第二十話・あれれ~はなしがつうじないよ~冷静さを取り戻したと思った矢先にこれだよ。え?何?イジメ?「だから、ラリカはウェールズ殿下が殺された直後に気を失ったの」ベッドに腰掛け、真顔で言うルイズ。…あっるぇ~?何それ?彼女の部屋を訪れた私は、用意された椅子に座って話を聞いている。才人が立っているあたり、この椅子は本来才人のものなのだろうか。いや、それよりも今の発言。それが問題だ。ああそうか、聞き違えたのか。そうだそうにちがいない。才人に聞いてみようそうしよう。「あ、ああ。いきなり気絶して昏睡状態になったんだ。あれにはビックリしたよな!」「ええ!いきなり気絶するんだもの。きっとワルドに魔法でやられたのよ!」「うん、そうだ。そうに違いないな!」よし、明らかに隠してるなコイツら。こうなったらデルフリンガーに…。「おっ、ラリカ嬢ちゃん!元気になったみてえだな!!でも相棒。あの時は、」「デルフ黙ってろ」「溶かすわよ駄剣」「………俺は何も知らねえ」お、おでれえ太く~~~ん!!そこは頑張って言うべきところでしょう!?言った後でシマッタ!すればいいのに。「ルイズ、才人君。何があったのか教えて。知りたいの、例えそれがどんな、」「ラリカ」立ち上がったルイズに抱き締められる。「…大丈夫だから」ナニが?「私、ラリカのお陰で気付いたの。強くならなきゃって。大切な親友を守れないメイジなんて、貴族以前に人間失格よ。だから、もう大丈夫よ。ラリカは私が守るから」ええと、言葉のキャッチボールがその…。「俺も、さ?」おお才人、オマエなら、「強くなるよ。そして、今度こそ約束を守る。どんな奴が来たって、絶対ラリカを守るから。だから、もう一度だけ信じてくれ」期待した私が馬鹿でした。何だコレは?話が噛み合ってない。そしてなぜ教えない?OK、冷静になれラリカ。ついさっき反省したばかりだろう?大丈夫。まだ何とかなる。多分。「ルイズは、強いよ。そして才人君も信じてる」やんわりとルイズを離す。話を軌道修正しなければ。「ルイズが誹謗中傷に耐えて、一生懸命努力する姿を私は見てきたし、目指すべき道へ真っ直ぐ突き進んでいると思う。そんなルイズを“弱い”なんて言う人は見る目がないだけだよ。断言。…才人君は異世界から来て、右も左も分からないのに自分を見失わないで…それだけでも凄いのに、メイジに勝っちゃうしフーケは捕まえちゃうし。アルビオンだって才人君がいなかったら戻ってこれなかったかも。強いよ、才人君は。私が保証する」それに放っておいても2人は強くなるのだ。今はそんな事より私の計画だ。“操られたラリカ”というキーワードが出てこないと始まらない。「だから、アルビオンで何があったのか教えて欲しいの」頼むから。もういっそ、僅かに記憶が残ってるとか言っちゃうか?でもそうしたらミョズニトニルンについて訊かれそうだ。アレはあまり触れて欲しくない。極限状態だったから良かったものの、冷静な状態で訊かれたりしたら致命的な死亡フラグに繋がりかねない。もうフラグ立ってるぜ!という始祖の声は聞こえなかった事にする。「さっき言った通りよ。そうよね、サイト?」「ああ。さっき言った通りだ。な、デルフ?」「………おお。もうそれでいいよ、俺も」それで、なぜさっきよりも強い意志の篭った目で嘘をつく?絶対に教えないっていう鉄の決意が溢れてるし。よ、よ~し、ちょっと計画が崩れかけてるけど、まだ大丈夫だ。ちょっと強引だが、役立たず宣言をしよう。「そっか。でも私、アルビオン行きでは何も役に立てなかったよね。殿下が殺された時だって何もできずに怯えてるだけだった。私がいても、」「馬鹿ね、ラリカ」ルイズが優しく笑う。「ラリカはウェールズ殿下の心を救ったじゃない。何もできなかったのは私の方よ。殿下が最期に笑えたのはあなたのお陰なのよ?人に安心を与えるのって、何も力が強かったり魔法が強力だったりする必要はないと思うの。ラリカを見て、私はそう思えたわ」いやー、アレは前の晩に約束してたから…。それに死に逝く者に対しての優しさは普通でしょーに。呪わないで的な観点からも。「そうだぜラリカ。ラリカが弱いとか足手まといとか言う奴は、それこそ俺がぶっとばしてやるよ」ニカっと笑う才人。いや、実際ワタクシ弱いのですよコレが。ぶっとばされるの私ですか?あれ?あっるぇ~??何なんだこの状況は。よし、大丈夫、まだ時間はある。最悪、タルブ空中戦くらいまでは猶予期間だ。焦って墓穴を掘るようなミスはもうしない。考えろラリカ、あくま~で冷静に。時間はあるんだ。でも今は、「………ありがとう、2人とも」そう言って、笑みを返すくらいしかできなかった。※※※※※※※※“ザ・敵に操られた罪悪感と力不足の認識でパーティから離脱大作戦”失敗!!まさか完璧と思われた計画が一瞬でパァになるとは思わなかった。危うく再び自暴自棄ルートに突入することろだったぜー、危ない危ない。とりあえずは普段の学院生活を取り戻しつつ、打開策を…とか思いながら廊下を歩いてたら青いのが現れた。「平気?」おぉタバ子。ルイズや才人も、オマエさんくらいドライだったら苦労しないのにねぇ。「ご覧の通り、元気ゲンキ~。“気絶した”私をシルフィードで学院まで運んでくれたんだよね?ありがとう、タバサ」なでなで。しかしお礼を言いつつアタマ撫でるのってどうなのだろう?バカにしてると受け取られないか?しかも王族を。まあ、嫌がってないから大丈夫なんだろう。「ギーシュの使い魔も頑張った」おぉ!他人(の使い魔)の活躍も伝えるとは。えらいえらい。昔のタバ子なら…、昔のタバ子知らないや。「そかそか、じゃ~後でヴェルダンデとギーシュにもお礼を言わないとね」「ギーシュ本人は何もやってない」酷え。本当だけど。「いやいや、ギーシュがいなかったらヴェルダンデもいなかった。つまーり、彼が欠けては為し得なかったというコトなのです。だから、ギーシュにもお礼。ね?」少し考える素振りを見せたが、やがてこくりと頷く。おーよしよし、分かってくれたかハシバミ・タバ子よ。それに私はお礼を言われるのは得意じゃないけど、言うのは得意なのだ。貧乏だったゆえに。教科書に載せたっていいくらいの綺麗な土下座だってできるんだぜ☆…自慢じゃないな。うん。「これを返す」40サント程の細長い棒を差し出すタバ子。あ、私の杖か。一瞬菜箸かと思った。医務室にもなかったし、ルイズ達も何も言ってなかったので少し不安だったのだ。…杖との契約めんどいしね。「弓はなかった」「重ね重ねありがとう。弓はどーやらアルビオンに忘れてきちゃったみたいですな~。回収はまあムリっぽいけど、別にまた作るからオケ~イ」弓の方は適当な材料と“錬金”があればどーにでもなる。魔法って便利だ。「私にも」「ん?」こっちをじ~っと見上げる。どうした?なでなで具合が足らないのか?「作って欲しい。できたら、教えて欲しい」「弓を?そりゃまたど~して?」「“フライ”を使いながら遠距離攻撃。魔法じゃないロングレンジ。銃と違って弓は“錬金”で矢さえ作ればすぐ使える。覚えれば、もっと戦いに幅が広がる」流石は戦う幼女(?)タバ子。そのタクティカル思想は恐れ入る。さて、どうすべきか。教える分には問題ないが…こやつは外伝的に深く関わると死ぬし。でも王座に就いた時に、一連のなでなでを思い出されて不敬罪っていう事態も…ないか。まあいい、教えるだけなら問題ないな。「んー、じゃあ、時間のある時にちょろ~っとね?ヒトにモノを教えるのは苦手ゆえに、あんまりいい先生じゃ~ないかもなのはご勘弁」頷く。実にドライでよろしい。「お礼はする」「じゃあこーやって撫でても怒らない約束で。撫でられるのが嫌だったら言ってくれい、自重するから」「嫌じゃない」「3度目のありがと~♪」よし安心した。さて、部屋に戻る前にギーシュにお礼を言いに行きますか。姫様にも殿下の言葉を伝えなきゃいけないし…やるコト多そうだ。…そーいえば、ココアってどうなったんだろ?オマケ<ラ・ロシェール近郊の森 Side ???>山賊A「うわぁぁぁぁぁ!!ムカデのバケモンが来るぞぉぉぉぉぉ!!」山賊B「何ィ!?それってここ数日、俺らみたいなのを手当たり次第に襲うあのバケモンか!?」山賊A「そうだ!でも何であんなのに襲われなきゃならねえんだよ!?」山賊C「奴らは恨みを忘れない。恐らく、どっかのバカな山賊か何かが奴を攻撃したんだろう。だから奴は“山賊”っぽい奴は敵だと判断したんだ」山賊B「メガセンチビートなんか攻撃したバカは何考えてたんだ!?放っときゃ害はねえだろ!!」山賊A「知るか!!てかあんなモンがここらに居るコト自体が間違ってんだよ!!」山賊C「言い争ってる暇があるなら逃げるぞ。で、ヤツはどこなんだ」A&B「…山賊C、後ろ後ろ」???「キシャァァァァァァァァァァ!!!」ABC「ヒイィィィィィィィィィィィ!!!!!?」