////6-1:【大事なものを】
きゅいきゅい、と空の旅は続く。
「で、タバサ。これから何処へいくの?」
「南西へ300リーグにある村」
「ふーん、何の用事か聞いていい?」
「……怪物退治」
ルイズはそれを聞き、やっぱそれなりの事情あってこその『例の占いの結果』だったのだと納得した。
「タバサ、あなたって正義のヒーローか何かなの?」
「……違う」
「そう、じゃあその辺の事情は聞かないでおくわ。それにしても寒っ! ……へ、へ、へぷちっ!」
ルイズがくしゃみをする。無理も無い、先ほどの雨のせいで気温が下がっている。湿った服も、乾かさなければならないだろう。
「……今日の用事は終わった、途中の村で宿をとる」
「そうしてほしいわ」
タバサは申し訳なく思いつつ、シルフィードへと指示を出す。
しばらく飛んでから降りた村は小さな農村で、村も平民用の宿しかない。想像通りの、古くくたびれた安宿だ。
「……ま、これでも私の『幽霊屋敷』よりはマシなのよね」
「…………」
普段から物置小屋に寝泊りしているルイズは気にしないし、タバサは無言。文句ひとつ言わない。
村人も(ついでに浮遊する幽霊たちも)朴訥な人柄で、真夜中の来訪にも暖かく迎えてくれた。
二人仲良くほかほかと平民用のサウナで温まり、かるく夜食を取る。
「あらおいしい、トリステインには無い味ね」
「はしばみ草のサラダもお勧め」
「……遠慮しておくわ」
「残念」
はしばみ草の独特な苦味は、ルイズの口にはどうも合わないようだ。
子供のときから苦手としており、食堂で出されたとしても、大抵の場合は残していたものだった。
「ねえタバサ、ちょっとあなたの杖を見せてくれる?」
「?」
ベッドに入る前に、ルイズがタバサに尋ねた。
無表情だが、それでも目に怪訝な色を浮かべ、タバサが杖をルイズに手渡した。
節くれだった、大きな杖である。
- - -
タバサの杖(Tabasa's Magic Staff)
ノーマルアイテム:ナールドスタッフ(Gnarled Staff)
メイジ専用アイテム
装備必要値:なし 耐久力:35
攻撃ダメージ 4-12
+1 ウォーターマスタリー
+2 ウインドマスタリー
シャルロット・エレーヌ・オルレアンにパーソナライズされている
オルレアン公の依頼を受けたナズラにより製作された
ソケット:4
- - -
杖はミョズニトニルンにとってマジックアイテム扱いになるのか? そうでないのか?
ノーマルアイテムなのに額のルーンが反応した、その辺は魔法の杖だから、とルイズは深く考えないことにする。
(クラス専用アイテムは『<ルーン>が発動可能』なのだが、ルイズはそのあたりの事情を知らない)
……タバサには本当に申し訳ないことに余計な事も見えてしまったが、そっちも深く考えないことにする。
「この杖、作った人、天才よ……今はどこにいるのかしら」
「わからない、父がくれたもの」
「へぇ、大事なものなのね」
じーっとそれを見つめていたルイズは、怪しい笑みを浮かべた。
何を思ったのか、おもむろにルイズは杖頭の根元に巻かれた布をべりべりと剥がしはじめた。
大事な杖を壊されて、タバサは焦りに焦った。
「な、何をするの」
「ほら、あった……これを見て」
「……これは……穴?」
珍しく表情を浮かべルイズに掴みかかったタバサが、しばらくは杖を取り戻そうとしていたが、愛用の杖に隠された見覚えのないそれ、四つの小さな窪みを見せられて、軽く目を見開いた。
「どうして騎士様がわたしにこの石を渡したのか、気になってたんだけど、今確信したわ。
……たぶん普段会うことのない同僚……あなたへのご挨拶だったのよ」
「どういうこと?」
ラックダナンと面識の無いタバサはルイズの言葉の意味が判らない。ただ、なんとなく悪い予感がする。
「タバサ、頼みがあるわ」
「……」
悪い予感はますます強くなり、冷や汗がタバサの背筋を伝う。
「この杖、改造させて」
――ほら来た!! 予感は当たり、タバサの顔が髪と同じくらいに青くなる。
「だ、駄目」
「お願い!」
「嫌」
「強くなるわ!」
「……でも、それは大事な」
「あなたの思い出の杖、でしょう?」
「!!」
ルイズはミョズニトニルンの導きに従って、魔力の順番を間違えないように、
取り出した4つの小石を、『タバサの杖』のくぼみ(ソケット)へとはめ込んでいく。
――Lum + Io + Sol + Eth
杖が発光する。火の文字が杖にルーンを刻みつける。
これでいい。タバサの後ろの『お父様』の幽霊も、とても優しい色、喜びの色をしている。
5年越しのプレゼントをやっと娘に手渡せる、そんな顔をして笑っている。
どこかで見た顔……確か幼いころのトリステイン王家の園遊会で見た、ガリアの王弟オルレアン公だ。
部屋の中が光に包まれ、<ルーンワード>が完成する。
「これが、あなたのお父様からの贈り物、『思い出』よ」
ルイズは最初に剥ぎ取った布をしっかり巻きなおしてから、
茫然自失とした様子のタバサへと、杖を手渡した。
- - -
タバサの思い出の杖(Tabasa's Magic Staff<Memory> of Orleans )
<メモリー>
LumIoSolEth (ルム + イオ + ソル + エス)
ルーンワード発動アイテム:ナールドスタッフ(Gnarled Staff)
メイジ専用アイテム 攻撃ダメージ 4-12
必要レベル:37 耐久力:35 ソケット4使用
+3 全メイジスキルレベル
+1 ウォーターマスタリー
+2 ウインドマスタリー
33% 呪文詠唱の速度上昇
+20% 最大精神力上昇
+3 エナジー・シールド
+2 スタティック・フィールド
+10 、エナジー上昇
+10 、バイタリティ上昇
+9 最大ダメージ上昇
-25% 攻撃目標の防御力
魔法ダメージ低減: 7
+50% 防御力強化
シャルロット・エレーヌ・オルレアンにパーソナライズされている
オルレアン公の依頼を受けたナズラにより製作された
ゼロのルイズにより完成した
- - -
タバサは受け取った杖の感触に戸惑う。
突然体が軽くなり、嘘みたいに体中に力が満ち溢れるのだ。杖への精神力の通りも、今までとは段違いだ。
「……これが、私の杖」
「そうよ、どう?」
「……」
タバサは喜び、呆れ、悲しみ、懐かしさ、その他沢山の感情に押し流される。
封印してきた感情が、溢れそうになる。
「父様の、匂いがする」
そう言ってタバサは静かに目を閉じ、感触を確かめるように二度三度振ってみる。
最大精神力や呪文の詠唱速度が上がっていることに、再び驚く。
「気に入ってくれたようね」
「……」
「よかったわね、これであなたが生き延びる確率は、かなり上がったと思うわ……」
満足そうな顔をしたルイズが、「……じゃ、寝ましょう」と布団に入ろうとしたとき。
「よくない、ずるい」
「えっ?」
タバサがぽつりと告げた言葉に、ルイズはきょとんとする。杖を振りかぶるタバサが視界に写った。
―――ガツン!!
ルイズの防御力の25%が無視され、9のダメージが上乗せされた。
「痛あ!!」
目に星が飛び、ルイズは頭をかかえた。
「ひどい、わたしは嫌だと言ったのに」
「で、でも……」
「あなたは無理やりにハメこんだ」
「な……ごめんなさいタバサ! でも私はあなたのことが……」
「わたしも良かったけれど、それとこれとは別」
「興奮してたのよ…」
「それに私から大事な初めての機会を奪った」
「た、確かにそうね! ちゃんと双方納得の上で、あなたにしてもらうべきだったわ」
「あなたは責任をとるべき」
「そ、そうね……考えておくわ」
二人の部屋では、このような会話が繰り広げられていた。
もし誰かが予備知識なしで聞くとかなりヤバイ会話であろう。
「あなたには相応の罰を受けてもらう」
「う……」
「……でも、礼を言う、ありがとう」
「……ごめんね」
ちなみにタバサからルイズに与えられた恐るべき罰とは、
「これから一生、食事に出されたはしばみ草は残さず食べる」
というものであった。
次の日の朝食で、ルイズは文字通りの『苦笑い』をしながらサラダを頬張った。涙目である。
////6-2:【魔物退治】
『その村の近くの廃墟の地下には、沢山の魔物が巣食っている』
この知らせを受けたガリアの地方領主は、騎士を差し向けた。
いままで二人のラインを含む5人ものメイジが討伐に向かったが、誰一人帰ってくることはなかった。
領主は十三人からなる傭兵の討伐隊を派遣したが、一日たっても音沙汰が無い。
ゆえに、このような仕事を請け負うプロ、北花壇騎士団7号『雪風のタバサ』の出番となったわけだ。
戦力の逐次投入は戦術として最大の愚、トライアングルメイジのタバサとはいえ、一人で向かうのは酷である。
だがしかしタバサは、己もまた『捨て駒のひとつ』であることをよく理解していた。
「きゅいきゅい」
「……村の様子がおかしい」
「本当だ……あれは煙? まさか!!」
シルフィードに乗ったタバサとルイズが見たものは、燃え盛る火、うごきまわる2~30匹ほどのオーク鬼たちの群れだ。
一匹の戦力が熟練した戦士五人に匹敵するというオーク鬼である。
情け容赦のない襲撃、家々は壊され、火が放たれ、逃げ惑う人々が次々と屠られていくのが見える。
「……な、何よこれ」
「……」
「私たちがもう少し早くついていれば……」
「無理」
タバサは無表情に告げる。それは慰めではなく、現実的な判断だった。
ルイズは目下の光景に悲しく苦々しい表情をした。
『例の夢』のなかで地獄を体験してきたとはいえ、実際に生命の蹂躙が目の前で起こっているのを見るのはつらい。
この場所は悲しみと苦悶の霊に満ちている。
「タバサ、私たちがやることは?」
「怪物退治」
「指示をお願い、作戦は?」
ルイズは実践慣れしているタバサをリーダーとし、その指示に従うことにした。
タバサは目下の地形を頭にいれると、頭を回転させる。
「何ができる?」
「爆発、毒、放火、その他少々特殊な魔法よ……私自身が動くのはあまり得意じゃないかしら」
「自分の身を守れる?」
「少しならね、一発や二発なら耐えられるわ」
タバサは少し考えたあと、作戦を口にする。
「―――最初、上空から爆撃、毒撃、次に炎で足止め」
「上策ね」
「それから地上に降り、私が前衛、あなたが援護。そこの広場から出る道で陣をかまえる、村人を逃がす」
「オーケー」
ルイズはにやりと笑い、『イロのたいまつ』でオークたちの頭上へと火の粉を降らせていった。
この場所を飲み込む大きな運命の流れを感じ取り、支点と力点をずらし、少しずつ干渉していく。
『アンプリファイ・ダメージ(Amplify Damage)』
ルイズの目には、オーク鬼たちの頭上に、彼らのこれからの運命を表す歪んだ色の炎が映っている。
「ウフフフフ」
『ダメージ増加の呪い』、ラズマの秘儀の初歩の初歩。
これを被ったものはちょっとした攻撃にも、はるかに大きな痛みと傷を受けるのだ。
ルイズは楽しくて仕方が無い子供のように笑い声をあげながら、
戸惑うオーク鬼たちの頭上に、上空から『爆裂ポーション』を投下した。
ズガーン!! ズガーン!! 爆撃音が響く。
数匹のオーク鬼たちが直撃を受け、その血と肉が弾ける。続いて毒の霧が発生し、鬼の体力を徐々に奪う。
グオオオ!鬼たちは対処しようのない空からの攻撃に、恐怖の声を上げた。
「アハハハハ! アハハハハ! 見て、見てよタバサ、ほら、ほら!! ねえ見て、オーク鬼どもがゴミのようだわ!!」
ルイズは完全にイッてしまった目で大笑いしながら、上空から無抵抗なオーク鬼たちへと躊躇なき爆撃を降らせつづけた。
タバサは冷や汗をダラダラと流しながら、すこしかすれて上ずった声で、ルイズに声をかけた。
「村人が……」
「ん? 何よタバサ」
「村人を巻き込んでいる」
よく見るとルイズは、オーク鬼に襲われる村人がいる場所にも容赦なく、毒ガスポーションを投げ込んでいるのだ。
それを指摘されたルイズはけげんな顔をして、タバサに言葉を返す。
「大丈夫よ、これ人間には無害な毒ガスだから……もし害があっても、死にはしないわ……心配なら、あとで飲んでみる?」
「……」
タバサはオーク鬼よりもずっとずっと、ルイズ・フランソワーズのことが恐ろしいと感じる。
オーク鬼の17倍怖い、と思った。この先何があっても、彼女だけは敵に回したくない、とも。
やがて爆裂ポーションが尽きたころ、ルイズは『オイル・ポーション』を投下して炎の壁を作りだし、オークの集団を足止めする。
「アハハハハ燃えちゃえ! 燃えちゃえ!」
おろおろとするオークたちの頭上に、再び火の粉をふらせていくルイズ。
―――ハルケギニアの世の中に、呪いを回避する技量というものは存在しない、存在しないのだ!
サンクチュアリの地には『上空からの攻撃』という戦術は無く、術者は地上の身を守るために、数々の技を編み出した。
ラズマ僧侶の『降霊術』や『呪い』、『召喚』などの戦闘技術は、それに特化したものである。
弱点は、術者が攻撃を受けること。
敵の攻撃が届かない場所にいるネクロマンサーは、無敵の存在といっていい。
続いてルイズは『イロのたいまつ』を構え、呪文を唱え、振るった。
『コープス・エクスプロージョン(Corpse Explosion)!!』
ルイズが杖を振るたびにオーク鬼の死体が次々と爆発し、周りの数匹の鬼を巻き込んでいく。
その爆発に巻き込まれて死んだ鬼の死体がふたたび爆発し、連鎖を起こしていく。
死体に込められた断末魔の苦しみのエネルギーを集中・解放し、物理的な衝撃として炸裂させるという非常識な魔術。
ラズマの恐るべき大量殺戮技―――『死体爆破』である。
肉や血や骨や内臓やいろんなものがところかまわず飛び散り、またたくまに村はスプラッタ色に染まった。
もはや、片付けが大変だとかいうレベルではない。肉の焼けるにおいが上空にまで上がってきて、タバサは思わず口を押さえた。
「あっはははは!! 見た? ねえ見たかしら? 今の、7連鎖いったわよ!!」
「…………」
「あっ、二匹逃げたわね! 追いましょう!!」
数十匹いたオーク鬼の大群は一瞬で壊滅し、残ったのはたったの二匹、それも泡を食って敗走していった。
タバサの出る幕はなかった。
////6-3:【探索】
「ここね…死の匂いがプンプンするわ……」
「…………」
タバサとルイズは逃げたオーク鬼を追い、村はずれの屋敷の廃墟、地下一階へとやってきていた。
先ほどの戦闘――といっても一方的な殺戮だったが――を見てわかるとおり、オーク鬼たちは上空からの攻撃に無力だ。
ハルケギニアには竜騎士というものが存在するゆえ、通常鬼達は洞窟や屋内、地下や森の中に陣取る。
今回のように大群で開けた場所に出てきていたのは謎だが、ここをねぐらにしているのは確かだ。
ここを叩き潰せば『怪物退治』、すなわちタバサの任務は達成される。
とはいえ鬼達の行動には何らかの目的があるはず。
――おそらく狩り――人間を喰らう高位の亜人、たとえば先住魔法を使うような存在のために。
なればここには討伐隊をも屠るような、そのような何かがいるのだ。気を引き締めなければならない。
「出でよ『クレイ・ゴーレム』! 『ボーン・スピリット』!!」
ルイズはゴーレムと使い魔のヒトダマ『タマちゃん』を呼び出し、前衛として先陣を切らせた。
ヒトダマと『イロのたいまつ』の仄かな緑色の明かりに照らされた室内には、人の死体が家具や装飾品のように沢山転がっていた。
「………あなたのゴーレム、これは系統魔法?」
「違うわ、土の制御じゃなくて、仮初めの生命を与えているのよ」
とたん、『タマちゃん』が警戒信号を発し、タバサは風の不穏な流れを感じて杖を構える。
物陰からオーク鬼が襲ってきた。ゴーレムが俊敏な動きでタバサのフォローに回り、詠唱の時間を稼ぐ。
見れば、先ほど取り逃がしたものも含め、その数5匹。
『ボーン・アーマー(Bone Armor)!!』
ルイズの周りに骨の盾が召喚され展開し、オークの攻撃を防ぐ。強靭な腕力の一撃で骨の盾にビシリと亀裂が走る。
ゴーレムを間に割り込ませてオーク鬼の相手をさせると、すかさず敵に向けて杖を振るった。
『ディム・ビジョン(視野狭窄)!!』
三匹のオーク鬼たちが視界を奪われ標的を見失い、そこにタバサの呪文が炸裂した。
ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ハガラース――
『氷の槍(ジャベリン)!!』
空中を奔る氷の戦槍―――
タバサが一匹をしとめ、ゴーレムの相手をしていた一匹はルイズが『タマちゃん』をけし掛け、生命力を吸い取って倒した。
タバサが『ウインド・ブレイク』で死体をオーク鬼たちへと飛ばし、ルイズがそれを爆破する。生臭い匂いと、血肉がそこかしこに飛び散る。
あまり気分の良い光景ではない。
「はあ……ちょっと魔法を使いすぎたわ、今のうちに精神力を回復しておきましょう」
「………」
ルイズが顔をしかめつつ、ぐびぐびとポーションを飲み干した。本日三本目である。
タバサは殆どなにもしていないし、杖の<ルーンワード>のマナ回復効果のおかげか、まだまだ精神力にも余裕がある。
「そうだ、今まで忘れてたけど、『エナジー・シールド』張っておけばいいわ」
「それは何?」
「……タバサ、『ライトニング・クラウド』は使える?」
「まだ、あれはスクウェアスペル」
「ええと……ああ、そうね、電気……冬に空気が乾燥したとき、パチパチする静電気は解るでしょう」
こっくりと頷くタバサ。ルイズはあごにひとさし指をあててしばし考え込んだあと、説明する。
「あれが自分の身を守るように、包み込むように、イメージをしてみて」
「………わからない」
「杖を通して作って、自分の纏うまわりの空気に流すイメージよ」
「………こう?」
「ほら、出来たわ」
とつぜんタバサのまわりの空気のなかに、一枚の目に見えない力場が生まれたように感じられる。
『エナジー・シールド』、魔法と物理攻撃の一部を精神力で受け止める。これが、ルーンワード『思い出(Memory)』を得たタバサの新しい力だ。
密林の女魔道師族『ザン・エス(Zann Esu)』の開発せし、雷系統の魔術の一種である。
サンクチュアリの魔道師たちは、たいがいがこれを戦闘時に使い、身を守っている。
「あなたを守ってくれるわ、ちなみに同じイメージを敵にかぶせるように攻撃に使えば、『スタティック・フィールド』になるのよ」
「わかった」
「そうだ、念のためガイコツを召喚しておこうと思うんだけど……怖がらないでね」
「大丈夫」
―――『レイズ・スケルトン!!』
ルイズの霊気を目的に集まってくる雑霊たちが、ルイズの導きに従って流れてゆく。
オーク鬼の損傷の少ない死体にそれを憑依させると、死体が血肉をとびちらせて弾け、二体のガイコツがすっくと立ち上がった。
呼び出された二体のそれを、ルイズはゴーレムとともに前衛に回した。
棍棒をしっかと握る大柄のスケルトンは、タバサの目から見ても、恐怖をあたえる外観もふくめ、いかにも頼もしそうだった。
そうして―――
しばらくタバサとルイズは広い地下を探索したが、もうオークたちは出てこなかった。
先ほど倒したのが最後だったのだろうか。
二人はオーク鬼たちが溜め込んだ財宝らしき宝箱を見つけた。
宝箱の中にはイミテーションの宝石、真鍮で出来たまがい物のアクセサリーや銀貨や銅貨など、価値の低いものばかり。
その中からルイズは一つの護符(アミュレット)と、古ぼけたジュエリーを拾い上げ、ニヤニヤと笑った。
タバサにとっては、どちらかというと化け物よりも今のルイズのほうが、ずっとずっと不気味であった。
「さて、残るはこの部屋だけ……だけど」
「……血の匂い」
探索も終わり、残すは最深部の一部屋のみ。
中から歩き回る音、骨のつぶれる音、唸り声、鼻が曲がるほどの血の匂い―――なにこれ中に何か居る。
あきらかに異質な雰囲気を帯びるそこ、目の前の扉を開けるのに二人は少しだけ躊躇した。
「ガイコツに開けさせるわ、下がって」
「わかった」
タバサは呪文を詠唱し、いつでも放てるように用意をした。
スケルトンが扉に近寄り、ガチャリと音を立てて、扉を、開いた。
―――とたん、後悔が襲い来る。
どうしてこの扉を開けてしまったんだろう!!
二人の目にまず飛び込んできたのは、ハラワタだった。
真っ赤に染まった床。
十、二十、大量の物言わぬ肉の塊。
裸にむかれた人間の、死体、死体、生々しい死体。
引き裂かれた、壁にフックで吊り下げられた、串刺しの、ちらばる手、足、胸、心臓……
「……!!」
鉄のすえた匂いが二人を包む。
胃袋がひっくり返りそうになる。ショックで呼吸が止まりそうになる。
想像以上の凄惨な光景に、二人は体中の血が足元に下がるような怖気を感じた。腰が抜けそうになる。
そして奥から現われたのは太い腕、ずんぐりした体、獲物の返り血で汚れたエプロン、地獄の肉屋。
「Ohhhh!! Fresh Meat!!!」
おぞましい声。その手には―――巨大な血塗られた肉切り包丁。
「うっ」
「!!」
―――やばい、こいつはやばい。やばすぎる。ヤバイやばい
どうしよう、骨よ守れ、ワタシを……
ルイズの意に応え、オーク・スケルトンが、ルイズと魔物のあいだに割ってはいる。
魔物の丸太のような腕で振り下ろされた無情な分厚い刃が、たった今まであれほど頼もしくみえていたルイズのスケルトンをほんの一撃で、
―――ザンッ!!!
真っ二つに叩き割った。ああ……
――ラグーズ・ウォータル・イス・イーサ・ウィンデ
『氷の矢(ウィンディ・アイシクル)!!』
タバサは動揺しつつも、すでに動いていた。
無数の冷たい矢が魔物を襲う。タバサの十八番、トライアングルのスペルだ。これで倒せなかった敵は、ほとんどいない。
そのすべてが命中し、魔物の体に傷を刻み、血を流し、よろめかせる。
敵はよろめいた……が、ただそれだけだった。信じられない、体中を凍りつかせ、よろめいただけ、なんて―――
タバサの顔がひきつる。
魔物の怒鳴り声が反響する。
「Uhhhhh!!!」
凍りついた魔物の表皮がビキビキと音を立てて割れ、破片を飛び散らせる……が、当の魔物は意に介した様子もない。
全身を血と返り血で染めながら、短い足で一直線にタバサへ、のしのしのしのしとかなりの速度で歩み寄ってくる。
(なんてこと……)
間に合わない、タバサはぼうっと、振りかぶられるそれ、自分を肉塊に変え美味しい料理に作り変える包丁を見ていた。
これが、わたしの死?
――ザンッ!!!
再び肉切り包丁が振るわれたが、タバサはまだ生きていた。
タバサを守ろうと動いたもう一体のスケルトンが、一瞬で棍棒ごと唐竹割りにされていたのだ。ルイズが助けてくれた。
「ゴーレム! タマちゃん!!」
ルイズはゴーレムを足止めに向かわせ、『アンプリファイ・ダメージ』をかけてボーン・スピリットを突撃させる。
タバサは自分が呆けていたことに苦悶の表情を浮かべ、即座に次の呪文の詠唱に入っていた。
―――ズバンッ!!!
魔物へと襲い掛かっていた『タマちゃん』が肉切り包丁の一撃を受けて、閃光とともに霧散する。
同じ一撃で、ルイズのゴーレムは左半身を切り飛ばされていた。ルイズは……オイル・ポーションを直接魔物にぶつけ、炎に包んだ。
魔物のおぞましいうめき声、本日何度目にもなる血や肉の焼けるにおいに、タバサは顔をしかめた。呪文をとなえる。
『アイス・ジャベリン』
タバサが杖を振るって魔法を放つと、巨大な氷の槍が多数あらわれ、魔物へと突き刺さる。
突き刺さった傷口から魔物の体は凍りついてゆき、加熱からの過冷却へといざなう。体組織がぼろぼろと崩れる音が聞こえる。
凍りついた血の破片が舞い散り、たいまつの光をあびて輝く。
魔物はよろめき……よろめいたが、やはり、それだけだった。再びタバサを守る、ルイズのゴーレムが魔物の一撃を受け、とうとうただの土くれへと戻った。
突き進んでくる魔物。おかしい、油断した? ありえない、ほら、もう目の前で血染めの包丁を―――
「っ……!!」
――ザンッ!!!
今度こそ、わたしは死ぬ?
―――バチバチッ――バチイッ!! 魔物の一撃が迫ったとき、タバサの周囲に白銀の静電気の光が走る。
タバサは肩を少し切られただけで、ギリギリで回避することに成功していた。
すかさず飛び下がって距離をとる……。
今のはとても危なかった。『エナジー・シールド』が発動し、包丁の軌道をそらしたのだ。受けていれば、間違いなく致命傷だった。
「Uhaaaaah!!」
「ひえっ!!」
おぞましいうなり声とともに放たれた次の一撃に、ルイズの骨の盾(Bone Armor)が粉々に砕け散った。あとニメイル、一メイル……
魔物が肉切り包丁を振りかぶり、飛んできた生暖かい血液がルイズの頬へと付着する―――ぴとっ、ぱしゃっ。
――あれコレやばいんじゃちょっとそれ待って死ぬ死ぬシヌ殺されるコロサレルあのやめてくれないかし
腹の底をえぐるような恐怖に、ルイズはすこし下着を汚した。
死の恐怖を克服して戦うネクロマンサーとして、ルイズはまだまだ修行不足で、その境地に至るのはずいぶんと先の話のようだ。
それも、ここで生き延びることができれば、の話だが。
―――杖を握る手が動いたのは、奇跡に近かった。
『錬金!!』
ルイズの失敗魔法が炸裂し、魔物は、一メイルほど後ろへ押し返される(Knock Back)……だが、焦げたエプロンから煙を上げつつ、怪物は踏みとどまり、まだ立っている。
血まみれの包丁を手に、変わらぬ速度でのしのしとこちらへ歩んでくる。なんて、ああなんて恐ろしい。
想像を絶するタフさによる、圧倒的な力押しだ。
「……な、な、な何よナニよ! 何なのよコイツ!!!!」
「退却」
二人はきびすを返し、あわてて地下室の出口へと走った。それはもう、脱兎のごとく。
もはや『敵に後ろを見せないのが(略)』などと言っている場合ではないし、背後からずしんずしんと迫る恐怖にそんな考えはカケラも浮かばない。
実戦とは、かくも無情であり、圧倒的なものだった。
ただひたすらに、余裕が無かった。
『エア・ハンマー』
『錬金!! 錬金!!』
タバサの風の魔法、ルイズの失敗魔法が二度三度、魔物を弾き飛ばす……が、なおも魔物は突き進んでくる。
「Uoohhhhh!!!」
「……くっ!!」
「い、い、いやあああああ!!! 来ないでええ!!!」
とんでもないものに追われる想像もつかない事態に、二人は背筋が汗でぐしょぐしょになっていた。すでにルイズはかすれ声で涙をだばだばと流していた。
地下室の入り口の扉を二人がくぐったとき、ルイズは思わず力任せに大きな音を立ててドアを閉めた。
「タバサ、カギ!」
『施錠(ロック)』
焼け石に水だろうに、時間稼ぎのつもりか、タバサが口語(コモン・スペル)を唱え、古びたドアにカギをかけた。
―――Uh…hhh……h、扉の向こうから魔物のうなり声。
ごきゅごきゅごきゅ、うっぷ……
『クレイ・ゴーレム!!』
ルイズはマナ・ポーションを飲み干し、再びゴーレムを作りあげた。魔物に対しては明らかに力負けしているが、囮やメイン盾としては優秀だった。
タバサも同様に傷を治し、精神力を補充する。
ドア向こうからは魔物の声、歩き回る足音が聴こえる。あの肉切り包丁で、この扉はすぐに破られるだろう……
脳内にはアドレナリンがあふれ、二人は臆病なほどにかすかな物音にすら集中し、神経は緊張で焼ききれてしまいそうだった。
―――どうする?切り札は使い切った。先ほどと同じ手順で攻撃するか?
体勢をたてなおす―――二人は目で合図しあい、屋敷の廃墟を飛び出した。
上空にシルフィードを待機させ、入り口に向けて身構える……緊張感はいよいよ最大に……
そのまま、三分ほどが経過する。
おかしい。追って来ない。ふたりは顔を見合わせた。
慎重に先ほどのドアの前まで戻り、注意深く観察してみると……やはり足音と唸り声がきこえる。
どうやら、魔物は扉の向こうで右往左往しているようだ。首をかしげる二人。
「?」
「……」
「ねぇ、タバサ」
ルイズがすこし平べったい声を出した。
「……」
「もしかしてコイツ、ドア開けられないの?」
「……」
「……」
「言わないで」
しばしの沈黙。今はまだ気を抜いてはだめ、終わるまで耐えなければ―――
「タバサ、扉越しにスタティック・フィールドが届くはずよ」
「わかった」
ルイズはクールに即興の作戦を伝え、タバサは実行に移した。杖を構え、精神を集中する―――
彼女の周囲に、帯電をおこす乾燥した空気が生まれ始めた。
『スタティック・フィールド』
バチッ!! ビリビリ!!
「Oufh!!」
魔物の苦悶の声がひびく。たとえ扉越しであろうと、離れたところにいる敵の体力を奪う魔法である。
この魔法はその性質上倒しきることはできないが、弱らせることはできるだろう、とルイズは語った。
『スタティック・フィールド』
バチッ!! ビリビリ!!
「Oufh!!」
『スタティック・フィールド』
バチッ!! ビリビリ!!
「Oufh!!」
二人はげっそりと疲れた顔を見合わせつつも、地上へと戻り、シルフィードを呼んだ。
「目標、扉」
「了解よ、タバサ」
「物理的『開錠(アンロック)』、よろしく」
「ゴーレムちゃん、お願い」
「ウオーン」
ルイズのゴーレムが、ドアを叩き壊した。
ゴーレムは飛び出してきた魔物に数度切りつけられ、あっという間に倒される……が、問題はない。
『飛翔(フライ)』
タバサがルイズを抱えて、シルフィードの上へと運んだ。
地上では肉切り包丁をこちらに向かって振り回し、のしのしと歩く魔物がいる。
「Uhhhhh!!! Uhhhhh!!!」
「……討伐隊も、もう少し頭を使えばよかったのに」
「言わない」
二人は無力な地上の魔物めがけ、杖をかまえる。
魔物へと至上の苦痛を与える準備は完了―――さあ、反撃の始まりだ!!
『アイス・ジャベリン』
『魔獣の牙!!』
上空から、雨のように攻撃魔法が降りそそぐ。
『アイス・ジャベリン』
『魔獣の牙!!』
『アイス・ジャベリン』
『魔獣の牙!!』
精神力が尽きれば、二人はためらい無くマジック・ポーションを嚥下する。
「ごきゅごきゅ……うぇっ……」
「……けぷ」
「何度飲んでも慣れない味よね……いいかげん味の改良を考えようかしら」
「それがいい」
すでにルイズもタバサもおなかの中は青い液体でたぷたぷであり、どこか顔色が悪い。
「goooooohh!!」
魔物はタバサとルイズの『ずっと二人のターン!!』なちまちまとした削り攻撃の前に、全身を穴だらけにされ、やがて倒された。
魔物は結局倒れるそのときまで、上空のルイズたちに対して、ぶんぶんと肉切り包丁を振り回していただけであった。
―――二人が途中で気付いたとおり、この恐るべき猪突猛進の怪物は、悲しいまでに知能が低いようだった。
「びっくりしたわね……」
「びっくりした」
「当分夢に出てきそうだわ」
「わたしも」
緊張の連続が終わり、真っ青な顔をした二人の少女は今になって震えはじめた体で抱き合い、シルフィードの背中へと突っ伏した。
大きなため息、続いてルイズの押し殺した笑い声が、ガリアの青空へと溶けていった。
////6-4:【Quest Completed】
「……掘り出しものだわ」
ひとり地上に降りてきていたルイズは、先ほどの魔物の持っていた肉切り包丁を触って驚いた。
- - -
ブッチャーズ・ピューピル (The Butcher's Pupil)
ユニークアイテム:クリーバー(Cleaver)
必要レベル:39 必要筋力:68 - 射程2 -
片手持ちダメージ: 55-149
+150-200% 強化ダメージ
+ 30-50 のダメージを追加
35% デッドリー・ストライク
25% 敵の傷が開く可能性
30% 攻撃スピード強化
壊れない
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まず最初に、ルイズは焦りと安堵を感じる。数多の人の血を吸って魔の気を帯びたこれは、凶悪きわまりない殺戮の武器だ。
タバサに『エナジー・シールド』があって本当に良かった、一人で行かせずによかった、とルイズは心底思った。
『35% デッドリー・ストライク』って、およそ4割でクリティカルってことだ、かすり傷で良かった。背筋がぞくっとする。
綱渡りだったわね、と苦笑する。世の中にはとんでもなくタフで恐ろしい包丁もあったものだ。
次に思うのはこのアイテムの出自。間違いない、これはサンクチュアリの品だ。
もしかしたら、このあたりにサンクチュアリに繋がる道があるのかもしれない。
もちろんラックダナンのように、サモン・サーヴァントで呼ばれただけの可能性もあるが。
(重すぎて私には振り回せないけれど……いくらでも使い道はあるわ)
ルイズはひとりほくそえむ。
タバサには『討伐完了』の報告に行ってもらっている。
ルイズは一人残って廃墟を調べている。
やがて屋敷の中庭に、見慣れぬ魔法陣を見つける。
「これは……『ウェイポイント(Way Point)』ね、驚いた……まだ使えるじゃない」
ルイズがミョズニトニルンの能力で確かめたソレは、かつて古代ホラドリムが拠点移動用に開発した術式だった。
どうやら、ずいぶん長いこと使われていないものらしい。
使用法、制作方法をしっかりと記憶してから、『イロのたいまつ』を振るって小さな祭壇に火を燈す。
青白い炎をたたえ、魔方陣は現代のハルケギニアに蘇った。
別の『ウェイポイント』を作って起動すれば、そこと繋がって、遠く離れた場所の瞬間移動が可能になる。
ただし契約した者の行ったことのある場所にしか使えないので、他人に悪用されることもない。
ひょっとすると昔はこれをサンクチュアリと繋げて使用していた人がいたのかなと、ルイズは思った。
帰ったら『幽霊屋敷』にウェイポイントを設置して、そのうちまた調べにこよう、と考える。
ひょっとすると、このあたりにサンクチュアリ産のマジックアイテムが眠っている可能性もあるからだ。
「ガリア遠征……良い拾い物をたくさんしたわね」
黒騎士ラックダナンとの縁、石と杖、護符とジュエリー、血染めの肉切り包丁、ウェイポイントの技術。
<神の頭脳>のせいか、ここ最近は技術の知識を得ることが楽しくて楽しくて仕方が無い。
ルイズには圧倒的に足りなかった『戦闘経験』を得たことも、かなり大きかった。
―――そして、あとすこしで手のひらから零れ落ちるところだった、一番大事なものを。
それはタバサの命、タバサとの絆。新しくできた親しい友。
「ただいま」
「おかえり、タバサ」
「……大丈夫?」
「え? 何が?」
唐突に聞かれ、ルイズは戸惑った。
タバサは無表情ながら、どこかばつの悪さを感じさせる顔でルイズを見ている。
「あなたの使い魔が、倒された」
タバサが言いにくそうにそう言ったので、ルイズは苦笑する。
「ああ、『タマちゃん』のことなら大丈夫よ、このとおり」
ルイズはボーン・スピリットを体内から出して、元気に飛び回らせた。タバサが息を呑む。
『タマちゃん』は宙を三回転すると、ルイズの手の中に納まった。
「実体がないから、散ってもしばらくたてば再生できるのよ」
「……よかった」
ルイズは少しだけ不思議に思う。タバサはこの使い魔のことを怖がって避けてはいなかっただろうか。
「心配してくれたのね、ありがとう」
「大事にしていたから」
タバサはルイズの抱えるヒトダマをじーっと見つめる。やがて、おずおずと手を伸ばし、触れた。
熱くて冷たい不思議な炎の感触に、驚いたようだ。ルイズは目を細めた。
タバサはきゅいきゅいと鳴くシルフィードの背に乗り、ルイズを見つめる。
「タバサ、何処へ行くの?」
「魔法学院に帰る」
「用事は終わったのね」
「終わった、今出れば夜中には着く……早く、あなたも乗って」
「待って、いい方法があるわ」
ルイズは『タウンポータル』のスクロールを取り出し、『門よ!』と封をちぎった。
とたん、み゙ょーん……と、ルイズの目の前に青いゲートが現われた。
「ウフフ、さあ帰りましょうか」
「これは……何?」
「ちょっとしたマジックアイテムよ……おいでタバサ、シルフィードも着いてきてね」
タバサは驚くしかなかった。ルイズ、タバサ、シルフィード(巨大なのによく通れるものだ)と並んでゲートを通過すると、青い光が降り注ぎ、
うねうねとした場所をぐにゃぐにゃとなりながら運ばれたとたん、
二人と一匹は、それまでとは全く別の場所にいたのであった。
「ただいま、私の素敵なおうち!! ただいま司教さま!!」
そこはタバサも良く知る場所だった。
ガリアの村からははるかはるか遠く離れた、トリステイン魔法学院の片隅、
貴族の少女ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの住む物置小屋、通称『幽霊屋敷』の裏であった。
―――よかった、帰ってこれた。
信じられないことが多すぎて、多少混乱しつつ、なにはともあれ、今はそれを喜ぶことにしよう……と、大きく息をつくタバサであった。
////【……続く】