『剣製少女 第二話 2-5』
帰り道、セイバーと合流して一成との会話を話してみる。
「そうですか。
ですが確認は必要でしょう。
その一成という者がキャスターの魔術で精神を操られていたり、認識阻害の魔術でマスター共々気付かれないよう隠れているという可能性もあります」
「そうだね。
あたしとしても、あそこのお山の人達には色々お世話になってるから、危険がないかどうか万全にしておきたいし、帰ったら凛達にもそういっておくよ」
そんな話をしているうちに遠坂邸に到着した。
ちなみに、セイバーはあのお昼を食べきったそうだ。
……セイバーって、結構大食漢だったんだ。 女なのに”漢”っていうのも変だけど。
実家の藤村組の人達も結構大食いの人が多いけど、お兄さん達でも苦しいだろう量を食べれるなんて凄いな。
あれ? ってことは、夕飯の時アーチャーように多く盛っていた料理も実はセイバーが食べてたのか?
今度注意して見てみよう。
そんなことを考えながら玄関を開けると、
「ただいま~」
「あぁ、帰ったか」
「「…………」」
ホストに出迎えられた。
「なんだ?」
「それはこっちの台詞。
何その格好……」
「ふむ、私服だが似合わないか?」
「いや、似合うって言えば似合ってるんだけど……ホスト?」
そう、色黒白髪に黒のパンツとシャツ。
このまま繁華街に放り込めば立派なホストだ。
赤とか紫のジャケットを着せれば、家の若い衆ですっていっても通用しそうだけど。
「随分な言われようだな」
「その服、自分で選んだの?」
「あぁ、夕飯の買い出しに行くのにあの格好で行くわけにはいかなかったからな。
霊体化して金だけレジに入れてこっそり持ってきた」
そういいながら自分の格好を不満げに確認するアーチャー。
その様子から、自分では気に入っているのかも知れないが、
「その格好では子供には絶対声掛けるなよ?
泣かれるだけじゃなくって、通報される」
「そ、そこまでか?」
こくっ と、はからずもセイバーと一緒に頷いてしまった。
アーチャーはかなりショックだったのか、落ち込みながらふらふらと居間の方へ戻って行った。
ちょっと言い過ぎたかな?
まぁともかく、こんな玄関先で突っ立っていてもしょうがないので居間に行くと、もの凄い眼鏡美人さんがいた。
美人さんはブラック・ジーンズに黒のトップスという格好で凛や桜ちゃんと真剣な表情で何かを話していたが、こちらに気が付くと立ち上がって、
「初めまして。
桜のサーヴァントでライダーです」
と挨拶してきた。
気配でなんとなくそうかな? とは思っていたけどやっぱりサーヴァントだった。
そんな彼女、ライダーを見たあたしの第一印象はとにかく大きい! ってことだった。
座っていたときは気付かなかったけど、かなり背が高い。
それに、プロポーションなんてモデルでも見た事ないってぐらい整っていて、正直圧倒されてしまった。
そこでふとアーチャーを見て、なんで同じ黒服なのに着る人によってこんなに印象が変わるのか、不思議になった。
アーチャーはホストみたいだったのにライダーはシックに見える。
やっぱり、美人は何着ても似合うってことか?
「初めまして、私はシロのサーヴァント、セイバーです。 お見知りおきを」
「あ、あたしは藤村 詩露。 セイバーのマスターで凛の弟子です」
あたしが呆っとしている間にセイバーが挨拶を終えていたので、あたしも続いて挨拶をした。
でもライダーは何故か、セイバーには目もくれずあたしのことを凝視している。
正直こんな美人に見つめられると居心地が悪いんだけど……。
「な、何?」
「あ、いえ、よろしく」
顔を逸らしながら眼鏡を弄るライダー。
ん~、あたし何か気に障るようなことしちゃったかな?
「詩露おかえり、学校はどうだった?」
「ただいま、残念ながらというか、幸いにしてというか収穫なしだったよ」
「あ……あの、お、おかえりなさい、詩露さん」
「ただいま、桜ちゃん。
サーヴァント召喚の成功おめでとう」
「あ、ありがとうございます!」
なんというか、おどおどとしながら頑張って話かけてくれた桜ちゃんに、安心させるよう笑いかけたらすごく喜んでくれた。
そういえば昨日は殆ど会話をする機会がなかったから、ちゃんと話したのはこれが初めてだったかも。
桜ちゃんは、ちょっと恥ずかしがり屋さんみたいだけど、感じのいい子、っていうのがあたしの印象だ。
……姉と違って。
「さて……もう少し詳しく聞かせてもらいたいけど、その前に着替えちゃいましょうか?」
「そうだね、いつまでも制服のままっていうのもなんだし、続きは着替えてからにさせてもらおうかな?」
そういって制服を摘んで見下ろしていたら、凛に肩を掴まれた。
あ、あれ? なんか目つきが怖い。 なんで?
「ねえ詩露。 昨日のことちゃんと覚えてる?」
「え? き、昨日って……」
正直色々あったから、凛が何を言いたいのか判らずおろおろしてたら、
「”きっちり話しましょう?” って言ったわよね、私」
「げえっ!! もしかして!」
「正解。 ”アレ”に着替えながら、どういうつもりだったのかきっちり話してもらうわよ?」
「い、いや、”アレ”は流石に……。 ほ、ほら、今は他の人もいるんだし皆ドン引きしちゃうから!」
「大丈夫、きっと皆喜ぶわ。 私が保証してあげる」
そういって凛は、とても嬉しそうに笑った。
その後、羽交い絞めのままずるずると部屋まで連行されたあたしは、凛に無理やり脱がされ押し倒されながら着替えさせられた。
「ちょ、ちょっと凛! なんか前より派手になってる!」
「ふふふ、アンタの為に新しいの用意してやったのよ。 感謝しなさい」
「ひえ! な、なんでブラとショーツまで脱がすの!」
「いいから、いいから♪」
「や~め~て~」
「ふふふ、い・や♪」
くぅ~、このいじめっ子め!
結局あたしは大した抵抗も許されずに着替えさせられ、居間まで引きずられていった。
「うわ、可愛い~……」
「おぉ!」
「…………」
「くくく……、ははははは!!」
居間に行くと桜ちゃん、セイバーは目を見開いて驚き、ライダーは無表情で凝視し、アーチャーは先ほどの恨みとばかりに大笑いしていた。
あたしの格好はモノ・トーンを基調に所々のポイントに赤のリボンをあしらったフリル服で、全身レースとフリル、凝った刺繍で飾られていた。
しかも、頭にはヘッド・ドレスまでついて髪も普段とは違い凛とお揃いのツーテールにされている。
「どう? 可愛いでしょ?」
「はい! すっごく可愛いです!」
そういってムギュッと抱きしめてくる凛に、興奮した様子の桜ちゃん。
くそ~、恥ずかしすぎる!
スカートはもう慣れたといっても、こういう派手な服はやっぱり恥ずかしい。
「シロ、とても似合っていますよ」
「セイバァ~……」
せっかくのセイバーの慰めだけど、この状況じゃ嫌味にしかならない。
思わず上目遣いで恨みがましく言ったけど、何故かセイバーまで赤くなってしまった。
それにしても、
「ははは、ひぃ~くくく、き、貴様なんだその格好は?」
アーチャー笑いすぎ。
後で一発ぶん殴っておこう。
「あら、可愛いでしょ?
それにアーチャー、貴方そんなに馬鹿笑いしてるけど詩露がアンタの可能性の一つだってこと忘れてない?」
「ははは……は?
バカを言え、私にそんな趣味はない!」
「あたしの趣味でもない!」
「やれやれ……。
まぁいいわ、アーチャーはお茶の用意してちょうだい」
「了解した」
あたしを抱きしめながら、髪を撫でたり頬擦りしている凛は、すごく機嫌がいい。
なんでか凛は、あたしがこういう格好をすると妙に優しくなる。
なんか不気味だ……。
「あ、あの姉さん。 私も……その……」
「あぁ、桜も抱っこしたいの? いいわよ」
「は、はい! じゃ、じゃあ詩露ちゃん、失礼します」
「う、うん」
そういって、もじもじとしていた桜ちゃんが顔を赤くしながらそっと抱きしめてきた。
あ、桜ちゃんってあたしより背が高いんだ。
っていうか、桜ちゃん。 君何気に呼び方が「詩露さん」から「詩露ちゃん」に変わってるよ。
気付いてなさそうだけど……。
「あぁ、可愛い♪ すごく良いです!
なんか癒されます」
い、癒される? なんでよ?
それはともかく、あたしの髪や体を撫でてくる桜ちゃんの手付きがくすぐったい。
なんだか壊れ物を扱っているように慎重でムズムズしてくる。
それでなくってもこういう服は生地が薄いしさらさらと手触りがいいものだから、あまりそっと触られるとくすぐったくってしょうがないのに。
「ん~! 詩露ちゃん細い! けど柔らか~い♪」
「さ、桜! 私にも!」
「あ、はい! 今変わります」
そういって今度はセイバーが抱きしめてきた。
しかも正面から。
う、うわ、なんかさっきより密着具合が!
ど、どうしよう?
「シロ、今一度誓いましょう。
私は貴方の敵となるものを切り伏せる剣となり、貴方を守ると」
そういって抱きしめたまま真っ直ぐ目を見て言われた。
な、なんか告白されてるみたいですっごく恥ずかしい。
できれば逆の立場でこっちから言いたかったけど。
桜ちゃんなんて「きゃ~♪」とか声上げてるし。
「う、うん、こちらこそよろしく」
なんとか引きつりながらもそれだけを笑顔で言えた。
「セイバー、私もいいでしょうか?」
しばらくそうして抱きしめられていたら、今度はライダーが言ってきた。
「いえ、貴方は桜のサーヴァント。 ご遠慮願いましょう」
「なっ!!」
セイバーはあたしを抱きしめる手に力を入れながら、あたしの後ろにいるライダーにきっぱりと断った。
ライダーの顔は見えないけど、セイバーの表情を見ると明らかに険悪な雰囲気になっている。
いかん、皆で協力してかなきゃいけないっていうのに、こんなアホなことで関係を壊してしまっては意味がない。
あたしもライダーみたいなプロポーションのいい美人に抱きしめられると緊張しちゃうだろうけど、ここは協力関係維持のためにも我慢だ。
「あたしなら大丈夫だから。
変わってあげて、セイバー」
「……シロがそういうのでしたら」
「はは……ありがとう」
あたしの言葉に不機嫌になったセイバーだったけど、意図を汲み取ってくれたのか不承不承同意してくれた。
そしてセイバーが離れると、ライダーは後ろからそっと抱き締めてきた。
他の皆と違って撫で回したりすることもなく、ただ抱きしめているだけなんだけど、頭の上に温かくって柔らかいものが乗っかっている。
うぅ~、思った以上の恥ずかしさだ。
でもなんだろう? 他の皆と違ってライダーの抱きしめ方は、なんというか切ない。
そんなことを思ってライダーの方を見てみると、目が潤んでいる。
涙!?
「……姉さま」
瞬間、場の空気が凍った。
あたしを含めた全員がライダーから一気に間合いをとるため飛び退いた。
特にあたしは両脇を凛と桜ちゃんが固め、前方をセイバーが完全武装で防御している。
「え? あ、あの、桜?
これは一体?」
「まさかライダーがそういう趣味の人だったとは思わなかったわ」
「あ、あのねライダー。 貴方の時代は知らないけど、今の世界ではあまりそういう趣味は大っぴらにするものじゃないっていうか……」
「ライダー、今後マスターに近付かないで頂こう!」
「え……とライダー。 気持ちは嬉しいんだけど、男に戻ってからならともかく今は君の気持ちに答えられないって言うか」
「ち、違います! そうじゃありません!!」
その後、ライダーの弁解はアーチャーがお茶を持ってくるまで続いたが、結局晴れることはなく逆にロリMの謗りを受けることになった。
というか、誰がロリだ!