伝説の槍によるハートブレイクショット(本来そんなものでは済まなかったのだが、十数枚のダンボールによってこの程度に弱まった)を受けて気絶しながらも、何とか家に帰ったワルガキ士郎は、今、まさに危機に瀕していた。
『シンニュウシャハッケン! シンニュウシャハッケン!』
家中に隠された紅のランプが壁からせり出して回りだし、びーびーとサイレンが鳴り響く。
養父の張った結界―――その、敵意を持った相手が接近してきたときに感知する機能が、それを告げている。
即ち―――目撃者を消そうとし、その本人が生きているとわかったとき…、再び殺しに来るという道理だ。
なお、この結界の元々の機能は、警報として鈴の音を鳴らすことであり、このびーびーとうるさい警戒音は士郎自身が「こっちのほうが悪役っぽい」という理由で改変したものである。
―――殺される
あの槍兵の力は、直接見た己自身がよくわかっている。
あれと正面切って打ち合う? ……冗談じゃない、馬鹿げている!
不意を打とうが何をしようが、あの槍兵を殺そうなどと無理が過ぎる。
逃げる? 対抗するのにも増して無理だ。我が家が現在保有している足はオーダーメイドのママチャリのみ、(荷物積載量はママチャリだが、変速機は48段変則でサスペンションつきであるとはいえ)
槍兵から逃げるのには荷が勝ちすぎる。
確実に、衛宮士郎は窮地に立たされていた……。
「衛宮君、無事っ!?」
遠坂凛が衛宮邸に乗り込んだとき、その庭は、まさに惨状と言ってよかった。
庭の景観自体はまあ、ダンボール御殿が三軒ほど聳え立っているあたり、いつも通りの衛宮邸だ。しかし、その庭の中心に、それは存在した。
―――ぎらぎらと殺気をたぎらせながら周囲を見回し気配を探る槍兵。
―――そして、その目の前に逆さまに置かれた、あからさまに怪しいダンボール箱。
―――――そう、いろんな意味で大惨事だった。
「くそっ、何処に隠れやがった、魔術師!」
そう、段ボール箱の目の前で歯噛みする槍兵――人類の守護者とされ、この聖杯戦争にサーヴァントとして呼び出された英霊、ランサー。
「む、何たる隠行だ……。いることまではわかるが、そこまでしか掴めん」
そして脇に立つアーチャー。彼はどこか訝しげな顔をしている。
凛は問い詰めたい。お前ら、本気で言っているのかと、それはひょっとしてギャグで言ってるのかと小一時間問い詰めたい。
「おかしい……、どういうことだ……。いや、そういう『可能性』というのもあるのか……?」
「どうしたの? アーチャー」
「いやなに…」
その呟きから、何となく不自然さを感じたため問うたのだが、
「ただの人間が、英霊を騙し通すほどの隠行を使えることを不審に思っただけだ」
その言葉に、何処か、何かを埋め隠すような響きがあった気がしたが、何に対してこうも引っかかっているのか凛も自分自身で理解できていなかったため、追及することもなかった。
そんな間にも、目の前で行われる大惨事系のコントはまだまだ進行中だ。
「くそっ、出てきやがれ! …そこか!」
思いついたように、その魔槍を庭の植え込みに突き入れたかと思えば、
「こっちか!」
そのまま薙いで苔生した岩を叩き割る。
「畜生が……!」
すぐ足元にあるダンボールに見向きもせずに槍を振るうランサーを見る凛の目は、ただひたすらに冷えていた。
「ねえ、アーチャー。あなた弓兵でしょ? 今のランサー、狙撃できないかしら」
「承知した」
一旦衛宮邸を出ると、三軒隣の醍醐さん(仮)宅の屋根の上へと飛び乗り、虚空へと手を翳す。
すると瞬く間に黒塗りの洋弓がその手に握られ、漆黒の矢が番えられた。
「先に言っておくが、凛、奴も英霊だ。この程度の不意打ちでくたばるとも思えんぞ」
そういえばそうだった。
今さっきの行動から芸人の一種かと誤認していたが、あれでも、学校で人間離れした立ち合いをこのアーチャーと演じたのだ。すっかり失念していた。
でもまぁ……。
「構わないわ。あんまり槍を振り回されると、アホらしいけれど衛宮くんに当たってしまいそうだもの」
「ほう……、凛、君はそいつが何処にいるのか察知できるのか?」
「………」
それはそうだろうと思わざる負えない。何せ、その足元すぐにいてわからないほうが異常であるのだ。
「……凛、何故に君は、私を馬鹿を見るような目で見るのかね?」
どうやら、こいつらには本気であの不審なダンボール箱が目に入っていないらしい。
凛は溜め息をつく。何だか頭痛がしてきた。
「……まあ、納得できんがとりあえず始める」
十六連射。
流石は英霊と言わざる負えない、一瞬のうちの妙技だ。
だが敵も然る者、その程度防げずに何が英霊か、と言わんばかりに軽く、その紅の魔槍で弾き飛ばす。
――これは失策だったろうか。この槍兵にこの距離では、こちらに分が悪いか?
凛が見て取れる程度の実力でも、彼の実力ならば、この矢の雨の中であろうとこちらへ軽々と接近できるように思えた。
「チッ、弓兵、貴様の見極めはもう済んだというのに……、あ? わぁったよ、はいはい了解だマスター」
が、槍兵はそれをせず、主の命と思しきものに従い撤退してゆく。
「深追いはしないでいいわ。私はちょっと、衛宮くんに、そう、ちょっと尋ねたいことがあるから――」
「了解した、凛」
醍醐さん(仮)宅の屋根から主従揃って飛び降りると、もう一度陸を歩いて衛宮邸へと向かう。
そして正門から入ると―――そこは、ついさっきまでとは別世界であった。
「ふははははは………、よくぞここまで辿り着いたな遠坂凛よ!」
―――ダンボール。
風も無いのに、その中ではダンボールが舞い踊っていた。
虚空から出でて、その人物の周りに纏わりつくは、温かみのある土色のダンボールたち。
――― 一体なんだというのだ、これは。
召喚魔術? 否、そうではない。空間に歪みが見られる訳でもない。
だというのなら―――
「クックック……ようこそ、フォートレス衛宮邸へ……」
轟然。
覇気に溢れて立ち尽くすのは、この家―――否、要塞の主たる衛宮士郎。
「そして……、今宵はどのような御用向きだ、ご客人?」
―――投影魔術!
アーチャーに庇われるように後ろに立つ遠坂凛の戦慄に、衛宮士郎はギラリと笑みを浮かべた。
あとがき
はい、意味が分かりません。
我ながら前々から何が書きたいのか分かりませんでしたが、今回は更に不明です。
隠密の概念武装、隠なる蛇尾とか我ながらトチ狂ってます。
一応設定はあるんですヨ? 型月厨の方に説明したらキレられるかも知れませんけど、一応は。
気になるコメントへの返答です
>ダークダンボール団の活動内容がえらく楽しそうで気になります。構成員は士郎と桜だけなのでしょうか?
桜は士郎が勝手に言ってるだけの員です。士郎が認めた人間しか入れないせいで、団員は団長エミヤと最高幹部桜の二人だけです。
>次回はいよいよサーバント召還ですかね?悪役になった士郎はアルトリアと相性悪そうですし、ギスギスした会話が繰り広げられそうで楽しみです。
そんな予想をマッハでぶっちぎりまさかの召喚無し! もはやいつ召喚すればいいのか、完璧に時期を逸しました。どうしろと?
>サーヴァント相手でもなんともないぜ
なんともないぜ!
>設定的なことで言えば「召喚自体は大聖杯が行っている」で問題ないかと思われ。
なんか適当に気合入れたら召喚できました、でおkなのですね。把握しました。
>ダンボール最強伝説すぐるwwwwwww
>ダンボールがあっても即死だよww
>このダンボールならきっとエヌマ・エリシュも防いでくれるwww
>バ・・・カ・・・な?!ダンボールで防いだだとぉ?!段ボール万歳ww
>なんというかスゲーな段ボール。
>流石段ボールwww俺たちに出来ないことを平然とやってのけるwwwそくに呆れるwww屁土がでるwww
>自慢の槍が段ボールによって防がれたと知った時、ランサーの兄貴はどんな顔するんだろう。
>宝具の攻撃を防げるダンボールって既に概念武装の領域に達してるんじゃねーの?wwwバーサーカーの斧剣直撃しても「ダンボールがなければ(ry」言いそうで怖いわwwww
>アイアス以上の盾だ。防御は完璧。
ダンボールは遮断と内部への防護の概念を持ちます。日本全国のみなさんならそれは容易く理解できるでしょう。
>エミヤバスターズ・・・御苦労さま。これ、胃薬だからあげるよ。
慎二はなんだかんだとダンボールに対抗するのに情熱を燃やしてますし、女の子は何か起こるたびに公然と慎二の傍らに居られる。なので……
>赤い悪魔もいるのに士郎の相手までしてたら胃痛で死ねそうですねw
と、被害を受けるのは一成ただ一人です。
>とある天才はダンボールで東京タワーを作ってやるとおっしゃいました。エミヤも作れるのでしょうか?w
投影魔術もあるので、固有結界使えばいけるのではないかと
>>ヘルメットが無ければ即死だった 待てそれは死亡フラグだ!
とりあえず倫敦までは生きてそうですし、いいのではないかと。
>一成ルートがない…だと…
代わりにワカメルートが解禁してますので、そっちでご勘弁を
>というか、死亡確認くらいはしてるはずだよね、兄貴。
数十枚のダンボールを打ち抜いた手ごたえは肉を刺す感覚によぉーく似ていたようです。
>しかし、校内で騒動が起こるたびに全力で治めにかかり、その姿に惹かれた女子生徒が手伝いを買って出て、やがて生徒会に認められた活動となり……。まるで学園モノのギャルゲーかラノベの主人公のようではないか、慎二。なんか一成とも良さそうだよなぁ。
スーパー慎二、略してスパシンです。主人公補正くらいつきますよ、それは。
誤字、修正しました。
キャラの方針が大体固まってきたので、次回辺り型月板へ進出しようかと思っています。