第一話・目指せ☆バッドエンド回避何だかよく分からないが、もう一度“私”の人生が始まるみたいだ。とりあえず、自分自身に言い聞かせる意味でも自己紹介。名前は“ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア”。トリステインの貧乏貴族メイルスティア家の長女だ。兄弟は10歳年上の兄が1人いる。メイルスティア家を継ぐのは彼なので、私は(前回みたいに死ななければ)将来的にはどこかへ嫁ぐのだろう。メイルスティア家は可哀相なくらい痩せこけて狭くて交通の便が最悪な領地と、他の土地から追われてきたようなアレな領民を抱える悲惨な下級貴族だ。特産品は特になく、豊かな領地の平民より数ランク下の生活を余儀なくされている。父は水のライン、母は土のドット。兄は土のライン。魔法の才能も何ていうかダメな家系だ。私も恐らくラインがやっとだろう。前回はドットで人生終了だった。努力しても無駄と分かっているのはある意味幸福なのだろうか。私の容姿は中の中。いわゆる並だ。銀色…なら良かったけど、どう贔屓目に見ても灰色の髪と、悪い目つきがチャームポイント。将来は魔女とか言われそう。フェイス的な意味で。スタイルは中途半端。磨けばそれなりに光るが、磨かなかったら永遠に輝かないといったところか。ミスコンテストに出たなら、予選で落ちる自信がある。性格は内向的(暗いともいう)で人付き合いが苦手。前回では友人と呼べる者はいなかった気がする。切ない。メイルスティア家が貧乏なので引け目を感じていたからということにしておいて欲しい。…改めて、これはひどい。お先真っ暗もいいところだ。実際暗いが。前回と同じ人生を歩めば焼死コースという未来予想図。だれかー!た~す~け~て~!何なんだコレは?明るい未来が見えない。拷問なの?苦しみをもう一度?ブリミル死ね。うん。ま、やさぐれたところで始まらない。もう二度目の“私”は始まってしまったのだから。“私”がそのままループせず、“俺”を介して転生した事にも何か意味があるはずだ。恐らく、この世界を客観的に見るために “俺”という一生があったのだろう。ただのループでは拓けなかった未来もきっと拓けるはず。目的は『バッドエンド回避』と『なるべく幸せな人生』。死ぬもんか。出来る範囲で幸福な一生を送ってやる。小説の知識をフルに活用し、幸福を掴んでみせる!!…でも、こうなるならこうなると教えて欲しかった。分かってたら設定とかまで熟読してたのに。後悔、先に立たないね~。※※※※※※※※人生の目標を決めた私は、バブーなベイベー時代を終えてすぐに行動した。魔法の収得。スペルは覚えていたが、それで即使用可能!…とはいかず、6歳でようやくドットメイジに“戻る”事ができた。これが最初の人生なら天才レベルなのだろうが、2度目ということを考えると清々しいまでに劣等だ。恐らく、これ以上のレベルアップはほぼ望めないだろうし。ちなみにこの頃、借金のカタに売られかけた。前回同様に買取拒否されたが、前回ほどの精神的ダメージは受けなかった。やはり知っていたというのが大きなアドバンテージなのだろう。嬉しくないけど。貧しさへの迸る殺意を胸に秘めつつ、次に私が起こした行動は、秘薬作りだった。水のドットである私は学院で2年間学んだ知識と家の蔵書を頼りに、10歳になる頃には比較的簡単な秘薬を作り出すことに成功した。この時期、兄に魔法が使える事をバラし、作った秘薬を庶民向けに売ることを提案、メイルスティア家の財政をほんのり潤すことができた。10歳のガキンチョが低レベルでも秘薬を作っていると知られるのは色々アレなので、作者は兄ということにしてもらい、無駄に天才疑惑を掛けられるのを回避したのだった。お陰で食べ物を恵んでもらいに隣の領地へGO!という切ないイベントは回避できた。そうだ、人生の引継ぎ特典なのか分からないが、弓の腕は強くてニューゲーム状態だった。魔法はダメなのに弓はOKとかコレ如何に?技術とかコツ的なのは引継げるのか、2つの世界共通の能力なら大丈夫なのか(魔法は“向こう”では使えないから初期化された?)、理由は不明。ま、考えても分からないことは考えるだけ無駄なので調べようとも思わないが。とにかく弓はOKだった。メイジが弓使えても意味なくね?と思われがちだが、この技術は狩りをするのにすこぶる役立った。弓と狩猟刀を手に、週3くらいのペースで山へ出掛けて獲物を狩ってくるメイジ(♀)なんて、おそらくハルケギニア中を探しても私くらいだろう。この世界が別のファンタジーだったら私の職業は間違いなくハンターだ。※※※※※※※※そして月日は流れ、私はトリステイン魔法学院に入学した。“ゼロの使い魔”が始まるのは2年生から。私はそれまでにやっておくべき事を定め、奔走した。まずはイメチェン。前回の私は性格的な問題もあり、極力誰とも関わらないようにひっそり生きていた。だが、それを繰り返せばバッドエンド直行。容姿はどうしようもないけど、性格は心がけ次第で何とかなる。前回は誰に対しても丁寧語かつ必要最低限の事しか喋らないって言うアレなキャラだったけど、それじゃ交友関係の拡大なんて無理無駄無謀だ。鏡の前で「私は明るい女の子」と毎朝言い聞かせ(傍から見たらアブない女の子だが)、自分自身に嘘をついた。明かされない嘘は真実と同等。本当の私は嘘の衣でぐーるぐるして、墓場まで持っていく。で、新生ラリカが次に取り掛かるのは、最重要な人間関係の作成。ターゲットは『ルイズ』『キュルケ』『シエスタ』『マルトー』。この辺りと自然な付き合いができる程度になれば、なんとな~く本編ストーリーに関われるようになれるだろう。『タバサ』はパス。彼女の固有イベントは正直危険だから関わりたくない。『ギーシュ』はとりあえず静観で、『アンリエッタ姫』は無理。姫に関しては本編開始後も関わらない方向で行くつもりだ。死にたくないし。そんなわけで、私は秘薬作りに精を出しつつ、交友関係作成大作戦を進めていったのだった。※※※※※※※※瞬く間に1年が過ぎた。ルイズに“ゼロ”の二つ名が付いても、私は彼女を“ゼロ”と呼ばなかった。馬鹿にしなかったお陰で、ファーストネームで呼び合える程度の仲にはなった。…これで親しいとは言えないだろうけど、前回は話すことすらしなかったので大きな前進といえるだろう。多分。嫌われてはいないはずだ。恐らく。キュルケはまあ、それなりに話せる。挨拶したり世間話をちょろっとする程度だ。いつの間にか横に青い子が付いてくるようになった。彼女がタバサだろう。そっちとは挨拶しない。というか、挨拶しても返事は返ってこないのでするのをやめた。シエスタとマルトーは同時攻略。元々、私は平民を見下したりはしない(貧乏ゆえに)ので、彼らとは普通に話せた。彼らも私がメイルスティア家の者だと知っているので優しくしてくれた。同情が温かくて色んな意味で泣けた。1年が終わる頃には、厨房の片隅で貴族への不満(私はどうやら貴族扱いされていないようだ)を共にグチるほどになった。…いや、私も貴族なんだけどね?部屋で独り泣いた。暇な時に作った秘薬を虚無の曜日に街へ売りに行き、それなりに蓄えもできた。仕送りゼロだからなぁ、メイルスティア家。仕込みはまあ、それなりに上々。我がささやかなる野望が、幕を開けた。