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No.1095の一覧
[0] 剣製少女 【完結】[阿蘇6](2008/05/12 23:17)
[1] 『剣製少女 第一話 1-1』[阿蘇6](2007/12/14 18:17)
[2] 『剣製少女 第一話 1-2』[阿蘇6](2007/12/14 18:18)
[3] 『剣製少女 第一話 1-3』[阿蘇5](2007/12/14 18:18)
[4] 『剣製少女 第一話 1-4』[阿蘇6](2007/12/14 18:19)
[5] 『剣製少女 第二話 2-1』[阿蘇6](2007/12/14 18:19)
[6] 『剣製少女 第二話 2-2』[阿蘇6](2007/12/14 18:20)
[7] 『剣製少女 第二話 2-3』[阿蘇6](2007/12/14 18:20)
[8] 『剣製少女 第二話 2-4』[阿蘇6](2007/12/14 18:21)
[9] 『剣製少女 第二話 2-5』[阿蘇6](2007/12/14 18:21)
[10] 『剣製少女 第二話 2-6』[阿蘇6](2007/12/14 18:22)
[11] 『剣製少女 第三話 3-1』[阿蘇6](2007/12/14 18:22)
[12] 『剣製少女 第三話 3-2』[阿蘇6](2007/12/14 18:23)
[13] 『剣製少女 第三話 3-3』[阿蘇6](2007/12/14 18:23)
[14] 『剣製少女 第三話 3-4』[阿蘇6](2007/12/14 18:23)
[15] 『剣製少女 第三話 3-5』[阿蘇6](2007/12/14 18:23)
[16] 『剣製少女 第四話 4-1』[阿蘇6](2007/12/14 18:24)
[17] 『剣製少女 第四話 4-2』[阿蘇6](2007/12/14 18:24)
[18] 『剣製少女 第四話 4-3』[阿蘇6](2007/12/14 18:24)
[19] 『剣製少女 第四話 4-4』[阿蘇6](2007/12/14 18:25)
[20] 『剣製少女 第四話 4-5』[阿蘇6](2007/12/14 18:25)
[21] 『剣製少女 第五話 5-1』[阿蘇6](2007/12/14 18:26)
[22] 『剣製少女 第五話 5-2』[阿蘇6](2007/12/14 18:26)
[23] 『剣製少女 第五話 5-3』[阿蘇6](2007/12/14 18:26)
[24] 『剣製少女 第五話 5-4』[阿蘇6](2007/12/14 18:27)
[25] 『剣製少女 第五話 5-5』[阿蘇6](2007/12/14 18:27)
[26] 『剣製少女 第五話 5-6』[阿蘇6](2007/12/14 18:27)
[27] 『剣製少女 Epilogue』[阿蘇6](2007/12/14 18:28)
[28] 『剣製少女 Epilogue Ⅱ』[阿蘇6](2007/12/14 18:28)
[29] 『剣製少女 Epilogue Ⅲ』[阿蘇6](2007/12/14 18:29)
[30] 『剣製少女/午睡休題 第一話 1-1』[阿蘇6](2007/12/14 18:29)
[31] 『剣製少女/午睡休題 第一話 1-2』[阿蘇6](2007/12/14 18:30)
[32] 『剣製少女/午睡休題 第一話 1-3』[阿蘇6](2007/12/14 18:30)
[33] 『剣製少女/午睡休題 第一話 1-4』[阿蘇6](2007/12/14 18:31)
[34] 『剣製少女/午睡休題 第一話 1-5』[阿蘇6](2007/12/14 18:31)
[35] 『剣製少女/午睡休題 第二話 2-1』[阿蘇6](2007/12/14 18:31)
[36] 『剣製少女/午睡休題 第二話 2-2』[阿蘇6](2007/12/14 18:32)
[37] 『剣製少女/午睡休題 第二話 2-3』[阿蘇6](2007/12/14 18:32)
[38] 『剣製少女/午睡休題 第二話 2-4』[阿蘇6](2007/12/14 18:33)
[39] 『剣製少女/午睡休題 Epilogue』[阿蘇6](2007/12/14 18:33)
[40] 『剣製少女/虚月庭宴 第一話 1-1』[阿蘇6](2007/12/14 18:34)
[41] 『剣製少女/虚月庭宴 第一話 1-2』[阿蘇6](2007/12/17 21:39)
[42] 『剣製少女/虚月庭宴 第一話 1-3』[阿蘇6](2007/12/17 21:39)
[43] 『剣製少女/虚月庭宴 第一話 1-4』[阿蘇6](2007/12/17 21:40)
[44] 『剣製少女/虚月庭宴 第一話 1-5』[阿蘇6](2007/12/17 21:40)
[45] 『剣製少女/虚月庭宴 第二話 2-1』[阿蘇5](2007/12/22 21:02)
[46] 『剣製少女/虚月庭宴 第二話 2-2』[阿蘇6](2007/12/23 20:01)
[47] 『剣製少女/虚月庭宴 第二話 2-3』[阿蘇6](2008/01/05 17:49)
[48] 『剣製少女/固有結界 第一話 1-1』[阿蘇6](2008/01/05 17:48)
[49] 『剣製少女/固有結界 第一話 1-2』[阿蘇6](2008/01/05 17:47)
[50] 『剣製少女/固有結界 第一話 1-3』[阿蘇6](2008/01/10 17:08)
[51] 『剣製少女/固有結界 第一話 1-4』[阿蘇6](2008/01/16 14:54)
[52] 『剣製少女/固有結界 第一話 1-5』[阿蘇6](2008/01/23 17:05)
[53] 『剣製少女/固有結界 第一話 1-6』[阿蘇6](2008/02/05 22:08)
[54] 『剣製少女/固有結界 第二話 2-1』[阿蘇6](2008/02/05 22:09)
[55] 『剣製少女/固有結界 第二話 2-2』[阿蘇6](2008/02/21 01:42)
[56] 『剣製少女/固有結界 第二話 2-3』[阿蘇6](2008/02/21 01:43)
[57] 『剣製少女/固有結界 第二話 2-4』[阿蘇6](2008/02/26 19:52)
[58] 『剣製少女/固有結界 第二話 2-5』[阿蘇6](2008/03/04 11:59)
[59] 『剣製少女/固有結界 第二話 2-6』[阿蘇6](2008/04/24 14:58)
[60] 『剣製少女/固有結界 第二話 2-7』[阿蘇6](2008/03/18 16:25)
[61] 『剣製少女/固有結界 第三話 3-1』[阿蘇6](2008/03/25 12:25)
[62] 『剣製少女/固有結界 第三話 3-2』[阿蘇6](2008/03/31 13:26)
[63] 『剣製少女/固有結界 第三話 3-3』[阿蘇6](2008/04/08 17:21)
[64] 『剣製少女/固有結界 第三話 3-4』[阿蘇6](2008/04/12 21:53)
[65] 『剣製少女/固有結界 第四話 4-1』[阿蘇6](2008/04/17 10:30)
[66] 『剣製少女/固有結界 第四話 4-2』[阿蘇6](2008/04/24 07:25)
[67] 『剣製少女/固有結界 第四話 4-3』[阿蘇6](2008/04/30 08:10)
[68] 『剣製少女/固有結界 第四話 4-4』[阿蘇6](2008/05/06 15:30)
[69] 『剣製少女/固有結界 第四話 4-5』[阿蘇6](2008/05/12 23:17)
[70] 『剣製少女/固有結界 Epilogue』[阿蘇6](2008/05/12 23:18)
[71] 後書[阿蘇6](2008/05/12 23:18)
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[1095] 『剣製少女/午睡休題 第一話 1-1』
Name: 阿蘇6◆f970a791 ID:338eb9d5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/12/14 18:29
『剣製少女/午睡休題 第一話 1-1』


 あの聖杯戦争から二ヶ月。 期末試験も終わってもうすぐ夏休みという七月になっても、バゼットは遠坂邸に住んでいた。
 一度だけ一週間ほどいなくなっていたことはあったけど、それ以外は一日○万円という高額な滞在費を凛に払って、客間の一室に住み続けている。

「バゼット荷物届いてたよ」
「あぁ、持って来てくれたのですか、助かります」

 居間のソファーに座って小石と地図でダウンジングのようなことをしていたバゼットが、顔を上げてあたしを見上げる。
 彼女はいつもスーツを着ているが、片腕が無い今、一人でネクタイを結ぶのは上手くできない為、彼女に代わってあたしがネクタイを結ぶのが毎朝の習慣になっていた。
 一度、凛に「新婚さんみたいね」とからかわれたが、自分の姿を想像するとあながち否定できないのが悲しい。
 ……というか、自分で結ぶより先に人のネクタイ結ぶことに慣れるなんて、思ってもみなかったよ。

「結構重いんだけど何が入ってるの? ワイン?」

 荷物は細長い木箱に入っているようで、結構な重さと、しっかりした手応えがあるだけでなく、シックな包装紙からも結構値の張る物が入っていることが窺える。
 海外からの荷物のようで、バゼットの名前はかろうじて読めるものの、送り主や品物の欄があたしには読めないけれど、バゼットのことだからきっと有名なブランドのものなんだろう。

「すみませんが、取り出してもらえますか?」

 あたしが荷物を渡そうとすると、バゼットは首を振って左手を持ち上げ苦笑しながら頼んできた。
 確かに結構重いものだし、ワインだとしたら落として割ってしまうかも知れないから、あたしが開けたほうが安全か。
 そう思ってバゼットの横に座って荷物を開けると、

「いいけど、中身は何がうえああぁっ!」
「おっと」

 う、ううぅ腕っ! 腕が入ってる!
 血こそ出ていなかったものの、死体から捥ぎ取ってきたかと思うほどリアルな腕が、緩衝材に包まれて木箱の中に納まっていた。
 取り乱してしまったあたしが思わず箱を落としたところを、バゼットが残った腕で咄嗟に受け止める。 さすが、反射神経はいいな。 って、そういうことじゃなく!

「これは私の新しい腕です。 なのでもう少し丁寧に扱って欲しいのですが……」

 箱を膝の上に乗せ腕を取り出しながら苦情を言ってくるバゼット。
 とはいえ、箱の中から腕なんか出てきたら誰だって驚くって。 桜だったら、卒倒ものだぞ。

「せめて一言言っておいて欲しかった」
「何がですか?」

 あたしの苦情に何の事かわからないという顔でネクタイを緩め、シャツを脱ぎだすバゼット。

「って、何やってるの!」
「いえ、早速義手の具合を確かめようかと」

 慌てるあたしを無視してバゼットはシャツの前を開いて、左腕を袖から抜いている。

「自分の部屋でやりなよ」
「いえ、固定する為に包帯を巻いてもらう必要がありますし、ネクタイを締めなおす必要もありますから、ここで構いません」

 あたしは、バゼットの下着姿を見ないように慌てて顔を背けるが、バゼットはそんなあたしを気にした風も無く、腕を繋いでラインを接続していく。
 こうなると、下手に声を掛けて集中を妨げた時魔術が失敗するかも知れないので、あたしはタオルと救急箱を取りに行くことにした。


 居間に戻ると、義手の接続が終わったのかバゼットは調子を確かめるように、握ったり開いたり、伸ばしたり曲げたりしていたので、後ろから近付いてタオルを渡す。

「はい、タオル。 せめて胸は隠してよ」
「私は気にしませんが?」
「あたしが気にするの! 包帯巻いて欲しかったらちゃんと隠して」
「あぁ、シロさんは同性愛者でしたね。 これは失礼を」
「う、うん。 そう。 だから、ちゃんと隠してね」

 そういって渡されたタオルを肩から掛けて、端をパンツに入れるバゼット。
 バゼットにはあたしが元男ということは、秘密にしている。
 今は魔術協会を解雇され、フリーになっているとは言っても元は封印指定の執行者。 性転換した事が協会に漏れでもしたら封印指定を受ける可能性もある為、あたしは同性愛者だから女の人を意識してしまうということにしていた。

 タオルで胸を隠したバゼットの隣に座って腕を見ると、義手の接合部分にお札のような物が貼り付けられている。

「これは?」
「ラインが安定するまでの限定礼装です。 二、三日はこのまま貼り付けておく必要があるので、剥がれないように上から包帯で押さえてもらえますか?」
「ん、了解」

 包帯を巻いていると、バゼットが義手の説明をしてくれた。
 それによると、この義手は使い魔の一種でラインを通じて操作する仕組みらしい。
 ただし、本来の使い魔のように意識や思考はもっていないので独立した行動はできないし、どうしても実際の腕と比べ反応速度が少し遅れるとか。
 とはいえ、相当腕のいい人に頼んだ一品らしく、扱いに慣れれば日常生活を送る分にはなんの不都合もない程の僅かな誤差らしいけど、バゼットのような一流の戦士にとってはその僅かな誤差が命取りに成りかねないので、もっといい品がないか今でも探しているそうだ。

「もしかして、この前家にいなかったのって」
「えぇ、あの時人形師を尋ねて作ってもらってきたものです。
 本当はオーダーメイドが良かったのですが、それは時間がかかると言われたので、取りあえず既製品でもいいので質のいいものを用意してもらいました。 仕上げに時間がかかると言われていたのですが、思ったより早く届いてくれて助かりました。
 隻腕のままというのは、職業柄無防備すぎますので」

 そういえば、彼女が着ているスーツもオーダーメイドだったっけ。
 フリーになったといっても、武闘派なバゼットにとっては肉体は仕事道具なんだから、少しでもいい物が欲しいんだろうけど、時間を掛けて作るよりは多少質が落ちても早く無防備な状態を解消したかった為の選択だったんだろう。

「それで、探してるって言っても、何か当てでもあるの?」
「いえ、ただ協会時代、日本出身の人形師で封印指定を受けた人物がいるという話を聞いた覚えがあるので、彼女に連絡が付かないかと探しているのですが……」

 そう言って溜息をつくバゼット。

「でも、封印指定を受けて逃げてるんだったら、日本にはいないんじゃない?」
「えぇ、犯罪者も地元には近付かないと聞きますしその可能性は高いのでしょうが、日本は協会の手も伸びづらいと聞きますから案外隠れ住んでいるかと思って、色々手は尽くしているのですが全く痕跡がないのです」

 苛立ちを隠すことなく前屈みになって鋭い視線で前方を睨むバゼット。
 別に視線の先に何かあるわけじゃないんだけど、その虚空を睨む視線は早く出てこなければ叩き潰すぞ、と凄んでいるかのようだ。 ……消息の掴めない相手をどうやって叩くのかはわからないけど。
 そんなことより、その格好で前屈みにならないで欲しい。
 折角タオルで隠しているって言うのに、脇から胸が見えてるってば。
 遂ちらちらと胸にいってしまう視線をなんとか引き剥がそうとするんだけど、どうしても視線が胸にいってしまう。
 それにしても、大きいなぁ。 ブラも大人っぽくって色っぽいし、……って、駄目だ、駄目だ。 こんな事じゃアーチャーになってしまう。 あたしは色情魔になんかならないぞ!

「シロさん」
「は、はい!」
「そんなに分厚く巻く必要はありません」
「あ……」

 気が付くと、バゼットの胸に見とれていた所為か、巻いていた包帯が携帯ぐらいの厚さまで巻かれていた。
 慌てて包帯を巻き戻していくが、失敗したことの恥ずかしさと盗み見してたことの疚しさから、自分でも顔が真っ赤になっているのがわかる。
 怒ってるかな? と恐る恐るバゼットの顔を盗み見ると、なんでか微笑ましそうにこっちを見ていた。
 その様子から怒ってはいないようだけど、あたしが何で失敗したのかお見通しなようで、さっきよりも恥ずかしくなって更に顔が熱くなっていくのがわかる。

「あ、もしかして、さっきやってたダウンジングみたいなのって、その人形師を探してたとか?」
「えぇ、ルーンと併用したダウンジングだったのですが、日本にいる”らしい”としかわかりませんでした。
 元々私は実戦部隊の出身なので、事前の情報収集や事後の処理は専門の機関任せでしたので、苦手なんですよね」

 あたしが気まずさを誤魔化すつもりで振った話題に律儀に答えるバゼット。
 溜息をつきながら力なく答える姿からは、本当に情報が手に入らず困り果てている様子が窺える。
 それにしてもルーンでダウンジングか。 確かランサーもルーンを使ってイリヤの探し物をやってるって言ってたけど、ルーン魔術って以外に汎用性が高いんだな。 ……まぁ、ランサーの探し物って美味しいお店だの、レジャー施設だのと、なんだか間違った使い方のような気もするけど。

「早く見つかるといいね」
「えぇ、ただ彼女もルーン魔術師らしいので、私の魔術で探し出せるかどうか」

 うーん……と唸りながら考え込むように俯くバゼット。
 そっか。 その人形師もルーン魔術師ってことは、ルーンの探索じゃ手の内がわかってる分、妨害の仕方も心得ているって事か。

「なら協会時代の知り合いに頼んでみたら?」
「それは難しいですね。 なんでも彼女は協会時代、気に入らない魔術師を自身の使い魔を使って悉く葬ってきたらしいので、その危険を冒してまで協力を取り付けるには相当の見返りを用意しないと」

 なんというか、話だけ聞いてると相当危ない人のような……。 いや、それが普通の魔術師の在り方なのかな?
 身近にいる魔術師が揃って普通っぽかったから忘れてたけど。

「はい終わり」
「助かりました。 チップを……と思ったのですが、今回は別の報酬を受け取っているようですからいりませんか?」

 あたしが包帯を切ってテープで止めた後、ちらっと見て確認したバゼットは悪戯っぽく笑ってタオル越しに自分の胸を指差す。
 うぅ、やっぱりバレてた。 怒られてるわけじゃないんだろうけど、申し訳なさで一杯になってくる。

「ご、ごめん。 あの……」
「ふふ、冗談です。 さ、取って置いてください」
「……ありがとう」

 そういって、あたしのエプロンの胸ポケットに千円札を入れるバゼット。
 彼女の世話をするようになって、一番驚いたのはこのチップだ。
 日本では余り一般的な風習ではないけれど、世界を飛び回るバゼットにとっては当たり前のことらしく、最初受け取る、受け取らないで一悶着あったけど、今は素直に受け取ることにしている。
 彼女にしてみると、あたしのお世話にも料金を払わないと等価交換が成り立たないのが気持ち悪いらしい。 ……怪我人なんだから、気にすることないのに。

 それにしても、バゼットが冗談を言うようになるなんて、思ってもみなかった。
 彼女は元々人生に於いて”楽しむ”ということが理解できないんじゃないかと思うほど、徹底した合理主義者だったのだけど、ここ二ヶ月、身の周りの世話をしている内にこうして冗談も言うようになってきた。
 ただ、彼女の場合打ち解けてきたからというわけではなく、その方があたしとの関係が円滑に行くからという合理性を重視した結果という可能性もあるけど。
 あたしも似たようなところがあるから、彼女の考え方もなんとなくわかるんだけど、もう少し余裕を持ってもいいと思う。 特に食事とか。

「三角巾をもらえますか?」
「あ、うん、はい」

 包帯を巻き終わったバゼットが、服を着直しているのを見ないように包帯をしまったり、意味も無く救急箱の中を弄っていると、声がかけられた。
 横目でちらっと服をちゃんと着ているのを確認してから、三角巾を結んで首に掛けてあげ、ついでに緩めてあったネクタイを締めなおすと、バゼットがいい子いい子というようにあたしの頭を撫でてくる。

「なんでえ、相変わらず仲良いな、二人とも」
「ラ、ランサー! 居たのですか!?」
「あたたたたた! パ、バゼット! 痛い! 痛いってば!!」

 突然のランサーの出現に驚いてあたしの頭を鷲掴みにするバゼット。
 彼女の場合、”人間凶器”と称されるように何気ない動作の一つ一つが普通の人間にとって必殺になったりする為気が抜けない。
 現に今も、あたしの頭蓋骨がギシギシと嫌な音を立てながら、刻一刻と破裂への階段を二段飛ばしで駆け上がっている。

「あ、あぁ、申し訳ありません。 私としたことが……」

 頭を手で払ったり、息をふーふーと掛けたり、撫でたりしながら謝るバゼット。
 いや、離してくれれば別にいいんだけど、最初の二つは何がしたかったのかちょっと疑問だ。
 そんなあたし達をランサーがニヤニヤと笑いながら楽しそうに見ている。 まぁ、下手なコントより面白い見世物だったかも知れないけれど、こっちは本気で頭を割られるかと思うほど痛かったのだから笑うのは失礼だと思う。

「全く、覗き見とは趣味の悪い……」
「別に覗きじゃねーよ。 煙草買いに行こうとしたら、お前らが居ただけだっつーの」

 咳払いをしながら誤魔化そうとしているバゼットに、呆れながら答えるランサー。
 ランサーはイリヤのサーヴァントになってから、普段着としてスーツを着るようになっていた。 彼のスーツもバゼット同様オーダーメイドで、濃紺のものを好んで着ている。
 シャツはワイン・レッドに黒のストライプ、ネクタイは彼の愛槍を思わせる真紅で、パッと見、後ろで縛った髪の所為もあってマフィアのようだけど、体格のいいランサーにスーツは結構似合っていた。
 イリヤに言わせると、「従者がみっともない格好していると、主人が恥をかく」ってことで、ランサーはいつもいい服を与えられているだけでなく、カフスやタイピン、ライターやシガーケースは一品物の補助礼装だったりするらしい。
 あたしは、ランサーはもっとラフな格好の方が好きなのかと思っていたら、意外におしゃれだったらしく、本人も満更ではないそうだ。
 まぁ、彼は何だかんだ言って王子様だったんだから、生前もこういったきちんとした格好をする機会も結構あったのかも知れない。

「では、さっさとお行きなさい」
「へいへい。 おっとチビ助、嬢ちゃんが呼んでたぜ」
「ん、ありがとう。 それから、チビ助じゃないって」
「はは、じゃ行ってくらぁ」
「いってらっしゃい」

 バゼットの邪険な態度に何処吹く風で受け流すランサー。
 ランサーはあたしを”チビ助”、凛を”嬢ちゃん”と呼んでいる。 その度にあたしは否定してるんだけど、一向に呼び方を改める気はないらしい。
 まぁ、この愛称は悪気があるというより彼なりの愛情表現だと思っているので、きつく言うつもりはないんだけど、もう少しマシなものは思いつかなかったのかと、思わなくもない。 結構気にしてるんだけどな、背が低いの。


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