幕間6・キスと夜空と自称薔薇Kiss in the Dark. 闇の中で君と私はキスをする。これは誓約、神聖な絆の契り。…なんて。ロマンチックなモノならいいんだけど。星降る夜。学院近くの秘密の森で。…風の囁きを、聞きながら。私は、運命の相手とキスをした。最初は涙が止まらなかった。2度目は懐かしい気持ちになった。そして今宵が3度目のキス。―――――― また、逢えたね。………。てかさ、ムカデと(前の“私”合わせて)3回もキスするって何の拷問?泣けてくる。実際泣いたが。2度あることは3度あるし、予想の範囲内だったから、ムカデとキスすること自体はいい。よくないけど、仕方ないと割り切れる。しかし血塗れ状態で現れ、ポリポリと“人の指っぽい”肉を齧ってたのは許容範囲外だ。何その肉?何を襲って食べたの?教えてココアたん♪いや、やっぱ知りたくない。私は何も見ていない。うん、何も見ていない。でもとりあえず、コイツと味覚だけはリンクさせてはならんと再認識した。タバ子なでな~で終了後、ココアの不在に気付いた私は、呼んでも来ない&感覚リンクもできない事に愕然とした。使い魔契約が破棄されるのは、確かどっちかが死んだ時。私は生きてるので、知らないうちにココアがどっかで死んだろなーと結論付け、このままだと授業の時に1人で“サモン・サーヴァント”やらされるハメになりそうだなーと予想し、そうなった時の異常な注目度を想像して軽く鬱になった。で、だったらさっさと呼び出し、先生には事後報告でいいやという考えに思い至り、夜中にコッソリ学院を抜け出して召喚してみたら…この結果だ。私とココアが両方とも生きてるっていう、契約破棄の条件と現状が一致しないのは疑問だったが…きっと私が仮死状態っぽくなった事が原因なんだろ~なってコトで納得。晴れて再契約は完了したのだった。ロマンチックとはかけ離れたサードキスを交わし、水の魔法で血を洗い流してやる。よく考えれば、私のキスの相手はムカデおぅんりーだ。軽く死にたい。あー、でもココアって雄なのか?性別が全く分かんないや。カブト虫とかみたいに一発で分かるような特徴あればいいんだけど。まあ、雄だったらどうした?って話なのだが。いくらモテた記憶のない私でも、虫相手に愛を育む気は微塵もない。とか思ってたら、近くの茂みがガサっと動いた。「“水の、」「待った!!僕だ!」“水の鞭”詠唱より一瞬早く、聞いた事のある声が私に攻撃を止めさせる。茂みから金髪に葉っぱを乗っけて現れたのはギーシュだった。なーにやってんだコイツは?「おぉう、ギーシュ。危ない危ない。危うくベシって叩くところだったよ」「いやいや、“水の鞭”で殴られたらそれじゃ済まない気がするんだがね」「ちっちっち。私の“水の鞭”は威力控え目なのだよ、才能の限界的な意味で」フフフ、全然誇れないぜ!でもいいさ、誰かを傷付ける術なんてレディには不要なのだ。…ということにしておいて下さい。あ、弓は別ね?「そこは自慢げに言うところじゃないだろう…。それより、どうしたんだい?こんな夜更けに」「ギーシュこそど~したの?まさかこの辺りでミス・モンモランシあたりと密会?」「いや、部屋から月を眺めていたらね。誰かが窓から“フライ”で森へ飛んでいくじゃないか。少し気になってつけて来たってわけさ」まさかギーシュに見付かるとは。でも反応からしてアレ(ココアのお食事風景☆)は目撃されていないようだ。してたらいくらギーシュでもココアを恐れるはずだし。「なーるなるなるほーどほど。ではネタばらし!実は…、」「実は?」「ココアをごしごーし洗ってたって寸法さ!ラ・ロシェールからの長旅ごくろーさまの感謝を込めて。でも学院の水場とか広場とかで洗うには明らかにアレなので、こうして夜中にコッソリ洗わないとダメなのですよ。悲しいかな」半分嘘で半分本当だ。証拠として地面は塗れている。血の匂いは…よし、かなり薄れてるから大丈夫なハズ。「そうか。まあ、確かにココアは大人しいし、よく見るとカッコいいが…万人受けは難しいからね。ヴェルダンデみたいな誰が見ても愛くるしい姿ならそんな苦労もないんだが」さすが美的センス崩壊男。でもまあ、モグラはそれなりに可愛い。あのデカさはいただけないが。「そーいうワケで、私の用事は終わってしまったのですよ。もう帰るけど、ギーシュはしばらく森を散歩する?」「しないよ。というか夜の森なんて不気味以外の何物でもないじゃないか。君も女の子なんだし、いくらココアがいるからって気を付けた方がいいよ。それに君は今日、目を覚ましたばかりじゃないか?使い魔の世話もいいが無理はしない方がいい」夜の森は狩りに最適だったから慣れてるし、別に無理もしてないのだが。まあ、心配してくれるのは理屈抜きで嬉しい。「お気遣い感謝感激雨あられ。じゃあ一緒にココアに乗っての空の旅でもど~でしょう?行く先はアナタのお部屋の窓際まで」笑顔で言う。どうせ帰るし、ギーシュの部屋までなんて大した遠回りでもない。むしろ放っておいてサヨウナラは人格を疑われそうだし。「ははっ、じゃあお願いするよ。それと、どうやら本調子に戻っているようだね。眠っている君もなかなか魅力的だったが、やはり君はこうでないと」魅力的?なかなか冗談が上手い…じゃなくて、ギーシュなら例え相手が私でもお世辞の精神を忘れないか。でもそのパワーはモンモン相手に全力で発揮して欲しい。「お世辞ドモです。しかしそーいうキザな台詞は、バッチリ決めてからじゃないとダメダメかもだぜ、じぇんとるめん?」近付き、つま先立ちになって手を伸ばす。そして背伸びをしたままギーシュの髪に乗っていた葉っぱを取ってやった。自称薔薇とか言いつつ、葉っぱ乗っけたままじゃカッコつかないだろう。「ふむ。これで魅力増し増し増量完了♪っと、それじゃー帰りましょうか、我らが学び舎へ!」「あ、ああ、そうだね」何故に固まった?プライドがほんのり傷付いたか?でも溢れんばかりの笑顔は何なんだ?…うん、やはりコイツはよく分からん。※※※※※※※※「ところでラリカ」「ほいさ?」ココアの背でギーシュが話し掛けてきた。「あの夜の事なんだが…、」「ふっふっふ、ノーコメントとだけ言わせて貰おうかー」「やっぱりそう言うか。いや、でも気になるじゃないか?もし君がその気なら、僕としても真剣に考えなければならないしね。いや、もちろん薔薇は、」「薔薇はみんなで楽しむモノです、だよね?でも観賞だけなら大勢のヒトに楽しんで貰えるかもだけど、手に取れるのは1人だけだよ。残念無念なコトに、薔薇は1本だけだからね。だから、なるべくその1人にターゲット絞った方がいいかも。でないと、取れなかった大勢を悲しませちゃうんだぜ~。だぜ~?」ミス・ロッタとかね。他は…誰かいたっけ?てか、ギーシュってホントにモテるのか?「うっ、そ、そうだね。心に留めておくよ」「うむうむ、素直で実によろし~」笑いながら、ふと下を見る。広場に誰かいるみたいだ。剣の素振りを…学院で剣なんて使うのは1人しかいない。才人か。こんな日まで特訓しているとは。さすが英雄予定。「アレは才人君だね。いやー、頑張りますな。1000リーグの道も1歩から?」「おや、そうみたいだね。いやしかし、彼は平民にも関わらず凄い奴だよ。アルビオンの時だって…あ、こちらに気付いたようだ」才人がこちらを見上げ、手を振って?いるようだ。声は羽音と風で届かない。適当に手を振り返しておいた。「そういえば、どうして君は彼を『才人君』と呼ぶんだい?僕なんかは普通に呼び捨てなのに」言われてみれば。でも特に意味はない。ただ、“俺”の世界だとそう親しくない相手には『さん』『君』などを付けていたから、同じニホンジンな才人にも適用しただけのことだ。それがそのまま今まで続いている、それだけだ。「んー?特に意味ないケド。ギーシュも『ギーシュ君』の方がいいならそ~しようか?」「む、ギーシュ君か。何とも新鮮な感じが…いや、だがしかし…、」「私はどっちでもおーけいなので、じっくり悩んで下さいなっと。ほい、到着ぅ~」窓際にココアを横付けする。うん、流石に私も少し眠いかも。さっさと戻って寝よう。「おや、いつの間に。すまなかったねラリカ。それじゃおやすみ。…よい夢を」「うん。また明日ね、“ギーシュ君”。…ん、確かに新鮮さはあるかもかーもっと。おやすみ~」さて。色々考えるのは明日からにしよう。充分すぎるほど寝たけど、それでも夜は寝る時間だ。最善の方法、最高の選択。きっと見付かるはず。きっと…。多分、恐らく…!!オマケ<とある翌日の風景>キュルケ(以下キ)「ところで」ルイズ(以下ル)「何よ?」キ「ダーリンとギーシュは何で決闘してるのよ?」ル「知らないわよ。あと、決闘じゃなくて実戦形式の訓練だって」キ「素手での殴り合いが?」ル「だから知らないって言ってるじゃない。放っときなさいよ」タバサ「…ケンカにしか見えない」ギーシュ(以下ギ)「だから!!前回ので、懲りただろっ!?この訓練には疑問が、」才人(以下サ)「そんな事、言って!また負けるのが、怖いんだろっ!(ぶんっ)」ギ「うおっ!?何をっ!前回は、引き分けだったじゃないか!!」サ「俺の方が、早く起きたもんね!今回だって、同じ結果だ!!」ギ「このっ!言わせておけば!後悔するぞ!平民っ!!」サ「やってみろ貴族っ!!」2人「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」