ヴェステマン商会がやって来たと聞き、俺は一階に降りる。
肉体的には、水の精霊の加護があるため元気そのものである。
しかし、精神的にはもうお腹一杯である。
もう良いやと考えたくなる気持ちを奮い立たせ、玄関ホールに出た。
ヴェステマン商会のネッケが今回は大勢連れて来ていた。
うーむ、まるでどこぞのオーディションである。
「何人連れて来たんだ?」
簡単な挨拶を済ませてすぐさま本題に切り込む。
「三十三人です。多分今現在ヴィンドボナにいる特殊契約者の上位クラス全員ですね」
疲れたように話すネッケ。
聞けば昨日虚無の曜日で休日の筈なのに、娘たちが大量に連れて来られたそうだ。
どうやら、ボーデ商会のせいらしい。
あの爺さん面白がって、ヴィンドボナの全口入れ屋に声を掛けたらしい。
四大豪商の一つが、そんな事の為に組織力使うなよ!
俺は頭を抱えたくなった。
俺の事を不審に思っていた国安には、爺さんが話しとくと、言ってくれた。
だけどこれじゃ疑惑は消えるだろうが、どれだけ大馬鹿者の悪評が広まるのだろう。
俺がクルツと話ながら頭を抱えている間も、家のメイド'sは、何やら準備を整えている。
「ご主人さま、準備が出来ました」
アマンダがそう告げて来た。
うん、自分まで順番が回って来なかった分どこと無く不機嫌だ。
ただ、その機嫌の悪さを俺じゃなく候補者に向けるのは如何なものか?
アマンダに案内されて、ホールに入る。
何時の間にか部屋が衝立てで、手前と奥に仕切られている。
「ハイ~、ご主人さまは奥にどうぞ~」
女の子はこっちです~って、アンちゃんノリノリです。
正面のテーブルの奥に椅子が並んでいる。
その端にはアリサがちゃっかりと座っていた。
その横にはチビッ子二人も行儀良く腰を下ろしてる。
「アリサ、お前何してんの?」
「うーん?審査員?」
メイド'sに頼まれたそうだ。
年長者として候補者を採点して欲しいとの事だった。
「この二人も?」
こっちは、子供の視点だそうだ。
何かね、もうハーレム要員を選ぶって趣旨から思いっきり逸脱している気がする。
まあどの道ここで働く以上、アリサやチビッ子二人とも仲良くやって欲しいのは事実だ。
とにかく、こいつらが何と言おうが俺が気に入ったら雇うから良いけどね。
そう思いながらも、俺はこいつ等の気に入らない娘は雇わないだろう事も判っていた。
「ハイ、それでは、メイド選抜を始めます~」
まずは印象だけで気に入らない娘がいないか選んで下さいとの事だった。
前にコック候補を選ぶ時に、俺が簡単なスクリーニングしたのを覚えていたのか?
それとも、俺が精霊にお願いして未経験者を選んでいるのに気付いていたのか?
どちらにしろ、アンジェリカらしい気配りだった。
ちなみに、俺が未経験者を選ぶのにたいした意味がある訳じゃない。
単に、新車に乗りたいだけだ。
順番に一人ずつ前を通り過ぎて行く。
全員、容姿は問題ない。
さすがに数百人の中から選ばれただけはあった。
俺が弾いたのが五人、アリサが一人弾いた。
後で聞いたら、吸血鬼は要らないとの事。
良く見とくんだった。
三十三人から、六人減って二十七人。
最大十五人の予定なので、後十二人は減らさなければならない。
何次選考までするのか、聞いた処、三次までとの事。
やれやれ、今日は一日掛かりになりそうだった。
しかしまあ、こんなに沢山候補が来るとは思っても見なかったので、仕方ないのかも知れない。
五人程度ならばきっと全員雇っていただろう。
次は書類選考及び面接のようだった。
椅子が三脚並べられ、三人づつ通される。
ネッケの持ってきた書類を、俺が見ながら判断してくれとの事。
その間にメイド'sが質問し、こちらはこちらで点を付ける。
こっちは○×式で分かりやすい。
三人に対する質問はそれぞれ一つの計三つだ。
「好きな食物は何か?」
「子供は好きか?」
「俺をどう思うか?」
である。
別に回答を聞きたい訳じゃない。
それぞれの質問に対する三人の印象を見て、○×を判定するだけだ。
結局、半数以上×が付いた八人と、出身がロマリアの一人、計九人を不採用とした。
これで十八人、まだ三人多い。
「お疲れさまでした~、最終面接は準備が必要ですので、一旦休息致します~」
まだアンジェリカは色々考えてるらしい。
○の多い順に採用していけば良いと思うのは俺だけだろうか?
「何言ってるんですか~、まだ大切な試験が残っているじゃないですか~」
アンジェリカ、一体どこからそんな知識を仕入れてくるんだ?
こればっかりは、本当に不思議でしょうがない。
遅い昼食を食べて待っていると、ようやく準備が出来たとの事。
ホールに入ってビックリ!
全員スクール水着じゃないですか!
えらく時間が掛かっていると思えば、こう言う事ですか。
十八人全員を風呂に入れて磨き上げ、水着を着せたと言う。
まあ、風呂洗いはスクール水着って決めてたから、これは大量にあったけどね。
「無駄毛の処理もバッチリですよ~」
うーむ、聞き捨てなら無いアンジェリカの言葉。
と言う事は、全員の毛を剃ったのか…
いかん、鼻血が…
いや、出ませんけどね。
衝立が仕舞われ、広いホールに十八人が二列に並んでいる。
反対側には、俺が座る席が用意されていた。
ちなみに、チビッ子二人は一応席を外されていた。
まあ、ミスユニバースみたいな選考会でも良く似た事やってるから、いても可笑しくは無いと思うのだが、ダメだそうだ。
結局、審査員は、俺、アリサ、グロリア、ゼルマ、アマンダ、ヴィオラの六人。
候補者一人一人が真ん中に進み出て、自分でアピールするとの事。
「それでは、一番の方からどうぞ~」
アンジェリカは完全に司会進行に徹していて、点は付けないらしい。
採点は簡単だ。
それぞれが、出てきた娘が気に入れば○、ダメなら×、先程と一緒だ。
今回は、○の数の多いほうから順番に採って行く。
何人まで採るかは、俺が決める形だ。
俺はざっと、十八人を見回した。
まだ名前は入っていないが、白いゼッケンが妙に艶かしい。
年齢的には、十代前半から後半まで。
それでも体格が良い娘も多いので、グロリアみたいに違和感バリバリな娘もいる。
あれは、あれで捨てがたい。
だけど、如何にもスクール水着ですと言う着こなしも中々…
うん、煩悩出まくりです。
もう、全員採用でも良いんでないかい。
でもまあ、メイド'sの言う事も少し反映して、俺を除く五人中四人まで×な娘だけは落そうかな。
そんな事を考えながら、候補者が自己アピールするのを聞くのだった。
彼女達には、お風呂に入りながら、メイド'sが色々話したらしい。
仕事が楽であり、食事が良い。
週一日休日がある。
服装は下着から私服まで支給される。
お手つきに関しては、無理強いはされない。
個室とは言わないが、部屋は設備の整った二人部屋である。
考えてみれば、彼女達候補者にすれば破格の待遇に近いのだろうなあ。
それぞれのアピールがかなり真剣です。
まあどこぞの玉の輿を狙うような娘は、そこまで真剣ではない。
しかも他の十七人が全員見ているのだから、アピールも後になる程過熱して行く。
最初は楽しんでられたのだが、後になる程俺の気も重くなる。
こんな若い娘が様々な所に売られていって、慰み者にされるのかと思うと罪悪感が付きまとう。
俺のせいじゃないとは、判っているのだが、それでも後ろめたさがどうしようもない。
「アル、これはこっちじゃ普通の事なんだからね、あんたが、特別なんだよ、間違えんじゃないよ」
うんアリサ、フォローありがとう。
こう言う所に気が付くのは、アルバートとしての付き合いが長いアリサだけある。
あれっ?
違うな、アルバートとしてではなく、コウとしての俺が悩んでいるのだ。
それにも関わらず、アリサが気が付くのか?
そりゃ、その顔見れば否でも判るさとの言葉、アリサ姉さん、さすが男だねえ。
あっ、ちなみに後で叩かれました。
結局、玉の輿狙いバリバリな娘三人を外して、残り十五人。
その内、俺に対する媚が酷いと、メイド'sに評価された五人が落選。
結局、三十三人の候補者から、十人が残りました。
ネッケさん、ご苦労さまでした。
一応、二十人には達しなかったが、取り敢えずメイド集めはここまで。
後は、普通の使用人を雇うとネッケに話をした。
何か条件はありますかとの事なので、見目麗しい女性が良いとはちゃんと言っておきました。
ネッケさん、頭を抱えてお帰りです。
ボーデの爺さんに知れたら、きっとヴェステマン商会の前に、見目麗しい庭師、見目麗しいベルガール、見目麗しいメッセンジャーガール・・・
切が無いがきっと、一杯押しかけてくるんだろうなあ。
ボーデ爺さん、俺で楽しむ気満々だもんなあ…
----------------------あとがきかな------------------------------
済みません、水着審査やりたかっただけです。