本編で語られているゲルマニアの設定は、作者独自の設定です。
ゼロの使い魔とは全く関係ありません。
それをご了承の上で本文をお読み頂ければ幸いです。
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屋敷に戻ると、様子を見にホールに向かう。
「あっ、ご主人さまおかえりなさいませ」
ヴィオラがいち早く気が付き、立ち上がり出迎えてくれる。
「「「お帰りなさいませ」」」
他の三人も慌てて立ち上がり頭を下げてくる。
何だが、全員に尊敬の眼差しで見つめられているようだが、何があったんだ。
訳が判らないのは面映いが今は聞いている暇は無い。
「あー、今度は帝都に行って来るので、留守番宜しく」
「あっ、ご主人さま」
それだけ告げて出て行こうとする俺に、グロリアが声を掛ける。
「うん? なんだ」
「あ、あのアマンダは?」
おおそうか、アマンダを置いてきたのだ。
「彼女の実家に置いてきた」
「あっ…そ、そうですか」
また訳が判らん反応が返ってくる。
後で迎えに行くだけなのに、どうして皆暗くなるのだ。
「彼女の事は後だ。 今は急がなきゃならんのでな」
それだけ告げると俺は私室に駆け込んだ。
こちらに戻ったのは、服を着替える為だ。
八王子さんのように、真っ直ぐ突っ込んで奪取して去るのは簡単なのだが、後々が面倒だ。
それよりここは穏便に事を図りたい。
金で済めばそれに越した事は無い。
だから、舐められないようにそれ相応の服装が必要となる。
ドラゴンの革をなめして作られたコート。
見るからに高そうである。
やたらフリルや襞の多いシルクのシャツ。
手間が掛かるので勿論高い。
所々に宝石をあしらった幅広のベルト、バックルは金製である。
やっぱり高い、特に宝石が高い。
ピカピカに磨き上げられた革靴。
きっと高い。
本物ならば…
日本のコスプレイヤーをなめてはいけない。
探せばこの位手に入るのだ。
まあ、ベルトはこちらの本当に高いものだが。
何せ、宝石の偽者は見る人が見れば判るそうだからな。
とにかく、如何にも高そうな服装に身を包むと俺は一階に降りる。
心配そうに集まっていた四人に軽く挨拶をして、俺は光に包まれた。
帝都ヴィンドボナは大きな街である。
ガリアやトリステインの連中は認めようとはしないだろうが、ガリアの王都リュティスやトリスタニアよりも遥かに大きい。
アルビオンのシティオブサウスゴーダが有数の大都市と認められているが、そんなもの比較にならない程大きな都市である。
これは、元々ゲルマニアの建国事情からして当然と言うべき結果だった。
ゲルマニアの地で発展して来た12の都市国家が、ガリアやトリステインに対抗するようにして建国した国家である。
こちらが皇帝と名乗っているのに、下に見ようとする他国に対して張り合うように発展した国なのだ。
南東のミュッゲル湖、北西のテーゲル湖、南西のグローセル湖の三つの湖に囲まれた広大なエリアがヴィンドボナとみなされている。
元々何もないエリアに、それぞれの都市国家の中心として人工的に作られた帝都でありそれ故、広大なエリアが用意されたのである。
実質的な帝都は、その広大なエリアの四分の一程度が市街地として広がっているに過ぎないが、それでも広大である事は間違いない。
東のミュッゲル湖と西のテーゲル湖を繋ぐように流れる川沿いに街が作られており、テーゲル湖よりの河川を引き込むようにしてホーフブルグ宮殿が造営されている。
西に宮殿があり、そこから東に向かってカイザー大通りが真っ直ぐに伸びている。
道幅100メイルのカイザー大通りは5リーグに渡って伸びており、宮殿の反対側は半径300メイルの大広場で終わっている。
両側には、行政府の建物から選帝公と呼ばれる12の公爵家の別邸、更には有力貴族のマンション、豪商の本店等が立ち並んでいる。
西の大広場は、ヴィンドボナを取り囲む、シュチェチン、アイムスビュテル、アルトシュタット、オッフェンバッハ、モーリツブルグの諸都市へと続く道の基点となっている。
現実には、帝都の位置を決め、それに対して諸侯の諸都市から競うように道を伸ばした結果なのだ。
今では、はっきりとした見分けはつかないが、それぞれの道沿いに諸都市の色合いが見受けられる。
大広場を中心に、三本の大通りが同心円状に形作られている。
カイザー大通り沿いの別宅以外に、帝都の本宅として、二本目と三番目の道の間には諸侯の豪邸が立ち並んでいる。
外側に諸侯の邸宅が配置されいるのは、いざと言う時、外縁道路を抜け宮殿に素早く到着する為と言う表向きの理由。
実際は、これよりも内側だと諸侯間の邸宅どうしの距離が近すぎ、いらぬ軋轢を生むという理由があった。
結果として、一番内側の通り沿いに商店等の各種店舗が発達する事となり、現在のヴィンドボナの繁栄の元となったのだから皮肉なものである。
で、長くなったが、今俺はその一番内側の通り沿いに来ている。
火の精霊の反応から、八王子さんの村から連れて来られた娘は、今いるヴィンドボナの北東部ではなく南東部辺りにいるようだ。
真っ直ぐに彼女達の元に行くのは簡単だが、俺は彼女達を斡旋している商人を知らない。
だが、アマンダ達を俺に斡旋した商人ならば知っている。
そう、ライナルト・ヴェステマン、主に北東に広がる二つの公爵領を中心に口入屋として商売をしているヴェステマン商会の会頭である。
口入屋とは、貴族が雇用する召使や執事、商人の奉公人の斡旋等を主に取り扱う職業である。
ちなみに、俺の領地のある北方辺境領と呼ばれるエリアは、この二つの公爵領の外側にある。
コウォブジェクを中心都市とするポモージュ辺境伯の管理下の一男爵と言うのがゲルマニアでの俺の正式の立場だ。
石造りの二階建ての商館、扉の上には『ヴェステマン商会』の文字が麗々しく躍っている。
さて、茶番劇を始めますか。
―その頃の屋敷での一幕―
「アマンダ~」
ヴィオラが泣きながら叫んでいた。
「落ち着け、まだそうだと決まった訳ではない!」
ゼルマが声を強張らせて叫んでいる。
そう言いながらも、ゼルマもほぼ間違いないと思っているのは口には出せない。
「大丈夫ですよ~、きっと帰ってきますよ~」
何故、皆が大騒ぎしているのか理解出来ないアンジェリカは、取りあえず慰めの言葉を吐く。
「でも、その方がアマンダには幸せなのかも…」
ご主人さまは、アマンダを実家に置いてきたと言っていた。
ご主人さまの知らない力を持っているアマンダは、それ程危険だったのだ。
そう思えば、殺されたりしないだけましじゃないだろうか。
それに…
ライバルは少ない方が良いわよね…
今度は黒いグロリアがそこにいた。
―その頃のアマンダ―
「でねー、こんなおいしいお菓子や食べ物が一杯あるんだよー」
ポケットに常に隠し持っている、飴を弟と妹に渡しながらアマンダは母親にそう告げる。
「そうかい、そうかい、良かったね、奉公先が良い処で」
母親はニコニコしながらアマンダの話を聞いていた。
「ああ、本当に心配したんだぞ、連絡もないままだからな」
父親も良かった良かったと頷きながらも答える。
「そうなのよねー、ご主人さま、一寸怖い所もあるけど、優しくて良い人なんだよ。
昨日もね…」
アマンダの突然の里帰りは、まだまだ続きそうだった。
「これは、これはバルクフォン卿、ようこそいらっしゃいました」
ヴェステマン商会のライナルト・ヴェステマン本人が、にこやかに立ち上がり出迎えてくれた。
一男爵に過ぎない俺に対しては過分すぎる応対である。
まあ、今現在金に糸目を付けずに、二十人からの乙女を集めてくれと依頼している。
既に、五人に対しては莫大な金額を支払っており、まだその三倍の金額が手に入る可能性があるのだ。
愛想が良いのも当然かもしれない。
勧められるままソファに腰を下ろすと、すぐさま飲み物が運ばれて来る。
この辺りの対応が上手くなければ、商売は勤まらないと言う所であろう。
ここを訪れた理由は、娘っ子の救出がメインではあるが、俺にはそれ以外の目的もある。
その為には、下手に焦らず上手く付き合わねばならない。
お茶を飲みながら、暫く天候がどうの、帝都の話題等の世間話がひとしきり続く。
年の頃では五十前後であろう。
ヴェステマンは終始にこやかな表情を崩さない。
「ところで、本日はどのような用件でお立ち寄り頂いたのでしょうか?」
俺が切り出さないと見切りを付けたようで、視線に少し鋭さを込めて問い掛けてきた。
「ああ、忙しい処、お邪魔して申し訳ない。三件程伺いたい事があったので寄らせて頂いた」
ほうっと言う表情を浮かべ、俺の話を更に聞きますと言う体勢を示してくる。
「一件は、いや二件はそちらの仕事に関連する事だな。 もう一つはお願いだ」
「お願いですか?」
「ああ、良い小麦が手元にあるので、それを売却したいのだ」
「小麦ですか、それですと流石に私共の手では難しいかと」
流石に小麦と聞いて、ヴェステマンの口元に苦笑いが浮かぶ。
「イヤイヤ、私もまさか、貴兄の店で小麦が売れるとは考えていないよ。 紹介して欲しいのだ」
「ああそうですか、やはり小麦と言うと、フリッチェ、ボーテ、ケーラー、ランマースのどこかでしょうね」
ヴェステマンが上げたのは、ゲルマニアの四大商人と呼ばれる穀物商である。
堅実な線で行けば、信用が高いボーテ商会、そして何かと黒い噂が流れるが利益が大きいランマース商会、この二つが本命である。
何とか、ヴェステマン経由で紹介状を貰えれば後々楽になるだろう。
「そうなんだが、どこが良いのかさっぱり判らん」
俺は困ったように両手を上げて見せる。
「この小麦なのだが、かなり質は良いのだ。ただ問題はゲルマニア、いやハルケギニアの何処を探しても同じものは見つからんと言う品なのだ」
俺は、ヴェステマンを商人としてはかなり信頼している。
幾つかの口入屋の社員に対して強制的な聞き取りも行い、ヴェステマンが所謂まともな商売を行なう事を確認したのだ。
「貴兄も気づいておられよう、私は生粋のゲルマニア生まれではない」
「ええっ、そうなのですか!」
うーむ、俺ではヴェステマンの驚きが本音かどうかの区別はつかない。
「ああ、実は東方の出身でね。どう言う訳か、その縁でこの小麦を裁く羽目になったのだ」
「ほおう、そうなのですか」
うん、興味は示してくれた……と、思う。
「なんでも、あちらから船で渡って来たらしい。
私には想像もつかんが、どうやら連中は海路での連絡路を確保したようだ」
「海路ですか。 しかし北方は氷の海と聞きますが?」
よし、食いついたな。
単なる相槌ではなく質問が出たのだ、間違いあるまい。
「氷の海を渡れるそうだ。 信じられんがな、ただ今回の航海で船がどうやらもたんらしい」
「それで、小麦ですか」
流石に商人、理解が早い。
「ああ、船を作りたいそうだ。その資金だな」
「なるほど、判りました。そうなると、なるべく高く買い取ってくれそうなのは、ランマース、いや、堅実な処でボーテですかな」
やはり、同じ判断か。
「そうなのだが、ご存知のように私は一男爵だ。 両商会とも余りにも敷居が高すぎる」
「判りました、このライナルト・ヴェステマン、バルクフォン卿の為に紹介状をお書き致しましょう。
幸い、両商会とも懇意にはさせて頂いてますので、何とかなると思います」
良し、まずは第一段階はクリアだな。
流石に、異国との商取引の可能性があると聞いて、乗ってこないようなやつは商人じゃない。
「おお、ありがたい! このアルバート、恩は忘れん」
「そんな大げさなものではありませんよ。
しかし、どちらが宜しいでしょうかね」
ヴェステマンが考え込む。
上手く行って、異国との交易路を握る事が出来れば、その商会の利益は計り知れない。
ヴェステマン自身が、それにより直接的な利益、即ち貿易に参画する気があるならば、堅実なボーテ商会。
あくまでも口入屋として、この話を紹介したとして恩を売るならば、短期的な見返りが期待できるランマースと言うところか。
「よし、ボーテ商会が宜しいかと存じます。
あそこは堅実ですが、その代わり確実に小麦を捌いてくれるでしょう」
「では、宜しく頼む」
まだ、二つも用件があるんだよなあ、流石にこう言う会話は疲れるわ…
二件目は、メイド達の話だ。
当初の予定では来週の中頃、こちらの言い方で言うならば、エオローの週、マンの曜日までに新たな召使候補を連れて来て貰う事になっていた。
それの確認である。
今の時点で、まだ三人しか集まっていないと言う事なので、期間を延ばそうと言う事となった。
元々、こちらも五人で手一杯なので、次の娘達が来るのを延ばそうと思っていたので問題は無い。
結局一週間、ティワズの週まで延ばす事とした。
また同時に料理人を三人程雇いたい旨を伝え、これについては二三日で連絡しますと、返事を貰った。
流石に、メイド五人で料理を作るのは、素人ばかりでは限度がある。
実際、料理本を翻訳しないといけないのではないかと考えており、無理がありすぎたと反省したのだ。
面倒だか、料理人には水の精霊にお願いし、守秘義務を守らすしかない。
さて、後は八王子さんの娘っ子の件だ。
「それで、もう一件お有りですね」
ヴェステマンは、ニコニコと聞いてくる。
ここまでは、悪い話ではない。
紹介状一枚で色々夢が見れるし、人集めの期間の猶予も得た。
その上、料理人を新たに雇いたいと言う話を持って来たのだから機嫌が悪くなる筈も無い。
「あー、言い難いのだが、五人雇った召使の内一人がどうやら騙されて連れて来られたらしい」
「なんと!」
ヴェステマンの顔が固まる。
そりゃそうだろう。
胡乱な商売をしている口入屋ではなく、信用第一の堅実なヴェステマン商会なのだ。
そんな噂が流れたら、大変である。
「書類上は何ら問題ない。 確かに契約はそうなっているし、彼女のサインもついていた」
「そ、そうですか」
最悪の事態では無い事に、明らかに安堵が見える。
ヴェステマン商会も騙されたと主張出来れば、まだましである。
「アマンダ、ああその騙された娘の名前だ、彼女に関してはどうやら私の屋敷で働く事には問題は無い様なので内々で処理できる」
「あ、ありがとうございます」
少し驚かせ過ぎたか、流石に堅実第一を標榜しているだけはある。
「でだ、彼女に聞くと、彼女以外に村から後二人帝都に来ているらしい」
「それはいけません。しかし当商会で斡旋したのは一人だけですが?」
「それはアマンダからも聞いている。
彼女の村の長者に頼まれてな、見つけ出して連れ戻したいのだ。
出来れば、どこから斡旋されたのか、教えて貰いたい」
ヴェステマンは、すぐさま商人の名前を教えてくれた。
ギルベルト・ゲルル、全国から人員を集めるのを主な仕事にしている口入屋だ。
しかも、私が行こうとすると、店のものを一緒に付けてくれた。
まあ、普通は仕入先は教えないが、不正が行なわれたとなれば、別と言うところであろう。
俺は、後で報告がてら紹介状を貰いに来ると告げヴェステマン商会を後にした。
そして、やけにガタイの良いネッケと言う兄ちゃんを連れてゲルル商会の元へ急ぐのだった。
ゲルル商会は、全国から人員を集めており、特に諸都市との繋がりは無い。
このような商会は多くがヴィンドボナの東側に店舗を構えている。
まあ、東側には主要都市は無く、東方辺境領があるだけなのでどうしてもこの傾向が強い。
どうやら、まだ娘っ子二人はこちらにいるようで、火の精霊の反応が強くなって来る。
どこかに売られていたら、また他所に回らねばならない所だったので、一安心である。
建物の規模は、先ほどのヴェステマン商会よりも大きなものだった。
ただ、入り口は馬車が通れる位のアーチ型の通路が建物に直接設けられており、ここが中間業者である事を物語っている。
大きな建物は、地方から集められた奉公人が奉公先が決まるまでの宿泊施設も兼ねているのだろう。
まだ小学生かと思うような子供が、水汲みの手伝いをしているのも見受けられる。
就業年齢の違いをまざまざと見せつけられるが、社会が違うのだからどうしようもない。
対応は、ヴェステマン商会から派遣されたネッケがやってくれるので、彼が親方風の男と話しているのを遠くから見ているだけだ。
どうやら話は付いたようで、ネッケが親方と一緒にこちらに歩いて来る。
「ギルベルト・ゲルル、口入屋だ」
無愛想な態度で、男が告げる。
「アルバート・コウ・バルクフォン」
俺も特に話す事も無いので、同様に名前だけを告げる。
「話は、ネッケから聞いた。アマンダだっけ、彼女と一緒に来たのはそこにいる二人だ」
俺はゲルルの指差す方を見つめる。
そこには、先ほど見かけた小学生位の子供が二人で一杯のバケツを運んでいた。
ゲルルから書類を見せて貰ったが、勿論そこには何の不備も無い。
まあ、あったらここにはいないだろう。
俺は不正を暴く事が目的ではないので、二人の金額について相談する。
通常なら、このような卸業者から一般のユーザーが商品を買える事は無い。
今回は、ネッケもヴェステマン商会から出っ張って来ている以上、ゲルルも譲歩せざるを得なかった。
流石に、あの年齢ですぐさま買い手が付く訳も無く、値段は二人合わせてもアマンダの半分も行かなかった。
俺は買い取った二人を連れて、取り合えずヴェステマン商会に戻る。
リリーとクリスティーナと言う名前の二人は、おとなしくついて来る。
ヴェステマン商会で、推薦状を受け取ると、呼んで貰った馬車に乗り込み屋敷を目指す。
流石に、二人を連れて転移は出来ない。
二人は馬車の中で、恐々と俺を見ている。
俺は、流石にこんな小さな子が働いているのを見ると、心が痛む。
子供が可愛そうと言う事もあるが、それよりこの年齢から働かざるを得ないゲルマニア、いやハルケギニアと言う社会そのものに心が痛むのだ。
いや違うな、何も出来ない自分に心が痛いのだ。
金は、ゲルマニアで暮す限りは、なに不自由ない。
力は、つい最近火の精霊の契約も得、八王子さん以外は怖いものは無い。
それだけの財力、力がありながら、このような子供達が働かざるを得ない社会を変える事は出来ない。
それが悲しい。
だが同時に、それが出来たとしても多分俺はなにもしないであろうと言う事も理解しているが為、心が痛むのだった。
「あ、あの、おじさん!」
黙り込んでいる俺に対して、どうやら勇気を振り絞ったのか、リリーが話し掛けてきた。
「うん? なんだい?」
子供達には罪は無い。
出来うる限り優しく接してあげよう。
「あ、あのおじさんが、私達がほうこうするひとなのですか?」
「あ、ああ、そうだが?」
この子達は、奉公の意味が判っているのだろうか。
二人は顔を見合わせて頷き合っている。
「「せーの! ふつつかものですが、よろしくおねがいいたします!」」
勿論、馬車の中で激しくずっこける俺がいた。
誰だ、こんな子供に碌でもない事教えたのは!
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地形は、ベルリンを元にアレンジしたものです。
宮殿は、長い時間に改築を繰り返しているので、ベルリンの宮殿群ではなく、ハプスブルグ家の王宮の名称をお借りしました。
選帝公の諸都市の名前は、地図上の地名より選択しました。
つじつまの合わない点等ご指摘頂ければ幸いです。