第十九話・原点回帰。思い出せ!目指したものを!『絶望』の二つ名は好きじゃない。でも、言い得て妙。『ゼロ=虚無』だったルイズみたいに。一緒にするのはおこがましいけど。着替えが終わり、厨房に訪れた私は、『ラリカ嬢ちゃん!ほんっとうに良かった!!俺ぁ、ラリカ嬢ちゃんにもしもの事があったらと思うと…。何?小腹が空いた?野郎ども!!今すぐ最高に豪勢な料理を、』という感じで危うくディナー並の食事が出されるのを勘弁してもらいつつ、軽いものを作ってもらい、『ミス・メイルスティア!!どうしてこんな事になったんですか!?貴女は一人の身体じゃない(居なくなるとハンドクリームの恩恵がなくなる的な意味で)んですよ!!』とかいうメイド達の理不尽な怒りを受けながらも、『でも…良かった…。みんな本当に気が気じゃなかったんです。この学院で働く平民は全員、ミス・メイルスティアを大切に思ってるんですからね?あまり心配させないで下さい』と、ちょっと嬉しい事も言われつつ解放された。ごはん食べるだけで、どーして疲れてるんだろう?原因は分かってる。慣れてないのだ、心配とか思いやりとかそーいうのに。部屋に戻る。ルイズの部屋に行くのは少し休憩してからでいいだろう。立ったまま寝たくらいだから、ちょっとやそっとじゃ起きないはずだし。…深呼吸。と、現状再確認。よし、冷静な私が戻ってきた。多分。最近は何だかドツボに嵌っている気がする。やるコトなすコト空回りで、このままだと確実にバッドエンドだ。寿命も前回の“私”より危うい気さえする。“俺”の年齢まで生きられる自信がない。OK、現状は把握できている。では、私がどんどんアレな感じ…半自暴自棄な思考回路に陥ったのはいつからだろうか。“仕込み”をしている間は順調だった。やはり、“ゼロの使い魔”がスタートしてからか。才人に出会い、ルイズとの関係を構築し…うん、その辺りからゆっくり崩れ始めた。とどめはフーケだろうか?しかし、フーケ戦までは当初からの計画に織り込み済みだ。当初の計画、つまりフーケ戦を終えて、それなりの友人関係を保ったままフェードアウトというものは最も安全かつ完璧なものだったはず。なぜ破綻した?才人が私の部屋にいたせい?ギーシュを途中で見付けて帰してしまったせい?何かのせいにしたら止まらなくなる。ここで自分について冷静に分析してみよう。まず、容姿。灰色の髪に灰色の瞳。目付きがやや悪く、スタイルは十人並み。出るところはそれなりに出て、引っ込むところもそれなりに引っ込んでいる。ナイスバディでなければスレンダーでもない。巨乳貧乳どちらでもない、まさに十人並みだ。才人に下着姿やら半裸姿やらを見られたが、そんなに凄く反応してくれなかったあたり、魅力は皆無なのだろう。顔はそれなり、脱いでも凄くない女。明らかに“物語のヒロイン”ではない。次に、性格。よく言えば大人しく、普通に言えば内向的、悪く言えば根暗。多少陰があっても美人なら逆に魅力になるが、私ではただ単に暗い女だろう。でも、借金のカタに売られかけたり(20エキューだったっけ?で買取拒否)、食べ物を恵んで貰いに行って石をぶつけられたり(しかも平民の使用人にまで)すれば暗くもなる。“2度目の私”は何とか回避したが、“最初の私”はモロにそんな環境で育った。栄養失調で死に掛けたなんてザラだし、親が『産まなきゃもう少し生活が楽だったかも』と愚痴っているのを聞いた回数も数え切れない。セミとかカミキリ虫の幼虫とかをグルメ的な理由でなく食べた貴族も珍しいはずだ。…うん、歪むな。客観的に見ても。友達ができなかったわけだ。他人に夢を見ない。自分以外は全員敵。むしろ、自分すらダメ。それが“最初の私”だ。殺される直前、この年で『死んだ方が幸せかも』と思っていた時点で人生に絶望している。『絶望』のラリカの二つ名は伊達じゃないな。付けた方に惜しみない拍手を贈りたい。もちろん、嘘だが。“俺”に生まれ変わり、まともな25年を送らなかったら、ラリカに再転生した時点で自殺していたかもしれない。しなくても、より一層暗くなるのは想像に難くない。何の因果か“俺”の世界で“ゼロの使い魔”を知り、そして多少の原作知識を持ったまま再転生したお陰で“ラリカ”としての2度目の人生を絶望せずに歩む気になった。今の性格は、ぶっちゃけ『嘘の自分』だ。自己暗示と“俺”時代の並程度な社交性、それをフルに活用し、自分自身に嘘をつき続けている。少なくとも入学してからはぶっ通しだ。…うん、そりゃガタも来るでしょう。真逆の性格を演じ続けているのだ。根暗少女がへらへら笑って。引き篭もりが大冒険に同行して。マトモでいられるはずもない。フーケ戦で終わるはずが、予期せぬアルビオン行きに繋がって…。思考回路はショート。大ボラは吹くわ、皇子暗殺指令は出すわ、死の決意を促すわ、挙げ句の果てには解呪の大芝居は打つわ…何という綱渡り人生。正気の沙汰とは思い難い。改めて思う、私はダメ人間だと。どう頑張っても愛されるような人間じゃない。容姿はダメ、性格もダメ、加えて魔法の才能もダメ。卑屈上等。それが私なのだ。器の小ささは折り紙付きだ。血統書を付けてもいい。よし、分析完了。とりあえず自分がダメというのが改めて分かった。…OK、そこで挫けるな私。私だけは何があっても私の味方なんだ。そう思えただけでも前回よりマシだと思わねば。自分を知ることは、即ち敵(ルイズや才人も含む)を知ることにも繋がるのだ。そして、連日の原作介入で精神的に疲労していたのも分かった。当初の作戦自体は悪くなかった気はするが、私の足らないオツムで考えた程度じゃ穴も多かったのだろう。反省。そして過ぎた事を嘆いても仕方ないのも分かっている。もちろん、次に為すべき事も。当面のイベントの流れは、ルイズ祈祷書 ⇒ 宝探しでゼロ戦発見 ⇒ ゼロ戦でのタルブ空中戦だ。タルブ空中戦はゼロ戦に乗るのがルイズ&才人と決定している時点で、参加の可能性は低いだろう。仮にキュルケなどが付いて行くと言っても、最速の移動手段がシルフィードだ。追い付く頃には決着がついているかもしれない。宝探しは回避可能。いつその話が出るか分からないが、適当な用事でも作ればいい。強引に誘われても断り続ければ何とかなる。心証が多少悪くなっても大丈夫だろう。…つまり、当面は安全。しかしそれを過ぎたら分からない。レコン・キスタとの本格的な争いやガリアの問題、命が幾つあっても足らないこと請け合いだ。だから、今のうちに手を打っておかないといけない。…うん、どうしよう。………。やはり、“ザ・敵に操られた罪悪感と力不足の認識でパーティから離脱大作戦”しかないな!やっぱアレは名案だ。それ以外思い付かない。これをいかに上手く、そしていかにベストなタイミングで切り出すかだ。今日、ルイズ達から通告されたらそれに越したことはないが、もし違ったら、状況を冷静に分析して実行しなくてはならないだろう。これ以上のミスは、全力で致命的なのだ。よし。私は今、完璧に冷静だ。自分探しの旅から帰って来たかの如く。未曾有の危機を脱し、気持ちが落ち着いたお陰かもしれない。着替えとごはんも冷静な私を呼び覚ますのに一役買ったに違いない。明るい未来が見えてきた気がする。そして。初心に戻り、冷静な心を取り戻した我が完璧なる計画は、最初の1歩で頓挫した。…あっるぇ~?どーしてこうなった??