注意書き:本編では、ゼロ魔世界設定とは、全く離れた独自の精霊に対する解釈が多数含まれます。
それを承知でお読み頂ければ、幸いです。
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この地に拠点を設け商品の販売をする事。
これを、農具を卸す条件として俺はクラインベックに提案した。
流石にこの地で店を構えて採算が取れるのか、クラインベックも真剣に悩み出す。
「旦那様、あのような農具はどの程度用意できるものなんでしょうか」
レオポルド爺さんが、ワザとらしく俺に聞いてくる。
「うーん、大体月に10~20本程度だな」
「ほー、そんなに手に入りますか、ではお値段はどの程度なのでしょう」
尚も、爺さんが聞いてくる。
クラインベックは耳をダンボにして聞き耳を立てている。
「あー、値段ね、それはお前が決めてくれ、あれ位用意するのに俺にはそんな手間も掛からん」
「な、なんと、そうなのですか、それではあの本数も」
ホンと、この爺さん良く言うよ。
「ああ、俺が余裕のある時に出来る本数だ」
「それでは、数を増やす事も可能なのですか?」
「うん、出来ない事はないが、やらんぞ、めんどい」
ああ、旦那様はお忙しいですからなあとか言いながら、ウンウンとレオポルド爺さんは頷いている。
爺さんにすれば店を構えて貰えれば、領民の利便性が格段に良くなると言うのは判っている。
そしてあの農具にしても、俺が自分の国から手に入れてきたものだと知っているのだ。
だから、爺さんにしてもクラインベックが店を出したくなるように、俺から情報を引き出しているだけだ。
どうやら、本数に関しては十分らしい。
まあ、今の時点でクラインベックが大量に仕入れても裁ける筈も無い。
まだ悩んでいるクラインベックを見て、俺はもう一押しする事にした。
「ところでレオポルドここで店を出さす以上、店舗を建てて貰いたい」
「ああ、それは当然ですな、直ぐにでも人の手配を致しますが?」
爺さんが、少し探るように返事をしてくる。
「後で説明しようと思ったのだが、今回建築に役に立つ資材を仕入れてきた」
「ほおう、それは楽しみです。 どんなものなのかお伺いしても宜しいでしょうか?」
本当に、爺さんは頭が回る。
これが何か商人を引き擦り込むネタになるのだと直ぐに気づいて問い返してくる。
伊達に村の長を務めていた訳じゃないな本当に。
「速乾性の漆喰のようなものだ。 あれよりは遥かに丈夫だぞ」
俺は今回仕入れてきた『セメント』について、説明を始める。
元々、今日来たのはこれも目的だったので丁度良い。
勿論、その間クラインベックもしっかりと聞き耳を立てている。
「なんと、固まると石のようになるのですか」
「ああ、砂と砂利と上手く混ぜ合わせれば、ほぼ石と同じ強度を持たせる事が出来るな」
「それですと、色々使い道もありそうですな、楽しみですわい」
ふむふむと頷きながらも、チラッとクラインベックを目で示す。
もう十分だと踏んだのだろう。
「ところでクラインベック、店を出して貰えるだろうか」
「判りました、お引き受け致します」
クラインベックは覚悟を決めたようで、深々と頭を下げる。
うん、彼はきっと良い商人になるだろう。
勿論、俺に取って都合の良い商人と言う期待もあるが。
その為にも、最後のサプライズを提供してやらねば。
「そうか、感謝する」
「あっ、イヤ手前も商売ですから、儲かると思ってお受けしたのです。
領主様に頭を下げられては、立つ瀬がございません」
軽く頭を下げただけで、大慌てである。
「後の実務は、このレオポルドと相談してくれ。
彼はここで俺の代官を務めている」
爺さんとクラインベックが正式に挨拶を交わす。
お互い知り合いではあるのだが、形は大事だ。
「ああ、店の建物はこちらで用意するものを使ってくれ。
家賃は、ここでの売り上げの……
レオポルド、何割が良いかな」
「そうですなあ、三割、いや一割位で十分ですかな」
三割で俺の視線を伺い、一割と決める辺り流石に爺さんだ。
「じゃあ、それで良いかなクラインベック」
「え、ええ、勿論ですとも!」
飛び上がって喜びそうである。
うん、三割位が家賃の相場か、一つ賢くなった。
「それでは、後で館に来てレオポルドと細部を詰めておいてくれ」
「ハイ、判りました」
クラインベックが深々と頭を下げる。
格安の家賃で、店舗が持てて、尚且つ売れると確信している農具が手に入る。
彼にとっても悪い話ではないだろう。
ただこの地の店舗単独では採算は難しいだろうが、それは農具で補って貰おう。
俺も爺さんも上機嫌で、館に戻るのだった。
三日前に頼んだ土木工事の進捗を確認する。
土のメイジが三人も傭兵団にいたので、工事はほぼ完了していた。
セメントの運び出しを爺さんに頼んだり、今後の漁村の工事計画等を話し合う。
漁村の方は、ある程度の船が直付け出来るように、港の浚渫と言うか港を造る予定だ。
それと、小麦が無事売れればその資金の一部を使い、船大工を雇い領民の船を新造するつもりだ。
今までの漁船はもはやぼろぼろで、漁に出るのも命がけになっていた。
その為には、小規模ながら造船場も作るつもりなのだ。
船大工に船を作らせるだけなら、海岸でも出来るのだが、領民の手に職を付けさせるのも大事である。
行く行くは自分達で漁船位作れる程度まで技能を磨いて欲しいものだ。
港と造船場及びそれに付随する倉庫や事務所等の様々な施設。
これに加えて、牧草の保存の為のサイロの建設や館周りのインフラ整備もある。
これだけでも、領民の冬の仕事は一杯になるだろう。
爺さんと話をしていると、あっという間にお昼になる。
午後に土木工事の仕上げに戻ってくると爺さんに告げて、俺は一旦ヴィンドボナの屋敷に戻る事にした。
一階のホールに転移すると、リリーが出迎えてくれた。
部屋に転移しても良いのだが、それだと俺の出迎えが出来ないとのグロリアからの指摘を受け、この形にしている。
たった四日で、誰も俺の転移を驚かないのだから、ゲルマニアの女性の適応力はたいしたものだ。
ちなみに、俺が出かけている間はホールにはリリーかクリスが詰め見張りをしているとの事だった。
ホールの隅に置かれた椅子にちょこんと座って待ち受けているちびっ子の姿は、人形さんのようでもあり愛らしい。
しかし、その周りにクッキーの欠片が転がっているのは少し頂けない。
今度は前にテーブルでも置くように言っておこう。
「おかえりなさいませ」
リリーの知らせを受け、手の空いているメイド達が挨拶に出て来る。
グロリア、アマンダ、ヴィオラの三人だ。
と言うことは、今日の昼食の手伝いはゼルマとアンジェリカとなる。
「ただいま、お昼の準備は?」
俺は少し不穏な空気を感じ取り、グロリアに聞いた。
「ハイ、大丈夫……です」
グロリア、その間はなんでせうか。
かなり不安に思うのですが、気のせいだろうか。
「アリサ姉さんに、ゼ、ゼルマさんが勝負を挑んだんです!」
横から、アマンダが焦りながら言って来る。
やっぱり、何かあったか。
「料理勝負です」
ヴィオラが言葉を足して来たので、少し安心する。
タイマンバトルとかやられた日には、たまったものではない。
「今日のお昼ご飯をご主人さまに食べて貰い、どちらが美味しいか決めて貰おうって、ゼルマさんが張り切ってました」
ヴィオラ、詳しい説明ありがとう。
でも、余り楽しそうには言って欲しくない。
特に味見するのが、俺って言う点で厳しい。
料理に関しては、アリサの方が遥かに経験をつんでいるのだ。
素直に考えれば、ゼルマの勝てる余地は無い。
そう考えれば、アリサが勝つのは判り切っている。
だが、お互いの性格を考えれば、ゼルマに勝たせる方が楽だ。
アリサなら、負けた事をとやかく言うことは無い。
ゼルマは単純に喜ぶだろう。
そう、それが例え譲られた勝利であれ、俺がそうした事を嬉しく思う筈だ。
…思うと思いたい…
とにかくアリサが勝利した場合、それを得意気に話すアリサの姿と、深く落ち込むゼルマの姿が思い浮かぶ。
昼食前から、胃が痛くなりそうな話だった。
俺は、メイド達を引き連れて食堂に入った。
アンジェリカが頭を下げて迎えてくれる。
アンジェリカは何か言おうとしたが、俺がそれを目で抑える。
どうせ碌な事じゃないだろう。
黙ったまま椅子に腰掛ける。
「それでは、これよりご主人さまに、アリサさんとゼルマさんの料理を召し上がって頂きます」
アンジェリカ、頼むから嬉しそうに告げないで欲しい。
アリサ、ゼルマが手に皿を掲げ食堂に入ってくる。
皿には銀色の蓋のようなもので覆ってあり、中が見えないようになっている。
あんなもの、俺は用意した覚えは無い。
どうせ、アリサが作るか取り出したのだろう。
アリサは楽しそうに、ゼルマはやや顔を青ざめさせ、俺の目の前に皿を並べて行く。
「「どうぞ」」
二人が同時に蓋を取り、俺の目の前に二つの料理が並べられた。
「ほおっ!」
俺は思わず感嘆の声を上げてしまった。
アリサの皿には、肉料理が乗っていた。
程よい焼き具合のステーキである。
多分掛けられているソースがアリサ特製のレシピに拠るのだろう。
これに比べて、ゼルマの料理はオムレツである。
朝食で食べる単純な卵料理だ。
「味見する前に、言っておくぞ」
俺は全員を見回した。
「何をやってるんだ!」
ここに彼女達が来て以来、初めての俺の怒鳴り声だった。
全員の顔がビクッと震える。
アリサも、しまったと言う顔を浮かべている。
「アンジェリカ、説明しろ」
俺はアンジェリカを指名する。
「えーっと~、アリサさんの料理の仕方に~」
「ちゃんと話せ!」
俺は、アンジェリカを睨み付ける。
「あっ、ハイ! アリサさんの料理の仕方に、ゼルマさんが文句を付けて、二人の言い争いとなりました」
いつものフワフワした雰囲気すら消え去り、アンジェリカが抑揚の無い声で話す。
「その後、ご主人さまに比較して貰おうと言う事でこのような料理対決になったのです」
そこまで言い切ると、アンジェリカはぐっと口を閉じる。
俺は漸く視線をアンジェリカから離し、アリサとゼルマを交互に見た。
アリサは御免と彼女には珍しくしおらしく謝って来る。
しかし、ゼルマは唇をかみ締め、悔しそうな顔のままだ。
「ゼルマ、言いたい事があるのか」
ゼルマはハッと顔を上げ、俺を見つめる。
しばらく逡巡するが、直ぐに思い切ったのか話し始めた。
「り、料理は…ぎ、技術だけじゃなく、あ、愛情が必要だと、お、思います…」
最早半泣きの顔なのに、ゼルマは必死に話し続ける。
「アリサさんは、た、確かに、料理の腕は、す、素晴らしいと…お、思います…」
「だけど! ご主人さまの昼食を作るのに、あんないい加減な態度で作るのは、私は許せません!」
そこまで言うと、ゼルマは泣き崩れてしまう。
「で、アリサ、どんな素晴らしい料理の作り方をゼルマにみせたんだ」
「い、いや、あ、あの…か、片手で…ちゃちゃっと…」
大体、どんな態度で料理を作ったのか想像がついてしまう。
全くこいつは、どこぞのお手軽主婦か。
「いいか、曲がりなりにもお前はここの料理長を勤めるんじゃないのか」
俺はアリサに言う。
「ハイ…」
一応しおらしくお叱りを受けてくれるので助かる。
「朝何時に起きようが、メイド達にどのような口を聞こうが、俺に対してタメ口を叩こうがそれは構わん」
俺は、ふうっと吐息を吐き出した。
「だがな、昼と夜の料理だけは気を抜くな。
態度で示してこいつらの信頼は自分で勝ち取れ」
「ハイ、判りました」
アリサは言いたい事はあるのだろうが、素直に頭を下げる。
「よし、昼食にしよう。
アリサ、他の連中の分も持って来てくれ」
一応、これで終わりだと言う俺の態度に、全員が慌てて食事の用意に走る。
形としては、ゼルマの言い分を全面的に認めた事となるが、これは今晩辺りアリサが怒鳴り込んで来そうだ。
それはそれで気が重い。
「頂きます」
俺の合図で食事が始まる。
まずは、アリサの肉料理だ。
一口サイズに切り分け、口に放り込む。
流石に、様々な地域の料理の研究が趣味だっただけある。
濃厚なソースが厚切りのレアにぴったりとマッチしている。
「アリサ、流石に勝負となると手を抜かないな」
「ありがとうございます」
うーむ、益々気が重くなるような返事だ。
次は、ゼルマのオムレツだ。
フォークで切り分けると、ふわふわの玉子にチーズとハムが程よく混ざり合っている。
口に含むと、上手く絡み合い、中々の出来栄えだ。
「ゼルマ、上手くなったな」
「は、ハイ、ありがとうございます」
パアッと笑みが広がるのは、見ていて気持ち良い。
しかし、肉はざっと見て400グラムはありそうだ。
オムレツは、玉子が三個、いや四個か…
それでも一つも残さず両方食べた俺は密かに偉いと思う。
食べ過ぎた昼食のせいで重たい身体を抱えながら、俺は再び領地に転移した。
レオポルド爺さんと合流して、俺は最初の現場に向かう。
場所は館の後ろ側に当る小高い岡の上。
石造りの二階建程度の窓の無い建物が出来上がっていた。
「ああ、バルクフォン卿、出来ましたよ!」
傭兵団に所属する土のメイジが俺を見付け嬉しそうに話しかけ来る。
「ご苦労さん、調子は」
「全く、普段より元気な位です」
確かディールと言った筈だ。
彼はニコニコしながらそう言ってくる。
「しかし、本当に作れましたね~、自分でも信じられません」
「まあ、それが水の秘薬の効き目だからな」
「この力って今後も私が使って本当に良いんでしょうか?」
「ああ、問題ない。イヤなら何時でも解除出来るぞ」
「イエイエ、そんな勿体ない、有り難く使わせて貰いますよ」
「ああ、そうしてくれ、その分に見合った給金はちゃんと払うよう、ファイトにも言ってあるから」
「ありがとうございます」
俺はファイトが連れてきた土系統の三人のメイジに、水の秘薬を用いたのだった。
俺自身が精霊と契約しており、その契約の下で彼らがこの秘薬を飲めば精霊の魔力が使えると説明した。
勿論デメリットとして、この事を他人に話したら消えて貰う事。
傭兵団から抜ける時は、この力そのものの解除から使ったと言う記憶も消さして貰うと話した上でだ。
結局三人とも、この条件で水の秘薬を飲んだ。
元々ファイトを信じてついて来た連中だ。
ファイト本人が既に飲んだと聞かされれば反対する理由も無かった。
精霊には魔力供給と守りだけをお願いしてある。
おかげで彼等自身の感覚からすれば、無限の魔力使っているように思えるだろう。
余談だが、人間だけが精霊魔法が使えない理由がこの辺にあるらしい。
このような力を人間に持たした結果、戦争で盛大使いまくり地域の魔力を枯渇させると言う暴挙を何度も繰り返したらしい。
結果、人間と契約を結ぶ事は無くなったのだろう。
俺も程々にせねば。
話は戻すが、目の前にはディールの作品が完成している。
半径十メイル、高さ十メイル程の石造りの塔である。
ご丁寧に、外に階段が刻まれており、上の方に入り口が設けられていた。
「それじゃ、始めるか」
「あの、見学させて貰って良いですか」
ディールが遠慮がちに聞いてくる。
自分の作品がちゃんと機能するのか興味があるのか。
それとも俺の魔法を見たいのか、まあどちらもあるのだろう。
「ああ、かまわんぞ」
俺は爺さんも含め三人で階段を上がって行った。
中に入ると、今度は下に降りる階段がある。
俺は隙間一つない壁面を確認しながら下まで降りる。
床も綺麗にコーティングされており、中央に一メイル程のくり貫いた様に穴が設けられている。
固定化と強化の具合も問題無さそうだ。
「爺さん、上から見といてくれ、直ぐに一杯になるから溺れられちゃかなわん」
慌てて階段を駆け上がるレオポルド爺さん。
俺は笑いながら杖を取出し、術式を展開した。
あたりを付けていた周辺の地下水脈を操作し、この真下に集めて行く。
どの程度集めれば良いかは判らないので適当なところで止める。
そのままにしておくと地盤にどんな影響があるか判らないので、素早く地中から真直ぐ円筒形の穴を錬成して行く。
勿論壁面のコーティングも忘れない。
「うわっ!」
中央の穴を覆う地面が消えたかと思った瞬間、猛烈な勢いで水、否、お湯が吹き出した。
俺とスミスは慌ててフライの魔法を唱え浮き上がる。
もうもうと煙る湯気の中で猛烈な勢いでお湯が蓄まって行く。
俺はゆっくりと爺さんの横に着地した。
「旦那さま…」
レオポルド爺さんの視線が痛い。
「すまん、深過ぎた」
俺は自分の失敗を素直に認める。
「あっ、でもお風呂には困りませんよ、それに、ほら冬でも暖かいですし」
ディールの優しさが逆に辛い。
全く、水道を作ろうとして温泉を掘りあててどうするんだ!
結局、温泉を調べ飲料水としても問題なさそうな事を確認し当面はこのまま使おうと言う事となった。
まあ、飲料に適するかどうかは、魔法だけじゃなく、一度あちらの水質検査を受けてみようとは思う。
ただ、水道も有った方が良いのでもう一系統水路を作ってからやり直す事にした。
元の計画では、俺が地中に設けた水道管を通して、館と傭兵団の駐屯地まで水を引く。
後は、近くの川まで領民に掘らせた水路に流す予定だった。
しかし、お湯となると、川は不味い。
おかげで俺とディールは大急ぎで水路を海まで開削する羽目になった。
いくら精霊の魔力を使うとは言え、体力、精神力は自前だ。
三時間ほど掛けて海まで開削し終えた時には二人ともへとへとになっていた。
「デ、ディール、生きてるかー」
「バルクフォン卿、ライムントで良いです、あー、何とか生きてます」
「ライムント、他の二人に言っといてくれ、村の水道造りはまた後日にやるって」
「判りました~、お疲れ様です~」
俺は、爺さんに連絡するのも忘れ、その場からヴィンドボナの屋敷へ転移して行った。
--------------------------(15禁で大丈夫だよね)---------------------------------
精霊とは、魔力をエネルギー源として活動している未知の生命体らしい。
ああ、これはアルの記憶によるものだ。
その結果、魔力が溜まりやすい水、土、魔力が吹き集められる風、魔力の集まる火の精霊に区分けされる。
精霊には単体での意識はない。
その代わり集合体としては、様々なレベルで違う意識が存在するらしい。
例えば俺が契約している精霊、便宜上精霊王と呼んでいるが、それとラグドリアン湖にいる精霊は同じものだ。
ただ精霊王が、現在のハルケギニア全域の意識であるのに対して、その一部であるラグドリアン湖にいる精霊は、限定された意識と言う違いがあるだけだ。
ただ精霊王ですら、まだ限定された意識らしい。
なぜなら、魔力が時間と空間、更には次元すら越えて伝播するように、精霊の存在そのものも更なる広がりを持っている。
そして、そこには更に高次の意識が存在するらしい。
まあこの辺りは、アルの考察なので、何とも俺には言えない。
ちなみに、精霊魔法とはこの様々な意識レベルにお願いし、魔力を使い不可能を可能とする術だ。
でだ、俺が契約している精霊は、水の精霊王と火の精霊王である。
このレベルだと、より高次の精霊意識の介入でもない限り下位の精霊魔法はキャンセル出来る。
長くなったが、何を言いたいかと言うと特に何も無い。
単に気を逸らしているだけだ。
今俺の身体の下では、アリサがアンアン言っている。
昼間の件で腹を立てたのだろう、酒を飲んで俺に襲い掛かって来たのだ。
元々アルとアリサの関係は、あまりそっち方面に興味を示さないアルに対してアリサが襲い掛かると言うパターンだった。
アルに元気がない場合は水の精霊にお願いしてまで一戦に臨んでいたのだ。
まあ、アルも拒否してなかったから、問題はなかったのだろう。
ところが、俺と言う存在をアリサは受け入れる事を決めたが、そこで迷いが生じたらしい。
今までのやり方で良いのか?
悩んだ末に、昼間のゼルマとの一件もあり、酒に紛れて襲い掛かると言う強行手段に及んだ訳だ。
全く、ハーフエルフとして、人の倍近く生きていても女は女なんだろう。
ややこしい事、ややこしい事……
勿論アルと違い、アリサの見事な姿態に俺が興味を示さない訳ない。
アルコールを飛ばし、素面に戻ったアリサをやさしくベッドに誘った。
ここで止めときゃ、楽しい一夜だったんだが…
ふと、魔が差した。
アリサがやったように、水の精霊で元気になったらどうなるんだろう。
アルの記憶では、結構長く楽しんだと言う思い出があるのだ。
それに、今日は流石に三時間にも及ぶ掘削作業のせいで、身体中ががたがたである。
水の精霊を使えば、疲れも溜まらない。
そう思うと試したくならない筈はない。
精力絶倫なんて、男の夢じゃないですか!
でだ、早速水の精霊様にお願いしました。
結果、俺の下でアリサは狂喜乱舞です。
でもね、大きな問題がありました。
ちっとも、気持ち良くね~!!!
人間の身体の八割が水で出来てます。
それを精霊様が操って元気にしてるんです。
神経細胞も全て精霊様の支配下です。
結果、もの凄く感覚が鈍いんです。
そりゃあんた、拷問に近いです。
感じそうで感じないと言う微妙過ぎます。
かと言って、今解除したらどうなるんだろう。
突然快感が襲い掛かって来るのだろうか?
判りません。
恐ろしいです。
アルの記憶から、いつかは終わるのは判ってます。
彼ならこれを楽しめたのかしれません。
でも、俺には無理!
だ、だれか、たすけて~
----------------------------------かいせつといいわけのようなもの--------------------------------
・ゲルマニア北東部にて、温泉が出るのかどうかは、判りません。突っ込まないで頂ければ嬉しいです。
・精霊の使い方として、一部見苦しい点がありました事を、深くお詫び申し上げます。