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No.28951の一覧
[0] ドラえもん のび太の聖杯戦争奮闘記 (Fate/stay night×ドラえもん)[青空の木陰](2016/07/16 01:09)
[1] のび太ステータス+α ※ネタバレ注意!![青空の木陰](2016/12/11 16:37)
[2] 第一話[青空の木陰](2014/09/29 01:16)
[3] 第二話[青空の木陰](2014/09/29 01:18)
[4] 第三話[青空の木陰](2014/09/29 01:28)
[5] 第四話[青空の木陰](2014/09/29 01:46)
[6] 第五話[青空の木陰](2014/09/29 01:54)
[7] 第六話[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[8] 第六話 (another ver.)[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[9] 第七話[青空の木陰](2014/09/29 15:02)
[10] 第八話[青空の木陰](2014/09/29 15:29)
[11] 第九話[青空の木陰](2014/09/29 15:19)
[12] 第十話[青空の木陰](2014/09/29 15:43)
[14] 第十一話[青空の木陰](2015/02/13 16:27)
[15] 第十二話[青空の木陰](2015/02/13 16:28)
[16] 第十三話[青空の木陰](2015/02/13 16:30)
[17] 第十四話[青空の木陰](2015/02/13 16:31)
[18] 閑話1[青空の木陰](2015/02/13 16:32)
[19] 第十五話[青空の木陰](2015/02/13 16:33)
[20] 第十六話[青空の木陰](2016/01/31 00:24)
[21] 第十七話[青空の木陰](2016/01/31 00:34)
[22] 第十八話 ※キャラ崩壊があります、注意!![青空の木陰](2016/01/31 00:33)
[23] 第十九話[青空の木陰](2011/10/02 17:07)
[24] 第二十話[青空の木陰](2011/10/11 00:01)
[25] 第二十一話 (Aパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:16)
[26] 第二十一話 (Bパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:49)
[27] 第二十二話[青空の木陰](2011/11/13 22:34)
[28] 第二十三話[青空の木陰](2011/11/27 00:00)
[29] 第二十四話[青空の木陰](2011/12/31 00:48)
[30] 第二十五話[青空の木陰](2012/01/01 02:02)
[31] 第二十六話[青空の木陰](2012/01/23 01:30)
[32] 第二十七話[青空の木陰](2012/02/20 02:00)
[33] 第二十八話[青空の木陰](2012/03/31 23:51)
[34] 第二十九話[青空の木陰](2012/04/26 01:45)
[35] 第三十話[青空の木陰](2012/05/31 11:51)
[36] 第三十一話[青空の木陰](2012/06/21 21:08)
[37] 第三十二話[青空の木陰](2012/09/02 00:30)
[38] 第三十三話[青空の木陰](2012/09/23 00:46)
[39] 第三十四話[青空の木陰](2012/10/30 12:07)
[40] 第三十五話[青空の木陰](2012/12/10 00:52)
[41] 第三十六話[青空の木陰](2013/01/01 18:56)
[42] 第三十七話[青空の木陰](2013/02/18 17:05)
[43] 第三十八話[青空の木陰](2013/03/01 20:00)
[44] 第三十九話[青空の木陰](2013/04/13 11:48)
[45] 第四十話[青空の木陰](2013/05/22 20:15)
[46] 閑話2[青空の木陰](2013/06/08 00:15)
[47] 第四十一話[青空の木陰](2013/07/12 21:15)
[48] 第四十二話[青空の木陰](2013/08/11 00:05)
[49] 第四十三話[青空の木陰](2013/09/13 18:35)
[50] 第四十四話[青空の木陰](2013/10/18 22:35)
[51] 第四十五話[青空の木陰](2013/11/30 14:02)
[52] 第四十六話[青空の木陰](2014/02/23 13:34)
[53] 第四十七話[青空の木陰](2014/03/21 00:28)
[54] 第四十八話[青空の木陰](2014/04/26 00:37)
[55] 第四十九話[青空の木陰](2014/05/28 00:04)
[56] 第五十話[青空の木陰](2014/06/07 21:21)
[57] 第五十一話[青空の木陰](2016/01/16 19:49)
[58] 第五十二話[青空の木陰](2016/03/13 15:11)
[59] 第五十三話[青空の木陰](2016/06/05 00:01)
[60] 第五十四話[青空の木陰](2016/07/16 01:08)
[61] 第五十五話[青空の木陰](2016/10/01 00:10)
[62] 第五十六話[青空の木陰](2016/12/11 16:33)
[63] 第五十七話[青空の木陰](2017/02/20 00:19)
[64] 第五十八話[青空の木陰](2017/06/04 00:03)
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[28951] 第五十五話
Name: 青空の木陰◆c9254621 ID:9cb8716e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2016/10/01 00:10


 



『ふん……小賢しい』

 オドロームが鼻を鳴らす。
 まさに、一気呵成。
 モーゼの十戒さながらに、兵士の海を割り裂いて来る勢いは、怒涛であった。

「フー子、合わせて!」
「フゥ!」

 叫ぶや、魔術師の女が宙へ宝石を大量にばら撒く。
 そして台風の少女が暴風を生み出し、宝石を風の中へ巻き込みながら前方へ叩きつけた。

「全解放――――凍てつけぇ!」

 水の兵士が次々嵐に揉まれ、消える。
 さらに被せて、宝石から解放された猛烈な冷気が、飛び散る遺骸の飛沫すら凍てつかせた。
 戦場には似つかわしくない、ダイアモンドダストが吹き荒れる。
 だが、面の広範囲を包み込むようなそれでも、如何せん多勢に無勢。
 波が引いても、海はそのままだ。数の暴力で、どうしても討ち漏らす敵は出てしまう。

「ち、っ!」

 一体、二体、三体と。破壊を逃れた傀儡が動く。
 怯みも慄きもなく、命すらも惜しまない。ただ諾々と、命令(コマンド)のままに全力で目標へと突貫する。
 この兵士に、心などない。敵意も戦意も、およそ心に関するものは何一つとして備わっていない。
 故に。たとえ自軍が磨り潰されようと、腕と脚は盲目的に動き続け、止まる事はない。
 
「…………」

 だが、水の兵士は近づけない。
 近づく前に、弾け飛ぶ。
 色なき蛇が、空気に溶けてするすると絡みつくように腕を振るっていた。
 鎧に覆われていない、人体の脆い箇所へ正確な一撃を放ち続ける。
 漏れた兵士は、須らく彼の手により元の水へと還元されていた。

「よし、このまま行く!」

 戦力が限られている上、兵力の差は圧倒的。
 加えて戦場は敵地。だからこそ僅かだが援軍を得た今、一気に片をつける。
 後がない。これ以上の時間はかけられない。

『……そう考えたか』

 短期決戦。立場が逆なら、己もそうする。
 女の思考を追いながら、オドロームは、自軍の惨状を眺めていた。
 感情は、至って平静。むしろ僅かに愉悦を覚える。

『所詮は人形。その気になれば、この有様か』

 オドローム自身が生み出したとはいえ、特別製のジャンボスとスパイドルとは違う。
 数を最大の強みとしたため、反比例して戦闘力はたかが知れたものとなった。
 敵の前では、せいぜいが暴力と無縁な一般人よりもましな程度。
 しかし、それでも相手の神経を削る嫌がらせ程度にはなる。
 そのために、オドロームは傀儡の数を維持し続けていた。

『まあ、いい。せいぜい悪足掻きするのだな』

 竜巻が荒れ狂い、魔術の氷雪が空気を凍らせ、蛇の拳が飛沫を散らす。
 嵐のような猛攻によって、潮が引くように消えていく雑兵。
 しかし、そんなものは魔王にとっては些事であった。
 神殿に集う魔力で生産エネルギーは尽きず、地下水脈から材料はいくらでも調達出来る。
 製造など、魔王にかかればたいした手間ではない。
 やられた端から、作り直してどんどんつぎ込めばいいだけであった。

『さて、この分では辿り着くな。ここに』

 敵の狙いは明白。頭を潰すつもりで、魔王への活路をこじ開けている。
 その証拠に、全力を以て立ち塞がる敵を押し潰しているのは、白銀の剣士以外だ。
 剣士は集団の中央で、剣を抱えて脚だけを前へ動かしている。
 たったひとりが持つ刃を魔王の眼前に押し出すために、周りが力を振り絞っている。
 このままの勢いを維持すれば、遠からず目的は果たされる。

『だが、その時が最期だ』

 にしゃあ、とオドロームの顔が邪悪に歪む。
 それと同時に、鼓膜が裂けるほどの猛烈な風音が吹きすさび、兵士の海がばっくりとふたつに割れた。
 魔王へ至る直通路。そこを一塊となった一団が、まっすぐ突き進んでいく。
 疾き事、風の如く。時が惜しいと言わんばかりの勢いだった。

『ふん、威勢がいいな。だが、なにか忘れてはおらんか?』

 魔王が呟いたその時、一団からひとりが、空へ舞い上がった。
 体格は小柄。眼鏡をかけた顔には、疲労と虚勢と恐怖と、一片の度胸。
 羽の回る、耳障りな機械音をBGMに。片方にはピストル、もう片方には銀に輝く諸刃の剣が握られていた。

『ここに辿り着いたその時が最期だ、白銀の剣士よ!』

 敵を煽るように、オドロームは大きく諸手を振り上げた。
 高笑いの下に、タールよりも黒く粘つく狡猾さを潜めながら。






 切り開いた道半ば、魔王まで残り僅かのところで、凛の声が轟いた。

「行きなさい、のび太!」
「はっ、はいぃいい」

 合図とともに、のび太は頭につけた“タケコプター”のボタンを押す。
 次いで、ぎりぎりまでバッテリーを温存していたポケットの中の“バリヤーポイント”のスイッチを入れ、一足飛びに宙へと舞い上がった。
 誰にとっても、踏ん張りどころ。チャンスはここしかない。
 心身とも疲労困憊だが、のび太はなけなしの気合いを入れた。

「い、行くぞ、オドロームっ!」

 右手に“白銀の剣”を握り締め。
 半ば突撃するようにして、のび太はオドロームへ空から急接近を図る。
 目標は、神殿の屋根に程近いバルコニー。
 登場からここまで、魔王はそこから一歩も動いていなかった。

『甘い』

 刹那、オドロームが杖を振り上げ、杖から大量の炎がどっと噴出した。
 マグマのように毒々しい赤をしたそれは、突進を遮る大きな壁となってのび太へ迫る。

「うわ!?」

 突如現れた炎の壁に、のび太のスピードがぐっと鈍る。
 身を守ってくれる“バリヤーポイント”こそあれど、眼前の圧力は恐怖を誘う。
 しかし、それでものび太の前進は止まらない。
 こんな事もあるだろうと、事前に凛から言い含められていた。

「フゥウウウ……えいっ!」

 立ち塞がるものは、全部こちらが引き受けると。
 のび太の脳裏に凛の顔が掠めた刹那、暴風の塊が、のび太の背後から吹き抜けていった。

「わひっ!」

 ごう、と強烈な追い風。発生元は言わずもがな。
 切られると錯覚するほどの唸りが耳に轟いた次の瞬間、ぼっと炎の壁が雲散霧消した。

「ええ!?」
「んっ♪」

 後ろを振り返ったのび太の目に、フー子の小さなガッツポーズが飛び込んでくる。
 如何に魔王の炎と言えど“竜の因子”に支えられた彼女にとっては、バースデイケーキの蝋燭にも等しかった。

『それがどうしたぁ! ぬん!』

 魔王が叫ぶや、今度は杖から幾条もの稲妻が奔る。
 ばちばち剣呑な音を立て、空気まで焦がせとばかりに猛り、稲妻の矛先が標的へ向けられる。
 うっ、と呻いたのび太の速度がさらに鈍る。
 今にもズボンの前が湿りそうなほど、顔に再び恐怖が兆す。

「させないっ!」

 まさに発射される寸前。
 雄叫びとともに、のび太と杖の間に掌半分ほどはあろうかという、大きな宝石が飛び込んできた。

「わっ!」
『ちぃ、小娘が!』

 舌打ちとともに、オドロームの杖からビームと見紛うほど分厚い稲妻が解き放たれる。
 光の速さでのび太へと迫ろうとしていたそれは、本来の狙いを逸れ、割って入った宝石へと激突する。
 ばちばちと、合金の溶接にも似た派手な火花と異音。無機物が焦げる形容し難い臭いが、のび太の鼻を刺激する。
 やがて空気が抜けるような音を残して、宝石は粉々に砕け散った。

「間一髪、か」

 のび太が声の先へ目をやると、そこには投擲の腕を振り抜いた凛の姿があった。
 身体に施した『強化』にあかせて、野球の右翼手よろしく大遠投のレーザービームを敢行し、宝石を無理やり割り込ませたのだ。
 ただし、成果とは裏腹にその表情は渋い。

「逆属性のとっておきでも、あっさり粉微塵なんてね」

 歯軋りの音が混じった、呪詛のような呟きが彼の耳にか細く届く。
 最上効果の手札を切ってなお、魔術師としての格の違いを思い知らされた屈辱が、音のひとつひとつに滲み出ていた。
 英霊と人間では致し方なし。しかし、それでも目的は達成した。
 この瞬間、オドロームとのび太の間に一切の障害はなくなったのだ。

「今だっ、それ!」

 アクティブからトップへ、のび太のギアが切り替わる。
 遅れた分を取り戻すように、ぐっと加速し、オドロームへ飛び込もうとする。
 一度はやってやれた事。怖かろうが怯えようが、二度目に対してやれない道理はない。

「オドローム!」

 一気に迫るバルコニー。魔王まであとほんの僅か。
 遮る物は、なにも見当たらない。敵は、稲妻を放ち終えた杖を振り上げたままだ。
 パラシュートを切り離したスカイダイバーのように、空中からバルコニー前へ躍り出る。

「喰らえっ!」

 剣を突き出す。速度を上乗せした、今の己に出来る最大限の攻撃。
 のび太が仕掛けようとした、その刹那だった。

『……ふん』

 鷲のようなオドロームの口が、微かに三日月に歪む。
 それと同時に、剣の切っ先がオドロームの鳩尾ど真ん中に触れる。
 やった、という確信をのび太が抱くその前に。



「――――え?」



 勢いそのままに、すうっとのび太の身体がオドロームをすり抜けた。

「わっ、わぁ!?」

 驚愕を他所に、猛スピードで迫るバルコニーの壁。避ける間もなく、のび太の身体が激突する。
 だが、張っていたバリアが彼の身を護り、代わりにのび太はゴムボールのように弾かれ、床に転げ落ちた。

「あ痛っ、たた……な、なんで?」

 仕留めたと思ったのに、手応えなく消えた。
 突然の事態に思考が追いつかない。だが、それでも離さなかった剣を杖に、彼は急いで起き上がる。
 そしてふと、過去のある光景が脳裏を掠めた。

「あっ! ま、まさか幻!?」
『――――その通り。間抜けを晒したな』

 がば、とのび太の顔が跳ね上がる。
 彼の視線の先、数メートル先の上空には、嘲り笑いを浮かべた首魁の姿があった。

『一度見た事を忘れているとは、笑わせてくれるわ。白銀の剣士も安くなったものだ』
「うぅ……っ」

 悔しさを噛み殺して、のび太は剣を構え直す。
 不恰好だが、これ以上間抜けは晒せない。
 吶喊が不発に終わったとはいえ、いまだ敵は目の前にいる。
 ならば、やるべき事はひとつ。

「か、構うもんか、まだだっ!」

 膝を曲げ、再び宙へ飛び上がる。
 気概は削がれこそすれ、折れてはいない。
 今一度の突撃を仕掛けんと、のび太の頭の“タケコプター”が唸りを上げた。

『……クッ、ク』

 それでも、宙のオドロームは揺るがず。
 含み笑いと共に、ぱちん、と指を鳴らした。



『――――これでもかな?』



 ぶぅん、とふたりの間の空間が歪む。
 次の瞬間、歪みから吐き出されるように現れた人物に、のび太の吶喊は止まる。
 止まらざるを得なかった。

「セイ……バー!?」

 オドロームが繰り出した奇手。
 それは、強制支配に抗い続ける騎士を呼び出し、楯にする事であった。
 これまで以上にとびっきりの卑劣な手。だが、これ以上なく効果的な手。

「ぐ……ぁ……」

 精根尽きかける彼女の顔は蒼白に染まり、死人のそれに近い。
 輝きの薄れた視線定まらぬ瞳と、のび太の目が噛み合った。

「う!?」

 消えかけの蝋燭。彼女の意思の霞んだ目が、のび太にそれを思わせた。
 彼女を伝う幾条もの魔力の紫電が、いまだ崩れぬ彼女の抵抗を示している。
 彼女の口から漏れる言葉は確たる意味を持たず、重力に逆らわぬ四肢は、彼に糸切れたマリオネットを思わせた。
 少年に、火のように赤く激しい感情が灯る。

「ひ、卑怯だぞオドローム!」
『なんとでも言うがいい。使えぬ手駒をここぞという時に役立てる、それのどこが悪い? この女の存在が頭から抜けていた貴様らの失敗だろうに」

 痛快そのものの表情で、オドロームは高笑いを上げた。
 事実、セイバーの楯はのび太にとって千の兵士よりも厄介だった。
 攻撃は出来ない。刃も銃口も向けられる訳がない。
 乾坤一擲の吶喊も止められてしまった。のび太に出来るのは、セイバーを挟んでオドロームと向き合う事のみ。
 だが、オドロームは違う。邪悪に歪んだ愉悦の顔で、追い討ちの言葉を吐き出した。

『それから……こやつ等も忘れては――――いまいなぁ!』

 ぶん、と横薙ぎに振るわれる杖。再びオドロームの周囲がぐにゃり、と歪む。
 中から吐き出されたのは。

『Guoooooooh!』

 耳の翼をはためかせ、諸手で剣を構えるジャンボス。
 そして。

『Syiiiaaaaa!』

 六本のレイピアを一斉に振りかぶるスパイドルだった。
 のび太の顔から血の気が引く。

「おねえちゃん、のびたっ!?」

 地上で、フー子が悲鳴を上げた。
 風で敵を撃ち落とそうにも魔力を貯める時間がなく、この距離では間に合わない。
 それは、彼女の隣の凛も同じであった。
 せめても、と宝石を手にしながら、顔を歪ませ歯噛みする。

「……――――」
「葛木先生!?」

 無言のまま、葛木が駆け出す。前方に立ちはだかる兵士を拳で砕きざま、人の限界に迫るほどの速度で。
 だが足掻きも道半ばで頓挫、単騎の四肢では物量の壁は厚く高い。瞬く間に直線ルートを塞がれて、減速を余儀なくされた。
 そしてセイバーを間へと挟んだまま、オドロームの杖がのび太へすっと向けられる。

『さあ、逃げ場はないぞ。妙なバリアを張っているようだが……クク、見くびり過ぎだ。そんな薄紙、抜く方法などいくらでもある。そもそも、この術に果たしてその壁は耐えられるかな?』
「うひ!?」
『女諸共に塵と消えろ、白銀の剣士!』

 どろつくほど濃い魔力がオドロームの杖先へ収束する。
 触れた者を灰にするあの光線だと、のび太は確信した。
 言葉以上に、一度喰らって灰にされた事がある。見間違うはずがない。

『Goooaaaaaah!!』
『Syaaaaaaaah!!』

 ジャンボス・スパイドルの挟撃。正面にはセイバーごと撃ち抜こうとするオドローム。
 地上からの援護も間に合わない。
 のび太の心臓が痛いほどに縮んだ。特攻を仕掛けた時の比ではない。
 剣を持つ手も、銃を構える手も震えるだけで動かない。

「ぅぐ、ぎ……」

 生気のない声がのび太を叩くが、そんな時はない。
 死神の鎌は、首筋にひたりとくっついていた。
 
「あ――――」

 瞳が、恐怖に塗り潰される。ぞくりと全身が総毛立つ。
 掠れたのび太の悲鳴が、風に流れて消える。



『死ねぇい!!』



 闇をも揺るがす魔王の雄叫び。その刹那であった。
 のび太の耳が、大気を引き切るような異音を捕らえたのは。

「え……?」

 気配は背後。のび太の首が微かに後ろへ動く。
 絶命の恐怖から彼の気が僅かに逸れたその時には、すべてが一変していた。

『Guaaaaaaooooooh!?』

 ぼっ、という異様な音と共にジャンボスの片耳の翼が消し飛んだ。
 血を吹き散らし、絶叫を上げて瞬く間に落ちていくジャンボス。

「G……oooooh」

 意図せぬ損傷に狂気の瞳が明滅する中、地面まであと一メートル。
 そこへ、ようやく兵士の壁を突き破った葛木が飛び込んだ。
 視線はのび太から切られ、手負いの獣へ向けられている。
 もはや心配は要らぬと言わんばかりに。

「……ぬん!」

 そして迷いなく振るわれる蛇の拳。
 鋼よりも硬いそれが地すれすれを這い、ごきりと迷いなくその首を下から折り砕いた。

『ぐお! な、なにぃ!?』

 それと同時に、先のものとは正反対の、焦燥めいた魔王の雄叫びが上がった。
 オドロームの杖を掲げた腕。そこに『ナニカ』が深々と突き刺さっていた。
 それは刹那の前、大気を切り裂いてのび太の脇を高速ですり抜け、狂戦士の翼をもぎ取ったものであった。

『ば、馬鹿な、これは……なぜだ!? なぜこれが複……ありえん!?」
「な、なんだ?」

 白とも銀とも取れる、細い物体。
 混乱と焦燥の混じったオドロームの罵声を他所に、恐々ながらも、よく見ようとのび太が目を凝らそうとした。
 だが、その視界が突如、壁のようなものに遮られる。



「――――秘剣」



 壁と見間違えたのは、高速で、しかしふわり、と下から躍り出た誰かの背中。
 のび太の耳に三音の言葉が届いたと同時。

『Sygiiaaaaaaaah!?』

 しゃりん、と鳴る鉄の音。
 途端、スパイドルの身体がするりと三枚に下ろされた。

「え……あ」

 思考が追いつかない。
 切り身が盛大に吐き出す断末魔にも、血飛沫にも彼の意識が引かれる事はなく。
 混乱の兆すのび太の目がまず理解出来たものは、眼前の背中の正体。

「か、刀……?」

 群青の羽織を翻す優美な侍に、彼の意識は引き寄せられた。
 が、それもすぐに終わる。

「ぅわ!?」

 突如、背後から首根っこを引っ掴まれ、ぐいとナニカに引き寄せられる。
 次から次に、いったいなにが起こっているのか。
 混乱の極みにあるのび太の脳が理解する前に、彼の口が熱く、柔らかいモノに貪られた。

「む!? んぅぐ……!」

 怒涛のように押し寄せる矢継ぎ早の出来事に、何が何やら解らない。
 疑問だらけで爆発しそうな彼の頭で、この瞬間、辛うじて理解出来たのは。

「むぅ、うっ!?」

 ぼっ、と鳩尾に弾けた、焼きごてを当てられたような灼熱の感触。
 そして。

「ぅ、ん……ん」

 同じ熱、同じ香り、なにより同じ味という事。
 脳髄を溶かしそうな、甘く痺れるこの感覚が舌と唇を覆ったのは、これが二回目であるという事だけであった。
 





 結果は、放たれる前に既に解っている。
 神言にも似た不遜な物言いではあるが、言葉に表せばそれ以上言いようがない。
 それは弓・拳銃・大砲に限らず、おおよそ射撃の頂に立つ者達が意識的、無意識的の差こそあれ、持つ認識だ。
 狙い定める。それだけで結果は決まってしまう。
 矢を取り、番え、放つのは、ただ『当たる』結果に過程を繋いでいるにすぎない。
 弓弦を引き絞った時には、もうすべて終わっている。
 結果ありきの、一本道。
 射に限って言うならば、今の彼の中で因果は逆転していた。
 たとえそれが、何百メートルと離れた的であろうと。

「……ふう」

 残心をしつつ、士郎は息を吐く。
 常の『強化』を優に超す魔力の消費は、彼にとって初めての事。
 酷使にじりじりと荒れ狂う体内の魔術回路に、鈍い頭痛と吐き気を覚えるが意思で無理矢理捻じ伏せた。
 放ち終えた弓弦の響きを他所に、彼は一瞬だけ、隣に立つ者へ視線を向ける。

「…………」

 彼と同じく、黒塗りの弓を携えた猛禽を思わせる偉丈夫。
 彼と異なるのは、番えた矢に彼以上に丁寧に魔力を練り込みつつ、弓弦を引き絞っている事だった。
 刹那向けられた一瞥に気を留める事もなく、鋭い目で標的を見据えている。
 限界まで圧縮した意思を矢に束ね、波立たぬ水面のように微かな揺らぎも見えない射の構えは、偉丈夫もまた射撃の頂に立つ者である事を示していた。
 士郎と同じ、結果ありきの過程を辿る者。

「これで、最期だ。弾けろ化生」

 同時に、士郎にとってはあらゆる意味で己の最果てに立つ者でもあった。
 弓弦の撥ねる音。
 音速の唸りを上げて、大気を切り裂く長い白銀の弾丸が、狂乱する魔王の眉間から頭部を貫く。
 そして。

「『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』」

 炸裂。
 耳を覆うほどの爆音と、目も眩むような閃光の中で、幻ではない魔王の頭が確実に消し飛んだ。
 あの『アンゴルモア』と同様に。



「――――状況、終了。敵の殲滅を確認」
「……終わった、か」



 ピリオドの言葉と共にもう一度、士郎は大きく息を吐いた。
 消耗こそあれ、味方に死者はいない。
 キャスターの屋敷襲撃に始まり、二転三転した死闘も、これで一応の決着を見た。
 嵐のような不測の死線を乗り越えた事に、士郎の肩が僅かに軽くなる。

「…………」

 そしてふと、己に視線が向けられている事に士郎は気づく。
 彼が隣へ目をやると彼の想像通り、赤い弓兵がその鈍色の瞳を突き刺していた。

「…………」

 それが何を意味しているのか。
 表現する事は難しいが、なんとなく、彼には解る気がした。
 交錯する視線。互いに言葉は発しない。
 やがて、それも終わりを迎える。

「……合流するぞ。ここにいたところで意味はない」
「んっ、ああ。そう、だな」

 視線を切り、アーチャーの脚が動き出す。
 澱みなく進む背中を追いかけるように、士郎もこの場を後にした。






 ――――いつか、どこかでけじめを付けねばならないと、頭の片隅に思い浮かべながら。








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