第十一話・ワルドの影が薄い気がする“私”は男に興味なかった。“俺”は女が分からなかった。“今度の私”はどうなのだろう?やっぱり、何となく、ダメなんだろうか。数時間後、日が傾きかけた頃に絶壁に囲まれた怪しい場所に差し掛かった。待ち伏せしよ~って考える立場としては保証書付きの絶好ポイント。戦略とか知識のない私でも分かる。つまり、ココが例のエセ盗賊襲撃イベント会場って寸法だ。ココアを上昇させれば回避可能なんだけど…ワルド達は低空飛行してるのに、こっちだけ上昇は不自然だ。襲撃は甘んじて受けるしかない。とか思ってたら、火の点いた矢がココアの頭にぶつかった。もちろん、硬い甲殻のお陰で傷にもならない。体長5メイルのメガセンチビートに安っぽい矢など無理無駄無謀なのだ。この世界の動物ってホント規格外だなぁ。「敵襲か!!」前方のワルドが叫ぶ。自分で指示しといてねー。でも迫真の演技はグッド。すごぉいわるどさま、はくしんのえんぎね!ぱちぱちぱち。「わわわ、な、何だ!?」「くそっ!待ち伏せか!?」ギーシュがテンパり才人はデルフリンガーを抜く。貴族の面目丸潰れだぜ!「ギーシュ、“錬金”で盾を作ってもらっていい?才人君は飛んでくる矢をてきとーに打ち落としてくれい」私?私は才人に降り掛かる火の矢を払ってもらいつつ、ギーシュの盾で安全確保。これは戦略であってズルいとか卑怯とかではないのだよ。どーせすぐに、「うわぁぁぁぁぁ!?何だ!?ふ、風竜!!?」こうやって援軍が来るしね。キュルケ&タバサごくろーさま。※※※※※※※※「あらラリカ。よく分からないけど、絶妙なタイミングだったみたいね」「やっほーキュルケ。助けてくれてありがとーねー」笑顔で迎えた。ルイズが何か文句を言おうとして、ワルドに止められてる。「大丈夫?」タバサがシルフィードから降りてきて訊ねる。いや、キミはキュルケ以外の他人に無事を確認するよーなキャラじゃないでしょーに。ま、別に気にすることもないか。「全く全然これっぽっちも何ともないよー。タバサもありがとう」おーよしよし、タバ子や。アルビオンから帰るのに必要な足を持ってきてくれたんだねぇ、えらいねー。少し見ない間に大きくなったねー。嘘だけどねー。なでなで。ガリアの王女様の頭を撫でるなんて、知ってたら恐れ多すぎて絶対にできないだろう。でも私は何も知らない女の子。シャルロット?はて、そんなお方は存じませんわ。とか何とかやってるうちに、キュルケがヒゲ男に振られた。で、才人に再ロックオン。切り替え早いね~。ああいう過去を顧みない性格は好感持てるけどけど。恋せよ乙女、多すぎてもアレだけど。※※※※※※※※男3人女4人の大所帯になった姫様の尻拭い隊は、無事ラ・ロシェールの『女神の杵』亭に到着した。賊の尋問?何かギーシュがやってたみたいだけど、詳細は知らなーい。興味ないし。聞いた所で何かが変わるわけでもないし。それからワルドと才人、ルイズが船の交渉だか何だかに行って、船の出港は翌々日だよーって聞かされてスゴスゴ帰ってきた。そして。「部屋割りは今言った通りでいこうと思う」ルイズとワルド、才人とギーシュ、タバサとキュルケ、私は1人部屋っていう部屋割りが発表された。どうやら3人部屋はなかった模様。ルイズがそれなら私と一緒の部屋にするとか、まだ結婚前の男女がどーとか言ってたけど、大事な話があるっていうワルドに結局折れた。頑張ってカタチばかりのプロポーズ受けて悩んじゃって下さいな。「それじゃ~みなさんオヤスミなさい。明日はゆっくり鋭気を養いましょ~」まあ、明日の夜に事態は動くんだけどねー。「あー、私の記憶が確かなら、ここは私の一人部屋かつ、さっきオヤスミしたはずだけど」「まあいいじゃない。どうせ明日1日は予定ないんでしょ?そんなに早く寝る必要ないわよ。夜はこれからだしね」赤青コンビがノックもなしに入ってきた。とゆーか自分らの部屋を素通りして普通に私について来た。あまりに自然について来すぎて、あれ?部屋に招いたんだっけ?とか思ったほどだ。「つまるトコロ、晩酌に付き合えってコトでオケーイ?」「あら、話が分かるじゃない。つまるところそれよ」キュルケは満面の笑みを浮かべ、どこに持っていたかワインと食料を取り出して見せる。いやー、実に準備のいい事で。うん、でも私、さっきオヤスミって言ったよね。つまり寝たいんだ。察してくれ。「んー、でもタバサが眠そうだしな~」「まだ眠くない」眠いって言え。ナゼにこういう時だけ即答で反応するの?「なるなーる。よーし、今晩は女同士の友情でも深めましょーか」OK、分かった、付き合おう。付き合えばいいんでしょ?付き合うよ。てか嫌と言っても無駄だろーし。くいくいとタバサが私の服を引っ張る。何だタバ子。「作って」ハシバミ草のサラダとパン、肉と野菜。サンドイッチくらい自分で作れ。挟むだけでしょーが。「じゃあ、今回は一緒に作ろっか。で、キュルケにも食べてもらおう大作戦」そして次回からは1人で作ってくれぃ。あー、眠い。でもこのぶんじゃ眠れないだろーなー。あ~。※※※※※※※※やっぱり眠れなかった。睡眠時間3時間くらいか?正直ツラい。最初にタバサが(私のベッドで)眠り、気力を振り絞って“レビテーション”で部屋に運んでやり、戻ってきたらキュルケが(私のベッドで)寝てた。“水の鞭”使おうかと一瞬ホンキで思った。で、睡魔とか怒りとか呆れとかでギリギリの精神力使って再“レビテーション”。キュルケも彼女の部屋に寝かした後は記憶がない。朝起きたら制服のままベッドにうつ伏せになっていた。ねぼけまなこで1階に行く。あー、何か中庭で騒いでるなー。そう言えば才人VSワルドなイベントなんてあったなーとか思ってたら、ルイズに出くわした。「おはよールイズ。子爵様と才人君が腕試しするの?」「おはようラリカ。何言ってるのよ。あれは馬鹿犬とギーシュの手合わせよ?」…はい?どーしてそんな展開に?「何で2人は手合わせなんて?」「さあ。まあ、アルビオン行きも控えてるから無茶はしないと思うけど。…それにしてもあなた、眠そうね」「うん、正直眠い。お昼まで二度寝するつもり。かくゆうルイズも眠いっぽい?」「え、ええ。…私もちょっとね」ワルドのプロポーズのせいで眠れなかったみたいだ。「それでラリカ、後でまた相談に乗って貰いたいんだけど…いい?」結婚するべきかどうするべきかってアレか。そういうのは私じゃなく才人に相談しなきゃ。ストーリー的に。でもまあ断る理由もないし、その時に才人にも聞いてみろってアドバスすればいいか。「じゃあ、お昼にランチ食べながらってのでど~かな?」「うん。じゃあ、お昼にね」私もルイズも眠そうな顔で微笑み、別れる。それにしても何で才人とギーシュは手合わせなんか?ワルドはガンダールヴの実力を測ったり、ルイズの気をひいたりしなくていいの?…ダメだ、眠くてマトモに考えられない。とりあえず寝よう。それから考えよう。幸い、宿襲撃は今夜だから時間はあるし。あー、うー、もう二度とキュルケの晩酌には付き合わないぜー。すごく眠い。オマケ<前日の夜、才人&ギーシュの部屋にて>「ところでギーシュ。昼間話してたのってどういう事なんだ?」「昼間?」「夜にラリカがいきなり、とか」「ああ、昨日の夜の話か。いや、月でも眺めようと僕が廊下を歩いていたら、姫様とラリカが歩いてきてね。いきなり彼女が僕の名前を連呼しながら抱き付いてきたんだよ。まあ、姫様の前だったから慌てて離れたがね」「ラリカはその、何て?」「さあ。その時は聞きそびれたし、その後も何だかんだで忙しかったからね。昼間に理由を聞いた時も誤魔化されてしまったよ。それは君も聞いてただろう?」「…」「恐らくだが、どうやら彼女は僕の事を好きになってしまったようだ。いや、薔薇は何もしなくとも女性を惹き付けてしまうものなんだがね。正直、彼女は狙っていたわけでもなかったからどう接するべきか困っているんだよ。うん、でも実際に話してみるとあれはあれで、」「よしギーシュ、明日の朝決闘しようぜ」「は?いきなり何を言い出すんだ君は?そもそも決闘する理由がないだろう」「間違えた。決闘じゃなくて手合わせ、実戦形式の訓練しようぜ?」「明日はゆっくりしたかったんだが…」「いいからさ、手合わせしよう手合わせ。な?大丈夫だって」「…何が大丈夫なのか気になるが、まあ、別に構わないよ」「…」「…もしかして君、機嫌悪い?」「別に」「そうか」「…」「…」夜は、更けてゆく…。