第十二話・泥濘の夢。ワルド空中戦泥濘。…何だか分からない事ばかりだし、泥のように眠い。俺はどうなってるんだ?相変わらず気分は最悪だ。連日のようにある検査やら何やらは終わる気配がないのに、睡魔と頭痛だけは絶好調で押し寄せる。そして今、俺は漸く持込を許可されたノートパソコンの前で固まっていた。『 ゼロの使い魔の登場人物 ‐ Wikipxdia 』ラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア 声‐佐々木良緒 二つ名は『絶望』。ルイズの親友で、才人が召喚されて初めてできた友人。 僻地に領地を持つメイルスティア家は貴族の中でも極端に貧しく、彼女自身辛い幼少時代を過ごしているが、それをおくびにも出さない明るい性格。 「水」のドットで趣味は秘薬作り。自作の薬を学院の使用人達にも分け与えており、身分にこだわらない希少な貴族として慕われている。使い魔は空飛ぶ巨大ムカデのココア。 灰色の髪に同色の瞳を持ち、やや鋭い目付きが特徴。 魔法の腕はドットとしても並以下だがなぜか弓の腕に秀でており、Wikipxdiaに“私”が載っている。生徒(主要人物)のティファニアの下、キュルケの前の位置に。ラリカは脇役以下、モブにもなれないキャラじゃなかったのか?それがいつの間に本編に出て、Wikipxdiaに載っているんだ?続きを読もうとスクロールしようとする。しかし、なぜかそこから先は読み込んでくれない。フリーズ?パソコンに詳しくないから分からない。相変わらず頭が痛い。くそ、集中力が続かない。俺はパソコンを閉じ、鈍痛の止まない頭で考える。事故の前からどうして変わった?それとも、事故の前の記憶が間違ってるのか?いや、俺の前世が“私”だったということ自体が違うのか?どこかで見たこの“ラリカ”という空想の少女に勝手な過去を妄想し、自分がその生まれ変わりだと信じ込んでいたのか?だとしたら佐々木良夫はかなりアレな人間だ。精神病院にブチ込んでくれ。でも、しかし、この鮮明な記憶は何だ?滞りなく答えられる思い出は何だ?“私”がラリカなら、この“ラリカ”は誰なんだ?目蓋が重い。頭がいたい。みみなりがする。きもち、わるい。なースコーるを、伸ばした手が乱雑に積まれた小説に触れ、本は床に傾れ落ちる。偶然開かれたその頁には、弓を番えてワルドと対峙する、ラリカの姿が描かれていた。※※※※※※※※「おえ」嫌な目覚めだ。こんな気分の悪い目覚めは暫く振り。相変わらず夢の内容はぜ~んぜん覚えてないけど、悪夢の内容なんて覚えていたくもないからまーいいや。こんな目に遭ってるの原因はおそらく昨日の酒だろう。キュルケとタバサにはいつか報いを受けさせてやる!…無理だけど。惰弱な私にはヤツらの報復を受け流す実力は皆無なのだー。とほほのほ。ドアがノックされる。「ラリカ、起きた?」あー、ルイズか。そ~いやランチの約束&相談受ける約束したんだった。めんどいなー。気が進まないなー。でも今のうちに“ライトニング・クラウド”用の火傷用秘薬も渡しとかないと。宿が襲撃される前に私はどっかにトンズラ身を隠す予定だしね。戻る頃にはルイズいないし。ま、仕方ない。てきとーに相手しますか。Q『お髭の子爵様にプロポーズされちゃったわ。大変大変どうしましょ』A『それはキミの決める事だぜマドモアゼル』Q『でも分からないわ!教えて先生!みんな、オラに知識を分けてくれ!!』A『個人的には反対だ。よく分からないヤツに私の親友を取られるのは悔しいからネ』Q『私もまだ早いと思う。アンド、本当に彼が好きなのか分からないの』A『じゃあ簡単だ、自分の気持ちが分かるまでウェイトしてもらえばいい』Q『待ってくれるかしらあのヒゲ』A『キミの事を本当に想うなら当然さ!待たなかったらキミを尊重してない証拠だよ』『分かった!ありがとうラリカ仮面!』『ははは、正義は勝つ!でもサイト君にも相談してみたまえ!さらばだ!!』とまあ、要約するとこんな感じでランチタイム&相談タイムは終了した。後半のかなーり改変してるけど。でもとにかく内容的にはこんな感じで大体合ってるだろう。正直、恋愛とかは男女両方の人生を経てなお疎いので、参考にならなかったと思うけどね~。そして“ライトニング・クラウド”用の秘薬を渡し、買い物に行くとか言って別れた。キュルケとタバサはまだ起きてないし、才人にも相談しなきゃならないルイズに同行される危険もゼロ。ギーシュは特に問題ないだろう。まあ、これでアルビオンへの旅も終わりだ。後は傭兵&フーケをどうにかしたキュルケらと合流し、全てを終えたルイズ&才人を迎えに行くくらい。それで姫様から褒章を貰ってヒャッホウだ。完璧だ。完璧すぎる。やはり天命はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティアに味方しているのだ!!と、思ってたんですよ。さっきまでは。今?えへへ、今はもう何ていうか…絶体絶命?死亡遊戯?あは☆あばばばばばばばばばばば!!!夜、適当な店でしばらく過ごそうかなーってやって来たら、なーんか聞き覚えのある声がした。よせばいいのに、誰かなーとか覗いてみたら、フーケ&仮面ワルドが密談中。そして運の悪い事に物音立てちゃった。てへ☆で、現在絶賛逃亡中。オニは仮面ワルドの鬼ごっこデスレース。どこに?ハイ、上空に向かってアイキャンフラーイですよ。だって地理もよく分からない夜の街を疾走なんて無謀すぎるし。まあ、上空ってもっと無謀なんだけどね。とにかくパニクって空に逃げたのだ。※※※※※※※※同じ“フライ”でもこちらドットであちらスクウェア。加えてあちらは風メイジ。距離はどんどん縮まって行く。“フライ”中は魔法が使えないから撃ち落される事はないけど、捕まったらゲームオーバー。人生終了のお報せ。小娘がどんなにジタバタしたところで、魔法衛士隊の隊長に勝てるワケない。「待て!どうせ逃げられんぞ!!」とか何とか仰ってますけど、待てと言われて待つアホなんていないッつうの!!でもこのままじゃ捕まるのは時間の問題。どうするどうするどうするどうするどう、「無駄だ!諦めろ!!」いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいや、「さっさと観念して、」うああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!うるさいウルサイ煩い五月蝿いィィィィィィッ!!!思わず身体が動いた。振り向きながら矢を放つ。精度、威力、全然足らないそれは、しかしワルドの額に命中した。「ぐっ!?」そのままブッ刺さってくれたら良かったのに、パワー不足のせいで仮面を割るに留まる。てか顔見たらもっとヤバいじゃん!!絶対消される!!ああああああああああああああぁぁ!!!のおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!「き、貴様ッ!!メイジのくせに弓、」………うるさいだまれ。無言のまま次の矢を射る。左肩に命中。「ッ!?」慌てて退避しようとするが、関係ない。3発目は横腹を貫く。近付くか?どうぞ、来いよ。向かってきたら命中率は上がる。急所にぶち込んでチェックメイトにしてやる。フェイントなんて通用しないと思え。逃げる?たかが“フライ”如きのスピードで、飛ぶ鳥を射落とす私の弓から逃げられると思うか?デカい的なんだから、外せと言う方が難しいね。全国大会レベルを舐めんな。窮鼠、虎を噛み殺してやる。ラ・ロシェールの上空で対峙する私とワルド。“フライ”中で他の魔法が使えないワルドには接近戦以外の攻撃手段はない。しかし、地上では『閃光』でも、空中では“普通よりも速い程度”だ。私の矢を掻い潜って向かって来る事はできない。被弾覚悟で特攻して来たとしても、私には冷静に急所を射抜いてあげるだけの腕がある。今、この時は!私は狩人で、お前は牙も持たない獲物なんだよ!!状況は私の圧倒的有利。来ないの?じゃあ、遠慮なく“的”にしてあげる。…さぁて、あと何本で死ぬかな?私は最後の矢を番え、…………?あっるぇ~?最後?矢 が ラ ス ト だ 。冷た~い風が吹く。矢を番えたままの私、肩を押さえながらこちらを睨むワルド。え?あれ?これってもしかして。すごく、マズくない?背中を嫌な汗がダラダラ流れる。沈黙が怖い。いや、やっぱ喋らないで。考えてるから。どうしてこうなった?あれか?結局パニクり過ぎて逆切れしたのか私!?どうしよう?何なんだコレは。明るい未来が見えない。あー、そうだ。月をバックにしてるから顔はよく分からないはず。牽制しながらゆーっくり遠ざかれば、「メイルスティア…!!貴様一体…何者だッ!!」バレてました。何て答える?『私は姫様が秘密裏に遣わしたスパイ。貴様が怪しいと最初からバレていたのだ!!』って実は姫様の隠密だって言う?『我々は謎の組織“ポメラ=ニアーン”。お前の悪巧みなど全てお見通しよ!』って架空の組織でも作ってみる?ダメだ。どっちにしても後で消される。しかも恐らく引き出せもしない情報を引き出すために拷問付きで。『いやー、ちょっと調子に乗っちゃいまして。黙ってるから許してぷり~ず』うん、絶対通用しないな。正直に言うのもNG。運良く、残り1発の矢で倒せても同じ事。このワルドは“偏在”だろうしね。とゆーか、“偏在”のワルド倒してからどうするつもりだったんだ5秒前の私!?この状況だって物凄い偶然が重なったからこそであって、次回以降は瞬殺される実力差だし!!考えろ私!!矢は残り1本、魔法はもちろん使えない。使えても意味ない。持ち物はジェネリック秘薬が2、3個と現金少々にダイエット効果のあるらしい例のイヤリング。あ、ポケットに例のカラーコンタクトレンズ入れたままだ。って!!何か、状況を打破できるような何か!!何か何か何か何か何かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!?こ れ し か な い !!