<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

TYPE-MOONSS投稿掲示板


[広告]


No.5049の一覧
[0] Fate/zero×spear of beast (Fate/zero×うしおととら)7/26[神速戦法](2014/07/26 18:17)
[1] Fate/zero×spear of beast 01[神速戦法](2009/05/12 02:03)
[2] Fate/zero×spear of beast 02[神速戦法](2008/12/05 08:58)
[3] Fate/zero×spear of beast 03[神速戦法](2008/12/05 08:59)
[4] Fate/zero×spear of beast 04[神速戦法](2008/12/07 21:31)
[5] Fate/zero×spear of beast 05[神速戦法](2009/01/07 01:17)
[6] Fate/zero×spear of beast 06[神速戦法](2008/12/10 00:52)
[7] Fate/zero×spear of beast 07[神速戦法](2008/12/20 16:32)
[8] Fate/zero×spear of beast 08[神速戦法](2008/12/20 16:31)
[9] Fate/zero×spear of beast 09[神速戦法](2008/12/20 16:29)
[10] Fate/zero×spear of beast  10[神速戦法](2009/02/16 00:20)
[11] Fate/zero×spear of beast  11[神速戦法](2009/02/16 00:26)
[12] Fate/zero×spear of beast  12[神速戦法](2009/09/16 19:35)
[13] Fate/zero×spear of beast  13[神速戦法](2009/09/16 19:34)
[14] Fate/zero×spear of beast  14[神速戦法](2009/09/16 19:38)
[15] Fate/zero×spear of beast  15[神速戦法](2010/10/21 22:45)
[16] 番外編--遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです(キャラ改変あり)[神速戦法](2011/04/26 00:14)
[17] Fate/zero×spear of beast 16[神速戦法](2011/04/26 00:15)
[18] 遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです2[神速戦法](2011/05/21 17:43)
[19] Fate/zero×spear of beast 17[神速戦法](2011/07/18 17:57)
[20] 遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです3[神速戦法](2011/08/18 21:08)
[21] 遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです4[神速戦法](2011/08/20 18:32)
[22] Fate/zero×spear of beast 18[神速戦法](2011/10/15 23:55)
[23] Fate/zero×spear of beast 19[神速戦法](2011/10/21 11:38)
[24] Fate/zero×spear of beast 20(リョナ表現注意)[神速戦法](2011/11/30 18:32)
[25] Fate/zero×spear of beast 21[神速戦法](2011/12/25 03:54)
[27] Fate/zero×spear of beast 22[神速戦法](2012/02/04 19:35)
[28] Fate/zero×spear of beast 23[神速戦法](2012/03/08 11:31)
[29] 遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです5[神速戦法](2012/03/10 08:33)
[30] Fate/zero×spear of beast 24[神速戦法](2012/03/29 12:19)
[32] Fate/zero×spear of beast 25[神速戦法](2012/06/03 23:47)
[33] Fate/zero×spear of beast 26[神速戦法](2013/03/31 10:41)
[34] Fate/zero×spear of beast 27[神速戦法](2013/06/15 03:48)
[35] 遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです6[神速戦法](2013/08/06 03:02)
[36] Fate/zero×spear of beast 28[神速戦法](2020/06/27 21:33)
[37] 遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです7[神速戦法](2014/07/26 18:17)
[38] 遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです8[神速戦法](2020/06/27 22:05)
[39] Fate/zero×spear of beast 29[神速戦法](2020/09/15 22:14)
[40] 遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです9[神速戦法](2020/07/05 14:58)
[41] 遠坂凛が狐耳少女を召喚したようです10[神速戦法](2020/07/26 21:22)
[42] Fate/zero×spear of beast 30[神速戦法](2020/09/16 17:32)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[5049] Fate/zero×spear of beast 18
Name: 神速戦法◆0a203bcd ID:6aee6c44 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/15 23:55




 思考が言葉にならない。
 ただ、名前を何度もうわごとのように呼んでいた。
 乾ききった咽喉から、誰に聞かせるわけでもない声で。
「桜ちゃん」
 一度では足りない。
「――桜ちゃん」
 それは、形を変えた悲鳴だった。
 泣き叫ぶわけにはいかない。
 今ここで、泣き叫び壊れてしまうわけにはいかないのだ。
 だから変わりに、名前を呼んだ。
 それは呪文だった。
 自分をかろうじて正気に押しとどめるための呪文。
「桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん」
 いま、自分が立っているのか座っているかも倒れているのかも解らない。
 ただ、砂浜に打ち揚げられた魚のように、焼けたアスファルトに投げ捨てられたミミズのように身悶えながら屋敷のなかを、もう一度探す。
 狂っていた。
 間違いなく。狂っていた。
 自分が今どんな顔をしているのかもわからない。
 苦しい。体の蟲どもが宿主の異常を察したのか、ギチギチと耳障りな音を上げる。
 怒りに酔っていたのならば、その中に憎しみの甘さを見出すことが出来ただろう。
 完全に壊れていたのならば、痛みを感じることさえなかったろう。
 ここで、悲鳴を上げたのならばあるいは、完全に壊れることが出来ただろう。
 しかし、ここで壊れるわけにはいかない。
 だから悲鳴の変わりに名前を呼んだ。
 せり上がって来る胃液の匂いと共に、のた打ち回りながら名前を呼んだ。
 がらんどうの全身を、痛々しいまでの空虚さが支配していく。
 その身体に僅かな熱を灯すべく、その言葉を繰り返し呼んだ。
 限度を超えた不安と絶望が引き金となって、蟲どもが励起する。
 筋肉と皮の間を刻印蟲がグチャリグチャリと体の中から耳障りな音を立てて、うごめき始めた。
 足りない。全く足りない。
 空っぽの胃の中身を絨毯にぶちまけても、絶望が体の中から抜けていかない。
 正視するに堪えない醜態である。
 現実を受け入れきれず、ただ、大切な玩具がみあたらずに、ジタバタと手足を叩きつけているだけの癇癪を起こしただけの子どもだ。
 不意にものすごい強大な腕力が、雁夜を持ち上げる。
 なにか皺枯れた声が、背後から掛けられた。
 だが耳には入らなかった。否。鼓膜には届いていたが、雁夜の意識は認識していなかった。
 もう一度、皺枯れた声が掛けられる。
 もがく。ただ、ジタバタするためだけに。
 そうしなければ正気を保てない。
 正気に戻らなければならない。そうでなければ探せない。
 さっきからずっと探している自分は、正気でなくてはならない。見つかれば正気に戻れる。正気でなくては自分は探せない。
 もう何を考えているのかわからない。思考が循環し、論理性が崩壊し、怒りと悔恨と絶望が濃密に煮詰まっていく。
 ただ、見つかればいい。元に戻れる。この狂った世界から元に戻れる。
 あの黒髪の、最愛の人の面影を残した少女が自分のそばにいてくれるだけでこの狂気に満ちた世界が元に戻ってくれる。
 瞳に光が戻らなくてもいい。時間は掛かってもいいから、自分以外の他の誰かが、あの娘の瞳に光を灯してくれるだろう。
 自分のそばにいてくれなくてもいい。
 自分の知らないどこかで、ほんの僅か、人並みの幸せを手にしてくれればそれでいい。
 だというのにこの状況は一体なんだ?
 脳が理解することを拒絶し、ただこんな現実は認めないと駄々をこねている。
 だから、ひたすらに正常な世界に戻るための呪文を繰り返し唱えた。
「桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん」
 唐突に頭に痛みが走る。
「ぎゃふっ!?」
 ぶつぶつと呟いているさなかに何かが頭をぶん殴ったせいで、したたかに舌を噛んでしまった。
 痛い。
 口の中に、塩辛いような生臭い鉄の味が広がる。
「何しやがるんだっ!?」
 振り向くと同時に絶叫する。
 こんなことをする奴は一人しかいない。
 主を主と思わないサーヴァント。
 いつの間にか金色の鬣を持つバケモノが雁夜を持ち上げていた。
「落ち着け、ますたー」
「俺は、落ち着いてるっ!!」
 嘘である。大嘘である
「ウソこけ」
 あっさり突っ込まれた。
「俺の何処が落ち着いてねえっていうんだよっ!!!」
 ぜひ、ぜひっと息切れしながら叫んだ。
 サーヴァントは雁夜の激昂を、人の悪い笑顔で眺めると、
「こ~んな顔して『桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん』とか言ってるやつのどこが落ち着いてるんだよ、ヴァ~カ!!」
 頭の血管が切れそうになる。そうだ。こいつはそういう奴だった。
「お前は! 平気なのか!?」
 このサーヴァントにとって、あの娘はそんなに軽い存在だったのかと訴える。
 聖杯に招かれる英雄にとって、少女の一人や二人、吹けば飛ぶような軽い存在なのかもしれない。
 しかし、自分が子どものころ心を焦がした英雄というのは、たった一人のためにその全存在を賭けてくれるヒーローではないのか?
「平気だな」
 心が凍る。最も聞きたくない言葉だった。
 いや、判りきったことではあった。
 こいつは、無理やりこの場に呼ばれて来ただけのバケモノで、かなえたい願いなど存在しない。
 今まで共闘関係にあったのは、成り行きでしかない。
 利害関係が一致したわけではない。そういうことなのだろう。
 憎い。何が憎いのかわからない。
 ただ、自分の召喚したバケモノを直視できない。
「おい、ますたー」
「なんだよっ!?」
 もしも、ここで口を開いたら、何を言ってしまうか。どんな、取り返しのつかないことを口走ってしまうかわからない。
 顔を上げられない。自分のみっともない顔を誰にも見られたくない。このバケモノが、どんな顔をしてこちらを見ているのか。きっと、阿呆を見るような顔でこちらを嘲笑っていることだろう。
 誰に文句をいう筋合いのことではない。勝手に期待して、裏切られたような失望感を勝手に抱いているだけ。それだけのことだ。
「あせるなバカ。盗られたもんは、取り返せばいいだけの話だろうが」
 あまりにもあっさりと、自分自身を否定された。
 どこがどう否定されたのかわからない。
 雁夜が立ち止まっているものを、あっさりとなんでもないように笑い飛ばす。
 その強靭さが、気が狂いそうなぐらいに羨ましい。それこそが、自分が追い求めて、ついに手にすることの無かったものだ。いや、追い求めてすらいない。ただ、憬れていただけだ。
 悔しい。このサーヴァントは雁夜を内心で嘲笑っているんだろう。
――簡単だろうが? こんなことは?
 そう言って、自分の立ち止まってしまったハードルを軽々と飛び越えてしまう人間たち。あの男も、葵のそばにいたあの男もそういった男だ。
 しかし、今は羨ましがっている場合ではない。自分には決して出来ないことを出来る味方がいる。初めて知る。殺したいほどに羨ましい人間が、味方がいるということが、こんなにも頼もしいことなのだと。
「……いーかげん、電話出ろよますた~」
 雁夜の懊悩を、呆れ果てた様な目で眺めつつ、黒電話を指で示す。
 気がつけば、何分前からかは判らないが、相当前から鳴っていたような気がする。
 いなくなった桜と、鳴り続ける電話。
 単純に考えて、最も確率が高いのは、誘拐した下手人からの脅迫の電話だ。
 聖杯戦争の最中にサーヴァントを使っての誘拐劇である。営利目的の誘拐のように金銭を投げてやれば人質を返してくれるという訳はないだろう。
 身代金代わりになるのは、恐らくは数角の令呪。場合によっては令呪を用いてのサーヴァントの殺害など要求が提示されるかもしれない。
 しかし、それらは相手から提示されてからの話だ。今この場でしり込みしていても何の意味も無い。
 意を決して受話器を取り、右耳にあてる。
 その受話器からの声は、良く知った以外な人物のものだった。
「間桐くんか? 遅い時間に済まない。いや、早い時間といった方がいい時間かな?」
 その声に、張り詰めていた緊張の糸が緩む。誘拐犯からの電話ではなかった。
「守矢さんですか。こんな時間に何かあったんですか?」
 そもそも、守屋はなぜ、この家の電話番号を知っているのか?
 教えた覚えは無い。
「いや、非常識な電話だというのは判ってはいるんだが、まあ、勘弁してくれ。間桐くん。本当はもう少し早く連絡する予定だったんだが、電話帳で調べたら遅くなった」
 どうやらこの東京TV局の記者様は、冬木市の電話帳でこの間桐邸の電話番号を調べあてたらしい。古典的な手法ではあるが、間桐という姓は珍しい。そんなに時間が掛かるわけはないから、やはり電話をかけようとしたのは非常識な時間だとしか思えない。
 もっとも、記者というのは取材対象の迷惑など考えずにべったりとくっついて記事になりそうなものを探す人種だから、仕方が無いといえば仕方が無い。自分にも覚えがある。とやかく言えないのが辛い所だ。
「間桐君に確認したいことがあるんだ」
「それは連続誘拐殺人事件のことですか?」
 かつては東京に帰るように自分は忠告した。しかし、それとは別に、もしも守屋という男からもたらされる情報が誘拐事件に関連することならば、収集する必要があった。
 どんな小さな情報でも、その件に関しては聞き漏らすわけにはいかない。
「それとはまた別に、妙な人間がこの街に来ていてな。君がそのことを知っているかどうかを確認しようと思ったんだ」
 どうやら誘拐殺人事件とは、関係の無いことであるようだ。しかし、この街にこの時期に来ている妙な人間というものの心当たりは一つしかない。
「関わらないほうが良いです。警察の手に終える相手じゃありません」
 精一杯の忠告だった。相手が聞き入れるかどうかは別だが、一応世話になったこともある。魔術師の世界に一般人が絡んで、相手が無事に帰してくれるとはとても思わない。殺される猫は、いつだって好奇心を抑え切れなかった猫だ。
 その言葉を待っていたかのように守屋は続けた。
「それは衛宮切嗣のことか?」
 国際指名手配されているテロリスト。交番に顔写真は張られていないが、国際部の記者ならば、ピンと来るはずだ。紛争地域における狙撃や毒殺。誘拐に脅迫は序の口で、挙句の果てには大規模爆破テロ。それら全てが衛宮切嗣の犯行であると目されている。
 とりわけ有名なのが、ニューヨークにおけるジャンボジェット航空機の地対空ミサイルによる撃墜だ。その下手人が、なんの組織にも属さず思想背景も持たない日本国籍の10代の少年であると知ったとき、世間は少なからず動揺した。
 10年前までは、ありとあらゆる紛争地帯に顔を出し、そして、ありとあらゆる陣営に雇われ、乞われるままに死体の山を作り続けた怪物。
 しかし、それは飽くまで世間一般の衛宮切嗣像だ。
 衛宮切嗣には裏の顔がある。
 アインツベルンと契約した魔術師専用の殺し屋。
 臓硯は、衛宮切嗣をアインツベルンのマスターとあたりをつけていたが、実際にセイバーと共に居たのは白銀の髪をした女だった。恐らく、衛宮切嗣が担当するのは諜報活動や暗殺などの裏方だろう。
 誘拐犯としての衛宮切嗣。連続誘拐殺人事件の下手人。
 その可能性は一考の価値がある。
 しかし、それならば有って然るべきものが存在しない。即ち脅迫状だ。
「守矢さんはなんで、衛宮切嗣がこの誘拐事件に絡んでいると知っているんですか?」
 声色に僅かな落胆を交えながら、電話の主は答えた。
「驚かないんだな。こっちとしては最大の切り札だったのに。まあ、それはどうでもいい。衛宮切嗣が何をしているか、ということなんだが。恐らく、誘拐事件は彼の仕業ではないな。ああ、なんでそう言い切れるのかっていうことなんだが、それは彼とつい数時間前まで一緒に居たからだ」
 言葉も無い。というか、この守矢という男、よく無事でいたものだ。
「ああ、心配してくれているのか? いや、間抜けな話でね。向こうが現役のテロリストだったころの写真しか頭の中に入ってなかったせいか、まさか自分の隣に居た人間が衛宮切嗣だとはこれっぽっちも思わなかったのさ。いや、三十路の無精髭を生やした同士、ずいぶんと頭の回転が鈍くなったもんだ。まあ、そのせいでこちらは助かったわけだから、文句は言えないか」
 一息付いてから、守矢は核心に触れた。
「だから彼が誘拐犯である確率は限りなく0だ。彼が俺と一緒に居る間にも、ずっと誘拐事件は続いていてね。今日だけで四十人だぞ? 一時間弱に付き一人のペースだ。共犯という可能性も考えたが、それも不可能だ。とてもではないが一人や二人で出来る規模の誘拐劇じゃない。衛宮切嗣の犯行ならば、全て単独犯であるはずなんだ。彼は犯行の際に共犯者をほとんど使わない。だからと言って、無関係とも思えない。これが今こちらの持ちえる情報だ。それで、ますます判らなくなってね。それで、君に尋ねようと考えたのさ」
 落胆と安堵が全身を包む。つまり、ほとんど何もまだ守矢という男は、つかんでいないということだ。
 しかし、この男。嗅覚が尋常ではない。これから先、忠告できることは無いかもしれない。なので、これが最後のつもりで口を開いた。
「一つだけ。衛宮切嗣の他に、外国人には近寄らないほうがいいです」
 この言葉が守矢の好奇心を刺激してしまう可能性はある。しかし、それだけのことを考えている暇などない。もしもそうなったのならば、それはそれで仕方の無いことだろう。
 危険から遠ざかるか、それとも近づいて真実を探ろうとするか。どちらを選んだとしても、それはこちらのあずかり知ることではない。相手は子どもではない。結果として野垂れ死にしたとしても、それは仕方の無いことだ。
 そんな思わせぶりで断片的な情報でも、守矢は何か嗅ぎ取ったようだ。
「案外ケチだな。間桐君は。ああ、そういえば、こちらも一つだけ言い忘れてた。今日、冬木の港でかなり大きなの爆発事故が有ったらしい。管理会社の危険物が引火したということになっていたが、妙な情報が入ってきてね。その管理会社の警備員が妙なものを見たというんだよ。ああ、この世のものとは思えない美人さん二人が誰も居ない暗い港の中に入っていくのを見たんだそうだ。それだけではなくて、後から他に、左半身を引きずってフードを被った男が居たとかいないとか。警察のご厄介にならないように気をつけたほうがいいな、君は。それじゃ」
 果たして、電話を切ったのはどちらが先であったか。受話器を置くタイミングはほぼ同時であったのだが、少なくとも雁夜は、自分が受話器を叩きつけるのが先だと確信していた。
 ぜひぜひと、いつの間にか呼吸が荒くなっている。動悸が止まらない。なぜに、自分の周りにはこうも敵いそうもない人間ばかりが集まってくるのだろうか?
「済んだか。ますた~?」
 済むも何も…………………………………………………………………………。
「……で、お前は何をやっているんだ?」
 思考が止まる。
 ………………………………………………………………………このバケモノは一体なんで、桜ちゃんの靴の匂いを嗅いでいるのだ?
「匂いを嗅いでるんだよ」
 人のことを散々ロリコンだ変態だと言って置きながら。そうか、こいつも変態だったか。
「…………ホントは嫌なんだけどな~」
 などと言いながら、赤い靴の匂いを嗅いでいる猛獣。
 どう考えても変態である。
 一応、義理で、念のために聞いておく。
「なんで、匂いを嗅いでるんだ?」
「何処に行ったか探すんだろ。あのガキ?」
 ………………………何か違和感がある。
 匂いを嗅いで、人を探す。
 つまり、警察犬が泥棒の遺留品を探すように……。
 どうやら好きこのんで、桜の靴の匂いを嗅いでいた訳ではないようだ。
 サーヴァントには似たものが召喚されるというルールがある。
 ここで、変態が召喚されたら、自分にも変態の嫌疑が掛かる。まともな理由があったということは、嬉しいといえば嬉しいのだ。嬉しいのだが。
 何とか率直な感情を声にする。
「お前は犬か?」
「…………」
 何処からともなく小さい舌打ちが聞こえる。
「……だからいやだっつったろーが」
 と消え入りそうな声も聞こえた。
 バケモノの体毛がシュルシュルと音を立てて雁夜の身体に巻きつく。
 締め付けるような力ではなく、何処となくむず痒い印象を受ける。
「行くぞ」
 バケモノが、そう皺枯れた声を振り返らずに掛けてくる。
 とてつもなく不機嫌で気恥ずかしそうな声だ。
 不意に悟った。なぜ、バケモノが振り返らなかったのか。
 それは恐らく、自分がさきほど顔を上げられなかったことと、同じ理由だろう。いや、厳密には同じではないだろうが、似たようなものだ。
 ずっと確かめるのが怖かった。
 このバケモノが何を考えて、この戦いに参加しているのか。
 しかし、今ならばわかる。
 このバケモノも、無敵の人外も、動機に強弱はあっても自分とその一点では何も変わらない。
 かつて、この屋敷に舞い戻ったときには、ただ一人だった。
 怒りに酔いしれていたとはいえ、使命感と罪悪感に満たされていたとはいえ、消え入りそうな不安と恐怖は隠しきれるものではなかった。小刻みに震える脚を、滝のように流れる冷や汗を、忘れられるものではなかった。
 右の口元にだけ、自然と笑みが浮かぶ。状況は依然として最悪だ。
 怒りはある。
 不安も。
 罪悪感も。
 恐怖も。
 しかし、絶望はない。
 この間桐邸を出るときは一人ではない。ただ、それだけのことなのに、それだけのことがこんなにも頼もしいとは知らなかった。
 もう一度行こう。今度こそ間に合う。
 そうして二人はまた、夜の闇へと消えていった。
 大切な人を取り戻すために。






 

 遅くなってすみません。短くてすみません来週中に、多分もう一話本編上げます。

追記 すみませんてこずってます。もう少し掛かりそうです。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024067878723145