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No.28951の一覧
[0] ドラえもん のび太の聖杯戦争奮闘記 (Fate/stay night×ドラえもん)[青空の木陰](2016/07/16 01:09)
[1] のび太ステータス+α ※ネタバレ注意!![青空の木陰](2016/12/11 16:37)
[2] 第一話[青空の木陰](2014/09/29 01:16)
[3] 第二話[青空の木陰](2014/09/29 01:18)
[4] 第三話[青空の木陰](2014/09/29 01:28)
[5] 第四話[青空の木陰](2014/09/29 01:46)
[6] 第五話[青空の木陰](2014/09/29 01:54)
[7] 第六話[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[8] 第六話 (another ver.)[青空の木陰](2014/09/29 14:45)
[9] 第七話[青空の木陰](2014/09/29 15:02)
[10] 第八話[青空の木陰](2014/09/29 15:29)
[11] 第九話[青空の木陰](2014/09/29 15:19)
[12] 第十話[青空の木陰](2014/09/29 15:43)
[14] 第十一話[青空の木陰](2015/02/13 16:27)
[15] 第十二話[青空の木陰](2015/02/13 16:28)
[16] 第十三話[青空の木陰](2015/02/13 16:30)
[17] 第十四話[青空の木陰](2015/02/13 16:31)
[18] 閑話1[青空の木陰](2015/02/13 16:32)
[19] 第十五話[青空の木陰](2015/02/13 16:33)
[20] 第十六話[青空の木陰](2016/01/31 00:24)
[21] 第十七話[青空の木陰](2016/01/31 00:34)
[22] 第十八話 ※キャラ崩壊があります、注意!![青空の木陰](2016/01/31 00:33)
[23] 第十九話[青空の木陰](2011/10/02 17:07)
[24] 第二十話[青空の木陰](2011/10/11 00:01)
[25] 第二十一話 (Aパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:16)
[26] 第二十一話 (Bパート)[青空の木陰](2012/03/31 12:49)
[27] 第二十二話[青空の木陰](2011/11/13 22:34)
[28] 第二十三話[青空の木陰](2011/11/27 00:00)
[29] 第二十四話[青空の木陰](2011/12/31 00:48)
[30] 第二十五話[青空の木陰](2012/01/01 02:02)
[31] 第二十六話[青空の木陰](2012/01/23 01:30)
[32] 第二十七話[青空の木陰](2012/02/20 02:00)
[33] 第二十八話[青空の木陰](2012/03/31 23:51)
[34] 第二十九話[青空の木陰](2012/04/26 01:45)
[35] 第三十話[青空の木陰](2012/05/31 11:51)
[36] 第三十一話[青空の木陰](2012/06/21 21:08)
[37] 第三十二話[青空の木陰](2012/09/02 00:30)
[38] 第三十三話[青空の木陰](2012/09/23 00:46)
[39] 第三十四話[青空の木陰](2012/10/30 12:07)
[40] 第三十五話[青空の木陰](2012/12/10 00:52)
[41] 第三十六話[青空の木陰](2013/01/01 18:56)
[42] 第三十七話[青空の木陰](2013/02/18 17:05)
[43] 第三十八話[青空の木陰](2013/03/01 20:00)
[44] 第三十九話[青空の木陰](2013/04/13 11:48)
[45] 第四十話[青空の木陰](2013/05/22 20:15)
[46] 閑話2[青空の木陰](2013/06/08 00:15)
[47] 第四十一話[青空の木陰](2013/07/12 21:15)
[48] 第四十二話[青空の木陰](2013/08/11 00:05)
[49] 第四十三話[青空の木陰](2013/09/13 18:35)
[50] 第四十四話[青空の木陰](2013/10/18 22:35)
[51] 第四十五話[青空の木陰](2013/11/30 14:02)
[52] 第四十六話[青空の木陰](2014/02/23 13:34)
[53] 第四十七話[青空の木陰](2014/03/21 00:28)
[54] 第四十八話[青空の木陰](2014/04/26 00:37)
[55] 第四十九話[青空の木陰](2014/05/28 00:04)
[56] 第五十話[青空の木陰](2014/06/07 21:21)
[57] 第五十一話[青空の木陰](2016/01/16 19:49)
[58] 第五十二話[青空の木陰](2016/03/13 15:11)
[59] 第五十三話[青空の木陰](2016/06/05 00:01)
[60] 第五十四話[青空の木陰](2016/07/16 01:08)
[61] 第五十五話[青空の木陰](2016/10/01 00:10)
[62] 第五十六話[青空の木陰](2016/12/11 16:33)
[63] 第五十七話[青空の木陰](2017/02/20 00:19)
[64] 第五十八話[青空の木陰](2017/06/04 00:03)
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[28951] 第三十七話
Name: 青空の木陰◆c9254621 ID:90f856d7 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/18 17:05





『鏡の中の世界』。
単純に言葉にすれば、実にロマンティックに聞こえなくもないが、さて実際にはどうだろうか。
遊園地のミラーハウスのように、いくつもの鏡が乱立し、不思議のラビリンスと化しているのなら、まあ幻想的だと言えるかもしれない。
しかし、本物の鏡の中の世界とは、そんな面白おかしい物では決してない。
不可思議ではあるが、ある意味では果てしのない虚無であり。
そして、『この世界』の場合は、そこに存在する“モノ”達によって、極めて危険な世界へと変貌を遂げている。
彼ら六人は、今まさにそれを目の当たりにしていた。





「こ、ここは?」
「新都? ……いや、違う、のか? どこだ、ここ!?」
「無人か。だが、人払いの魔術の気配はない。元からそういう場所なのか、それとも……」
「看板の文字が鏡文字に……それに建物の状態も配置も、方角までもがおかしい」

見渡す限り、人気の絶えた市街地がどこまでも続く。
これだけなら、今までいた新都のビル街となんら変わりはないが、明らかに不自然な箇所があった。
つい先程風穴を開けられたはずのビルが、いつの間にか元に戻っているのだ。
おまけに、東西南北の方角がひっくり返したかのように完璧にイカれており、何より看板やポスターに書かれた文字や絵が反転し、鏡文字になっていた。

「こ、これってまさか……君が!? ど、どうなってるの!?」
「…………」

皆が動揺と混乱に見舞われる中、ただ一人、のび太だけは、この眼前の現実の正体を看破していた。
本来であれば、ひみつ道具でしか起こし得ない事象。
それを目の前の存在がやってのけたという事を、漠然とながら悟っていた。
不整脈でも起こしたかの如くざわめく心臓の音を余所に、のび太は問いを投げかける。

「答えてよ! なんで、どうして黙ってるのさ!?」
「……ッ」

世界が一変しても尚、眼前に佇むレッドピンクの少女。
ほんの微かに、彼女はその無機質な深緑の目を見開いたが、能面のような無表情は変わらず、むしろ微かに影が差す。
そしてゆっくりと、花が萎れるように彼女の頭が俯いていく。
掻き毟るほどにもどかしい沈黙が続いた。

「ねえってば!」
「……のび……太君……ッ」

絞り出すような声が、彼女の咽喉から漏れ出る。
だが、その声はあまりにもか細く、のび太の耳には届かない。
そこへ。

『――――ご苦労だった。リルル』

太く、しかし感情を感じさせない平坦な声がビル街に木霊する。
全員がすぐさま周囲を見回すが、それらしい姿は見受けられない。
人の気配が元からない世界なので、普通なら気配に敏いセイバーとアーチャーが即座に見つけ出せそうなものだが、今回ばかりは二人のセンサーも役には立たなかった。

「誰だ!?」
『ここで会ったが百年目、というやつだな、地球人よ。お前にとってはここ、『鏡面世界』は懐かしかろう? かつてお前達は我々を欺き、まんまとこの無人の世界へ誘い込んだのだからな!』

淡々とした口調だが、そこに込められているのは憎悪や妄執、怨恨といったどろどろの感情。
地下で煮え滾る原油のような、むせ返るほどの不気味さが内包されていた。
のび太の目が、ハッと大きく見開かれる。

「も、もしかして!?」
『ふん……展開!』

それを合図にして、一瞬にして濃紺の夜空が黒いナニカに埋め尽くされた。

「うわ!?」
「な、これは……いったい!?」

赤い単眼がいくつもギラギラと輝き、夜空を禍々しい星空へと造り替える。
月光と街の灯を反射し、鈍く輝くのは数百ではきかない鉄(くろがね)の肉体。
鋼鉄の翼を広げ、反重力でも使っているのか実に自然な体勢で滞空し、のび太達の周囲を取り囲むように陣を構成している。
よく見れば、それらは空中だけではなく、ビルの屋上や各階、道路の先や路地裏にも数百単位でぎっしりと控えており、まさに蟻の這い出る隙間もない。

「こいつら、まさかロボット!?」
『その通りだ。我々は鋼鉄の生命体。『メカトピア』より生まれし戦士。貴様ら脆弱な人間とは、そもそもからして違う!』
「メカ、トピア?」

微かに眉根を寄せるがそれだけ。セイバーの表情、姿勢は、微塵も揺るいではいない。
アーチャーはより深く脱力し、自然体のままを維持しながら、鉄面皮で敵の言葉を咀嚼している。
しかし、歴戦のそれらに比べれば凛と士郎の姿勢はお粗末そのもので、狼狽こそしていないが動揺が表に出てしまっている。
それでも武器を掴む手に震えがないのは、予想外の異常事態に出くわしたにしては上出来と言えるかもしれない。

「……その、僕の世界で、以前、人間を奴隷にしようと地球に侵攻してきたロボットの軍隊、『鉄人兵団』がいたんです。『メカトピア』というのは、その『鉄人兵団』が住んでいた惑星の名前です」

疑問の声に答えたのは、のび太。
声音に震えが見え隠れしているのは、その並々ならぬ脅威を知っているが故か。
フー子を除く全員の表情が、驚愕の色に染まった。
のび太の記憶を持つ彼女にとって、それは既知の事柄でしかないが、他は別だ。
藪から棒に宇宙規模の新事実を曝け出されては、驚かない方がおかしいだろう。

「まだあったの? ……もうお腹いっぱいなんだけど」

だが、そこから一転して、凛の表情がげんなりしたものへと移ろいだのも、ある意味では自然な事だった。

「……まさに『星間戦争(スターウォーズ)』だな。笑えん話だ」

アーチャーが軽口を漏らすも、キレがない。
古今東西の英雄が活躍した場は、あくまで地球上である。
地獄の入り口などどいったトンデモ場所こそあれ、銀河を股にかけたスペースファンタジーの出番はなく、腹を括っていたアーチャーをしても衝撃の度合が大きすぎた事を示していた。

『なぜこのような事になったのかは知らん。だが、この好機をみすみす逃す訳にもいかん。地球人よ……』

一拍の間を挟み、そして。

『――――あの時の借りを、今ここで返すぞ!』

リルルと呼ばれた少女の傍らに、どこからともなく一体のロボットが姿を現した。
他とは一線を画す黄金のボディと、単眼ではなく、人間と同じ双眼。
真紅のマントをはためかせ、丸っこい人型の体躯に、鶏を連想させる頭部がくっついた奇妙なフォルム。
一度見れば忘れようもない、その異様な個体。
『鉄人兵団』の中において司令塔として気炎を上げ、一際異彩を放っていた、指揮官型のロボットであった。

「あっ! やっぱりお前、あの時の!?」
『……しかし、皮肉なものだな。まさか、我々がこの裏切り者の『道具』として復活する事になるとは。まったく、悉く、不愉快だ』
「う、裏切り者? どういう意味よ?」
『言葉の通りだ、地球人の女。我々『鉄人兵団』はな、過去にこのリルルの裏切りによって存在を抹消されたのだ。“タイムマシン”で三万年前の『メカトピア』へ赴き、我々の祖先ロボットの歴史を変える事でタイムパラドックスを引き起こし、我々の地球侵略をなかった事にしおった。己の消滅も覚悟の上でな』

吐き捨てるように告げる、指揮官。
恨み骨髄と言わんばかりの痛烈な言葉に、水を向けられたリルルの肩が、微かに跳ねる。
表情こそ沈んだままだが、その手はきつく握り締められ、小刻みに震えている。

「……? セイバー、どうした?」
「は。シロウ、なにか」
「いや、なにかって……」

ふと、士郎が隣を見やると、セイバーの表情が先程よりも険しさを増している事に気づいた。
リルルを見据える眼光が、剣気を帯びて一際苛烈なものとなって叩き付けられている。
ついと首を巡らすと、なぜかアーチャーも似たような表情となっていた。
鷹を思わせる双眸から、殺気じみたものがじわり、と漏れ出している。
二人にしては似つかわしくない珍しい反応。士郎と凛が、互いにほんの少し顔を見合わせ、揃って首を傾げた。
しかし、解を導き出すには、圧倒的にピースが足りなかった。
それに、今優先すべきはそれではない。二人は思考を頭から追い出し、剣呑な雰囲気を垂れ流し続ける黄金の機械人形へ目を向け直す。

『我々と同じ、崇高な存在でありながら工作員の役目を放棄し、命を賭して人間どもに肩入れする。そんな唾棄すべき存在に使役される『道具』として今、我々がここにいる。これほど皮肉な事もない』
「ど、道具って……?」
『ふん。貴様も『宝具』という概念は知っているだろう。それと同じ事よ』

悪意や毒がこれでもかとばかりに含まれ、かつ、どこまでもドライな物の言い様。
ロボットという、ロジックで動くどこまでも合理的なシロモノだからか、それともこれがこの個体の元々の性質なのか。どこまでも純粋に人間を見下しきっている。
もっとも、そうでもなければ、人間を奴隷にしようなどどは考えないだろうが。

『命ずる。別命あるまで、待機せよ』

と、徐に黄金のロボットが一歩を踏み出し、後背のリルルに向けて高圧的に言い放つ。
ピク、と彼女の目元が歪むが、その足は地面に縫い付けられたように微動だにしない。

『聞こえなかったのかリルル。別命あるまで、待機だ』

次はないぞ、と言外に言い放たれ、彼女は重い足取りで一歩後ろに下がり。

「……はい」
「あっ!?」

返事と共に、景色に溶け込むように姿を消した。

「リルルっ!」

思わす、といったように伸ばされたのび太の手は、何をも掴む事はなく。
代わりにぴくっ、と凛の眉が跳ね上がっていた。

「凛、どうした?」
「え、うん……いえ、なんでもないわ」

凛の脳裏に、微かに浮かんだ疑問符。
しかし、手ごたえは雲を掴んだように実感がなく、確実かつ明白な答えは出ないまま。
アーチャーの問いに、凛は手を振って否定の返答を返すしかなかった。

『――――さて』

そうしていると、周囲から一斉に金属同士が擦れ合う異音が響いた。
否応なしに空気が張り詰め、ささくれだった雰囲気が辺りに満ちる。
前座は、ここまでのようだ。

『覚悟はいいか人間どもよ』

ガシャン、と地上に展開する鉄の兵士達が揃って一歩を踏み出す。
鋼の軍靴が音を鳴らし、状況が唸りを上げて加速し始めた。

『かつて我々を葬り去った報い、今ここで死を以て受け入れるがいい!』

軍配のように振られる黄金の腕。

『『鉄人兵団(インフィニティ・アイアンアーミー)』、攻撃開始!』

次の瞬間、鋼鉄の津波が怒涛の勢いで押し寄せてきた。





「――――こ、のぉ!」

赤、青、黄、緑。
色鮮やかな宝石がばらばらと勢いよく宙を舞い、放物線を描いて標的に届く。

「いけっ!」

即座に紡がれるキースペル。
刹那、それらが一斉に爆ぜ、同時に吹き飛ばされた金属片があちらこちらに四散。魔力の残り香と共に、砂利をばら撒くような音が耳朶を打つ。
煙がもうもうと立ち込め、埃と粉塵の煙幕が戦場を覆う。

「――――シッ!」

その灰色の幕を引き裂き、奔る幾筋もの銀の閃光。
音速に近い速度で飛翔するそれは、瞬く間に実に十に近い紅の単眼を貫き、問答無用で機械人形を物言わぬ木偶人形へと変える。
崩れ落ちる鉄の骸。それと同時に風に煽られ、塵のヴェールが取り払われる。
現れたのは、背中合わせに獲物を構える、紅の主従の姿であった。
しかし、周りにそれ以外の人間の姿は見当たらない。

「ち、焼け石に水か。覚悟はしてたけど、ここまで多いとはね……」

片腕に刻まれた『魔術刻印』をフルドライブさせながら、凛は一人ごちる。
彼女の持てる最大の武器は、得意とする宝石魔術ともうひとつ。先祖から連綿と受け継がれてきた、遠坂の魔道の結晶である『魔術刻印』のふたつである。
五大元素(アベレージ・ワン)の素養を持ち、魔術師として高い実力を兼ね備える凛であったが、ロボットを相手取るには、いささか以上に辛い物があった。
とにかく相手が硬い。鋼鉄の装甲は流石に堅牢で、普通のやり方では歯が立たなかった。
彼女のガンドは、コンクリートに穴を開けるほどの威力を持つが、それでもロボットの装甲を貫通するには至らない。
宝石魔術でならば容易く吹き飛ばせるが、個数制限がある以上乱発するのは躊躇われる。
苦肉の策として、『魔術刻印』のサポートを駆使して両者の威力を底上げしつつ、通常はガンドで牽制し、固まったところに宝石を投げ込み面制圧で一掃するという手法を採っていた。
偏に、彼女の魔力量が並外れて多いからこそ出来る芸当であり、士郎などがこれをやったとしたら数分程度でガス欠となるだろう。

「『戦いは数だよ、兄貴』……か。至言だな。実際にやられた方は、たまったものではない」

溜息交じりの慨嘆を漏らし、アーチャーは凛に同意を示した。
『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』等の大火力で薙ぎ払う事もせず、彼は淡々と矢をマシンガンのように射続けている。
爆発力を凛に任せ、代わりに精密さと手数でロボットを近寄らせずにいた。
令呪の援護があったとはいえ、先のライダー戦で少なからず消耗している上に、明らかに状況は長期戦の様相を呈している。
それ故に、このような魔力消費を抑える戦法を採らざるを得なかった。
凛が持ち出した宝石の個数は、サーヴァントまでとはいかなくとも、攻撃にも使用しながらマスターの魔力を回復させる程度には潤沢だったという事情もある。
最悪の場合は、令呪を使ってブーストする事も辞さないところまで、二人は決議していた。

「同感。さてさて、無事に合流出来るのかしら」
「こちらの努力次第だろう。宝石が切れるか、残り二画の令呪を使い果たすか。それまでが勝負だな」

軽口を叩き合いながら、二人は己の仕事に没頭し続ける。
戦闘の火蓋が切られて、約十分ほど経過した現在。
味方は、見事に分断されていた。
各方面でそれぞれ、善戦を繰り広げているが、未だ合流の兆しは見えない。
無駄のない用兵術で縦横無尽に軍団を差配し、自らの手で戦場を作り上げる。
そんな経験は、せいぜい王であった剣の英霊くらいにしかない。しかし、彼女はそれと同時に己が手で戦う者でもある。それだけにかかずらってはいられない。
この戦場の指揮者は、あの黄金のロボットだった。
地上を離れてビルの上に佇み、戦場のすべてを俯瞰しながら味方に的確な指示を飛ばす。
一糸乱れぬ、整然とした機械兵達の進軍と展開は、詰将棋を想起させるほどに簡潔かつ能率的だ。
上空から、地上から。常に複数小隊で敵を囲み、波状攻撃で相手の攻撃機会を着実に削る。
数えるのもバカらしい大戦力を背景にしているとはいえ、自らの采配で戦況を望みのままに構築し得るその手腕。
この指揮官からは、確かな軍略の光が見て取れた。

『押し出せ! 敵の合流を許すな!』

指揮官は軍団を鼓舞し、薙ぎ払うように腕を振るう。
実のところ、このように指示をわざわざ声に出す必要はない。
指揮官ロボットと兵隊ロボットは直接リンクしているので、指揮官が意図さえすれば指示は出せるのだ。
声を張り上げるのは、敵の動揺を誘うため。
たとえ見せかけでも、敵側の言葉に相手は何かしら反応を示すものだ。
『鉄人兵団(インフィニティ・アイアンアーミー)』の要。それは、指揮官級の鬼謀と、もうひとつ。
聞けば絶望を齎すほどに残酷な、この『鏡面世界(リバーサル・ワールド)』に仕掛けられている“ある秘密”。
彼らがそれを知るには、今少しの時間を要する。





「そこだっ!」

黄金の指揮官が座する物とは別の、とあるビル前の一角。
大砲のような轟音が響き、空から仕掛けようとしていた鉄の肉体が四散する。
放たれたのは、砲弾の如き空気の塊。放ったのは……。

「シロウ! 前に出すぎです!」

その傍らの空間を薙ぐ、不可視の剣。
肉迫しかけていた鋼鉄の肉体がズルリと滑り、腰部を基点に上と下とが泣き別れした。

「と、すまん、助かった!」
「退きかけたあの動きは、誘いです。近づく敵は私が斬り伏せます。シロウは援護に徹してください」
「了解!」

背中合わせで確認を取る二人。
剣の主従は、意気も高らかに周囲を取り巻く、鋼の軍勢に立ち向かっていた。
士郎の左手には、白銀に鈍く輝く“空気砲”が。
“名刀・電光丸”はこの戦場では役立たず、かといって“大・電光丸”も似たり寄ったりの結果しかもたらさない。
『斬鉄』の技術がある訳でもなく、飛び抜けた身体能力がある訳でもない。力任せに奮うだけでは地上はともかく、空は対応不可能だ。
なら仕方ないと、消去法で飛び道具を獲物とする事を選択していた。

(……腹は立つけど、アイツの言った事はいちいちご尤もだ。自分の出来る事、出来ない事を冷静に見定めて、その場で可能な限りの最善の選択をする。札は、後生大事に持っているだけじゃ意味はない。使うべき時に躊躇いなく使ってこそ、切り札となる)

茜差す道場にて、竹刀を掴んだ弓兵に散々に叩きのめされた。
竹刀という同じ獲物、それぞれ一振りのみという同じ条件。それでいて、己に齎されたのは『立会い』という言葉からすらあまりにかけ離れた、惨憺たる結果。
士郎にとってそれは、思い出すのも苦々しい記憶である。


――――忘れるな。英霊という絶対なる格上を相手に、貴様が蛮勇を振るって矢面に立ったとて、なんの意味もない。何よりも重要なのは、己自身と周囲をつぶさに見つめ、須らく理解し、その中で自身に何が出来るか、何をすべきかを常に模索し続ける事だ。


容赦ない面罵に、屈辱も感じた。苛立ちもした。
竹刀を振り上げ、反撃を試みたところで歯牙にもかけられず、幾度も板張りの冷たい床に無様に沈められた。
だが、それは衛宮士郎にとって、決して無意味なものではなかった。


――――ひとつの答えに拘るな、決して驕るな。貴様は未だ『究極の一』を持たん、粋がるだけの非力で脆弱な弱者である事を自覚しろ。そして、弱者なりに今、成し得る『己の最善』を、その活路を形振り構わず手繰り寄せろ。


転げ回るほどの痛痒を伴って、肉体に刻み込まれた弓兵の教訓は、今こうしてその片鱗を見せていた。
思考を余所に、撃つ手は止まらない。
下手な鉄砲も、数撃ちゃ当たる。幸い、標的は腐るほどいるのだ。弓しか扱った事のない士郎でも、当てるだけなら弾をばら撒きさえすれば、それなりに成し得る。
そして、当たれば相手は木っ端微塵。“空気砲”は、鉄の兵士を一撃でスクラップに変えるほどの威力があるのだ。
失敗を考えて『強化』魔術は施していないが、それでも十分すぎた。

「喰らえっ!」
「はああっ!」

空中から躍りかかる敵を士郎が相手取り、地上から迫り来る敵をセイバーが掃討する。
自然と、役割がそうなっていた。
機械兵士の指先から照射される、色とりどりの光線が二人を貫かんとするも、その度に二人は素早く近場の遮蔽物に身を隠し、士郎が発射態勢に入っている敵兵を優先して葬っていく。
光線のようでいて、同じ光速で迫ってこないという不可思議なビームだからこそ出来る行動。
時折、撃ち漏らした敵がこちらの間合いまで一気に降下し、踏み込んでくるが、こと近接においては無敵のセイバーの剣がそれらを容易く殲滅する。
至極まっとうな役割分担ではあるが、主に士郎側に粗さが目立つのは仕方がない。
弓と銃では、目測の付け方に明確な違いがある。
前者は両目、後者は片目。当然、どちらかに慣れていればどちらかが不得手になる。
士郎は弓を扱っていた分、片目での標的捕捉にあまり優れていなかった。

「ちいっ、これだけやっても数が減らない……セイバー!」
「いえ、ダメです! 敵ごと建造物を消し去ってしまっては、こちらが不利になります。それに、ノビタやリン達も巻き込んでしまいかねない」

士郎の要請を、セイバーは厳しい表情で却下する。
彼が求めたのは、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の解放。
マフーガを一撃で葬り去ったあの光の軌跡なら、目の前に無残な鉄屑を量産する事が出来るだろう。
だが、セイバーはその訴えを棄却した。
理由は、端的に言えば『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の柔軟性の欠如にある。
膨大な魔力を代償として放つそれは、威力こそ凄まじいものの、その放たれた光を制御する事は出来ない。
一点に向かって解放されれば、後は惰性で枯れるまでその方向に流れ続ける、滝のようなものなのである。
ビルの合間を縫えるほどに器用な武器ならば、セイバーも躊躇わなかっただろう。
しかし、やってしまってビルどころか街の悉くが更地と化すのならば話は別だ。
平地での合戦は、寡兵であるほど不利になる。
そして、敵の主体武器は指先から放つ光線。コンクリートジャングルという要害(バリケード)と遮蔽物(シールド)があるからこそ、敵の攻勢を凌げている部分もあるのだ。
加えて味方が引き離されている現状、無暗に解放して、もしその進路上に味方がいたのならば目も当てられない。
“バリヤーポイント”を張っていたとしても、あっさりと反射限界を超えて突き破られてしまうだろう。
そういった意味では、最後の一組がこの戦況に最も柔軟かつ的確、さらに圧倒的な戦果で以て対応していた。





「フゥウウウウーーーーッ!!」

道路を、空を、ビルの中を、凄まじい密度で圧縮された竜巻が縦横無尽に駆け巡り、網の目状に幾筋も広がってゆく。
空間ごと捻じ切ろうとばかりに唸りを上げる大気の断層。巻き込まれた数十の機械兵は、一瞬で全身をズタズタに引き裂かれ、物言わぬ残骸へと成り果てる。

「フー子、さがって! それぇええっ!!」

間、髪を入れずに、生き残った機械兵達目掛けて下方から降り注ぐ光線のシャワー。
恐るべき精密さで鋼鉄の肉体に喰らいつき、紫電に包まれ全身がショート。関節や駆動系から火花を撒き散らし、ガシャン、ガシャンと次々固い地面にその屍を晒す。
敵は、二メートル弱はあろうかという巨体である。実質、バーサーカーと遜色ないのだ。
空から墜落した機体によって、アスファルトがところどころ陥没している。

「のびた、しゃがむ!」
「え? ……うわ!?」

反射的に頭を下げたその瞬間、今まで頭があった場所を一陣の風が駆け抜ける。
鎌鼬と一般に呼称される真空の刃が、彼の後背上空に迫っていた機械兵達をまとめて真っ二つに両断した。
鏡のようにすべすべとした断面が、その殺傷能力の高さを物語っている。

「う、うわぁああ……」

自分が撃墜した者よりもある種無残な光景に、眼鏡の奥の瞳が戦慄に揺れている。
それでも両手に掴んだ“ショックガン”は、しっかりと構えられたままだった。
“ショックガン”の光線は、当たればロボット内部の電気系統が高圧によりスパークし、致命的な機能障害を引き起こすため、非常に有効であった。
“空気砲”は外部を破壊するのに対し、“ショックガン”は内部を破壊する。同じ射撃武器でも、その性質は違うがロボットに対しての有効度という点では、両者はほぼ拮抗している。
ただし、どちらもエネルギー式で、いずれはガス欠に陥るため、その点には常に気をつけておかなければならない。
台風の精霊たるフー子の獅子奮迅の働きにより、のび太・フー子ペアに差し向けられた敵の大半が葬られた計算になるが、それでもロボット達は際限なく、後から後から湧いてくる。
いったいどれだけの物量があるのかと、首を傾げる暇もない。
味方だったものの残骸を踏み越え、ただただ無機質な戦意のみを漲らせて天地問わず四方八方から、隊列も乱さず続々と行軍してくる。
訓練された人間の軍隊よりも、暴徒化した大群衆のデモ隊よりも、文字通り血の通わないという意味では恐ろしい物があった。

「のびた、みぎ!」
「右? え、一列に並んで……構えた!?」

のび太達の側面右側、大通り側に整然と居並ぶ増援の歩兵。
前と後ろ、二列に分かれて前列は片膝立ち、後列は直立不動で全員が指を構えた発射体勢に入っている。
もしやと反対方向を振り返れば、そこにも同じような敵の隊列が。
さらに左右のみならず、前後にもそれらは存在していた。
ここは、ビル街で最も大きな十字路である。
戦闘開始の口火を切った際の一斉攻撃で、パーティーを分断され、焦りもあってのび太達自身が誘導された結果が、このビル街の平地とも言えるだだっ広い十字路。
四方に位置するビルの群れは、身を隠す要害とするには遠く、むしろこちらを取り囲む檻となっている。
剣、弓の主従は、のび太達との合流を果たせぬよう狡猾に誘導されており、距離もかなり離されていた。

「し、しまった!?」

のび太の顔から血の気が引く。
連隊規模の『十字砲火(クロスファイア)』。
なんとも洒落が効いているが、ずらりと揃った銃口を見ては、はっきり言って笑えない。
逃げ場もなし、身を隠す場所もなし。
慌ててフー子を抱き寄せ、ポケットに忍ばせていた“バリヤーポイント”のスイッチを入れようと。

「うわぁ!?」

したその瞬間、目を焼くような光の嵐が巻き起こった。
如何にレーザーより遅いとはいえ、銃弾に近いスピードで迫り来る幾条ものビーム。
発動は、間に合わない。
『十二の試練(ゴッド・ハンド)』の加護を持つフー子は、あるいは助かるかもしれない。
しかし、のび太は“ショックガン”以外に何も身につけてはいない、丸裸同然。
これまでは、フー子の竜巻とのび太の二丁拳銃の早撃ちで、撃たれる前に対処出来ていたが、流石にこの状況下では絶望的だ。
襲い来る恐怖に、のび太が身を竦めた。

「……あれ?」

だが、いつまで経っても衝撃は来ない。
雷撃のような音こそ耳朶を打つが、それ以外には何も。
強いて言えば、服の裾がはためく程度の風が吹いているくらいだろうか。

「ん、風? なんで風が……」

よぎった疑問に、おそるおそる閉じていた目を開けると。

「わっ!?」

のび太の周囲の景色が歪んでいた。
蜃気楼のように、揺らめいて見えるという訳ではなく、眼鏡のレンズを視界に重ねて外を見ているような感覚。
目の前で何かが高密度で分厚く集束され、自分達を覆うようにドーム状に展開している。
ロボット達の放つ光線は、その何かに完全にシャットアウトされ、一本たりとも届いてはいない。
ただ壁の向こうでバチバチと、盛大に火花を上げ続けるだけである。

「これ……って、バリア?」
「フゥ♪」

のび太が視線を落とすと、抱きかかえられた体勢のまま、花が咲いたような笑顔でフー子が彼を見上げている。
十字砲火が火を噴く寸前に、彼女が素早く大気を超高密度で圧縮して、のび太を護る風の障壁を作りだしたのだ。
『ふしぎ風使い』。その力は、伊達ではない。
竜巻然り、鎌鼬然り。風、すなわち大気を自在に操る事の出来るこのスキルを持つ彼女が、大気を媒介に起こし得ない現象などあり得ない。
彼女にとって、風は、手であり足であり、耳であり、頭脳である。
大量の魔力こそ必要になるが、『竜の因子』による、膨大な魔力量に裏打ちされたその暴威は、まさに心胆寒からしめるものがある。
やろうと思えば、大気を通じて世界中の情報を掌中に掴む事さえ可能なのだ。彼女の底は、まだまだ見えてこない。

「だいじょうぶ」
「へ?」
「みてて」

一言。たったそれだけで、変化は劇的だった。
のび太の腕の中、彼女の身体が強い光を発し、鮮やかなオレンジの髪と身に纏う上着がざわざわと波を打つ。
彼女の衣装は、いつぞや彼女に化けたセイバーが着ていた物とそっくり同じ。のび太が似合うと評したのを境に、今では彼女のお気に入りとなっている。
風のドームはそのままに、いまだ轟音渦巻くその周囲に小さなつむじ風が複数発生。数秒と経たずにそれらは成長し、極小の竜巻球となる。
渦はそのまま止まる事なく肥大化し、やがてボーリングの球程度の大きさとなったところでその成長を止めた。
そうして浮かび上がった数十の球がぐるぐると、衛星のようにバリアの周りを旋回する。

「えい」

フー子がパチン、と指を弾いたその瞬間。

「うひゃ!?」

解放された球群より生み出されたのは、天を突くかと言わんばかりの巨大で強大な風の竜。
どこかマフーガの姿に似ているのは、彼女がその一部だった名残ゆえか。
ビルをあっさりと丸呑みに出来るほどの巨体に気圧されたか、騒々しかった機械兵達の射撃がぴたりと止んだ。
そして始まる蹂躙劇。
竜はその咢(あぎと)を開き、元となったものの暴虐性を彷彿とさせるほどに、縦横無尽に荒れ狂う。
胴の両腕を伸ばし、背中から数百の竜巻の触角を這わせ、地上、天上、屋内を問わず、鎧袖一触で機械兵群を葬り去っていく。
その光景は、まさに荒ぶる産廃場。頭部がひしゃげ、腕部がもぎ取られ、脚部が引き千切られ、装甲も翼も剥ぎ落されて、瞬く間に鉄屑と化す。
あどけない少女の所業とは思えぬ惨劇。悲鳴を上げる暇すらない。
役目を果たした竜が霧消した後には、傷ついたビルと足元に散らばる無数の鉄塊、そして兵団が消えてだだっ広くなった十字路が残されていたのであった。





『……やるな』

戦場の一角から自軍勢力が一掃されたのを、指揮官は、ビルの屋上から冷めた目で睥睨していた。
この程度の状況は、織り込み済みであったからだ。
指揮官は、のび太達地球人を過小評価していない。
前回、僅か四名という寡兵でありながら、万を超える兵団の猛攻を一昼夜凌ぎきったのだ。
加えて、今回は一騎当千とも言える戦略クラスの実力者が三名もいる。油断出来る方がおかしい。
分断したとはいえ、それぞれが兵団を凄まじい勢いで次々と撃破していっている。
特に目覚ましいのが、弓の主従と怨敵の主従。彼らは遠距離攻撃に優れ、面制圧に向いた力を有している。
率にして、第一陣のおよそ五割が彼らに葬られた計算になるだろう。
壊滅的な損害である。

『――――頃合か。では、第二陣を投入する!』

嗜虐心の籠った言葉が呟かれ、やがて空白地帯が瞬く間に黒く染め直された。
このビル街の周囲には、万を超える兵士ロボットが控えている。
それらを各地区ブロック毎に区分けし、状況を図って投入しているのだ。
どれだけ大量の戦力があろうとも、ぶつける相手がたった六人では、それだけ当てられる人員数も限られてくる。
だからこそ、用兵術が扇の要となるのだ。

『ふむ、こんなものだな。さて……』

鉄人兵団は、死を恐れない。
自我の希薄なロボットだから、生死の感覚が人間と違うというのもあるが、それ以上に『ある要因』がそれを可能としている。
これがある限り、彼らは決して滅ぶ事のない兵団としていられるのだ。
それこそ、この天地がひっくり返りでもしない限りは。

『息もつかせぬ波状攻撃は、戦術の常道。念には念を入れるべきか』

ガキン、と響く硬質な音。
足を地面に叩き付けたそれは、己に対する士気高揚の狼煙。
徐に、虚空を見上げて。

『命ずる。最後の宝具を開帳せよ!』

視線の先の空間が、波紋のように波打った。





それは、彼ら六人すべてが目にし、そして形容しがたい呻き声が漏れた。

「な……」

宝石を投げる手が止まり、凛は魂でも抜かれたかのように唖然としている。
空間の歪みから突き出されたのは、鋼鉄の腕。
掌だけで、メーター単位は確実であろう巨大なそれは、見る者に威圧感と覇気を感じさせる。

「あ、あれは!?」

機械兵を屠る手は止めず、それでもセイバーの瞳はそちらに釘付けにされていた。
ずんぐり体型で丸みのある兵士ロボットとは違い、鋭角的でメカニカルな印象を抱かせる。

「本気か、こんなものまで!?」

思わずといった呟きを漏らした士郎の放った“空気砲”は、狙いの敵のその隣を撃ち抜いていた。
腕に続いて足が出現し、次に腰、胴体、そして頭。ずぶずぶと、狭い隙間を抜けるようにその右半身がせり出してくる。

「……もしや、あれはひゃ「それ以上はダメ」……む」

なぜか凛に遮られ、眉を顰めるアーチャーだったが、口は止まっても弓を射る手を止めないのは流石。
そして、弓兵が弓弦から手を離したその時、そのすべてが姿を現した。

「ま、まさか……!?」

嫌でも目を引く、二十メートルはあろうかという巨体。
アスファルトを踏み割り、高層ビル群の端に佇む姿は。ビルの中には、数十階建てでこれより高い物もあったが、それでも天から見下ろすような威容は色あせる事はない。
見覚えのありすぎるその雄姿に、のび太は危うく“ショックガン”を取り落しそうになった。
白、赤、青の、トリコロールカラーも鮮やかな鋼鉄の巨人。
かつて、のび太達が北極でパーツを発見し、『鏡面世界』で一から組み上げたそれ。
しかし、それは鉄人兵団が地球侵略のために用意したもの。彼女の事を考えてみれば、これが出てくる可能性はあったのだ。
そして、のび太はこの巨兵が秘めたスペックを知っている。
フー子を抱く手に力が籠り、無意識に一層強く彼女を抱きしめてしまう。
頬を朱に染め、彼女は嬉しそうに笑っていたが、それとは逆にのび太の表情からは血の気が失せていた。

『――――ククク。さあ、絶望しろ。“ジュド”を以て、敵を焼き払え! リルルよ!』
「リ、リルルだって!? リルルが“ザンダクロス”に!?」

これこそが、『鏡面世界(リバーサル・ワールド)』、『鉄人兵団(インフィニティ・アイアンアーミー)』と続く、彼女の最後の宝具。
名を『超機動重機ザンダクロス(ジュド)』。
“ザンダクロス”は、北極で見つけた事から『サンタクロース』をもじってのび太がつけた通称。“ジュド”は、鉄人兵団が使用していた正式名称である。
元々は、前線基地建設のための土木作業用ロボットだったが、頭脳パーツをドラえもんが改造した事により、鉄人兵団の地球侵攻時、のび太達の切り札として活躍した。
このロボットは、戦闘用でないにも拘らず、なぜか高い戦闘能力を持っている。
おそらく、基地建設が終了した後、戦闘用に転用するつもりだったのだろう。

『ふん。忌々しい事に、頭脳ユニットを作り直す事が出来なかったのでな。だが、このジュドは我々の手によって改造が施されている。以前と同じとは思わぬ事だ! やれ!』

号令が響き、思わずのび太達は身構える。
本来の『ザンダクロス(ジュド)』に搭載されていた武装は、腹部のレーザー砲と両肩の装甲に内蔵されたミサイルランチャーのふたつ。
危険故に、後者は使用された事はないが、前者は鉄筋コンクリートのビルを一撃で倒壊させるほどの威力を秘めていた。
これだけでも凄まじいが、鉄人兵団はそんな危険物にさらに強化を施したと言うのだ。のび太の表情が、さらに青くなったのも無理はない。
棒立ちの体勢から動き出す『ザンダクロス(ジュド)』。
しかし、その動きはお世辞にもスマートとは言えなかった。

「……あれ? なんだ?」
『――――ちっ、なにをモタモタしている!』

金色の指揮官の罵声が飛ぶ。
例えて言うならば、雨曝しのせいで錆だらけのブリキのおもちゃ。
右足を前へ、下げていた腕を上へ持ち上げようとする動作も、臨終間際の人間のそれだ。
鋼鉄の腕はぶるぶる震えて、いっそ壊れかけにすら見えてしまう。
のび太の頭上に疑問符が乱舞するのも当然。それは、残る五人にも共通している。
まるで、意思に反して無理矢理動きを抑制している。そんな、あまりにも不可思議な機動だった。

『再度命ずる! 武装を解放し、敵を焼き払え! リルル!』

怒気をふんだんに滲ませた声。
それが『ザンダクロス(ジュド)』の撃鉄を落とした。

「――――ッ!」

デュアル・アイに、青の光が強く灯る。
先程までとはうってかわった滑らかな動作で、一歩を踏み出す『ザンダクロス(ジュド)』。
軽く前に出した足に体重を預け、両腕を上下に重ねて身体を掻き抱くような姿勢を取った。
あまりにもこの場に不似合い、かつ場違いな動作。それにいったい何の意味があるのか。
全員がそんな疑念に駆られるも、その答えは次なる無数の金属音によって齎された。

「「「「「……えっ!?」」」」」
「フゥ?」

ガシュン、ガシュン、ガシュン、とけたたましく音を立て、展開される『ザンダクロス(ジュド)』の全身の装甲。
肩部だけではない。両腕部や両脚部、腰部、それから背部に至るまで、身体を覆う大半の装甲がスライドし、内装が剥き出しとなる。
その装甲の下にあったもの。それは。

「――――は!? え、う、嘘でしょ!?」
「み、ミサイルッ!?」
「あ、あれ全部かよ!?」

全身にマウントされた、無数のミサイルの弾頭であった。
果たしていったい何基あるのか、数えるだけで目が痛くなるほどだ。ざっと換算しても、確実に三桁は超えるだろう。
弾頭がせり出すさらなる金属音と共に、兵士ロボットが一斉に後退する。

「いかん、凛!」
「シロウ!」
「フー子っ!」

包囲網が緩んだ事で、一斉に回避行動に移るのび太達だったが、一歩遅かった。
爆音と同時にすべてが解き放たれた殺傷兵装。円を描くように虚空を旋回しながら、その一基一基が意思を持つかの如く、標的目掛けて勢いよく降り注ぐ。
夜空を駆ける流星群。空気を切り裂き奔る幾つもの光芒は、それにもよく似ているが、内実は人工の凶星の嵐だ。

「うわぁああああーーーー!?」

着弾。轟音。そして閃光と共に吹き荒れる、一切を消し去らんと言わんばかりの凄まじい衝撃波と熱風。
人間の声も、物音も、機械の駆動音も、気配すら一瞬で掻き消される。
下手なSFや、B級特撮映画の比ではない。
生み出されたは、無慈悲なまでに宵闇を赤く染め上げる、炎の煉獄。
爆炎が大地を舐め尽くし、ビルも木立も等しく灰燼と帰してゆく。
人工のフレアの中心点から、墨を落としたように真っ黒なキノコ雲が立ち上ったのだった……。






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