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No.36131の一覧
[0] 【完結】第四次聖杯戦争が十年ずれ込んだら 8/3 完結[朔夜](2013/08/03 01:00)
[8] scene.01 - 1 月下にて[朔夜](2013/01/10 20:28)
[9] scene.01 - 2 間桐家の事情[朔夜](2013/01/10 20:29)
[10] scene.01 - 3 正義の味方とその味方[朔夜](2013/01/10 20:29)
[11] scene.02 開戦[朔夜](2013/01/02 19:33)
[12] scene.03 夜の太陽[朔夜](2013/01/02 19:34)
[13] scene.04 巡る思惑[朔夜](2013/04/23 01:54)
[14] scene.05 魔術師殺しのやり方[朔夜](2013/01/10 20:58)
[15] scene.06 十年遅れの第四次聖杯戦争[朔夜](2013/03/08 19:51)
[16] scene.07 動き出した歯車[朔夜](2013/04/23 01:55)
[17] scene.08 魔女の森[朔夜](2013/03/08 19:53)
[18] scene.09 同盟[朔夜](2013/04/16 19:46)
[19] scene.10 Versus[朔夜](2013/03/08 19:38)
[20] scene.11 night knight nightmare[朔夜](2013/05/11 23:58)
[21] scene.12 天と地のズヴェズダ[朔夜](2013/06/02 02:12)
[22] scene.13 遠い背中[朔夜](2013/05/16 00:32)
[23] scene.14 聖杯の眼前にて、汝を待つ[朔夜](2013/05/28 01:03)
[24] scene.15 Last Count[朔夜](2013/06/02 20:46)
[25] scene.16 姉妹の行方[朔夜](2013/07/24 10:22)
[26] scene.17 誰が為に[朔夜](2013/07/04 20:19)
[27] scene.18 想いの果て[朔夜](2013/08/03 00:51)
[28] scene.19 カムランの丘[朔夜](2013/08/03 20:34)
[29] scene.20 Epilogue[朔夜](2013/08/03 20:41)
[30] scene.21 Answer[朔夜](2013/08/03 00:59)
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[36131] scene.04 巡る思惑
Name: 朔夜◆4a471bd7 ID:42607152 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/23 01:54
/8


 明くる日。

 十一月の朝ともなれば日の昇り始める時間も夏頃と比べれば随分と遅くなる。朝の弱い者にとっては苦痛以外の何物でもない起床の瞬間。
 陽の光という一日の始まりを告げる輝きが冬も差し迫っているという理由で寝坊をしているのなら、少しくらい寝過ごしても構わないだろうと誰もが思う時刻。

 遠坂時臣は太陽が何時昇ろうが自身に定めた起床時刻を守り、常日頃と変わらぬ朝の支度と朝食をもまた既に済ませ、書斎にて自らの手で淹れたばかりの食後の紅茶の薫りを楽しんでいた。

 優雅を信条とする遠坂において、意味のない自堕落は許されない。娘の模範となる父であるのなら尚更だ。幾ら事実上家督を譲ったも同然とはいえ、隠匿を決め込んだ老人のように時間に縛られない生活を彼は好まない。

 幼少時より実父に教えられてきた生き方。遠坂の家門を継ぐ者として当然の所作。役目を半ば果たし終えたとしても、今や身体に染み付いた習慣を変える事など出来る筈もなく、また変える気すらなかった。

 そんな時臣に不満な点があるとするのなら、今目の前で薫り高く湯気を燻らせる紅茶。常ならば侍従に淹れさせ自室へと運んで来て貰うところだが、全員に聖杯戦争を理由に暇を出している。

 魔術の薫陶を受け継がぬ者達とはいえ、彼女らも遠坂の屋敷に携わる充分な身内。魔術師は外敵に対して容赦がない分、身内には随分と甘い。
 無用の犠牲も好まないとなれば、何時聖杯を賭け争う連中に狙われるとも限らないこの屋敷に滞在させておく事は出来なかった。

 それ故に、この紅茶は時臣自身が淹れたもの。別段味に不満があるわけではない。家人の務めとして炊事に洗濯、掃除の全てを一通りこなせるだけの腕はある。
 彼が不満に思うのは、紅茶を淹れてから書斎に運んだせいで幾分熱を失っている事だ。横着をしたつもりはないが、このところ侍従に家事全般を任せていた事もあり、どうも要領に欠けるところがあると己の不明を恥じた。

 次はちゃんとポットを用意しておこう、とそんなまるで麗らかな朝の一時を楽しんでいた風のある時臣は、紅茶を一口含み、嚥下していく赤い液体で充足感を満たした直後、まるでスイッチで切り替わるかのように思考の表と裏を引っ繰り返した。

「ではまず、昨日の釈明から聞こうか、ガウェイン」

 細めた瞳は虚空を見据える。優雅に紅茶を愉しんでいた時臣の顔はそこにはない。あるのは魔術師としての面貌。
 何もない虚空に突如として現われる白の甲冑。霊体から実体への遷移。常に涼やかさを忘れなかった白騎士の顔に、今は僅かだが曇りが見て取れた。

「昨夜の一戦にて君の戦力は充分に把握させて貰った。セイバーとの見事な剣舞、そして聖者の数字を発動して以降の戦闘能力。素晴らしい。最優を誇る剣の英霊を相手取ってなお圧倒せしめたその実力には、惜しみない賛辞を送りたい」

「……ありがとうございます」

「だがだからこそ解せないな。その後に姿を現したバーサーカー。あれとの一戦は一体何なのだ? あの狂乱の英霊は、太陽の加護を得た君をも圧倒するほどの猛者なのか」

 傍目に見た限り、そうとしか映らないだろう。最高位のステータスを誇るセイバーを完封しておきながらバーサーカーを相手に手も足も出なかった不明。
 ステータスの一切を見通せない事がより一層の拍車を掛け、その正体は剣を切り結んだ本人にしか分からない。

 白騎士は引き結んでいた唇を僅かに開けて息を吐く。これより己の告げなければならない言葉に重みを感じながら。隠し通す事の出来ない、そのつもりもない事実を嘘偽りなく日の下に曝け出す。

「私がバーサーカーを相手に苦戦を強いられた理由は簡潔です。あの相手に対し、令呪を以って発動した“聖者の数字”はその効果を発揮しなかったからです」

 素の状態のガウェインの能力値は英霊の中でも優秀な部類に入る。並の英霊であれば圧倒出来るだけの充分な数値を誇っている。
 彼自身の剣技もその信条を反映したように力強く、時に愚直とさえ捉えられかねない程素直な剣筋だが、数多の戦場を切り抜けてきただけの冴えがある。

 何よりこの騎士にとっての真骨頂は太陽の輝く時間、全能力値を三倍に引き上げる“聖者の数字”に集約される。
 愚直すぎる剣も圧倒的な威力を誇れば敵の防御ごと斬り裂き、生半可な攻撃では傷の一つさえ付けられない防御能力は転じて攻撃面での優位性をより不動のものとする。

 一流の騎士ではあっても超一流には及ばない白騎士。されど全てを覆し圧倒する程の加護が彼にはあり、それを有効活用するだけの手段と策を持つマスターに引き当てられた事は彼の僥倖だろう。

 不運、最悪とも呼べる想定外は、あのバーサーカーの存在。ガウェインの優位を根底から揺るがす程の英傑。
 先の一戦にしてもガウェインがその心を平静に保てていたのなら、もっと善戦出来ていた筈だ。

 強力なまでの加護の弱点にして欠点。それは一度破られた相手に対しては二度とその効力を発揮出来ない事。
 令呪の強制を以って発動した“聖者の数字”であっても、その法則からは逃れられなかった。かつて破られた事のある相手に対しては、太陽は二度とガウェインを照らしてはくれないのだ。

「我が“聖者の数字”を真っ向から破った者は、後にも先にもただ一人のみ」

 太陽の加護を失った事による能力低下。
 正体不明の敵に対する理解と驚愕。
 ただ一振りの剣でありたいと願った彼の心を揺さぶる、あの闇こそは────

「────湖の騎士ランスロット卿。私と同じく、無謬の王に仕え、理想の騎士と謳われた男です」



+++


「…………」

 事の顛末を聞き終え、既に当事者の去った書斎。

 時臣は変わらぬまま椅子に腰掛け、机に付いた腕を組みカーテンの隙間から射す陽光が舞う虚空を見据えていた。

 ガウェインの語った真相。
 彼の優位性を揺るがす真実。

 永遠にして無謬の王。
 王の背に輝く太陽の騎士。

 更には理想を体現せし湖の騎士もまたこの第四次聖杯戦争に招かれているという事実。何たる数奇なる命運。仕組まれたのかのように同じ時の果てへと招かれた王とその側近。これを偶然と片付けるには無理がある。

 聖杯が何を思い彼らを招いたのか、参加者らがただより強い英雄を求めた結果なのか、あるいは彼ら自身の人生の結末に対する無念にも似た未練が、このような運命を手繰り寄せたのか……。

「……詮無い思索だ。答えのない問いには意味がない」

 彼らを巡る因果にどのような理由があれ、時臣がやるべき事には変わりはない。彼らの命運に決着が必要だとしても、その手を下すべきなのは彼ら自身だ。時臣はただ聖杯を巡る闘争にこそ想いを馳せるべきだから。

『導師、今お時間は宜しいでしょうか』

 不意に虚空に響く低い声。無音の静寂に閉ざされていた書斎にその無機質な声音が木霊した。

「ああ、大丈夫だよ綺礼。こちらの用件は一先ず済んだ。今後の課題は山積みだが、君との語らいに割く程度の時間はあると思うよ」

 書斎の一角、日の光の届かない死角に佇む蓄音機めいた機械。声の出所はそれだった。本来ターンテーブルのあるべきところに宝石仕掛けの意匠が施され、現在新都は冬木教会に腰を降ろす言峰綺礼との共振による長距離通話を可能にしていた。

 本来魔術師がこのような仕掛けを用いる事は少ない。僅かではあれ魔術の片鱗を宿すものを無為に使用する事自体を魔術師は忌避する。
 魔力の一滴の無駄も許さない……というほど頑固ではなくとも、必要のない魔力消費は極力抑えるべきだとされている。

 時臣も常ならば廊下に据えつけられている電話機を使用するところだが、この街は既に戦場。魔が渦巻く坩堝と化している。
 であれば魔術を使う事に抵抗はなく、躊躇もまた必要ない。何よりこの戦にはあの悪名高き魔術師殺しが参戦している。魔術を結果ではなく手段に貶め、代用出来る全てを科学で補う異端の魔術使い。

 この要塞と化した遠坂邸ではあれ、科学技術について最低限の知識を有していても切嗣ほどには精通していない時臣にしてみれば、この期に及んで電話機を使うという選択は有り得なかった。

 盗聴の危険を冒してまで魔力消費を制限し、監督役である綺礼との内通を露見させるなどという愚かな行為は許容出来る筈もなく。
 宝石魔術に対する深い理解と遠坂の秘術における薫陶がなければ盗聴どころか解析すら不可能なこの宝石仕掛けの通信手段こそが最上。それを理解し、事前に教会にも同型の仕掛けを搬入しておいた次第であった。

 これで心置きなく、誰憚る事なく愛弟子と会話を交わす事が出来る。

『凛はそちらに?』

「いや、あの子は今頃地下の工房だろう。日課の鍛錬を既に始めている頃合だからね。工房にも同型の仕掛けを置いてあるのは君も承知の筈だ。凛──聞こえているのなら返事をしたまえ」

『はい、お父さま』

 間髪を置かず返って来る少女の返答。この屋敷の中で優先されるべきは時臣の言葉。定刻通り行っていた日課にさえそれは優先される。

「鍛錬については少し置いておけ。今はこの会話に参加して欲しい。戦場を客観的に俯瞰していたおまえだからこその意見もあるだろう。何かあれば忌憚なく聞かせてくれ」

『分かりました』

 蓄音機の向こうで居住まいを正す音が聞こえる。それが消えた頃を見計らい、時臣は切り出した。

「まずは君達にも労いを。昨日は良くやってくれた。私が想定していたものと多少の違いこそあったが、全てが万事予定通りというわけにもいくまい。
 その上で作戦はほぼ工程の通りに行われ、実際に成果を出した。その点についてまず感謝の言葉を述べたい」

 昨夜の戦闘。その全てはこの場に声を募らせる三者の誰が欠けても為しえなかった。想定はしていたし、その上で作戦を練り上げた。
 これであの場に居合わせたアインツベルン、引いては盗み見ていた輩に対しても布石を一つ打てた事になる。

『いえ、導師。我々は戦場から遠く離れた場で眺めていたに過ぎません。矢面に立たれた導師こそが労われるべきでしょう』

「それは違うよ綺礼。作戦の立案者は私だ。ならばその責を負うべきなのもまた私であるのだ。矢面に立ったのは当然の事であり、なんら労われるべきものでもない……が、今は素直に感謝しよう。君の厚意はありがたく頂戴しておく」

 それでこの話は終わりだと言うように時臣は一旦区切る。師がそう言うのであれば綺礼には是非もない。

「では早速反省といこうか。ガウェインから先程聞いたばかりの話を、君達にも知らせておく」

 言って時臣は語る。バーサーカーの正体。太陽の加護の消失。千にも万にも上る世界中の英霊の中から、唯一ガウェインを御しえる強敵の出現。運命という名の縛鎖が、彼らの足元へと絡みつく。

 想定外と言えば想定外だが、世界を見渡せばガウェインを上回る英霊などざらに居る。凛が招来しようとした黄金の君を筆頭に、大英雄と称される者達ならば太陽の騎士へと手が届くだろう。

 限りない暴威によって蹂躙し尽くすのではなく、あくまであのバーサーカーとは致命的に相性が悪いというだけの話だ。他の連中に対しては、その優位性は一切の揺るぎも見せてはいない。

 何よりこの遠坂にはもう一騎、従えている英霊が居る。ガウェインただ一人で戦争を勝ち抜く必要はない。その背を守り、天に弓引く狙撃手があるのだから。

「凛、おまえの判断するところのアーチャーの戦力はどの程度と見る」

 時臣も実際にアーチャーの狙撃は目視している。戦場からの離脱に際しては助力さえも借りた。素性の不透明さ、未だ知れない真名、手にする宝具の名は語られぬまま。不安要素は数限りないが、昨夜の戦力は時臣もまた認めるところだ。

 凛に求めたのは射手の側から見る戦力分析。時臣はアーチャーのマスターではない。彼と言葉を交わしたのも数度のみ。これより弓兵を運用していく事になる凛だからこその視点を欲し解を求めた。

『現状では恐らく、お父さまが認識しておられる以上の答えは返す事が出来ません。私もまだアーチャーに対し猜疑の念を抱いていますし、その狙撃能力については評価もしていますが』

 今のところ唯々諾々と従ってはいても、何を切っ掛けに手綱を振り切ろうとするかは分からない。素性が不明である事はそれほどに厄介で、弓兵の底が見通せない以上は現状維持しか出来はしない。

『どうしても現段階で現状を打破しようとするのなら、令呪に訴える他に手段はないかと思います』

 記憶の有無に関わらず、令呪の強制ならば如何様にも縛り付けられる。小規模の奇跡とも言える令呪はそれほどに有用。ただし使い方を誤れば、主従の間に消えない軋轢を刻む事になりかねないが。

「……今はいい。アーチャーの現有戦力だけでも充分な作戦を提起出来るだろう。致命的なズレが見えない限りは、凛に全てを任せよう」

『分かりました』

 父がそう判断する事を承知していたように、凛の言葉にはブレがない。この時点での令呪の強制は、ガウェインに対する支援とは違い身を縛る鎖になる。聖杯を願う以上、表向きは不平不満は言って来ないかもしれないが、その内心に良くないものを募らせる結果となりかねない。

 そんな蓄積がここぞという時の裏切りに直結する可能性を思えば、現状維持こそが最善ではなくとも上等と言える。

「手の内の把握はこのくらいか。後は今後の動きについてだが、こちらもやるべき事は緒戦で済ませている。こちらから無理に打って出る必要もないが、警戒しておくに越した事のない相手もいるしな……」

 緒戦、姿を見せたバーサーカーがガウェインを狙ったその理由。彼があの湖の騎士ならばそれも頷けるが、同時に騎士達の仰いだ王もあの場には居合わせたのだ。
 狂気に犯される程の“何か”をその身に鬱積させた裏切りの騎士。彼を追い詰めたとされる王に先んじて同輩の騎士を狙ったその理由……。

 そしてもう一つ。

「綺礼、再三の確認で申し訳ないが、未だ通達のない参加者については何か情報は?」

『これと言って特には。霊器盤にて全七騎のサーヴァントの召喚は確認しておりますが、マスターについては何とも』

「…………」

 時臣は自分の采配が間違っていたとは思っていない。当初の予定通りであったのなら、今頃より悲惨とも言える状況下に置かれていたかもしれない。
 違えたかも知れない一手を後悔しても今更では意味がない。駒は盤上へと配置され既に局面は動いている。それを活かすも殺すも指し手の手腕に掛かっている。

「時に綺礼、君は何か用件があって連絡をくれたのではないのかな?」

 まさかこの時分に時臣と歓談がしたくてわざわざ連絡を入れてくるほど言峰綺礼は酔狂な男ではない。つい昨夜の反省と称した作戦会議を開いてしまったが、この会談もまた綺礼の連絡が発端だったのだ。

 今後について話し合う前に用件を聞いておいても損はない──そう思い、時臣は切り出した。
 そしてすぐさま理解する事になる。彼の告げる言葉が、これより先の思惑を一点へと収束させざるを得なくなる事を。



+++


 書斎にて声だけの作戦会議が開かれるその数分ほど前。
 つい今し方昨夜の顛末を己の口から語った白騎士──ガウェイン卿は廊下の一角で空を見上げていた。

 サーヴァントの実体化にはマスターの魔力を消費する。微々たるものだが、無駄な浪費は彼もまた好むところではない。本来ならばすぐさま霊体となり、屋敷の警備へと回るところだが、今の彼はそう出来なかった。

 この心の裡でざわめく陰りの正体。昇り始めた日輪の煌きでさえ消せない痛み。煩悶と渦巻く葛藤を抱えたまま、剣の振りをして消える事は出来なかった。
 己自身に課した誓いの為。こんなものを引き摺ったままではいけないと、今一度ただ一振りの剣へと立ち返る為に、十全な感覚がある実体のままで一時を過ごしていた。

 窓の縁を強く掴む。そう、こんな迷いを抱いたままでどうして主の剣などと吹聴出来ようか。剣に意思は必要ない。ただ主の意に応える剣であるべきだ。大きな一つの機構に組み込まれた、ちっぽけな歯車でいい。

「だというのに、何故この痛みは消えてくれない……」

 正しくあらんとする度に、誓いを見つめる度に、あの黒騎士の姿が脳裏を過ぎる。迸る憎悪とそれだけで射殺せそうな殺意。幾度となく打ち込まれた剣戟の苛烈さと、闇の奥で血走っていた瞳がちらついて消えてくれない。

 何が一体彼の騎士の身をあれほどに焦がしたというのか。
 何が彼の男をあんな狂気へと駆り立てたのか。
 どのような結論に至れば、あんな畜生へと堕ちる事が出来るというのか。

 ────貴公はまた、私の前に立ちはだかるのか、ランスロット卿……!

 それは白騎士の後悔の具現。かつて犯した罪のカタチ。二度目の生では繰り返すまいと心に誓った祈り。それが再び現われた。騎士としての道を貫き通したいと願う彼を嘲笑うように、生前よりもなお醜悪な姿で。

 全てから目を背けてしまえればどんなに楽だったか。騎士道を奉じるガウェインだからこそ自分自身を克己する為の戒めは許容出来ても、目の前にある己の罪から目を逸らす事は出来なかった。

「どうしたガウェイン卿、涼やかな君の面貌に見る影もない。そんな面をしてマスターと顔を合わせようものなら、太陽の騎士の名が泣こう。今すぐ己を律せないのなら、顔を洗ってくるがいい」

「アーチャー……」

 朧と姿を現す赤い外套。太陽の光を透かす銀髪と鋭い双眸を携えて、弓兵の英霊が隣に立った。

「何をしているのですアーチャー。貴方は今、この屋敷の警戒を任ぜられていた筈ですが」

「何、交代要員が中々顔を出さないのでね。心配になって探しに来ただけだ」

「…………」

 明確な時刻は時計のないこの廊下では分からない。が、アーチャーがそう言うからにはガウェインはそれだけの長い時間、思索に囚われてたという事だろう。なんという不覚。人を責める前に己の不明をまず恥じなければならなかった。

「……そうですか。申し訳ない。すぐにも警護に回りましょう」

「まあ待て。今の君に果たして屋敷の守りを任せて良いものか」

「それが役とあらばどのような精神状態であろうとこなして見せます。心配には及ばない」

「その言葉は既に己は十全ではないと告げているようなものなのだがな……。まあいい、別段交代したからといって何かやる事があるわけでもない。暫し付き合おう」

「…………」

「不服かね? どの道この時分に仕掛けてくるような輩はそういない。索敵能力ならば君よりも私の方が上だ。私の眼が見る限り、今この瞬間に危険は皆無だ」

 白騎士は据わった目で眼前の英霊を見る。赤い弓兵は口の端を僅かに上げ、ニヒルに笑った。

「つまり──少し話をしないか、という提案だ」



+++


 遠坂邸は深山町の洋館街の小高い丘の上にある。背後に山を背負い、正面入り口から伸びる道路を真っ直ぐに行けば直に間桐邸が見え、そのまま進むと深山町を南北に分かつ十字路へと行き着く。
 その立地上、屋根の上から町を見渡せば、深山町一帯が一望出来る。天気のいい日なら遠く未遠川に架かる冬木大橋の遠景をはっきりと見通せるだろう。

 但しそれは常人ならばの話であり、彼らサーヴァントにとってみればどれだけ悪天候だろうと大橋くらいまでは見通せるだろうし、鷹の眼を持つアーチャーならば鉄骨に穿たれたボルトでさえ把握する事が可能だ。

 つまり遠坂の屋敷の屋根の上は哨戒を行うのに適しているという事だ。屋敷を含む一帯が私有地という事もあり、守る分には楽な部類に入るだろう。

 これでもし敵に狙撃手がいればまた話は別だが、弓兵の英霊は遠坂の側にいる。警戒すべきは遠距離攻撃の手段を有しているであろうキャスターくらいのものか。大規模破壊を行える宝具を持つ輩までその対象にしては、どれだけ備に眼を凝らそうと意味がない。神経が擦り切れるだけだ。

 遠坂、間桐両家が市井に紛れるように暮らしているのはそんな攻撃手段を警戒しての側面もある。同じ魔術師ならば余計な被害とそれに伴う神秘の露見を嫌うものだ。住宅の密集するこの場所で対軍以上の宝具の使用に及べばその被害は甚大なものとなる。

 少なくともサーヴァントが屋敷の警戒をしている以上、そんな強硬手段に及べば間違いなく気付く。咄嗟の対処こそ迫られるが、そんなどうしようもないものまで警戒していてはおちおちと眠れさえしない。ある種の図太さで、彼ら両家の当主は今も変わる事なく我が家で過ごしている。

 先程までアーチャーが警戒を担当していたとはいえ、律儀なガウェインは屋根の上から町を一望し、サーヴァントの気配がない事を確認した後、不遜にも腕を組んで呆れた顔をしている弓兵へと向き直った。

「律儀なものだな。そんなにも私が信用ならないか」

「貴方に対する信用云々の話ではなく、これは自身に課せられた役目。マスターの命である以上、己が眼で確認するのは当然でしょう」

「生真面目なのは結構だが、行き過ぎればただの頑固だ。もっと肩の力を抜くといい」

 問われた事に一々真顔で答えを返すガウェインとは裏腹に、アーチャーは半ば茶化すように言葉で遊んでいる。まともに相手をしてはキリがないとばかりに白騎士は本題を切り出した。

「それで、何用ですアーチャー。まさか雑談がしたいというわけでもないでしょう」

「いいや、その通りだが? 本来ならば我々は語るべきを剣で語り、交わす言葉は牽制と挑発を滲ませた応酬であった筈だ。
 それが如何なる運命の悪戯か、こうして肩を並べている。折角の機会だ、彼の太陽の騎士と忌憚なく話をしてみたいと思うのはそれ程おかしなものだろうか」

 謙っているように見えてその実見下しているようでもあるアーチャーの口ぶり。その人を食ったような物言いは、かつて轡を並べた騎士の中にも似たような話術で煙に巻くのが得意な者が居た事を思い出した。

「私は主の為の剣。故に無用な問答など交わすつもりはありません」

「では無用でなければいいと。貴君は己を主の為の剣と言った。ならばその剣が迷いを宿していては、何時か主に仇なす事もあるのではないのかな?」

「……なるほど。轡を並べる者として、迷いを抱いた者に預ける剣はないと。そういう事ですか」

「理解が早くて助かるよ。マスターらのサーヴァントの運用法を勘案するに、卿が前衛で私が後衛だろう。弓兵という立場上、前衛が脆くては弓を引く事もままならないのでな。守るべきものを守れぬ剣に意味などないだろう?」

「安い挑発になど乗るつもりはありません。ですが貴方の憂慮もまた当然。迷いのある剣は己だけでなく主をも危険に晒す事でしょう。
 しかし貴公の手を煩わせるまでもなく、この身はただ一振りの剣です。迷いを抱く事すらも過ぎた身。ただ主の行く手を阻む全てを斬り倒すまでの事」

「そうか……では、同じ過ちを繰り返さぬよう期待したいところだな」

 言ってアーチャーは視線を遠く投げる。明け行く夜と昇り来る朝、その狭間から澄み渡る冬の空を望むように。

 弓兵が白騎士の何を、何処まで知っているのかは分からない。上辺だけでの言葉は誰の心にも響かない。他者を思う心がなければ届かない。何より心を持つ事すら不要だと言い切るガウェインを相手にしては尚更だ。

 過ちを繰り返して欲しくない? 当然だ、そんな事言われるまでもなく分かっている。私情に駆られ王を死なせた己の不明を恥じて、あるかどうかも分からなかった二度目の生では繰り返すまいと誓ったのだから。

 現実となった二度目の生。剣を捧げる主は違い、頂くべき王ですらなくとも、誓った祈りに間違いはない。
 先程まで胸で渦巻いていた煩悶も今や薄れている。全ては今代の主に優先される。過去からの呼び声に、今更耳を傾ける必要など初めからなかったのだ。

 如何にあの狂戦士が彼の湖の騎士であっても、王が彼を赦し、己もまた私情にて剣を振るうまいと律する以上、あの狂気はただ打ち倒すべき敵でしかない。
 理想の騎士が狂気に囚われた理由を勘案してやる必要などあろうか。その境遇を慮る必要があろうか。いや、ない。剣に意思がないのなら、倒すべき敵を想う気持ちもまたあってはならない。

 主の目指すべき先を切り拓く為の剣。ピースの一つ。組み込まれた歯車。それでいい。そうあるべきで、そうありたいと願ったから。

「…………」

 曇りなき瞳が弓兵を見る。太陽の熱を宿した澄んだ眼差し。日陰を生きた者にとっては眩しすぎる程の光。
 けれどそれは間違った輝きだと弓騎士は思う。滅私。忠誠。大いに結構だとも。彼の主が己の全てを賭けるに値する者であって、その間違いを彼自身が容認しているとすれば、の話だが。

 今多くを語ったところで白騎士の胸には届くまい。無謬の王と理想の騎士の登場は彼にとっても予想外のもので、正常な判断力を失している。
 ぶれていないように見えるのは原点に立ち返ったからだ。それは目を背けずとも、目を瞑るに等しいものだと気付いていない。

 だから今、告げるべきは一言だけ。

「何が間違っているか──まずはそこから見つめるべきだ。いらぬお節介だがな、聞き流してくれても構わん」

 それで用は済んだとばかりに弓兵は背を向ける。

「この時間の警護担当は君だ、後は任せよう」

 赤い外套が光に透けるように消えていく。一方的に話をしたいと言っておきながら、こんな顛末があって良いのだろうか。

「…………」

 元よりガウェインは多くを語るつもりはなかったのだから、無用に口を開く必要がなくなった事は素直に喜んでおくべきだろう。
 ただ、その最後に残された言葉がほんの少しだけ、気にかかった。

「私が……間違えている……?」

 弓兵の投げた問い掛けに対する答えを白騎士は持ち合わせない。間違えまいと己を律したというのに、一体何を間違えているというのか。
 そもそもからしてアーチャーの言葉を全て鵜呑みにしてはいけない。素性の知れない輩の声を真に受けていては立ち行かない。今はこうして肩を並べてはいても、何れは剣を交える事にもなりかねないのだから。

 心は深く深く沈み込む。思考は停止し、見つめるはただ前のみ。刃のように鋭利な瞳で高みより町を眺望する。明け行く空の彼方に何を見るのか、彼自身分からぬままに、一日が始まりを告げる。


/9


 昼なお薄暗い間桐の屋敷。

 窓に掛かるカーテンは外が晴天であるというのに閉ざされ、陰鬱な空間を作っている。光源はカーテン越しの陽光だけ。薄暗いのも当然だろう。

 意図して光を遠ざけているのには勿論理由がある。

 間桐臓硯──間桐に棲む大翁は吸血鬼だ。厳密に言えば違うが、それが“鬼”であろうと“蟲”であろうと大差はない。
 吸血鬼が苦手するものの筆頭は十字架やニンニク、それに陽光だ。あの翁は日の光を嫌っている。光を浴びれば灰になる、という程極端ではなくとも、習性として忌避し遠ざけている。

 そして彼の生み出した間桐の秘術である蟲もまた、陰鬱な闇を好む。地下にある蟲蔵は緑色の闇に包まれ腐臭に満ちている。求め欲した力を手に入れた雁夜にとって、あの地獄の底にはもう何の用もないのだが。

 そんな男は今、客室のソファーに身を埋めていた。手足をだらりと伸ばし、首もまた力なく垂れ下がっている。瞳は閉じられ、唇に動きはない。肌の色は青白く、身動ぎの一つもない様はまるで──

「雁夜よ。よもやお主、死んでおるわけではあるまいな?」

 屋敷の主がいつの間にか扉の前に立っていた。カーテン越しの陽光をすら煩わしそうに目を細め、視線は死んだように動かない男を向いていた。

「……死んでいると思う相手に声を掛けるほど耄碌したか妖怪」

 閉じていた目を眇め、虚空を見る。脇に立つ臓硯に視線を送らぬまま、何もない空間を呆と見つめた。

「それだけの口を叩けるようならば、サーヴァントの扱いにも問題はないようじゃな」

「ふん……」

 十年の研鑽で得た魔術師としての力はどうやら実を結んだようだ。狂化による魔力消費の増大はマスターへと多大な負担を強いる。過去バーサーカーのマスターとなった者達は皆その過負荷に耐え切れず自滅したらしい。

 そんな彼らとは違い、雁夜は今なお生きている。緒戦、バーサーカーを完全に御する事までは出来なかったが、死ぬほどの苦しみや身体に深刻なダメージを受けるまでには至らなかった。

「代わりにどれだけ蟲が死んだか分からないがな。アイツは魔力どころかその源さえ根こそぎ持って行きやがる」

 雁夜の体内に棲む刻印蟲。本来ならばそれは宿主に寄生し術者──臓硯に寄生者の存命を知らせるだけの使い魔。魔力を貪り、果ては肉すらも喰らい宿主に害為す文字通りの寄生蟲だが、雁夜の体内にあるそれは違う。

 間桐の秘術を体得し、蟲の扱いをも掌握した今の雁夜にとって、刻印蟲もまたその掌の上の存在。意思の操作は勿論、自己流に交配をし、魔力を貪るだけでなく生む存在へと造り替えている。

 云わばそれは雁夜が生まれ持った魔術回路とは別の魔力精製炉。平均的な魔術師ならば軽く凌駕する程度には、雁夜の宿す魔力量は多くなっている。
 そんな雁夜をして、バーサーカーを御するのは至難だった。これで格の低い英霊を狂化していればまた話は別だったかもしれないが、雁夜の喚んだ騎士は上位格。その名を広く世に轟かせる英傑であった。

 犠牲に見合うだけの能力値を誇り、事実彼の太陽の騎士を圧倒して見せた。あの状態ですらまだ、バーサーカーはその力の真価を発揮してはいない。全ての力を解き放った時、最優をも凌駕する狂気が具現化する。

 ……その時の俺が、その過負荷に耐えられるかどうかは別だがな。

 だから今、雁夜は無駄な魔力消費を少しでも抑える為にソファーに身を埋めていた。失った分の蟲をも精製しなければならず、余計な雑事に構っていられる暇はない。ようやく臓硯を視界に入れ、雁夜は嘯く。

「下らない話をしに来たのなら消えてくれ。今の俺にそんな余裕はないんだ」

「そう邪険にするでない。貴様一人でこの戦い、勝ち抜けるなどとは思っておるまい? バーサーカーの戦力は脅威ではあるが、他の連中も充分な策を弄しておる。
 真正面からの戦いには滅法強い貴様のサーヴァントも、絡め取られればどうなるか分かったものではない」

「……何が言いたい」

「────桜を使え。それでお主の負担は減り、戦況をより優位に持っていけよう」

「…………」

 それは桜もまた間桐のマスターであると知った時から、雁夜も計算に入れていた事。いずれ桜の手を借りねばならなくなるだろう、と。
 十年のモラトリアムが生んだ奇策は何も間桐だけの恩恵ではない。アインツベルンに遠坂も、それぞれ必勝の布陣を組んでいる。

「昨夜の戦いでお主も見たであろう? 遠坂からの正規の参戦者……マスターである遠坂凛のみならず、その父時臣もまた戦場に姿を現した。
 彼奴の従えたガウェインをバーサーカーは圧倒したが、それに横槍をくれたのは他でもない、アーチャー。娘の方が従えたサーヴァントよ」

 使い魔の目を通してでしかなかった雁夜には確信は持てなかったが、臓硯がそう言うからにはそれは事実なのだろう。遠坂の陣営は、こちらと同じく二騎のサーヴァントを従えている……。

「ガウェインに対してバーサーカーは相性、力量、共に優位じゃ。余程の事がなければそれは揺るがぬ。が、そこにアーチャーが加われば話は別だ。
 弓兵の矢の雨に晒されながら、一流の腕を持つ白騎士を相手取るのは、如何に最強を謳った湖の騎士とて容易くはなかろう」

 その為の桜と彼女のサーヴァント。遠坂が緒戦で二騎のサーヴァントを従えている事を露見した以上、これより先の戦いで隠す理由はない。前衛として白騎士を配置し、後衛に弓兵を据えるのは当然と考えられる。

 如何にガウェインに勝ろうとも、同じ英霊の援護を得た彼の太陽の騎士を相手にしてはバーサーカーといえど苦戦は免れない。
 更には相手取るべきは遠坂だけではないのだ。悪名高き魔術師殺しが、座して間桐の不利を捨て置く筈がない。僅かでも隙を見せれば、蛇のように絡め取られる。

 それでも雁夜は彼女が戦場に立つ事を良しとはしたくなかった。雁夜にとって桜は守るべき者。救うべき対象だ。彼女の力は必ず雁夜の助けになると分かっていても、あんな暗い顔をしたあの子にこれ以上の重荷を背負わせたくはなかった。

「大丈夫です、雁夜おじさん」

「桜ちゃん……」

 扉を開けて姿を現す間桐桜。何処から話を聞いていたのかは定かではないが、その顔には決意が見て取れる。長い前髪の奥に伺える瞳はいつかのように床の一点を見つめるのではなく、真っ直ぐに雁夜を見ていた。

「この“令呪(ちから)”は雁夜おじさんの助けとなる為にお爺さまに授けられたものです。そこに戸惑いはありません。それに……」

 光を覆う闇。昏い暗い底の感情。全てを諦めていた彼女はまた、間桐の闇に呑まれ使役される。
 だがそれ以外の感情を、雁夜は僅かだが見て取った。昏い瞳の奥に何かを。それが何かは雁夜には分からない。

 でもきっとそれは恐らく彼女の意思だ。言葉を発する事にすら脅え、常に下を向いていた彼女に宿った意思の力。それを無碍にはしたくない。どうせいずれは借りねばならなかった力なのだ。

 守るべき人の力を借りねばならない不甲斐無さ。嘆くべきは己の不徳で、恥じるべきは女を戦場に駆り立てなければならない己の弱さだ。

「……分かったよ、桜ちゃん、君の手を借りる。だけど、借りるだけだ。矢面に立つのは俺で、君にはそのサポートを頼む」

 ならば守ろう。

 このちっぽけな掌で、守りたいと願った君を。
 救いたいと足掻く、この己の心に賭けて。

「話は纏まったようじゃな」

 臓硯が落ち窪んだ瞳で雁夜を見る。異形とさえ思える面貌を歪に変え、憚った。

「では雁夜よ、お主に招待状が届いておるでな。渡しておこう」

「……招待状?」

 まさか文字通りのパーティへの招待状などではあるまい。この時期、この時分にそんなものを寄越すような奴がまともである筈がない。

「中身は念の為検めさせて貰ったがな。まあ、これに応じるかどうかは好きにせい。彼奴らにとっては儂らがどう転ぼうと構わぬ、という腹じゃろうからな」

 くつくつと嗤う臓硯より渡された手紙……招待状を乱雑に広げ目を通す。それは余りに荒唐無稽で馬鹿馬鹿しく、そして臓硯の言う通りのものであったが、雁夜もまた同じくその口元を歪めた。


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