以下の投稿では、メイド'sは一切出てまいりません。
主人公が、領地を得るまでのお話の一つです。
異世界のお方が出てきますので、原作との乖離は更に大きいです。
それでも、興味を持って頂けたなら、嬉しい限りです。
宜しく
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ゲルマニア南部、マルコマーニ地方。
西に行けば、ガリアに通じるアルゲントラトゥムに通じているが、主要な街道から外れている為行き来する人は少ない。
俺は、領地候補の場所見る為、ここまでやって来ていた。
自分の領地として、運営するのにそれ程大きな所は面倒である。
それに、大きくなれば大きい程、必要となる資金も大きくなる。
まあ、アルの居城には、俺一人なら一生使っても使い切れない程の金貨が蓄えられていたが、それでも限度がある。
それに、俺は自分独りが楽しく暮せればそれで良い。
その目的の為、ヴィンドボナで色々金をばら撒いて確認した所、三箇所の男爵領が候補に上がった。
一つ目は首府に近すぎ、色々と目立つ点が多いので、俺みたいないい加減な貴族候補には不向きだった。
今回やって来たマルコマーニ地方の物件は、首府からもそこそこ距離があり、目立ち難い。
広さも、村が三つある程度、人口は600人~800人。
最も、この領民の数が多いのか少ないのか、俺にはさっぱりだったが。
いけるんじゃね。
そう思って、てくてく歩いて来たのだが、まさかこんな事になっているなんて思いも付かなかった。
今いるのは、その領地候補の村Aと村Bの間の草原です。
あちこちに煙が上がり、時折火の玉、多分ファイアーボールだろう、が飛び交い悲鳴が上がってます。
辺りには、数十名の傭兵らしき連中が傷ついて倒れている。
戦闘はまだ続いているようで、今小走りに走っている丘の向こうからは、まだやり合う音が響いていた。
丘の上、向こうの方に、時折あまり見たくないような、蛇の化け物のようなものが見え隠れするのは、気のせいだと思いたい。
俺は丘を駆け上り、裾野で腹ばいになる。
そのまま、丘の向こうを伺うように、頭を上げた。
うわあ…
騎士のような鎧兜の傭兵が、馬に乗って剣を振り回している。
剣の先端からは、何か電撃のようなものが発せられているので、あれはメイジであろう。
しかし、その相手がいけない。
ドラゴンである。
空中に浮かび、その長い尻尾を振り回しながら、傭兵の剣から発する電撃を小さな手を操って防いでいる。
時折、口から火の玉が飛び出すが、それらは他のメイジ達の繰り出す、術式で防がれている。
ありゃあ、あれはダメだな。
俺は瞬時に、傭兵達の負けを悟った。
今はほぼ互角の展開のように見えるが、明らかに魔力でドラゴンに負けてしまっている。
このまま、均衡状態が続けば、いずれ傭兵側のメイジ達の魔力切れが訪れ、勝負は一瞬で決するだろう。
さて、どうしたものか。
あの傭兵団は、別に俺の知り合いでもない。
まあ、ここにいれば巻き込まれるだけだから、とっと退散すべきか。
ドラゴンがどうしてこんな所にいるのかは疑問に思うが、少なくとも俺にとってはこの物件は手をだすべきものではないと判った所で十分だ。
しかしあのドラゴン、普通じゃないな。
通常の風竜や、火竜とは違う。
いやそれどころか、ハルケギニアに通常いる、あちらの世界で言う所の西洋の竜とは違う。
どちらかと言えば、東洋の龍のイメージに近い。
いやあれは、間違いなく東洋の龍だろう。
こっちの世界には、東洋の龍はいなかった筈だが。
うん?
確か、アルの記憶で東洋の龍がいたよなあ…
ああっ!
思い出した!
俺はフライの術式を組み、その場から慌てて飛び出した。
飛び交う電撃やファイヤーボールをカウンターの術式を展開して無効化しながら、浮かんでいる龍の鼻先に移動する。
龍が怪訝そうな顔で、攻撃を手控えた。
地上でも、傭兵団からの攻撃が止まる。
「なにやってんですか?八王子さん」
龍、いや八王子さんが怪訝そうな顔で俺を見る。
「我の名を知るお主は何者じゃ?」
ああ、今の俺じゃ八王子さん(龍)は、判らないか。
「あー、すんません、俺、元アルバートです」
「うん?主はアルか?」
八王子さん(龍)が身を乗り出すように、俺を見つめる。
すみません、怖いです。
「おお、そう言えば、アルの匂いじゃの、久しいの」
八王子さん(龍)の身体全体から嬉しそうな雰囲気が広がる。
「ああ、まあ事情はおいおい説明しますから、取り合えずヒト型とって貰えません?」
「おお、いいぞ」
そう言うやいなや、少し細面の兄ちゃんが、俺の目の前に浮かんでいた。
勿論龍は、一瞬の内に消え失せる。
身に着けているものが、どこぞの仙人さんが着るようなローブと言うのが違和感ありまくりなのだが。
「ここで会ったのも何かの縁です。仲裁くらいしますから、取り合えず下におりましょう」
「助かる。我ではその辺りは苦手での」
本当に八王子さん(ヒト型)は、直情型だから、多分そのせいでのトラブルであろう。
しかし、あっちの傭兵団の皆さんが納得するような話になるかどうか。
俺は不安を感じながら、八王子さん(ヒト型、直情型)を連れて傭兵団のリーダと思しき人物の側に着地するのだった。
取り合えず終わったか。
竜が人型に変わった。
それ自体今まで見た事も、聞いた事も無い話だが、変わったものは認めざるを得ない。
おかげで膠着状態、いや、壊滅寸前だった我が団の危機も取り合えず避けれた。
助けに入ったのは、一人のメイジ。
突然飛び出してきたと思えば、竜と我々のメイジが放つ攻撃を全て防ぎ、竜の鼻先に浮かぶ。
彼が何か叫ぶと、竜の攻撃が止んだ。
そのまま、二三話しかけていたようだが、突然竜が消え、そこにはローブを纏った青年が浮かんでいた。
今、二人がこちらに降りてくる。
多分事情は、あのメイジが聞かせてくれるだろう。
私は取り合えず、部下達に負傷者の介護に当たらせる事にした。
俺と八王子さん(元龍)は、馬から下りて回りに指示を出している男性の側にゆっくりと着地した。
「あー、すみません。アルバートと言います。でこちらが、ドラゴンの八王子欣也さんです」
とにかく、事情を知らねば先に進めない。
俺はリーダらしき男に話しかけた。
「アウフガング傭兵団、団長のファイトだ。申し訳ないが、先に負傷者の手当てをさせてくれ」
ファイトさんは、自己紹介を済ますと何も尋ねずにそう言った。
俺にはその態度は非常に好感を持てるものだった。
色々聞いてきたり、文句を言うでもなく、やらねばならない事を優先する。
中々いないんだよなあ…
「ああ、手伝いましょう。ほら、八王子さんも、貴方のせいですからね」
「しかしな、アル、我にも事情があるのだぞ」
「あー、判ります、判ります。どうせ女なんでしょ、貴方の事だから。後でゆっくり伺います。今は手当てを手伝って下さい」
俺は、八王子さんの説明を切って捨て、とりあえず負傷者の集まっている方に駆けて行く。
水の術式を展開し、広域での治癒魔法を発動する。
これはあくまでも回復を早める効果しかない。
その上で、次に水の秘薬を取り出し、術式を展開し、重傷者の治癒を始めた。
何か、ブツブツ言っている気がするが、横で八王子さんも手をかざして負傷者の治癒を行ってくれている。
八王子さんも龍だけあって、魔力は相当のものである。
負傷者は、見る見る回復し、少なくとも重症で呻いている人間は瞬く間にいなくなった。
「まあ、これで大丈夫でしょう。それじゃ、八王子さんファイトさんの所へ戻りましょう」
俺は八王子さんを促す。
「アルや、我はか弱き娘御を守ろうとしただけじゃぞ。この者達が問答無用に襲い掛かってくるものだから、どうしてもだな…」
落ち着いたと思ったら、早速八王子さんが、事態の説明を始める。
どことなく、自分を庇うような言い方が、アルの記憶にある八王子さんの印象と一致するようで面白かった。
「すまない、手間を掛けた」
漸く話す余裕が出来た。
先ずは、負傷者の治療を行なってくれた事に、礼をする。
さて、事情を確認させて貰おうか。
ファイトは二人を見ながらそう思った。
片方、アルバートと名乗った方は、普通のメイジのような外見をしている。
そう、外見だけは普通だ。
もう一人、ハチオウジキンヤと言うのは、どうみてもハルキゲニアの人物には見えない。
アルバートがさりげなく言ったように、本当にドラゴンなのかもしれないな。
「いや、多分原因は、八王子さんにあるのでしょうから、これ位当たり前です」
ここは、下手に出ておく。
とにかく、事情を理解しないと、俺にはどうしようもない。
「改めて、自己紹介させて頂きます。」
「アルバート・コウ、今度この地の男爵領を継ぐかもしれないので、領地の様子を見に来た所でした」
先ずは、俺自身の事情を説明し、相手の疑いを解かねば。
「そしたら、皆さんがドラゴンと戦っているのに遭遇した訳です」
成程と言う表情をファイトが浮べている。
「で、相手をされているドラゴン、ああこちらの八王子さんと言うのですが、私の古い友人だと気がついた為、思わず飛び出してしまいました」
俺の説明で少しは納得したようだった。
最も、ドラゴンが友人と言う事で、かなり驚いているのは仕方ない。
ファイトの事情を聞くと、彼らはこの男爵領の領主の依頼で、村娘を浚ったドラゴンを退治しに来たそうである。
「しかしながら、ハチオウジと言うのか、君にはとても適わなかったな」
ファイトさんが呆れたような顔で、八王子さんを見つめる。
「いや、主も中々のものだったぞ。殺してしまわないかとひやひやさせられたわ」
ああ、八王子さん、相手の傷口に塩を塗るような事を。
「八王子さん、また村娘を浚ったりしたんですか」
俺は八王子さんを詰問する。
彼はそんな事するような龍ではないのは承知しているが、ファイトは知らないからちゃんと弁明させなければ。
「な、何を言うか、アル!我はそんな事はせん!」
「じゃあ、村娘の話はどうなんですか?」
「あれは娘御が、領主に浚われるのを嫌がって、我に助けを求めて来たのじゃ」
あー、どうやら理由が飲み込めてきた。
傾いている男爵家が、金を得る為に村娘を売ろうとしたと言うのが元だろう。
それを八王子さんが止めた。
領主は、最早どうしようもない。
そりゃ、実際に水面下で男爵領の売却の斡旋が始まっている訳だから。
ドラゴンが出るとなると、領地の買い手もいなくなる。
焦った領主は、傭兵団に退治を依頼したと。
まあ、大体こんなとこだろう。
俺が、推測を話すと、ため息を吐きながらもファイトも納得したように頷いていた。
「そうすると、一銭にもならんな…」
ボソッと漏らした言葉に、憐憫を覚えるが、俺にはどうしようもない。
一応、八王子さんに浚われたと言われている娘さんを連れてきて貰い、内容を確認した。
結果、ファイトは落胆したように帰って行った。
要員の被害は、俺と八王子さんも手伝って治療したのでそれ程ではないだろうが、装備や行程に必要となった物資等の補給は大変だろう。
まあ関係ないが、機会があれば仕事の依頼でもしてやろう。
「で、八王子さん、どうするんですか」
一応傭兵団が引き上げるのを確認してから、改めて八王子さんに俺は話を聞いた。
彼、八王子欣也は、こことは違う世界に居を構える龍である。
それが何でこの世界にいるのかと言うと、原因はアルにあった。
二百年近く前、始祖ブリミルの魔法の体系を研究していたアルは、一つの事に気がついた。
それは、召還魔法サモン・サーヴァントについてだった。
召還魔法はゲートを設け、遠方にいる幻想種や動物を呼び寄せ使い魔とするコモンマジックである。
召喚そのものは、メイジであれば誰でも出来る簡単なものだと言う認識だが、行なっている事そのものは、普通の四大系統の魔法レベルでは説明できないのだ。
使い魔となるべき生物は、ゲートに入る事で、召喚を行なうメイジの前に表れる。
これは、ゲートが転送の魔法を発動している事につながる。
そう、召喚魔法と言うコモンレベルの魔法で、一瞬とは言え二点間を結ぶゲートを設ける。
しかも、水の魔法でも難しい主に対する親近感もしくは、服従心を召喚された生物に与えることすらやってのけている。
サモン・サーヴァントの術式には、何かある。
それがアルの結論だった。
召喚魔法のルーンや術式の解析、更には召喚された使い魔に刻み込まれるルーン、そして始祖ブリミルが呼び出したと言われる四人の虚無の使い魔達のルーン。
これらの解析や様々な類推、試行錯誤の末、アルはサモン・サーヴァントの術式より、新たな二つの術式の構築に成功する。
一つは、ゲート構築の術式。
もう一つは、召喚魔法の解析により派生的に作り上げられたものであるが、水の秘薬と呼ばれる水の精霊を使う魔法だった。
後者に関しては、どこかでまた説明する機会もあろう。
問題となるのは、ゲート構築の術式である。
これにより、アルは他世界への移動が可能となったのである。
そして、ランダムに現れる様々な世界へのゲートを開いている時に、飛び込んできたのが八王子欣也さんである。
龍が神龍と崇められ、東洋の島国にて人間と共存している世界よりこちらの世界に飛び込んできた八王子さん。
知的好奇心旺盛な研究者だった八王子さんは、たちまちアルと意気投合し、二人でゲートの研究を続けた。
元々、様々な魔術の行使が可能な龍である八王子さんと、この世界でもトップクラスの魔導師であるアルとの交流は様々な成果を生み出した。
ゲートの維持魔力の低減、更に特定世界同士の座標の確定、双方向に行き来可能なゲートの展開等、これら全てが俺を召喚する時に使われた術式である。
ちなみに、蛇足ではあるが、ゲートは同一世界内でも展開が可能である。
即ち、瞬間移動に近い方法をアルは、作り出していたのである。
数十年に渡り、お互いの研究にある程度区切りがついた時点で、八王子さんはこの世界の探索の旅に出た。
それ以来、偶にアルの居城に遊びに来たりする位だったが、ここ数十年は尋ねて来る事もなかった。
アルにすれば、あちらの世界にでも帰っているのか程度の認識だったようだ。
「おお、我はこの娘御が気に入っての。暫くはここに滞在するつもりじゃ」
説明が長くなったが、八王子さんは元気にそう答えてくる。
俺は、やはりかと、ため息を吐いた。
龍は気に入った個人が出来ると、その側で一生過す事があるらしい。
龍の人生(?)は長い。
人間とは比較にならないその生の間で、めまぐるしく移り変わる人間の一生と言うのは中々面白い見ものだと言うのだ。
アルはその考えが理解出来なかったようだが、今の俺ならば概念的には少しは判る気がする。
要は、テレビやビデオのドラマを最初から最後まで見るような感覚なのではないかと。
「了解しました。それじゃ、俺は北の方でうろうろしてますので、また」
「おお、アルも達者でな」
お互い連絡を取ろうと思えば、直ぐにでも取れる。
八王子さんを傷つけられるような存在が、この世界にいるとも思えない。
俺はヴィンドボナに戻る為に、ゲートを展開する。
こちらに来る時は、てくてく歩いて来たが、帰りはもう面倒だった。
「それじゃ、八王子さん失礼します」
俺は、ゲートを潜った。
少なくとも、この領地の購入は諦めよう。
いくらなんでも、龍が住まう領地なんて、おとなしく暮したい俺には向いてない。
後は北の領地だけか…
頼むから、へんな魔獣なんか住んでるなよ。