「それで、貴様らはこの後どうするつもりだ?」
「別に。 放っといてもどうせ消える身ですからね、せいぜいそれまでの時間楽しませてもらうわよ」
『剣製少女/虚月庭宴 第一話 1-5』
※単発クロスオーバー。 Fate×ネギま! <最終回>
凛は自分の知的欲求が満たされたからか、この後の事には特に関心がないようだ。
まぁ、あたしとしてもこうしている自分が実際の自分とは関係ないとなれば、別に何かしなくてはという気にはならないかな? 正義の味方をやりたいって気持ちはあるけど、勝手のわからない世界で無茶やっても逆に迷惑かけちゃうかも知れないし。
「ならどうだ。 私の従者として契約してみんか?」
「興味ないわね。 アンタにこき使われる弱みも握られていないし、ここで殺されたとしてもそれは”殺される夢”を見たのと同じことなんだから」
そりゃそうだ。 この世界になんらかの思い入れがあるならともかく、肉体どころか本物の魂すら持ち合わせていないあたし達にとっては、この世界に留まる意義はない。
ましてエヴァちゃんに限らず、誰かの従者として仕えなくてはいけない理由なんて思いつきもしない。
「ふん、つまらんヤツだな。 そっちはどうだ? そんな師匠は辞めて、私に仕えんか?」
「ごめんね。 あたしも凛と同じで特にこの世界に留まるつもりってないから」
凛に振られたエヴァちゃんがあたしにも声をかけるけど、答えが一緒で拗ねたようにそっぽを向いてしまった。
「全くつまらんヤツらだ」
「それは違うわ。 わたし達が詰まらないんじゃなくって、わたし達の存在そのものが詰まらないのよ。
何しろ貴方達にとっては幻みたいなもので、わたし達にとっては夢みたいなものなんだから、そんなものに意味を見出そうとするほうが間違ってるのよ」
そっぽを向いたまま、目だけで凛を見ていたエヴァちゃんだったけど、凛の云ってる事には納得できたのか、面白くなさそうに視線を外した。
逆に、ここまであたし達に興味を持ったエヴァちゃんには、あたし達を従者にしたい理由とかがあったのかな?
そう思って聞いてみると、彼女の現状を知る事が出来た。
つまり彼女はあたし達から未知の”魔術”を知る事で、自身に掛けられた呪いを解けるかも知れないと期待していたらしい。
「あぁ、それじゃあたし達だと期待には応えられないかな?
もっと成長してからだったらなんとかなったかも知れないけど」
そういうとエヴァちゃんは相当食いついてきたんだけど、まだ宝具の投影ができないあたしにとって、例えCランクとはいえ”破戒すべき全ての符”は手に余ることを説明した。
それを聞いたエヴァちゃんは、一瞬期待した眼差しを向けていたが一転して落胆してしまう。
あぁ、なんか悪いことしちゃったかも。 でも、変に期待させても悪いし、事実をはっきり言っておいたほうがいいよね。
あれから一週間、あたし達はまだ麻帆良にいた。
凛の見立てでは最低三時間。 長くてもアーチャーの単独行動の三倍の六日で現界できなくなるだろうと考えていたのに、今だこの世界から消えてしまう兆候は現れていなかった。
仕方なくエヴァちゃんの家で家事をすることを条件に、厄介になっていたんだけどその間に凛は色々エヴァちゃんからこの世界のことを聞いている内にある結論に達した。
「詩露、ちょっと話があるんだけど」
「何?」
あたしはちょうどエヴァちゃんの家のお仕着せを着て掃除をしていたんだけど、凛のなんとも云えない複雑な表情を見て、話の内容がとても云い辛いことなんだろうことが想像付いてしまった。
……こういうときの勘ばっかり良くなっても、全然嬉しくはないんだけど。
「わたし達の現界って、放っておけばずっと可能みたい」
「は?」
「あのね、この世界の場合召喚さえしちゃえば現界には術者の魔力って必要ないみたいなのよ」
そういって凛は京都でこのかの力を利用して召喚された鬼の話をして、この世界の召喚について簡単に教えてくれた。
「じゃあ、あたし達は……」
「そ、ずっとこのまま。 それでどうするか? って話なんだけど」
「よければ私がお前たちの主人になってやってもいいぞ?」
「くっ、聞かれてたか」
さっき出かけた筈のエヴァちゃんが二階から現れた。 もしかしてこの話を盗み聞きするためだけに、そんな小細工をしたのだろうか。
「ふふ、どうする。 身寄りもなく、頼る当てのないお前達にとっては悪い話ではなかろう」
「まぁ確かにね。 この世界で生きていくっていうんだったら、この世界の”魔法”を知るのも何かの手助けになるし……詩露はどうする?」
エヴァちゃんの申し出に苦々しげに答えながらも、確かに何の伝手もないあたし達にはそう選択肢は多くないことを実感し、やり切れなさそうな凛。 これは借りを作ったとか思ってそうだなぁ。
まぁ、数少ない選択肢の中でも、魔法の知識を得られる可能性があって、尚且つ人の出入りが少ないこの家で生活できるのはかなり理想的な環境と言えるだろう。
だけど、
「あたしはエヴァちゃんの従者にはなれないよ。 だって……」
「正義の味方か? ふん、私は構わんぞ。 どちらかというと、凛より貴様のような破碇者の方が私の好みだし、貴様の能力がじき私の呪いを解き放つのに役立つかも知れんからな」
エヴァちゃんは自身を悪い魔法使いと云って憚らない。
そんな彼女にとって、あたしのような人間は嫌いな部類の人間かと思ってたんだけど、実は気に入られていたようだ。 ……まぁ、理由が彼女らしいけど、あたしって彼女が云うように、そんなに壊れてるかな?
「わかった、いいよ。 その代わり、エヴァちゃんが悪いことしようとしたらあたしは止めるよ?」
「勿論だ。 そのくらいの気概がないようでは弄りがいがないからな。 精々楽しませてもらおう」
あたしの宣言に髪をかき上げ凄惨な笑顔で応えるエヴァちゃん。 くぅ、あたしとエヴァちゃんじゃ格が違い過ぎる。 釘を刺したつもりが、猫のじゃれつき程度にしか思われてないよ、これは。
結局、話はあたし達二人がエヴァちゃんの従者になるということで決まった。
エヴァちゃんからは衣食住(本当は食は必要ないんだけど)と、魔法の指導にコネの紹介。
あたし達はエヴァちゃんのお世話と、魔術を教え、魔法が使えないエヴァちゃんの身辺警護を義務付けられた。 ただし、警護はあくまで自衛に限ったもので、こちらから何かを仕掛ける時には本人の意思を尊重するというものだった。
「では最後にパクティオーといこうか」
「なによそれ?」
「なに、従者の証といったところだ」
そう云いながら、リビングの床に魔法陣を描いていくエヴァちゃん。
「ほら、詩露。 こっちに来い」
「何する気?」
「だから契約だ。 とはいっても従者としてのお役立ちアイテムが出てくるだけだがな」
詳しく話を聞くと、魔法使いの従者は契約をすることでその従者特有のマジック・アイテム……礼装が手に入るらしい。
「どう思う?」
「恐らく従者の起源をエーテルで物質化してるんじゃないかしら。
それに魔術的効果があるっていうのはちょっと疑問だけど、わたしには礼装関係は専門外だからわからないわね。
キャスターがいれば何かわかったんだろうけど」
まぁこっちの魔法はあたし達の世界とは違う基盤も使っている所為で、全てを解明することは現状不可能なんだろうけど、凛のことだからその内なんらかの答えを出すか、突き止めてしまいそうだ。
「何時まで待たせるつもりだ?」
「あ、ごめん。 え……と、どうすればいいの?」
「目でも瞑っておけ。 すぐ済むしな」
そういったエヴァちゃんは何か企んでる笑顔を見せたけど、それが何かまではわからなかったあたしは、云われた通りに目を瞑った。
むちゅ
その瞬間、口に何かを押し当てられて中に何かを入れられる。 驚いて目を開くと、エヴァちゃんの顔が一杯に広がっていて……って、これは!!
「ん、んー、ん──っ!」
「ぷは、くくく、どうした?」
この子はぁー!! 何してくれやがりますか! いや、年上だけど。 って、そういうことじゃなくて!
「どうした? じゃなくって、何してんの!」
「契約だと言っただろう? パクティオーとはこういうものだ」
嘘だ。 絶対あたしをからかう為だけにやったんだ!
だって、すっごくいい笑顔になってるもん。 今まで見た中でこんなに生き生きしてるエヴァちゃんって初めてだよ。
「初めてだったか?」
「そういうことをわざわざ聞かない! というか、女の子がこういうことしちゃ駄目だって!」
結局あたしはエヴァちゃんに散々からかわれて遊ばれたのに、凛はキスを拒否した為別の方法でパクティオーをしていた。
…………やっぱり、からかう為だけにやったんじゃん。
<了>
『剣製少女/虚月庭宴
単発クロスオーバー。 Fate×ネギま! 後書』
というわけで、ネギま!クロスは終了です。 お読み頂きましてありがとうございました。
クロスものはそれほど数は読んでないんですが、お気に入りも幾つかあります。
ただ、感想を見てみるとストーリーに関係なく整合性を指摘されているものが結構あったりしていたので、自分なりにクロスの整合性をとってみよう! というわけで、書いてみました。
(自分で読むときは、気にしたことがないのでそういう指摘を見ても、「そう?」ぐらいにしか思わなかったんですが ^ ^;)
元ネタ(クロス先)をネギま!にしたのは、自分が読んでいるクロスSSで元ネタを知っているのがネギま!しかなかったので、これでしか書けませんでした。 ご了承ください ^ ^;
それから、剣製少女/虚月庭宴はまだ続きます。
引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。
最後にこの場をお借りして、サイトをお貸しいただいた舞さん、SSを書く上で参考にさせて頂いた、じょんのび亭の京さん、感想を頂けた皆さんとお読み頂いた皆さんに厚くお礼申し上げます。
ありがとうございました!