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No.14347の一覧
[0] ハルケギニアの舞台劇(外伝、設定集、ネタ)[イル=ド=ガリア](2010/02/22 18:09)
[1] 外伝・英雄譚の舞台袖 第一話 魔法の国(前書き追加)[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:37)
[2] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二話 ハインツという男[イル=ド=ガリア](2009/12/02 21:02)
[3] 外伝・英雄譚の舞台袖 第三話 東方出身の使い魔[イル=ド=ガリア](2009/12/02 20:42)
[4] 外伝・英雄譚の舞台袖 第四話 決闘[イル=ド=ガリア](2009/12/03 18:04)
[5] 外伝・英雄譚の舞台袖 第五話 使い魔の日々[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:11)
[6] 外伝・英雄譚の舞台袖 第六話 武器屋にて[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:11)
[7] 外伝・英雄譚の舞台袖 第七話 土くれのフーケ[イル=ド=ガリア](2009/12/06 00:13)
[8] 外伝・英雄譚の舞台袖 第八話 破壊の杖[イル=ド=ガリア](2009/12/07 16:32)
[9] 外伝・英雄譚の舞台袖 第九話 平民と貴族 そして悪魔[イル=ド=ガリア](2009/12/08 19:46)
[10] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十話 気苦労多き枢機卿[イル=ド=ガリア](2009/12/08 19:44)
[11] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十一話 王女様の依頼[イル=ド=ガリア](2009/12/09 16:31)
[12] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十二話 港町ラ・ロシェール[イル=ド=ガリア](2009/12/11 21:40)
[13] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十三話 虚無の心[イル=ド=ガリア](2009/12/13 15:25)
[14] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十四話 ラ・ロシェールの攻防[イル=ド=ガリア](2009/12/14 22:57)
[15] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十五話 白の国[イル=ド=ガリア](2009/12/15 21:48)
[16] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十六話 戦う理由[イル=ド=ガリア](2009/12/16 16:02)
[17] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十七話 ニューカッスルの決戦前夜[イル=ド=ガリア](2009/12/18 12:24)
[18] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十八話 ニューカッスルの決戦[イル=ド=ガリア](2009/12/20 19:36)
[19] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十九話 軍人達の戦場[イル=ド=ガリア](2009/12/22 22:23)
[20] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十話 トリスタニアの王宮[イル=ド=ガリア](2009/12/23 15:43)
[21] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十一話 神聖アルビオン共和国[イル=ド=ガリア](2010/01/01 00:03)
[22] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十二話 新たなる日常[イル=ド=ガリア](2010/01/01 22:34)
[23] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十三話 始祖の祈祷書[イル=ド=ガリア](2010/01/10 00:43)
[24] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十四話 サイト変態未遂事件[イル=ド=ガリア](2010/01/15 12:32)
[25] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十五話 宝探し[イル=ド=ガリア](2010/01/27 18:31)
[26] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十六話 工廠と王室[イル=ド=ガリア](2010/02/01 16:53)
[27] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十七話 灰色の君と黒の太子[イル=ド=ガリア](2010/02/03 17:07)
[28] 外伝・英雄譚の舞台袖 第二十八話 揺れる天秤[イル=ド=ガリア](2010/02/18 17:11)
[29] 3章外伝 ルイズの夏期休暇[イル=ド=ガリア](2009/12/04 20:37)
[30] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   起   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:51)
[31] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   承   ■■■[イル=ド=ガリア](2010/03/07 05:15)
[32] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   転   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:53)
[33] 2章外伝  人界の闇と異界の闇 ■■■   結   ■■■[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:54)
[34] 外伝 第0章  闇の産道[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:56)
[35] 小ネタ集 その1[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:00)
[36] 小ネタ集 その2[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:00)
[37] 小ネタ集 その3[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:01)
[38] 独自設定資料(キャラ、組織、その他)[イル=ド=ガリア](2009/11/29 00:57)
[39] 設定集  ガリアの地理[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:04)
[40] 設定集  ガリアの歴史(年表)[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
[41] 設定集  ガリアの国土  前編[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
[42] 設定集  ガリアの国土  後編[イル=ド=ガリア](2009/11/29 01:06)
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[14347] 外伝・英雄譚の舞台袖 第十一話 王女様の依頼
Name: イル=ド=ガリア◆8e496d6a ID:9c94e4c9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/12/09 16:31

 さて、なんか妙なことになってる。

 なぜか王女様が夜中にルイズの部屋を訪ねてきた。理由はさっぱりわからんが、何かありそうな気がする。

 ハインツさんと出会ってからというもの、こういうトラブルの気配をなんとなく感じ取れるようになってきた。




第十一話    王女様の依頼




■■■   side:才人   ■■■




 「ああ……! ルイズ、ルイズ、懐かしいルイズ!」

 ルイズの部屋を訪れてきた王女様は、感極まった表情を浮かべ、膝をついたルイズに抱きついた。

 そういや名前なんだっけこの王女様。アンリ……なんとかだった筈。アンリ……マユだったか? いや違うな、そんなゾロアスターな名前じゃなかった。えーっと、まあいいや王女様で。


 「姫殿下、いけません。こんな下賎な場所へ、お越しになられるなんて……」

 ルイズは、相変わらず膝を着いてかしこまった顔のままだ。


 「おいおい、公爵家の三女の部屋が下賤だったら、平民の部屋はどうなんだよ? 害虫の巣か?」

 とりあえずつっこんどく。



 「ああ! ルイズ! ルイズ・フランソワーズ! そんな堅苦しい行儀はやめてちょうだい!あなたとわたくしはおともだち! おともだちじゃないの!」


 「もったいないお言葉でございます。姫殿下」

 硬く緊張しているルイズと、そんなルイズにぺっとりと張り付いている王女様。

 俺の言葉は無視されてる。


 お姫さまがルイズと友だちだって?…………って、考えてみりゃ当たり前か。

 確か、王女様の遊び相手をするのも、相当の地位がいるんだもんな。歳がほとんど同じのルイズが、遊び相手になるのも頷ける話だ。


 「やめて! ここには枢機卿も、母上も、あの友達面をして寄ってくる欲の皮の突っ張った宮廷貴族たちもいないのですよ!ああ、もうわたくしには心を許せるお友達はいないのかしら。昔馴染みの懐かしいルイズ・フランソワーズ、あなたにまでそんな態度を取られたら、わたくし絶望で死んでしまいそうよ!」

 「死ねばいいのに(ダウンタウンの浜ちゃん風に)」


 「姫殿下……」

 無視されたのが悔しかったので毒を吐いてみるが、やっぱり無視された。聞かれていたら処刑かも、って、言ってから気づいたよ、危機意識ないなあ自分。

 ルイズが、困った面持ちで顔を挙げる。それにしても、大げさな人だなこの姫さま。

 あと、小うるさい人リストに母親を入れるのはどうなんだろ? 欲の皮が突っ張った宮廷貴族と、お母さんが同じなんですか? 王女様。ちなみにミーはマミーをそうは思わないYO。


 「幼い頃、宮廷の中庭で一緒になって蝶を追いかけたじゃないの! 泥だらけになって!」

 「……ええ。お召し物を汚してしまって、侍従のラ・ボルト様に叱られました」

 ルイズが、はにかんで答えた。あれ、意外に活発なご幼少のみぎり?


 「そうよ! そうよルイズ! ふわふわのクリーム菓子を取り合って、つかみあいになったこともあるわ!ああ、ケンカになると、いつもわたくしが負かされたわね。あなたに髪の毛を掴まれて、よく泣いたものよ」

 「いえ、姫さまが勝利をお収めになったことも、一度ならずございました」

 ルイズが心外だと眉を顰め、かつ懐かしそうに口元に笑みを浮かべて言う。しかし、一度ならずってことは、ルイズの勝ち越しなんだな。流石は我が暴力主人。


 「思い出したわ! わたくしたちがほら、アミアンの包囲戦と呼んでいるあの一戦よ!」

 「姫さまの寝室で、ドレスを奪い合ったときですね」

 奪いあったのか。王女と公女なんだから、ドレスなんてよりどりみどりだろうに、なんて心のさもしい娘たちなんでしょう。なんつって。

 どうもこのおしとやかに見えたお姫さまは、幼少のみぎりはお転婆だったらしい。まあけど、とんでもなさに関しちゃ、ハインツさんが一番か。


 「そうよ、『宮廷ごっこ』の最中、どっちがお姫さま役をやるかで揉めて取っ組み合いになったわね! わたくしの一発がうまい具合にルイズ・フランソワーズ、貴女のお腹に決まって」

 「姫さまの御前でわたし、気絶いたしました」

 「そのまま死んでくれてたらよかったのに(真剣)」

 二人が顔を見合わせて、あははと笑った。


 「気絶するほど友人をぶん殴ったのか、ずいぶんアグレッシブだなおい。ルイズも、よく友達を続けたな」

 試しに王女様にもため口をきいてみるが、やはり無視された。まあ、聞かれてたら打ち首なんだろうけど、どうもさっきからスルーされてるから、つい言ってみる。


 「その調子よ、ルイズ。ああいやだ、懐かしくて、わたくし、涙が出てしまうわ」


 「なあ、王女様とどんな知り合い?」

 それでも訊いてみる。俺は諦めない。

 「姫様がご幼少のみぎり、恐れ多くもお遊び相手をと務めさせていただいたのよ」

 おお、返答があった!!  ……って嬉しがることじゃないよな。


 「でもそれって、恐れ多いのか?家柄を考えたら当然な気がするけど」

 こいつの家、公爵家だよな。貴族の価値観はよく分からんが。


 「でも、感激です。姫さまがそんな昔のことを覚えてくださってるなんて……。わたしのことなど、とっくにお忘れになったかと思ってました」

 返答があったかと思えば無視される。お嬢様とかお姫様ってのは、平民の言葉を無視する技能でもあるんだろうか?

 王女様は深いため息をつくと、ベッドに腰掛けた。


 「忘れるわけないじゃない。あの頃は毎日が楽しかったわ。なんにも悩みなんかなくって」


 「姫さま?」

 王女様の深い憂いを含んだ声に、心配になったルイズは沈んだ笑みを浮かべたその顔を覗きこんだ。

  
 「あなたが羨ましいわ。自由って素敵ね、ルイズ・フランソワーズ」


 「なにをおっしゃいます。あなたは、お姫さまでしょう?」

 「そうですよね、自由って素晴らしいですよね、暴力主人にこき使われる俺に自由はないんでしょうか? スコットランドのウィリアム・ウォレスは、処刑の瞬間まで自由を叫んだとか(映画の知識)。王女様、貴女とは友達になれそうです」


 「王国に生まれた姫なんて、籠に飼われた鳥も同然。飼い主の機嫌一つで、あっちに行ったり、こっちに行ったり……」

 王女様は、窓の外を眺めて、寂しそうに呟く。いやあ、完璧に無視された、ここまで来ると清清しいな。


 「結婚するのよ。わたくし」

 「……おめでとうございます」

 その声の調子があまりにも悲しそうで、ルイズはわずかに沈んだ声で言った。王女様がルイズに振り向き、手を取ろうとして……、何か、こっち見た。


 「あら……、ごめんなさいね。お邪魔だったかしら」


 「お邪魔? どうして?」


 「だって、そこの彼、あなたの恋人なのでしょう?いやだわ、わたくしったら。つい懐かしさにかまけて、とんだ粗相をしてしまったみたいね」


 「はい? 恋人? この生き物が?」

 「おお! 生き物扱いしてくれるのか!?」

 てっきり無機物扱いされるかと思ったぜ。


 「姫様、これは……そうですね、便利な道具です。恋人なんかじゃありません」

 やっぱり無機物扱いだった。


 「頼むから人間扱いしてくれ」


 「うるさいわよ、犬」

 犬かあ、そういえば……

 『そう、つまりその犬が君だ。洗礼を受けていない異国人はニューヨークのスラム街のゴロツキにでもなるしかないが、“公爵家のお嬢様の使い魔”ってのは、“大統領の犬”くらいのステータスだ。そこらの平民よりも断然上、ひょっとしたら国の王様やお姫様に会う機会もあるかもしれない、国家公務員の貴族ですら会えない方が多いのにな、あくまで犬としてだが』


 ハインツさんの予言は大当たりだ。だけど、最初は犬ですら無かった。無機物だった。


 「使い魔?」

 
 王女様はきょとんとした表情でこちらを見てきた。


 「人にしか見えませんが……」

 
 「人です。 姫さま」

 「な、何だと! ルイズが俺を人間扱いしてくれた!? バ、バカな! 明日この国滅ぶんじゃないか!?」

 ゴガッ! 思いっきり殴られた。効果音が凶悪です。


 「うっさいわよ、汚物」

 「あ、あの、マスター?、せめて生き物扱い……」


 「くたばりなさい、ドブネズミ」

 汚物から衛生害獣にランクアップした!! ヤッタぜ!!…………くそう。


 「ルイズ・フランソワーズ、あなたって昔からどこか変わっていたけれど、相変わらずね」

 ルイズの暴力すら流したよ。なんたるスルースキル、流石はルイズの親友、その巨乳は伊達じゃねぇな。


 「好きで使い魔にしたわけじゃありません」

 「俺だって、好きで使い魔になったわけじゃないやい」


 すると、王女様はため息をついた。(俺の言葉は完全に無視)

 
 「姫さま、どうかなさったんですか?」

 「いえ、なんでもないわ。 ごめんなさいね……、いやだわ、自分が恥ずかしいわ。 あなたに話せるようなことじゃないのに……、わたくしってば……」

 「キモイよ姫様」


 「おっしゃってください。 あんなに明るかった姫様が、そんな風にため息をつくってことは、何かとんでもないお悩みがあるのでしょう?」

 ま、察してくれっていう一種の合図だろ。最近のいじめられっ子なんかは、それを察してくれない相手に逆恨みする例もあるとか。そう考えると、ルイズは逆恨みはされないな。こういうとこはいい奴だ。

 
 「……いえ、話せません。 悩みがあると言ったことは忘れてちょうだい。 ルイズ」


 ……このお姫様、絶対に何か厄介ごとを持ちかけに来たな。けど、当然と言うか、ルイズは言う。

 
 「いけません! 昔は何でも話し合ったじゃございませんか! わたしをおともだちと呼んでくださったのは姫さまです。 そのおともだちに、悩みを話せないのですか?」

 ルイズがそう言うと、アンリエッタは嬉しそうに微笑んだ。そうなんだよな、こいつはこういう奴だ。何だかんだで義理がたい、どこまでも筋を通す。だから、魔法が使えなくても諦めず、貴族たらんとしてる。立派な奴だ。これで使い魔に優しかったらもっと立派なんだが。


 「わたくしをおともだちと呼んでくれるのね、ルイズ・フランソワーズ。 とても嬉しいわ。 ……今から話すことは、誰にも話してはいけません」

 王女様は、こちらの方をちらりと見た。

 
 「席を外そうか?」

 王女様は首を振った。


 まさか、お前は汚物だから聞かれても問題ないってことか? 流石にそんなこと言われたら自害するぞ、俺。
 

 「いえ、メイジにとって使い魔は一心同体。 席を外す理由がありません」

 よかった。汚物じゃなかった。でも、人間でもないんだね、あくまで使い魔なのね。

 
 「わたくしは、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐことになったのですが……」

 「ゲルマニアですって!」

 キュルケの国だよな、国土ならトリステインの10倍以上で、人口も1000万近くいるとか。ゲルマニアが嫌いなルイズは、驚きの声をあげる。

 
 「あんな野蛮な成り上がりどもの国に!」

 「成り上がりっつってもさあ、キュルケの家とは200年以上戦ってきたんだろ?もう充分由緒正しいと思うぞ」

 「そうよ。でも、しかたがないの。同盟を結ぶためなのですから」

 それでも無視される俺。もう慣れたさ。そして、王女様は、現在のハルケギニアの政治情報を説明した。

 

「現在、アルビオンでは貴族たちが王室に対して反乱を起こしているのです。そして、アルビオン王家はもう滅びる寸前だとか、おそらくその反乱軍はアルビオン王室を倒したのならば、すぐにでも我々トリステイン王国に侵攻してくるでしょう。それに対し、トリステインが独力だけで対抗するのは無理があります。だから、ゲルマニアと同盟を結びそれに対抗することが決まったのです。 そして、ゲルマニアが同盟を結ぶ条件として提示してきたのは、わたくしとの婚姻なのです」 


 「そうだったんですか……」

 ルイズは沈んだ声で言った。

 「ま、よくある話ですよね、小国の王女様が国を守るために、より大きな国に嫁ぐ政略結婚ってやつ」

 あれだ、日本の戦国時代はそれのオンパレードだったとか。家康だって、今川の人質だったんだもんな。無視は前提なので無遠慮に言い放つ。


 「いいのよ。 ルイズ、好きな人との結婚なんて、物心がついたときから諦めていますわ」

 「姫さま……」

 「無視しないでください、寂しいんです」

 泣き崩れる俺。分かってても寂しいものは寂しいんだって。


 「礼儀知らずのアルビオンの貴族たちは、トリステインとゲルマニアの同盟を望んでいません。 二本の矢も、束ねずに1本ずつなら楽に折れますからね」

 毛利で有名な三本の矢か。外国でも似てる話は結構あるとか。


「……したがって、わたくしの婚姻を妨げるための材料を、血眼になって探しています」

 ホントかな?


 「もし、そのようなものが見つかったら……」

 「もしかして、姫さまの婚姻を妨げるような材料が?」

 「ま、話の流れからしてあるんだよな?」

 今までの前提条件から、ため口をきく俺。


 「おお、始祖ブリミルよ……、この不幸な姫をお救いください……」

 「無理でしょ、その人6000年前に死んでるんですから」

  好き勝手言う俺。


 「言って! 姫様! いったい、姫様のご婚姻をさまたげる材料ってなんなのですか?」

 「ルイズの生首」

 ルイズは気にせず、興奮した様子でまくしたてる。うーん、これ、けっこう面白いな。


 「……わたくしが以前したためた一通の手紙なのです」

 「手紙?」

 「不幸の手紙だな」


 「そうです。それがアルビオンの貴族たちの手に渡ったら……、彼らはすぐにゲルマニアの皇室にそれを届けるでしょう」

 「どんな内容の手紙なんですか?」

 「硫黄島からの手紙」


 「……それは言えません。 でも、それを読んだら、ゲルマニアの皇室は……、このわたくしを許さないでしょう。 ああ、婚姻はつぶれ、トリステインとの同盟は反故。 となると、トリステインは一国にてあの強力なアルビオンに立ち向かわなければならないでしょうね」

 「いい気味だ」

 もうヤケクソである。


 ルイズは、王女様の手を握り締める。


 「いったい、その手紙はどこにあるのですか? トリステインに危機をもたらす、その手紙とやらは!」

 「シルフィードの腹の中、お腹すいて食べちゃいました、きゅいきゅい」

 ルイズは興奮した声を上げながら、王女様に問う。


 「それが、手元にはないのです。 実はアルビオンにあるのです」

 「あったらそもそもここに来てませんよね」

 焼き捨てりゃいいだけだ。


 「アルビオンですって! では! すでに敵の手中に?」

 「むしろガリアとかにあったらビックリだ」


 「いえ……、その手紙を持っているのは、アルビオンの反乱勢ではありません。 反乱勢と骨肉の争いを繰り広げている、王家のウェールズ皇太子が……」

 
 「プリンス・オブ・ウェールズ? おの、凛々しい王子さまが?」

 「実はそれは影武者です」

 王女様はのけぞると、ベットに体を横たえる。


 「ああ! 破滅です! ウェールズ皇太子は、遅かれ早かれ、反乱勢に囚われてしまうわ! そうしたら、あの手紙も明るみに出てしまう! そうなったら破滅です! 破滅なのですわ! 同盟ならずして、トリステインは一国でアルビオンと対峙せねばならなくなります!」

 「ざまあみろ(フリーザ調)」

 そろそろ殺されるかも。


 ルイズは息を飲む。

 
 「では、姫さま、わたしに頼みたいということは……」


 「無理よ! 無理よルイズ! わたくしったら、なんてことでしょう! 混乱しているんだわ! 考えてみれば、貴族と王党派が争いを繰り広げているアルビオンに赴くなんて危険なこと、頼めるわけがありませんわ!」

 「うろたえるな小娘ーー!!(両手を振り上げながら)」


 「何をおっしゃいます! たとえ地獄の釜の中だろうが、竜のアギトの中だろうが、姫さまの御為とあらば、いずこなりとも向かいますわ! 姫さまとトリステインの危機を、このラ・ヴァリエール公爵家の三女、ルイズ・フランソワーズ、見過ごすわけにはまいりません!」

 「よーし行って来い。骨は拾ってやる」

 散々無視されて、ぐれましたよ俺。


 「“土くれ”のフーケを捕まえた、このわたくしめに、その一件、是非ともお任せくださいますよう」

 「いや、俺も頑張っただろ。しかもアン時のMVPはロングビルさんだから」

 そしたら、久しぶりにルイズがこっちを見た。


 「あんたはわたしの使い魔よね」

 「ごもっとも」

 必殺技発動。
 

 「使い魔の手柄は主人の手柄よ」

 「ごもっとも」

 下手に出ないと多分爆破される。


 「ところで、使い魔のミスは?」

 「それはあんたのミスじゃない」

 「ごもっとも」

 泣けてくるなあ。


 「このわたくしの力になってくれるというの? ルイズ・フランソワーズ! 懐かしいおともだち!」

 「もちろんですわ! 姫さま!」

 「キモイよ、二人とも」

 再びルイズが王女様の手を握って、熱した口調で語ると、彼女はボロボロと泣き始めた。

 

 「姫さま! このルイズ、いつまでも姫さまのおともだちであり、まったき理解者でございます!永久に誓った忠誠を、忘れることなどありましょうか!」

 「ああ、忠誠。これが誠の友情と忠誠です!感激しました。わたくし、あなたとの友情を忠誠を一生忘れません! ルイズ・フランソワーズ!」

 「ついてけないんで、俺はそろそろ夜逃げしますね」

 なんかノリが凄いことになってきたなあ。
 

 「なあ、ルイズ。久々に友情を確認しているところ悪いが、ちょっといいか?」

 でも、確認事項がある。


 「なによ」

 「戦争やってるアルビオンに行くのはいいけど、どうせ色々やるのは俺なんだろ、盾になったり弾よけになったり囮になったり」

 俺の役割なんてそんなもんだ。


 「あんたに剣買ってあげたでしょ、それくらいしなさいよね」

 「あの店主、首吊ってないかな?」

 「………………多分、平気よ」

 ルイズの声が曇る、けっこう気にしてるみたいだな。その気配りを一割でもいいから俺にもプリーズ。

 
 「アルビオンに赴きウェールズ皇太子を探して、手紙を取り戻してくればよいのですね? 姫さま」

 かなり無茶な指令だと思うぞ。いやでも、竹竿と布の服で『魔王を倒せ』なんて言った挙句、やられたら『死んでしまうとは何事か』とか言って再度送り出す、むしろお前が何事だよ、ってツッコミたくなる某ゲームの王様に比べれば天使かな。見た目は天使っぽく可愛いし。

 そにしても、親友のためには火の中水の中、戦場の中にまで行こうとするとは。ルイズ・ヴァリエール、侠に生きる女ここにあり。


 「ええ、そのとおりです。“土くれ”のフーケを捕まえたあなたたちなら、きっとこの困難な任務をやり遂げてくれると思います」

 「一命にかけても。急ぎの任務なのですか?」

 「俺は一命にかけません、死なない程度にします、いざとなったら逃げます。主人を置いて」

 どさくさに紛れて予防線を張っておく。前提条件に依れば無意味だが。


 「アルビオンの貴族たちは、王党派を国の隅っこまで追い詰めたと聞き及びます。敗北も時間の問題でしょう」

 「早速明日の朝にでも、ここを出発いたします」

 「のんびり行こうぜ、おやつは300ドニエまで?」

 王女様のブルーの瞳が、こちらの方を見つめてた。やばい、散々悪口いってたこと、いいかげん気付かれたか?


 「頼もしい使い魔さん」

 「俺?」
 
 どうやら違った。


 「わたくしの大事なおともだちを、これからもよろしくお願いしますね」

 「期間限定雇用契約にしてほしいんですけど、いつかは東方に帰りたいんで」

 そう言って、王女様は手の甲を上に向けて、すっと左手を差し出した。前提条件どおり、全く俺の話聞いてねえな。

 すると同時に、ルイズから驚きの声が上がる。

 
「いけません! 姫さま! そんな、使い魔にお手を許すなんて!」

 お手? 王女様まで犬扱い?


「いいのですよ。 この方はわたくしのために働いてくださるのです。 忠誠には、報いるところがなければなりません」

 手を差し出されるということは………………あれか!

 俺は差し出された手をがっしりと握り返す。これで、今日から僕達は友達だ!

 さあ、友情の物語はここから幕を開け……「何やってんのよ、あんた」なかった。


 「いや、ここは握手から始まる、熱い友情の物語かなあと」


 「何で姫様とあんたの間に熱い友情が発生するのよ」

 呆れられた。『男と女の間に友情はあり得ない、情熱、敵意、崇拝、恋愛はある――しかし友情はない』なんて事はないんだよ、オスカー・ワイルドは嘘つきなんだよ。


 「……えーと、ちょっと待ってて」

 俺は藁束で出来たマイハウスに向かう。三匹の子豚の長兄に倣って建てたのだ(犬小屋を一回り大きくしたサイズ)

 “ハインツブック”を取り出し、貴族の章をめくる。


 「えーと、礼儀礼儀……」

 そして、該当項目を発見。王女様のところに戻る。


 「なあルイズ、手の甲にキスすりゃいいんだよな?」


 「私に聞くんだったら最初から聞きなさいよ」

 それもそうだ。


 「なかなか変わった使い魔なのね」

 なんか、王女様に感心された。いやあ、貴方たち程ではないですよ。俺にはそんな華麗なスルーは出来ません。


 「東方出身なものでして」

 「まあ! 東方出身ですの?」

 しかも驚かれた。ま、とりあえず王女様の手の甲に、自分の唇をつける。

 
 「いつかは暴力主人のルイズの下から逃げだし、東方の故郷に帰ることをお約束いたします。王女様」

 ぼろくそ言う俺。そして華麗にスルー、これはもはや様式美。

 そのとき、いきなりドアが開いて、誰かが飛び込んできた。

 
 「きさまーッ! 姫殿下にーッ! なにをしているかーッ!」

 
 飛び込んできたのは、キ○ガイもとい、恐怖二股男のギーシュ・ド・グラモンだった。


 「どしたん? お前」

 「ギーシュ! あんた! 立ち聞きしていたの? 今の話を!」

 憤慨するルイズ。むしろ男子がここに居るだけで怒られそうだが、ここ女子寮で、今は夜。俺? 俺は使い魔、人間じゃないのSA! ……畜生。


 「薔薇のように見目麗しい姫さまのあとをつけてみればこんな所へ……、それでドアの鍵穴からまるで盗賊のように様子をうかがえば……、平民などにお手を……」

 どうでもいいが、こいつホントに貴族か? あと、この王女様は薔薇って感じじゃない、花の種類はわかんねぇけど、百合かなあ。


 「決闘だ! バカチンがぁあああああ!」

 ギーシュが手に持った薔薇の造花を振り回しながら襲い掛かってきた。それに合わせて、カウンターの一撃をギーシュの顔に叩き込む。


 「あがッ!」

 「決闘? マリコルヌの二の舞にしてやるぜ!」

 倒れたギーシュをの上に乗っかる。マウントポジションゲットだぜ。ちなみに、“メリケンサック”はポケットに持ち歩いてるので、いつでも“身体強化”は発動できる。


 「ひ、卑怯だぞ! こら! いだだだ!」

 「で、どうしますか? こいつ、姫さまの話を立ち聞きしていましたけど。 口封じとかするんですか?」

 どうしても扱いがぞんざいになる。だって、ほら、ギーシュだし。


 「そうね……、今の話を聞かれたのは、まずいわね……」

 処刑決定か。怖や怖や、王族は恐ろしい。あと俺からの言葉に姫様が反応したのって、もしかしてこれが初めて?

 ところが、ギーシュが喚く。


 「姫殿下! その困難な任務、是非ともこのギーシュ・ド・グラモンに仰せ付けますよう」
 

 「え? あなたが?」

 
 「お前、その体制で大声出されると、凄いうるさいんだが」

 さらに体重をかけようとした時。

 
 「ぼくも仲間に入れてくれ!」


 「なんで?」

 なんとギーシュが立ち上がり、仲間にして欲しそうな目で見ています。仲間にしますか? はい/いいえ。

 
 「姫殿下のお役に立ちたいのです……」

 そんな事を言うギーシュに、俺は小声で話しかける。

 
 「おい、もしかして姫さまに惚れたのか?」

 何しろこいつは女好き。


 「失礼なことを言うもんじゃない。 ぼくは、ただただ、姫殿下のお役に立ちたいだけだ」


 そんな事を言うが、姫殿下を見るたびに顔を赤くし、熱っぽい視線を送っている時点で惚れているのがバレバレなんだが……。


 「お前、彼女がいなかったか? 確か、モンモンだっけ?」


 「モンモランシーだ!」

 そういやそうだった。


 「フラれたのか?」

 「う、うるさい!」

 むきになって反論するところを見ると、振られたのか。その話題には触れないほうがいいな。


 「グラモン? あの、グラモン元帥の?」

 王女様は、きょとんとした表情でギーシュを見つめる。


 「息子でございます。 姫殿下」

 ギーシュは素早く立ち上がると、一礼をする。


 「あなたも、わたくしの力になってくれるというの?」

 王女様は「はい」を選択したようだ。


 「任務に一員に加えてくださるのなら、これはもう、望外の幸せにございます」

 「俺にとっちゃ不安なんだけどな」


 「ありがとう。お父様も立派で勇敢な貴族ですが、あなたもその血を受け継いでいるようですね。ではお願いしますわ。この不幸な姫をお助け下さい、ギーシュさん」

 「世の中で不幸と呼べる者は、己が不幸であることを自覚していない者だ、って偉い人が言ってたような」


 「姫殿下がぼくの名前を呼んでくださった! 姫殿下が! トリステインの可憐な花、薔薇の微笑みの君がこのぼくに微笑んでくださった!」

 ギーシュは感激のあまり、後ろにのぞけって失神してしまった。そして例によって俺はスルー。


 「ルイズ、こいつを連れて行って大丈夫か?」

 ルイズはそんな問いを無視して、話を進める。ここもスルーなのね。

 
 「では、明日の朝、アルビオンに向かって出発するといたします」


 「ウェールズ皇太子は、アルビオンのニューカッスル付近に陣を構えていると聞き及びます」


 「了解しました。 以前、姉たちとアルビオンを旅したことがございますゆえ、地理には明るいかと存じます」

 「一回だけ? もの凄い不安なんだけど」

 それって、あんまし知らないってことだろ。


 「旅は危険に満ちています。 アルビオンの貴族たちは、あなた方の目的を知ったら、ありとあらゆる手を使って妨害するでしょう」

 「やっぱやめようぜ」

 王女様は机に座ると、ルイズの羽ペンと羊皮紙を使って、1通の手紙をしたためた。彼女はその手紙をしばらく見つめている。

 人には限界がある。あんまり無視が続くと、そろそろ泣きたい。これなんてイジメ?


 「姫さま? どうかなさいましたか?」

 
 「な、なんでもありません」

 
 王女様は小声で何かを呟きながら、手紙に一文を付け加えた。そして、書いた手紙を巻いて、杖を振るう。すると、巻いた手紙に封蝋(ふうろう)がなされ、花押が押された。

 その手紙を、ルイズに手渡す。

 
「ウェールズ皇太子にお会いしたら、この手紙を渡してください。 すぐに件の手紙を返してくれるでしょう」

 それから王女様は、右手の薬指から指輪を引き抜く。

 

 「母君から頂いた『水のルビー』です。 せめてものお守りです。 お金が心配なら、売り払って旅の資金にあててください」

 「いや、ルイズって公爵家の三女ですよね? お金なんか余ってるでしょ」

 ルイズは『水のルビー』を受け取ると深々に頭を下げた。

 
 「この任務にはトリステインの未来がかかっています。 母君の指輪が、アルビオンに吹く猛き風から、あなたがたを守りますように」

 「その母君、さっきはうっとおしがってた気がするんだけど、もの凄い御利益なさそうだよね?」

 こうして、アルビオンに赴く事になった俺たちだった。

 

 

 







 で、現在出発準備中。馬の準備をしながら、俺も荷物を確認する。

 といっても、デルフくらいしかないんだけど、フーケ退治でオスマンさんにもらった100エキューのうち、30エキューほど持って来た。旅行に行くんだから、万が一迷子になったときに自分で戻れるくらいの金は持っとかないとな。ルイズもいつもの制服姿に加えて乗馬ブーツを履いてる、かなり長時間馬に乗るんだろう。


 「お願いがあるんだが…」

 そ、そこでギーシュが困ったように言う。

 「なんだ、ギーシュ。 お前も低血圧か?」

 ルイズを朝早く叩き起こしたのは当然俺である。


 「ちがう! そうじゃなくて、ぼくの使い魔を連れていきたいんだ」


 「あんた、使い魔いたの?」


 「いるさ。 当たり前だろ?」


 「いなくてもいいなら俺は召喚されてないよな。進級試験だったから俺は使い魔にされたんだから」

 そうじゃなきゃギーシュは落第だろ。


 「連れていきゃいいじゃねぇか。 なぁルイズ」


 「そうだけど。 けど、どこにいるの?」


 「ここ」

 同意を求める俺に、ルイズがそう答え、ギーシュに聞くと、ギーシュは何もいない地面を指差した。


「いないじゃないの」

 ルイズが、すました顔で言った。すると、ギーシュは、にやっと笑うと足で地面を叩く。 すると地面が盛り上がり、茶色の大きな謎の生物が顔を出した。ギーシュは膝をつくと、その生物を抱きしめた。


 「ヴェルダンデ! ああ! ぼくの可愛いヴェルダンデ!」

 その光景に俺は、あからさまに引いていた。


 「また、えらくファンシーなのが出てきたな。えーと、なにこれ」


 「なんだそれ、などと言ってもらっては困るな。 ぼくの可愛い使い魔のヴェルダンデだ」


 「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」


 ジャイアントモール…果たして、謎の生物の正体は巨大モグラだった。んー、“ハインツブック”にそういや載ってたな。


 「そうだ。 ああ、ヴェルダンデ、君はいつ見ても可愛いね。困ってしまうね。 どばどばミミズはいっぱい食べてきたかい?」

 巨大モグラは、嬉しそうに鼻をひくつかせる。


 「そうか! そりゃよかった!」

 ギーシュはヴェルダンデに頬を摺り寄せる。つまり、モグラの言葉がわかるってことは、“他者感応系”がこのモグラには刻まれてんだな。


 「ねえ、ギーシュ。 ダメよ。 その生き物、地面の中を進んでいくんでしょう?」


 「そうだ。 ヴェルダンデはなにせ、モグラだからね」


 「そんなの連れて行けないわよ。 私たち馬で行くのよ」

 ルイズは困ったように言った。



 「結構、地面を掘って進むの速いんだぜ? なあ、ヴェルダンデ」

 巨大モグラは、ギーシュに賛同するように、うんうんと頷いた。うーん、意外に愛嬌あるなあ、ペットとして人気出るかも。シルフィードもフレイムも結構愛らしいんだよなあ。


 「わたしたち、これからアルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れて行くなんて、ダメよ」

 そういや浮遊大陸だったっけ。ブック曰くでかいラピュタ。ルイズがそう言うと、ギーシュは地面に膝をついた。



 「お別れなんて、つらい、つらすぎるよ……、ヴェルダンデ……」

 そのとき、ヴェルダンデが鼻をひくつかせながらルイズに擦り寄る。


 「な、なによこのモグラ」


 ヴェルダンデはルイズに擦り寄ると、いきなりルイズを押し倒し、鼻で身体をまさぐり始めた。ヴェルダンデは、大きさが小さい熊ほどもあるため、ルイズの力では押しのけることができない。



 「主人に似て、女好きなのか?」


「ふざけたこと言ってないで助けなさいよ!!」

 ヴェルダンデは、ルイズの右手の薬指に光るルビーを見つけると、そこに鼻を擦り寄せた。ルビーは前日の夜、アンリエッタがお守りとしてルイズに渡した『水のルビー』だった。


 「この! 無礼なモグラね! 姫さまに頂いた指輪に鼻をくっつけないで!」

 それを見たギーシュが頷きながら呟いた。


 「なるほど、指輪か。 ヴェルダンデは宝石が大好きだからね」


 「どんなモグラだよ」


 「ヴェルダンデは貴重な鉱石や宝石をぼくの為に見つけてきてくれるんだ。 『土』系統のメイジのぼくにとって、この上もない素敵な協力者さ」


 「くおらー! 貴様らー! さっさと助けんかーー!」

 恐るべき形相をしながら叫ぶルイズ。


 「助けた方が良いぞギーシュ、あのままじゃ哀れヴェルダンデは爆破される」


 「そ、それは大変だ! ヴェルダンデ! 今助ける!」

 ルイズじゃなくて、あくまでモグラを助けに行くギーシュ。そこに。

 ブオオオォォォ!

 なんか突風が吹いて、ヴェルダンデと、走り込んでヴェルダンデを助けようとしてたギーシュが吹っとんだ。


 「おわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 「モグモグ――――――――――――――――――――――――――――!」

 宙に舞う一人と一匹。


 「ヴェルダンデ! 待ってろ!」

 メリケンサックを着けて“身体強化”を発動させて、ヴェルダンデの落下地点に向かう。


 「キャッチ!」


 「モグモグ」

 救出成功。結構重いけど、今の俺なら大丈夫。


 「ぐぶっ」

 その横で、そのまま地面に叩きつけられるギーシュ。


 「おい、だいじょぶかよ、生きてるか?」


 「あ、ああ、なんとか、しかしだねサイト、ヴェルダンデを助けてくれたのは嬉しいが、問答無用で僕を無視するのはどうかと思うんだが……」


 「いや、お前、『フライ』で飛べるだろ、ルイズじゃないんだから」


 「へー、いい度胸ねえ?」

 後ろを向くと、怒れる魔人がそこにいた。


 「申し訳ありません、マスター・ルイズ、貴女様の爆発はまさに無敵、ダークサイドの前に敵はありません」

 混乱してるから弁解が無茶苦茶になってる。


 「ダークサイドって何よ?」


 「ええーと、俺の国に伝わる秘術で、手から電撃を放ったり、『レビテーション』を家単位でやったり、最高になると、生命を自在に作り出せるとかなんとか」

 間違いじゃないよな、銀河皇帝がかなり重そうな議会の席を次々にぶん投げてたし。


 「それが私と何の関係があるのかしら?」


 「いえ、ダークサイドを扱える方は我が国の皇帝とされてまして、御主人さまのあまりの偉大さ故に、ついつい皇帝陛下と間違えてしまったのですよ」
 
 保身のためならどこまでも卑屈になる俺。秀吉にあやかろう。


 「そう、じゃあ、昼食抜きで済ませてあげる」


 「ごもっとも」

 よかった、今回は金があるから自分で購入できる。ありがとう、オスマンさん。


 「いやーそうだった。僕は『フライ』を使えるんだったっけ」

 そしてアホな貴族がここに一人。


 「お前、メイジだろ?」


 「うーん、だけど僕は「土のドット」だから、一応風系統になる『フライ』は学年でも下から数えたほうがいいくらいだ。逆に、一番早いのはタバサだね」


 「おお、シャ…タバサって凄いんだな」

 流石はハインツさんの妹。


 「しかし、凄い突風だったわね」

 ルイズが感想を述べる。


 「そうだな、この辺じゃあんな突風が吹くのか?」


 「うーん、たまにあるんじゃないかな?メイドの子が貴族のシーツが飛ばされて、このままじゃ怒られるとかで嘆いてたことがあった。そこに僕が颯爽と登場して、『別に、君のせいじゃない、君のかわいさの前にはそのようなことはささいなことさ、そう、その顔はまさに薔薇のように……」

 「もういい」

 「黙りなさい」

 駄目だしする俺達。


 「くすん、ヴェルダンデ、僕の味方は君だけだよ」


 「モグモグ」

 モグラに抱きつくギーシュ。


 「はいはい、アホなことやってないで出発するわよ、急ぎの任務なんだから」


 「GOOD LUCK!」


 「あんたも来るのよ!」


 「ちっ、ばれたか」

 飛んできた拳を避けながら呟く、けっこう鋭い。良く見るとグーじゃなくてチョキだ、そして目を狙ってきやがった。なるほど、これなら非力なルイズでも、大ダメージを与えられる。流石は学年主席、良く考えてる、でももう少し穏やかなことに使って欲しい。


 「よーし!姫様のおんため、このギーシュ、頑張るぞ!いざ、手紙を取り返しに!」


 「密命を堂々と大声で言うんじゃないわよ!」

 再びルイズの目潰しが飛んだ。


 「がふっ」

 慣れてないギーシュはあっさり撃沈。目を押さえてのたうつ。哀れ。


 「ったく、さっさと行くわよ」


 「いや、ギーシュ、倒れてるけど」


 「あんたが引張って来なさい」


 「ごもっとも」

 荷物みたいに持つか、ほら、やっぱギーシュだし。



 「あの、君達?さっきから僕を意図的に無視してないかね?」

 そしたら、何かいじけた感じの声がした


 「おっさん誰?」


 「おっさ……」


 「ワルド様!」

 ルイズが驚く。ああー、そういえば、ルイズの伯父さんだったっけ。


「すまない。 婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬ振りができなくてね」


「婚約者!?」

 マジで!? ビックリだ!


「ワルドさま……」


「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」


「お久しぶりでございます」

 ワルド某は人なつっこい笑みを浮かべると、ルイズに駆け寄り、抱き上げた。ルイズは頬を染めている。


 「相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」

 「……お恥ずかしいですわ」

 体格差を考えればそりゃ  軽いだろうなあ、なんて客観的に思ったりする。しかし。


 「えー! 婚約者って、近親相姦? 犯罪じゃね?」

 それ以前にロリコンだ!


 「は?」


 「何?」

 疑問を浮かべる二人。


 「あれ? おっさん、ルイズの伯父さんじゃなかったけ?」


 「伯父……」


 「誰がそんなこと言ったのよ」

 ああ、ん? そういや、誰も言ってないな。


 「悪い、勘違いだった。あんまり歳が離れてるみたいだから、従兄妹には見えなくて」


 「別に親戚じゃないわよ、その先入観を捨てなさい」

 そうか、他人なのか。

 「ごめん、悪かった、おっさん」


 「……………彼らを、紹介してくれたまえ」

 何か元気ない、悪いこと言ったかな? おっさんはルイズを地面に下ろすと、再び帽子を目深にかぶって言った。

 
 「あ、あの……ギーシュ・ド・グラモンと、使い魔の犬です」


 「おーい、紹介する時くらい名前で呼んでくれ」

 それ以前に人間扱いしてくれ。


 「ま、間違えました、えーと、使い魔の雑巾です」

 さらに格下げ。こいつ、わざとやってないか? 泣き崩れる俺。


 「る、ルイズ、彼は人間だろう、雑巾扱いは流石に酷いんじゃないかな?」

 見かねたおっさんがルイズに注意してくれた。いい人だ! ロリコンだけど。


 「そ、そうでした、えーと、東方出身の使い魔のサイトです」


 「頼むから最初からそう言ってください、マスター・ルイズ」

 身内っぽい人の前なんで一応そう言う。


 「ま、まあとにかく、ぼくの婚約者が世話になっているよ」


 「はい、大変で大変で、いっつも俺に暴力振るって、少しでも逆らうと食事を抜かれるんです。何とか言ってやって下さいよ」

 権力者に媚びる俺。救いの手と見れば何にでもしがみ付いてやるぜ。


 「あんた! 有ること無いこと言うんじゃないわよ!」


 「いや、全部有ることだろ」


 「よし、行こうかヴェルダンデ」


 「モグモグ」

 いつの間にかギーシュも復活。



 「それより、急ぐんだろ?」

 話題を変える、このままだとまたルイズに吹き飛ばされそうだ。


 「ああ、そうだな」

 おっさんはひらりとグリフォンに跨ると、ルイズに手招きした。


 「おいで、ルイズ」

 ルイズは少し躊躇うようにして、俯くと、しばらくの間モジモジとしていたが、おっさんに抱きかかえられて、グリフォンに跨る。そしておっさんは手綱を握り、杖を掲げて叫んだ。



 「では、諸君! 出発だ!」

 「行ってらっしゃい! アルビオン土産よろしく!」

 「あんたも来るのよ!」

 ルイズの爆発が叩き込まれた。咄嗟に避ける。


 「ぎゃああああ!」

 「モグモグ!」

 代わりにふっ飛ばされるギーシュとヴェルダンデ。


 「ヴェルダンデ! 待ってろ!」

 もっかい“身体強化”を発動させて、ヴェルダンデの落下地点に向かう。


 「キャッチ!」

 「モグモグ」

 救出成功。


 「今度こそは華麗に着地!」

 ギーシュも着地する。


 「お見事」


 「それほどでもないさ」

 握手する俺達。ここに、俺達の熱い友情の物語が始まった。今回はマジで。


 「ところで、ルイズとあの髭の誰かはもういっちゃったね」


 「そうだな、帰るか」


 「いや、そうしたら君は絶対ルイズに殺されるよ?」


 「だよなあ、哀れなるは使い魔の身だなあ、いつかは独立を夢見て出発~」

 死ぬほどモチベーションが低い俺達だった。











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 ヴェルダンデの鳴き声を勝手に設定。不評なら変えます。


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