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No.1068の一覧
[0] 黒と赤の主従[銀](2007/06/20 22:27)
[1] 黒と赤の主従2-1[銀](2007/06/20 22:28)
[2] 黒と赤の主従2-2[銀](2007/06/20 22:29)
[3] 黒と赤の主従3-1[銀](2007/06/20 22:30)
[4] 黒と赤の主従3-2[銀](2007/06/20 22:31)
[5] 黒と赤の主従4-1[銀](2007/06/20 22:32)
[6] 黒と赤の主従4-2[銀](2007/06/20 22:33)
[7] 黒と赤の主従5-1[銀](2007/06/20 22:34)
[8] 黒と赤の主従5-2[銀](2007/06/20 22:38)
[9] 黒と赤の主従6[銀](2007/06/20 22:39)
[10] 黒と赤の主従 Last night 1[銀](2007/06/20 22:40)
[11] 黒と赤の主従 Last night 2[銀](2007/07/08 23:18)
[12] 黒と赤の主従 Last night 3[銀](2007/07/22 17:12)
[13] 黒と赤の主従 Last night 4[銀](2007/08/08 22:35)
[14] 黒と赤の主従 Final[銀](2007/09/07 21:52)
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[1068] 黒と赤の主従2-2
Name: 銀◆afb0ae46 ID:3fb013f1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2007/06/20 22:29
雲ひとつ無い星空の元、未遠川を挟む冬木大橋の中央部にそれは待ち構えていた。

人目を忍んで行われる聖杯戦争。

その原則を破るかのごとく、堂々と二人は立っていた。

それはルーン魔術による、簡単な人払い。

聖杯戦争を認識するもの以外には彼らの姿を確認することは出来ない。

それほど、難しい魔術ではないのだが大橋を包むほどの広い範囲で行うとすれば話は別だ。

敵の魔術師の腕は間違いなく一流である。

セイバーとアーチャーは決闘場に赴くように、大胆に中央に足を進めていった。

距離にして約20m程の距離で、二人は足を止めた。

目前の緒戦の相手を品定める。

赤紫がかったショートヘアーにスーツ姿の魔術師。

男装をした麗人、まずはそんな感想が浮かんでくるだろう。

手には皮袋を嵌めて、油断無くこちらを見据えている。

無駄の無い体の肉の付き方は、格闘をするためのものだろう。それもかなりの腕前だ。

背負っている黒い筒のようなものは、何が入っているかは不明だが、彼女の魔術に関係していることは確かだ。

隣に立っている男が、魔術師のサーヴァントなのだろう。

「面白い格好だな。それで二人でうろついてたわけか。よし、俺達も明日からそうしようぜ」

「…ふざけてる場合ですか。敵に集中しなさい」

全身から伝わってくる獣臭。

青い髪形に青いボディースーツは夜の闇に溶け込んで見える。

その目は戦いを前にしているとは思えないほど涼やかだ。

二人をまるで、十年来の親友を見るような目で見つめている。

そして、何よりも目を引くのは手に持った紅い槍であった。

それはこのサーヴァントが何者であるかを示していた。

「ランサーのサーヴァントか」

「ご名答。そっちのサーヴァントは…、感じてくる気配からしてそっちの黒い兄さんのようだが。あんたもなんか普通じゃねえな」

ランサーは戦士の本能でセイバーの異常性を感じ取っていた。

先程までの、へらへらした様子が消える。

鋭くなった眼光は普通の人間であれば気死していてもおかしくない。

「まあいい。出会ったからにはやるまでだ。どっちが相手してくれんだ? 兄さんかお嬢さんか。それとも二人まとめてか」

その言葉にセイバーの殺気が膨れ上がる。

ランサーの言葉は挑発ではなく、本気で二人を同時に相手する気であるのが分かったからだ。

セイバーが一歩前に出ようとする。

それをアーチャーが手で防ぎ、自身が一歩前に出る。

「むっ」

セイバーの不服そうな声を黙殺して、武装化する。

黒い甲冑に赤い外套。

そして両手には対の短剣が握られていた。

「いいね。分かりやすい奴は嫌いじゃない。セイバー…、って感じじゃねえなアーチャーか」

ランサーの声にもまるで反応は無い。

その鍛え上げられた背中から、言葉は不要、目の前の敵を倒すだけだと告げていた。

マスターであるセイバーの命令を今か今かと待っている。

おもしろい。

アーチャーはここで自分の力を証明して見せるつもりなのだ。

セイバーはにやりと笑って、自らの騎士に命ずる。

「アーチャー。昨晩の言葉をここで証明せよ」

「くっ」

それは笑いだったのか。

アーチャーはランサーに突進した。

「馬鹿が!」

ランサーはアーチャーの行動を嘲笑った。

「弓兵風情が、白兵戦を挑みやがったな」


ランサーの槍はまるで瀑布のように突き一辺倒だ。

しかし、それも際立てば神業。

「ほうっ」

思わずセイバーの口から感嘆の声が漏れる。

突き出される槍の速度はセイバーの目から見ても神速であり、その槍の技は神技であった。

すでに、ランサーの槍の動きはおろか足さばきすらも不可視の領域にある。

それをなんとかアーチャーは防いでいる。

防戦一方のアーチャーの表情にもちろん余裕など無い。

一方の押しまくっているランサーの表情にも笑みは無かった。

圧倒的な優勢な状況でありながら、その表情に浮かんでいるものは戸惑いだ。

戸惑いの表情を浮かべているのはランサーだけではない。

その戦いを見守っている二人のマスターも驚きを隠せない

理由はアーチャーの不可思議な能力にあった。

ランサーの槍を捌ききれず、その度に弓兵は短剣を弾き飛ばされて失ってしまう。

しかし、次の瞬間には同一の短剣が彼の手に現れるのだ。

いや、むしろ己の武器を弾かれることも計算に入れた防戦であろう。

一方的に押しているランサーであるが、その心中は疑心暗鬼の靄にある。

このアーチャーは何者なのかという疑問だ。

そのために後一歩が届かない。

初めは驚き、そして徐々にセイバーの表情は笑みに変わる。

戦いを楽しむ笑みでもなければ、不敵な笑みでもない。

悦楽による、艶のある女の表情だ。

実際にセイバーの下腹部は熱く疼いていた。

響き渡る剣戟。そして血と汗の匂い。

それが少女をどこまでも昂ぶらせ狂わせていく。

少女は赤と青の騎士の戦いを喜び楽しみ悦んでいたのだ。
聖杯の泥を浴び変質した少女。

アーチャーはまだ気付いていないが、すでにこの少女は壊れている。

だが壊れていることを自覚してはいない。

性格そのものが反転して変わったのだから、仕方無いことかもしれない。

受肉した彼女は騎士としての誇り、王としての規律。そんなものが全てどうでもよくなった。

何故、そんなものに縛られていたのかすら分からない。

まさに、魔人として完全に生まれ変わってしまったのだ。

そんな自分に違和感を感じることなく、彼女は生前に出来なかったことをするようになった。

可愛いと思ったぬいぐるみや服があれば、全て手に入れる。

寝たい時に寝る。食べたい時に食べる。殴りたければ殴る。

全てが自分の思い通りにならなければ気に入らず、逆らうものには容赦しない。

これだけなら、ただの乱暴ものだがそれだけではなかった。

彼女の趣味や嗜好に至るまで、全てが完全に変質していた。

食事の嗜好についてはいまさら語るまでも無いが、もっと大きく変わったことがある。

破壊、殺戮、惨劇、そんなものを彼女は好むようになったのだ。

性欲と同様に、破壊欲求は一応我慢できるものだ。

しかし、したくなったら我慢できないのがこの少女である。

その辺の人間を狩っても面白くないので、手ごろな相手を探した。

ところが、この平和な冬木の町には彼女を満たすような手ごろな相手はいなかった。

そんな彼女にとってはこの10年間はストレスが溜まるものだった。

たまに、言峰の仕事を無理やり手伝ってストレスを発散していたが、完全に満足できることは無かった。

少女が全力で剣を振うほどの相手には恵まれなかったからだ。

仕方ないので、熱くなった体を別の方法で自分で慰めるほか無かった。

そんなとき、再び聖杯戦争がこの町で起こることを知った。

少女は当然のように狂喜した。

欲しかった物が二つ同時に手に入る機会を得たのだ。

それはいうまでもなく聖杯と戦場。


都合にして27本弾き飛ばしたところで、仕切りなおすためにランサーは間合いをとった。

その動きは本物の豹よりも速くしなやかだ。

アーチャーも一旦距離をとって、セイバーの元にまで下がる。

今の白兵戦はランサーに分があったのは間違いない。

ほんの少しでも間違いが起これば、アーチャーはランサーの槍の前に倒れていただろう。

しかし、凌ぎきった。

弓兵でありながら、白兵戦で槍兵の槍を凌ぎきったのだ。

その事実にランサーの顔が歪んでいる。

だがそれは苛立ちというよりも困惑した顔だ。

宝具とはサーヴァントの唯一無二の必殺の武器。

決して使い捨てのように次々と取り出せるものではない。

無数の宝具を持つものといえばセイバーの弟である前回のアーチャーは全ての宝具の原典を所持している。

しかし、それでも同一の宝具は存在しないはずである。

「…なかなか、面白い。だがそのような手品ではランサーは倒せぬぞ」

「…ふむ、そのようだな」

手品というには不気味すぎる力ではあるが、言っていることに間違いは無い。

その異常性にランサーは仕切りなおしたものの、もう一度白兵戦を挑まれれば結果は見えている。

いくら宝具を無数に持っていようが、白兵戦では劣るという事実は覆しようが無いのだ。

「…これ以上、私を失望させるなよ」

「了解した、マスター。…アーチャーとして戦わせてもらうとしよう」

両手に持った短剣が音も無く消えたかと思うと、いつのまにかその両手には黒い弓が握られていた。

アーチャーは与えられたクラスに従って、弓の英霊として牙を剥いたのだ。

弦を引き絞る。

アーチャーの鷹の目は敵のランサーに注がれる。

「…あっ」

直接に睨まれているわけでもないランサーのマスターがグラリと眩暈を起こしそうになる。

アーチャーの目を見ていると、眼前に剣を突きつけられたかのような錯覚に陥りそうになる。

しかし、それも一瞬のこと。

背負っていた筒を足元に降ろし、中から何かを取り出そうとする。

「余計な茶々は入れるなよ。バゼット」

ずっと前を向いていたはずなのに、後ろに目が付いてるかのようにランサーは言った。

その言葉に迷うようにランサーのマスターは動きを止めた。

構えた槍には一分の隙も嘲りも存在しない。

「こいつは俺が倒す」

途端に辺りの空気が凍りつく。

「むっ…」

セイバーの息が止まる。

ランサーの槍は息苦しくなるほど存在感を醸し出していた。

真紅の槍が今か今かと主の命令を待っている。

その槍先は明らかにアーチャーの心臓を狙っていた。

アーチャー、ランサーが共に宝具を発動させようとしているのは明らかだった。

あの槍の真名が発動すればアーチャーは死ぬ。

ランサーもただではすまないだろうが、アーチャーが死ぬことだけは直感によって分かる。

だがすでに止めることなど出来はしない。

動けばそれが二人の引き鉄になるだろう。

止めることがあるとすれば、

「くすくす。ねぇ、私たちも混ぜてもらえるかしら」

それは第三者の介入しかありえなかった。


新都側、すなわちセイバーの方向から少女は現れた。

「こんばんは。皆様。私の名はイリヤスフィール・フォン・アインツベルンと申します」

礼儀正しくスカートの端をつかんで頭を下げる銀色の少女。

戦場にあるとは思えぬほど人懐こく明るい表情をしている。

しかし、傍らにはありえない存在がいた。

鉛色の巨人。

絶対の死がそこにあった。

「…バーサーカーの、サーヴァント」

ランサーのマスターの声も震えている。

仕方が無いだろう。目の前のサーヴァントは桁が違う。

同じサーヴァントである私の目から見ても、それは化け物と呼ぶほか無かった。

意識もせず足が一歩後ろに後退してしまう。

鉛色の巨人は無言だ。

少女の背後でじっと立っているだけだというのに威圧感は信じられないほどのものだった。

…認識が甘かったようだ。

生前の記憶から規格外の化け物ということは分かっていた。

だが、未熟だったころであり記憶も曖昧だった。

同じサーヴァントとなったこの身であれば、どうにか…。

などという見当違いの認識を持ってしまっていたようだ。

目の前の化け物とは決して戦ってはならない。

否、決して出会ってはならない存在だったのだ。

しかし、そんな私の思いとは別にセイバーはゆっくりと私の前に出た。

「マスター!?」

セイバーの視線は目の前の巨人、バーサーカーに向けられてはいない。

隣に立つマスターである銀色の少女に向けられていた。

「…あなた、何?」

セイバーを見て少女はキョトンとしたような意表をつかれた表情をしている。

聖杯である少女にはセイバーの異常性が分かったのだろうか。

「サーヴァント? でもそんなはずないわ! あなたは何者なの!?」

先程とは違って取り乱した様子の少女。

しかし、そんな少女の様子を無視してセイバーは言った。

「…そなた、アイリスフィールの娘か?」

意外な名前が出てきて驚いたのだろう。

少女は目を見開いて驚いている。

それで返事の必要は無くなったのか、セイバーは乾いたような笑みを浮かべる。

「…ふふ。運命とは皮肉なものだな」

セイバーの呟きの意味は少女には分からないだろう。

少女は戸惑うような表情を浮かべていたが、きっと表情を入れ替えた。

「…っつ! いいわ、あなたが何者なのかなんて関係ないわ。やっちゃえ、バーサーカー!」

「■■■■■■■■!!!」

それまで不動であったバーサーカーが主の命令を受けて雄たけびを上げた。

突進してくるバーサーカーはその図体に見合わぬ速さで一瞬で距離をつめる。

「おもしろい!」

ようやく、自分の出番が来たことに喜んでいるのか。

凄惨な笑みを浮かべて、セイバーは黒い甲冑に武装した。

一瞬早く飛び出したセイバーがバーサーカーの振り下ろした炸裂弾のような一撃を正面から受け止める。

「っ!」

完全には勢いを消しきれずに、後ろへとたたらを踏むセイバー。

それでも怯むことなく次のバーサーカーの一撃に剣を合わせる。

漆黒の剣に篭められた魔力は凄まじいものだった。

規格外のバーサーカーの一撃一撃を確実に防ぎきっている。

受肉したことによって生前の力を発揮できているのだろう。

黒の騎士王は目の前の怪物に対して一歩も退くことなく撃ち合っている。

撃ち合う度にアスファルトの地面はめくれ破壊されていく。

その光景はまさに神話における英雄と怪物の戦いそのものだった。

自らのサーヴァントの最強を信じる少女は面白くない顔をしている。

最強のサーヴァントであるバーサーカーが、サーヴァントでもない正体不明の少女騎士をさっさと潰すことができないのに苛立ちを感じているのだろう。

「…何者ですか。彼女は」

少女の騎士に対する疑問はランサーとそのマスターも同様だろう。

食い入るようにセイバーとバーサーカーの戦いを見つめている。

…セイバーの正体を知っているのはこの場では私だけだ。

まさか、騎士王だとは誰も思わないだろうな。

受肉したうえに、ああまで変質されてはもはや別人だ。

そもそも、前回のサーヴァントが今回のマスターであるなどと誰が考えるだろう?


勝負は拮抗したままだ。

純粋な力勝負。

どちらも譲ることなく、一歩も下がることがない。

下がった瞬間に互いの剣をもらってしまうだろう。

永遠に思えるこの戦いは、実はいつ終わってもおかしくない綱渡りの戦いなのだ。

天秤がどちらに傾くのかは、コインを投げて表が出るか裏が出るかのように不明だ。

バーサーカーのマスターの非常なる言葉が刺さるまでは。

「いいわ。…狂いなさい、バーサーカー」

敵の実力を認めたバーサーカーのマスターは遂に己がサーヴァントに全力を出させる。

少女の言葉に応えるように、バーサーカーの勢いが目に見えて増した。

竜巻のような剣はさらに勢いを増して、セイバーに襲い掛かる。

「くっ!」

先程まで五分だった戦いは、あっという間に形勢を変えた。

勢いを増したバーサーカーの一撃をセイバーは完全には押さえきれていない。

なんとか、剣を合わせるので精一杯になっている。

「先程までは理性を奪っていただけだというのか…」

ランサーのマスターの驚愕するような呟きは、こちらにとっても同じ思いだ。

あの化け物が、まだ全力でなかったなどというのは悪夢に近い事実だ。

我がマスターは刻一刻と劣勢に立たされている。

「このままじゃ、てめえのマスターはやられちまうぜ」

ランサーに言われるまでもない。

今こそ、サーヴァントとしての勤めを果たさなければならない。

しかし、バーサーカーに並みの攻撃は通用しない。

通用する攻撃方法はあるにはあるが、セイバーを巻き込んでしまうだろう。

そんな隙は怪物に利を与えるだけだ。

機会はほんの一瞬だ。

バーサーカーとセイバーが離れる瞬間を狙うしかない。

「I am the bone of my sword 」

投影した剣に魔力を篭める。

ランサーとそのマスターに切り札の一つを見せてしまうことになるが仕方ないだろう。

この場は、マスターの命が最優先される。

弓を限界まで引き絞る。

セイバーはまだ、バーサーカーに食い下がっている。

まだ撃てない。

まだ。

……。


遂にセイバーはバーサーカーの一撃を完全に防ぐことが出来なかった。

バーサーカーの一撃を剣ごと胴にもらってしまった。

セイバーの体は面白いように吹っ飛び、ボールのように地面を弾んでいく。

その様子を見届けることなく、アーチャーは撃った。

セイバーがバーサーカーから離れるそのタイミングを狙っていたのだ。

必殺のタイミングだった。

いかなる、バーサーカーとて攻撃の直後のバランスを崩した状態。

加えて至近距離からの音速をゆうに超える一撃だ。

避けることなど不可能。

放たれた一撃は巨人の左胸に突き刺さり、その動きを完全に止める。

「■■■■■■■■!!!」

否、バーサーカーは止まらなかった。

すでに致命傷とも言える一撃を受けながら、その足を前に進める。

心臓に刺さった剣など存在しないかのような動き。

まさに規格外の怪物というしかないだろう。

だが、それすらもアーチャーの計算に入っていたのだ。

ブロークンファンタズム

その瞬間大爆発が起こった。

爆発の中心はバーサーカーの胸に刺さった剣。

宝具の存在そのものを爆薬にした破壊力はAランクの宝具に匹敵する。

爆発はひとたまりも無く巨人の上半身を完全に吹き飛ばした。

「ウソ」

バーサーカーのマスターは驚きのあまり目を見開いている。

信じられないものを見るような目。

アーチャーの一撃は確実に最強のバーサーカーの命を絶ったのだ。


アーチャーはすぐに自らのマスターの元に駆け寄っていた。

「大丈夫か。マスター」

「…無論だ」

鎧の腹の部分は砕けて、血がにじんでいるが大したことはなさそうだ。

見た目は禍々しいがセイバーの黒い甲冑は強固な鎧である。

バーサーカーの一撃を受けながら上半身と下半身が真っ二つにはならずにすんだのだから。

むしろ、激しく地面に叩きつけられたために出来た全身打撲のほうがひどい。

骨折しなかったのが不思議なくらいだ。

セイバーは肩を貸そうとしたアーチャーを振り払う。

剣を杖にして何とか立ち上がる。

激しく痛む全身を魔力で強引に修復しながら、前方を睨む。

「バーサーカーはどうなったのだ?」

屈辱と憎悪に染まった声。

これまでとは比べ物にならないほどの殺意に包まれている。

「まあ、一度は殺したはずだが…」

爆発による煙が納まっていくなか、巨大な影が立っていた。

「馬鹿な!?」

驚愕の声はランサーのマスターのものか。

バーサーカーは煙の中に立っていた。

心臓に刺さったはずの傷も無ければ、吹き飛ばされたはずの上半身も健在のままだ。

以前と同じ最強のサーヴァントとして君臨していた。

「褒めてあげるわ。アーチャー、1回とはいえバーサーカーを殺すなんて」

少女はクスクスとおかしそうに笑っている。

「でも残念ね。後、11回殺さないと、私のサーヴァントは倒せないわ」

「なっ、それではあなたのサーヴァントは!」

「そうよ、協会の魔術師さん。私のサーヴァントはギリシャ最大の英雄ヘラクレスなんだから」

余裕なのか幼稚なのか。

アインツベルンのマスターは自らのサーヴァントの真名を告げた。

ヘラクレス、英雄の仲でも最高クラスに入るであろう勇者。

それが、バーサーカーとしてブーストされているのだ。

鬼に金棒のほうがまだ可愛げがあるというものである。

「まとめて、潰そうかと思ったけど。面白いものも見れたし、騒がしくなりそうだから今日は帰るわ」

くるりと背を向けて去っていくバーサーカーとそのマスター。

誰も後を追うものはいない。

この場での最強が誰なのかは全員が理解していた。

少女達はゆっくりと深山町の方向へと消えていった。


「今日はここまでだな。結界も吹き飛んじまったし」

やれやれといった様子で槍を下ろすランサー。

ランサーのマスターが張った人払いの結界は、先程の戦いによって跡形も無く消え去っていた。

第二ラウンドというわけには行かないようだ。

「…ええ、それではいずれまた。アーチャーとそのマスター」

動揺の色を隠せないまま、ランサーのマスターは背を向けた。

規格外の怪物、バーサーカーの攻略法を必死に考えているのだろう。

霊体化して消える直前にランサーとアーチャーの視線が交錯する。

決着はいずれつけることになるだろう。

そして、彼らもまた夜の闇へと消えていった。

橋の中央部はサーヴァントたちが争った傷跡が残されている。

まるでその辺りだけ爆撃を受けたかのような惨状だ。

「人が来る前にこの場から離れたほうがいい」

「…そうだな」

セイバーは武装化を解除して元の服装に戻る。

戦いの結果としてドレスはボロボロになっていた。

それを忌々しげに見つめた後。

厳しい表情のままでセイバーは歩き出した。

仕方なく後ろに付き添うアーチャー。

無言のままで二人は歩き続けた。

橋を過ぎて新都に入ってもどちらも口を開くことは無い。

坂を上って教会が見えてくる。

そこでセイバーはピタリと立ち止まる。

主に従って足を止めるアーチャー。

何事かと思っていると、セイバーはようやく口を開いた。

「…次は必ず勝つ」

振り向かず、後ろにいるアーチャーに告げる。

殺気だった声。

憎悪とそして何よりも屈辱によって、声は少し震えていた。

バーサーカーとの戦いについてのことだろう。

アーチャーの援護が無ければ、おそらくあのまま止めを刺されていたかもしれない。

相変わらず負けず嫌いなんだなと思うと、アーチャーの口元が緩む。

そして、はっきりとアーチャーは告げた。

「何を言ってるのだ、マスター。今回も『我々』は負けていない」

自信の篭った声。

その言葉にセイバーの殺気が氷解する。

「…済まぬ。失言だったな」

自らの過ちを素直に認めるセイバー。

これは彼女一人の戦いではないのだ。彼女の騎士たるサーヴァントとの二人での戦いなのだ。

そのことを失念していたようだ。

セイバーは振り向いて、アーチャーと視線を合わせる。

その黄金の瞳。

夜空に浮かぶ満月のようだと思ったのは、あまりに詩的すぎるだろうか。

「…今日は貴殿に助けられた。礼を言う」

滅多に見せない笑顔を浮かべてセイバーは言った。

…まいった。

そんな顔されたらこちらとしてはお手上げである。

仕方なく、照れるのを隠しながら用意してあるセリフを読み上げるしかない。

「何を言う。私は君の騎士だろう。君のために戦うと誓ったではないか」

「…そうだったな。では、ご苦労だった。今日は休め」

そして、教会の中へと少女は入っていった。

中が少し騒がしいのは、心配性の弟のせいだろうか。

自分も中に入ろうかと思ったが、思い直して屋根へと上る。

夜空に浮かぶ黄金の月がやさしく辺りを照らしていた。


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