良かった。才人は迷惑そうだけど。「だから、火の本領は破壊と情熱よ。命を燃やす情熱、すべてを壊してしまうような恋。素晴らしいと思わない?色恋関係なら火の性質は一番思い浮かびやすいと思うけど」「姫様の結婚式で『命を燃やせ』とか『すべてを壊せ』とか言えるわけないじゃない。あくまで“火に対する感謝”を詩的な言葉で詠むのよ?ツェルプストーはやっぱりセンスがないわね」「『火は熱いので気を付けること』とか言ってるヴァリエールにだけは言われたくないけどね。それ、明らかに感謝でも詩的でもないじゃない」「私は詩人じゃないのよ。仕方ないじゃない」「それにしたって…」ルイズとキュルケはさっきから詔の話題で盛り上がって(?)いる。キュルケには聞かないんじゃなかったか?時間もないのでそうも言ってられなくなったか。「ねえラリカ、水。水で何かいいのない?」「私の座学成績ご存知でしょーに。それよりギーシュなら色々知ってるかもかーも。女の子を口説くのに、詩とか使ってそうだしね」「ギーシュは馬鹿だから駄目よ。ボキャブラリー乏しいもの」「ギーシュは駄目ね。あたしも一度口説かれたけど、同じような台詞ばっかりだったし」ルイズもキュルケも、こういう意見は合うんだ。ギーシュ哀れ。「あ~もう、あと何日もないってのに、全然思い付かない!!」「成績はいいのに。勉強ができても応用力はないのね」「うるさい。あんたはいちいち一言多いのよ。ラリカー、一緒に考えてよ~」「ラリカ、ルイズを甘やかしちゃダメよ?それにルイズ、これはあんたが考えなきゃいけないんじゃないの?一応、名誉な事なんだし、自力で何とかしなさいよ」正論だ。ルイズは、う゛~って唸ってたが、結局反論できず、机に突っ伏す。「だめ。なんも思い付かない」「ま、せいぜい頑張ってね。知恵熱出して寝込まないように」キュルケはそう言いながらルイズの頭を軽く撫でるが、ルイズは別に怒らない。そんな余裕がないだけだろうけど。からかっているというより、何だかタバ子にしているような扱いだ。キュルケ自身も酔ってるのかもしれない。それとも、少しだけ仲良くなってるとか?有り得ないか。「キュルケ、女性の視点から見て、モンモランシーとぼくは元の恋人同士に戻れそうかな?しょーじきに言ってくれ!ぼくはね、まずそれをはっきりさせたいんだ!」才人に相手してもらえなかったのか、ギーシュがフラフラとこっちに来た。「そんなの聞かれても分からないわよ。いっそ、きっぱり諦めて次の恋でも見付けたら?あたしはパスだけど」「次の恋か…、いやでもしかし…う~ん、」「ケティだっけ?あの子はどうなのよ」「いや、ケティも可愛いんだが…でもやっぱりモンモランシーが…」優柔不断してる。ルイズは机に突っ伏したままだし、コイツはキュルケに任せよう。何となくやる事になった“反省会”だが、まあ、それなりに悪くないんじゃーなかろうか。戦争突入前の、本当に平和な一時。コレでコイツらが原作メンバーじゃなかったら、こんな感じで続いていくのも良かったかもしれない。平穏で平和な空気が、ここにはあるから。ど~せすぐに消えちゃうんだけどねー。諸行無常ってコトですな。あははのは~っと。