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No.34048の一覧
[0] 時計塔の奇矯な魔術師(fate/zero 転生オリ主 原作知識あり)[深海魚](2015/09/22 01:44)
[1] ある昼下がりのこと[深海魚](2012/07/10 22:30)
[2] 月霊髄液(仮)[深海魚](2012/07/10 21:53)
[3] 朝帰り[深海魚](2012/07/11 19:20)
[4] 売られた喧嘩[深海魚](2012/07/14 10:48)
[5] 購入済みの喧嘩[深海魚](2012/07/15 20:04)
[6] 幕間・基本的行動パターン[深海魚](2012/08/20 18:30)
[7] 予期せぬ襲来の予期(9/5加筆)[深海魚](2012/09/05 20:29)
[8] 友情[深海魚](2012/10/16 22:49)
[9] 厄介事[深海魚](2012/12/24 00:20)
[10] 突破[深海魚](2013/04/18 13:36)
[12] 危地[深海魚](2015/09/22 01:57)
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[34048] 売られた喧嘩
Name: 深海魚◆6f06f80a ID:fb12e672 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/14 10:48
 正直、少し不穏なものを感じた。
 相手のガタイはそんなに良くない。ただ、178センチの僕がやや見上げるくらいだから、かなりの長身ではある。
 そんなやつが、やけに剣呑な目つきでこっちを見てくるのだ。警戒しないほうが難しい。

「まず、自分から名乗るのが礼儀だと思うんだけど、なぁ……それに、いきなりお前呼ばわりはないんじゃないの?」

 とは言いつつも、さりげなくルーン魔術を刻めるように体勢を整える。
 まさか時計塔の中で白昼堂々襲いかかってくるような馬鹿はいないと思うけれど、念のためというやつだ。

「チッ……私はジェイムズ・ジェファソン。降霊科(ユリフィス)の魔術師だ」

 今、聞こえたぞ。はっきり舌打ち聞こえたぞ。こいつ喧嘩売ってるのか。
 降霊科(ユリフィス)でジェファソン、しかも僕より年上でといえば、7代か6代くらい続いた家のジェファソンかな。ありがちな苗字はどこの誰だか分かりづらくて困る。
 僕の考えたジェファソンで合ってるなら、アーチボルト家からそこそこ遠い親戚筋だったと思う。同じ降霊科(ユリフィス)だからケインも知ってるだろうけれど、そうじゃなかったら、存在くらいは頭の片隅に留めておく程度だろう。
 見た感じ、いかにもお馬鹿で大した魔術師じゃなさそうなんだけど、一体なにを思って僕に突っかかってくるのだろう。

「フシャー……」
「待て、キケロー」

 あまりにも理不尽な展開に青筋が立ちそうになるのを必死で堪え、同時に今にも飛びかからんばかりのキケローを静止する。
 ただの猫が魔術師に勝てる道理はない。大事な家族に死なれたら、今度は僕が寂しくなる。それは困る。
 幸い、キケローは尻尾を逆立てて敵意を剥き出しにしたまま、しかし三歩ほど後ろに下がった。野生の勘からかどうかは知らないが、彼我の戦力差を正確に計り、自分では逆立ちしても目の前の男を打倒できないということを理解しているのだ。
 それにしても、待てで止まるってなんか犬っぽい。
 自由奔放なのが売りの猫なのに、言うことはちゃんと聞いて、でもそれ以上に寂しがり屋さんでデレデレってどうなのだろう。猫としての誇りというか本能というか、そういうものはないのか。……嬉しいから良いけど。
 あらぬ方向に進みそうな思考回路を修正し、僕は平静な声を出す。

「それで、ミスタ・ジェファソン。僕に何の用?」
「なに、あのケイネス殿が普段から連れている魔術師がどのような者か、見に来たというだけのことだ」
「……それで?」

 一体どうしろというのか。もう行ってもいいのか。
 言うだけ言ってなにも要求されないのは困る。
 こちらが反応を示さないと見ると、ジェファソンは軽く咳払いをして続ける。

「私は降霊科(ユリフィス)でも悪くはない腕だと自負している……もちろん、ケイネス殿に比べれば未熟極まりないことは認めよう。それは確かだ……だがバンクス、お前に――君に劣っているとは、まして戦いの面で劣るとは、とても思えない」
「ふーん」

 知るか。
 それが正直な感想である。思わず返事もそっけなくなってしまったが、仕方の無いことだ。
 大方、誰かに焚きつけられたってところだろう。アーチボルト家と血が繋がっているわけでもないのに、ケイン個人と親しくなった僕を疎んじる人は多い。争いの火種は至るところで燻っている。そこにちょっと風を送ってやれば、すぐに火がつく。
 しかし、戦いが嫌いで経験したこともない僕に勝ったからって、なにが嬉しいのか。
 むしろ、勝てなかったら大恥かくのは自分だ。
 はっきり言って、バンクス家は時計塔の魔術師に共通する常識“万能と魔術回路の増加を目指した交配”から全力で逆走したような家系だ。魔術回路は二の次で、ルーン魔術の適性を最重視した。その次に魔術回路、最後に属性や特製などのその他沢山の適正。
 他家から魔術回路の本数が飛び抜けて多い女性を政略結婚の材料として差し出されても断ったことがあるくらいだ。なんでも、その女性の才能がちょっと凄くて、ルーン魔術特化の血が薄まるかもしれないと危惧したんだとか。

 口上はまだ続くらしい。今度は両手を広げ、演説でもするかのような調子だ。

「ケイネス殿はこう仰られた。“ジェイムズ、君の筋は悪くないが、その血は未だ薄い。まあ、仮にあと三代を経たとしても、私やベンには遠く及ばんだろうな”――はたして、そうか? 本当に? 呪術紛いの占いや、日常の手間を省くことにしか魔術を活用できない魔術師に、たかがルーンマスターに、この私が負けると思うか?」
「た、たかがルーン……」

 思わず口元がひきつった。よくもまあ、初対面の人間をここまで馬鹿にできるものだ。
 相手は仮にも魔術師、しかもそこらの凡百じゃなく、11代を経た大家の嫡男だ。どんな奥の手を隠し持っているのか分かったものじゃない、普通はそう思って慎重に接するはず。事実、ケインも最初に出会った時には、傲慢さを押し出してくることがなかった。
 実は凄く強いんです、なんて展開はまずないだろう。そもそも、そんな実力がないからケインに馬鹿にされたわけだし。実力を隠してたなら僕に喧嘩を売る意味はどこにもないし。
 となると、こいつは頭が残念なのか。それとも自分によっぽど自信があるのか。どっちにしても知恵足らずには違いない。
 ごほん、と少し咳払いをして僕は口を開く。

「まあ、たしかにルーンは戦闘向きじゃない。でも、そもそも魔術師が強さを競う必要は、どこにもないんじゃないかな。研究者が人を殺す必要はないし、傷つける意味もない」
「口ばかり達者だな。そうやって今までは逃げてきたのだろうが、今度ばかりはそうもいかん。私の血は決して薄くなどないことを、証明せねばならんからな」
「いやだから、魔術師の本分は研究であって戦闘じゃないから、ただでさえ戦闘向きじゃない僕に勝ったってなんの自慢にもなりゃしないって言ってるんだけど……」
「逃すつもりはないと、そう言っているのだ。お前を倒せば、私の屈辱は晴れる……!」

 ダメだ。同じ英語を話してることが信じられないほどに話が通じない。
 放って行くのもどうかとは思うけれど、このまま付き合っても何一つ有益な会話はできなさそうだ。

「悪いけど、研究のことでケインに呼ばれてるんだ。申し訳ないけど、これ以上君に構ってられない。君との会話、ケインとの待ち合わせ、どっちを優先するべきなのかは分かるよな?」
「ぐ、む……」

 僕が滅多に使うことはない、あからさまな無関心を込めた言葉遣い。つまり、魔術師としての基本的な言葉遣い。
 ジェファソンの顔は赤くなるやら青くなるやらで忙しい。怒りの炎に冷水をぶっかけられたにも関わらず、それを受けてもなお有り余る怒りが止まらないといったところか。
 別に人間観察が上手くなっても嬉しくない。が、こういう時は非常に役立つ。

「バンクス、お前まで私を侮辱するのか……この隠者気取り風情がッ!」

 ――心中に、ちょっとしたざわめきを感じた。
 あんな実家でも、馬鹿にされると腹が立つ。それもこんな馬の骨に侮辱されるのは屈辱の極みだ。

「……あんまり口の調子がよろしくないみたいだね」

 怒りを押し殺し、しかし声には底冷えするような敵意を滲ませる。しっかりと、警告の意が相手に伝わるように。

 隠者気取り――いつの頃か、バンクス家に与えられた蔑称。
魔術協会には封印指定というものがある。一代では到底成し遂げられないであろう業績を、たった一人で叩き出してしまった魔術師に対して贈られるものだ。いわゆる、我々の業界ではご褒美です、という類のもの。
 基本的には「こいつちょっと凄すぎるから、首に縄でも付けたいなぁ」と思われた魔術師が封印指定を受ける。
 封印指定を受けた魔術師は、協会に留まり続ければ間違いなく捕らえられ、ホルマリン漬けにされるか、一生を幽閉されてすごす。まあ当然ながら、そんなことを望む変わり者がそうそういるわけもなく、大抵の場合は逃げ出す。協会の方も、逃げ出した魔術師を無理に追うことはない。別に放っておいても損失ではないし、封印指定を受ける魔術師は例外なく恐ろしいまでの手練ゆえに捕まえるのも並大抵の苦労ではない。
 そして、究極的に自分のこと以外はどうでもいいと考える人種が魔術師だ。魔術をホイホイと衆目に晒すようなことがなければ、協会は封印指定された魔術師の逃亡を看過する。そもそも、封印指定を受けたからといってなにか悪いことをしたわけではない。魔術師として規格外なまでに優れているというだけのことだ。一応は執行者という封印指定の捕縛を専門とする人員も存在するが、追う手間とリスクを考えれば、わざわざ執行者を動員することは滅多にない。
 そんなこんなで逃げ去った封印指定はなにをするかというと、大雑把に分けて二通り。
 自分の領地や工房に引きこもり、自分だけで根源への到達を目指す賢者。
 子孫に自分の魔術を伝え、一族で根源を目指す隠者。
 バンクス家の人間が隠者気取りと呼ばれるのは、そのためだ。
 封印指定を受けるほどに途轍もない業績や成果を残したわけでもないのに、権力や協会から距離を置いて魔術の研鑽に努めたことを揶揄した呼び名。それが隠者気取り。
 そして僕を隠者気取り呼ばわりするということは、ケインに「魔術工房|(笑)、ロード」と言ったり、間桐雁夜に「ストーカー嫉妬男乙」と言うようなものなのだ。
 要するに、決闘を挑まれても仕方がないくらいの罵声である。
 僕は戦闘が得意でも好きでもないし、別に悪口を言われたくらいで実力行使し返すほど狭量ではないけれど――不愉快なのは事実だ。
 相手が相手なら「僕を隠者気取りと読んだ者は、例外なくブチ殺している」とかなるところだぞ、全く。

 そういえば蒼崎の血族が時計塔に来るらしいとかいう噂を未だに聞いたことがないけれど、一体いつになったら来るのだろうか。なんかブッ飛んでそうな人なので、あまり関わり合いにはなりたくない。

 そんなことを考えているうちに、今まで時間を無駄にし続けてきたのがなんだか馬鹿らしくなったので、ジェファソンはさっさと置いていくことにした。

「……話はまた後日、それも前もって予約を取ってくれるなら、喜んで付き合うよ。ほら、行こうキケロー」
「にゃあ」

 嬉しげに鳴くキケローを連れて、ジェファソンに背を向けた。
 その瞬間。

「こんな臆病者が唯一の親友とは、アーチボルトの名が泣くな……どうやら、次期当主たるケイネス殿は冷静な判断力を失っているらしい! 甘やかされて不自由なく育った、世間知らずの名門出にありがちな浅慮の結果が、お前というわけか!」

 立ち止まる。
 僕の中のなにかが、さっきから若干振り切れそうだったなにかが、清々しいほどに飛んでいった。
 そして振り向く。
 なんだか意外そうな顔をしたジェファソンがそこにいた。まさか、これで反応するとは思っていなかったのだろう。
 ただし、だ。
 僕への無礼、家族への罵倒、親友への侮辱。
 この三拍子が揃っていて怒らないほど、僕は寛大ではない。

「……あ゛?」

 自分でも驚くほどキレた声が出た。
 足元のキケローが、心配そうに擦り寄ってくるのを制止する。
 こいつ、今、僕の親友を馬鹿にしたのか。
 頭がお花畑のクセして。
 よりにもよって、十中八九この僕よりも弱っちい魔術師にすぎないというのに。
 根拠といえば、身の程知らずな嫉妬と分不相応な自信だけで。

「よく聞こえなかったから、もう一度言ってみろよ、おい。誰が甘やかされた世間知らずだ?」

 捨て台詞に過ぎないことは分かっている。
 いや、むしろそれより悪い。ジェファソンはアーチボルト家の親戚筋なのだから、本家の嫡男の悪口を言ってたとなれば、家と一緒に立場が悪くなること請け合いだ。墓穴を掘ったとしか言いようがない。
 それでも、ちょっと頭にきた。
 幼い頃から巨大すぎる権力に翻弄されて、それでも確固たる人格と誇りを持って、次期当主に相応しいと実力だけで認められるまで自分を研鑽し続けたケインを、なにも知らないこいつが決め付けだけで侮辱したのだ。
 現時点で時計塔の誰よりもケインのことを知っていると自負しているからこそ、許しがたい。


「いや、私は……」

 ジェファソンも口を滑らせてしまったことは自覚しているのだろう、これだけあからさまに喧嘩を売られているというのに、しどろもどろになっている。
 弱い相手には強く、強い相手には弱い。まるで僕を見ているようだ。
 僕に限らず、ほとんどの人間はそれが当たり前だ。それでも、良い気持ちにはならなかった。

「……もういいよ。知るか」

 そんな男を責め立てている自分が情けなくなって、急に頭が冷えた。
 親友を馬鹿にされたとはいえ、負け犬の遠吠えに過ぎない。それをいちいち怒っても仕方がない。
 第一、こんなことですぐにやり返せば、それこそケインの沽券に関わるというものだ。
 そう思っていた。

「……何事だね、ジェイムズ」

 興味の薄そうな声が、ジェファソンの背後、二階へと繋がる階段から聞こえてくるまでは。
 ジェファソンは顔を真っ青にして硬直し、僕はといえば、この状況をどうしていいやら分からずに停止していた。
 まさか、まさかの――ご本人登場である。
 コツコツと靴音が響き、ケインが近づいてくる。ジェファソンは顔を向けてその姿を確認すると、体ごと向き直って直立不動の姿勢を取った。阿てもいないが無礼にもならない、丁度いいラインの礼儀だ。

「答えろ、ジェイムズ。やけに苛立っていたようだが、ベンとなにをしていた?」
「いえ、私は、なにも……後ろめたいことは」
「はっきりと答えられぬなら、もう君には期待するまい。ベン、詳細に説明を」

 ケインはジェファソンの横を通りすぎ、僕の前に立つ。
 見切り早いなぁ、おい。
 思わず同情してしまいそうになるが、僕がこいつを庇う理由はどこにもない。その逆なら少しは見つかる。
 そんなわけで、僕がなにもかも包み隠さず話すのは当然の成り行きだった。

「要するに……そこのミスタ・ジェファソンは、自分の実力に相応しい評価が成されていないという意見を持っているらしい。およそ戦闘面において、たかがルーンマスターの僕より劣っているとはとても思えない、だそうだ」
「ほう、そうか。ジェイムズ、君は私の見立てを認めず、ベンよりも上だと言いたいわけか。それだけでなく、ルーン魔術そのものが貧弱であると主張するわけだな」

 僕の暴露を聞いて顔に朱が差したジェファソンは、次の追い打ちで哀れなほど萎縮していた。陳腐な表現だが、蛇に睨まれた蛙のようだ。

「ケイン、弱いものイジメは良くない。第一、これじゃ僕がケインの威を借りた弱虫みたいじゃないか。だから」
「そうだな。これでは、ベンの誇りは傷つけられたままだ。ならば――」

 ケインは僕の言葉を遮り、薄く笑う。
 それは、久しぶりに見た類の笑みだった。
 残酷で、冷酷で、ネズミを甚振る狐のような笑み。
 なんだか、途轍もなく嫌な予感がした。

「実際に戦い、見せつけるしかない。そうだろう? ――ジェイムズ。君は先程、ルーン魔術が貧弱であると発言したらしいな。良い機会だ、噂の隠者気取りの実力を見る良い機会だぞ。親友であるこの私でさえ、ベンの戦闘を見た回数は片手の指で数えられるほどだからな。こんな機会は滅多にあるまい」

 そして予想通り、こんなことを言い出しやがるあたり、やはり僕の勘は無意識の内に起源によって強化されているのではなかろうか。
 アーチボルトの親戚筋の嫡男と決闘――買っても、負けても、残るのは厄介事という終わりしか思い浮かばない。


「ケイィイイイインッ! 僕は無駄な戦いなんて金輪際ごめんだぞ! 研究者に腕っ節はいらないんだよッ!」
「なに、遠慮は不要。このケイネス・アーチボルトの名にかけて、ベンジャミン・バンクスとジェイムズ・ジェファソンの決闘を取り仕切る。一片の私情なく、公正に見届け人を務めると確約しよう。両者共に、光栄に思うのだな」
「いやだから、僕の不戦敗でもいいから――」

 皆まで言い切る前に、ジェファソンが嬉々とした表情で割り込む。

「構いません! 是非ともお願いします!」
「ああ。存分にその腕を振るいたまえ。ベンも今更引き下がるような真似はすまい。そのようなことをするのは、名誉の意味を知らぬ者だけだ。よもや、私の親友ともあろう者が、そのような恥知らずであるはずもない。そうだろう?」
「え、いや、だから、それと魔術師はなんの関係も――」
「決まりだ! では、五階の決闘場で行うとしよう。あそこならば使う者もいまい。私の名を使えば貸し切るのは容易だ」 

 あれよあれよという間に話が進んでいく。
 もう僕だけの話じゃなくなってきた。
 なにより、こうなったケインは、もう止められない。
 僕はケインに詰め寄り、ジェファソンに聞こえないよう囁く。

「おい、ケイン。僕は嫌だ」
「ベン。この際だ、君の強さを見せつけてやれ。これはここだけの話だが、私と君が行動を共にすることを不快に思っている者は、残念なことにとても多い。ジェイムズはその一部にすぎない」
「だから戦って勝って、相応しいと証明しろって? そりゃ勝手すぎる提案だぜ。しかも、こんないきなり言い出して、半強制的に戦わざるをえない状況まで持っていくのは卑怯だ。なにをどうまかり間違ったとしても、親友のやることじゃあない」
「私はああ言ったが、ジェイムズは悪くない腕だ。研究では目立った業績を残せない愚か者だが、こと実用的な魔術に関して言えば降霊科(ユリフィス)の研究者きっての俊英といっていい。そのジェイムズを真っ向から打ち倒せば――私は君に対して、より多くの便宜を図ることができる」

 自分の眉がぴくりと動いたのは、自分でも気付いていた。

「魔術師としての僕にもメリットがある、ってことか……聞いてたな、全部」
「さて、なんのことかな」

 ケインは残酷な笑みを引っ込め、意味ありげな微笑を漏らした。
 隠すつもりもないとぼけ方が癪だった。
 そう、ケインは話を――どこからかは分からないけれど――聞いていたに違いない。たった今思いついたにしては、手回しが早すぎる。途中からか最初からかは知らないけれど、きっと僕とジェファソンの口論を聞いていたのだ。そしてどこかの時点で、この二人の決闘を見てみたい、そんな風に思ったのだろう。
 はっきり言って、当事者からすれば迷惑極まりない。メリットを差し引いても余りあるくらいに。
 僕は戦闘というものが、死にたくないが故に、死ぬほど嫌いだから。
 怪我をしたくない。
 痛い思いをしたくない。
 死にたくない。
 そんな単純な思いだからこそ、強く忌避するのだ。

 ――まあ、おそらく負けないだろうから、ここは妥協しておくが。

「……次にこんなことやらせてみろ、縁を切るぞ。絶交だぞ。本気だぞ」
「分かっているとも。これっきりだ」

 ケインの頷きはとても軽い動作で、ちっとも約束を守るつもりには見えなかった。
 ややこしそうなことになってきたよ、全く。


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