「ちょ、ちょっとイリヤ! 自分でできるってば!」
「いいから、いいから♪」
「ダ、ダメだって! ひ、ひぇっ! なんで抱きつくの!?」
「だから脱がしてあげてるんだって」
「嘘だ~!」
「ふふふ、シロのお肌ってすべすべね♪」
「うひゃっ! 何処に顔くっつけてるの!」
「あら、言って欲しいの? マニアックね」
「違~うっ!」
『剣製少女 第三話 3-3』
「はぁ~、……イリヤは服を脱がするのが趣味なの?」
「なにバカなこといってるの。 そんなわけないでしょ?」
あの、あたしにとっての地獄絵図の後、あたしとイリヤは一緒にお風呂に入っている。
どうもイリヤが記憶の中の藤ねえに対抗心を燃やしてしまったようで、
「あたしだってシロのお姉ちゃんなんだから、一緒にお風呂入るのー!」
と、両手を振り上げて威嚇されてしまった。
まぁ、イリヤの体系っだったらあたしとそう変わらないし、凛やセイバー、ライダーと比べれば恥ずかしくもないからいいか? と安易に考えたんだけど、お風呂に入ろうとしたときにイリヤの手によって脱がされてしまった。
「じゃあなんであたしの服を脱がしたがるの?」
「だって、さっきの服はレディーに相応しくなかったし、妹の世話をお姉ちゃんがするのは当たり前でしょ?
そんなことよりほら、頭洗ってあげるからこっちいらっしゃい♪」
そういって、あたしの腕を掴んで抱き寄せるイリヤ。
そっか、イリヤはお姉さん振りたいのか。
だからやたらとあたしに構いたがってるのかな?
イリヤは、あたしの頭を後ろから抱き寄せるようにしてわしわしと洗ってるが、正直手つきは覚束ない。
貴族のお姫様って聞いてたから、もしかしたら自分の髪も洗ったことがないのかもしれないけど、すごく丁寧に洗ってくれてることはわかった。
妹ができたことが、そんなに嬉しいのかな?
「どう?」
「うん、気持ち良いよ」
「じゃあ……ここは?」
「そこは胸っ!」
あたしが目を瞑ってるのをいいことに、微妙なところを触って悪戯してくるイリヤ。
いや、妹ができたことが嬉しいっていうより、このお姉ちゃんは虎のお姉ちゃんと違って、単にエッチなだけだ。 絶対そうだ。
当然あたしは体を縮みこませてイリヤの手から体を守るけど、それが楽しいのかムキになっているのか、また触ろうとしてくるし!
「もう~、あんま悪戯ばっかりするんだったら、これからは一緒に入らないよ!?」
「悪戯じゃないわ、愛情表現よ!」
……だから、そんな愛情いりません。
「シロは体触られるのイヤ?」
「うん、やっぱり胸は嫌でも自分の体のこと意識させられちゃうから、恥ずかしいかな?」
「そっか。 でも今は女の子なんだから、慣れないと辛くない?」
いやいや、触られることに慣れたくなんかないから!
「女の子の体に慣れないとってことなら、これがそうでもないんだよね。
最初はやっぱり戸惑ったけど、今は別に辛いとかはないし。
性転換したのが二次成長前だったから、それほど困らなかったんじゃないかって藤ねえはいってたけどね」
今でも胸は大きくないけど、これが二次成長後で、凛やセイバー、ライダーみたいに胸があったら、彼女たちに感じてるような戸惑いを、自身の体に感じてしまい慣れるどころじゃなかっただろうけど。
「ふ~ん……」
「イリヤ?」
「じゃ、胸じゃなくってここは?」
「ひゃっ! ダ、ダメダメッ!
なんてトコ触ろうと……みぎゃーっ!!」
胸が駄目ならとばかりに、イリヤの手がお腹から下の方へと伸びてきた。
さすがに其処は勘弁して欲しかったので、慌てて手を押さえて逃げようとしたら、目にシャンプーが入ってとんでもなく痛かった。
神よ……、貴方はあたしのことがそんなに嫌いですか?
「もう、そんなに怒らないの。
ね、シ~ロ♪」
「うぅ~……、もう、イリヤとは絶対お風呂に入らない……」
お風呂を上がって、あたしの部屋で髪を乾かしてたらイリヤが抱きついてきた。
でも、もうそんなんじゃ誤魔化されない。 恥ずかしいやら目が痛いやら散々だったんだから。
それと、イリヤは寝巻きに着替えているけど当然寝巻きなんて持ってきていなかったので、あたしのを貸そうと思ったら、
「ズボンなんかイヤ。
こっちでいいわ」
といって、凛があたしに着せて喜んでいるフリル服のシャツを着ている。
そうそう、結局お風呂はあの後、自分の体は自分で洗ったもののイリヤの髪と体はあたしが洗わされた。
あたしは洗われる事はあっても洗うことはなかったので、ちょっと緊張したけどなかなか好評で、
「またお願いね♪」
と言われたが、丁重にお断りした。
だって、お風呂のたびに貞操の危機にならなきゃいけないなんて、冗談じゃないし・・・。
「はい、イリヤ。 髪乾かすからこっち来て」
「ありがとう♪」
あたしは自分の髪を乾かし終えたので、イリヤをベットのほうへ連れてきて、タオルに包まれた髪を拭き始める。
しばらくの間、タオルで水分を取ったりドライヤーで乾かしたりしていたので二人とも無言だったんだけど、ブラシを入れ始めたらイリヤの体がゆらゆらと揺れているのに気が付いた。
後ろからそっとイリヤの顔を覗いてみたら、まどろんでいるみたいで目が殆ど開いていなかった。
「イリヤ?」
「…………」
可哀想だけど、このままだと風邪を引くと思って声をかけたが、聞こえていないのか全然反応がない。
試しに肩に手を掛けると、そのままあたしの胸に倒れこんでしまった。
(……なんか、いいかも)
これじゃ桜ちゃんのこと、どうこう言えないなぁ~、なんて思いながら腕の中のイリヤの体を抱きしめていると、イリヤは姿勢が苦しかったのか寝返りを打ちながら抱きついてきた。
しばらく髪を撫でてあげていると、次第に寝息が規則正しくなってきた。
どうせ今日は一緒に寝る約束をしてたんだし、このまま寝てしまおうと肉体強化をしてイリヤを抱え上げ、ベットに寝かしつけてあげた。
(ん~……、誰かの抱き枕になったことはあっても、誰かを抱き枕にするのって、もしかして初めてかも。
結構いいもんだな~……)
なんて考えながらイリヤの体温を感じていると、あたしもいつの間にか眠りに落ちていた。
目が覚めると、目の前に朝日を浴びて金色に光るイリヤの髪があったので、取り合えず撫でてみた。
(うわ~……艶々)
「ぅん……?」
「あ、ごめん。 起こしちゃった?」
「……シロ?」
「おはようイリヤ」
「うん、おはよう、シロ♪」
ちゅっ♪
(…………)
「◎☆△◇※■───っ!!」
「ど……どうしたの?」
ど、どう……、どうしたのってキスしたじゃん!
……って、言いたいのに口はパクパク動くだけで全然声が出ない。
頬に……頬に温かくて、ちょっとしっとりしたものが、ピトッって!
な、なんで~!?
「ほらほら、シロもして♪」
そういって、頬を差し出してくるイリヤ。
いやいやいや、してって何を? 何で? 誰が~?
「してくれないの?」
「う……」
そういってあたしを見る目はものすごく悲しげで、なんかこっちが悪いことしてるみたいなんだけど、キスって・・・キスなんだよ?
「おはようの挨拶だよ? シロはわたしのこと嫌いなの?」
「う……違うけどキスって……」
「なんだ恥ずかしいの?
ふふふ、シロったら可愛い♪」
ぼひゅっ!
自分より幼い顔立ちのイリヤに子ども扱いされたからか、その年不相応の怪しい笑顔に照れてしまったのか一気に顔が熱くなる。
「ほらほら、こうするんだよ♪」
「ひ、ひぇ、ちょ、ちょっと~!」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅっ♪
あたしが戸惑っている間に首に抱きついてきたイリヤが、頬といわず目といわず顔中にキスし始めた。
あたしはもう、目も開けていられず体を強張らせながら嵐が去るのを待つようにジッといたら、しばらくして顔に当たる感触がなくなった。
恐る恐る目を開けてみると、イリヤがすごく穏やかに微笑んでいた。
「お、終わり?」
「もっとして欲しいの?」
昨日に引き続き、またも、にやぁ~といやらしく笑うイリヤ。
あたしは ぶんぶん! と首が取れるんじゃないかという勢いで振る。
「じゃあ今度はシロからキスして♪」
そういって再び頬を差し出してくるイリヤ。
うぅ~……、そんなこといっても……。 これはキスしないと終わらないんだろうなぁ~。
まぁ、頬にだったらいいかな? 外国では挨拶みたいなもんだし。 イリヤだったら……いいのかな?
すぅ~……。 はぁ~……。
「な、なんで深呼吸?」
「だ、だって……」
したことないんだから緊張するって。
「じゃ、いくよ?」
「いいけど、キスだよね?」
「え? ……うん」
「……じゃ、じゃあ、どうぞ」
そういってイリヤもあたしの緊張が移ったのか、やや緊張気味に頬を差し出す。
あたしはそぉ~っと近付いていって……、
ちゅっ♪
「ん────っ!!」
「あはは、シロったら引っかかったぁ~♪」
そういったイリヤは嬉しそうに抱きついてきたけど、あたしはそれどころじゃなかった。
キスする瞬間、イリヤがこっちに振り向いて顔を押し付けてきたのだ。
……いや、誤魔化すのはよそう。
口にキスされちゃったよ~!!
「な、なにしてんのイリヤ!」
「なにってキスでしょ?」
「だ、だって口に……」
「うん♪ だってシロったら顔真っ赤にして可愛かったからつい」
ついじゃねぇ──っ!
……ま、まぁ気にすることはないよね、姉妹なんだし。
うん、そうだ、そうだ。 きっとそうだ! あはは……。
「シロは初めて?」
「うっ……」
「んふふ、そうなんだ。 やった~♪」
き、気にしない。 ……気にしないんだ!
朝から大騒ぎしたものの、お陰で目は覚めた。 ……その代わり普段以上に疲れたけど。
着替えのときも
「なんでそんな下働きの格好してるのよ!」
「何でも何も、凛の弟子として下働きしてるから?」
「……つまり、凛のせいってことね。 いいわ、あとできっちり話をつけてあげるんだから」
なんでかイリヤはあたしの格好がお気に召さなかったようで、目から殺気を迸らせている。
あたしはとばっちりが来ないように、とっとと朝食を作るためキッチンへと逃げた。
(あぁ~、なんか久々に朝食作れたかも)
そんな小さな幸せに浸っていたが時刻は既に昼になっていて、あたしはともかく凛は二日連続のお休みとなったわけだけど、今日で聖杯戦争を終わらせられることを考えれば無理に登校するよりは休んで鋭気を養おうというこということになった。
「おはよう。 みんなもう起きてる?」
「あぁ、配膳は手伝おう」
「アンタ腕は?」
「問題ない」
そういって屋根の上で見張りをしていたであろうアーチャーが現れたところで聞いてみたが、アーチャーは腕を見せながら無愛想に答えた。
本当に笑わない奴だなぁ~。
そして、食事がある程度進んだところで、
「わたしね、本当はシロを殺すつもりだったのよ」
「「……え?」」
「ごふっ!」
と、いきなりイリヤが爆弾発言をしてきた。
凛とセイバーは驚き、桜ちゃんは驚きすぎて絶句して、あたしはむせ返っていた。
当たり前だ、昨日人のこと散々玩具にしておいて朝食まで作ってあげたのに、いきなり殺害予告をされるなんて思ってもみなかった。
確かにあの数々のセクハラは十分な恥死量があったけど。 (誤字じゃない)
世の中侮れないな~。 ……いや、こんなことが普通として通じる世の中なんて嫌過ぎるけど。
「もう、シロったら食いしん坊さんね。
慌てないでゆっくり食べなさい」
そういって、あたしの口の周りをナプキンで拭ってくれるイリヤ。
でも、あたしがむせたのは食いしん坊だからじゃなくって、アナタの所為ですから。
「それでね、なんでシロを殺そうかと思ったかというと、お爺様はキリツグが孤児を引き取って魔術師としてではなくって、普通の家庭を楽しんでいるって聞いてたのよ。
わたしとお母様を捨ててね。
なのに実際は、シロのこと放ったらかしにしてて酷いのよ!
だからね、わたしがキリツグの代わりにシロがちゃんとしたレディーになれるようしっかり教育してあげなきゃいけないと思うのよ。 ね♪」
そういって、はにかみながら笑いかけるイリヤは本当に可愛いんだけど、ね♪ じゃないって。
昨日のことを考えても、イリヤに教育されるってことは何されるかわかったものじゃない。
ここははっきりと、でも丁重にお断りを……。
「結構よ。 詩露の教育はわたしがちゃんとするから、イリヤの手を煩わせるまでもないわ」
「ふ、そういうと思ったわ。 シロの服といい、食事が終わったらきっちりと話をつける必要があるみたいね、リン」
「ええ、望むところよ」
……なんで二人ともそんなに朝からテンション高いんですか?
と、いうか、この二人が本気でやりあったら大聖杯の前に遠坂邸が崩壊しちゃうんじゃないかな?
やっぱり玉砕覚悟でここはあたしが止めないと駄目か。
「あの……二人とも」
「「何っ!?」」
「……いえ、なんでもありません」
「ふっ、賢い選択だ」
アーチャー、格好よく決めたつもりかも知れないけど、言ってることはもの凄く情けないよ。
……あたしも人のこと言えた義理じゃないけど。
食後、わたしの部屋にイリヤを案内したときには既にわたしは臨戦態勢になっていたのだけど、対するイリヤはさっきまでの気迫はどこへやら、心ここに在らずといった風だった。
啖呵を切ったのはいいけれど、土壇場になって怖気づいたのかしら?
ふっ、アインツベルン恐るるに足らず!
しかし、いざ口を開いたイリヤはとんでもないことを聞いてきた。
「ねぇリン。 シロって本当に人間?」
「へ?」
「実は死徒ってことはない?」
「は? 何言ってるの、そんなわけないでしょ?」
「そう……だよね」
「……なんでそんなこと思ったのよ?」
いきなり何言い出してんの? とは思ったけどイリヤだって魔術師だ。 根拠もなくそんなこと言い出すとは思えない。
詩露の特異性からなにか気付いたのかしら?
「あのね、シロって魂まで女の子になってたの。
でも、魂って言うのは永劫不滅。
書き換え不可能な情報な筈なのよ。
でも、死徒の中に”転生無限者”っていわれている奴がいてね、こいつは自身の魂を書き換え可能な情報にして他人の肉体に乗り移ることを可能にした唯一の存在っていわれているの」
「つまり、詩露がそいつじゃないかってこと?
でも、なんでアンタがそんなこと知ってるのよ?」
「シロがそいつだとは思ってないわ。
だって、その”転生無限者”は人格は持ってなくて、ただの知識の塊と願望のみを寄り代に植えつけるだけで、自我を持った相手の魂を書き換えたり、肉体を変えたりできるわけじゃないもの。
それから、なんであたしが知っているかっていうと、アインツベルンが第三魔法……”魂の物質化”を目指す一族だから、そういったことに他より詳しいのよ」