第二十一話・バタフライ・エフェクト先に謝っておこう!今回は全面的に私のミスだ!!…どーしよう。翌日、ルイズと2人でトリステイン王宮へ赴いた。帰還当日、既に私以外の3人(ルイズ、才人、ギーシュ)は報告をしたらしいので、男2人は学院に放置。ルイズは私の付き添いってカタチで同行した。まあ、メイルスティア家みたいなへっぽこ貴族が単身で王宮になんて行けるハズがない。ルイズと一緒だからこそ入れるのだ。「それで、アンリエッタ姫様はどんなご様子だった?その…殿下の件で」ココアの背の上、ルイズに訊いてみる。「悲しんでたわよ。亡命してくれなかった事を嘆いてたわ。それに、ワルドの裏切りにも驚いてたかしら」…そうか。それにしても、いやにアッサリ言ったなぁ?もっと悲痛そうな表情で、姫様を心底同情してるっぽく答えると思ったのに。「それで、ルイズ達は何て?」「え?別に何とも…。ウェールズ殿下の最期、あんな笑顔見せられたら納得するしかないし、私達が踏み込む事じゃないから。そんな事よりラリカの容態の方が気になってたのよ。だから、報告だけしてすぐに学院に戻ったわ」何とも姫様に対してドライだ。どーして?姫様とルイズってもっとアレな感じじゃなかったっけ?ルイズの部屋でわーわー言ってた時は実に原作通りだったのに。「そっか。改めて、心配かけてごめんね」ま、悲しみに暮れる姫様に気を遣ったとかそんなトコロなんでしょ~。それに、これくらいの変化は別に問題ないはず。「何言ってるのよ、親友だもの当然じゃない。…それよりラリカ。アルビオンで言ったアレ、今夜しっかり話し合うわよ?じっくりとことんね」「あー、アレね、あれ~。あははは…」アレって、アレか。才人のアホの失言。嫉妬にじぇらしったワケはないはず。私じゃ相手にならないし。でも、やっぱり納得いかないのか。まあ、少し考えれば分かるような誤解だ。簡単に解けるはず。今は姫様にどう伝えるかのみを考えよう。でも…殿下の“コトバ”はどんな意味で届くのだろーか。ま、私としては約束を実直に果たすだけなんだけど。※※※※※※※※報告は殆ど一瞬で終わった。ちょっと悩んだ挙げ句、殿下の言葉をそっくりそのまま伝えたら『やはり私より、名誉をお選びになられたのですね』とか微妙に嘆かれて終了。殿下を本当に愛してたなら、別の見方とかもできそうなのになーとか思ったが、まあ、それは人それぞれ。姫様は殿下の“コトバ”をそう受け取ったのだろう。どーせ相手はもう死んじゃってるし、真実なんど神のみぞ知るワケだから、自分にとって都合のいい、救われそうな解釈をすればいいのにねー。で、付き添いのルイズも2度目だからか何も言わず、私も特にコメントしなかったので異例のスピード謁見と相成ったって寸法だ。移動が往復3時間、用事は色々込みで15分。あまりにもなトンボ返りにちょっと拍子抜けしながらも、無事さっさと終わった事に安堵した。正直、姫様に顔を覚えられたりしたらマズそうだし。願わくば、もう2度とお会いしたくない。色んな意味で。そんなコトを考えつつ、ルイズと話しながら帰路についた。何気ない話の中で、ちょーっと気になるフレーズを心に引っ掛けながら。『シエスタ?誰よ、それ』ルイズとシエスタって、原作だとどの時期で知り合ってたんだっけ?※※※※※※※※で、学院に戻って調べてみたら…。ハイ、実にマズい事態になってましたァ~☆いや~、嫌な予感って当たるものですなー。嫌な予感だけなら占い師になれるぜー。あばば。それで、どれくらいマズいかっていうと、タルブ空中戦そのものが消滅しかねない事態。つまり、それを始点に始まるイベント全部が成り立たなくなるバッドエンドフラグ。簡単に経緯を説明すると、① 私、マルトーに“見た目だけ質素な食事”の注文をした② 才人、食事に満足。ルイズへの反抗心大幅DOWN③ 私の“ルイズを嫌いにならないで”のお願いで才人の態度が軟化④ “ゼロ”と馬鹿にしない&教室爆破事件で普通にルイズを慰める⑤ キュルケ事件は“ラリカの下着事件”の反省から、部屋に入って速攻土下座、そんな中にルイズが来た⑥ ここまで、ルイズの怒りを殆ど買わず、むしろゴーレムやらで手柄を立てた⑦ 厨房?別に用ないじゃん。で、シエスタとは洗濯時に顔合わす程度⑧ シエスタ?ああ、メイドの娘だよな。マルトーさん?へぇ、コックさんの名前か。⑨ てか原作だと厨房行ってたりする時間は私の部屋に遊びに来てたぜ!といった感じだ。うん、明らかに私の軽はずみな行動がドミノの如く連鎖して起こった事態ですね。弁解の余地はありませんね。ちなみに“我らが剣”とかそーいうフレーズも出なかった。ギーシュ戦で怪我もせずに勝ち、直後に和解したので“貴族を倒した勇気ある平民”と見られなかったのだ。平民の皆さんの目には“メイジ殺しの少年が貴族の坊ちゃんと喧嘩して仲直りした”と映ったようで、英雄視はナシ。好かれてもいなければ嫌われてもいないって状態だった。もちろん、シエスタとの関係も少し喋る知り合い程度。シエスタサイドから見た才人は、“ミス・メイルスティアの友人”止まりだ。非常にマズい。シエスタには才人にラブ心、ルイズには嫉妬&変な仲間意識を抱いていてもらわなきゃ~ならん。それによって紡がれる絆やら何やらが必要なのだ。そーしないと宝探しでタルブにも行かないだろうし、運良く行ってもゼロ戦貰えない。そしてアルビオンが侵攻してきた際に『シエスタの故郷が危ない!』って出撃する事もなくなってしまい…トリステイン終了のお報せだ。いや、タルブとか以前にシエスタは平民ながら原作の重要人物だ。それが単なる知り合い状態のままだと、原作の根幹から揺るぎかねないってゆーか揺るぐ。壊れる。本気でマズい。このまま見守れば自然と原作通りに…なるわけがないな。そしてそんな世界的(未来の)危機を引き起こしたのは、どう頭を捻ってもやっぱり私のポカミス。ホント、誰のせいでもなく私のせい。ごめんなさい本気で。あーうーあ~!…何とかしなければ。正直、世界がどうなろうと知ったこっちゃない。しかし明らかにこの危機は、放置したら私も被害を被る。シエスタを原作から取り除いたら、原作を知ってるっていう私の唯一のアドバンテージが消失してしまうのだ。それだけは何としてでも防がねば。タルブ空中戦までに、せめて才人とシエスタの関係だけでも原作に近付けないと!!とか部屋で一生懸命悩んでたら誰かがドアをノックした。才人ならノック直後に返事も聞かずに入ってくるので…ルイズか。「はいどーぞ。“ロック”は掛かってないですよ~」入室許可するとピンクいのが顔を覗かせた。「こんばんは、ラリカ。今夜はとことん話すわよ?」…まあ、どんな作戦を取るにしても今日はもう遅い。考えるのは明日にするか。今はそれよりもだ。「それでルイズ、その荷物は何ぞや?」お喋りするだけなのに、何故か鞄を持ってきている。まるでどこかに出掛けるかのような。「これ?着替え一式よ」「なーるなる。で、何故に着替えを?」「泊まるのよ」なるほど、彼女の“とことん話す”ってのは私の考えていたモノと桁が違ったようだ。コイツは私の部屋に泊まってく気らしい。「…もしかして、迷惑だった?」うん迷惑、出てけ。…とは言えない。あー、もう。仕方ない。無下にはできないし。「しょ~がないなぁ。その代わり、ベッド狭くても文句言いっこナシだぜぃ?」「もちろん分かってるわ!」物凄く嬉しそうに笑うルイズ。なーにがそんなに嬉しいんだ?徒歩3分くらいの場所に泊まる意味がワカラン。でもまあ、たまにはいいか。たまには、ね。※※※※※※※※「じゃあそろそろ話しましょうか。アルビオンで聞いた件に関してね」とりとめのない話から始まって1時間ほど経った。ネグリジェに着替えた私たちはベッドに腰掛け、ワインを飲みながら話している。で、そろそろ眠って全部夢だったってコトにしちゃおうぜ!とか提案しようとした矢先、本題に突入してしまった。「才人君が言ったアレだよね。まあ、何と言いますか…」“何かあったら絶対駆け付ける”。普通に考えたら殺し文句と言っても差し支えない台詞だ。誤解されるのも無理はない。でもあれは友情的なモノであって、男から女へのカッコつけたメッセージって意味はないのだ。「ラリカがどうして“私”を最優先で守るようサイトに約束させたか、それは何となく分かってるわ。ラリカの性格は私が一番よく知ってるから…それはもういいのよ」…って、え?そっち?完全に予想外だ。でも分かってるなら別に話題にしなくてもいいような気がする。使い魔が自分の主を守るのは当然だろうし、それを抜きにしても主人公とヒロインの関係はかくあるべきだ。「でも、これだけは覚えておいて欲しいの。あなたが私を大切に思ってくれているのと同じように、私もラリカを大切に思っているわ。だからサイトには私と同じようにラリカを守らせる。もちろん私も強くなって、ラリカを守る。…だからもう、自分は後回しでいいみたいな悲しい考え方はしないで」私を真っ直ぐ見詰めて言うルイズ。いや、別にルイズの事をそこまで大切に思ってないし、自分は後回しでOKなんて言った覚えはないんだが。私が才人に言ったのは常識的な優先順位の話だ。ナニが一体どーなって、そう解釈されたんだ?よく分からんが、ルイズの中で優先順位が妙な事になってるってのはよろしくないだろう。私の茶番な友情ゴッコは、あくまでコネ作成のためのオマケだ。ルイズと才人にはもっと大きな事をやってもらわなければならない。それが最終的に私の利益にも繋がるのだから。私をポイしろとは決して言わないが、そこまで重要視して欲しくない。でも、だからってどうすればルイズの考えを“正常”に戻らせられる?「…考えておくね」「っ!!」私の曖昧な答えにルイズの表情が強張る。あ、怒らせた?「どうしてよ!!」立ち上がり、私を睨み付ける。「どうして、そんな風に言うの!?」「ルイズ」「どうして…分かってくれないの…?」あ、涙ぐんでる。思い通りにならないからって、泣いちゃダメだ。私がオトコだったら何とかなるかもしれないけど、乙女の涙は乙女が相手じゃ無理無駄無謀。効きません。でも、放っておくわけにもいかない。私も立ち上がり、ルイズを優しく抱く。「…ごめんね」だが、考えを変える気はない。ここでルイズの意見に賛成なんかしちゃったら、私の存在感が予期せぬデカさになってしまいそうだし。「ごめんね、ルイズ」親友ごっこをずっと続けるつもりはない。近いうちに離れる予定なんだし、その時になっても友達だからと巻き込まれてはたまらない。だから今のうち、ついでに謝っとこう。好感度、下がったのかな?これでもう、一緒に冒険しないとか言ってくれたら最高なんだけど…。さて。どーだろな。