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No.6058の一覧
[0] 悪役エミヤ ― ダンボールの魔術師【士郎崩壊モノ】[ネイチャー](2009/12/14 01:00)
[1] プロローグ二話 『覚醒する初代・変態エミヤ』[ネイチャー](2009/01/28 03:28)
[2] プロローグ三話『キャラとして軸がぶれている』[ネイチャー](2009/01/28 15:37)
[3] ゆめのはなし 『悪役の生まれた日』[ネイチャー](2009/03/12 01:21)
[4] 第1話 『我を知りえぬ』[ネイチャー](2009/08/19 06:13)
[5] 第2話 『弓道部は極めすぎでつまらなくなって引退しました』[ネイチャー](2009/08/16 20:26)
[6] 第3話 『紅き彗星』[ネイチャー](2009/08/18 16:00)
[7] 第4話 『隠なる蛇尾』[ネイチャー](2009/08/19 21:01)
[8] 第5話 『聞かぬは一生の』[ネイチャー](2009/12/15 05:34)
[9] 第6話 『話せばわかる』[ネイチャー](2009/09/05 06:14)
[10] 第7話 『二日目の朝』[ネイチャー](2009/12/14 01:05)
[11] 第8話 『ルラギッタンディスカー?』[ネイチャー](2009/12/13 23:53)
[12] 第9話 『The gray cherry blossom』[ネイチャー](2009/12/14 23:06)
[13] 第10話 『灼熱の解逅』[ネイチャー](2009/12/15 19:39)
[14] 第11話 『巨漢と城塞』[ネイチャー](2010/08/11 01:42)
[15] 第12話 『――斯くして、聖杯戦争は始まる』[ネイチャー](2013/04/06 06:53)
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[6058] ゆめのはなし 『悪役の生まれた日』
Name: ネイチャー◆4594b8fb ID:fe7cf97b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/12 01:21
「僕はね、士郎…」


まさに三日月、という風な夜の中、その静けさに溶け込むように、やつれた、まるで死病にかかった大樹のような雰囲気を持った男が、ぽつりと呟いた。


「僕は、正義の味方になりたかったんだ……」

「おい、爺さん。あんた、馬鹿だろう?」


何の遠慮も容赦もなくばっさりと、保護者がかつて持っていた夢をにべもなく斬り捨てたのは、日本に珍しい赤毛の少年。

目つきは悪く、その粗野を通り越して凶暴な雰囲気は、悪ガキというよりもクソガキといった風情だ。


「はは……、手厳しいね、士郎」


だよね…、と言わんばかりに枯れた苦笑を漏らした男―――衛宮切嗣は、番茶を口に含みながらも、欠けた月に自嘲気味に微笑んだ。


「その通り、馬鹿な話だったんだ。正義の味方なんてものは、子供の頃限定で見られる夢さ……」

「…じゃあ爺さん、その夢は、子供の頃だったら見れるのかよ」


凶暴なクソガキも、今夜ばかりは暴れる気もないらしい。

決して静かに言葉を聴いているようなタマではない―――現に、今もそれなりに茶々を入れている。 ――ないが、少なくとも、横暴を通り越して凶暴にも、相手の話の腰を蹴り折ろうとするいつもの臨戦体勢は見られない。



「ああ。子供の頃なら、ただ善悪の区別がつかなくて、悪いことをしているヤツを倒せば、それでいいんだ。そのあとみんなで仲直りして、笑い合って……正義の味方になれるんだ。だけど――」

はぁとひとつ、まるで木枯しのように乾いた溜め息を吐いて、切嗣は続けた。

「大人になってからじゃ、そうはいかない。悪いことは悪いって、わかってる。わかっていながら、それが楽しいからってやったり、何か譲れないもののためにやったり、守るべきもののために仕方なくやったり……」


そこまで吐き出して、切嗣はぼふっと後ろに倒れた。


「そもそも、悪というのがあるのかも疑わしい。そんな中で正義の味方の志望者にできることは、10の中から切り捨てるべき1を見つけて、それがどんなに大切であろうと私情も挟まず、ただ、天秤の目を読むかのように最小を切り捨てることだけなんだ………」


大の字になって縁側から足を投げ出しながら、切嗣は薄目で月を見る。

細い、満月の面積を10として比べたら、ちょうど1になろうかという程度の大きさの月……。
それを見つめ、ふくろうの鳴く声を聞きながら、ただただ、黙る。



「そういやよぉ、爺さん……」

沈黙に溶け込むようで、抗う響きを持ったのは、音ではなく、少年の声。

「俺、お前に、借りがあんだよなぁ……」

ぽそり。

「士郎を僕が引き取るとき、恩を恩とは思わないって言ったはずだけど?」

ふふっ、と笑う切嗣の目には、自嘲の色はない。ただ、ヘンで、面白くて出たと言わんばかりな笑みだ。


「はっ! ありゃあ、テメエが俺を養うことについてだ。馬鹿姉やら、魔術やら、スキルやらをくれたこと……、そっち側への『借り』は、別バラなんだよ。」

「魔術に関しては魔術回路の生成しか教えてないんだけどね…、これじゃ、教えたとも言えないよ」

ふん、とそっぽを向く衛宮士郎は、このときばかりはただのワルガキに見えた。


「だからよ、テメェにはひとつ、恩返しをしてやる」

にやり、と口端を釣り上げる士郎の瞳には………


「俺が、爺さんの夢をカタチにしてやるよ」


彼が言った内容とは裏腹に、悪意と悪戯、それと反逆の炎が宿っていた。


「士郎が正義の味方…? すごく…、似合わないね」

「誰が正義の味方になるって言った?」

ぷっっと思わず噴出した切嗣に、士郎の悪戯の炎は止まらない。




「テメェが9を助けて1を切り捨てる『正義の味方』になるんだったら、俺は、9を切り捨て1を守り通す『悪役』になってやる」




「は………?」

思わず切嗣は、呆気にとられて口をぽかんと開いた。




「正義が9を助ける、悪が1を助ける。協力すれば、みんな助かる。『悪役』が居れば、正義の味方は存在できる。どうだ? 悪い話じゃないだろう?」




静寂。


ふくろうが、今宵もただただ鳴きつづける……






「ふふふ……、あーっはっはっはっははっはっはっはっはっはっはっ!」



切嗣はついに、決壊したかのように笑い出した。



「あっはっは、士郎! それは面白い話だ! けど、それだったら、正義の味方がその1を殺そうとしたら、どうするんだい?





「そりゃ、『悪役』らしくぶっ飛ばすに決まってんだろ」





「それじゃあ、正義の味方が負けてしまったらどうするんだい?」




「悪に負けるようなやつぁ、正義の味方なんかじゃねえ。そんときゃぁ、そいつが役者不足だったってことだ」






その後も狂ったように、衛宮切嗣は笑い続けた。

























………そして、どれだけ笑ったのかもわからなくなったころに切嗣は、ぜんまいが切れたかのようにぷつりと、笑いを止めた。







「任せとけよ、爺さん。あんたの夢は、俺が形にしてやるからよォ………」






士郎は黙って、縁側を後にした。









そして切嗣は、二度と動き出すことは無かった………。























衛宮切嗣はこうして、世にも珍しい『死因:笑死』を冠する男となったのであった。













★あとがき?
今回やりたかったのは悪役エミヤの誕生だったはずなのに、いつの間にか最後のオチを目指していました。
笑死って、幸せに人生を終えられそうでいいですよね。
僕は死ぬときは、大量の火薬で一瞬で、苦しみも感じる間もなく爆死したいです。

あと、結論から言うと佐山は無理です。相当頭が回らないと書けませんよ、あれ。
キャラとしては壊れてるのに、人としては原作士郎よりも壊れてない! ふしぎ!


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