なんちゃって師弟が口論すること30分ほど経った頃。
「ストップ! やめよう、ウェイバー君。これ以上、皆さんをお待たせするのは良くない」
「そ、そうですね。はぁ、はぁ、僕も、はぁ、ちょっと疲れました」
三十分間フルスロットルで口論を続けたウェイバーは息切れと喉の渇きのため、ケイネスの休戦の提案を受け入れた。
肩で息をするウェイバーとスゴスゴとランサーの背後に戻っていくケイネスを周囲の者たちは、呆気にとられて見ていた。
そして、会話を再開したのはライダーであった。
「ほっほぅ。うちの坊主も己が師に刃向かう気概があったとはなあ。それに師の方も中々に痛快な生き方をしているようでわないか」
呵呵大笑でなんちゃって師弟を評するライダーに周囲も半分は同感といった様子だった。
「ウム、実に愉快な魔術師であるな。覗き見する姑息な輩もちったぁ見習うことがよい!」
豪快に笑いながら大声を張り上げるライダー。
その言葉に、やはりケイネス以外が怪訝な表情をする。
「セイバー、それにランサーよ。うぬらの真っ向切っての競い合い、まことに見事であった。マスターたちも己が騎士の戦いに臆する事無くよくぞ立ち会った!」
ライダーはこの場にただ一人の王であるような物言いをするが、セイバーもここで自分も王であることを誇示することはしなかった。
ライダーの声は、この場にいる者たちにかけられているものではないことを理解したからだ。
「情けない。情けないのぅ! 誇るべき真名を持ちながら覗き見だけの腰抜け共、聞いておるか!」
鼓膜を震わせるライダーの豪笑に、挑発的な色合いが含まれる。
「聖杯に招かれし英霊は、今! ここに集うがいい。なおも顔見せを怖じるような腰抜け共は、征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!」
周囲の視線を一身に受け、大音量で言い放ちニヤリと笑うライダー。
その大熱弁の反響が消えぬうちに、暗闇を引き裂く黄金の青年が姿を現した。
この場に集ったマスターとサーヴァントたちを街灯の上から見下ろすその姿は皆が知っていた。
昨夜、遠坂邸にてアサシンのサーヴァントを討ち倒したことになっている黄金のサーヴァントであった。
「(聞こえるかい、ソラウ?)」
周囲の者がライダーの挑発に乗ってやってきた四騎目のサーヴァントに注目するなか、一人だけ意識を別に向けている者がいた。
上着のうちに仕込んでいたマイクに囁きかけるは、ケイネスその人であった。
『(ええ良く聞こえているわ)』
現代の技術の恩恵のひとつである通信機。
ケイネス以外の他にこれを用いるのは衛宮切嗣たちだけであるため、通信を妨害されることもない。
視界の端では、黄金のサーヴァントに続いて暗い闇を纏うサーヴァントが現れていた。
聖杯戦争が始まって、緒戦から五騎ものサーヴァントが一所に集まるなど誰が予想できよう。
「(バーサーカーが現れた。そう時間も掛からない内に戦闘は終る。ここから3ブロック離れた路地のマンホールを見張ってくれ)」
『(ええ。印の付いた4箇所でいいのよね?)』
ソラウの了解と確認の声が、機械越しにケイネスの耳に届く。
「(ああ。反応があったら教えてくれ)」
バーサーカーのマスターである間桐雁夜は、今現在下水道の中に身を隠している。
その事実を前もって知っているケイネスは、雁夜が戦闘後に這い出てくる場所の大体の位置にあったマンホールの近くにセンサーを仕掛けていた。
視線の先では、一方的に攻撃していたアーチャーが撤退し、標的を見失ったバーサーカーがセイバーへと襲い掛かっていた。
怨念に囚われた黒い殺意を身に纏い、理性を手放すことでその怪能力をもって容赦なくセイバーを攻撃するバーサーカー。
狂化してなお損なわれることのない絶技にセイバーは押され始める。
「ランサー! 許す、セイバーに加勢して狂犬の目を覚ましてやれ!」
「はっ!」
『!?』
このサーヴァントにしてこのマスターあり、といったところか。
ケイネスがそう言うことを知っていたかのようにランサーは、紅の長槍をもってバーサーカーの攻撃からセイバーを庇った。
破魔の槍によって、バーサーカーが己が宝具の力で覆っていた鉄柱が半ばから両断される。
「主からの許しも出た。この場限りになろうが、刃を並べさせてもらうぞ、セイバー」
「ランサー……」
バーサーカーの宝具である“一度手に持ったものを自身の宝具とする能力”の天敵であるランサーの参戦によって戦況は一変する。
それまで長槍の鉄柱であった武器がランサーに切断され、長剣ほどの長さになっても鉄柱を侵食する黒い葉脈に覆われている。
僅かでもその手に握られている以上、それは紛れもなくバーサーカーの“宝具”である。
しかし、ランサーの『破魔の紅薔薇』前ではただの鉄塊でしかない。
天敵とも言うべき能力を持つランサーを相手に苦戦を強いられるバーサーカー。
だが、能力を底上げする『狂化』によって複雑な思考のできないバーサーカーに撤退の二文字はなかった。
いかにどんな武器でも自在に操る絶技であっても、槍術の極地にあるランサーを相手にそれは擬似宝具では不足である。
徐々に滲むような輪郭の姿が削られていく。
もはや拳大の大きさになった鉄柱の残骸を投擲するが、やはりランサーによって打ち落とされる。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」
武器を失ったバーサーカーは倉庫の壁まで追い詰められた所で禍々しい咆哮をあげた。
それはランサーへの怒りに対するものか、目の前にいるセイバーに手が届かないからか。
どちらにしろ、その咆哮は何某か不吉なモノが感じられた。
「まずい!」
バーサーカーの憎悪に染まる咆哮の意味をいち早く理解したケイネスが動く。
黒いサーヴァントは、それまでとは違う構えをとる。
まるで剣を抜き放つような動作だ。
それは他から奪ってきた武器ではない。
正真正銘、彼自身の宝具であった。
そのことに勘付いたランサーとセイバーも来たる新たな猛威に備える。
だがその時、誰もが予想だにしなかった人物が、バーサーカーの前に立ちはだかった。
「鎮まれ!」
「ケイネス殿!?」
ランサーが驚愕の面持ちで叫ぶ。
よりにもよってこの場面でマスターが、サーヴァントを庇うように現れるなど愚かを通り越してもはや喜劇であった。
だが、バーサーカーを睨みつけるケイネスの眼差しはどこまでも真剣だ。
そして、ケイネスは短い呪文を紡ぎながら片手をバーサーカーに向ける。
「無謀です! 御下がりください!!」
前に出ていたケイネスを庇うように進み出るランサーをケイネスは押し留める。
周囲が見守る中、ケイネスの呪文が始まってからバーサーカーの動きが止まっていることに皆がようやく気付く。
「“彼女”の前で、そのような姿を晒すつもりなのか?」
呪文を唱え終えたケイネスが厳かに言う。
ケイネスの掌にある小さな輝きに狂気に染まったバーサーカーが震えている。
「G……R……RR……」
ケイネスの背に隠れて他の者には見えない何かが、バーサーカーの暗い瞳にはしっかりと映し出されていた。
聖杯戦争に理性なき獣として招かれたバーサーカー。
しかし、その瞳に映る輝きに込められた想念は、決して傷つけてはならない存在だった。
そこに何があるのかを理解できない周囲の者たちが固唾を呑んで見守る中、バーサーカーは影に溶けるように掻き消えた。
一体何が起こったのか。
複雑な思考ができなくなったとはいっても、強い想いが消えたわけではない。
そこを卑劣と思いつつ、ケイネスはたった一度きりの切り札を早くも消費することになってしまった。
すでに魔術の付加に耐えられなくなった輝きは、粉々に砕けて風に飛ばされている。
「……マスター。今のは?」
不可思議な状況に事態を読み込めないランサーが主に問う。
「ああ、うん。彼の心の傷を少しばかり、ね」
申し訳なさそうに言うケイネスにランサーはバツの悪そうな表情になり引き下がった。
先の輝きは、降霊魔術の一種を使った残留思念の投影を行ったためだった。
すべてのサーヴァントの正体を知っているケイネスにとって、相手の気を削るようなモノを用意することは容易い。
バーサーカーがここで自らの宝具を解放するとは思っても居なかったケイネスは、その品を使ってしまった。
こうなるのであれば、ライダーにバーサーカーをひき潰してもらえばよかったと後悔したケイネスだが、やってしまったものは仕方がなかった。
「さて、皆さん。今夜はお開きにしませんか?」
切り替えのはやいケイネスのおどけた調子の声に皆、否定の色はない。
ランサーとセイバーにしても互いの勝負を邪魔された以上、ある程度の仕切りなおしがあるに越した事は無い。
ライダーも元からサーヴァントの顔ぶれを見るために現れたようなものだったので挑まれなければこの場で戦おうとは思っていない。
「そうだのぅ。セイバー、それにランサー。まず、おぬしらの決着をつけよ。余の相手をするならば、双方憂いをなくし万全で挑んでくるがよい」
それだけ言うとライダーは稲妻を轟かせながら空へと舞い上がり去っていった。
「ふう。それでは私たちもお暇しようか、ランサー」
「は……」
少し残念そうに、しかしケイネスの意味ありげな視線に静かに頷くランサー。
「本来であれば、ここで決着を付けさせたいが、一、二日ほど待ってもらって良いかな? アインツベルンのご婦人」
明らかに含みのある困った顔で言うケイネスに、アイリスフィールは静かに頷いた。
マスター同士の了承が取れたところで、ランサーはセイバーに向き合う。
「セイバー。お前の左手を奪ったのはこの俺だ。そのハンデ、誰にも付け入らせるなよ」
「はい。貴方を討ち倒し、我が左手を取戻す。それまで、貴方も他の者に討たれてくれるなよ。ランサー」
互いに不敵な笑みで別れを告げるサーヴァントたち。
「よし。それじゃあ“帰ろうか、ランサー”」
そう言って駆け出したケイネスはすぐさま周囲に散らしていた仕掛けに取り付かせていた『月霊髄液』とラインを繋ぎ、仕掛けを処理させ己が身に呼び戻す。
倉庫街をケイネスを担ぎながら疾駆するランサーの後を複数の水銀で出来た球体追ってくる。
それこそ、本来のケイネスが有する最強の礼装であった。
ケイネスが急いで向かった先は、冬木ハイアット・ホテル。
前もって擬装用に借り受けていたのである。
そして、借りている客室最上階にはそれなりの魔術が施されている。
擬装用にしては手間をかけすぎている嫌いはあるが、出来る限り本来の歴史通りに事態が動いて欲しいケイネスはそれを行った。
ケイネスが歴史を変えるのに最大の邪魔となるのがアサシンのサーヴァントなのである。
常にどこかから監視されている可能性があるため、不用意な行動は起こせない。
それこそ、何の調べもなしにキャスターの所在を突き止めたり、大聖杯の破壊しに言ったりしたらとんでもないことになる。
最悪、アーチャーが差し向けられる可能性もあるのだ。
アーチャーの能力を知るケイネスにとってそれは絶対に避けねばならない。
先ほどもバーサーカーが宝具を持ち出そうとしたため、仕方なく追い払うのにギリギリなアイテムを使ったのだ。
これ以上、機を窺っていてはすべてが無駄になると思ったケイネスは、この場所を使った罠を使用することにした。
部屋に到着したケイネスはすぐさま準備を始めた。
予め仕掛けてあった、人形に一定の行動を入力して設置する。
そうすることでケイネスたちがこの場に居るように錯覚させるのだ。
そうしてケイネスとランサーは、熱遮断のシートを被り、周囲の光を屈折させる魔術を使用してホテルの非常口に待機する。
それからほどなくしてホテルの防災ベルが鳴り出した。
勝手に手を加えて引っ張ってきていた備え付けの電話にフロントからの着信が入る。
電話に出たケイネスは係員の連絡を聞き、どうにか予想通りの結果に安堵する。
「よし。ソラウ、Aの印の付いた建物に反応はあるか?」
『どういうこと? バーサーカーのマスターを捕捉するんじゃなかったの?』
インカムの向こうからソラウが若干機嫌悪そうに聞き返す。
「いや、予定外の出費があってね。それより、Aの建設途中のビルに反応はある?」
『ちょっと待って………………あったわ。人間がいるのは間違いないみたい』
冬木ハイアットホテルの斜め向かいにある、建設途中の高層ビル。
そこは、セイバーの本当のマスターである衛宮切嗣の仲間である久宇舞弥が、ホテルの部屋にいるケイネスたちを監視している場所だった。そして、ケイネスの標的も現れる場所でもある。
「ありがとう。あのビルだ、急いでくれ、ランサー」
非常口を出たケイネスが指差すとランサーは、ケイネスを担ぎ、負担にならない速度でその場所を目指した。
すでにその目に遊びはない。
これから行うことは、ケイネスにとって未知の可能性であるため、全霊で取り組まねばならない。
「ランサー。これから向かう場所に女の他に、神父の男が来るはずだ。そいつの右手を問答無用で切り落とせ」
「良いのですか?」
始めて耳にするケイネスの残忍な指示にランサーは耳を疑う。
「そいつはアサシンのマスターだ。時間を駆けると逃げられるぞ」
ランサーの確認には応えず、ギラつく瞳で目的の地点を睨みつけるケイネス。
本来であれば消滅したはずのアサシンのマスターに固執する必要があるのかと思うところだが、ランサーはその意味を理解した。
拠点の結界内以外で極力自分のもつ情報を口にしようとせず、必要以上に周囲を警戒していたケイネス。
つまり、ケイネスはアサシンが消滅していないことを確信しているのだ。
ケイネスが未来の情報を持っていることを聞かされているランサーは、その言葉を信じた。
アサシンのマスターを狙うのも相応の理由があるのだろうと。
背後でホテルが芸術的な崩壊を見せているがケイネスは気にしない。
魔術・物質的な隠蔽を行って目的地を監察することに全神経を傾けている。
ケイネスの視線の先にあるのは建設途中のビル。
そしてその先で響いた銃声。
「来たな。行こう」
「御意」
ランサーに先行させたケイネスは自分もすぐさまビルの壁を駆け上る。
質量操作と重力制御。
質量操作はまだしも、大掛かりに行えばそれこそ大魔術に値する重力制御も自らのみに限定すれば出来ない事は無い。
それが魔術師としてのトップクラスの実力をもつロード=エルメロイならば、壁を駆け上がることなどそれほど苦にならない。
およそ魔術師らしからぬ今のケイネスも、外道の技を繰ることになんら躊躇は無い。
ものの数秒で目的の階に到着したケイネスの目に飛び込んできたのは、右手を落とされた言峰綺礼と負傷しているらしい久宇舞弥。
そして二人の間に立つニ槍の騎士。
「ランサー、そいつの右手は?」
十二分に周囲を警戒しながらケイネスはランサーの横に立つ。
「こちらに……」
ケイネスの催促に、表情にこそださないが不満そうなランサーはつい今しがた切り落とした綺礼の右手首をケイネスに差し出す。
受け取ったケイネスは、令呪の摘出を行い、ランサーの令呪とは反対側の左腕にそれを移植する。
すでにマキリが完成させたサーヴァントとの契約システムに手を加えていたケイネスにとって、令呪を摘出し、それを自分に移し変えることも難しくない。急速に温度を失う綺礼の手首からものの10秒ほどで令呪を自分のそれに移植し終えた。
「さて、と」
令呪を奪われた綺礼は、右腕の切断部に止血を行い、ケイネスとランサーを睨みつけている。
動く気配がないのは、ケイネスが自分をどうするのかまだわからないからだ。
「令呪をもって命ずる。――アサシンよ、私を新たな主と認め、ここに集え」
周囲の予想通り、ケイネスは令呪の一画を消費してアサシンのサーヴァントを屈服させた。
令呪により下された決定に従い、それまで各所で監視をしていたアサシンたちが吹き曝しの未完成ビルへと集結する。
「なっ!?」
「!!」
アサシンの能力を知っていたケイネスとそのマスターであった綺礼以外。ランサーと舞弥は驚愕する。
魔術師として、マスターとして、綺礼より上位にあるケイネスが主となったことで幾分その密度を高めた何十ものアサシンが影から現れた。
「新たな主よ、揃いましてございます」
アサシンたちの代表として髑髏面の女が進み出た。
「よろしく、アサシン。君たちの力を私に貸してもらうよ」
厳かに、されど信頼を込めて言うケイネスにアサシンたちが一斉に傅く。
その様子にあまり面白くなさそうなランサーだが、ケイネスの目的のために一番の障害がこれでなくなったので我慢することにした。
ランサーは、ここに来て今のケイネスの評価を改めた。
優しすぎると感じていたケイネスの思想の本質は、身内に対してしか適用されない。
たとえ敵であっても気に入れば気を許すが、許せぬ者に対しては一切の容赦を見せない。
現に令呪を抜き取った綺礼の右手を無造作に、何の感慨も無く放り捨てても綺礼に残忍な視線を向けたままである。
だが、誰もが綺礼の死を確信していたところ……
「さっさと失せろ」
「「「!?」」」
ケイネスの意外な言葉に皆一様に驚きを表す。
「貴様……、何が目的だ」
見逃すと宣言したケイネスの言葉を信用してはいないが、少しずつ出口へと後退しながら綺礼は問うた。
「お前に教えるわけないだろ? アサシンを見張りに付かせる。ここで起きたことは口外せず、この地を去れ」
ケイネスの言葉に数名のアサシンが綺礼の周りに群がる。
アサシンたちに元の主に対する後ろめたさはまったくない。
「…………ッ」
ケイネスを忌々しそうに睨み付けた綺礼は、そのまま出口から抜け出し、外へと跳び下りていった。
綺礼につけたアサシンの一人が戻ってきて綺礼が十分に逃走したことを確認したケイネスは、ほっと胸を撫で下ろした。
ケイネスにしてもこれはとんでもない賭けだった。
令呪を奪う前にアサシンに襲われていたら間に合ったかどうか。
綺礼相手にしてもランサーを従えているとはいえ、気を抜くことの出来る相手でなかった。
倉庫街での戦闘からハイアットホテルを経由し、綺礼から奪った令呪でアサシンを従えるまで全身全霊の警戒を続けていたケイネスの精神的疲労は、ピークに達していた。
そして、それを見逃すような舞弥ではなかった。
『主!』
背後の舞弥の動きにいち早く反応したランサーが、ケイネスを庇うように立って、凶弾を打ち落とす。
「こ、恐っ。さすが、ってところか」
表面上は気の抜けた声で、内心は胆の冷えたケイネス。
ケイネスを護るように立つランサーとアサシンは殺気だって、銃弾を放った者を睨みつける。
そして一人のアサシンが銃撃者である舞弥に襲い掛かる。
「やめろ、アサシン! そいつは殺さなくていい。というか、殺すと目的の半分が達せられなくなるからやめてくれ」
ケイネスの言葉にアサシンは寸前のところでその刃を収めて、群の中に下がった。
「ふぅ。ここはランサーだけでいい。アサシンたちは、この周囲500mを40で警戒、残りはキャスターとそのマスターを見張ってくれ。もし、キャスターたちが一般人に危害を加えよとしていたら――遠慮はいらない。だが、マスターを生かしておけるならそれに越した事は無い、頼めるかな?」
「は。仰せの通りに」
もとより各マスターとサーヴァントたちを監視する任務を与えられていたアサシンたちは、ケイネスの指示に迅速に行動を始めた。
そして、ランサーを挟んで向かい合うケイネスを舞弥が睨みつける。
「そう睨まんでくれ。さっきも言ったが君に危害を加えるつもりはない」
できる限り穏やかな声で言うが、どう考えてもケイネスを信用することはできるわけがなかった。
綺礼をサーヴァントに襲わせ、腕を切り落として令呪を奪う。
舞弥もそれが出来るのであればしていただろうことだが、それを行う敵が目の前にサーヴァントを連れて立っているのだ。
そんな状況で、相手の言葉に耳をかすほど舞弥は愚かではない。
「私は、アインツベルンのマスターに協力するつもりでいるんだがな」
「――それを信じろと……?」
何を言い出すんだこの男は、と言いたげな気持ちを表面に出すことの無い舞弥は警戒を解くことはない。
だが、ケイネスはどうしても切嗣に狙われることだけは避けたいと思っていた。
アサシンの脅威がなくなっても、切嗣の脅威は見過ごせるレベルではないのだ。
「とりあえず、会合の場を設けて欲しい」
ケイネスの言葉に舞弥はうんともすんとも言わない。
無反応の舞弥にどうしたものかと考え込むケイネスだが、しばらくして諦めたように踵を返した。
「明日にでもアインツベルンの城にお邪魔するよ。私の話だけでも聞いてみる気になったら、城まで通してくれ」
それだけ言い残したケイネスはランサーを伴いその場を後にする。
一人残された舞弥は数瞬呆けた後、切嗣へことの次第を報告した。
舞弥の潜んでいたビルを後にしたケイネスは、暫らく歩くとランサーに指示を出し、近場のマンションへとソラウを迎えに行かせた。流石に本当のアジトである洋館に一人で残すわけにも行かなかったので、見張り用の部屋で監視を頼んでいたのだった。始めは嫌がったソラウだが、ランサーに説得してもらい何とか監視役を任せることに成功していた。
ランサーと別れ、無防備になったケイネスの護衛には4人のアサシンが付いていた。
そして本来の拠点に帰る途中、アサシンにある命令を下した。
「言峰綺礼を殺せ」
無表情のまま冷淡に言ってのけたケイネスに、アサシンの一人が軽く会釈して、綺礼を監視しているアサシンたちと合流するために跳び去った。
最も危険視される綺礼とアーチャーことギルガメッシュの接触。
それを避けるために下した命令。
「失望されるな、これは……」
高潔な騎士であるランサーに対して後ろめたく思っても、最悪の結果を招かないためにも冷酷になることを厭うてはならない。
ケイネスの目的は、そうでもしなければ達することはできないのだから……。
※若干修正
小型カメラをなくしました。
舞弥がいる場所は、主人公がはじめから記憶したいたことにしました。
読者様方にご迷惑をお掛けしたことをお詫び申し上げます。
これからは、もっとよく考えてから投稿するようにいたします。
私もこのSSを完結させたいので、それまでお付き合いいただけるよう頑張ります。