「一応、部屋は二人部屋になっている」
扉を開けて、部屋の中に全員を招き入れる。
うん、予想通り彼女達全員が、呆気に取られている。
か・い・か・ん
何も知らない、愛らしい美少女達に、今まで知らなかった世界を、教えてアゲル。
驚愕に、喚く娘。
驚きながらも、好奇心に耐えきれず、その世界に手を伸ばす娘。
拒否しながらも、それを拒めない娘。
自らの運命として、素直に受け入れて行く娘。
嬉々として、自らそこにのめり込んで行く娘。
反応は、様々ではあるが、目覚めた娘達は、こうして大人への階段を登って行く・・・・・・
て!ちが~~~うっ!!
イカンイカン、妄想が入ってしまった。
うん?願望か?
いやいや、とにかく、彼女達が驚くのも、無理はない。
まあ、確かに従業員の部屋には見えんわな。
部屋に入って右手にバス、トイレ。
あー、ちゃんとそれぞれ独立したタイプだ。
部屋の中にはセミダブルのベッドが二つ、奥にはちゃんと、小ぶりのテーブルを挟んで椅子が二脚。
両壁面には、下段に作り付けのクローゼットが付いたライティングテーブルが一セットづつある。
窓は元々の建物の構造上、やや高めだが、それでも十分明るい。
まあ今は、もう真っ暗だけどな。
隅の一画には、小さな冷蔵庫と、電気ポット、勿論二人分のカップとグラスも抜かり無い。
まあ、ぶっちゃけ、設計段階で、二十人程度の客が長期滞在出来る部屋を用意してくれと、言ったらこうなった。
ちなみに、二階には、この倍の広さの、正式な客用の部屋まである。
あっちは、ミニキッチンまで付いた、長期滞在型のリゾートホテル。
こっちは、長期滞在型高級ビジネスホテルみたいな感じだな。
流石、ホテル建設にも実績豊かな鹿○建設、うん、大×組か。
まあ、館が大き過ぎて、スペース余りまくりなんだよ。
無駄に広い、ホールやら、貯蔵庫、武器庫まであったからな。
「あ、あの・・・ここが、私達の、部屋・・・でしょうか?」
グロリアは、驚きながらも、ご主人さまに聞かざるを得なかった。
きっと、私達の部屋なんだと言う予想はグロリアにもあった。
ここまでのご主人さまの言動を思い返して見れば、判る。
恥ずかしかったけど、一緒にお風呂に入った。
食事も、一緒に作り、みんなで食べた。
ご主人さまの頭の中には、貴族とか、平民とか言う区分なんて、意味が無いのだろう。
グロリアは、尚も思う。
この屋敷だけでも、その財力は、相当なものだろう。
メイジとしての実力も、ゼルマじゃないけど、グロリアも十分驚かされた。
ご主人さまは、ゲルマニアでの地位や身分なんて、きっと、小さなモノなんだろう。
こんなに凄いご主人さまに、仕える事になるなんて、グロリアは、予想もしていなかった。
その事に、異義はない。
うううん、他の貴族様に仕えるよりは、遥かに良い。
ただ、一つだけ気がかりなのは・・・
グロリア達って、ご主人さまの中でどのような位置付けなのでしょうか。
「ああ、ここには、これ以下の部屋はない。確かに、君達の部屋だ」
コクコクと頷く娘達。
うん?
ボカンと口を開けて、見詰める娘…
こら、アマンダ、その顔は止めろ、全く。
お持ち帰りしたくなるじゃないか!
「と、とにかく、一応二人部屋だが、今は一人づつ部屋を使ってくれ」
その場で、適当に部屋割りを決めた。
どうせ、どの部屋も同じなので、誰がどの部屋と言うのはたいした問題ではない。
問題は、どこに誰がいるかだ。
よしっ!
アマンダが、二番目、グロリアが一番奥!
覚えた!
べ、別に、よ、夜這いしたいからじゃないんだからね!
いや、スミマセン、その気満々です。
アマンダは、かわええし、グロリアは、ほら、何となく、俺への接し方優しいし。
そ、それに、お風呂で身体洗ってくれたし。
行けるんじゃね?
それに、アータ、あの胸!
お見せ出来ないのが残念です。
「ご主人さま?」
おおっと、ヤバい、ヤバい。
思わず、涅槃の境地にたどり着くとこだった。
とにかく、彼女達に部屋の設備を教えねば。
ハイ、驚愕の連続でした。
ベッドの柔らかさに、予想通り、アマンダが、跳び跳ねて下さいました。
アンジェリカ、冷蔵庫の後ろを覗き込んで、コンセント抜かないで下さい。
『エイッ!』て、あなた、確信犯でしょ。
ヴィオラ、洗面場で鏡に向かって、『なんか違う』とか、『おかしい』とかブツブツ呟かないで下さい。
怖いです。
ゼルマ、どうして説明聞かないで、俺にしなだれ掛かって来るのでせうか?
おじさんは、イッバイ、イッバイです。
グロリア、内線電話を持って、『まあ、ご主人さまから、連絡が入るのですか』と、満面の笑みで言わないで下さい。
でも、『困りましたわ、でんわの前から、動けませんね』って、真剣に悩むのは反則です。
貴女も天然入ってるのですか、ありがとうございます。
後、ゼルマをきつく睨まないで下さい。
HPを危険な程消耗して、今度は反対側の建物の二階まで、やって来た。
もう、夜もかなり遅い。
今日中に済まして措かなければならない事は、後二つ。
両方とも、主に俺の為になる事だ。
何としてでもやり遂げねば!
あっ、まあ一つは、彼女達の為にもなるかな?
こちらには、ご主人さまの私室がある。
ヴィオラは、そう最初に言われたのを覚えていた。
みんなも、それを判っているのか、ご主人さまに従いながらも、表情が・・・
固くなかった。
アンジェリカは、何が出て来るのかと、目を輝かしている。
よしっと、手を握りしめ、気合いを入れているゼルマさん。
それを睨みながら、明らかに対抗心旺盛な、グロリアさん。
皆の様子が、変わったのに気付き、ワタワタと慌てて、キョロキョロしてるアマンダ。
みんな!
判ってるの!
これから、ヴィオラ達、食べられちゃうのよ!
ヴィオラは、大声で叫びたかった。
昼前から、色々あった。
ご主人さまに、優しく扱われ、みんな騙されている。
ゼルマさんや、グロリアさんなんか、完全に、その気になってる。
それで良いの!
た、確かに、奉公に上がった以上、に、肉体関係も、含まれるけど・・・
ヴィオラには、訳が判らなかった。
なまじっか、考える時間があるだけに。
これが、有無も言わさせず、無理矢理散らされていたら、涙を流して、運命として受け入れていただろう。
そして、相手を憎みながらも、受け入れていたかもしれない。
判らない。
ヴィオラには、どうすれば良いのか。
いや、ヴィオラは気がついていなかった。
どうすれば良いのかではなく、どう対応すれば良いのかが、判ってない事に。
「ここが、俺の私室になる」
三人の娘達に、緊張が走る。
後二人は、好奇心と、困惑の二重奏だった。
ただ、扉が開かれると、全員の視線が、暗い部屋の中に注がれた。
「えっ?」、「うわっ!」、「ひやぁ!」
言い方は違えども、パチンと言う音と共に、部屋に光が満たされた時に漏れたのは、困惑の五重奏だった。
「あー、見ての通り、館の中で、一番汚い部屋だ」
俺は、頭を掻きながら、そう言うしかなかった。
だって、仕方ないだろう。
館のリフォームが終了してから、二週間近く経っている。
新しいフカフカのベッドと綺麗なシーツがあるんだから、使わない手はない。
何せ、こっちの世界に来てから、最高の住環境だ。
堪能しない訳ない。
だけど、独りでこんな馬鹿でかいベッドのシーツ替えて見ろ。
それを洗濯機にほり込んで、シワひとつない状態まで綺麗にアイロン掛けれるか?
毎日着ている服にしたって、そうだ。
この世界の普通の服装に合わせて、あっちで特注した衣装だ。
動きやすさ、軽さは段違いさ。
だけどな、その分、皺になるんだよ。
洗濯もデリケートなんだよ。
食事もそうだ。
料理も、独り暮らしが長かったから、そこそこ出来る。
だけどな、あの厨房で、独り用の食事なんか作れるか?
途中で気付いたさ、何故俺は客間に寝なかったんだろってね!
あっちなら、シーツも予備が一杯あるし、小さなキッチンも付いている。
でもなあ、ここは俺の家だぜ。
どうして、客間で寝なきゃならんのだ!!
んまあ、そんな訳で、私室は、しわくちゃなシーツと、汚れた服。
各種ファーストフードの袋やカップ麺の容器が転がる巣窟となったのでありました、まる。
「まあ、汚ないのは勘弁して貰うとして、君達の最初の仕事として、この部屋の片付けをお願いする」
「ハイ!頑張ります!」
アマンダは、元気に返事をした。
一時は、ゼルマさん達の異様な雰囲気に、何があるのかと、不安だった。
だけど、お片付けなら、大丈夫!
私でも、ちゃんと出来る!
「ハーイ、私も、頑張っちゃいまーす」
アンジェリカも、嬉しそうに、答えた。
何せ、ご主人さまの部屋を隅から隅まで探索出来るのだ。
ビックリ箱のような、このご主人さまの屋敷。
何が出てくるか、アンジェリカは期待にワクワクするのだった。
そんな元気一杯なアマンダ達の姿を見ながら、グロリアは、溜め息をそっと漏らした。
期待を逸らされ、がっかりした気持ちもある反面、安堵しているグロリア自身がいた。
いくら、覚悟を決めているとグロリアが思っていても、自分自身はまだ未経験なのだ。
怖くないと言えば嘘になる。
ダメね~
ふと、顔を上げると、同じような表情を浮かべたゼルマがいた。
あっ、ゼルマも同じなんだ。
二人の間に、奇妙なシンパシーが通じた瞬間だった。
「私達も頑張りましょ」
「ええ!負けませんわ!」
「フフッ、私もね」
全員で、ご主人様の私室のお片づけに取り掛かりました。
その中でヴィオラさんが、『なんか違う』、『アリエネー』とか、つぶやき続けているのを、皆綺麗に無視することにしたのは乙女の秘密です。(byアマンダ)
-----------没エンド(迷いました)---------------------
「私達も頑張りましょ」
「ええ!負けませんわ!」
「フフッ、私もね」
ゼルマとアマンダ、これが二人の始めての会話。
そして、これが後にハルケギニア中にその名を轟かす、
特殊傭兵団「お掃除メイド隊」の
団長と、副団長の最初の共同作業となったのは、あまり知られていない。
すみません、嘘です。