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No.2609の一覧
[0] 帰って来たいケイネスのZERO(憑依)[クリス](2008/02/25 10:58)
[1] 帰って来たいケイネスのZERO 第2話[クリス](2008/02/22 03:23)
[2] 帰って来たいケイネスのZERO 第3話[クリス](2008/02/27 00:21)
[3] 帰って来たいケイネスのZERO 第4話[クリス](2008/02/27 00:22)
[4] 帰って来たいケイネスのZERO 第5話[クリス](2008/03/16 23:24)
[5] 帰って来たいケイネスのZERO 第6話[クリス](2008/04/26 01:33)
[6] 帰って来たいケイネスのZERO 第7話[クリス](2008/05/01 13:34)
[7] 帰って来たいケイネスのZERO 第8話[クリス](2008/08/10 00:07)
[8] 帰って来たいケイネスのZERO 第9話[クリス](2009/03/02 02:01)
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[2609] 帰って来たいケイネスのZERO 第7話
Name: クリス◆45dab918 ID:89adfc6d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/05/01 13:34



 その日、遠坂凛は夜の町に出向いた。
 現在、夜の町がどれほど危険な場所であるかを凛は幼いながらも十分理解しているつもりだった。
 いまの冬木市で相次ぐ児童誘拐事件は、単なる誘拐でないことを理解し、警察でも対処する事ができない事象である事も理解していた。

 そしてこの日。
 遠坂凛は、行方不明となった友達が、助けを求めているに違いないと思って自ら夜の冬木市を捜索することにした。
 それは普段多くのクラスメイトから頼られ、尊敬される者としての義務感であり、次々と消えていく子供たちがどんな事件に巻き込まれているかの真実を知っている者としての良心の呵責でもあったかもしれない。
 聖杯戦争の間、母と身を寄せることになった禅城の屋敷を抜け出した凛は、父から贈られた魔力針と宝石魔術の修行で精製した水晶片がふたつ。水晶片には魔力が充填してあり、一気に魔力を開放すればちょっとした爆発を起こせる代物だった。――そして、持ち前の勇気とプライドが小さな少女の武器だった。

 そして辿り着く。
 厳戒態勢中の冬木市を巡回する警察の目を掻い潜り、夜の街を歩く凛は目当ての反応を捉える事に成功した。
 強い魔力のある方角を指し示す魔力針が、薄暗い路地の奥を凍りついたかのように指し示したまま動かない。
 その先には何かがある。
 強い魔力を放つ何かが……。

「さて。次の標的は、どうしてやろうか」

 路地の中から歩み出たのは、外国人男性だった。
 スーツを着崩したような出で立ちに、袖口から覗く右手は不思議な紋様が描かれている。
 そして、この男の表情は、何処からどう見ても悪人面だった。
 セリフまでもが、文句の付けようも無いほど悪だった。

「……「次のひょうてき」って。やっぱり、アイツが」

 凛は物陰に隠れながらその男を注意深く観察する。
 男のすぐ側には、白い髑髏面をした異様な体格の者たちが集まっている。
 数にして4人。
 どれもが同じような仮面を付け、そのうちの1人は若い男性を担いでいる。
 髑髏面たちは、まず間違いなく人間ではない。
 優秀な魔術の素質を持つ凛は、肌で感じていた。

「あれが、サーヴァント……」

 凛の父である遠坂時臣が参加している七人の魔術師たちの戦争。
 その魔術師たちが従える七騎の英霊。
 怪しげな男は、マスターであり、自分のサーヴァントをつれて皆を誘拐している。
 現に今も一般人を捕まえている。
 服装からみても夜遊びしていそうな若者であるので、おそらくちょうど良い獲物として捕らえられたのだろうと凛は解釈した。
 きっとこの男こそが、自分の友達を、多くの幼い子供たちを誘拐してきたに違いない。

「……ん?」

 それまで悪そうな微笑みを浮かべていた男が真面目な顔になって凛の隠れている曲がり角を睨みつけた。

「(バレた!?) ひゃッ!?」

 そう思った時には全てが遅かった。
 踵を返して逆の方角へと駆け出そうとした凛の目の前に例の髑髏面が立ち塞がっていた。
 突然の衝突に軽く悲鳴を上げてしまった凛は、そのまま尻餅をついてしまった。
 目の前に立つサーヴァントは、特に何かするような素振りは見せず、凛の逃げ場を奪っただけで動きを止めている。

「なんでこんな時間に子供が……」

「ひ…ゃ」

 そして、気付いた時にはすぐ後に髑髏面のサーヴァントのマスターと思われる男が立っていた。
 先ほどまでと違って男は困ったような表情をしながら綺麗な金髪を掻きながらぶつぶつ呟いている。
 その表情は、先ほどまでの悪人面ではなくなっていたが、今度は魔術師としての警戒心が警告を発していた。
 まだまだ未熟な凛ではあったが、魔術師としての素質はかなり高い。
 故に、この男の魔術師としての“格”もある程度感じ取れた。認めたくは無かったが、この男は少なくとも凛が尊敬する父の時臣と同格の魔術師であることを。

「主殿。この者、どうなさいますか?」

 ひとりの髑髏面が、凛の処遇をマスターである男に尋ねる。

「そうだな。記憶を操作して……ん?」

 男は、魔術師の常識である魔術の隠匿のために凛の記憶に手を加えようと不気味なグローブを填めた右腕を凛の頭に近づける。
 しかし、凛の顔を間近で確認した男は、何か考え込むようにして凛の顔をまじまじと見つめ始めた。
 凛の顔を確認し、頭の天辺から爪先まで嘗め回すように(凛はそう感じた)視線を動かすと伸ばしていた右腕を引っ込めた。

「主殿?」

 魔術の秘匿のために目撃者は、記憶を弄るか抹殺するかするのが魔術師の常套。
 それを突然やめた男をサーヴァントだけでなく、凛も疑問に思った。

「大丈夫。この子も魔術師だ。まだ見習い程度だろうけど」

「ッ!?」

 その言葉に凛は反射的にポケットから水晶片を取り出していた。
 考えてみれば当然だったのだ。
 魔術師であれば、ある程度は魔術師を感知できる。
 未熟な自分が感じ取れたのならば、魔術師同士の戦争。父と同じ舞台に立つ魔術師が凛が魔術師であることに気付かないはずが無かった。
 もし、自分が遠坂時臣の娘であることがばれたら人質にされるかもしれない。
 そうなれば尊敬する父に多大な迷惑をかけてしまう。
 そして、父の自分に対する期待を裏切ってしまう。
 幼い凛の心の中で、魔術師という道を選ぶ自分自身のプライドがわずかな一歩を踏み出させる。

「ちょ、待ッ!!?」

 突然の魔力の動きに男は、慌てる。
 凛は、相手が自分を子供だと油断していたのだろうと思った。
 しかし、これでこの男を倒せると凛も思ってはいない。
 自分自身の中に生まれた恐怖を誤魔化す為、吹き飛ばす為の一撃。
 この後に自分がどうなるかなど凛には考えられなかった。
 ただ、自分が何も出来ないまま終ってしまうことに耐えられなかった。
 小さな水晶片が魔力を開放しつつ、弾ける。
 おそらくその際に生じる爆発は、術者たる凛をも巻き込むだろう。
 それほどの至近距離なのだ。
 これならばきっと相手にも多少の手傷を負わせることは出来るはず――その結果をほんの少しだけ誇りに変えられたら……。
 そして、充填されていた魔力の割りに小さな破裂音が響き渡った。









「……あれ?」

 いつまでたっても爆発の余波が来ないことに凛は閉じていた目蓋を見開き、周囲を確認する。
 周りは依然真っ暗な路地裏で、自分の周りには誘拐犯(凛的に確定)とそのサーヴァントがどっと疲れたような様子で膝をついている。
 目の前には、サッカーボールほどの大きさの銀色の何かが浮遊していた。
 恐らくそれが水晶片の爆発を封じ込めたのだろう。

「あ、危ないだろうが、このバカ凛ッ!!」

 突然、男が怒鳴ったかと思うと小気味良い音と共に凛の頭部に衝撃が走る。

「い……、いたーーーいっ!」

 一瞬何をされたのか理解出来なかった凛だが、じわじわと頭部に広がる痛みに気付いて呻いた。

「イタイ、いたい、ジンジンする! お父様にも打たれたことないのに!」

「痛いですめば葬儀屋はいらんわい! っていうか、そのネタは年齢的にどうかと思うぞ!」

 先ほどまでの緊迫した空気がどこかに吹っ飛んでいった。
 目の前の誘拐犯?に感じていた脅威が凛の中ではかなり低くなった。
 今のこの男には魔術師らしさがまったく感じられない。
 この男の存在を幼い子供に手を上げる一般常識のない駄目な大人でしかないと凛は位置づけた。

「ヌヌヌヌッ」

「ムムムムッ」

 両者奥歯をかみ締め睨み合う。
 周囲の髑髏面たちは、どうしたものかとオロオロ。

「……はぁ~。もういいから帰れ。1人で帰れないなら送ってってやるから」

 子供と睨み合う事の情けなさに何とか自力で気付いた男は、気まずそうに視線を逸らして脱力しながら言う。

「いらないわよ! それに私はまだやることがのこってるんだから!」

 もはや、男が魔術師だろうがマスターだろうが誘拐犯だろうが、凛にとって恐れるほどの相手ではなくなっていた。
 すでに凛の中では、三下であると決め付けられているのだった。

「……いいから帰れ。娘がひとりで出かけたと知ったら葵さんも心配してすっ飛んでくるんだぞ。こんな危険な場所に、な」

「ッアナタには関係ないで……って、何でお母様のこと知ってるのよ。それにわたしの名前も……」

 そこでようやく凛は目の前の男の異質さに気付く。
 この男は、凛の名前を当たり前のように口にし、母の葵のことさえ知っており、凛が勝手に禅城の屋敷を抜け出した事を知っている。
 先ほどからまったく威厳というものが感じられなかった男が、今では何かを堪えるように凛を見据えている。

「お前の友達はもう戻らない。他の子供たちも帰ってこない。だから、諦めて禅城の屋敷に帰れ」

 男の瞳に最初に感じた悪意は微塵も無くなっていた。
 凛も男の言葉に予想し得たことだと思い至る。
 自分よりも今の冬木市の現状を理解している母に行方不明になった友達のことを訊ねても言葉を濁すだけだった。
 それは、娘に悲しい思いをさせたくないという母の気遣いだったのだろう。

「コトネは……死んだのね」

「ああ。もう帰ってこない」

 ようやっと自分の口から言葉にして出した凛に、男は冷静な口ぶりで応えた。
 言葉にすることで再確認する失われた命の重み。
 命が失われる瞬間に立ち会わなかったにも関わらず、それは確かな錘となって凛の胸を締め付けた。










 凛が寝室から消えていることに気付いた遠坂葵は、禅城から車を飛ばして冬木市へとやって来た。
 友人を助けに行くと書置きを残した我が子の居そうな場所など見当も付かなかった。
 何しろ、行方不明の者を探すために出かけたのだ。
 普段立ち寄るような場所から探すほど凛の精神は幼くない。
 それを理解していても、探す当ての無い葵には、心当たりを虱潰しに探すしかなかった。
 凛の行動範囲と時間から移動距離を想定して最初に浮かんだ先は、川辺の市民公園だった。

 そこは良く出掛けた場所だった。
 葵と凛、そして……。
 深夜の公園は、静寂に包まれているはずだった。
 児童誘拐事件によって厳戒態勢が敷かれている今では、なおのこと。
 しかし、

「このへっぽこ魔術師っ! 失敗じゃないの!」

「んな上手く行くはずが無いだろう! 大体、魔術ってのはそれぞれの家系の秘伝だってことくら分かってるんだろうが!」

 夜の公園に響く少女と男の口喧嘩。
 神経をすり減らす思いで駆け付けた葵は、緊張の糸が切れそうになるのをどうにか耐え、凛の姿を探す。
 声のする方に視線を巡らし、我が子の姿を探した葵が凛の赤いセーター姿を見つけた時には、ちょうど怒った凛が見知らぬ男の脛を蹴飛ばすところだった。

「うぐぉあッ……。 こ、このガキ……」

 所詮、子供の蹴りだと油断していた男は、予測を遙かに上回る威力を持った凛のトーキックに悶え苦しむ。

「ふん、何よ。遠坂の魔術も知ってるとか偉そうなことを言い出したのはそっちでしょ? とんだ時間の無駄だったじゃない」

 目の前で繰り広げられる娘と見知らぬ男の喜劇染みたやりとりに葵は数瞬呆気に取られてしまっていた。
 数秒の間目が点になってしまった葵だったが、どうにか本来の目的を思い出し、娘に声をかける。

「――凛っ!」

「あ、お母様!?」

 葵が駆け寄ると凛も母の元へと駆け寄った。
 駆け寄った凛を抱きしめ、無事を確かめた葵は安堵に涙を滲ませる。

「良かった……本当に……」

「ごめんなさい、お母様。私……」

 母のその姿に、凛は葵にどれほど心配をかけてしまったかを理解し、神妙な表情で葵に謝罪する。

「いいの、いいのよ。無事だったのならそれだけで十分」

 そんな凛を強く抱きしめながら葵は、娘の無事をかみ締めた。
 しばらく母子の抱擁が続き、ようやく冷静になった葵は、ベンチに腰掛けながら自分たちを眺める男に向き直った。

「娘がお世話になったようで……」

 さきほどの凛とのやりとりから、とりあえず男が自分たちに危害を加えるつもりがないのだと察した葵は、警戒しつつ頭を下げた。

「いやいや、お気になさらず」

 男は、しきりに脛の部分を摩りながら笑みを繕って応える。
 凛の蹴りは、よほど強力だったようで、男の笑みはどこか苦しげだ。
 この男は、葵の目から見ても“格”というものをまったく感じられなかった。
 魔術師の家系に嫁いだ者として、それ相応に魔道の気配には敏感になっている葵の感覚は、この男が魔術師であることを警告している。
 だが、魔術師が纏う独特の何かが目の前の男には感じられなかった。
 しかし、その男の左手の甲に禍々しい紋様が刻まれていることに気付いた葵は、解けかけていた警戒を強めた。

「貴方の目的は何……?」

 凛が魔術師であることを知ってなお、保護して葵が探しに来るまで公園で待っていた。
 しかも、男は葵がこの場所にやってくることを始めから知っていたような様子さえある。
 であるのなら、自分たちがマスターの1人の家族であることを知って、利用するために待ち構えていたのでは?
 そんな可能性に思い至った葵だったが、男は殊更穏やかな、されど慎重な声色で呟いた。

「そのままその子を連れて早く禅城に帰りなさい」

「え?」

 男の言葉に葵は、呆然とする。
 そんな葵の反応に気分を害した様子もなく男は、葵に抱かれたままの凛に視線を移す。

「夜中に出歩くのは、一人前になってからにしろよ。それと蹴りの借りは、ちゃんと返すから覚悟しとけよ。チビ凛」

「ふん、言ってなさい。返り討ちにされても文句は言わないでよ」

 男の冗談交じり言葉に凛も自信満々に応える。
 そんな凛の態度にもやはり苦笑で応じた男は、何やら年寄りくさい掛け声と共にベンチ立ち上がる。

「私は、これで失礼させてもらいます」

 葵に対して、折り目正しく丁寧に頭を下げると男は、さっさと公園の出口の方へと歩いていった。

「あ…」

 去り往く男に声をかけようとした葵だったが、呼び止めても自分にはどうすることもできないことを思い出し、声を引っ込めた。
 始めから去り際までよく分からない人物だった。

「お母様……」

 男の去った後の公園でしばし呆然としていた葵に凛が心配そうに声をかける。

「大丈夫。さあ、禅城に戻りましょう」

「はい、お母様」

 葵と凛は、しっかりと手を繋ぎ、静かになった公園を後にした。














 翌日、男の言葉とは違い、行方不明だった子供たちの何人かが無事に帰ってきた。
 子供たちの記憶は曖昧で誘拐されていた間のことは何一つ憶えていなかった。
 後に、未遠川の中程にある下水管の奥にある貯水槽から気絶する若い男と無数の遺体が発見されることになり、冬木市の誘拐事件は、連続殺人事件と名を変え一応の終結を見ることになる。

 凛はその報道を耳にした時、夜の冬木市で出会った変な魔術師のことが頭に浮かんだ。
 新聞に載せられていた犯人の顔写真は、変な魔術師が捕まえていた男と同じ顔であり、後にその犯人も聖杯戦争に参加していたマスターであったことも知る事になった。


 そして、すべてが終わった後。凛はあの時の蹴りのお返しをあのような形でしっかり受ける事になるとは、幼い凛でなくとも予想も出来なかっただろう。










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