<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

TYPE-MOONSS投稿掲示板


[広告]


No.37474の一覧
[0] 士郎とバーサーカー[くま](2019/07/07 23:55)
[1] プロローグ――1[くま](2013/07/04 00:43)
[2] プロローグ――2[くま](2013/07/04 00:49)
[3] 士郎とバーサーカー、1[くま](2013/05/05 07:31)
[4] 士郎とバーサーカー、2[くま](2013/07/04 00:54)
[5] 士郎とバーサーカー、3[くま](2013/07/04 00:58)
[6] 士郎とバーサーカー、4[くま](2013/07/03 03:49)
[7] 士郎とバーサーカー、5[くま](2013/08/04 04:37)
[8] 士郎とバーサーカー、6[くま](2013/09/10 03:49)
[9] 士郎とバーサーカー、7[くま](2013/11/26 11:02)
[10] 士郎とバーサーカー、8[くま](2014/02/10 13:46)
[11] 士郎とバーサーカー、9[くま](2014/02/13 15:04)
[12] 士郎とバーサーカー、10[くま](2014/03/12 05:13)
[13] 士郎とバーサーカー、11[くま](2014/03/31 16:12)
[14] 士郎とバーサーカー、12[くま](2014/05/18 11:09)
[15] 士郎とバーサーカー、13[くま](2014/06/16 00:44)
[16] 士郎とバーサーカー、14[くま](2014/06/25 23:13)
[17] 士郎とバーサーカー、15[くま](2014/07/20 02:53)
[18] 士郎とバーサーカー、16[くま](2014/08/09 01:52)
[19] 士郎とバーサーカー、17[くま](2014/10/05 23:17)
[20] 士郎とバーサーカー、18[くま](2014/12/09 00:22)
[21] 士郎とバーサーカー、19[くま](2015/01/10 21:57)
[22] 士郎とバーサーカー、20[くま](2015/02/06 03:43)
[23] 士郎とバーサーカー、21[くま](2015/04/05 19:00)
[24] 士郎とバーサーカー、22[くま](2015/04/19 11:02)
[25] 士郎とバーサーカー、23[くま](2015/05/06 00:53)
[26] 士郎とバーサーカー、24[くま](2015/08/13 18:12)
[27] 士郎とバーサーカー、25[くま](2016/02/06 02:02)
[28] 士郎とバーサーカー、26[くま](2016/05/08 14:18)
[29] 士郎とバーサーカー、27[くま](2016/08/07 04:50)
[30] 士郎とバーサーカー、28[くま](2019/07/07 23:33)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[37474] プロローグ――1
Name: くま◆130f149e ID:52acee26 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/07/04 00:43
 少しだけ。ほんの少しだけ。
 本来有りうるべき道筋がねじ曲がり。
 正史から僅かに、しかし決定的に袂を分かつことになった。



 ただそれだけの、あるお話。










■ 士郎とバーサーカー、プロローグ――1 ■










 ある、月の綺麗な夜。
 闇夜に響いた少女の声。見上げれば、煌々と輝く月明かりに照らされた、二つの人影。
 風に流れる白銀の長髪。雪のように白い肌。あふれ出る気品。異国の少女。
 掠れたような白い髪。煤けたような褐色の肌。滲み出る敵意。赤衣を纏った従者。
 少女は告げる。早く呼び出さないと死んじゃうよ。
 少女は続ける。残っているのはあと二席だけ。
 少女は微笑む。剣か狂か、アタリかハズレか。
 少女は与える。そんなお兄ちゃんにプレゼント。
 少女は整える。お家のお庭に突き刺しておいたから。
 少女は伝える。じゃあ、頑張って生きてね。
 少女は笑った。私が、殺すまで。



 ――――私が、殺すまで











 死の直前に見る映像を、走馬灯と言うらしい。
 詳しいことは知らない。何でも、今までの自分の人生がコマ送りに脳内に流れるとかなんとか。数日前に、そんな感じのテレビ番組がやっていた記憶はある。

 じゃあ、今一瞬脳内に見えた光景は?

 垣間見えた僅か数日前の邂逅。
 訳の分からぬままに家に戻れば、庭に突き刺さっていた珍妙なオブジェらしき物体。
 姉貴分や妹分に騒がれないうちにと引き摺り隠した場所は、そういえばこの土蔵だったか。

「……は、ははっ……」

 この期に及んで脳内をよぎったのが、ほぼ一方的な殺害宣言に珍妙な物体だというのだから救えない。
 乾いた笑い声を漏らしながら、少年――衛宮士郎は身を起こした。

 ――――否。身を起こすことしかできなかった。

「……っ」

 力の入らない足。這うことでしか移動できない体。もはや崩れた瓦礫を除ける力すら無かった。
 何故自分はこんなことになっているのか。何時も通りの朝を迎え、何時も通りに学び舎で昼の時間を過ごし、何時も通りに帰ろうとした。ただ、それだけなのに。
 弱弱しく、悪態を漏らす。

「……くそっ」

 生徒会の備品を直したその帰りに、殺し合いの場を目撃した。
 口封じに心臓を一突き。
 目覚めたときには何故か傷は塞がっていたものの、何も考えずに帰宅した結果が現在の有様だ。
 少し考えれば分かることだ。殺し損ねた獲物をどうするかなんて。
 目線を上げれば――ほら。

 悠然と歩む、蒼い死神が――――

「……くそっ!」

 自らを叱咤するように地面を殴りつける。
 このまま黙って運命を受け入れるのか?
 どうしようもないと諦めるのか?
 ただその瞬間を待つだけなのか?

 ――――否。否、否、否、否っ!

「……ふざけるなよ」

 過ちでは無い、間違いでも無い。
 人が空を飛べぬように。
 死者が蘇らぬように。
 過去には戻れぬように。
 確定された終幕。厳然たる現実はすぐ目の前。

 だがそれでも、

 だからといってその現実を、

 ただ黙って見ている道理は、

 どこにも無い――――っ!

「おおぉぉおおおおおおおおおっ!!!」

 まだ声は出せる。
 声さえ出せれば力は出る。
 力が出れば動く事が出来る。
 動く事が出来れば――――まだ死なない。

「……まだ眼は死んでない、か」

 呆れたように、でも愉しそうに。
 死神は笑った。

「見せてみろよ。まだ諦めちゃいないんだろ?」

 真紅の槍、その穂先が此方を向く。
 向けられらたその先には――――心臓。
 侮られている。だが、それがどうした。
 そんなことは今更言うべくもなく、自身が一番分かっている。
 彼我の実力差など、比べる事すらおこがましいであろう。
 だが、それでも。誰がこの現状を黙って受け入れてやるものか。

「上等だああぁぁああああああっ!!!」

 すぐ傍ら。ブルーシートに包んで隠したあのオブジェのようなもの。その取っ手らしき部分を両手で掴む。
 削り取ったような刃先。
 人間が扱うには規格外な質量。
 破壊することに重きを置いた造り。
 露わになったその形はオブジェと呼ぶには禍々しすぎて――――それが武器の類に分類される存在であることを、漸く士郎理解する。

「おいおい……随分な上物のようだが、お前に扱えんのか?」
「うっせ、糞野郎っ!」

 普段の自分らしからぬ言動は、脳内から絶賛生産中のアドレナリンのせいか。
 ブチブチッと左腕から嫌な音が鳴った気がしたが、火事場の馬鹿力よろしく持ち上げて構える。痛みは感じない。寧ろ最高に気持ち良くなっていた。

「……へぇ」

 その姿を見て死神――ランサーは目を眇めた。
 体を半身に、得物を背の後ろに隠すように構える。狙いは横凪一閃。闇雲に向かってくるのではなく待ちの一手を選択したのは、彼我の実力差を考慮したせめてもの策か。
 諦めるわけではなく、自棄になるわけでもなく。
 目の前の坊主は、自分の命を獲る気でいる。

「……坊主、これで三度目だ」

 一度目は学校の中で。確かに心臓を突いた。
 二度目はつい先ほど。不意打ちは、あえなく躱された。
 そして、三度目。ランサーは構えを変えた。重心を低くし、左足に体重をかける。狙いは、今度こそ相手の心臓へ。

「真っ直ぐに向かってやる。せいぜい獲ってみろ」

 わざわざ殺す相手の手に付きあう必要はない。そんなことをせずとも殺りようは幾らでもある。
 にも関わらず、真正面から叩きつぶすことを選択したのは、ある意味で彼らしい決断だった。
 浮かんだのは笑み。相手の獣のような獰猛な笑みを、同じように口角を釣り上げて士郎は返した。こんな非常事態だというのに、何故か楽しくて仕方が無い。
 俺はついに壊れたのだろうか。まぁ、壊れたのならそれでいいや。もはや後のことなんてどうでもよかった。
 両手に力を込める。呼応するようにオブジェ――斧剣が鳴った気がした。全力で振れるのは、おそらく一度だけ。だから、その一撃に全てを任せる。

「ふぅ……来いやああぁぁあああああああああ!!!」

 自らを鼓舞するように、士郎は声を張り上げた。
 彼我の距離は、大凡十メートル。この程度、あって無いようなものだ。
 衛宮士郎では相手に敵わない。それは、一時間足らずの邂逅で身を持って思い知った。
 衛宮士郎では相手を捉えられない。相手の槍捌きも体捌きも、見えはしても反応はできない。
 衛宮士郎では相手を防げない。幾ら服の硬度を強化しても、大砲を紙で防ぐようなものだから。
 そこまで考えて思考を打ち切る。考えるだけ無駄なのは、自身が一番良く分かっていた。
 恐怖はない。不安もない。
 ただ神経を細く鋭く研ぎ澄まし、その時を待つ。

 ――――背後で、瓦礫の崩れる音がした。

 数秒か、数十秒か、或いは数分か。
 音を音として認識するよりも速く、全くの同時に両者は動いていた。
 地面を踏みしめ、歯を食いしばり、弧を描くように士郎は斧剣を凪いだ。強化しているにもかかわらず、現在進行形で腕からは嫌な音が鳴る。人体が壊れる音だった。

 ――――世界が遅くなる。

 ランサーの姿を士郎の眼は捉えた。すぐ目の前だった。
 驚きはない。彼我の実力差については今更であり、最初に姿を捉えられなかった時点で、ある程度の結末は予想できていた。
 振り切ることだけを、ただ考える。

 ――――穴が開いたのが分かった。

 視覚で捉えるよりも速く、痛みを感じるよりも速く。その場所は、確かに心臓のすぐ傍。
 何もかもがスローモーションな世界の中で、ズプズプと肉を切り裂き刃先が侵入する音と感触だけは通常営業。
 まだ斧剣は振りきれていない。このままでは振り切るまでに穿たれるのがオチだ。

「っそがぁぁ……っ!」

 悪態は呻き声に近かった。
 斧剣を振るよりも速く、切先が心臓に達するよりも速く、身体の回転速度を上げる。強化した身体ならではの芸当。負荷に身体の各所から悲鳴が上がり、両腕から致命的な音が響く。悲鳴を噛み殺す代わりに、奥歯が割れた。

 ――――切先が逸れる。

「ハッ――――」

 こいつ、本当にただの魔術師かよ。呆れに近い感想を抱きながら、ランサーは踏み込んだ。
 一部の狂いもなく心臓の個所を穿った筈だが、急な回転により目標は進路からずれた。このまま突けば、槍は心臓を掠めるだけに終わる。槍の名手を前にして、それは奇跡とも言える所業。ただの人間とは思えぬ反応速度は、今まさに一寸先の死を回避した。



 ――――そんなわけがない。



「舐めんな、坊主っ!!!」

 相手が悪い。
 幾ら士郎が超人的な反応を見せようとも、相対するは神代に生きた英雄。一学生が太刀打ち可能な相手ではない。 
 人外の腕力で、ランサーは無理矢理に突きから横凪へと繋げた。僅かに逸れた筈の切先は、暴力的な破壊をもって士郎の心臓を横一文字に切り裂き、骨を砕き、あまつさえ両腕にまで傷を広げた。
 飛び散る肉片、噴き出る血飛沫。
 決着は着いた。

「――――ッ」

 だが、それでも。それでもそれでも。
 なけなしの力を動員して、せめても一撃を与えようと斧剣を振るう。
 伸びきった関節も。損傷激しい両腕も。切り裂かれた心臓も。全ては埒外へ。
 死に瀕するには少し早い。
 まだ動ける。
 この一撃まで、動ける。

「誇れよ、坊主」

 振り切るより早く、賞賛の声が士郎の耳朶を打った。
 身体への衝撃。霞む視界。遠のく相手。
 何が起きたのかは分からないが、相手の体勢を見るに蹴りでも入れられたのだろう。
 視界の端に、ちらりと映る斧剣。
 こんなものを後生大事に握りしめてもなぁ、なんて。そんな場違いなコトを考えながら。
 自分が何も出来ずに負けた事を理解し。
 士郎の身体は、斧剣と共に土蔵へと吸い込まれた。

 


  


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.10383105278015