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No.14347の一覧
[0] ハルケギニアの舞台劇(外伝、設定集、ネタ)[イル=ド=ガリア](2010/02/22 18:09)
[1] 外伝・英雄譚の舞台袖 第一話 魔法の国(前書き追加)[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:37)
[2] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二話 ハインツという男[イル=ド=ガリア](2009/12/02 21:02)
[3] 外伝・英雄譚の舞台袖 第三話 東方出身の使い魔[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:42)
[4] 外伝・英雄譚の舞台袖 第四話 決闘[イル=ド=ガリア](2009/12/03 18:04)
[5] 外伝・英雄譚の舞台袖 第五話 使い魔の日々[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:11)
[6] 外伝・英雄譚の舞台袖 第六話 武器屋にて[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:11)
[7] 外伝・英雄譚の舞台袖 第七話 土くれのフーケ[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:13)
[8] 外伝・英雄譚の舞台袖 第八話 破壊の杖[イル=ド=ガリア](2009/12/07 16:32)
[9] 外伝・英雄譚の舞台袖 第九話 平民と貴族 そして悪魔[イル=ド=ガリア](2009/12/08 19:46)
[10] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十話 気苦労多き枢機卿[イル=ド=ガリア](2009/12/08 19:44)
[11] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十一話 王女様の依頼[イル=ド=ガリア](2009/12/09 16:31)
[12] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十二話 港町ラ・ロシェール[イル=ド=ガリア](2009/12/11 21:40)
[13] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十三話 虚無の心[イル=ド=ガリア](2009/12/13 15:25)
[14] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十四話 ラ・ロシェールの攻防[イル=ド=ガリア](2009/12/14 22:57)
[15] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十五話 白の国[イル=ド=ガリア](2009/12/15 21:48)
[16] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十六話 戦う理由[イル=ド=ガリア](2009/12/16 16:02)
[17] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十七話 ニューカッスルの決戦前夜[イル=ド=ガリア](2009/12/18 12:24)
[18] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十八話 ニューカッスルの決戦[イル=ド=ガリア](2009/12/20 19:36)
[19] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十九話 軍人達の戦場[イル=ド=ガリア](2009/12/22 22:23)
[20] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十話 トリスタニアの王宮[イル=ド=ガリア](2009/12/23 15:43)
[21] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十一話 神聖アルビオン共和国[イル=ド=ガリア](2010/01/01 00:03)
[22] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十二話 新たなる日常[イル=ド=ガリア](2010/01/01 22:34)
[23] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十三話 始祖の祈祷書[イル=ド=ガリア](2010/01/10 00:43)
[24] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十四話 サイト変態未遂事件[イル=ド=ガリア](2010/01/15 12:32)
[25] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十五話 宝探し[イル=ド=ガリア](2010/01/27 18:31)
[26] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十六話 工廠と王室[イル=ド=ガリア](2010/02/01 16:53)
[27] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十七話 灰色の君と黒の太子[イル=ド=ガリア](2010/02/03 17:07)
[28] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十八話 揺れる天秤[イル=ド=ガリア](2010/02/18 17:11)
[29] 3章外伝 ルイズの夏期休暇[イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:37)
[30] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   起   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:51)
[31] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   承   ■■■[イル=ド=ガリア](2010/03/07 05:15)
[32] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   転   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:53)
[33] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   結   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:54)
[34] 外伝 第0章  闇の産道[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:56)
[35] 小ネタ集 その1[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:00)
[36] 小ネタ集 その2[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:00)
[37] 小ネタ集 その3[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:01)
[38] 独自設定資料(キャラ、組織、その他)[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:57)
[39] 設定集  ガリアの地理[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:04)
[40] 設定集  ガリアの歴史(年表)[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
[41] 設定集  ガリアの国土  前編[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
[42] 設定集  ガリアの国土  後編[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
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[14347] 外伝・英雄譚の舞台袖 第八話 破壊の杖
Name: イル=ド=ガリア◆8e496d6a ID:9c94e4c9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/07 16:32
 学院の宝物庫から『破壊の杖』とやらを盗んだ盗賊を捕まえに、魔法学院の教師と生徒で捜索隊が編成された。

 4箇所をそれぞれが担当し、俺、ルイズ、キュルケ、シャルロット、それと、秘書のロングビルさんの5人は南側の一番可能性が低そうなところ担当になった。

 で、現在そこ目指して馬車で移動中。





第八話    破壊の杖




■■■   side:才人   ■■■


 準備を済ませた俺たちは、学院が用意した馬車に揺られ、秘宝奪還のために一路森へと向かっていた。

 馬車とは言ったものの、某有名RPGで使ってたような天幕付きのものじゃなくて、荷車みたいな屋根なしのものだ。襲撃された時に迎撃しやすいように、との学院側の配慮らしい。ちなみに、御者はロングビルさんがかって出ていた。

 キュルケが、黙々手綱を握っている彼女に話しかける。


「ミス・ロングビル、手綱なんて付き人にやらせればいいじゃないですか」

 話しかけられたロングビルさんは、振り返りながら微笑んで言う。


「いいのです。わたくしは、貴族の名をなくした者ですから」

 キュルケのみならず、ルイズもきょとんとした顔になった。

 シャルロットは……、まあ、いつもどおりだな。何事も無かったように本読んでる。


「え……、だって、あなたはオールド・オスマンの秘書なのでしょう?」


「ええ。でも、オスマン氏は貴族や平民という身分に、あまり拘らないお方なのです」

 ロングビルさんが微笑んだまま言った。


「差し支えなかったら、事情をお聞かせ願いたいわ」

 キュルケがそう尋ねたら、優しい微笑みのまま、悲しげな微笑を浮かべた。

 どうやら言いたくないらしい。っていうかこの人、表情変わらねえなあ。


「いいじゃないの。教えてくださいな」

 キュルケは興味津々と言った面持ちで、御者台へとにじり寄っていく。

 すると、ルイズがその肩を掴んだ。


「なによ、ヴァリエール」

 キュルケが不機嫌に振り返った。


「よしなさいよ、昔のことを根掘り葉掘り聞くなんて」


「暇だからお喋りしようと思っただけじゃないの」


「あんたのお国じゃどうか知りませんけど、聞かれたくないことを無理やり聞き出そうとするのは、トリステインじゃ恥ずべきことなのよ」

 恥ずべき、ってニュアンスがよく分からんが、まあ失礼だとは俺も思うぞ。

 口には出さねえけどな。火に油だし。むしろニトロに衝撃か。

 まあ何にせよ、聞かれたくないことを聞くもんじゃないよな。


「ったく。あんたがカッコつけたお蔭で、とんだとばっちりよ。何が悲しくて泥棒退治なんか……」

 つっても、結構ノリノリな気がするのは気のせいか? ルイズが、キュルケをじろり……っていうか、ぎろりと睨んだ。

 怖いぞ。


「とばっちりぃ? あんた、自分で志願したんじゃないの」


「あんた一人じゃ、サイトが危険じゃないの。ねえ、ゼロのルイズ」


「どうしてよ?」


「いざあの大きなゴーレムが現れたら、あんたはどうせ逃げ出して後ろから見てるだけでしょ? サイトを戦わせて、自分は高みの見物。そうでしょう?」

 いや、多分そうなるだろうな、とは思うけどさ。

 でも、ルイズが逃げるってのも考えにくい、こいつの性格からして勝ち目がなくても向かっていきそうだ。


「誰が逃げるもんですか。わたしの魔法でなんとかしてみせるわ」

 いかん、なんか不安になってきたぞ。

 この場で一番頼りになりそうなのはシャルロットだけど……、女の子を頼るのは男として情けなさすぎる。


 『まあ、強くなりたかったら俺を超えてみろ、そうすりゃ大抵の奴らに勝てる。その暁にはシャルロットとの交際を認めよう』

 って、何を思い出してる俺は。


「魔法? 誰の? 笑わせないで!」

 まあ、あれは置いといて、女の子に助けられるのはやっぱり男としてプライドがなあ。いや使い魔なんかやってる時点でそんなもん殆ど無くなってるけど。

 それでも、なぁ?

 なんてそうこう思考の迷路で葛藤してたら、なんか二人が視線で火花を散らしていた。

 またかよ。



「その辺でやめとけよ」


「ま、いいけどね。せいぜい、怪我しないよう頑張りなさいな」












 そうしてガタゴトと揺られること小一時間半、馬車は目的地の森の中に入っていった。

 なかなかに背の高い、針のような葉をした木々たちが鬱蒼と繁っており、奥はなかなか深そうだ。まだ昼間だというのに辺りは薄暗く、それが俺たちの恐怖心を煽ってくる。実に、気味が悪い。


「ここから先は、徒歩で行きましょう」

 見れば、ここから先は道が狭すぎて、荷台がつっかえてしまいそうだった。

 ロングビルさんの意見に従い、全員が馬車から降りる。


 「さてと………」

 といいつつロングビルさんが馬に何かをかけてる。


 「ロングビルさん、何ですかそれ?」

 訊いてみる。


 「これですか、眠り薬(スリーピング・ポーション)ですわ」

 見ると、馬が眠っていた。


 「なんでそんなものを?」

 これはルイズ。


 「私達はこれからフーケを探しに行くわけですし、万が一フーケがいてゴーレムを作り出してきた場合、馬が驚いて逃げてしまうかもしれません。そうなったら馬のお金がむだになってしまいますから、馬って結構高いんですのよ」

 なるほど、流石は学院長秘書。


 「しっかりしてるのねえ」

 キュルケも感心してる。


 「というより、貴族の方々の資産管理がずさん過ぎるのですわ。なまじ金があるものですから湯水の如く使おうとするのです。お金は有限なのですから、ゆとりがあるといっても、無駄金を作っていいというわけではありません」

 そこは中々厳しい。


 「う……」

 心当たりがあるのが一名。トリスタニアでも商品価格なんか見ずに買い物してたもんな、ま、お嬢様だし。


 「お金は有限」

 これはシャルロット、魔法学院に来る前は生活費は自分で稼いでたらしい、なんと12歳から。流石はエージェント。


 「うーん、ちょっと私も反省しないと駄目ね」

 キュルケはお嬢様っていうよりも、性格的に金を思いっきり使うタイプなんだろうな。


 そんな感じの会話をしながら森の奥に。




 先に伸びた細い道は、随分と曲がりくねった獣道のように奥へ、奥へと伸びている。

 先になればなるほど暗く、その先がどこへ延びているかは全くわからない。


「なんか、暗いわね……、いやだ……」

 右後ろでルイズが、奥を見据えながらそう呟いた。その時、ふにょりと何かが左腕に巻きついてきた。そっちを見たら、キュルケが腕を絡めて……、っていうか、抱きついてきていた。


「おい、あんまりくっつくなよ。そんなくっつかれてたら、剣振れねえじゃねえか」

 っていうか、まかり間違って斬っちまいでもしたらシャレにならん。力はあっても、俺自身は素人なんだからな。


「だってー、すごくー、こわいんだものー」

 すげえうそ臭い声色でキュルケはそう言った。というか、思いっきりルイズの方を見て二ヤリとしながら言ってるよね?


 “わかった? 私の仲間はあんたのような盛りのついた犬とは違うのよ、この早漏”

 “分かったのなら去勢されない内に私の目の前から消えなさい、発情犬”


 …………………………何だ?今のキュルケが聖女に見えるほど、恐ろしく邪悪な笑みを浮かべる魔女が脳裏に浮かんだような…

 知らない、俺は知らない、いや、知ってはいけない。

 ”つれないこというわねぇ、悲しくなるじゃない。私、アンタのこと結構好きよ?”

 でたな幻聴。俺に変な電波送ってんのお前だろ。

 ”ご名答、私の得意技よ。私も忙しいから、そんなにちょっかい出せないけど”

 二度と出てくんな怪電波め。



 ちらりと右後ろを見る。

 凄く不機嫌そうなルイズがいる。

 かなり怖い表情ではあるんだが、穢れを知らない純粋な子に見えるのはなぜだろう? この怪電波のせいか?


 左後ろを見ると、本をしまって杖を両手で抱えたシャルロットが、ものすごく頼もしく見えた。

 すまん、頼りにさせてもらうよ、ちっちゃな騎士さま。



 “ああーシャルロットはかわいいなあ、今日の夜ベッドに連れこんで、あんなことやこんなことをしたいなあ。今日から俺のものだぜ、げっへっへ”

 うるさいっての、ひっこめ。

 ”まあ、たしかにそろそろ本格的に多忙になるから、今回で最後かしら”

 なによりだ。さらば怪電波。



 キュルケを片腕にくっつけながら、歩くこと10分足らず。さきほどまでの獣道は、開けた場所に繋がっていた。深い森の中、そこだけはぽっかりと藪が無くなっている。

 広さは、ギーシュと決闘をしたあの広場と同じぐらいか。その中心には、確かに廃屋がぽつねんとたたずんでおり、あからさまに怪しい。壁に添え付けられている朽ち果てた窯は、いったい何に使っていたのだろう?窯の隣には壁の無くなった物置っぽいスペースが空いており、ところどころに枝やら細い丸太やらが散乱している。

 俺たち五人は小屋の中から見えないよう、森の藪の中に身を潜めていた。


「わたくしの聞いた情報によれば、あれがその一つです。他にも3つあり、そこには他の先生方が向かっているのですね」

 そう言って、ロングビルさんは小屋を指差した。


 「キュルケ、連絡は来た?」


 「いいえ、フレイムからは何も。他のチームはフーケを見つけてしないし、『破壊の杖』を見つけてもいないわ。コルベール先生は一番早く着いたけど何もなかったらしいから、今は周囲を捜索してるみたい」


 総指揮は使い魔を通してオスマン学院長が執ってる。

 そうして考えると。

「どうする?ここが当たりの可能性が高くなってきたってことだよな?」



 ひとまず、相談タイムだ。



 本当にいるかどうかを確かめる必要がある、とルイズ。

 居るにせよ居ないにせよ奇襲に限る、とキュルケ。

 おもむろに炎の魔法を使おうとしたキュルケを止め、秘宝が中にあったら大変だ、と諭すロングビルさん。

 それらの意見を聞きながら、考え事に耽っているシャルロット。

 で、それを端から見ている俺。


 違和感なんかないよな?

 別に、“切り込み隊長”だの“移動砲台”だの“遊撃兵”だの“大砲兼司令塔”とかが決まってるわけじゃないし。っかしいなあまだ怪電波の影響受けてるのか?



 数分が経過し、シャルロットが閉じていた目を開いた。

 ちょこんと地面に正座しなおすと、おもむろに小枝を使って地面に絵を描き始めた。

 どうやら、作戦を練り終えたらしい。皆で、その絵とシャルロットに注目する。

 作戦はこう。

 まず、偵察兼囮役が小屋の近くまで赴いてフーケの所在を確認する。もし中にフーケが居るようであれば、これを挑発して外へとおびきだす。土のない場所で巨大ゴーレムを作り出すのは至難であるらしいから、これは恐らく簡単だ。

 そしてフーケが表に出てきたところを、全員で一斉に攻撃する。ゴーレムを作る隙など与えぬよう、集中砲火でフーケを沈めるのだ。

 なおフーケが中に居ない場合は、一人の見張りを残して廃屋内部を探索。『破壊の杖』があればこれを奪取し、即座にこの場を逃走すればいい。

 無かった時はその時で、地道な聞き込みが始まるわけだ。



 「その際に注意がある。巨大ゴーレムが出てきた場合の対処法」

 さらにシャルロットが付け加える。


 「集中的に足を狙う、これが一番効果的」

 「足?」

 これは俺。

 「どんな巨体でも足がなければ動けない、特に関節を狙うのがいい。ルイズ、貴女の爆発は特定の場所を爆破出来る?」


 「え? 私?」

 ルイズが驚く。


 「そう、純粋な破壊力なら貴女の爆発が一番凄まじい。人間を相手に狙うのは制御が難しくても、あの巨体が相手なら可能だと思う」

 何せ、教室を吹っ飛ばしたくらいだもんな。


 「う、うーん、確かに、私の『錬金』は爆発するから、ゴーレムにぶつければ……」

 確かにな、命中性が悪くてもあのでかぶつ相手なら外すことはねえ。


 「ミス・ロングビル、ゴーレムの足に『錬金』をかけて油に変えることは可能かしら?」


 「そうですね、30メイルもの大きさがあれば、部分的な魔法の力は弱いはずですから可能だとは思いますわ。ちょうど、ラインメイジがかけた『固定化』を『錬金』で打ち破るようなものですし」


 「ということは、貴女もトライアングルね?」


 「一応そうです。仮にも学院長の秘書をやらせてもらう身ですので、といっても、流石に先生方には劣りますが」

 キュルケとロングビルさんの連携も決まったみたいだ。


「――で、その偵察兼囮とやらを俺がやればいいのか?」

 こくり、と頷かれた。

 そして簡潔に一言、


「この中で一番速い、かつ魔法無しで動ける」

 だそうな。

 なるほど、確かにルーンさえ使っていれば、俺の身体能力は引き上げられるから、奇襲でもされなきゃやられはしないだろう。適任か。

 了解、と一頷きを返して、店主の人生と引き換えに手に入れた剣を、すらりと鞘から引き抜いた。


 「あああああーーーーーーよーやく出番かーーーー!!たいくつで死にそうだったぜーーーー!!!」


 大声を出す駄剣がここにあり。


 「この馬鹿! 大声だしてどうすんだよ!」


 「あんたの声もでかいわよ馬鹿!!」


 「貴女もよ、ヴァリエール」


 「どっちもどっちですわね」


 「『サイレント』は張ってある」

 シャルロットのおかげで事なきを得た。




 で、左手のルーンが光り始め、瞬く間に体が羽毛のように軽くなっていく。

 たん、たん、とその場で軽く跳躍し、ルーンが発動していることを確認する。なお、罰としてデルフには後でシャルロットの『ライト二ング・クラウド』が叩き込まれることになった。


 「じゃ、行ってくる」と言い残して、小屋に向かって大きく踏み切る。ていうか、跳んだ。


 で、探索開始。


 ……まずはフーケが中にいるかどうかを確認、だったよな。

 壁に張りつくようにさささっと移動して窓へと近づき、こそこそと中を覗き込んでみる。小屋の中は、広さからすると一つの部屋だけのようだった。真向かいの壁には扉がくっついているのも見える。

 部屋の真ん中には埃を被った四つ足のテーブルと、その下に転がった丸椅子が見えた。テーブルの上には酒瓶も転がっており、こちらも埃が積もっている。

 視界左の方には崩れた暖炉らしき石の山もある。その向こうには薪の束が無造作に転がっている。薪のさらに奥手には、チェストがある。木で出来た大きな箱だ。何故だか、この箱は埃が積もっていない様に見えた。ベッドの類は、この小屋には無いらしい。

 部屋を端から端まで見渡したが、先に挙げたもの以外はこの小屋には存在していなかった。


 小屋の中には、人が隠れられるようなスペースは見当たらなかったので、魔法で隠れでもしていない限りは、フーケはこの中にいないと断言できる。


 つっても、ハインツさんの“透明マント”みたいな例もあるから油断は禁物。


 しかし、既にフーケは逃げ去ってしまった後なのだろうか? それとも、何かの魔法で隠れて俺たちを待ち伏せでもしているのだろうか?

 しばし考えはしたものの、所詮メイジでない身ではどうしようもないことに気付いたところで、皆を呼ぶことに決めた。

 後ろの藪を振り返り、頭の上で手を交差させる。×マークってやつだ。それを見たらしい全員が、慎重に警戒しながら近寄ってきた。俺はそんな四人に手短に中の様子を説明し、裏手にドアがあったことを告げた。

 しばらく相談し、ルイズを見張りに、ロングビルさんを周囲の警戒に当たらせることを決め、俺たちは裏手へと回った。





 シャルロットがドアに向かって杖を一振りし、少し経ってふるふると首を横に振った。どうやら、罠は仕掛けられていなかったらしい。

 シャルロット、俺、キュルケの順にドアをくぐる。ルイズは扉の外に居残り、ロングビルさんは……とっくに藪へと消えていた。

 さて、これから『破壊の杖』が部屋のどこかに隠されていないかを探すわけだが。この部屋の中でものが隠せそうな場所なんて、たかが知れてる。

「チェストの中か、崩れた暖炉っぽいのの中か。そうでなけりゃあ薪の中ぐらいしかないんだよな。手分けして探してみようか」

 少し探してみるが、俺の方は外れ、もともと小さい小屋だから探す場所なんてホントに少ない。


 チェストを探索中のシャルロットの方に振り向く。


「破壊の杖」


「あっけないわね!」

 そんなシャルロットとキュルケのやり取りが、どこか遠い。

 俺は、その『杖』から目が離せなかった。


「……お、おい。それが、本当に、『破壊の杖』なのか?」

「そうよ? あたし、見たことあるもの。宝物庫を見学した時にね」

 マジかよ。手のひらでだいたい5つ分ぐらいの長さの、どうみても杖には見えないオリーブ色の円柱。

 っていうか、これってアレだよな? 戦車とかぶっ倒す時に使うやつ。いや多分別物だけどさ。


「きゃぁあああああああ!」



 ルイズの、絹を裂くような悲鳴が部屋にこだました。

 何事かと一斉にドアを振り向いて、半秒。形容しがたいほどでかい破砕音を撒き散らして、小屋は中から青空が見えるようになった。

 そしてそのよく晴れた空をバックにし、土色のぶっとい梁が一本、天井が綺麗さっぱり消失した壁に渡されている。

 ――って!

「「ゴーレム!?」」

 キュルケと俺が唱和して、シャルロットが動いた。微かな呪文らしき声がして、身長よりも大きな樫の杖が手首のスナップのみで振られる。杖の先辺りの空気がみるみる渦を巻き、巨大な竜巻へと変貌する。

 シャルロットが杖を突き出すと、その竜巻は土人形ゴーレムを飲み込み――通り抜けた。

 ゴーレムは微動だにすることなく、たたずんでいる。

 続けざまに、背後から、っていうか、首の横から短い杖を持った腕が突き出され、耳元で素早い声みたいな音が聞こえた。

 早すぎて一体何を呟いたのかは分からなかったが、突き出された杖が縦に揺れた瞬間、炎が勢いよく杖の先から溢れ出て、その腕と声がキュルケのものだったことに気付いた。

 溢れた炎はゴーレムを絡めとり、飲み込んだ。

 ……ように見えたんだが、燃える炎の中で影が揺らめき、ドアの辺りの壁を巨大な拳が叩き潰した。

 炎も徐々に勢いを失い、ゴーレムの姿が露わになる。

「冗談でしょ!?」

 その体には、焦げ目一つたりともついていない。

「一時退却」

 シャルロットがそう告げ、俺たちは一も二もなくたったいまゴーレムがぶっ壊した壁を抜け、シャルロットが左、キュルケが右に逃げる。


 俺が土人形ゴーレムの足の間をくぐり抜けた瞬間、背後の頭上で何かの弾ける音がした。イズが魔法を使って、爆破したらしい。

 「ルイズ! 足だ! 集中的に同じ場所を狙え!!」


 「分かってるわよ!!」

 爆発が連続的に生じる。


 が、ゴーレムは追って来やがる。


「ルイズ! 俺が抱えて走る! そのまま撃ち続けろ!!」


 「了解!!」


 ここは役割分担だ。俺は速く走れる、ルイズは離れた相手を爆発させることができる。俺は前を見ながら走り、ルイズが後ろを見ながら爆発をゴーレムに叩き込んでいる、と思う。


 だって、俺には見えないし。


 ようはあれだ、俺がバイクを操縦して、ルイズが追手にショットガンをぶっ放してるようなもんだ。アクション映画で良くあるアレ。
 

 「シャルロット!援護いけるか!」


 「任せて!」


 「いっちょかましてやるわよ!」

 キュルケとシャルロットが一斉に魔法を唱える。

 『エア・ストーム』と『ファイアー・ストーム』


 「風」と「火」が折り重なり、強力な火炎の竜巻となってゴーレムの片足に向かって進む。


 「凄い……ゴーレムの足が燃え尽きてる」

 俺は一旦ルイズを降ろす。


 「まだ終わりじゃないぜ、お前の爆発も効いてるみたいだしな」


 「嘘!?」

 って、自分で見てなかったのかよ。


 「よく見ろよ、お前の爆発で削った部分にキュルケとシャ……タバサは魔法を当てたんだよ。だからあんなでか物の足がもげたんだろ」


 「そ、そっか、じゃあ、もう片方の足にも爆発を叩き込んでやれば……」


 「ああ、後は『破壊の杖』を持って逃げるだけだ。他の先生方も応援にくるはずだし」

 キュルケがフレイムを通してあの学院長に連絡を入れてるはず。『破壊の杖』が見つかった以上、後は他のチームと連携しながらフーケを包囲しちまえばいい。


 「って、再生しとる!」


 「嘘でしょ!」

 ゴーレムの足が再生してた。


 「ルイズ、撃て!撃ちまくれ!」


 「分かってるわよ!! 主人にばっかやらせないで、あんたも働きなさい!!」

 
 「無茶言うな! 俺は接近戦専門だぞ! 下手したらお前の爆発に巻き込まれるだろ!」

 俺のルーンは“身体強化系”なんだから、ルイズを抱えて逃げ回ることくらいしか出来ん。


 「ああもう! なんて役に立たない使い魔かしら!」


 「ほっとけ!」

 つっても、任せっぱなしも心苦しい。


 なんて考えてると、今度はゴーレムの右足にシャルロットとキュルケの火炎竜巻が叩き込まれた。

 ルイズの爆発によって脆くなった足はあっさりと焼け落ちる。


 「これならいけそうだけど、精神力が持つかしら?」

 少し冷静になったルイズが言う。


 「よくわかんねんけど、逆に、フーケの精神力が尽きる可能性もあるんだろ?」


 「そりゃそうだけど、フーケの実力なんてよくわからないし」

 つーか、話しながら爆破出来るんだな。そういや、『錬金』ってのはほとんど詠唱はいらないんだったか。

 だからこそ、ハインツさんの『毒錬金』はとんでもない魔法になるそうだが……


 ……ハインツさん? そういえば…………


 『お前や俺に限らず、たまに地球からこっちに品物が流れ着くことがあるのさ。“場違いな工芸品”なんて呼ばれてもいるが、俺にいわせりゃ異界の産物、この世界に本来ない異物だ。考えてもみろ、核兵器なんて流れて来た日には洒落にならんだろ?』


 なんて言ってたよな。つまり、『破壊の杖』もその一つってことだ。

 ま、“ハインツブック”がある時点でそもそもおかしいんだよな。


 それはともかく。


 「なあルイズ、足じゃなくて全体を破壊できればあのゴーレムは再生しなくなるか?」


 「え? うーんと……確かそうよ、一度『クリエイト・ゴーレム』で作ったゴーレムは、行動が完全に不可能になるほど破壊されると修理が出来なくなる。ギーシュの『ワルキューレ』もそうだったでしょ、腕や足を切っても動いたけど、胴体を真っ二つにしたら動かなくなったわ」


 「なるほど、流石は学年首席」

 魔法の知識に関しちゃルイズはぴか一だ。


 「お、おだてたってなにも出ないわよ。それで、何か手はあるの?」

 やや照れながらルイズが訊いてくる。


 「ああ、『破壊の杖』だ。あれを使えば多分ぶっ壊せる」

 何しろ、戦車を壊すくらいだもんな。


 「なるほど、でも、使い方分かるの?」


 「ああ、あれは本来俺の故郷の東方の兵器だ。つっても、俺は一般人だったから知識としてしか知らないんだけど」

 「駄目じゃない」


 「でも、多分このルーンがあれば何とかなると思う。とゆーわけで、お前はこのまま爆発で足を狙ってゴーレムの動きを封じてくれ」


 「任せなさい。そうね、あんたも少しは活躍しなさい」


 「了解、マスター・ルイズ」

 で、俺はシャルロット達の方に走り出す。






■■■   side:シャルロット   ■■■


 「随分しぶといわねえ」


 「厄介」

 私とキュルケで連携して二回ほど足を破壊したけど、その度に再生した。


 「大きさもとんでもないし、間違いなく「スクウェア」ね」


 「それにしても凄い精神力」


 正直、これほどとは思わなかった。

 あの大きさのゴーレムを何度も再生できる、そんなメイジがいるなんて…………いた。


 アラン・ド・ラマルティーヌに、エミール・オジエ。


 後者の方は精密に動く等身大の鋼鉄製ゴーレムを10体以上作り出し、即席の部隊を作るのを得意とするけど、前者は巨大ゴーレムを作るのを得意とする。


 もっとも、“鉄拳”を渾名が示すように、接近戦が最大の持ち味らしいけど。

 あの人は確か8回以上巨大ゴーレムを再生できたはず、信じられないけど、そういうことを平然とやるのが『影の騎士団』。

 しかも、彼は「トライアングル」、精神力の容量を階級は一致しないといういい例。

 そして何よりディルク・アヒレス、西百合花壇騎士団団長。30m級を同時に3体作れるとか。彼は「スクウェア」だけど、その中でも桁違いだ。


 「だけど、こっちもまだまだ」


 「そうね、根比べなら負けないわ、それにルイズも頑張ってるようだし」

 キュルケは普段ルイズをヴァリエールと呼ぶけど、彼女がいない時はルイズと呼ぶ。多分、ルイズがキュルケと呼ぶようになったらキュルケもルイズと呼ぶんだろう。


 「ところで、援軍は?」


 「皆こっちに大急ぎで向かってるけど、まだけっこうかかりそうよ。一番早いのは多分コルベール先生ね」

 私達にとっては有利な戦い、引き分けでも勝ち、要は『破壊の杖』を守り抜けばいいのだから。



 「おーい、シャルロットォ!」

 そこに、サイトがやってきた。


 「へえ、貴女、名前を教えてたのね」

 「彼は東方出身だから、貴族のごたごたに巻き込まれることはない」

 うん、きっとそう。


 「ふふふ、そうね、今はそれでいいと思うわ。自分の心を大事にね」

 そう言いながらキュルケは微笑んでた、なぜだろう?


 「シャルロット、『破壊の杖』はあるか?」


 「ある、シルフィードの背中」

 上空でシルフィードが待機中。


 「よかった、それを貸してくれ」


 「どうするの?」


 「あれは地球の武器だ、俺なら多分使えるし、あのゴーレムを一発で粉砕できる」


 「そう、わかった」

 サイトの言うことは理解できる。

 ハインツが言っていた。地球という異世界の武器はハルケギニアの兵器をはるかに凌駕し、根本的に異なる技術体系で作られていると。

 でも、その本質は限りある資源を喰らい尽くしながら貪欲に急速に発展することらしく、この世界に持ち込むべきじゃないとハインツは言っていた。


 『要はだ、それらがこの世界に馴染んだ日には、ハルケギニア中の人間が俺みたいになると思え』

 想像するだけで恐ろしい未来だった。



 シルフィードが降下してきてサイトに『破壊の杖』を渡す。それを持ったサイトのルーンが輝き、サイトは『破壊の杖』を肩に乗せて構える。



「後ろに立つな。焼けるぞ!」


 しゅぽっと何かが『杖』の先から飛ぶ。


 一瞬の間が空き、森中に響いたんじゃないかというような耳を劈つんざく爆音が轟き、ゴーレムの上半身は爆発四散した。





■■■   side:才人   ■■■


 『破壊の杖』はその効果を発揮し、ゴーレムを完全に粉砕した。


 下半身だけになった土人形ゴーレムは、横に盛大にぶっ倒れて、落としたガラスみたいに弾けて、ただの土の塊へと還った。

 そうして後には、昨夜のものよりなだらかな土山が残された。



 「サイト!凄いじゃない」

 キュルケが歓声を上げる。


 「ま、まあ少しはやるじゃない」

 素直じゃないのはルイズ。


 「でも、お前も凄かったぞ、よくあんだけ爆発させまくって精神力が持つな」

 純粋に凄いと思う。


 「と、当然よ、私の精神力はそんなやわじゃないんだから」

 褒められてまんざらでもなさそうなルイズ。


「フーケはどこ?」

 だけど、シャルロットは冷静だった。

 それで、ようやく本来の目的を思い出した。そうだよ、あのゴーレムを操ってやがった野郎はどこに居やがるんだ?さっきのゴーレムには、最初から乗ってなかったみたいだし。


 その時、がさがさっと藪をかきわける音が背後から聞こえた。



 「手前ら! 武器を捨てな! さもねえとこいつの命はないぜ!!」


 そう言いながら、黒いフードを被った若い男がロングビルさんを人質にしながら姿を現した。


 「「ミス・ロングビル!」」

 「「フーケ!」」

 俺達4人の声がはもった。黒いフードを被った男、こいつがフーケか!


 そうか、ロングビルさんの姿が見えなかったのはフーケに捕まってたからか。


 「へ、そういうことよ。せっかく“破壊の杖”を盗んだいいが使い方が分からなかったんでな、あえて付近の猟師にここに入っていく俺の姿を見せたんだが、ここまであっさりいくとはな」

 フーケの杖はロングビルさんの首に添えられてる、下手に動いたら彼女が危ない。


 「だが、流石は“破壊の杖”とか言うだけのことはあるな。俺のゴーレムを一撃で破壊しやがるとは、大したもんだ。ところで、そこの女共、杖を捨てやがれ、そして小僧、手前も剣を捨てな、さもねえとこいつの命はないぜ?」

 いかにもな台詞を吐く野郎だが、ここは従うしかない。

 「サイト、剣を捨てなさい」

 ルイズがそう言う。

 「悪い、デルフ」

 「なあ、俺、活躍なくね?」

 愚痴をいいつつ地面に転がるデルフ。しゃーねえだろ相手は土の塊だぞ。


 俺たちは杖と剣を捨てる。けど、俺の手にはまだ“メリケンサック”があるから“身体強化”のルーンを発動させることは出来る。

 一か八か、フーケに突っ込んであの杖を奪えれば…………

 と思ってたら、なぜかロングビルさんが笑ってる。なんでだ? ものすげえピンチなのに。


 「さあ、さっさと“破壊の杖”を渡しな。解ってると思うが、もし変な真似をしたらこいつの命はないぜ? 小僧、手前が持ってきな」


 フーケはロングビルさんの首に左腕を回し、右腕で杖を持っている。この状態では人質のロングビルさんが『破壊の杖』を受け取ることになる。


 あっ

 ロングビルさんが笑ってる理由が分かった。


 俺も自然と顔がにやけるのをなんとかこらえながら『破壊の杖』を持ってフーケにゆっくり近寄る。


 「何やってやがる、さっさと、ゲフッ!」


 突然フーケが体勢を崩し、その隙にロングビルさんがフーケから離れる。


 今がチャンス!


 「オラアアアアアア!!」


 ゴキイ!


 『破壊の杖』を振りかぶって思いきりフーケの頭を殴る。撃ったからもうただの鉄の筒だが、それでも十分な打撃武器になる。


 「ミス・ロングビルが杖を持っていることに気付かないなんて、相当の阿保ね」

 「同感」

 「あ、そういうこと」


 キュルケが呆れ、シャルロットも同意し、ちょうど位置的に死角になってたルイズも理解する。


 「多分私がマントを着けていないので、平民だと思ったのでしょう。魔法学院でマントを着けないのは平民だけですから」

 で、ロングビルさんが締めくくる。


 「じゃ、これにて一件落着か、フーケも捕まえたし、『破壊の杖』も取り戻したし」


 「うん、そうなんだけど、ねえサイト、それ、生きてる?」

 キュルケがちょっと不安げに聞いてくる。


 「うーん、思いっきり殴ったからなあ」

 なんか不安になってきた。


 「大丈夫、生きてはいる」

 いち早く駆け寄ったシャルロットが生死を確認する。よかった、生きてたか。


 「ですが、捕まった以上は極刑でしょうね」

 そこにロングビルさんが一言。


 「そりゃあそうでしょ、貴族の宝を盗みまくったんだから」

 これはルイズ。

 「そうね、だけどルイズ、貴女やるわね、まさか“ゼロ”の貴女がこんなに活躍するとは思わなかったわ」


 「うっさいわね!って、え、え、ええ?」

 困惑するルイズ、まさかキュルケに褒められるなんて思わなかったんだろう。


 「確かに、ドットメイジが10人いるよりルイズの方がゴーレムにダメージを与えられる」

 シャルロットも褒める。


 「そうですわね、ああいう巨大ゴーレムを相手にする場合、一定以上の威力がなければ意味がありませんから、「ドット」の『炎球』や『エア・カッター』では何の効果もありませんね」

 ロングビルさんも続く。


 「ってことは、ルイズの爆発って、トライアングルクラスってことか?」

 そう言う結論になるよな。


 「ま、そうよね、私とタバサと同等のダメージをゴーレムに与えてたわけだから。こりゃあ、私もうかうかしてらんないわね」

 とは言いつつも、キュルケの表情はかなり嬉しそうだ。


 「あ、え、あ、あの……」

 褒められたことなんか滅多にないからか、顔を赤くしてるルイズ。


 「じゃあ、今日からヴァリエールの渾名は“爆発”、もしくは“爆破解体”でいいかしら?」


 「“使い魔虐待爆発魔”ってのはどうだ?」


 「へえ、そう、じゃあまず、その名に従ってあんたを吹っ飛ばしてあげるわ」

 怒れる爆発魔がここにいた。


 「申し訳ありません御主人さま、使い魔めは調子に乗りました。どうかお許しを」

 土下座する俺、屋外なので問題ない。


 「じゃあ、今日一日食事抜き」

 「ごもっとも」

 頑張ろう、いつの日にか足軽目指して。

 …………目標がすげえ低くなってる気がする。



 「皆さん! 無事ですか!」

 と、そこにやってきたのは。


 「コルベール先生!」

 どうやら、他のグループもようやく来たようだ。


 「おや?黒いフードの男、まさか……」

 「ええ、フーケですわ」

 答えるのはキュルケ。


 「いやはや、フーケを捕まえるとは見事なものだ。それで、君達が倒したのかい?」

 俺達は顔を見合わせる。


 「「「「 いえ、ミス・ロングビル(ロングビルさん)です 」」」」

 俺達4人の声が重なった。


















 で、学院長室で報告中。

 

「――というわけなんです」

 ここは学院長室。

 気絶させたフーケはシャルロットの使い魔のシルフィードで運び、馬車を使ってえっちらおっちらと学院に戻ってきたのが15分ほど前。今はルイズが主となって、今回の事件の詳細をオールド・オスマンに報告しているところである。

 ちなみにフーケにはシャルロットが『眠りの雲(スリープ・クラウド)』もかけたから起きる心配はなかった。


「ふむ……、なるほどのう、『破壊の杖』の使い方が分からず、そこで君達を襲った訳か」


「一番狙いやすいと思ったのでしょうね、他のチームは教師で構成されてましたから」

 コルベール先生が引き継ぐ。っても、あれの使い方がわかるのは俺かハインツさんくらいだろ。


「さて、君たち。よくぞフーケを捕まえ、『破壊の杖』を取り戻してくれた」

 ルイズは恭しく、キュルケは誇らしげに、シャルロットは手馴れた仕草で礼をした。


「フーケは城の衛士に引渡され、そして『破壊の杖』は宝物庫に再び収まった。壁の修理も無事に終わり、これにて一件落着じゃ」

 オスマンさんは、一人一人頭を撫でていく。なんかこう、じいちゃんと孫って感じだな。

「君たちへのシュヴァリエ授与の申請を、ミス・タバサにはシュヴァリエの代わりに、精霊勲章の授与を宮廷に出しておいた。追って沙汰があるじゃろう」

 ルイズとキュルケの顔が、ぱあっと輝いた。

「本当ですか?」

 これはルイズ。

「でも、捕まえたのはミス・ロングビルですわよ?」

 これはキュルケ。

「まあ、それはそれじゃ、君達がフーケのゴーレムと戦い、破壊したのは間違いないんじゃからな。いいんじゃよ、君たちはそれぐらいのことをしたんじゃから」

 まあ確かに、俺達4人全員がそれぞれやれることをやった感はある。


「オールド・オスマン。サイトには、何もないんですか?」

「残念ながら、彼は貴族ではない」

「別にいいですよ、ただ、出来ればご飯下さい。暴力主人に今日一日食事抜きを言い渡されたもので」

 ここは権力者に取り入る。庶民の処世術だ。


 「あんた! バラしてんじゃないわよ!!」


 「ほっほっほ、それくらいならお安いご用じゃ、ついでに、わし個人の金になるが、100エキューくらいは渡そう。ミス・ヴァリエール、彼から取り上げてはいかんぞ、これは正当な報酬なのじゃからな」


 「は、はい、わかりました…………」

 不満はありそうだが押し黙るルイズ。

 100エキューって、100万円だよなあ。

 すっげえ! 俺お金持ち!


 「いいんですか!?」

 「構わん構わん、どうせミス・ロングビルに握られてるので、無駄遣いも出来んのじゃ」

 「そうですわね、この前、妙な本を学院の金で購入なさっていたようですし」

 ロングビルさんの恐ろしい声が響いた。
 

 「あ、あれはじゃな、学術的興味の品であって……」

 「ほう? 女性の裸体について書かれている本がそのようなものですか、これはじっくりとお話ししなければならないようですね?」


 心の中で学院長に合掌。


 やや気まずげな空気に包まれたが、オスマンさんのぽんぽんと打った手がそれを払拭した。

「さて、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。この通り『破壊の杖』も戻ってきたことじゃし、予定通り執り行う」

 瞬間的に、キュルケの顔が輝いた。

「そうでしたわ! フーケの騒ぎで忘れておりました!」

「今日の舞踏会の主役は君たちじゃ。用意をしてきたまえ。せいぜい、着飾るのじゃぞ」

 俺達は一礼をすると、退出した。



 で、3人は舞踏会の準備のために自室に戻った。


 「あっ、そういや、『破壊の杖』について聞くの忘れてた」


 オスマンさんはどこであれを見つけたんだろ?


 「ま、いっか、ハインツさんに聞けば多分わかるだろ。それに、俺が地球に帰れるような魔法の研究資料としてガリアのえーと、何だっけ、技術開発局っつったかな?が集めてるとか言ってたし」


 一個人で出来るような研究じゃなさそうだし、そこは国の研究機関に任せるしかない。地球で言えば自力で月に行こうとしてるようなもんだし。

 政府やNASAの協力がないと、どう考えても不可能だもんな。



 「ほんと、シャルロットとハインツさんに会えてよかった。そうじゃなきゃどうなってたことか」

 俺はそんなことをぼやきつつ、パーティーの準備で大忙しになってるだろうマルトーのおっさんやシエスタを手伝うために厨房に向かった。









 「いやー、旨いっすねえ、マルトーさん!」


 「そうだろそうだろ!今日ばっかは余った料理を俺達で食ってもいい日なのさ!」


 で、食堂の使用人&俺で現在宴会中。

 貴族には貴族のパーティーがあるんだろうが、平民には平民の宴会がある。


 「しかし、いいのかい“我等が剣”よ。あっちのパーティーにも出れたんじゃねえのかい?」


 「まっさかあ、仮に出れても踊れやしませんよ。そもそも俺は一般人ですからあんなパーティーなんて雲の上の出来事ですって、そんなんなら皆と騒ぎながら食いまくった方が絶対良いに決まってます」


 「はっはっは!そりゃあそうか、だよなあ、仮に俺が出ること許されても絶対そうするわなあ、よっしゃ!どんどん飲むぜ!」


 「みなさーん!余ったデザートが来ましたー!」

 シエスタ達メイド部隊が到着。


 「おーし、グッドタイミング、後はワインの追加だな」


 「あ、俺が持ってきますよ。樽ごと持ってくるんで、一気に空けちゃいましょう!」


 「おーし、任せた“我等が剣”! 3個くらい持ってこーい!」


 「りょうかいしましたー!」


 で、宴会は朝方近くまで続いた。

 貴族の連中のパーティーってのは、平民にとっても騒ぐ絶好の機会なのだ。












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