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No.14347の一覧
[0] ハルケギニアの舞台劇(外伝、設定集、ネタ)[イル=ド=ガリア](2010/02/22 18:09)
[1] 外伝・英雄譚の舞台袖 第一話 魔法の国(前書き追加)[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:37)
[2] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二話 ハインツという男[イル=ド=ガリア](2009/12/02 21:02)
[3] 外伝・英雄譚の舞台袖 第三話 東方出身の使い魔[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:42)
[4] 外伝・英雄譚の舞台袖 第四話 決闘[イル=ド=ガリア](2009/12/03 18:04)
[5] 外伝・英雄譚の舞台袖 第五話 使い魔の日々[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:11)
[6] 外伝・英雄譚の舞台袖 第六話 武器屋にて[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:11)
[7] 外伝・英雄譚の舞台袖 第七話 土くれのフーケ[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:13)
[8] 外伝・英雄譚の舞台袖 第八話 破壊の杖[イル=ド=ガリア](2009/12/07 16:32)
[9] 外伝・英雄譚の舞台袖 第九話 平民と貴族 そして悪魔[イル=ド=ガリア](2009/12/08 19:46)
[10] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十話 気苦労多き枢機卿[イル=ド=ガリア](2009/12/08 19:44)
[11] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十一話 王女様の依頼[イル=ド=ガリア](2009/12/09 16:31)
[12] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十二話 港町ラ・ロシェール[イル=ド=ガリア](2009/12/11 21:40)
[13] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十三話 虚無の心[イル=ド=ガリア](2009/12/13 15:25)
[14] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十四話 ラ・ロシェールの攻防[イル=ド=ガリア](2009/12/14 22:57)
[15] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十五話 白の国[イル=ド=ガリア](2009/12/15 21:48)
[16] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十六話 戦う理由[イル=ド=ガリア](2009/12/16 16:02)
[17] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十七話 ニューカッスルの決戦前夜[イル=ド=ガリア](2009/12/18 12:24)
[18] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十八話 ニューカッスルの決戦[イル=ド=ガリア](2009/12/20 19:36)
[19] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十九話 軍人達の戦場[イル=ド=ガリア](2009/12/22 22:23)
[20] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十話 トリスタニアの王宮[イル=ド=ガリア](2009/12/23 15:43)
[21] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十一話 神聖アルビオン共和国[イル=ド=ガリア](2010/01/01 00:03)
[22] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十二話 新たなる日常[イル=ド=ガリア](2010/01/01 22:34)
[23] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十三話 始祖の祈祷書[イル=ド=ガリア](2010/01/10 00:43)
[24] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十四話 サイト変態未遂事件[イル=ド=ガリア](2010/01/15 12:32)
[25] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十五話 宝探し[イル=ド=ガリア](2010/01/27 18:31)
[26] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十六話 工廠と王室[イル=ド=ガリア](2010/02/01 16:53)
[27] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十七話 灰色の君と黒の太子[イル=ド=ガリア](2010/02/03 17:07)
[28] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十八話 揺れる天秤[イル=ド=ガリア](2010/02/18 17:11)
[29] 3章外伝 ルイズの夏期休暇[イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:37)
[30] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   起   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:51)
[31] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   承   ■■■[イル=ド=ガリア](2010/03/07 05:15)
[32] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   転   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:53)
[33] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   結   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:54)
[34] 外伝 第0章  闇の産道[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:56)
[35] 小ネタ集 その1[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:00)
[36] 小ネタ集 その2[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:00)
[37] 小ネタ集 その3[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:01)
[38] 独自設定資料(キャラ、組織、その他)[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:57)
[39] 設定集  ガリアの地理[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:04)
[40] 設定集  ガリアの歴史(年表)[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
[41] 設定集  ガリアの国土  前編[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
[42] 設定集  ガリアの国土  後編[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
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[14347] 3章外伝 ルイズの夏期休暇
Name: イル=ド=ガリア◆8e496d6a ID:cb049988 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/04 20:37
 この話は3章の10話~12話の間の話です。



 私の今までとは違う夏期休暇が始まった。

 原因を作ったのは、最近サイトと仲がいいタバサの保護者を名乗る男。記憶はないけど、私が事故で例の薬を飲んでしまい、精神に異常をきたしたときに治療してくれた相手らしい。

 ……アレは私のなかで永遠の黒歴史になるであろうから思い出したくないけど。

 初めて会ったときの印象は、掴み所がない男、といった感じだった。今もあの男が何者で、どんな思惑で私にこういう仕事をさせているかは分からない。

 今私がやっていること――トリステイン中に散らばってる、ガリアの情報機関―北花壇騎士団というらしい―のメッセンジャー、シ

ーカーと呼ばれる情報提供者から集まる情報を整理、吟味し、内容の正確性と有用性を確実にする作業。

 私はガリアの情報機関がトリステインにあることに驚いた。私とて貴族の娘。それも、トリステイン一の大貴族ヴァリエールの娘だ。母さまや姉さまの教育は半端ではない。だから他国の情報を集める組織があることは理解できる。

 けど、それはあくまで王宮や王都の周囲に限ったことだと思っていた。私の感覚では、王族と貴族に目を向ければいいのだと、そういう価値観で考えていたけれど、ガリアは末端の農村にいたるまでの情報網を構築していた。

 私はそのことに大きな衝撃を受けた。『国というものは民によって支えられている。民の顔を見れば、その国の状態がわかる』と、以前父さまから教わったことがあるが、私は、そのことをちゃんと理解してなかったようだ。

 その事実で、、私は国は王族貴族のみで支えられている、と思っていたことに気づかされた。

 他国にここまで広範囲で、しかも緻密な情報網を作られていたことに、トリステイン貴族としてガリアへの怒りはあったが、それ以上にそれに気づかなかった自国の情けなさに憤った。ガリアと比較するとトリステインの現状は良いとは言えないような気がする。

 そして、ガリアの機関で私が働くことは、国を裏切ることになるのではないか、とも思い、ハインツにそのことを言ってみると。

 
 「大丈夫だ。ここで集まった情報は、ガリア外務省を通してトリステイン首脳部にも届くシステムになっている。まあ、すべてを渡すわけじゃないが、トリステインにとっても有益な情報は渡すようにしている」

 という答えが返ってきた。深く考えればそれだけではないだろうけど、気にしないことにした。

 
 だから、私はあまり背後関係は気にせずに、自分に課された役割を果たそう、と決めた。姫様の命は情報の収集だから、それが正確であれば問題ないはず。多分。

 



 そうして一週間ほどが過ぎて、私もこの仕事に慣れてきた。

 はっきりいって面白い。そして私に合っている。

 もともと、両親や姉さまから魔法以外のことは勉強していたし、もともと私にとって勉強は嫌いなことではなく、楽しいことだった。姫様は嫌ってたけど。

 私は魔法が使えなかった。だから、何とか使えるようになろうと躍起になった。そのために図書館に篭り、さまざまな学術書や指南書の調べ、その内容を整理して、複数の著書で記されていることは重要なこととして優先的に実践してきた。

 その全てがダメだったけど、そうした情報の整理や順序だてた考え方は自己流で覚えたのだ。けど、魔法が使えないことの焦りから感情的になることが多い私は、そうしたところを発揮することは少なかった。

 だから、それこそが重要なんだ、と言われてやってみると、自分でも驚くほどに仕事に慣れるのが早かった。しかも楽しい。

 私にここのノウハウを教えてくれたクリスは、目を丸くして『覚えるのが早すぎます』と言っていたくらいだ。

 そして、私は今、そのクリスとお茶を飲みながら休憩している。


 「お疲れ様ですルイズさん。お代わりはいかがですか?」

 
 「ええ、もらおうかしら」

 
 「はい、ちょっと待ってくださいね」

 クリスは、本当はクリスティーヌって言う名前だけど、長いからクリスって呼んでくださいね、って言われたのでそうしてる。今年で27歳というけどそうは見えない。せいぜい20歳かそこらだろう。 けど物腰や口調からは、大人の女性らしい落ち着きを感じさせる。

 ふと思ったけど、私ってこういうタイプに弱い。なんとなく強く出れないし、一緒にいるとすごく落ち着いた気分になる。これは間違いなく、ちい姉さまの存在が私にとって、とても大きなものだからだと思う。

 クリスもちい姉さまと似た雰囲気があるから、この場所に早く馴染めたのは、クリスのおかげだろう。教えてくれたのが彼女以外、特に偉そうな男だったりしたら、私は反発して飛び出してたかもしれない。

 そういう自分の欠点は分かってるんだけどな。

 なんて思ってるとクリスがお茶のお代わりを持ってきた。わざわざ暖め直してくれたようで、そういう気配りは素直に感心してしまう。

 
 「それにしても、ルイズさんは本当にすごいですね。私がここの仕事に慣れたのは2ヶ月くらい経ってからなんですよ。さすが学年主席は伊達じゃない、って感じでしょうか」

  
 「こ、これでもまだまだ手探りよ。あんまりおだてても何もでないからね」

 ちょっと気恥ずかしいけどうれしい、ここの人たちは皆、私を「公爵家の三女」でも「虚無の担い手」でもない「個人としての私」をほめてくれる。今までそれをしてくれていたのは、ちい姉さまだけだった。

 『よく勉強してるよね』

 『いい着眼点ですね』

 『あ、それ気がつかなかった。すげえなお前』

 『いやいや、本当にお若いのにたいしたものだ』

 そうした賛辞はこそばゆいけど、私は凄くうれしかった。口では「あ、当たり前よこんなこと」なんていったけど、私は今までの努力が認められたようで、口元に笑みが浮かぶのを堪えることはできない。

 虚無の力で褒められた時はこんな気持ちにならなかった。あの時は自分でも信じられない気持が強かったけど、今は気恥ずかしい気持ちが強い。


 そうしてクリスと話をしているうちに、クリス自身の話になった。クリスは確かガリアの子爵家の三女だったはず。


 「三女同士仲良くしましょうね♪」

 と言ってたのを覚えてる。そのあと「家格はこの際無視する方向で」と舌を出して可愛らしく言っていたっけ。

 クリスは自分の体のことを話し始めた。


 「私は小さい頃から体が弱かったんです。今もそんなに丈夫じゃないですけどね」

 確かに華奢で小柄なクリスはそういうイメージがある。

 「だから、小さい頃はベッドにいる事が多かったんです。姉さまはとても活発で、凛々しい人なので、私は姉さまみたいになれない体が嫌で、コンプレックスを持ってました」

 なんとなく私に似てるな、と思う。私は魔法が使えないことがコンプレックスだった。

 「それでいつも本ばっかり読んでたんです。やる事が無いから読んでいたんですけど、そのうちに本を読む事が好きになってました。勉強が嫌いな姉さまが、私に『教えてくれ』と言ってきたときは凄い驚いたし、そしてうれしかったのを覚えてます」

 その気持ちは分かる。今の私と似てるし、何より、自分よりずっと凄い人だと思ってた人から頼られたんだから。私も何かでエレオネーレ姉さまに頼られたり、ちい姉さまの役に立てたらどんなに嬉しいだろう。 

 「それから、私はメイジの力も強くないですし、27歳独身の今でもラインのままなんですよ~」

 独身なのは関係無いと思うんだけど。

 「だから、小さい頃の夢は学者でした。色んな知識をつけて、誰も知らないことを見つけたいなって思ったんです。そして! それは今も変わってないんですよ♪」

 可愛らしい笑顔のクリスを見てると、同年代と話す感覚になってくる。

 「私がここ(北花壇騎士団)に入ったのも、その夢をかなえる為の一歩なんです。ここで働いて、お金をためて、そうして世界中の遺跡なんかを調べて見たいんですよ」

 
 「考古学者を目指してるの?」


 「はい、私は特に歴史書に興味があったんです。その中で書かれていること以外にも、まだ知られて無い事がいっぱいあるに違いない。って子供の頃から思ってました。成人してからようやく体も少しずつ良くなってきたし、リュウさんも色々手を尽くしてくれたの
で、自分の夢を叶えようって、そう決めたんです」


 「リュウさん?」

 恋人かしら?

 
 「え、ああ、ごめんなさい。誰か分かりませんよね、リュウさんは姉さまの旦那様です。水のトライアングルで、しかも高名な薬師様のお弟子さんでもあるので、私の体のことですごく力になってくれました」

 ちいねえさまの体も治ればいいけど、もう散々手は尽くしてる。悔しいな。


 「それで、私は現在考古学者への道を邁進中です。ここでの仕事は、遺跡なんかの情報も入ってきますからね、私にとってはとっても都合がいいんです。支部長はやさしいですし」

 ここの支部長のオクターブは、元教会の神父とかで、とても物腰がやわらかく、ちょっと顔が怖いけど穏やかな性格だ。クリスとの相性はピッタリで、2人が揃うと、何というか空気が緩やかになる気がする。

 「まだまだ、私の青春は終わりませんよ! なんせ私が人並みに動けるようになったのは20過ぎですから、それまではベッドの上で灰色の青春を送っていた――いや、始っても無かったんです。だから私は今が青春ど真ん中なんです♪」

 そういって明るく笑うクリスだけど、きっとそれまでにさまざまな葛藤や迷いがあったんだろうと思う。私もずっと周りから嘲られてきたから、なんとなく分かる。私は魔法のことで、クリスは体のことで、互いに満足のない日々を送ってたんだから。

 でも、クリスは夢を持っていた。そして子供の頃からのそれに向かって歩き出してる。そんな彼女が眩しい。

 私はどうだろうか。私は何かしたい事があるだろうか、夢や目標とするものがあるだろうか。

 魔法が使いたい、って思ってた。誰よりも強く望んでいた。でも、その後は? 私は魔法を使ってやりたい事があったのだろうか、ただ盲目的に求めていたけど、明確な形となるものは思いつかない。

 だから、虚無を使えるようになっても、戸惑う気持ちが強かった。自分でも信じれられない感覚があったから、実感を持とうとしてたし、そのことを周囲に認められたい気もちも強かった。

 「どうしました? ルイズさん。何か難しい顔してますよ」

 
 「え、あ、ううん、なんでもないわ。ただ、その、何ていうか、貴女はすごいなって思ったの」

  
 「私が、ですか?」


 「うん、私は貴女のように、はっきりとした目的が無いんじゃないかって思ったのよ」


 「うーん、でもルイズさんはまだまだこれからですよ。私だってルイズさんの年齢の頃は、夢と言っても漠然としたものでしたし、確固たる目標としたのは20歳過ぎてからです。だから、ルイズさんはこれからなんですよ」

 「そ、そうかしら」


 「そうです♪ 人生の先輩が保障しちゃいますよ。焦ることなんか無いですし、そういうことは決めなきゃいけないってわけじゃないですから」


 「そう…ね。うん、ゆっくり探してみるわ。私のやりたいこと」


 「はい。がんばってください、って言うのもなんか変ですね」


 「ふふっ」

 そうして笑いあう私たち。

 だけど私は自分の中で何かが変わってきてるのを感じていた。










 「おやおや、随分と根を詰めてらっしゃいますね。少しお休みにならないと、体に良くありませんよ。まして、貴女はお若いのだから、美容にも気をつけないと。睡眠不足はお肌の天敵です」

 クリスと話をした数日後、私が夜遅くまで仕事をしていると、オクターブが話しかけてきた。

 彼は実際より老けて見える、と言うより言動がやけに年寄りくさいのだ。今私に言ったことも、30半ばの男の台詞ではない気がする。

 「平気よ。それに、皆もがんばってるんだから、司令官の私がのんびり休むなんてできないわよ」

 サイト達も、トリステインの各地を飛び回ってるんだから、これくらいで音を上げるわけにはいかない。

  
 「ふむ、頑張るのはとても好い事ですが、それがために体を壊してしまっては本末転倒でしょう。貴女の友人とて、不眠不休というわけではないでしょうし、ここは私の顔をたてていただけませんか」

 そう返されたら休まないと突っ張ることは出来ない。そういう言い方をされて断れば、私が聞き分けの無い駄々っ子みたいになるじゃない。それを見越してるのなら、この笑顔の奥の本性はわりと悪党だ。


 「しかし実際、貴女の友人たちには感謝の気持ちが絶えません。無論貴女にもね。ここには実行者たるフェンサーは居ないので、有事に即座に対応が出来ない。貴女のご友人たちは、文字通り飛び回ってくだされているので、多くの問題が解決できている」

 そう、特にタバサとサイトは風竜のシルフィードに乗ってるから、移動が速い。野党や幻獣などが町や村を襲った時も、いち早く現場に到着できる。

 そしてこうした問題――野党や山賊の跋扈――は、私を悩ませる原因なのだ。

「本部に報告を送ってからでは手遅れの場合もありますからね、いちトリステイン人として喜ばしい限りです」

   
 「そうね、皆強いもの、たいていの事なら一発だわ…」

 それでも、そういう問題は、大小共にわりと頻繁に起こっている。そして、国やその土地の貴族は対応が遅い、全くしない素振りの貴族まで居る。そんな事が報告書から読み取れる。

 
 「ふむ、なにかお悩みのようですね。良ければ聞かせていただけませんか?」

 顔に出てたのか、オクターブが心配そうにそう尋ねる。


 「別に、悩みって程じゃないんだけど、この国の貴族についてちょっと考えてたのよ」

 私が知っている――いや、知ってるつもりだった貴族はそんな事はしていない筈だった。貴族とはその領民を守り、どんなことにも立ち向かうもの。そう、父様も母様も言っていたのに、突きつけられた現実は違う。

 ほとんどの貴族が領民の現状を理解してないし、領民の嘆願には適当に対応し、あまつさえ無視している。厄介な問題は、王都に知られないようにしながらも、切羽詰ったことになるまで何もしない。そしてどうにもならなくなったら、家臣の誰かに責任を押し付け
て逃げる。

 それが、メッセンジャーやシーカーからの報告でわかる。

 この報告書は、事務的な文面で、書いた人間の感情は反映されていない。報告書は客観的にし、主観や私見はわずかにのせる、というのが本部からの指示らしい。

 もし、面と向かってそうしたことを指摘されれば、私は食って掛かって反論してただろう。そんなのはごく一部だ、とかいって相手の言い分に耳を貸さずに、持論を押し通したに違いない。

 私って意固地だから。分かってるんだけどな、そういうところは。でも誰かの前だと素直になれない、誰かのいうことを聞くのは、負けたことになる、とか思ってしまう。こうして、一人になってゆっくり考える時間が出来てからは、そんな自分の欠点のことも考え
るようになった。

 でも、散文的に書かれた文章だと、それが事実だと受け入れられる。それがいくつもの異なる地区から出てれば、特殊論は通じない、それは一般論だ。

 そして、報告書の中で、そうした貴族はオーク鬼よりタチが悪いとされていた。オーク鬼は退治できるけど、貴族は退治できないか

ら。多くの平民たちにとって貴族がオーク鬼より厄介だと思われてることは、私にとって大きなショックだった。

 だって、貴族は平民を守ってるものだと思ってたから。その貴族を平民は感謝してると思ってたから。

 でもそれは、箱庭の中での価値観しか知らない世間知らずだったからだ、今はそれが分かる。誰かにそう指摘されてたのなら、真っ赤になって癇癪を起こしてたかもしれないけど、他ならぬ私自身がそう気づいた。


 「貴族のこと、ですか。公爵家の令嬢である貴女の前でなんですが、お世辞にも今の貴族の方々の多くが、品行方正であるとは言えませんからね」


 「貴方もそう思うの?」


 「貴方も、とういことはルイズさんもそう思われていたのですか。いやいや、貴女は本当に聡明な方だ、副団長が貴女をこの仕事に薦めたのもよく分かりますよ」


 「な、なによ、そんな対したこと言ってないじゃない」

 急に褒められるとうまく切り返せないのよ! でも、きっと心構えをしっかりすれば冷静に返せるように成れる…と思う。


 「そんなことはありませんよ。表現が悪いとは思いますが、蝶よ花よと育てられた貴族の令嬢が、急にこうした仕事を振られたのに、よどみなく処理できている。これはあなた自身が思っているより、ずっと大した事なのですよ」

 
 「そ、そうかしら。でも、ここの人たちは皆私より仕事が出来てるじゃない」

 
 「それは当然ですよ、私たちは貴女よりずっと慣れているし、そのために訓練期間もありました。考えてみてください、貴女の学院に、自分のようにこの仕事をこなせる方がいますか?」


 「……ミス・ロングビル」


 「彼女は学院長の秘書でしょう。この手の仕事はお手の物のはず(実際は彼女はフェンサーなのですが)、同じ学生で、貴女の知る限りでいらっしゃいますか?」


 「………」


 「ですから、貴女は自分を誇りなさい。貴女の年齢でこの仕事をこなせるのは、並大抵ではないのですよ。そしてそれは稀有の才能ではありますが、才能とは努力が無ければ決して実にならないものです。今の貴女があるのは、あなた自身の努力の賜物なのです。才
能と、不断の努力。それが貴女を現在の貴女たらしめたものだということに、堂々と胸を張るべきでしょう」


 「あ、ありがと」

 恥ずかしかった。顔が真っ赤になってるのが分かる。でもそれ以上に嬉しかった。

 そして何より、自分に自信がもてそうな気がする。虚無を得た時よりずっと。そうだ、今の私は私が努力して勉強したからあるんだ。

 
 「ああ、年を取ると説教くさくなっていけませんねえ。以前はシスターや子供たちに、今でもクリスにそう指摘されているので、分かっているつもりなのですが…」

 そういえば、彼はもと神父だったっけ。ふと疑問が浮かんだ。

 
 「ね、ねえ、一つ聞いてもいいかしら。どうして貴方はこの仕事をしようと思ったの?」

 クリスのは聞いたけど、きっと彼にも何らかの動機があるんだろうと思う。


 「そうですねえ、疑問に思ったから、でしょうか」

 
 「疑問に思った?」

 何に?

 
 「私は少年時代多くの人のお世話になりました。だから、自身も誰かの手助けが出来る人間になりたいと思い、神父になったのですが…」

 
 「なにか問題があったの?」


 「ええ、問題と言うか、限界ですね。救いを求めてくる人たちに手助けすることは出来ました。けれどそこまでです、私は強欲なのですよ、エゴイストなのです。救えるのならば、より多くを救いたい。教会で待っているより、自ら行動を起こしたいと思っていたと
ころに、どこから聞きつけたのか、副団長が勧誘に現れました」

 アイツのことはよく分からない。でも、神出鬼没だと言う事は分かった。

 でも、やっぱりこの人にはこの人の理想や信念があると言う事も分かった。それを持つのに色々な事があったんだろうと思う。

 そうしたものが私にはあるだろうか。

 「本当に、行動力の固まりの様な方ですよ。私には出来ませんがね、ああいう生き方は。私は歩くだけで精一杯です。常に全力疾走というのはとても…」


 「貴方にはそう見えるの? 常に全力疾走だって」


 「まあ、あくまで主観ですが、しかしあの方の様でなければ、激動化する時代を乗り切れないのかもしれませんね」


 「時代の激動化?」


 「今、ガリア本国では多くの改革が行われてますから。その流れがこの国にも広がっていくのではないかと思うのですよ」

  
 「じゃあ私たちも、その激流に流されないようにしなきゃダメなのね」


 「ええ、そうですよ。そのために頑張らないといけませんねぇ。しかし、とりあえず今夜はもうお休みなさい」

 話が一番最初に戻ったみたい。でも、ここは年長者の言うとおりにしようかな。

 
 「そうするわ。いろいろお話ありがとう」


 「いえいえ、若者の役に立てれば元聖職者として幸いです」


 そうして私は寝室に向かった。でも、今彼と話したことはベッドに入っても考えていた。

 この国の貴族のこと。ここの人たちの仕事に対する想いの事。変わっていくかもしれない時代のこと。






二日後、クリスがオクターブに一つの報告書を出した。


 「支部長、また吸血鬼に関する報告です」


 「またですか、それにしても変わった吸血鬼ですね」

 吸血鬼。それは私が来る前の報告からあったことで、一箇所を拠点とせずに、移動しながら獲物を襲っているという。

 吸血鬼の生態としては確かに変わっている。普通は一つの場所で、グールを作って正体がバレないようにするものなのに。

 
 「被害は既に3つの村に及んでますから、何らかの手を打っておいたほうがいいと思うのですけど…」

 
 「既にこの件は本部に送りましたが、返答や何かの動きはありませんね」


 「でも、放置すれば被害が拡大する可能性が高いですよね」

 そのクリスの言葉に、私も口を挟む。

 
 「それなら、サイトたちに頼んだほうがいいかもしれないわ、アイツらなら吸血鬼にも負けないだろうし」

 実際タバサは吸血鬼退治の経験があるとか。


 「そうして頂けるならありがたいですね」


 「お願いします! ルイズさん」

 そう言いながら手を合わせて頭を下げるクリス。


 「あ、あのねえ。実行部隊はアイツらだから私を拝んでもしょうがないでしょ」


 「でも、リーダーはルイズさんですから」

 リーダー、か。私がアイツらのリーダー、つまり責任者。吸血鬼は危険な相手だから、なるべく確実な情報を得ておきたい。サイトたちが死ぬようなことなんかにならないように。だってそんなのは絶対に嫌だもの。

 一緒に行動して無くても、アイツらのためになることは出来るんだから、私は私の最善をしよう。それはここに来て学んだことの一つ。

 状況を見て、それに対して自分がするべきことを考えること。ちょっと前までの私みたいに、闇雲に走ってはダメなんだから。

 ……そのことを客観視すればかなり恥ずかしいなぁ、サイトに対する態度なんか特に。


 「では、ご友人への連絡をお願います」

 オクターブがそう言った。けどその前に。


 「知らせる前に、この件をもっと検証したいけど、いいかしら? 相手の居場所とか、強さとか、予測できるならそうしたいから」


 「ええ、無論です」


 「私もお手伝いしたいですけど、ちょっと別件で手が離せないので、ゴメンなさい」


 「謝ること無いわよ。大丈夫、まかせなさい、私がしっかりとやってみせるから」

 ちょっと胸を張って言う。こういうのはやる気が肝心だと思うので。






 そうして、一連の吸血鬼被害を一から見てみると、ふと引っかかる事があったので、それも調べてみると、なにかとても嫌な予測が立ってしまった。

 私は急いでオクターブのいる事務室に向かう。


 「ち、ちょっといいかしら」

 走ったので少し息が切れてしまった。


 「どうしました、そんなに慌てて。もしや、何か吸血鬼以上に良くない事が分かったのですか?」


 「まだ、予測なんだけどそんな感じね」

 そうして私は説明する。


 「はじめて吸血鬼騒ぎの報告があったのは北のイムール村よね、そしてそこから東のサラン、ロコナと騒ぎが起こってる。これはつまり」


 「吸血鬼、もしくはそれに類するものは、徐々に東に向かってるということですね」


 「ええ、そして、このまま行くときっとゲルマニアの国境に辿り着くわ」


 「ふむ、そうすると国境を越えようとしているのでしょうか。そうすると、随分国家間の情勢に詳しい吸血鬼と言うことになりますね。ゲルマニアに行かれては、トリステインとしては手が出しづらい」


 「そうよ、いくら吸血鬼が知脳が高くたって、そういう発想をするものかしら? 私はしないと思うのよ」


 「たしかに、吸血鬼はもともと一箇所に根を張るものですから、移動して、しかも国境を越えて討伐を逃れようとは考えないはずです」


 「だから、これは吸血鬼の名を騙った何者かの仕業だってことよ」


 「とはいえ、何者か分からない以上、私たちが出来るのは、ロコナ村以東の町村のメッセンジャーに注意を促すのが限界となりますね」


 「それで、調べてみたのよ。最初に騒ぎが起きたイムール村周辺で、誰か行方不明になった人や、神隠しみたいな話が無いか」

 吸血鬼騒ぎの被害者は、誰も死体が発見されてない。皆行方不明なのだ、だから、同じように誰かが居なくなったという事があれば、何か関連性がつかめるかもしれない。そう思って調べた。


 「あったのですね」


 「うん、イムール村の西のトルミルの町で、駆け落ちと家出の噂が、さらに西のセドナの町でも同じような報告があったわ。そこから南の町でも神隠しの噂があった」

 
 「とすれば、失踪者が出ている町や村をつないでいくと…」


 「きっと出発点はトリスタニアだと思う。そこから北へ行って、さらに東へ方角を変えてゲルマニアに向かってる」


 「! もしや…」

 オクターブも気づいた。ここ数年そういう話が聞こえてる。学院にまで入ってくるくらいだから、当然かもしれないけど。


 「人攫い。ゲルマニアで秘密裏に人身売買が行われてる、って言うけど、もはや公然と口にされてるわね」


 「では、同じルート上に大規模な隊商の姿などが」


 「あったわ。大型の箱馬車が4台連なってる隊商がいる。積荷は家畜だって話だけど」


 「本当の中身は人間、ですか」


 「吸血鬼騒ぎが起こる前は、こいつらの移動速度は緩やかだったわ、きっと居なくなってもあまり騒がれない人間の情報を集めていたんだと思う。周到な連中だわ」


 「そこへ、吸血鬼の仕業だという噂が出た。それを幸いに、それらしく偽造して人攫いを行ったのか。確かにそれなら情報を集めずともすみますから、移動速度も速くなる。彼らとしても、早く国境を越えたいでしょうからね」


 「まだ予測だけど、私はそうだと思う、貴方はどう?」


 「貴女に賛成です。この予測は正しいでしょう。であるならば早急に対処せねば逃げられてしまいます」


 「私の仲間へ連絡するわ、アイツ等なら、すぐに着けるだろうから」


 「お願いします。私の方でも、次に奴らが着くであろう町に連絡用ガーゴイルを飛ばして、注意を喚起しておきます」

 そこで私は少し気になっていたことを訊いてみる。


 「ねえ、国境の街までついたとしても、そこの検問を通れるものかしら、箱馬車の中身が人間だったらその場で御用にならない?」

 なんとなく予測はつくけど、あえて尋ねてみた。

 
 「いえ、残念なことですが、検問の役人に賄賂を渡せば通れてしまうものですよ。ここ数年特にそれが顕著ですね」

 
 「そう…」

 ここに来てから知った貴族のことから、分かってはいたがやはりつらいものがある。貴族も役人も、平民を守ろうとする気持ちが無くなっているのだろうか。

 でも、落ち込んでばかりはいられない。私はすぐにデンワを使ってサイトたちに連絡した。






 
 そして事件は解決した。国境の街の手前まで来ていた人攫いたちは、シルフィードに乗って現れたサイト、キュルケ、タバサの3人(+マリコルヌ)によって蹴散らされ、御用となった。

 捕らわれていた人たちも、無事にそれぞれの村に帰れるようで、めでたしめでたしなんだけど、私の気持ちはひどく沈んでいた。

 
 「どうしました、ルイズさん、何やら気落ちしてらっしゃるようですが。貴女とご友人のおかげで、無事に捕らわれた人を助ける事が出来たのですよ。貴女が落ち込むことは無い様に思いますが」

 確かに、私のしたことで多くの人が助かったことは、素直にうれしい、けど…

 
 「貴女自身が直接戦闘に参加しなかったことで、友人たちに申し訳なく思っているのですか? それならば何も気にすることはありますまい、彼らには彼らの、貴女には貴女のすべきことがある。それを混同することは無い」

 その気持ちは無いわけじゃないけど、今は違う。


 「それにしても、貴女のご友人たちは本当にお強いですねえ。なかなかどうして、大したものだ。相手も荒事になれた男たちだったというのに、あっという間に片をつけたのですから」


 「キュルケとタバサはトライアングルだし、サイトは伝説のガンダールヴだもの、わけないわ」

 だからマリコルヌ一人が死ぬ思いをしたとか何とか。


 「ふむ、では貴女が落ち込む理由は、首謀者が国境の街を治めるレムシャイ伯だったことですか」

 その通り、役人が賄賂を取って不正をしてるのは、まだ許容できたが、貴族が人攫いをしていたなんて。

 ショックだった。今までの自分の価値観を総て否定された気がした。私が目指していた貴族像は、単なる絵空事でしかなく、そんなものを目指していた自分は馬鹿だ、と言われたように感じたのだ。

 今は戦時中ということもあり、少しでも怪しまれないように、神隠しや駆け落ちなどに偽造するよう指示したのもその貴族だった。アルビオンの間者としてつかまる可能性をつぶすために。

 そこまで頭が回るのなら、どうして領民を守るためにつかわないの?
 

 「うん… その通りよ」

 私は弱気になっていた。だから思っていることをそのまま口にした。

 
 「私が目指してた貴族ってなんなんだろう…」


 「なるほど、自身の理想が砕かれた気がしたのですね。分かりますよ、あなたのその気持ち」

 
 「貴方に私の何が分かるっていうのよ!」

 私はヒステリックになって叫んでしまった。自分の気持ちが抑えられない。


 「分かりますよ、私も若いころに同じような経験をしましたからね」


 「同じ経験?」


 「ええ、私も今の貴女と同じように、自分が抱いてた理想を砕かれた事があります。だから、貴女の気持ちも、胸に迫るほど理解できる。悔しくもあり、情けなくもあり、そして途方にくれたような、そんな感覚なのでしょう?」

 その通り、とはいえない。私は今の自分がどういう気持ちか分からないから。でも、言葉にすればそんな感じかもしれない。


 「昔の貴方に何があったの?」

 
 「この前話した、私のこの仕事をすることになった動機についてですが、総て話してなかったのですよ。私の恥部でもありますからね。しかし、今の貴女には話しておくべきでしょう」

 そういって、少し間をおいて、彼は語り始める。

 
 「私は教会の神父をしていましたが、その前はトリステイン宗教庁の中枢にいました。まあ、とはいっても下っ端でしたが、それでも神官たちの中ではエリート、とでもいうものでした、しかし私にとってはどうでも良かった。当時のわたしは理想に燃えてましたか
ら、多くの人を助けられる、立派な人間になりたいと言う理想に」
 
 私に近いかも、と思った。私は誰よりも立派な貴族になりたい、両親のような人物になりたいと思っていたから。


 「そんなある日、司教が宗教庁が経営している孤児院の孤児に、性的な暴行をしていると言う噂を聞きました。私は信じなかった、高潔であるはずの聖職者の司教様がそんなことをするはずが無い、と根拠も無く思い込んでいたのです」

 これも私に似てる。根拠も無く、貴族は高潔で正しいものだという考えがあったもの。


 「だが、そんな幻想は打ち砕かれた。実際に現場を見てしまったのです。私はその光景を拒んだ。そして、自分はこうはならない、ここに居ては自分も同じになってしまう、と思い地方の教会へと派遣されるように嘆願したのです」

 私も出来るならこの現実を拒みたい。

 「上の方々にしてみれば、青臭いことを言う鬱陶しい若造を追い払えると思ったのでしょうね、私の嘆願はすんなり通りました。そして、派遣された教会は、とても良い所でした。シスターたちも、村人たちも素朴で、彼らの役に立てる日々はとても充実したもので
した。しかし……」

  その日々を捨てて、北花壇騎士団に入ろうとした何かがあったのだろうか。

 「ある日、私が居た村に一人の少女が来たのです。正確には逃げてきた、のですが、彼女はその土地の貴族に屋敷へ連れ去られ、暴行を受けたのです。そしてなんとか逃げだした。私はすぐにその少女を保護しましたが、その時彼女がポツリと言った言葉が、私の胸
に突き刺さった」


 「その子は何て言ったの?」


 「”誰も私たちなんか助けてくれない”と、そう言ったのです。そのとき私はかつて見た光景を思い出し、そして思った。私はあの時何をしていたのだ、人々を救うという理想を持っているのなら、何をおいても虐げられている少年少女を助けるべきだったのでない

か、と」

 彼の表情が悲しげに歪んだ。


 「私はその時、自分の理想を守るために、目の前の現実から目を逸らし、するべきことをせずに逃げたのです。そして自分の自己満足の楽園に逃げ込んだ」


 「でも、でもそれは悪いことなの? その村の人たちは貴方を頼って、感謝していたんでしょ?」


 「確かに悪ではないかもしれない。しかし許せなかった、私が、私自身をです。だが過去を悔やんでいても前には進めない。だから、その少女やかつて自分が見捨てた子供たちのような者が、生まれないように出来ないかと、そうでなくても少なくすることは出来な
いかと、そう思っているときに彼が現れたのです」

 
 「彼?」

 
 「副団長ですよ。どうやら彼は件の司教の噂を聞き、彼を殺したようなのです。そしてその際にどこかで私のことを聞き、勧誘にいらした」


 「ど、どうして殺したの!?」

 殺したのは彼じゃないのに思わず叫んでしまった。


 「私も聞いて、そして驚きましたよ。”気に入らない奴だった”からだそうです。ですが同時に彼は孤児たちしっかりと保護していた。私には出来なかったことを悉くした彼に、羨望と嫉妬と恐怖を抱きました」

 たしかに、そうだ。そんな男は少しどころか、かなり普通じゃない。

 「彼は言いました、もし私に今も誰かに為になりたいと言う理想が残ってるなら、俺のところに来ないか、と。私は悩みましたよ、私はまた安易な道に逃げようとしているだけではないか、とね。さんざん悩みましたが、私はこの仕事をしようと決めました」

 
 「どうして、そう決めたの?」

 教会の神父として、その村の人の役に立つことだって、善いことには違いないのに。


 「私がしたいことは何か、そのためにするべきことは何か、そして出来ることは何か、それを考えたのです。やはり私は出来るなら多くの人の役に立ちたいと思っていた、そしてそのためには、地方の神父では限界がある、しかし、かといって副団長のような真似は
出来ないので、この仕事選んだのです」

 確かに、人殺しはこの人に向いていないと思う。でもアイツは平気で出来るのね。

 
 「彼は悪魔のような男でしたが、彼との出会いは神の導きのように思えましたね」

 悪魔か、確かにピッタリかも。


 「まあ、長い話になってしまいましたが、理想や常識を砕かれた時は、まず自分を見つめ直すことをしてみなさい。自分を見失わずに、確固とした意志を持ち、自分の在りたい在り方を思うのです。まあ、一種開き直り的ではありますがね」


 「在りたい在り方……」


 「若い私はそれに背き、目を逸らして逃げてしまった、おかげで再び自分の在りたい在り方を見つめ直すのに、10年掛かってしまいましたよ」

 そういって自嘲的に笑う。こういうのはこの人に似合わないな。

 なんとなくウェールズ王子たちのことを思い出した。彼らも、目の前の現実から目を逸らして、安易な道に走ったと言えるのかもしれない。自分のこともよく分かってない私がそう思うのは、おこがましい事かもしれないけど、臆病者の謗りを受けてでも抵抗する方
法もあったかもしれないから。

 結果で物事を考えるなら、ウェールズ様の決断は姫様を危険に晒してしまったのだ。
 

 「貴女はどうしたいですか? どんな貴族になりたいのですか? それを見つめ直して御覧なさい。他人は他人、自分は自分と思う事も大事ですよ。とはいえ私のように逃げに走ってはいけませんが」


 「うん、そうするわ、ありがとう、なんかみっともないわね私」


 「いえいえ、若いうちは大いに悩むべきですよ。私の言葉が貴女のお役に立てればいいのですが」


 「役に立ってるわ。いろいろ考えさせられるもの」


 「それはそれは、なによりです」

 私は自室に向かい、今言われたことについて考えた。




 「自分の在りたい在り方、か」

 貴族が自分が思ってるようなものじゃないことを知って、私はどうしたいんだろう。

 ふと思った。私はサイトにとってどういう存在だろうか。勝手に呼び出して、自分の都合だけで使い魔にして、そして自分の言うことを聞かないと怒鳴りつけたりした。

 これって、自分の欲望のために平民を虐げる、私が嫌悪した貴族とそう変わらないんじゃないだろうか。

 そんなのは嫌だ、私が目指す貴族じゃない。私は両親のような貴族になりたいんだ。

 だから、彼の言ったとおり、自分を見つめなおしてみよう、今までの自分と、これからの自分に。











 夏期休暇は続く。私がここに来てから一ヶ月がたった。

 変わらずに届く貴族の横暴や怠慢の報告に、私は自分の中ではっきりと区切りをつけた。

 どんなに否定したところで現実は変わらない。だから現状を受け入れて、その上で私に出来ることを考えていこう、と思う。何せ私は姫様の友達なんだから、国内の貴族がこんなのばかりなら、姫様も苦労が絶えない事になるに違いない。

 私は私が成りたいと思う貴族を目指す。この思いを変わらずにもち続けていこう。

 
 「ルイズさん、やっぱり国内のあちこちでアルビオンの戦艦が目撃されていますね」

 クリスが話しかけてきた。今私たちはアルビオンの艦艇の目撃情報を整理している。


 「そうね、西部が一番多いけど、北も南も、東のほうでもかなりの数が目撃されてるわ」


 「ゲルマニアでも襲撃があったそうですから、空は完全に抑えられてますね」

 それが現状。さすがは風のアルビオン。トリステイン艦隊はまだ製造中だし、ゲルマニアは艦隊そのものが充実してない。ただでさえアルビオン空軍は最強だと言うのに。

 だがそれよりも。


 「辺境の村々で不安と不満が高まってますね。そのうえ貴族たちは戦時特別税を割り増し徴収して、私服を肥やしている者がいたりと、国が混乱状態になりつつあります」

 頭が痛くなった。こんな時でも自分の都合しか考えない貴族たち。一体いつからこうなったんだろう? 私が知らないだけで、ずっと以前からだったんだろうか。


 「ねえ、クリス。この国の貴族たちの惨状を、ガリア人の貴女から見たらどう思うの?」

 私は思い切って聞いてみた。するとクリスの答えは意外なものだった。

 
 「そうですね、実を言うとこの国の貴族の行いは、私にとっては特別不思議なことじゃ無いんですよ。というのも、つい最近までガリアの貴族も同じようなもの、というよりもっと酷い感じでしたからね」


 「え!? そうのなの?」


 「はい、貴族の意識が変わったのはジョゼフ陛下が即位なさってからです。それまでは、陰謀と簒奪の国と言われるだけあって、国としてのまとまりがあまり無かったんです。だから”国のため、民のため”と言う意識がある貴族は少数派でしたね。大きな貴族の中には半ば独立国的なところもありましたから」


 「そう、なんだ」


 「はい、私も考古学者を目指すも者ですから、いろいろな歴史に興味があります。古代だけでなく近代も見ておかないと、歴史と言うものは分からないですからね。それで調べてみたのですけど、トリステインの貴族の意識低下が見られるのは10年前くらい前から
で、先王が亡くなってからがより酷くなってますね」

 そうだ、母様が現役の頃の話ではこんな感じでは無かったんだから。


 「クリス、あなたはどうしてそうなったと思う?」


 「やはり、治めるものが居ないからでしょうか。そしてその後に政務を行っているのが、ロマリアから来た枢機卿であることへの反発も有るかもしれませんね。なんにしても、上が居なくなると下の者は羽目を外してしまうものですから。マリアンヌ太后が女王になって、その補佐に枢機卿がつく、という形だったらもっと違ってたかもしれませんけど」

 そうなると、マリアンヌ様は王族の義務を怠った事になるんだろうか。姫様のお母様を酷くいうのは心苦しいけど。

 
 「それでも、貴族の大半がダメになってしまうものかしら」


 「人の心理として、散らかってる場所なら、ごみの一つふたつを捨てても平気に思いますが、清潔に整えられた場所には捨てられないですよね。目立ちますし、すぐ分かりますから。でも既に汚れてる場所なら「自分ひとりがやっても」と言う意識が生まれてしまう
。結果、その場所はどんどん汚れていってしまうんです」


 「つまり、今のトリステインはそういう状態なのね」


 「はい、それまでは汚す人に注意、ないし罰を与える人――つまり王様――が居ましたが、それが居なくなったことで、綺麗にしよう、と言う意識もなくなっていったんですね」

 つまり、現状を打破するには、一度大きな掃除をしなければならないということ。

 今の私ではその方法も、それをやる力も無いけど、いつかはこの国を立て直さなきゃって思う。

 
 「それにしても、平民たちの不安や不満は深刻ですよ、このままだと暴動が起こるかもしれないです」


 「そ、それは不味いわ。ただでさえアルビオン軍の事があるのに……………もしかして、これが敵の狙い?」


 「狙いの一つではあるでしょうね、軍事物資を奪いながら、相手を混乱させる。戦争では常套手段と支部長は言ってましたけど」


 「やられた方はたまったものじゃないわよ。何とかしないと……」


 「方法の一つとして、女王陛下に行幸していただくというのがありますけど」


 「姫様、いえ女王陛下に?」


 「ええ、多くの平民にとって、王様の言葉は大きいものですから効果はあると思うんですよ」


 「そうね…」

 少し前の私なら、姫様にそんなことさせられない、とか言ったかもしれないけど。今は違う。

 王宮から、トリスタニアから出て広い世界を見ることは、姫様にもいい影響があるかもしれない。今の私のように。

 
 「うん、姫様に手紙を出してみるわ。助言ありがとね」

 そういえば、ここにきてから自分の気持ちを素直に出せる様になったような気がする。クリスもそれが分かってるのか、明るく返してくれた。
 
 「いえいえ、どういたしまして♪」

 姫様への手紙はその日のうちに出した。










 「あら、クリスそれ何?」

 ある日、クリスが何やら楽しそうに小包を持って歩いてきた。


 「あ、ルイズさん、これはですね、姉さまから送られてきたものです。手紙と、リュウさんお手製のお薬なんですよ」

 薬をもらってうれしがるのはちょっと変じゃないかしら?


 「あ~なんだか変な目で見てませんか? 薬と言っても効果は色々で、お肌に良いものとか、美容に効果があるものが結構あるんですよ。よかったらルイズさんも試してみますか?」


 「うーん、どうしようかな。私あんまりそういうの意識したこと無いから」

 女としてちょっと問題あるかも。体型に関しては凄く感心あるけど。


 「確かに、ルイズさんのお肌って、張りが合って、きめ細かくてすべすべですよね。うらやましなあ。おまけに美少女ですし、声は凄く綺麗だし」

 
 「ちょ、ちょっと何を言い出すのよ」

 思わず赤面してしまう。


 「客観的事実ですよー。だからそんなルイズさんには分けてあげません」


 「べ、別にいいけど」

 それより真っ赤になった顔が戻らないのに困ってる。

  
 「でも、試したくなったらいってくださいね。女の子が常に自分を綺麗にするのは義務なんですから」


 「そうね、そうするわ。ところで、貴女のお姉さんってどんな人なの」

 
 「姉さまですか? そうですね、私と正反対の人かな、私の憧れなんです。なんていうか男勝りの人で、小さい頃から杖より剣を持ちたがっていて、よくお父様に怒られてました。それでも頑健に剣の練習して、終にはお父様も折れて今では領地の守備隊長です」

 なんという女傑。エレオノール姉さまより上かも。

 
 「そんな姉さまですから、その伴侶たるリュウさんはとても気配りが出来て、優しくて、穏やかな人なんです」

 エレオノール姉さまも、そんな人じゃないと無理そう、今までそんな出会いは無さそうだけど。私が知る限りでは心当たりは無い。


 「送られてきた薬もお義兄さんのお手製なのよね」


 「はい、もちろん美容効果のものだけじゃなくて、体調を整えるものもありますよ。今回送られてきた薬は、なんでもリュウさんのお師匠さまのタトゥス様が新しく作られたもので、兄弟子のアンリさんと言う方が送ってくれたらしいんです」


 「ふうん、やっぱり効果があるのかしら」


 「それはもちろん! リュウさんのお師匠様はガリア一の薬師と呼ばれる方ですから。酷い病気にかかったり、私みたいに生まれつき体が弱かったりした人でも、治してしまう方なんです」


 「え 」

 その言葉に私は強く反応した。

 
 「生まれつきの病気でも治せるの?」

 それなら、それならちい姉さまの病気も治せるかもしれないの?


 「はい、でもすべてを治せるわけじゃないよってリュウさんは言ってました。万能の薬は無いが、それを目指しているのがタトゥス様の信念だそうですから、いつかは治せない病気は無くなるかもしれませんね」

 いつかではダメなの、ちい姉さまにはすぐにでも良くなって欲しいの。

 
 「ねえ、貴女に送られてきたその新しい薬、少し分けてもらえないかしら」


 「ええ、いいですけど…… あ、もしかしてお姉さんにですか」


 「うん、ちい姉さまにも効くといいけど…」


 「病気そのものは治らなくても、体の調子は良くなると思いますよ。なんたってガリア一の薬師の渾身の薬らしいですから」


 「そう、すごいのねその人。やっぱり水のスクウェアなの?」


 「いいえ、タトゥス様は平民です」


 「ええ!?」

 ここに来て何度もショックを受けたが、今回はことさら大きかった。

 
 「平民…なの? 全然魔法が使えない?」


 「はい、タトゥスさまは一切魔法は使えないはずです」


 「魔法が使えないのに、高名な薬師なの?」


 「むしろ、魔法が使えないから、薬草の知識を極めたんだと思います」


 「そう、なんだ」

 
 「大丈夫ですかルイズさん、なんか具合が悪そうですよ」


 「ううん、大丈夫。ただ、ちょっと考える事が出来たの、少しはずすわね」


 「あ、ハイ。無理はダメですよ」


 「無理するようなことしようとして無いわよ」


 「そ、それもそうですね」


 「心配してくれてありがとう。でもちょっと一人で考えたいの」

 心配そうな顔のクリスを残して私は自室に向かった。

 

 クリスの話、平民の薬師が多くの病気を治しているという話を聞いて、私はしばらく考え込んだ。

 いままでどんな高名なメイジでも、ちいねえさまの病気は治せなかった。だから私も、どこかでちい姉さまは治らない、という気持

ちがあったかもしれない。

 でも、ちい姉さまと同じように、生まれつき体が弱かったクリスは、平民の薬師の作った薬で人並みに生活できるようになっている。

 じゃあ、もしかしたら、ちい姉さまの病気も治すことができるのかしら。

 私は気づかなかった。高名な水メイジがダメだといってる、というだけで治らないかもと思い込み、それ以外の方法を考えようともしなかった。

 この前来たハインツが言っていた、魔法は単なる道具で、どう使うか、どう生かすかは本人しだいだって。それで私は、たとえ魔法を使えなくても貴族たらんと心掛ければ、それは貴族と呼べるのではないだろうかという疑問を持った。

 オクターブやクリスとの会話から色々思う事があったから、その時のハインツの言葉もすんなりと受け入れる事が出来たのだ。

 だから、もしちい姉さまの病気が治るなら、それが貴族の業であることにこだわる事があるか?

 そんなの考えるまでも無い、ちい姉さまが、私の最愛の人が元気になってくれるなら、どんなものでもかまわない。平民の薬だからって理由で拒むなんてありえない。

 だけど、私はメイジの薬以外の可能性を考えようともしなかった。狭い世界の限られた知識しか知らない私は、その発想を持つ事が出来なかった。

 これではダメだ。私はちい姉さまを失いたくない。ずっと私と一緒に居て欲しい。私が死ぬまで生きて欲しいと思ってるくらいに。

 ちい姉さま、私を誰よりも理解してくれる人、誰よりも私を優しく包んでくれる人、誰よりも愛しい人。

 私は貴女を助けるためなら、どんな事でもしてみせます。




 だから、考えないと、この一月と少しでいろいろ学んだことについて。

 今までの私がしてきたこと、これから私がしたいこと、私がやるべきこと、そして私が在りたい在り方。

 まだ自分の中でそれらの答えは出ていない。だからもう少しここで頑張ってみよう。もうすこしで何かが見える気がする…

 私は小さな決意を胸に、心配顔のクリスが待つ執務室へと向かった。

 


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  あとがき

 以前から考えていたルイズ成長物語?です。男子ならぬ、女子三日会わざれば克目して見よ。


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