いつの間にか夏が終わり季節は秋となっていた。
お爺様が二足歩行を止め、這うように四足で移動し始め、夜中出くわした時、相当びびって絶叫しそうになったが
「なんだお爺様か」
と胸を撫で下ろした秋。
衛宮と虎と楽しく焼き芋をした秋。
実りの秋。
とかどうでも良い
それよりもあれの様子がおかしいのだ。
あれとは勿論妹の桜だ。
やけに静かなのだ。
一時期「5千万の損失です」と突然呟いてから、大層機嫌が悪かったのだが、最近は嫌な予感がするほど静かなのだ。
不気味すぎるほど。
いつものニヤニヤ笑いも止め、無表情で静かに本や羊皮紙やら巻物やら読み漁っている。
気でも狂ったかのように毎日朝から晩まで時間があれば、ひたすらそれらを読み漁っている。
学校はどうしたのか、と聞けば
「出席したことにはなっているので大丈夫です」
と言う。
本の虫にでもなったのかと思えば気がつくと
お爺様を能面のような無表情を顔に浮かべて、無言でサンドバッグのように殴っていた。
間桐邸の庭には桜が大切に育てている桜の樹がある。
その大事な桜の樹の皮を爺様が勝手に食べていたのが大層気に食わなかったらしい。
お爺さまは殴られて首があらぬ方向に捩れようが
ただ「みしょみしょ」とだけ言う。
いい加減流石に傍からみているこちらの気が狂いそうだ。
僕に普段作ってくれていた弁当も弁当箱に万札をつめるという適当振り。
朝ごはんも作ってくれなくなり、最近の夕食も衛宮の家でのご飯以外はもっぱらコンビニ弁当になった。
不気味すぎる…いままで十年近く同じ家で過ごしていてこんなのは初めてだ。
今はひたすらコーヒーメーカーのようなものを自分の周りに置き、それを沸かして、飲むかと思えばバケツに捨てていく奇行を行なっている。
今日などバケツに捨てた黒い液体をフィルターに濾して再びコーヒーメーカーにかけている。
それを何れ水分が抜けてカチカチになりそうなぐらい繰り返している。
何の意味があるのだろうか?
僕には理解できない。
その後
「フィルター方式はよくないですね、ポンプで循環させてみようかな、とりあえずコレは捨てて―――」
などと、ぼそりと呟いてから。
「勿体無いから、こうしましょう」と言いながらその黒く濁った液体を
「みしょみしょ」と言っているお爺様の頭に垂らし始めた。
いや、ぶっかけだした。
黒い謎の液体を大量に浴びせられたお爺様が
少し
笑った気がした。
それから一ヶ月近く、僕は妹から無視されている。
無視というよりもこちらをその辺の虫けらか何かのように興味を寄せずの無関心。
最初のうちは喜んでいたのだが、今となっては不気味すぎる。
もしや僕を地下室送りにするかどうか悩んでるのか?
まぁいい、とりあえず家に帰らなくても文句を言わなくなったので、この機会にこっそりと本格的に住処を衛宮邸に移し始める。
妹が反抗期になって間桐邸の空気は最悪です。(ここ十年間)
落ち着くまで兄の僕が大人しく引き下がれば大丈夫でしょう。
と口八丁で虎を丸め込み、衛宮の家に住み始めた。
虎はまるで自分もそうであるかのように
「女の子ってそういう時あるもんねぇ」と言う。
お前にあるわきゃないだろ。
そう、思わず言いそうになったが、ぐっと堪えて
「そうなんですよぉ……あいつも年頃だし」
「まぁ、そういうことなら」
という訳で
これで間桐から脱出が出来る。
僕はそう思った。
とか思っていたあの頃の自分を恨みたい。
冬になりそろそろクリスマスだなぁ、と思いながら平和に暮らし
久しぶりに怖いもの見たさで家に帰ると、僕の部屋が無くなっていた。
工房拡張とか循環器用の非実現型第六フルカネリ機関の模型を置く為とか、汚染腐食した死た――専用物置場とかの為に間桐の屋敷を改装したそうだ。
自分の部屋以外、全て取り壊してリフォームしたらしい。
そして生活に必要な設備と食卓と居間とテレビとソファーだけは残した、と言う。
桜が入ったら失明する部屋、入ったら死ぬ部屋、入っちゃいけない部屋などの説明を丁寧にしてくる。
ていうか「お前が寝る部屋と台所と洗面所と風呂とトイレと食卓と居間以外全部じゃねぇか!?」と突っ込みそうになるがやめ、タイミングを見計らう。
そして覚悟を極め、タイミングを見計らい僕は桜に
「これからはもう僕は衛宮の子だからここには帰らないから。別にいいよ、うん、そうした方がいいかも」
そう言おうとした。
その時
「だから、すいません兄さん……一年ぐらい私の部屋で一緒に暮らしてください」
気が向いたらリフォームし直しますから。
と謝られた。
が
謝ってる癖に反省を浮かべず、数ヶ月ぶりに妹は厭らしく妖しくニヤニヤと笑っている。
やはり僕には妹がワカラナイ、ワカラナイ。
一年後にまたリフォームするんじゃないのか?
気が向いたらってなんだよ。
お爺様は普段は自室にいるか、食卓にいて大根の葉っぱなどをひたすら食べている。
今の時間帯なら自室にいるはずなのだが食卓から動こうとしない。
自室がなくなった為、食卓の席から移動しない用に桜が設定したらしい。
これからお爺様はここからは動かないらしい。
「人間大の置物とでも思ってください」
と桜は微笑んでそう、言う。
お爺様は今日はみかんの皮を食べていた。
割り箸で突付いてみるといつも通り「みしょみしょ」と喋りだした。
ある日、いきなり桜が衛宮邸に泊まることを僕に禁じた。
流石に普段温厚な僕もブチ切れ、桜から10メートル以上離れてから怒鳴った。
すると桜が「おやおやまぁまぁ」と妖しく笑う。
その瞬間僕の意識が―――。
気がつくと僕は裸でベッドの中にいた。
金縛りにあったかのように体が動かせない。
横には桜がその15とは思えない、艶やかな女の裸体を惜しげもなく晒し、僕を跨いで座っている。
「ちょっと詰まってたことがあって……でもそれも解決してすっきりしたんですけど、気付いたら私凄い溜まってて」
開かれた僕の体を胸から舌で腹の方までなぞって行く。
そして脇腹辺りに接吻をちゅっちゅっと行なっていく
それが終わると僕の顎先を恐ろしいほど白く艶やかで冷たい指で上げ、首元に吸い
付くようなキスを落とす。
それだけで、もう僕は絶頂に達しそうな程の快感を覚え、同時に恐ろしくなる。
食われる、と。
なんとか逃げるため、いや、食われるまでの時間を少しでも延ばすために桜に問う。
「ところでなにが溜まってるのよ桜さん」
「何ってナニですよ」
その日、僕の童貞は奪われた。
それは想像を絶するほど気持ち良かった。
タオルケットに体を隠し、失われた過去を惜しみ
「もっと普通の人間と……」などとしくしく泣いていると
桜が哂う。
いつの話ですか?
と
そして
てゆうか、私以外はまだだったんですか?
それはそれは、良いコトを聞きました。
等と言いながら機嫌良さそうに珍しく、くすくすとではなく、からからと笑う。
「じゃあ、しっかり女の体の扱い方を私で練習してください、四十八手ぐらいなら一ヶ月もあればマスターできますよ」
もう一回です。
そう言って、桜が艶やかに厭らしく妖しく笑った。
この日から僕と桜の部屋から毎晩湿っぽい音が絶えることがなくなった。
はやく家出したい。
あとがき
ちょっぴりエロい話をお送りしました。
そろそろ型月板に移動しようかなと思います。
一発ネタで終わらせようかなとか思っていたのですけれど気付くとキーボードがするすると動く動く。
作者の思惑を超えて桜が勝手に動き出しました。
次回、姉と妹で過ごす、スイーツ(笑)ではなくスイート(笑)なお話。