それは、グロリアさんのお茶会での事でした。
アマンダ達五人は、この屋敷に来てからほぼ毎日寝る前にグロリアさんの部屋に集まってお話をしています。
最初の二三日は、部屋にあったお茶を飲んでお話するだけだったのです。
その内、厨房で好きな飲み物やお菓子を持って来るようになりました。
ああ、アリサさんが専属コックとして来られてからはちゃんと許可は貰っています。
ご主人さまが、食べたいものがあれば好きに食べて良いと言われてましたので、問題はありませんでした。
本当に、食事に関してはここは天国です。
厨房で皆で作っていた時も、凄くおいしいと思っていたのです。
でも、アリサさんが来てからは、それが更にグレードアップです。
毎日、どんな料理が出てくるのかと思うと、もう嬉しくて嬉しくて。
今日の晩ご飯も、皮がパリパリに焼けた鳥肉が出て来て、甘いソースに絡めて食べるといくらでもお腹にはいるんです。
その上、冷たく冷やした…
ああっと、話がそれました。
とにかく、お茶会です。
何時ものように、厨房に飲み物を取りに行ったら、アリサさんと新しく来られたカリーンさんがまだおられました。
二人してレシピの研鑽でしょうか、本当に料理が好きなんだと感心してしまいます。
「ああ、アマンダ、冷蔵庫にお菓子あるから、皆で食べてねー」
アマンダに気付いたアリサさんにそう言われました。
「ハイ、ありがとうございます」
私は満面の笑みで返事します。
アリサさんは、料理の合間に色々なデザートを試作するんです。
ご主人さまが手に入れて来たお国の料理が載っている本。
写真と言う本物そっくりの綺麗な絵が一杯載っている本。
アマンダも見ているだけで楽しくなるような本。
書いてある言葉はまだあまり判りませんが、とっても美味しそうな料理が一杯載ってて何時間でも見てて飽きません。
そう、その中にはデザートの本もあるんです。
そして!
アリサさん、そのデザートを試作してるんです。
完璧になれば、夕食のデザートに加えるそうですけど、アマンダにすれば今の試作でも十分過ぎます。
この時ばかりは私、ヴィオラさん並の速さで冷蔵庫に歩み寄りました。
お茶会にアリサさんの試製デザートを持って行くと、皆喜んでくれました。
お菓子を食べながら、今日あった事を話します。
その中で到らなかった点、いけなかった点を話し合い、こうしたらとかの提案したり、明日試して見ようとかの話をするのが楽しみなんです。
みなさんのお話を聞きながらアリサさんのお菓子にパクついていました。
ふと、気付くといつのまにか静かです。
「ふえ?」
グロリアさん、ゼルマさん、アンさん三人が私を見つめてます。
ヴィオラさんは、そんな様子を苦笑混じりで見つめてました。
「アマンダ~、も一回言うね~、どうして貴女はご主人さまの所へ行かないの?」
アンさんがニコニコしながら、そう言って来ました。
「ふ、ふええっ!」
突然そう言われて、私は固まるしか出来ませんでした。
そ、そりゃ、三人がご主人さまと、あ、あの、した事は知ってます。
先日、ゼルマさんとアンさんが二人だけ呼ばれた時に、グロリアさんの顔が恐かったのもしっかり記憶に残ってます。
三人がご主人さまとイタして貰えば、自分の番は遅くなるなんて、ほんの少ししか考えてません。
「いい、アマンダ!」
アンさんが何時もと違い真面目です。
恐い位、真剣です。
「ヴィオラもそうよ!」
あっ、ヴィオラさん驚いてます。
「えっ、だって、私は」
「罰として襲われないでしょ、でもねそれじゃダメ!」
ヴィオラさんの言葉を遮るようにアンさんが言います。
こんなアンさん、見たことありません。
「ゼルマもグロリアもみんな、ここの生活どう思う?」
「うん?私には不満はないぞ」
ゼルマさんが驚きながらも答えました。
「うーん、ご主人さまがもっと私の事見てくれたら完璧かしら?」
グロリアさん、ゼルマさんとアンさんを皮肉そうに見ながらそう言います。
「グロリア、今はアレは忘れて、今度はちゃんと誘うから」
ゼルマさんが申し訳なさそうに視線を逸らすのに、アンさんは本当に真剣に返します。
ビックリです。
頭がクラクラする位です。
「あっ、そ、そんな積もりじゃ…」
あー、グロリアさん、真っ赤になって自分の世界に…
「グロリアは放っておいて、ヴィオラ!貴女は?」
「えっ、うん、楽しいよ?」
「ご、ご飯!お、美味しいです!」
アンさんが、視線を私に向けるので思わずそう叫んでました。
ご飯だなんて、ちょっと恥ずかしいです。
「皆そう思うわね、私もここの生活は気に入ってる」
私の答えに、笑みを浮かべながらもアンさんもそう答えて来ました。
「アマンダは騙されてと言う理由があるにしろ、全員が借金のかたに99年の肉体奉仕付きの契約だと思えば」
そう言って、アンさんが全員を見回します。
「これ以上の生活、望めると思う?」
私はブンブンと首を左右に振ります。
そりゃ、借金が無ければ、アマンダも好きな人が出来て、結婚して、子供に囲まれて、と夢はありました。
でも、騙されたにしろ今の私にはご主人さまとの雇用契約があるんです。
これを反古にして逃げ出しても、その先にそんな夢みたいな生活、ある訳ありません。
他の皆も同じ思いで首を左右に振っていました。
「でもね、このままじゃこの生活も終わるわよ」
そう言って、全員を見つめるアンさんの瞳。
後から思えばあの目は、アンさんが悪巧みを思いついた時のものです。
でもその時は誰もそんな事思わずに、アンさんの話に聞き入ったのでした。
アンさんは、私達に判りやすく説明してくれました。
私達は、あくまでも最初の五人なんだと。
私達の部屋は、皆二人部屋であり、まだ同じような娘が入る余地がある。
しかも、部屋はまだいくつも残っている。
そう遠くない将来、『次』の娘が入って来る。
ご主人さまと一緒に食事をしている食堂はそんなに大きくない。
新しい娘が入って来た時、あの食卓から追い出される娘が出てくる。
それが誰になるのか?
今考えられるのは、そう、ご主人さまの寵愛をまだ受けてない二人。
「アマンダ、ヴィオラ、貴女達二人よ」
アンさんがビシッと私達二人を指差します。
「ふ、ふぇ~!」
そ、そんな、そしたら、美味しいご飯が、食べられなくなります!
「考えすぎではないか? ご主人さまは基本的に優しい御方だ。
それに、五人とも指輪まで貰っている」
ゼルマさんがそう言ってくれたので少し気が楽になります。
「甘い、甘いわ、このデザートより更に甘いわよ、ゼルマ!」
アンさんは更に続けます。
アマンダとヴィオラはあくまでも、最初の可能性に過ぎない。
人数が増えたら、ゼルマ貴女も一緒よ。
貴女より、あの声が可愛い娘が現れたら。
グロリア、貴女より胸の大きな娘が来たら。
私より大胆な娘が来たら。
「そう、私達全員が今の立場を失う可能性はあるのよ!」
私達全員が言葉を無くして黙り込んでしまいます。
そうなんです。
アマンダ達はあくまでもご主人さまに雇われている身。
アンさんの言う通り、ご主人さまの気分一つで立場は大きく変わってしまうのです。
でも、それは…
「それは仕方ないのじゃない、アンジェリカ」
グロリアさんが、アマンダの思った事を口にしました。
「ご主人さまは優しい方だから、そうなったからと言って追い出すような人じゃないわ」
うんうん、アマンダもそう思います。
「それは私も同意するわ」
アンさんが答えます。
でも、その顔は何か企んでいるように見えました。
「だけど~、そうならないように~、出来ない事はないと思うのよね~」
突然、アンさんが何時もの口調に戻し、皆を見渡します。
「五人で協力すれば~、可能だと思うのよね~」
「どう?」
「のる?」
それは本当に悪魔の囁きだったのでしょう。
私達四人は全員が頷いていました。
アンさんの作戦は単純でした。
要は私達が、ご主人さまにとって無くてはならない五人になればよい。
言わばそれだけです。
全員が、ち、寵愛を受けるのは最低限です。
それに加えて、これから来るであろう娘達の上に立つ存在を目指すのです。
「目標は、五人が五人とも二階の客室よ~」
アンさんが、元気に言ってきます。
特別な存在となり、今の部屋みたいに他の娘達と同じ部屋じゃない立場にしてもらう。
そうすれば、ご主人さまもおいそれと私達を食卓から外せなくなる。
その為には五人の結束が大切だと、アンさんが言います。
「いい、一人でも食卓から追い出されようとしたら、全員で反対するのよ~。
そうすれば、優しいご主人さまは席を変えれない筈よ~」
そして、新しい娘達にここの様々な魔道具の使い方、仕事の仕方等は絶対ご主人さまに手間を掛けさせない。
私たちが先導して教えて回る。
要は、新しい娘達とご主人さまの間に、常に私達五人が入るようにするんです。
「その為には、まず~、全員が寵愛を受けないとね~」
ニヤリ、そうニヤリと笑ってアンさんが、私とヴィオラを見つめて来ます。
「まずは、アマンダ~、今晩は貴女が行ってらっしゃい~」
「ふ、ふえええ!!」
そ、そんな…
か、覚悟も何もありません。
ワタワタと残りの三人を見回します。
ゼルマさんは、ウンウン頷いています。
グロリアさんは、少し悔しそうな表情ですが、反対まではしません。
ヴィオラは、あっ、下を向いて自分の事で精一杯みたい。
アンさんが、私の側に歩み寄ります。
「アマンダ、皆の為なのよ~」
アンさんの態度、ぜ、絶対それだけじゃないと思いました。
アマンダは今、ご主人さまの寝室のある二階に上がって来ました。
私が、部屋でグズグスしていると、アンさんが突撃して来て階段の下まで護送されてしまいました。
も、もう覚悟を決めて行くしかありません。
あ、あれって、痛いんでしょうか?
ご、ご主人さま、私が相手で喜んでくれるのでしょうか?
頭の中は不安ばかりで一杯です。
心臓は、ドキドキ早鐘のように脈打ってます。
ゴクリと生唾を飲み込んで、そっとドアをノックします。
うん、返事がありません。
もう寝ているに違いありません。
明日にした方が良いと思います。
アマンダが部屋に戻ろうと、振り返りました。
ダメです。
アンさんが、こちらを見ています。
何時の間に階段を上がって来たのか、廊下の端で手を振ってます。
行きなさいと言う印です。
諦めて、扉に手を当てました。
「し、失礼しまーす…」
鍵も掛かっていない扉は音も無く開き、ゆっくりとご主人さまの私室に入ります。
部屋の中は暗いですが、寝室の方から明りが漏れています。
「ご主人さま?」
小さく問い掛けましたが、返事がありません。
寝てられるのでしょうか?
それならば、それでミッションⅡの発動です。
ちなみに、ミッションⅠは、ご主人さまが起きていた場合のアマンダの行動をアンさんが決めてくれたものです。
そのまま寝室に向かいます。
ベッドの横の小さな明りが点いてますが、ご主人さまがぐっすりとお休みです。
大丈夫なのでしょうか?
ミッションⅡの発動前に起きられたら、アマンダとしては対応に困ってしまいます。
抜き足差し足で、ベッドの横まで移動します。
うん、ぐっすりと、眠られておられます。
これなら大丈夫でしょう。
ドキドキしながら、ナイトガウンを脱ぎ捨てます。
裸なんです。
パジャマは着てません。
ご主人さまが起きられていた時は、目の前でガウンを脱いで抱きつきなさい。
これがミッションⅠ。
眠られているなら、ガウンを脱いでベッドに潜り込みなさい。
これがミッションⅡ。
「失礼しまーす」
小さく声を掛けて、ご主人さまのベッドに潜り込みました。
もう心臓はバクバク脈打ってます。
そおっと、ご主人さまに寄り添います。
あっ…
男の人の匂いです。
少し汗臭いような、それでいてお父さんのような匂いです。
身体をピッタリと密着させます。
これで、何時ご主人さまが目覚めても準備は万端です。
でも、ここからは、どうしたら良いのでしょう。
ご主人さまを起こすべきなのでしょうか?
それとも、起きるまでここで待った方が良いのでしょうか?
アンさんの行動指針では、ここまですればご主人さまが起きるからって言ってましたけど、良くお眠りになってます。
待った方が良さそうです。
ご主人さまの寝顔をじっと見つめます。
この人の、召使として雇われた事は、アマンダにとって良い事なのでしょうか?
うううん、違います。
きっと、もっと良い事もあったのでしょう。
だけど、逆にもっとダメダメな事もあった筈です。
だから今、目の前にいるご主人さま。
これがアマンダの今の精一杯です。
ダメダメな事、良い事、それは色々あるのでしょう。
でも、一つだけ確かな事があります。
こうしてご主人さまの寝顔を見つめ、一つのベッドに寝ていると、物凄く充足した感覚に包まれるのでした。
-----------------------おまけ----------------------------------
さすがに、アマンダさんは、存在だけで18禁でした。
と言う事で、初18禁ネタとして、×××掲示板に上げたいと思います。