第九話・ちょっと待て・私は行くと・言ってないいや、だから。もう本編には関わりたくないんだって。潔く身を引きたいんだって。束の間の平和な時間は光陰矢の如しで。ギトー先生の風贔屓な授業(予定通り、キュルケが吹っ飛ばされた)がカツラ装備のコルベール先生によって中断され、でもひゃっほー休校だーってわけにはいかず、アンリエッタ姫様訪問イベントとなった。正直な話、アンリエッタ姫様には興味がない。貴族は貴族でも、メイルスティア家なんて赤貧下級貴族が王族と直接接する機会なんてないのだ。関わる事もない相手に興味を抱けという方が間違ってる。実にならない花など価値はないのだ。少なくともラリカ的には。「へえ…あれがアンリエッタ姫様か。凄い人気だな」別に出たくもない出迎えに行った先、なぜか隣に来た才人が言う。な~ぜに私に聞く?そういうのはルイズに…ああ、ワルドに夢中でダメなんだったっけ。あんな噛ませのヒゲ男のどこがいいのかサパ~リですな。蓼食う虫も好き好き。でもキュルケとかも魅了されたところからして、アレがカッコいいというのが正常な反応なのか?だとしたら先入観恐るべし。「トリステインの花だからねー。才人君的にはど~なのかな?」「うん、流石お姫様って感じだな。何か、オーラが違う」「住んでる世界が違うからね。まあ、一応貴族な私とかでも、一生関わる事なんてないんじゃないかなー」才人はバッチリ関わる…というか、今夜さっそく関わるんだけどね。そして明日の朝には地獄の戦場ツアーへ出発しんこー。何という不条理。でも、それは避けられないディステニー。原作という神の意志には逆らえないのだよ。ルイズやその他の主役メンバー達と頑張ってくれたまえ。私はみんながいない間、頑張って授業とか受けるから!!のほほん幸せに過ごすから!心配しないでネ☆※※※※※※※※うん、それで才人君。ど~して君は、私の部屋にいるのかな?夜。早いけど寝ようと思ってた私の部屋に才人が入ってきた。さも当然の如く。形式だけのノックして、返事も聞かずに入るってどーなのよ?「えーと、才人君。今って夜だよねー」「ああ。今日はちょっと冷えるよな」「そうだねー。そしてここは女の子の部屋だよねー」「ラリカの部屋だな。もう何度も来てるけど、やっぱ何か落ち着くんだよな、ここ」うん、それは態度でよく分かる。私のベッドに腰掛けるのが当然って感じになってるし。「…いや、そ~じゃなくて。私が言いたいのは『こんな時間に』『ナゼ』『私の部屋に』いるのかな~ってコトなんですよ。コレがまた」「何かルイズがずっと上の空でさ。何言っても反応しないんだ」OK、よく分かった。コイツは馬鹿だ。それがどーいう経緯を経て、私の部屋に来るって結論に至ったんだ?意味ワカンネー。夜這いとかの方がまだ説得力あるよ?相手が私じゃ在り得なーいけどネ。「そかそか。でも、ルイズだってそんな日もあると思うんだ。だから別に心配しなくていい思うし、もう遅いから部屋に戻った方がいいとも思うんだ」今夜はアンリエッタ姫がルイズの部屋にお忍びでやって来る重要なイベントがある。そこで才人と姫様がちょっぴり衝撃的かつ印象的な出会いをするのだ。でもコイツが私の部屋にいたらフラグがポッキンと逝ってしまう。ついでに私の未来展望もポッキン逝ってしまう。「でもあの様子は何か変なんだよな…。ラリカは何か聞いてないか?」知らん!知ってるけど知らん!!うわぉぉぉぉぉ!!何やってんの!?早く帰れって!話引き延ばすなって!!ストーリーが、原作の流れが破綻する!!何なんだこの状況は?気をよくして気軽に部屋に入れ過ぎた私が悪いのか??考えろ、冷静になれラリカ!ひっひっふーひっひっふー。あれ?このラマーズ、何かデジャヴだ。「分かった。じゃあ私も一緒に行って理由を聞き出してあげるよ。というわけで、ルイズの部屋にれっつごー」こうなったら手段は1つ、ルイズの部屋に一緒に行くしかない。もちろん、私は途中で何か忘れたとか言ってトンズラするつもりだ。姫様に話を聞かされたら嫌でも関わらざるを得なくなってしまう。そういう役割はギーシュで充分。私はもう、主役メンバーには関わらないと決めたんだって!オマエらの危険な物語に凡人の私を巻き込むな!私は特別な存在じゃないんだよ!※※※※※※※※「あ、ギーシュ。何やってんだよこんな夜更けに」「げっ!サイト!?いや、これはその…、」「ここ女子寮だぞ。こんなとこモンモンに知られたらマズいだろ。見なかったことにしてやるから、さっさと帰れよ」「す、すまないね。助かるよ…」…あっるぇ~?途中でバッタリ会ったギーシュ君。ごく常識的な才人の意見に従い、あっさり自分の部屋へ帰って行っちゃいました☆え?なにそれ?姫様ストーキングしてたんじゃないの?あれ?「全く。ギーシュも困ったやつだよな」困ったのはギーシュでなくてわたくしです。と言うかですね、ギーシュに言った台詞はそのまま君にも当てはまるのですよ?「さ、行こうぜ。ラリカが声かければルイズも反応するだろうし」ちょっと待て。いや、ギーシュがここに居たってコトは、姫様はもっと先に行ってるってコト。グズグズしてたら間に合わない。それよりギーシュがメンバーから外れる?それって凄くマズくない?戦闘じゃいてもいなくてもあんまり変わらないけど、ヴェルダンデは必要不可欠なんじゃないか?脱出用的に。あそこで脱出できなかったらルイズ&才人はどうなる?ゲームオーバー?そんな。何でこんな事態に?いや、まだ間に合うはず。あとでギーシュに密命の事を教えてアルビオン行きメンバーに加えればいい。うん、そうしよう。それしかない。でも密命をどうやって教える?他人に漏らしちゃいけないから密命なのであって、とか思考の坩堝ぐーるぐるしてたらルイズの部屋の前まで来ていた。よし、逃げよう。考えるのはそれからだ。「あ、そうだ忘れも、」「ルイズー、ラリカ連れてきたぞー」あばばばばばばばばばばば!!!!※※※※※※※※わぁ、お姫様。近くで見ると本物はやっぱり違いますわね。何が違うって?ええと、その…オーラとか?あと距離とか?おほほのほ。よしまだ私は何も聞いてない。姫様がルイズの部屋にいたのも、幼馴染的な懐かしさからつい遊びに来てしまっただけだろう。いやー、年を経ても変わらない友情って素晴らしい!感動した!嘘だけど。「メイジにとって使い魔は一心同体です。席を外す理由がありません」あ、バッドトリップしてたら何だか話が進んでる。人払いかどーだかって話か。うんうん、そりゃー才人は主役だしね。分かる分かる。でも私は単なるルイズのクラスメート。空気を読んで退場いたしますわ。「そちらの貴女は…」「どうぞお気になさらないで下さいませアンリエッタ姫様。恐れ多くも姫様に名乗れるような身分の者ではございませんわ。それにどうやら込み入ったお話をなさっているご様子、わたくしは可及的速やかに退去、」「姫様、彼女はラリカ・ラウクルルゥ・ド・ラ・メイルスティア。私の“親友”です」うおおおい!?紹介しなくていいって!出てくから、すぐ出てくから!「…お会いできて光栄ですわ、アンリエッタ姫様。ルイズの“クラスメート”のラリカと申します。では、」はいサヨウナラ。もう会う事はないですけど。「まあ、ルイズの親友なのですか」おい聞けよ自己中姫!てかいつからルイズの親友になんかに…あー、私が調子こいて言ったんだ。死にたい。「はい姫様。この学院で誰よりも信頼できる、大切な親友です」ルイズ~、いい子だから黙っててね~?そんな簡単にヒトを信頼しちゃダメだよ~?姫様も信じないでね?もう!この子ったらありもしない事ばっかり言って、お母さん困っちゃうわ。おほほほほ。「ルイズがそこまで言うなんて…、少し嫉妬してしまいますね。でも、そんな方だったら…」「はい。大丈夫です」頷くルイズ。微笑む姫様。死神の微笑みに見えたのは気のせいじゃないだろう。やめてとめてやめてとめてやめてとめ、「結婚するのよ、わたくし」死んだ。※※※※※※※※へー、ふーんアルビオン行き?戦場真っ只中へ国の未来を賭けドットの学生送り込むの?アホ姫様の尻拭いに?HAHAHA、おもしろいジョークじゃないかジョン。それでオチはどこにあるんだYO?Oh、人生終了バッドエンドってオチか!そりゃ傑作だ!!HAHAHAHA!!あばばばばばばば。アホ姫様を送る事になった私は、楽しそうに何か喋ってくる姫様にてきとーな返事をしながら、いまだかつてないダークな気持ちで歩いていた。世界なんて滅んじゃえばいいのに。どうせ宿を襲撃された時点で殺されるんだ。助かってもワルド戦に巻き込まれて死ぬんだ。ワルド戦を生き抜いてもアルビオンから脱出できずに終わるんだ。アルビオン城まで付いて行かなかったら、ルイズ達が死んでどっちにしろトリステインは滅亡するんだ。いこーる私の人生終了なんだ。あ~、早く世界滅びないかなー。「あ…、ミス・メイルスティア!?それに…アンリエッタ姫様!!」何という偶然、何という僥倖!!私達の目の前には元気で挙動不審しているギーシュの姿が!才人に言われ、大人しく戻ったのは“フリ”だったのだ!!脳味噌がオーバーヒート寸前の高速回転で廻り始める。希望が、希望が見えてきた!「ギ…、ギーシュぅぅぅぅぅ!!!」気付くと私は駆けていた。オン・リー・ユーーーー!!!呆気にとられている姫様を後目にギーシュに抱き付く。「ギーシュ!ギーシュぅぅ!!」「え!?なな何だね!?ミ、ミス・メイルスティア!?ちょ、いいいいきなり何を!?」…はっ!?イカン、余りの嬉しさに動転してた。慌てて離れ、姫様に向き直る。「失礼致しましたアンリエッタ姫様。こちら、ギーシュ・ド・グラモン。かの名門グラモン伯爵家の四男にして『青銅』の二つ名を持つ将来有望なメイジです。それに加え、ルイズの使い魔サイトとは親友であり、日々共に技を切磋琢磨しているライバルとも呼べる存在です」「え?そ、そうですか。あのグラモン元帥の」姫様がちょっと引いてるけど知ったこっちゃない。今度はギーシュに詰め寄る。「ギーシュ、分かってるとは思うけど、こんな場所にいるアンリエッタ姫様を目撃してしまったという事は、色々とてもマズいんです。だから貴方は多少無理な理屈でも、言う事を聞かないといけない。そうですね?分かりますね?当然ですね?」「あ、ああ、当然分かるさ」よしギーシュ、君はやれば出来る子だ!で、再び姫様に。冷静に考える時間なんぞ与えない。早口言葉並みに捲くし立てる。「何と言う運命の悪戯か、こうして目撃されてしまいました。もはや彼も無関係ではありません。むしろ運命共同体なのです。ゆえに、我々の旅に彼も同行してもらう他ないと思うのです。幸い彼の実力は折り紙付き。必ず目的の成功率を引き上げてくれること請け合いです。どうか彼の同行もお許しいただけないでしょか」いいよね?いいに決まってるよね?いいって言ってよ!?「そ、そうですね。分かりました。ギーシュ・ド・グラモン、貴方にもアルビオン行きをお願いします。ルイズ達を守ってあげて下さいね」「え?は、はい!一命をかけましても!!」どっちもよく分かってない(ギーシュに至っては全く)っぽいけど、言質は取った。死中に活、一筋の光明。このチャンス、何が何でもモノにしてやる!!まだだ、まだ私の幸福人生計画は終わらんのだよ!!