人間は美しい。 間違いなく美しい。 そうでなければ滅ぼそうとは思わなかった。 そうでなければ妊婦の腹を引き裂いて、男女の性を賭けようなどとは思わなかった。 なぜ自分は濁っているのかと思わなかった。 なぜ自分は汚れているのかとは悩まなかったのだ。 我はなぜ、ああじゃない。 我はなぜ、こんなに暗い。 神に迫る力を持ち、世界の半分からできた自分を呪うことなどなかったのだ。 我よりも愚かで弱いものになぜ憧れねばならないのだ。 我よりも蒙昧で儚いものになぜ嫉妬せねばならないのだ。 ありえぬことだ。 世界の半分の闇が。 漆黒よりも昏い形ある暗黒が。 火すら吐けず、首を撥ねられただけで死んでしまう生命に。 みじめで儚く、100年足らずの刻すら形を保てずに消えてしまう塵芥に。 憧憬を抱くなどありえぬことだ。 我が働く暴虐がただの無様な嫉妬だと、誰に知られてもならぬ。 あの空に輝く日輪すらそれは知らぬこと。 時の闇に生きる仙妖たちすら思いもよらぬ。 このことは、誰にも知られてはならぬ。 このことは、誰にも悟られてはならぬのだ。 この秘密だけは深海の亀裂の、そのまた奥に封じておかねばならぬ。 数理の秘奥よりも、神々のみ知る奇跡の法則よりも、根源の渦の最奥にある世界の成り立ちよりも、秘しておかねばならぬ。 もしも、このことをみやぶるものがいたら、もしもこのことをみやぶるものがいたら。 我は憎むだろう。愛するだろう。殺さずにはおかぬだろう。 しかし、もしかしたらとも思う。 もしかしたら、とも思うのだ。 そういう破廉恥な賊こそが、秘するべき神秘の禁裏に土足で踏み込んだ匪賊こそが、あるいは我の……。 夢を見ていた。 海の深みから空を見上げているだけの夢。 予感はある。なんの夢なのかは大体わかっている。これでも7代続いた魔術師だ。 契約したサーヴァントから、不純物が流れ込んでいるのだ。 しかし、気づかないふりをしておくのが良い。放っておいてもすぐに忘れる。これまでもずっとそうだった。 もしも、この夢のことを、あの狐耳の少女に馬鹿正直に伝えたらどうなるか。 想像しようとして、考えるのをやめた。 どう考えてもろくなことにはならない。虎の尾を踏むことはない。 どうせ、目を開けた頃には砂のような記憶しか残らないだろう。 そもそもこうして朝からまどろみながら、だらだらしてるのは家訓に反する。とりあえず目を覚まそう。 …………と考えてからおそらく10分ほどかけて、ようやく毛布の中から這い出ることができた。 時計の針は6時ちょうどを回ったところ。 ずるずると芋虫の様なしぐさで寝間着から着替える。 さすがに年齢の近い異性の家に押しかけているのだ。あのヘタレのことだから妙な誤解することはないだろうが、寝間着でうろうろしてたら、健康で一般的な男子ならアホな勘違いをしないとも限らない。備え付けの化粧鏡をのぞいてみる。すさまじい顔をしている. それもこれも自分の魔力の8割も持って行ってる無駄飯ぐらいのせいである。魔力が吸われるということは結局のところ生命力を奪われていることに他ならない。全く持って燃費が悪い。 自宅にいるときは外出するまで身支度はしないのだが、いまは居候の身である。「せめて髪ぐらいは梳かすか……」 と、櫛に手をやった瞬間、遠くから何か聞こえた。「…………士郎…………………の子は………………」 微妙に聞き覚えがある声だ。それに加えて、「どうして……先輩…………絶対に…………」 忘れたくても忘れられない声まで、なんか聞こえてきた。 思考回路に心を巡らせる。―あーそうだった。 唐突に失策を悟った。どうやら聖杯戦争にいっぱいいっぱいで、覚えておかないといけないことをきれいさっぱり忘れていた。「アイツ、桜に通い妻させてるんだった」 しかも桜だけではなく、どういうつながりか冬木の虎までいるようだ。―人の縁とは妙なものよねー。 と、妙な感慨が湧いてくる。反面、提出期限の過ぎた宿題を部屋でゴロゴロしてるときに思い出してしまったような、バツの悪さは禁じ得ない。 うら若いセイバーだのアーチャーだのを名乗る金髪の絶世美少女と、銀髪幼女が一人暮らしの健康な男子の家に突如居候しだしたら、良識のある一般市民はとりあえず犯罪を疑う。下手をしたらお巡りさんを呼びかねない。 ここはひとつ、自分が納めるしかないだろう。「3.2.1。よし!」 と、掛け声を一つ。ほほを軽く二回叩き、気合注入。 制服の上を羽織ると優等生の皮をかぶり、のっしのっしと大声のする方へ歩いて行った。 とりあえず事態は余計に混乱した。「なんで遠坂さんまでいるのよ――――――――――!?」「なんで遠坂先輩までいるんですか――――――――!?」 自分のプランはこうだった。「おはようございます。藤村先生。あら? 間桐さんも。こんなところでお会いするなんて珍しいわね」 と何事もなかったかのように割って入って、優等生のスマイルを一つ。それでいろいろ口八丁手八丁で誤魔化すつもりだったのだ。 しかし、結果としては火に油を注ぐことになってしまった。「遠坂さんまで連れ込んでたの? 一体どこのハーレム? ああ、おねーさんは士郎をこんなスケベに育てたつもりはありません!」 と冬木の虎が雄たけびを上げる。しかも目尻に涙まで溜めている。「セイバーさん? アーチャーさん? その名前はいったいどういうことなんですか。しかも遠坂先輩までどうして朝からここにいるんですか。わかるように説明してください!」 普段は控えめな大和撫子と評判の間桐桜すら、かなりの剣幕で士郎に詰め寄っている。 そしてちゃぶ台には「むっつり」という顔で鎮座するセイバーとアーチャー。こちらにどんよりとした視線を向けている。その視線は言葉にすると、「おうおう、お前、いったいなんだこの展開はよぉ。段取りが悪すぎじゃねえの? 仕切りぐらいちゃんとしろや。これから聖杯戦争が始まるってのに一般人がどうしてこんな場所に居るんだよ。ああん? いっそ一発あて身でも食らわせて記憶の操作でもして追い返せや。おめー。ひよっこの魔術師でもそれぐらいできるんだろ?」 と言い出しかねないぐらいに、批難がましいもので、――わ、わかってるわよ。ちょっと待ってなさい。 とアイコンタクトを送る。 正直、記憶を失う魔術は使えないことはない。使えないことはないがあまり得意ではないのだ。そもそも、記憶の「置換」というのは要するに、人体においてもっとも複雑かつ謎の臓器、脳を直接いじくりまわすことに他ならない。そりゃあやってやれないことはないが、かけられた人間の負担はかなり大きい。数日間アッパラパーな言動をするかもしれないし、下手すりゃ、一生涯にわたり慢性的な記憶障害を起こす可能性だってないわけではない。 もしも、桜に「えいや」と適当な記憶の置換と暗示を掛けて、2週間程度衛宮亭に近寄らないように工作したとしよう。学校の教室を自宅と勘違いして、制服を脱いだりするかもしれない。桜が露出狂になってしまう。学校生活はおろか、嫁入りに影響するかもしれない。うん。却下だ。それに桜にはかなりの確率で効かない可能性がある。 藤村先生は大丈夫だ。普段から、言動がけっこうおかしいし。 とりあえず、藤村先生にだけ、軽い暗示をかけよう。あくまで軽く。せいぜい今日一日は、アッパラパーになるかもしれないが、藤村先生のことだから、生徒もそんなに気にしないだろう。 冬木の虎さえ抑え込めば、あとはなんとでもなる。「藤村先生。そう興奮をしないでください。いまきちんと理由を説明いたします」 と、がっしと顔をつかんでこちらにグイっと向けさせる。相撲でいうところの合掌ひねりだ。 そして、魔力を混めた視線をじーっと5秒ほど藤村先生の涙目に向けて「おちつけー、おちつけー、おちつけー」と3回ほど暗示をかけた。この間、実に5秒。 あからさまに強引な力業だ。セイバー、アーチャーはともかく、士郎は苦笑いを浮かべ、桜はなんかよくわからないがドン引きしていた。 まあ、これで何とか落ち着いて話はできるはずだ。たぶん。「あら、そう。じゃあ説明をお願いね。いやー、士郎の家にはよく来るんだけれど、こんなかわいい娘が朝から三人もいたら、おねーさん心配しちゃったのよー」 うん。上手くいったっぽい。「実は、衛宮くんの父上の切嗣さんと、私の父の時臣は旧知の間柄で、いまは疎遠になってしまいましたが、衛宮家と遠坂家は昔から親交があったんです。なんでも父が大学時代に世界を放浪した際の一緒に回って歩いた友人だったとか」 まあ、知り合いというのは嘘ではないだろう。ただし、大学時代に世界を放浪したなどというのは嘘っぱちである。正確には聖杯戦争での殺し合いであり、それはもうより深く関わっただろう。詳しくは知らないが。「先日、セイバーさんと、アーチャーの二人はその時の共通の知己だったそうです。ここでは話にくい諸事情あって、遠坂家と衛宮家を訪ねてきたのですが、運が悪いことに遠坂の家が老朽化して、ちょうど風呂釜がガス爆発しまして……恥ずかしながら改装中なのです。新都のホテルに3人で当分済むことも考えたのですが、改装費用が思いのほかかさんで、どうしようかと途方に暮れていたんです」「まあ、そうだったの」 ちょろいなー。藤村先生。もう少し疑ってもいいんじゃないかな。暗示の効果は「おちつけ」だけだったはずだが。いや、これは藤村先生の素が出てるのだろう。 素直で優しい教師なのだ。だから生徒からも人気は厚い。しかし残念なことに騙しやすすぎる。「衛宮くんに、たまたま出会って、事情を説明したところ、『そんなら家に、3人とも来たらいい。客間も開いてるし』とおっしゃってくれて、この際は、好意に甘えさせてもらうことにしたんです」「そうじゃそうじゃ。我等は昨日、遥々と遠く、英国から衛宮切嗣殿と遠坂時臣殿を訪ねてきたのじゃが、まさか御両人ともお隠れになられたばかりか、遠坂殿の家がガス爆発で泊まれないとは……」 尻馬に乗るアーチャー。本当に嘘を平然とつくなぁこいつぁ、と妙に感心する。よく見ると狐耳はぺたんと髪にまぎれ、尻尾は服の下に綺麗に隠れている。一応一般人を驚かせないように気を使っているらしい。 幼女に士郎が狐耳コスプレをさせている疑惑が沸くと、余計に話が面倒になる。ファインプレーなのだわ。アーチャー。「そうよね。セイバー?」 と矛先を向けてみる。「……え、ええ。切嗣殿とは、その。私とは古くからご縁があります」 なにか、とてつもなくイヤっそうな空気感が混じった気もするが気にしないでおこう。「それにしても日本語上手ね~。セイバーちゃんもアーチャーちゃんも。でもアーチャーちゃんは、話し方が少し古風ねえ」 アーチャーと呼ばれ、ブスっとし始めた狐耳少女を無視して、ここからさらに出まかせを一つ。「この子は時代劇で日本語を覚えたから、日本語に妙なくせがあるのよ」 さらに憮然とし始めたサーヴァントを無視して、とどめを畳みかける。「間桐さんもそういうことでいいかしら? これから2週間ほどお世話になるから」 桜の頬が引きつっているが、まあそれは仕方ない。高校生の年頃の女が通い妻をしてるということは、要するにそういうことだ。あの朴念仁が気付いてるとは思えないが、桜のほうはいじらしく好意を遠回しに伝えているつもりなのだろう。 他人の恋路を邪魔した罪で、野生の暴れ馬が10頭ぐらいこちらに全力疾走してきている気はしないでもないが、それでも言うべきことは言わねばならない。「だから間桐さん。これから当分の間、この家には来ないでくださいね」 当たり前のことを述べたつもりだった。これから聖杯戦争の真っただ中である。桜はもう一般人だ。犠牲者を出さないのはこの街の管理人の務めである。 しかし、その一言のせいで桜の顔色がスゥっと変わった。 今までは興奮してちょっと赤みかかっていた頬が、見事に青くなった。―あ、これ、地雷を踏んだ。 気づいたときにはもう遅い。「遠坂先輩は、なにを言ってるんですか?」 冷たい。心が凍えるような冷たい声だった。みぞおちの辺りが痛くなるような底冷えするような音色だ。「遠坂先輩は居候ですよね。どうして遠坂先輩がそんなことを決めるんですか? 衛宮先輩や藤村先生に言われるならともかく、遠坂先輩にそんな権利があるんですか?」 言われてみればその通りだった。士郎から言わないと角が立つ一言だった。なのに、ついうっかり言ってしまった。「いや、その。住まわせてもらうからには、食事の準備とかは私たちがやろうかなという話になって……」 などと言っても、いいわけにしか聞こえない。いや、事実いいわけなのだけれども。「行く場所のないかわいそうな遠坂先輩とお二人を、住ませようとする衛宮先輩の気持ちはわかりました。でも、私が来ちゃいけない理由はないですよね?」 眼力が強い。不動明王みたいな眼力で、こちらをにらんでくる。 正直ちょっと怖い。「な・い・で・す・よ・ね」 と士郎のほうに向き直り、力づよく念押しした。「あ、ああ。桜が来ちゃいけないなんて、俺が言うもんか」 とは、家主である衛宮士郎の声である。 こいつ、押しに弱いなあ。桜も桜である。最初からその勢いで押してたら、とっくに士郎は落ちていたと思うぞ。「じゃあ、朝食用意しますね。遠坂先輩はそこに座っててください」 と、桜は台所にエプロンをつけて向かっていった。“のう、主様よ” と唐突に、念話が届く。“なによ” この至近距離で念話ということは、つまり、他の誰にも聞かせたくないということだ。“桜とかいう、ばいんばいんの娘は主様のなんじゃ?” 直球に聞かれた。“面倒くさいならさっさと暗示なり、なんなり掛けて放り出したほうがあの娘のためじゃろ。あの藤村とかいう年増にはあっさり暗示をかけて、なぜか桜とかいう小娘にはそれをしないということはあの娘には暗示を掛けたくない理由があるということじゃな” このサーヴァントは余計なところで鋭い。本当に余計なことだ。心のぜい肉と言ってもよい。“昔からの知り合いでね。いろいろあるんだけれど、あの娘に暗示は効きにくいのよ”“いろいろあるのか?”“いろいろあるのよ” わずかの沈黙ののち、“まあ良いわ。言いたくないことを根掘り葉掘り聞くのは野暮の極みじゃな。 などとわかったようなことをいう。“それにこの屋敷にいる間は大丈夫じゃろ。我の使い魔が千以上の数で見張っておるからな。下手に襲い掛かってくる奴がおったらサーヴァントだろうが蜂の巣じゃぞ” などと聞き捨てならないことを平然と言う。“千の使い魔ぁ? あたしはそんな使い魔、一匹も見たことないわよ” いかに隠形に長けた使い魔であっても、さすがに千匹もの使い魔を見逃していたということになったら、魔術師としての沽券にかかわる。“それは主が未熟者だからじゃな。我の使い魔はすごいぞ! 見てくれは悪いが性能はピカ一じゃぞ!”“千って数が多すぎない? 魔力の無駄遣いじゃないの?”“失敬な事を言う主様じゃの。数だけならこの100倍も容易いが、さすがに数を増やすだけでは能がないと思ってこれでも減らしておるのじゃぞ。昔の人はいいことを言ったのぉ。「戦は数じゃ」と。数をそろえられん将は無能の証じゃぞ” ますますムカつくことを言う。生意気にもほどがある。 そもそもがである。衛宮士郎のようなモグリの半人前なら気付かないのは仕方がないが、この遠坂凛が千匹もの使い魔に気づかないというのはさすがにいただけない。 しかし、そんなコンプレックスを正直に伝えたらますますこの狐耳サーヴァントは調子に乗るだろう。 ここは気づかれないようあえて話題をそらす。“そんなことどうでもいいわよ。問題は、桜がこの家に居ないときどうするかよ。あと藤村先生も”“そうじゃな。我の使い魔を100匹ほど付けておけば大丈夫じゃろ。見たところ剣の英霊も我の使い魔には気づいておらぬし。他の英霊もキャスター以外は気づかんじゃろ。我の使い魔は強いからの。不意打ちは不可能じゃ。時を稼ぐも逃ぐることもおちゃのこさいさいじゃな” もっと聞き捨てならないことを言い出した。セイバーにすら接近を気付かれない使い魔を、さらに200匹自立単独行動させるとか、はっきり言って不可能事だ。キャスターなら百歩譲って可能かもしれないが、こいつはアーチャー。弓兵である。 ツッコまずにいられなかった。“本当に居るの? その使い魔。ちょっと見せてみなさいよ” さすがに実在が疑わしくなってきた。「アーチャーの見栄じゃないのか?」と思うのも無理はないだろう。どんな雑兵使い魔でも、千匹も使役するには大型魔力炉が最低でも3つは必要だ。武闘派魔術師の工房であってもそんな数の使い魔を放っているなどという話は聞いたことがない。そもそもそんな数の使い魔など、制御できなかったら大事故になるし、隠蔽に支障をきたす。下手すりゃ魔術協会に粛清されるし、もっとひどければ聖堂教会の代行者がダース単位で送り込まれる。 それを、その100倍は行けるだの、他の場所に護衛として放つだの、我慢の限度をあまりにも超えている。“見せてもいいが食事前は止めておくのじゃな”“いいわ。食事が終わった後、見せてみなさい” 見なければよかった。アーチャーの使い魔を目撃し、心底そう思うのはこれより一時間後だが、それはまた別の話である。 やっぱりきちんと説明したほうが良かったかもしれない。 そう後悔したのは、登校直後だった。 野獣のような足取りで、一限目に教壇に立ったのは藤村先生だ。 冬木の虎との異名から、強めに暗示をかけた結果、多少の奇行があっても大したことはないと思っていた。思っていたのだった。 アレでなんだかんだ、愛されキャラなのだ。冬木の虎というのは愛されキャラの称号である。 言動が変であってもそこは大丈夫だろうとたかをくくっていたのだ。 しかし、今日の藤村先生は虎ではなかった。 ジャガーマンだった。「ジャガーマン藤村ですにゃ、イングリッシュ。英語。英語と話せると5億人と話せる。しっかーし、スペイン語は4億人。おのれ憎き征服者ども。我が故国、蹂躙させぬ、蹂躙させぬぞー!」 と開口一番叫んだあと、滔々とアステカ神話の成立から歴史までを臨場感たっぷりに身振り手振りを交えて語りだし、嵐のように去っていった。 霊体化していたアーチャーだけは、「あの年増。講釈師としての才能があったのじゃな」 と妙に感心していた。 他の生徒はというと、「なんだったんだ? タイガー」「まあ、藤村先生だし」「タイガーだし」「だよな」「うん」「いや、ジャガーだろ」「きっとつらいことがあったんだよ」「そっとしておこうぜ」「そうしよう」「そうしよう」 そういうことになった。 すまぬ。藤村先生。 ごめんなさい。 ステータスが更新されました。 使い魔(大群):EX 極めて大量の使い魔を、体毛や尻尾の数だけ魔力を使わずに分身として使用することが可能。アーチャーとして召喚されているため大幅にランクダウンしているはずなのだが、それでも規格外であることは揺るがない。本人もどれだけの数を同時に使役可能なのかは正確には把握していない。