目覚めたあたしが聞かされたのは、特に目新しい発見はないということだった。
だったらさっさと起こせばいいものを、人が寝てるのをいい事にみんなして着せ替え人形にして遊んでいたらしい。
「うう、紐パンが気持ち悪い。 周りの人の視線が痛いよ……」
「そんなこと云うもんじゃないわよ、せっかく作ってくれたんだから」
あたしの愚痴に凛が気に留めた様子も見せずに、良識っぽいことを振りかざす。
結局あたしの服はおろか下着までキャスターに奪われて、彼女の手作りというこのフリフリのワンピースで家まで帰ることになってしまった。
『剣製少女/午睡休題 Epilogue』
「あっついわねー」
「あら、キャスターいらっしゃい。 今日って授業だったかしら?」
遠坂邸のリビングでアーチャー特製のアイスティーを堪能していると、黒のキャミ・ワンピを着たキャスターが現れた。
あれ以来、キャスターには遠坂邸での魔術講座を週に一回頼んでいる。
衛宮の家では一般人が出入りするし、せっかく桜を魔術から遠避けているのにキャスターが来て講座を開いていては、意味がなくなってしまうからだ。
「いえ、でも向こうに行ったら誰もいなかったから、こっちに来たのよ」
「それはわざわざ。 今日はみんなでプールで遊んでたのよ。 だから全員こっちにね」
暑さの所為か歩いたからか、疲れたような顔で答えるキャスターだったけど、サーヴァントなんだから実際に暑く感じてはいても、それで肉体が消耗するわけないのに。
「そ、そういう時は呼んでよ!」
「なに怒ってるのよ。 今日葛木さんが午後出勤だって聞いてたから遠慮したのに」
「お嬢ちゃん達の水着姿……無邪気に水と戯れる少女……足だけ水に浸けながら黄昏る姿……そういうもの全部を私は見逃したって事ね」
突然叫んだかと思ったら、犯罪者っぽいことを呟きながら項垂れだした。
なんか厄介なのに弟子入りしちゃったわねぇ。 そんなことで本気で落ち込まないで欲しい。
「まぁいいわ、今度は必ず呼びなさい。 ところで、お嬢ちゃん達は?」
「詩露とイリヤだったら昼寝してるわ。 はしゃいでたから疲れたんでしょ。 セイバーはその護衛。」
意外と早く立ち直ったキャスターが念を押してくる。
キャスターのお気に入りは詩露、イリヤ、セイバーでわたしと桜は対象外っぽい。 まぁ目をつけられても困るけど、どういう基準なのかはちょっと不明だ。 桜とは馬が合うみたいで時々雑談なんかしているみたいだけど。
「そ、じゃあちょっと行って来るわ」
「えぇ」
そう云ってキャスターはリビングを後にした。 ……結局なんの用事かは云わなかったわね。
シロの寝室でベットの脇に椅子を用意して護衛をしていると、キャスターが現れました。
この者はいかにも魔術師(メイガス)という思考、行動をするので、嫌でも私の苦手なアノ人を思い出させます。
「なんの用です、キャスター」
「お嬢ちゃん達の寝顔を見にね」
悪びれることなくそう告げるキャスターは、ノックはしたものの入室を許可する前に入ってきました。 ふっ、戯言を。 乙女の寝顔を盗み見るなど言語道断。 騎士として、従者(サーヴァント)として、そのような蛮行許すわけにはいきません。 さっさと退室願うとしましょう。
そう思って椅子から立ち上がりかけた時には既にベットの脇に佇むキャスター。
むぅ、これだけの為にわざわざ空間転移をしてみせますか、貴方は。 さすが魔術師、目的の為には手段は選ばないというわけですね。 いいでしょう、それなら私も……
「ちょっとセイバー、赤毛のお嬢ちゃん胸が見えちゃってるじゃない」
「はい、ですからじろじろ見ないように」
そう、シロは一緒に寝ているイリヤスフィールが服の襟を掴んでしまっている為に、襟口からその可憐な胸が見えてしまっている。
寝冷えをしないようタオルケットをお腹から腰にかけてはいるものの、さすがに上半身までは届かない為胸を隠すことはできていない。
「タオルかなにか、掛けてあげたほうがいいんじゃないの?」
「いえ、熱中症というものにならない為にもそのままのほうがいいそうです」
「そう……」
先程排除し、今はクローゼットに閉じ込めている蓑虫達から教わったことをそのまま告げる。
最初、単なる詭弁かとも思ったのですがなかなかに説得力があったので、彼女達の言っていたように敢えて何も掛けたりしていない。
それにしても意外でした。 この者も彼女達と同じように良からぬ目でシロ達を見ると思ったのですが……。 暑さでトチ狂いましたか?
「まぁ、これはこれで可愛いかも知れないわね」
なるほど、トチ狂ったのではなくそういう性癖でしたか。 では乙女の敵はとっとと御退場願おうかと思ったのですが、頬を染めはしたもののキャスターはそれ以上何かをするでもなく、私のほうにやってきました。
つ、次の獲物というわけですか、いいでしょう、受けて立つ……
「あぁ、これお嬢ちゃんへのお土産。 新しい服と下着だから、今度の授業の時に着るよう云っておいて」
「わかりました」
そういって紙袋を何処からともなく取り出し渡してくるキャスター。
キャスターは性根の捻じ曲がった陰湿な魔術師ですが、作る服に罪は無い。
先日も実に可憐で繊細な衣装をシロの為に作ってくれていましたね。 よい心掛けです。 これからもどんどん作ってきてください。 シロは泣いていましたが大丈夫。 従者として私が慰めておきますから。 いえいえ、お気になさらず。 役得というものです。
「お嬢ちゃんの様子はどう?」
「はい、最近とみに可愛くなっていっているような気がします。 貴方の言っていた”感染する魅了”が悪化しているのではないでしょうか?」
いえ、個人的にはどんどん悪化して欲しいものですが、それでシロが厄介ごとに巻き込まれてはいけないので従者としては断腸の思いで提言しなくては。
「そんなすぐ悪化するものじゃないわよ。
でもそうね、貴方はちょっと気をつけたほうがいいかも知れないわ。 ラインが繋がってしまっている分、対魔力とか関係なしで感染する可能性もあるから変だと思ったら云いなさい。 簡単な解毒薬作ってみるから」
「そうですか、わかりました。 その時はお願いします」
まぁ、私は既にシロに忠誠を誓った身。 感染していたとしても何も問題はないでしょう。 いえ、いっそ好都合というものです。 彼女の元を離れずに済む口実にもなりますしね。
<了>
『剣製少女/午睡休題 後書』
というわけで、剣製少女/午睡休題は終了です。 お読み頂きましてありがとうございました。
今回はなんとか目標の今年中の完結が達成できました。 本当はもう少し短く、できれば一月で終わらせたかったんですが、前回と違って一度の更新が少なかった分時間がかかってしまいました ^ ^;
次の話はまた少しお休みしてからになると思います。 お楽しみ頂ければ幸いです。
それでは前回同様、この話でやりたかったことを。
○アンリマユの呪い。
アンリマユによるTSだった場合絶対あるだろう呪いとして、”自分とは関係なく好意を持たれる”というのは外せないと思いました。
何しろ彼自身、人の汚名を被らされる事で英霊になったわけですから、これだけは絶対書かないと! と思ってました。
まぁ、それで実際詩露が悲惨な目に会う話は何十年、……もしかしたら何百年先の話なので書くつもりは無いんですが、それでも設定だけでも出しておかないと、辻褄があわなくなるかな? と。
ちなみに、カリスマA+のギルガメッシュで「人望ではなく魔力、呪い」といいつつ、セイバーには求婚を断られ、士郎には切り殺され、防波堤で子供に髪を引っ張られていたりしているので、実際には大した効果がないのかも知れません ^ ^;
○アーチャーが磨耗できたわけ。
実際これは本編をやってても納得できなかったので、自分なりの答えを出してみました。
拙作でも書きましたが、「死後英霊になれば”本物の正義の味方”になれるかも知れない」→「なれなかったから絶望した」は疑問だったんです。
でも”無”から解放されて絶望できるようになったと考えれば納得できたので、それをSSにしてみたいと思いました。
○凛が云ったことは実際どうすればいいのか?
「アンタみたいに捻くれたヤツにならないよう頑張るから。 きっと、アイツが自分を好きになれるように頑張るから……!」
とはいっても、実際どうすればいいの? というのがわかりませんでした。
何しろ士郎には”自分”がない上に、幸せが理解できていないのですから。
というわけで、それを理解した凛が出した結論として、なにか一つでも掛け替えの無いものを得られるように、思い出を一杯作るというものにしてみました。
もっとも、これが正解というわけではないんで、他の方法でもいいんでしょうがw
○セイバー感染してる?
してますw まぁ、表面上変化がわからない程度ですが。
というわけで、書きたい部分は書けたので、個人的には十分楽しめましたw
そして最後にこの場をお借りして、サイトをお貸しいただいた舞さん、SSを書く上で参考にさせて頂いた、じょんのび亭の京さん、感想を頂けた皆さんとお読み頂いた皆さんに厚くお礼申し上げます。
ありがとうございました!