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No.34048の一覧
[0] 時計塔の奇矯な魔術師(fate/zero 転生オリ主 原作知識あり)[深海魚](2015/09/22 01:44)
[1] ある昼下がりのこと[深海魚](2012/07/10 22:30)
[2] 月霊髄液(仮)[深海魚](2012/07/10 21:53)
[3] 朝帰り[深海魚](2012/07/11 19:20)
[4] 売られた喧嘩[深海魚](2012/07/14 10:48)
[5] 購入済みの喧嘩[深海魚](2012/07/15 20:04)
[6] 幕間・基本的行動パターン[深海魚](2012/08/20 18:30)
[7] 予期せぬ襲来の予期(9/5加筆)[深海魚](2012/09/05 20:29)
[8] 友情[深海魚](2012/10/16 22:49)
[9] 厄介事[深海魚](2012/12/24 00:20)
[10] 突破[深海魚](2013/04/18 13:36)
[12] 危地[深海魚](2015/09/22 01:57)
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[34048] 突破
Name: 深海魚◆6f06f80a ID:d720a56d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/04/18 13:36
 空港の入口まで戻ってきたあたりで、このローブは目立ちすぎるということに気付いてはいた。
 しかしながら、ここは空港である。都合よく服屋があるというわけではない。さらにいうならば店があったとしても持ち合わせがない。
 だから、非合法な手段を取らせてもらうことにした。
 ちょうどよく目にとまったグレースーツの男に近寄る。体格も僕と同じくらいだ。

「こんにちは」
「ん? ああ、こんにちは。」

 僕に話しかけられた男は、見知らぬローブ姿の男に話しかけられて驚いている様子だった。魔術関係者ではなさそうだ。元から魔術回路が励起していないくらいは確認していたが、これならば問題ない。
 全く、こんな善良な一般市民を利用するなんて気が引ける。

「いやあ、今日は良い天気ですね。そのスーツくださいな」
「へ? なにを言っ、て……」

 これぞ十三ある我が秘奥義の内のひとつ、エロ光線!
 説明しよう! 魔術師は相手の五感に訴え掛けるなんらかの刺激を媒介にしてエロ光線を発射することができるのである!

 ――とまあ、ふざけるのも大概にしておこう。ぶっちゃけるまでもなくただの暗示だ。詠唱いらず、魔力いらず、時間いらず、ついでに習得のための努力すらいらずと四拍子揃った利便性の高い魔術である。これすらもロクに使えなかったウェイバーくんは、まあ、うむ、ほどほどに頑張ればいいと思う。
 目が虚ろになった男は、するりと上着を脱いで僕に手渡してくれた。

「うん、ありがとう。ついでに、ズボンとベルトとシャツとネクタイと靴も頼むよ」
「……わかりました」

 唯々諾々と、お願いに従って服を脱ぐ男。自分で脱がせておいてなんだが、おっさんが脱ぐ姿は全くもって不快である。戦闘のストレスと相まってイライラする。
 これが終わったら娼館にでも行こうそうしよう。グラマラスでセクシーな美人のお姉さんにイロイロ慰めてもらうんだ……。諸事情あって童貞は捨てられないのが残念だ。
 夢想の最中、そこに突き出される衣類。
 いつの間にかパンツとアンダーシャツと靴下だけという哀れな格好になった男は、丁寧に折りたたんで全ての服を寄付してくれた。


「ありがとう。じゃあ、君はそこの草むらに隠れていてくれ」
「は、い」

 男はふらふらと、僕が指差した草むらまで歩いていき、そこに寝転がった。うむ、あれなら簡単には見つかるまい。暗示が解けるまでは三十分ほどあるから、この場を離れるには十分だ。僕の顔も忘れるように細工してあるし、心配はいらないだろう。
 さて、着替えよう。目立たないところで。
 認識阻害の魔術をかけたとはいえ、車の陰でコソコソと着替える僕は間違いなくみっともなかった。少なくとも、パンツと靴下だけで草むらにうずくまる中年男と同じくらいには無様だったろう。





 十五分後。
 暗示は便利なものだ。対魔力皆無な一般人相手であるときは特に。
 茫洋とした目に生気のない表情で口を動かす職員を見下ろしながら、つくづくそう思った。

【お越しください。繰り返します。Mr.遠坂、協会のMr.バンクスがお呼びです。至急、聖ジョージ教会前までお越しください。繰り返します。Mr.遠坂――】
「あ、もうそこらへんでいいよ。Annarr(宵の眠り)」

 6時間ほどはぐっすりと眠れる魔術をかける。発展系として脳幹の働きを停止させるものもあったりするが、別に殺しが趣味とかではないので却下。魔力消費もったいないし、そもそも彼はなにも覚えていない。
 彼が頭を垂れて寝息を立て始めたのを確認し、息をつく。他の職員は全て眠らせているので問題無い。
 職員に暗示をかけ、館内放送で遠坂に連絡。ここまでは上手くいった。次だ。

 そして、大音量の警報が鳴り響いた。
 なにをしたのかというと、そう複雑なことではない。大量に使い魔を作成し、そいつらに炎のルーン文字を書いた煙草を空港の至るところに持って行かせる。そして然るべき時に火災報知器の傍、もしくは真下で作動。それだけである。これだけでちょっとしたテロはできそうだ。
 職員たちは漏れなく眠りこけているので、僕は悠々と、先程まで操っていた彼が持っていたマイクらしきものを手に取る。

「皆さん、火災が発生しました。急いで空港の外に出てください! あらゆるところから出火しています! 急いで! 死にたくないなら急いでください! 急いでーっ! あ、あぁ、ここにも火が! 急いで逃げて! 早く、早くぅっ! 逃げないと死ぬぞ、急げ!
畜生、死にたくないっ、死にたく……う、うわぁあああっ!」

 最後に不吉すぎる叫びを上げ、机をひっくり返して物音を立てつつ唐突に通信を切る。
 うん。ちょっと楽しかったことは否定できない。
 気を取り直して、使い魔を通して監視カメラの映像を見てみる。案の定、パニックになって逃げ惑う老若男女の姿があった。よろしい。非常によろしい。さあ、早く不幸なる一般市民は避難するんだ。
 こうすれば、神秘の秘匿を気にせず魔術行使ができる。我ながら名案だ。
 全員の避難にかかる時間はどれだけか知らないが、管理室を無事に出るためにかかる時間ほどではなさそうだ。

 さて、あとは肉体労働のお時間である。
 蒼崎橙子――というかまともなルーン魔術師よろしく、たまには指を使うとしよう。

 指先を空中に走らせ、ansuz(神)のルーンを描く。全ての知恵の源であり、またあらゆる智慧の探求者である神のルーンは、全てのルーン文字の威力を底上げできるのだ。

「Incipiunt,laguz,ansuz,gebō (起動。水の閃き、神の智、と結合せよ/を贈りたまえ)」

 言葉に応じて眼鏡の全機能が起動する。脳も強化、並列思考と高速演算を開始した。不意打ちに備えてのことだ。

 使い魔の雀は空港の屋根の上で待機させている。戦闘の危険があるなら連れ歩いても無駄に死なせるだけだ。使い魔がいなくても、先程の警戒網をそのまま放置してあるので、魔術に関わりのある何者かが立ち入ればすぐに分かる。そして、まだ誰も現れていないようだ。報知する前に破壊されたとしても、魔法陣との繋がりを失ったピアスが警報を発するはずなのでやはり異常なしという結論に至る。

 協会への連絡は既にした。が、先方によると、記憶操作や認識阻害のチームとは別に、実戦に耐えうる魔術師を選別して送り込むとのことだ。戦闘の危険はあれど都合よく執行者が空いているわけではない、となれば仕方ない。しかしチームを一から編成するならば、それなりに時間がかかることは必定。移動時間を含めて少なくとも三十分は見ておいたほうがいい。ならば、手をこまねいているよりはこうして行動したほうが効率的だ。アナウンスした聖ジョージ教会は、増援部隊と落ち合う場所として僕が指定したところである。

 顔の傷は完治させたし、指も包帯を巻いてルーンを刻み、治療中。出血は止まっているので、無理に動かさない限りは傷が開く心配もない。唯一の難点としては、動かさずに済む保証が現段階では全くないあたりだろうか。
 ちなみに痛みはない。ここ重要。痛みは集中を阻害し、魔術行使を邪魔する要因だ。だから、治療や止血よりもまず痛み止めの手段を用意しておくのが魔術師の――多少でも戦いの心得がある魔術師の常識である。

 さて、本番はここからだ。
 一の矢は防いだ。しかし、はっきり言ってここで終わるとは思えない。そんな手緩いことがあるものか。
 たしかに、魔術行使の前触れをほぼ完璧に消し去っていたという意味で、あの双子の殺し屋は見事なものだった。なにか歯車がずれていれば、いま僕はここに立っていないだろう。
 だがそれだけだ。純然たる実力でいえば、僕には及ばない。正面きって戦端を開いたならば、僕が現状の装備のまま無傷で勝利を収めなければならないという条件付きであったとしても、二人纏めて沈めるのに十秒かかるか、かからないか。そんなところである。僕が依頼主なら、そんな未熟者だけに任せるなどありえない。後顧の憂いを断つためには、古今東西を通して執拗かつ徹底的な根絶が基本である。
 そうでなくとも、魔術師の暗殺に二の矢三の矢を用意しないわけがない。そして、そいつらが既に空港に来ていないという保証はない。

 ならば、ここからゲーム開始だ。ステージは空港から時計塔まで。暫定的勝利条件は、増援の到着か時計塔への退避。
 遠坂を連れて行くかどうかは、彼が教会まで到達できるかによる。正直、ここまで状況が混迷するとは思ってもみなかった。何者の差金かは知らないが、遠坂との接触に伴うリスクは増大している。しかも敵勢力の脅威度や目的が計り知れない。である以上、要因の一つ、もしくは主要因であると考えられる遠坂を切り捨てることも当然ながら選択肢に入るのである。どうせ対応を決めかねていたのだから、ここで死んでくれても一向に構わないというわけだ。事ここに至って原作を重視する意味は全くない。遠坂を守りきれなかったことに対する過失責任は問われるだろうが、この状況については情状酌量の余地があるだろう。ケインの力添えを考えれば心配には及ばない。

 というか、そもそもの標的が僕なのか遠坂なのか、それすらもはっきりとしていないのである。
 先ほどは遠坂を迎えに来たタイミングで接敵したために遠坂が狙われていると思い込んでしまっていたが、ケインに近しい僕を短慮で暗殺しようとする人間なら心当たりはいくらでもある。
 尋問を後回しにしたのは的確な状況判断の上だ、という確信はあるものの、敵の目的が明確でない現状は心に不安を抱かせる。ついつい溜息が出てしまった。


 まあ結論してしまえば、いまのところ全ては遠坂の腕前次第ということだ。
 僕の下まで生きて、いやそれだけでなく足手まといにならない状態で辿り着けるならよし、さもなければ。

 ――語るに及ばず。その運命、自らの手で切り開いて見せろ。極東の貴族たる者なら。

 らしくもなく格好つけた台詞を胸中で呟く。
 同時に、ある疑問が僕の内に湧く。
 そして、その問いに冷静な魔術師の部分の僕が答える。

 はたして、僕は無事に教会へと辿り着けるのか?
 大丈夫だ、問題ない。“本気を出せば”。

 本気を出せば、とは言葉通りの意味である。
 僕の持つ、全ての手札を切る。なんであろうと全ての手段を利用する。
 それだけわかれば十分だ。
 さてさて、お次は自分自身の覚悟を覗き込もう。

 本当にやるのか? 本気で?
 これまた、語るに及ばず。

「mannaz, gebō, algiz (自分×保護=自己保護)」

 魔術回路再起動、深部第五層までの自己暗示解凍。
 精神転換を開始。

「Initium sapientiae cognitio sui ipsius. Sibi imperare est imperiorum maximum……Mihi nomen Benjamin Alice Bendix est」

 なんでこんなことになったのかとか、ふざけるなとか、言いたいことも、漏らしたい愚痴も、叫びたい文句も、山のようにある。
 でも、それよりなにより。

 僕は、死にたくないんだ。
 こんなところで、こんなに無駄なことのためなんかに死にたくは、ないんだ。

 誰を前にしても断言できる偽りのない思いを胸に、僕は彼女を起こした。





◆◇◆◇





 空港の入口で起きた騒ぎの次は、謎の館内放送。そして火災騒ぎ。
 これが、人の目と耳を引き付けないわけもなかった。空港に集まった警察組織や警備員は、市民の避難誘導に大わらわになりながらも、一部が管理室へと駆けつけつつある。
 そして、その全てが暗示などの非暴力的手法で無力化されつつもあった。下手人は、ベンを狙う殺し屋たちである。火災騒ぎが人払いの狂言であることは、全員の一致した認識だったからだ。
 彼らに与えられた任務は、個別に与えられたものではあるが、ベンジャミン・バンクスの殺害という一点において共通していた。一般人がその周辺に集まるのは都合が悪いのである。
 教会に待ち伏せるのも一つの手ではあるが、遠坂と合流されては厄介極まりない。なにより、そちらは依頼に含まれていない。
 ならば、所在がはっきりしているここで――そう考えるのも致し方ないことであった。

 ただし、その前提条件に大きな思い違いが存在していることには、ついぞ気づくことがなかった。
 館内放送機器のある部屋、その扉の前で待ち伏せる魔術使いの殺し屋。手のひらには渦巻く炎が拳ほどのサイズまで凝縮され、解放の時を待っている。それなりの腕前を持つ彼もまた、気付かなかった。否、知ることがなかった。

(バンクスは、この先にいる。扉が開いた瞬間に、練りに練ったこの炎魔術で)
「þurisaz. (棘)」

 そこから先の思考は、扉から飛来した棘によって脳髄ごと切断され、虚無に消えた。
壁に血文字ルーン紙を貼り付け、詠唱。扉そのものを変化させた棘で貫き殺したのだ。
 ベンの眼鏡は自身の手によって魔術探知能力を付与されている。半径三メートル以内に接近していれば、魔術回路の分布から頭部の位置を割り出し、障害物越しに致命傷を与えるなど容易いことである。
 命の灯火が消えると同時に魔術回路も停止し、眼鏡が持ち主に排除完了であるという情報を与える。
悠々と扉を開けたベンの前で、拳銃を構えた二人が即座に反応。銃口を向けた。
 ベンはその場に伏せつつ、両の袖口に仕込んでいたビー玉ほどの球体を投げつける。松脂油を抽出し、中詰めしたものである。
 発砲音が響く、だが当たりはしない。ベンの魔術刻印に施された最大の自動防御の前では、神秘の欠片もない鉛玉などモノの役にも立ちはしない。

 ――cen/kaun(松/松明/炎)

 呆気に取られる凶手の前で、ルーン文字を書いて魔力を通す。
二人の眼前にあった球体が炎と衝撃を伴って破裂――要するに爆発し、二人の頭に強烈なパンチをかました。
原始的ルーン魔術の利点。それは、一文字で様々な意味を持つため、同時に複数の効果を起こせる点である。松の意味で松脂を強化し、松明の意味で松脂と炎の関係性、すなわち引火性を強化、そして炎の意味で着火。あらかじめ球体に書き込んだ同じルーン文字がその効果を倍増させる。さらに、ベンの属性は火と土の二重属性である。土に属する松脂を火という形での攻撃に転化するという工程を経た以上、その二重属性は十二分に威力を高めることができる。
その結果が、胸から上を粉々に吹き飛ばされて崩れ落ちる肉塊だった。
ベンはグロテスクな死体になんの反応も示さないばかりか、一切の動揺を見せずに詠唱を開始する。

「Co eo et ocs te ipm et sere suūz et ūz et ūz et i est ūz et Aldbn」

 唇の輪郭がぶれ、その舌が超高速で呪文を紡ぐ。その速さたるや、尋常の聴覚では意味ある言葉として捉えきれないほどだ。
とはいえ、それが終わるまでの猶予が与えられる訳もない。あちらこちらから魔術、あるいは銃弾、魔弾による攻撃が飛来する。
しかし全ては無駄である。銃弾も魔弾も、まるで自ずから軌道を変えたかのようにベンの体を逸れ、地面や柱に着弾した。
風の動きではない。水分も、不可視の力場さえもない。
 それはまるで、魔法のようだった。

 そして機会は失われる。詠唱は終わり、巨大な牡牛が顕現する。

「Plaudite, acta est fabula(拍手を、お芝居は終わりだ)」

 主の意を受けた牡牛が手近な獲物に向かって駆け出す。
 哀れな男は炎の魔術を放ったが、アルデバランの前ではロウソク火よりも心もとない。
牡牛はまったく意に介さず、勢いに乗って角を突き出した。
 串刺しにされた男の血の臭いが場を満たした。
 それだけでは終わらない。全速力で走り出しつつ、懐から大量の小石を取り出し、いままで進んできた方向へばらまく。

「þurisaz!(棘よ!)」

 そして人の前進を阻む象徴たる茨の棘、その棘の部分だけを抽出して発動した。
 小石は空中で形を変える。石が内側から膨張し、無数の棘を生やす。
 それらが床に落下し、まきびしを撒いたのと同じ状況が生まれた。
 遠距離攻撃が通用しないことに業を煮やした残りの敵手たちは、ベンが一目散に走り去っているために警戒が薄れ、追跡を試みていた。
 それが命取りになった。

「kano(炎)」

 ベンの一言で小石が内部から膨張し、破裂した。
 その衝撃で大量の棘も勢いよく射出され、破片手榴弾と同じ効果をもたらす。
 絶叫が響き渡る空港を後にしたベンの顔には、なんの感情も浮かんではいなかった。










 こんにちは、深海魚です。
 微妙ですね。はい、微妙ですね。質だけじゃなく量もイマイチですね。
 戦闘シーンが苦手すぎて困ります。適当な理屈考えるのは得なんですが、描写する力がないので、いつまでやっても納得いくものが作れないんですよねえ。
 まあともかく、お待たせいたしました。


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