<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

TYPE-MOONSS投稿掲示板


[広告]


No.1071の一覧
[0] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier”[G3104@the rookie writer](2007/05/14 02:57)
[1] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.2[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:23)
[2] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.3[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:24)
[3] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.4[G3104@the rookie writer](2008/06/02 22:03)
[4] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.5[G3104@the rookie writer](2008/06/02 22:10)
[5] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.6[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:32)
[6] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.7[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:33)
[7] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.8[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:34)
[8] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.9[G3104@the rookie writer](2007/03/30 00:27)
[9] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.10[G3104@the rookie writer](2007/03/05 00:36)
[10] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.11[G3104@the rookie writer](2007/03/31 05:11)
[11] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.12[G3104@the rookie writer](2007/04/19 23:34)
[12] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.13[G3104@the rookie writer](2007/05/14 00:04)
[13] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.14[G3104@the rookie writer](2007/06/07 23:12)
[14] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.15[G3104@the rookie writer](2007/09/28 08:33)
[15] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.16[G3104@the rookie writer](2011/07/19 01:23)
[16] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.17[G3104@the rookie writer](2008/01/24 06:41)
[17] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.18[G3104@the rookie writer](2008/01/27 01:57)
[18] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.19[G3104@the rookie writer](2008/08/15 20:05)
[19] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.20[G3104@the rookie writer](2008/08/15 20:04)
[20] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.21[G3104@the rookie writer](2008/08/16 04:23)
[21] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.22[G3104@the rookie writer](2008/08/23 13:35)
[22] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.23[G3104@the rookie writer](2008/08/19 14:59)
[23] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.24[G3104@the rookie writer](2011/06/10 04:48)
[24] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.25[G3104@the rookie writer](2011/07/19 02:19)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[1071] Fate/Liberating Night her codename is “Soldier” vol.7
Name: G3104@the rookie writer 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/03/05 00:33
 懐かしい家の玄関から敷居を跨いで廊下に上がる。
 目に映る年季が入ったはずの内装の真新しさに、生前最後に訪れた時は今より少し老朽化が進んでいた事を思い出していた。
 家主に遠慮も無く、ずかずかと侵入した凛はすでに居間の方だろう。
 私は時折ちらっと此方を警戒するように様子を窺う彼女――セイバーの後ろに付いて歩いていた。

「ぁ……っ――」

 廊下の中ほどで一度だけ私の方に首を向け、一瞬何か言おうとしたのか、口を開きかけたが……すぐに口を噤んでしまう。きっと私の正体を探りたくて、何かを述べるか問うかしたかったのだろうが、その目的が何だったのか知る術は私には無い。

「……? どうかしましたかセイバー?」
「いえ、質問は後で。きちんと全員そろった時に聞きます」

 何事か聞く私にとりあえずは保留すると返す彼女。そこで一つ思い当たった。
 そういえば彼らには、私のクラスが何かさえ判らないのだ。私の事をどう呼べば良い物か思案に暮れたのかもしれない。
 しかし移動中の今問うような尚早な真似はしないという意思表示なのだろう。妙に律儀な所もやはり同じ、それが余りに私らしくてつい苦笑が漏れそうになる。
 マスター達の気配がする居間の方へと二人、特に話す事も無くただ沈黙と、足音だけを廊下に残して居間に着く。
 居間の中からは凛の呪文を口にする声が聞こえてきた。

「――Minuten vor Schwei&szlig;en」

 呪文の後に士郎と凛の会話が微かに聞こえてくる……おっと、いけない。早くも口論に発展しそうだ、急ぎ合流した方がいい。
 襖を開け居間に入った時、既に二人はランサーから彼が逃げのびた際に割られたガラスを修復した凛と、修復の魔術など知りもしない半人前の衛宮士郎が初歩の魔術云々の話で口論を始めていた所だった。
 いや、あれは口論というよりも、初歩も知らない彼に対しての彼女の一方的な説教に近かったでしょうか。

「凛、お待たせしました」

 私の声で我に返り口論を止めた凛に今必要な事をしましょうと視線で促す。

「ん、そろったわね」

 居間にはこの戦争に参加している者達、つまり私とマスターの凛。そしてこの家の主にして最後のマスターとなった少年と、彼が呼び出した剣の英霊セイバーの四人が思い思いに視線を巡らしている。
 私達が合流した事で私とセイバーとの間に張りつめていた緊張感が移ってしまったのか、四人の間にまで妙な緊張感が漂ってしまう。
 そんな空気に耐えられなくなったか、気持ちを切り替えようとして凛が口火を切って席に着く。

「それじゃあ立ち話もなんだし、座りましょうか」
「あっと、それじゃお茶でも用意するから三人とも適当に座っててくれ」

 慌てて士郎がお茶を出すと言い出し台所に向かおうと足を進めだす。
 ふう、相変わらず不器用なまでの律儀さ。違う時間の流れの中でもはやり士郎はシロウらしい。
 今から話そうとしている内容は彼にとっての事だというのに、彼には家主としての礼節を欠く事が赦せない。話よりも家主の務めのほうが重要だと感じているのだろう。
 内心少し呆れながら凛の顔を覗くと、どうやら彼女も同じ意見らしく私に目配せをしてくる。全く、私は説明補佐役ですか。

「士郎君、お構いなく。今は貴方にする話のほうが重要ですからどうぞ座ってください」

 凛からの無言の命令を受け、士郎を止めるように口を開く。が、やはり彼は困ったように眉を寄せながら反論してくる。

「そうは言っても、ここは俺の家だし君達はお客人だ。最低限の御持て成しぐらいはさせてくれないか」

 仕方がない、なら少しでも早く終わるように手伝わせてもらおうと台所に向かう。

「では早く済ませられるように私もお手伝い致します」

 上着を脱ぎ軽く畳みながら台所に入ろうとするところで彼が慌てて止めにくる。

「って、ちょっと待った。き、君もその、お客さんなんだから座っててくれないと。家主がお客にお茶の用意なんかさせる訳にいかないだろ?」

 私の顔を見るなり慌てて台所から顔を出し、手伝おうとする私を止める。心なしか顔が照れたように赤く挙動も落ち着かない。

「ですが……」
「いいからっほら座った座った」

 彼のいうことも一理あるが、今はそんな暢気なことを気にしている場合でもない。私も引き下がる訳にもいかず、尚言い募るが彼に先手を打たれる。
 私の腕を取るとその場でくるりと今来た方向に方向転換させられ、背中を押し戻された。

 「あ、ちょっと、それはそうですけど……!」

 半ば強引に居間の座卓の前まで押し戻されて、振り返るとあっという間に彼は台所に引き返してしまっていた。

「…………凛」

 傍まで戻って来てしまった凛と目が合い、如何しましょうかと肩を竦めながら暗に聞いてみる。

「ふう、仕方ないわね。それじゃひとまずお客として持て成されましょう。ほら、貴女も座りなさい」
「はぁ、仕方ありませんね、了解」

 くすっと思わず失笑が漏れる。私達は二人して、このどこまでも“お人好し”な少年の頑固さがあまりに微笑ましくてつい笑みを堪えなかった。
 そんな私達を一人冷ややかに見つめる碧の双眸。向かい合わせに座ったまま、セイバーは終始無言で私達の他愛無いやりとりを監視していた。




第七話「参加者達の会合、未熟者は現状を知る」




*************************************************

 年季の入った古木で誂えた座卓の上にあるお茶とお茶請けを前に俺達は対峙していた。
 いや、正直に言えば座卓を挟んで頭数は二対二なのだが俺以外は全員女性、それもとんでもない美人ばかり。
 健全な青少年としてはこの状況は正直精神衛生的にあまり好ましくはない。今にも自分の部屋にすっ飛んで帰りたい気分である。

「それじゃ、黙りこくってても仕方がないから話を始めるわよ衛宮くん」

 学校ではかなりの有名人で、学園のアイドルとまで言われている遠坂凛。その彼女が今、自分の目の前に居る事がまず信じられない。

「あ、ああ。頼む」

 その自分も憧れていたアイドルがまさか、自分と同じ“魔術師”だったという事も衝撃だが、それ以上にその相手に今、自分が説明とはいえ話を聞いているこの現状がにわかには信じ難い。

「一つ聞くけど、貴方、自分がどんな立場に居るのか判ってないでしょ」

 学園のアイドルにそう窘められる。それは自分でも情けない話だとは思う。だが確かに、全く知識も前準備もないのに、突然何か大きなカラクリに巻き込まれたのだ。それだけは判る。

「――ああ。表でも言った通り、俺には彼女たちが何なのかも、この異常な事態もさっぱり訳が判らない。」

 その答えを聞いて彼女、遠坂凛が大仰にため息をつく。

「――やっぱり。まあ一目で判っては居たけどね。一応知ってるかどうかの確認はしとかなきゃね? 知ってる人間にわざわざ説明するような心の贅肉は付けたくないもの」
「心の……?」

 今、妙な言い回しを聞いた気がしたがその内容については即座に緘口令が敷かれた。

「いいから聞く。率直に言うとね、貴方はある“ゲーム”に巻き込まれたのよ」
「ゲーム?」

 俺はそのとんでもない例えに鸚鵡返しになって聞き返す。こちとら既に殺されかけてる。
 ゲームなどで殺されたんじゃ堪った物じゃない。

「そ。でも勘違いはしないでね。ゲームって例えはしたけど、中身は子供のお遊びで済まされるような生易しいものじゃないから。」

 俺の憤りを感じたのか最初から読んでいたのか、此方が異議を唱えるよりも早くそう告げられる。

「右手か左手に痣のような聖痕が浮かび上がってるでしょう? それが令呪、この“聖杯戦争”と呼ばれる儀式に参加したという証よ」

 言われて自分の左手に浮かんだ真っ赤な血の色をした紋様を見る。

「令呪? って、これか」
「そう、それがマスターである証。それを持つ者たちはそれぞれサーヴァントを従える。貴方には彼女、セイバーがそう」

 言われて自分の隣に座る彼女を見やる。そこに居るのは剣の騎士セイバー。こうして傍で見ても、正直実感が湧かない。
 無論その力量は実際この目で見て判っている。ただどうしてもこの可憐な少女としか思えない小柄な彼女が、そんな存在には見えないのだ。

「まったく……。あれだけ下準備に十年もかけて、最高のカードを引き当てようと手を尽くしたっていうのに。何で私の所にはよく判らない妙なのが来て、こんな素人同然の衛宮くんにセイバーが召喚出来たっていうのよ!?」
「凛……そのよく判らない妙なのとは私の事ですか? はあ、よく判らないサーヴァントで申し訳ありませんね。……では貴女は最初からセイバーを召喚しようと試みていたと?」

 その己がマスターの言葉に半眼で呆れたように視線で訴える遠坂のサーヴァント。何処か彼女は苦労性な気がしてしまうのは気のせいだろうか。

「そうよ。聖杯戦争に挑む魔術師たるもの、誰しも最高のカードを引き当てたいと願うのは当然でしょ? まあ、貴女を引き当てたのは私の責任だし、別に、貴女に不満が或る訳じゃ無いからそれだけは勘違いしないで頂戴。話を戻すわ、私には彼女。そういえば紹介がまだだったわね?」

 その言葉に俺より先に隣に居るセイバーが僅かに反応する。恐らく俺よりも彼女の方が、目の前の『同じ顔をした誰か』のことが気にかかっていたのだろう。

 遠坂に言われてコクリと頷く。確かに俺達はまだ彼女が何者なのか全く知らない。恐らくはセイバーと同じく“サーヴァント”なる人外の力を有する存在なのだろう。

「彼女が私のサーヴァント、ソルジャーよ」
「改めて初めまして、ソルジャーです。以後お見知りおきを」

 遠坂の紹介に合わせて彼女、ソルジャーが丁寧にお辞儀をしてくる。随分と堂に入った物腰で、外見は完全に外人なのに何故か日本人臭さを感じる。
 よく観察すればその理由に合点が行く、彼女は正座までしているではないか。と、そういえば今も隣に座るセイバー、彼女も良く見ると正座で座っている。
 何処から如何見ても二人は日本の人間には見えない。そんな彼女達が姿勢も完璧に正座を組んで座っている光景は傍から見れば凄く不自然な筈だが、余りに堂に入っているので自然に見えてしまう。

 そこで奇妙なまでの両者の姿勢の一致に、ある疑問が脳裏に渦巻く。彼女達は姉妹か何かなのだろうか? 
 まさか、仮にも人間以上の力を持つ存在だ。人の姿をしているからといって人間の概念が通用する相手とは限らない。だが、そんな間抜けな思考は、横から生まれた疑問の声で中断された。

「ソルジャー? 聞かぬクラスです。この聖杯戦争に召喚される七つのクラスにそんな物は無いはずだ、メイガス」

 問い詰める彼女の瞳に宿るものは明らかな懐疑の光。己が従者は何者だ? そう問い詰める双眸に貫かれる遠坂は臆する事も無く、凛然と平静を保って返してくる。

「私だって知らないわよ。でも確かにどのクラスでもないし、パスを通して認識できる情報からも、彼女のクラスはソルジャーとなっているのだから仕方が無いじゃない」
 そう説明されては此方もひとまず納得するしかない。此方には彼女らの言葉が本当かどうか確かめる手はないのだから。

「私の事はとりあえず後でも良いでしょう。凛、聖杯戦争の話を」

 彼女、ソルジャーが脱線しそうになった話題を元に戻す。別に聞かれたく無いからといった素振りは見えないが、隣のセイバーからは少し落胆の気配がした。

「令呪を持つ魔術師がマスター、戦う為の武器がサーヴァント。ここまではいいわね? 聖杯戦争に選ばれる魔術師は七人、召喚されるサーヴァントも七騎。この七組が、最後の一組になるまで殺し合い、生き残るまで終わらない生存競争、それが聖杯戦争よ」

 そこまで聞き終わり、得体のしれない嫌悪感と怒りに思わず声を荒げる。
「なっ!? なんだよそれは! 一体なんの目的で、そんな馬鹿げた殺し合いなんかするっていうんだ!? 大体聖杯って、あの聖杯のことか?」

 咄嗟に脳裏に思い描くのは“聖者”の血を受けたという謂れの聖杯。全世界で尤も広域を占める一大宗教の信者にとって、最上級の至宝といえるかもしれない聖秘跡。
 実在するかどうかも今では確証の無い、宗教的象徴と化しつつある絢爛豪華な装飾を施された杯。一説には二つ存在するとも、実際は宝飾の無い無骨な原石削り出しの杯とも、大工だった基督の手によるそれは木製の質素な器だとも噂される……。

「大体衛宮くんが何を想像してるか察しは付くけど、残念ながらあの宗教の聖杯とは一切関係の無い代物よ。第一、私達魔術師がそんな魔術師の宿敵の象徴なんか欲しがる訳ないじゃない」

 どうやら想像したものとは似ても似つかない異なる物らしい。

「詳しいことは私も余り知らないけど、聖杯は霊体よ。霊体だから当然人間では触れる事も出来ない。だから同じ霊体であるサーヴァントが必要なの。聖杯戦争の目的は唯一つ、全てはその“聖杯”を手に入れる為」

 ふと彼女の横に座るソルジャー、彼女の表情が曇る。
 その顔は何か苦い過去でも思い出しているかのようで、何を思うのかは俺には想像も付かないが、とにかく何かを押し殺したような辛く切なさげな表情を瞳に宿らせていた。

「凛。とりあえず当面の彼に必要な情報を教えてあげるべきだとおもいますが」
「わ、判ってるわよ。とりあえず、その令呪はサーヴァントを律する呪文、三度だけ強制的に命令を実行させられる絶対命令権なの。発動に呪文は要らない、貴方が令呪を使用するって念じればそれに反応して自動で発動してくれる。但し気を付けなさいね、その令呪が無くなったら貴方は殺されるだろうから」

 その説明にぎょっとして思わず声が上ずる。

「お、俺が殺される――!?」
「そうよ、当然でしょ? 聖杯は最後の一人にしか、手にする資格が与えられないのよ。だから参加者は総じてライバルを一人残らず殺しにかかる」

 遠坂が沈痛なほど低く重い声色でそう現実はそういうものだと訴えてくる。

「貴方だって心の底ではもう理解してるんじゃない? 一度ならず二度までもランサーに殺されかけて、自分はもう逃げ場なんて無い立場だって事は」
「……!? シロウ、貴方はあのランサー相手に一度殺されかけたと言うのですか。それで何とも無いなんて……まず考えられない」

 それまでずっと沈黙を続けてきたセイバーが唐突に掠れそうな声を上げる。無理も無いだろう。彼女自身、先の戦闘でヤツの必殺の槍を……間一髪の所で急所はそらすも、その胸に一度食らったのだ。
 サーヴァントさえ一撃の下に殺しかねないあの槍に襲われて無事だという俺に驚愕を覚えたとしても不思議は無い。何しろ自分が一番不思議でならないのだから。

「あ、違ったわね。殺されかけたんじゃなくて――」
「――凛!」

 咄嗟に横に居るソルジャーから止められ、遠坂がハッとして失態を演じたと後悔の表情を顕わし口ごもる。
 その言葉の先に思い当たり、愚かにも自分が今の今まで忘れていた事を思い出す。
 そう、あの時俺は殺されかけたのではなく、殺された。
 ……そうだ。確かにあの時、俺はあの赤い槍に心臓を一突きにされ殺された、筈だ……。
 なら、今の状況を驚くより先に、俺は自分が何故生きているのかという事に驚かなければおかしいのだ。

「……っ! 納得いった? とにかく貴方はすでに立場を選べる状況じゃないのよ。無知だからって逃れることは出来ないし、貴方も仮にも魔術師なら、殺し殺される因縁にあることぐらいは覚悟の上でしょ」

 遠坂はなにやら不機嫌に焦りをにじませた口調で、そうぶっきらぼうに言い放つ。
 判っている、魔術師を志すと魔術師だった養父、衛宮切嗣に弟子入りを志願した日からとっくに覚悟は出来ている。
 だがその前に……。

「遠坂は……俺がランサーに『殺された』事を知ってるのか……?」
「なっ……殺された!?」

 隣からセイバーが驚く声を上げるが、今は気に留めずに置く。どうしてそれを遠坂が知っているのか、聞いておかねばいけない気がしてならなかった。

「――――ちぃっ! つい調子に乗りすぎた」
「はぁ……うっかりが過ぎますよ、凛」

 あからさまに怪しい素振りを見せる遠坂に、げんなりと困ったように一つため息を吐く、セイバーとそっくりな容姿を持つソルジャー。
 隣に座るセイバーと比べると幾分表情の豊かさが暖かく、親しみ易そうな人間味を感じさせる。

「今のは唯の推測に過ぎないわ、つまんない事だから忘れなさい」

 明らかに彼女達は何か知っているはずだ、なにしろあの場で戦っていたのだから。

「全然つまんない事じゃないぞ。俺は確かにあの時、誰かに――――」
「本当に、一体どんな御業で治癒したのかは判りませんが、確かに貴方は一度彼に殺されかけた」

 と、問い詰めようとしていた遠坂の口からではなく、隣の彼女から思いがけない一言が返ってきた。

「確かに私達はランサーを追って貴方が襲われた現場まで赴いた。ですが一足遅く、ランサーには逃走され、夥しい血痕があるにもかかわらず、既に貴方の傷は癒えていました」

 饒舌に語り出した彼女に一同が目を丸くして聞き入っている。何故か遠坂まで一緒になって目を丸くしているのが気になるが……?

「とりあえずその場は問題無しと踏んで私はランサーを追跡、凛は貴方を保護すると思っていたのですが……」

 そこまで語ってすっと瞼を落とし冷ややかな視線で自分の主を射抜く彼女。諌める心算の視線なのだろうか。

「う、いいでしょ結果的にはちゃんと無事だったんだし。それにいつの間にかマスターになっちゃってるし」

 遠坂の言い分は言い訳にもなっていなかったが、既にソルジャーもそれについて言及する心算は無いらしい。
 その話が本当なら、遠坂達に問い詰めても俺が生き延びた理由は判らない。セイバーはとりあえず理由は判らずとも、俺が助かったという説明に納得はしたようだ。

「その話はいいから! とりあえず貴方はそんなことより、もっと自分の置かれた立場ってものを知りなさいっ!」

 遠坂はソルジャーの視線から逃れるように立ち上がり、教鞭を振るう教師のように人差し指を立てたポーズで声を上げて俺に詰め寄ってくる。

「いい? 貴方も私も七人選ばれるマスターの一人、聖杯戦争の主役なのよ。聖杯戦争はこの街で大昔から、数十年に一度の周期で行われてきたの。その参加者は皆必ず、手駒となるサーヴァントが聖杯より与えられるの。マスターはそのサーヴァントを行使して他のマスターを排除していく。謂わば、聖杯戦争ってのは聖杯自身が聖杯を得るに相応しい者を選別するための選考儀式よ」

 その説明の最後の部分にソルジャーが僅かに表情を曇らせる。が、それに気付いたのはどうやら俺一人らしい。遠坂は何も気付かずそのまま説明を続けていく。

「衛宮くんは自分で意図してセイバーを召喚したわけじゃなさそうだけど、元々サーヴァントっていうのは聖杯が個人の意志とは関係なく、マスターとなった人間に与えてくれる使い魔だしね。マスターは誰も彼もが望んでなれるモノじゃない。逆に言えば選ばれた事には逆らえない。だから貴方みたいに何も知らない魔術師でも、マスターになる事だってありえるのよ」

 迷惑な話だ。俺がマスターとやらになったのは、勝手に聖杯(あちら)からご指名されたということか?
 だがマスターにならなければ俺は追い詰められ、土蔵の奥で死んでいたかもしれないのを考えると、複雑な気分だ。

「私はサーヴァントと契約したし、放棄する気は全くない。でも自ら降りる事は出来るわ、権利を放棄すればね」

 遠坂は暗にお前は望まないなら戦争を降りる事だって出来る、だからそうしろと言っているように思える。多分そうなんだろう。

「だから、とにかく貴方はマスターでいる限りは召喚したサーヴァントを使って殺し合いに参加しなきゃならない。そのあたりは理解してもらえたかしら?」
「……言葉の上でなら。けど、俺納得なんて出来てないぞ。そもそもそんな悪趣味な事、誰が何の為に始めたんだ?」

 判ってる、論理的になら。自分の研究以外、例え法に触れようが己の存在が“社会”に暴かれる危険さえ無ければ倫理や道徳など歯牙にもかけない。
 己の論理に基づいて動くのが普通の“魔術師”だと、教わっている。
 そんな魔術師としての理屈でだけなら、事は至極シンプルだ。それがこのバカ騒ぎを始めた理由なのだろう。
 だが俺は『セイギノミカタ』という養父から受け継いだ“自分の在り方”というモノを曲げられない。
 そしてその在り方にとって、自分が考えられる聖杯戦争の理由というモノは認められる物ではなかった。

「そんなことは私が知るべき事でもないし、答えてあげることでもないわ。それは今から向かう聖杯戦争の監督役にでも聞きなさい。私が教えてあげられるのはね、貴方はもう戦うか降りるかしかない。戦うならサーヴァントは本当に強力な戦力だから、上手く使えって事だけよ」

 自分に言えるのはそこまでだと、遠坂はフンと息も荒くそう言い放つ。

「さて、話がまとまったところで出掛けるわよ、準備して」

 と。何処へ行こうというのか、遠坂はいきなりわけの判らないことを言い出した。

「って、ちょっと待てよ。行くって何処へだよ?」
「今言ったでしょ? この聖杯戦争の監督役をやってるヤツが居るのよ、そこへ行くの。衛宮くん、聖杯戦争の理由について知りたいんでしょ? 会って直接聞くといいわ」

 事も無げに彼女はそう言って来る。しかし、こんな夜更けに行って開いているのか?
 しかも交通手段は既に止まっているから、夜道を歩くしかないというのに。

「場所は隣町だから急げば大丈夫よ。明日は日曜なんだし、一晩くらい夜更かししたって問題ないじゃない。それに、衛宮くんが参戦するにしろ、しないにしろ、決断してそれを監督役に宣言しなきゃいけないのよ。マスターに選ばれた者としてね」

 そう義務を持ち出されては行かない訳にはいかないだろう。俺は渋々承知し、隣町へと向かうことにした。

*************************************************

 前方で水先案内役を務める彼女達の後ろに続き、自分のマスターであるシロウの隣に付いて私達は住宅街の交差点まで歩いてきた。

「それにしても、こんな夜中に女の子ばかりで出歩くのはどうかと思うんだけどな……。遠坂、つかぬ事を聞くけど、隣町までどのくらいかかるか知ってるか?」

 マスターがメイガス(魔術師)の少女に語りかけている。その言葉の前半のほうの意図は正直何を思ってなのか判らない。
 少し前を歩く赤い外套を着た彼女が振り返りそっけなく答えを返してくる。

「徒歩なら大体、一時間って所かしらね。……ま、遅くなったらタクシーでも拾えばいいじゃない」

 なんとも気だるそうにそう言って来る。横ではシロウがその答えに明らかに不満の色をみせている。

「そんな余分な金は使えないし、使わないぞ。俺が言いたいのはそんなことじゃなくて、最近はこの辺りも物騒なんだ。大体、頭数は女の子ばっかりだし……万一の事があったら責任もてないぞ俺」

 その言葉を聴いて、彼の意思が何に向けられているのか理解に苦しむ。前を見やれば、目の前に立つソルジャーのマスターである彼女も目を丸くして、呆れたようにシロウを見詰め、ため息をついている。

「はあ? 呆れた。安心しなさい、相手がどんなヤツだろうと、ちょっかいなんて出してこないわ。衛宮くんは忘れてるみたいだけど、そこに居る“セイバーさん”はとんでもなくお強いのよ?」

 横にいるシロウからあっという小さな声が漏れる。どうやら本気で、私がどういう存在なのか忘れていたのだろうか。

「それにソルジャーだってこれでも歴戦の英雄のはずなんだから、まず生身の人間で敵う相手じゃないし、私だって魔術師よ? ただの暴漢程度にやられはしないわよ」

 そう。彼女もその従者も、決して一介の悪漢程度が敵う相手ではないのだ。だから何の力も術も持たぬ、普通の人間に近い我がマスターが心配するような事は何も無い相手だというのに。

「凛。シロウは今何を言いたかったのだろう。私には理解出来なかったのですが」
「え? いやぁなんていうか、大した勘違いっぷりというか、大間抜けぶりを披露してくれただけよ」

 凛はそう言葉を濁し、質問に答えてくれない。代わりに横からソルジャーが補足を入れてくれた。

「ふふっ。彼は貴女方の身を案じてくれているだけですよ、セイバー」

 その言葉に凛が不機嫌そうに付け足してくる。

「私達が痴漢に襲われたら衛宮くんが助けてくれるんですってよ」

 その言葉に自分の感じた違和感がなんだったのか理解した。要するに彼は彼にとっての剣である私に、何かあれば私を守ると言ったのだ。

「そんな、シロウは私のマスターだ。それでは立場が逆ではないですか!?」

 そう、自分が守るべき人間に自分が守られて如何すると言うのか、それでは本末転倒というモノだ。

「ぷっくっく、そういうの全く考えてないんじゃない? 魔術師とかサーヴァントとか、そんな事どうでもいいって感じ。こいつの頭の中が一体どーなってんのか、一度見てみたくなったわー」

 あっけらかんと笑う彼女。不意に見やると、隣でソルジャーまでも笑いを堪えるように肩が震えている。
 ただ彼女の表情は主とは少し違った。少し穏やかに何かを思い出しているかのような、何故か懐かしむかのような慈愛の篭った眼差しを此方に向けている。

「……何故、そのような顔をされるのですかソルジャー?」
「いえ、ただあまりにも微笑ましくて。いいじゃありませんか、彼は貴女を気にかけてくれているだけなのですし」

 まるで此方の戸惑いを知ってからかうようにそう答えてくる。人食ったような態度を取る彼女に私は内心少し平静を保てなくなる。

「しかし、我々はサーヴァントです。戦う為の道具に気遣いなど無用だ」
「貴女の言いたいことは判りますよ。でも彼はそこまで割り切れるほど冷淡な人では無いのでしょう。貴女にとってそれは、今はまだ覚悟が甘いだけの迷惑な心遣いに感じられるでしょうが」

 彼女は私の心が読めるとでもいうのだろうか? 今私が感じている事を、此処まで的確に指摘されては言葉に詰まる。

「でも、それは彼が誠実だと言う事の顕われでもあるでしょう。貴女はそんな彼は好ましくは無いのですか。」

 その相貌に意地悪い笑みを浮かべ、なのにその目にはどこか慈しむような穏やかさを持ちながら、諭すように語りかけてくる。

「そ、それは……好ましくないわけは無い。誠実であるということは自分を律する強さがあるということです。それは非常に望ましい、その点で彼に不服はありません」

 だが彼はすこし優しすぎるきらいがある。敵である彼女らの身まで心配しているというのだから。

「それにしても、四人も居ると流石ににぎやかだな」

 唐突に後ろから聞こえた声に驚き振り返ると、二~三歩後ろを付いてきているシロウがいた。いつの間にか私達三人が先行する形になっていたらしい。

「す、すみませんシロウ。いつの間にか先行してしまっていたなんて」
「いや、俺が急に歩調を緩めただけだよ。だから気にするなセイバー」

 そういって私の横まで早足で戻ってくる。その顔はどこか微笑ましげに緩んでいる。

「いつの間にか仲良くなってるじゃないかセイバー。よかった、出かけるときの事で少し機嫌を損ねたんじゃないかと心配してたんだ」

 そういえば出かける時少しドタバタと揉めた事を思い出す。この時代では、私の鎧装束などは非常に人目を引く。だが生憎と、私はソルジャーのように霊体化して姿を消す事が出来無い。
 私が周囲に警戒を緩める訳にはいかないから、今は鎧を脱ぐ気は無いと強情を張った為、彼がそれなら目立たないようにと言って、余計目立ちそうな黄色い雨合羽を被せられそうになったのだ。

「いえ、確かにあの雨合羽は気が引けましたが、結局は彼女がコートを貸してくれて解決しましたし」

 そう。今、私はソルジャーが着ていた蒼いコートを借りて、鎧の上から着こんでいる。
 彼女のコートは割と大きめのサイズらしく、トレンチコートの型なので前のボタンを止めなければ、嵩張る鎧をも包み隠すことが出来た。
 彼女の体格は私より大きいのは間違いないが、それでもこのコートは少し大きい気がする。

「すまないなソルジャー、コート借りちゃって。上着無しじゃ、今はちょっと寒いだろ? ほら、これ貸すよ」

 そういって彼は自分が着ていたジャンパーを差し出そうとするが、彼女はかぶりを振って遠慮する。

「気を遣って頂かなくて結構ですよ。私はサーヴァントですからこの程度の寒さはどうということはありません。」

 そう言う彼女だがその服装は私が見ても少し寒そうに思える。白いYシャツにピッタリと体のラインに沿う黒のウェストコート。
 これだけでは冬の寒空の下は少し厳しくないだろうか。幾らサーヴァントとはいえ、仮初めの肉体を編んでいる間は夜風に体温を奪われもする。

「でもそれじゃ寒いだろ。ゴメンな、俺の魔力供給が無いばっかりに、セイバーが霊体化出来ないせいで」

 実際はシロウのせいじゃない。私が霊体化出来ないのは、私がまだ正確には死者の分類に無いせいだ。
 私は死の間際に聖杯を求め、世界と契約を交わした。
 その契約の条件が『私が生きているうちに手に入れる』ことである為に、私はまだ死ぬ直前の肉体のまま、聖杯が得られる可能性があれば世界との契約の為に、分類は生者のまま何処へでも、何時如何なる時代へも呼び出される。
 サーヴァントとして呼び出される英霊は基本的に死者、ゴーストライナーでありながら、私の肉体は“世界”からはまだ死に至っていない生者と認識されてしまう。
 だからまだ『死んでいない』私は霊体には成りようがない。
 その事を伏せ、ただ召喚時の契約に欠陥があったという事にして誤魔化してしまった事を少し申し訳なく思い、己の主に胸中で詫びる。

「でもよかったよ。セイバーの鎧は現代じゃ目立って仕方ないからさ。今時こんな時代がかった衣装来てる人なんて居ないし、そういやセイバーって過去の英雄なんだよな」

 シロウは出掛け前の問答で話題に登るまで、私達サーヴァントがどのような存在なのかすらよく知らないでいた。何も予備知識がない彼にとって見れば私達はさしずめ、幽霊と似たようなものに思えたらしい。
 もっとも過去に偉業を成して輪廻の枠から外されより高い霊格へと昇華された私達英霊と言う存在を、唯の幽霊と同一視されるのは心外だが、彼に悪気があったわけでもない。

「はい。真名を明かすのは今は得策ではありませんので伏せさせてもらいますが、恐らくこの時代、この国でも相当に有名だと思われます」

 そう、私はマスターに自分の正体を教えていない。今は敵となりうる彼女達が傍に居るのだから話せる状況でもないが。

「そっか。服装から見てもそうだけど、とても現代の人とは思えないもんな。でもそれにしちゃ、随分現代に慣れているような気がするというか、普通もっと困惑してもおかしくないと思うんだけど」

 何を言うかと思えば、そんなことを気にかけていたというのか。

「シロウ、それは杞憂です。サーヴァントは人間の世であるのなら、どんな時代にも対応します。ですからこの時代の事もよく知っている」
「へえ、そうなのか……って、ほんとに?」

 半ば信じられない、と言いたげな表情で此方を見つめてくる。

「勿論です。それに私の場合、この時代に呼び出されたのも一度ではありませんから」
「え……嘘っどんな確率よそれ!?」

 前を歩くメイガス、凛の口から驚愕の声が漏れる。私にはその理由は判らないが、それほどとんでもない事なのだろうか。

「ま、まあセイバーが現代慣れしているなら別にいいんだ。ほら、慣れてないと色々大変なんじゃないかって思っただけだから」

 シロウがはははと困ったように、乾いた笑いを零しながらそう言葉を紡ぐ。どうも彼は終始私や周りに気を掛けてばかりいる。本当に心優しい青年だ。

「そういや、ソルジャーはセイバーと違って全然時代がかった感じじゃないよな。と言うより見た目は完全に現代人って感じ、まあそのおかげでコートを借りられたんだけど」

 そう、彼女は私とそっくりな顔をしているが、その服装はどれを取ってみても現代風の物ばかり。
 以前呼び出された時に私も現代の衣装で変装した事があるから、現代の衣服についても大体の所は知っている。

「そうなのよねー。ソルジャーってば妙に現代慣れしてるっていうか、完璧現代人としか思えないのよね。何でか知らないけど科学技術に詳しかったりするし、下手すると私なんかよりよっぽど現代人らしいわ」
「ふふっ。……まあ慣れている事は間違いありませんね」

 主の答えにそう軽く苦笑混じりに応える彼女。凛も不思議に思うほど彼女は現代慣れしているらしい。
 確かに、一度だけだが彼女と戦った際に彼女が手にしていたのは、確かこの時代にしか存在しないはずの武器だった。

 精巧で硬質な金属部品を組み上げ造られた鉛の塊を撃ち出す機械、拳銃。
 前回私を召喚した魔術師も使っていた武器。ただ彼が使用していたのは少々特殊な物でもあったようだが。
 判らない。私にそっくりな顔、そっくりな声で、衣服の時代様式こそ違うものの、何処か良く似た何かを感じる彼女。
 私に非常に良く似ている、だが彼女は剣士ではなく唯の兵士だという。
 彼女は私と何か関係があるのだろうか、そうでなければ余りにも奇妙な符合が多すぎる。
 だが私には彼女との面識は無いし、当然生前に彼女のような存在を見た覚えは無い。
 ひょっとしたら彼女は、私か縁者の末裔……? そんなはずがあるか、私の血筋は……私が実の息子を斬らねばならなかったあの時に絶えてしまった筈だ。


 そんな答えなど出るはずも無い疑問に思考を支配されている間に新都への大橋を渡り、すでに我々は新都郊外のなだらかな坂道を登っていた。

「この上が教会よ。衛宮君も一度ぐらいは行った事があるんじゃない?」

 その言葉にシロウにならって高台を見上げる。確かに道の先に続く高台の上には十字架らしき影が見えた。
 隣で凛とシロウが二言三言と話を続けているが、その内容は耳に入ってこなかった。何か得体の知れない嫌な気配を高台のほうから感じてしまい、神経がそちらに釘付けになっていたからだ。

「うわ――すごいな、これ」

 ほどなくして教会に到着した。高台の殆どが教会の敷地になっているのか坂を上りきると目の前にはやけに広いまっ平らな石畳の広場が続いている。
 見た目は荘厳で教会の名に相応しいほど清潔感に満ちた場所だが、先ほどから感じている嫌な空気はいっそう強くなっている。
 私がこの教会にただならぬ懸念を覚えているのは間違いない。

「シロウ、私は此処に残ります」
「え?なんでだよ、ここまで来たのにセイバーだけ置いてけぼりなんて出来ないだろ」

 シロウは私を置いていく心算はないと言ってくれるが、どうにも私にはこの教会の中に入る事が躊躇われる。

「それでは私も此処で待機します。此処でしたら監督役の膝元ですから、他の参加者達も無闇に仕掛けてくる可能性は低いでしょうし。私達で見張りに立ちましょう。凛、士郎君を案内してあげてください」
「オーケー、じゃ待機していて。ほら、行くわよ衛宮くん」

 ソルジャーの提案を呑み、凛がシロウを案内しようと入口の門を親指で指し示す。

「そうか、判った。じゃあ行ってくる」

 思わぬ助け舟に救われてシロウは渋々承知してくれた。

「はい。誰であろうと気を許さないように、マスター」

 凛に付き添われ、礼拝堂の中に入ってゆくシロウを見送り、思わぬ助け舟を差し伸べてくれた彼女に振り返る。

「とりあえず、今の件は感謝します。だが何故です? 貴女は何故そんなに私に気を掛けてくれるのですか」

 おもわず問いかける。そう、彼女には聞きたいことがあり過ぎる。

「……気に、なりますか? そうですね、それが当然というものでしょうね」

 少しの沈黙の後に、そう静かに語る彼女。草の揺れ擦れる音さえ聞こえそうな程の静寂が辺りを包む。
 仄かな月光に照らされた金色の長髪を、海から高台に吹き抜ける夜風に遊ばせている。
 私と同じ青緑色の双眸に神妙な光を湛えながらも、口元は微かな微笑みに緩い弧を描く自らを“兵士(ソルジャー)”と名乗る女性。
 私に向けられたその瞳には深い慈愛に、郷愁でも感じているような少し寂しげな色と、困惑するような逡巡の色が混ざっていた。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.028516054153442