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No.1002の一覧
[0] 召喚 カレイドルビー[SK](2006/04/01 22:20)
[1] 第一話 「召喚 カレイドルビー」[SK](2006/04/01 22:26)
[2] 第二話 「傍若無人、蟲殺し」[SK](2006/04/03 23:24)
[3] 第三話 「ルビーとアーチャー」[SK](2006/04/10 22:21)
[4] 第四話 「一般生徒 衛宮士郎」[SK](2006/04/10 22:20)
[5] 第五話 「VSバーサーカー」[SK](2006/04/22 23:20)
[6] 第六話 「マスター殺し」[SK](2006/04/22 23:06)
[7] 第七話 「戦うマスター」[SK](2006/04/27 00:05)
[8] 第八話 「VSバーサーカー (二戦目)」 前半[SK](2006/05/01 00:40)
[9] 第八話 「VSバーサーカー (二戦目)」 後半[SK](2006/05/14 00:26)
[10] カレイドルビー 第九話 「柳洞寺攻略戦」[SK](2006/05/14 00:02)
[11] カレイドルビー 第十話 「イレギュラー」[SK](2006/11/05 00:10)
[12] カレイドルビー 第十一話 「柳洞寺最終戦 ルビーの章」[SK](2006/11/05 00:19)
[13] カレイドルビー 第十二話 「柳洞寺最終戦 サクラの章」[SK](2006/11/05 00:28)
[14] カレイドルビー 第十三話 「柳洞寺最終戦 最終章」[SK](2006/11/05 00:36)
[15] カレイドルビー エピローグ 「魔術師 間桐桜」[SK](2006/11/05 00:45)
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[1002] 第四話 「一般生徒 衛宮士郎」
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Date: 2006/04/10 22:20
「なんで俺生きてるんだ?」
 と彼は呟き、
「………………………………」
 その声が無人の廊下に木霊した。


   カレイドルビー 第四話 「一般生徒 衛宮士郎」

「すごい……」
「へえ、やるじゃん」
 私と兄さんが声を出す。
 私たちは舞台を屋上から校庭へと移していた。
 その目の前では、アーチャーさんとランサーが戦闘を繰り広げている。
 ルビーさんは援護をしない。おそらく、ここまで近接した接近戦では、魔術師たる彼女では手が出せないのだろう。
 結果、私と兄さん、ルビーさんを観客に、アーチャーのサーヴァントとランサーのサーヴァントが人を超えた戦闘を繰り広げる。
 遠坂先輩も声を出さない。彼女は自分が出来るのはサーヴァントを信じることだと知っている。

 私たちにちょっかいを出してきたのはランサーのサーヴァントだった。
 彼は笑って言った。
「まあ前哨戦みたいなもんだ。やられる気はないが、やる気もない。七騎そろうまで暇だしな」
 だから、たまたま見かけた私たちにちょっかいを出したのだと彼はいった。
 それが真実だったのかはわからないが、結論から言えば彼は嘘はつかなかった
 宝具も使わず、その槍の捌きだけを私たちの目に焼き付けて、
 言葉通り、彼はアーチャーさんとの戦いを途中で中断した。
 いや、正確に言うならば。
 誰かの鳴らした足音に、

「――――誰だっ!」

 中断せざるをえなくなってしまったのだけれども。

   ◆

 ランサーが消えた後、そこにはアーチャーのサーヴァントだけが残っていた。
「アーチャー、あいつは?」
「――――目撃者を追ったのだろう」
 遠坂先輩がアーチャーさんに問いかける。
 それはあまりに自明の質問だった。

 だが、アーチャーさんが答えると、遠坂先輩は一瞬身体を震わせた後、
「追って!」
 魔術師としてあるまじき言葉を発した。
「……」
 一瞬遠坂先輩の顔に眼を向けると、アーチャーさんはランサーを追う。

 遠坂先輩それに続こうとして……
「遠坂先輩」
 私の声に立ち止まった。

 遠坂先輩が、ちらりとこちらに目を向ける。その目に一片の迷いもないことがかえって私を戸惑わせた
「なに、桜」
「なにをするつもりですか」
「――――今の目撃者を助けるのよ。決まってるでしょ」
 遠坂先輩は当然のようにそう答え、返事も待たずにそのまま走り去った。
 走り去ってしまった。

 私はそれを見ながら呆然と立ち尽くした。
「…………」
「おい、桜。追いかけないのか?」
 兄さんの声に振り向く。
「……兄さん」
「あんっ? なんだよ、桜」
「遠坂先輩は今の目撃者を追いました」
「わかるよ。見てたからな」
 不愉快そうに兄さんが答える。

「どうして追ったんでしょうか?」
「あっ? お前バカじゃないのか。あいつは自分の陣地で人が死ぬのが嫌いなんだろ。とんだ甘ちゃんだってだけじゃないか」
「……目撃者は残してはいけない。遠坂先輩が見つけたのなら、きっと記憶を消すだけでしょうけど、ランサーは目撃者を殺すからですか?」
「ああ、そうだろ」
「見ていたのは、どなただかわかりましたか?」
「んっ? わかるわけないだろ。遠かったしすぐ逃げた。普通の人間にしちゃ賢いみたいだな。後姿もみえなかったよ」
「私もです。たぶん遠坂先輩も」
「でなんなんだよ。鬱陶しいな」
 苛立ったような兄さんの声。

「でも。でもランサーはもう殺しに走っていました。いまさら目撃者を殺すことはないなんていう問題じゃありません。どうする気ですか? ランサーを追って、目撃者の前で大立ち回りでもして、それから記憶を消して放免しようとでも言うんですか!?」

 ――――先に“処理”に走ったのがランサーである以上、私たちがしていいことなどなにもないのに。

 思わず声が高くなる。
 私は半ばつかみかかるように兄さんに詰め寄った。
 兄さんは掴みかかろうとした私の手を払うと、
「なにそんなに怒ってるんだよ。遠坂が甘いってだけじゃないか」
 そう言って私を怒鳴った。

 違う。
 首を振る。
 これはそんな問題ではないのだ。
 遠坂先輩は、あの目撃者が死ぬことで学校生活に支障が出るとかそういうことを考えていたわけじゃない。
 最後、遠坂先輩が立ち去るときの目がつげていた
「遠坂先輩はあの人が死ぬのを防ぐことしか考えていませんでした」
「あっ? なに言ってるんだよ桜」
「さっきの遠坂先輩は、」

 魔術師ではなかったということだ

 がくりと足の力が抜ける。
「――――信じられない」
 なんて甘い。
 追うのならすぐにサーヴァントに追わせればいい。
 だが、遠坂凛はまず自分のサーヴァントに問いかけた。
 なにをしているのかと。そして、ランサーは何をしにいったのかと。

 ありえない。

 彼女はあの瞬間目撃者を消すという魔術師の大前提を忘れていた。
 彼女は魔術師であると思ったのに、
 魔術師であると思っていたのに、
 だから私もマキリの修練を耐えられたというのに、
 私はすでに人の心なんて持ってなどいないのに、

 それなのに、今あの瞬間、遠坂凛は。

 ――――彼女の心は魔術師ではなく人間のものだった。

   ◆

 Interlude ***

 校舎に逃げ込んだ衛宮士郎はすぐにランサーに追いつかれた。
 そもそも霊体化が可能なサーヴァント相手の逃亡先に室内を選ぶのが間違っている。
 これでは追いつくどころか、先回りすら可能である。

「よう、坊主。なかなかいい足だな」
 ランサーは追いついた衛宮士郎相手にぬけぬけとそんなことを口にした。
 衛宮士郎は息も絶え絶えと、へたりこんでいるというのに。
 彼にはただ一欠けらの乱れもない。
 一般人ごときに槍を振るわなければいけないことにランサーは渋い顔をしているが、衛宮士郎にしてみればたまったものではあるまい。
 ランサーが槍を構える。
 衛宮士郎に武器はない。そもそも戦うことなどできるはずもない。

 個人による戦争、魔術師の戦争、サーヴァントによる戦争。
 それが聖杯戦争である。
 サーヴァントと戦えるのはサーヴァントだけ。
 そう。サーヴァントでなければサーヴァントとは戦えない。
 それはサーヴァントであれば、サーヴァントと戦えるということの裏返し。
 だがどの道、衛宮士郎がこのままでは死ぬということに変わりはない。

「まあ運がなかったな。見つけたのが俺じゃなく、俺の上があいつじゃなければそれなりの処置をされたのかもしれんが、――――目撃者は殺せとよ」

 念話でマスターと連絡をとったのか、ランサーは不愉快そうにそういった。
 ランサーはさらに一歩衛宮士郎に近づく。
 その距離はすでに彼の槍の範囲内。
 殺されることを衛宮士郎が理解して、
 ランサーが衛宮士郎を殺そうと自らの獲物に力をこめる。

 そして――――

 何よりも早く、一筋の黒い閃光で衛宮士郎の意識を刈り取った。

 Interlude out ***


   ◆


 兄さんと私がついたとき、すべてはもう終わっていた。
 遠坂先輩は私たちを廊下で待っていた。
 不機嫌そうに腕を組んでいる。

「遠坂先輩。さっきの人は?」
「……そっちの教室に放り込んであるわ。アーチャーはランサーを追わせた。――――ルビーは?」
 いわれて姿が見えないことに気づいた。
 ラインをたどる。

「……教室?」
 そのラインは遠坂先輩が目撃者を入れたはずの教室から続いていた。
 私がラインをたどったことがわかったのか、ルビーさんは霊体のまま教室から廊下へ出た。
 現界する。

「……ああ、ごめんごめん。ちょっとその遠坂凛の処置を見学したくなってね」
「ちっ、見てたなら手伝いなさいよね。おかげで虎の子の宝石を使う羽目になったじゃない」
「まあ、借りにでもしといて」
 ルビーさんと遠坂先輩が悪態を付き合っているとアーチャーさんが現れた。

「凛。新都に入るところまでは確認できたが、それ以上は無理だな」
 ああ、と理解する。どうやらランサーは目撃者を消してそのまま逃走したらしい。アーチャーさんはそれを追っていたのだろう。
「ああ、そう。じゃあ収穫はほとんどなしね」
「いいじゃんか。ランサーだって戦う気はないとか言ってただろ」

「ふん、アーチャーとの最後の瞬間はそうでもなかったみたいだけどね……まあいいわ。今日は私も帰る。……でね、桜」
「えっ、はい」
「目撃者のこと」
「助かったみたいですね」
 我知らず硬い声がでる。

「ええ、でそいつなんだけど……」
 ちらりと遠坂先輩の目が横の教室に流れる。
 いいにくいことがあるように口ごもった。
「――――いや、助かったんだから、今すぐ言わなくてもいいかもことしれないけど、……いや、一応。うん、言わないってのもあれだし……」
 はっきりしない。何を言いたいのか。

「なんなんだよ遠坂。そいつがどうしたっていうんだ」
 兄さんが不機嫌そうに言った。
 我慢できなくなったように、兄さんは横の扉を開ける。
 遠坂先輩は少しだけ狼狽して兄さんを止めようと手を伸ばしたが、それは当然間に合わなかった。
 その中には目撃者である死ぬべきはずの人間がいるはずだ。
 兄さんがそのまま中を覗き込む。

「…………」
 遠坂先輩の決定的な甘さに命を救われたその人物を見て、なぜか兄さんが絶句する。
「――――兄さん?」
 違和感。兄さんの異変を見て私の中におかしな感覚が込みあがる。
 そして、私も兄さんの後ろから教室の中を覗き込み、
「…………えっ?」


 そこに横たわる衛宮士郎の姿を見た。


   ◆

 Interlude 間桐慎二

 ――――そして、

 間桐桜はぶっ倒れた。
「おっ、おいっ!?」
 あわててそれを支える。
 すぐさま奇怪な格好をしているほうの遠坂が駆け寄ってきた。
「よく受け止めたわ慎二。あんたにしちゃ上出来よ」
「べ、べつに当然だろ。こいつは俺の妹だしな。そ、それより衛宮は……」
「生きてるわよ。……でも、やっぱり桜には強烈過ぎたか」
 制服を着た遠坂が平然と言う。
「なんかピリピリしてたし、すぐに言わなくてもいいと思ったんだけどね。慎二、あんたもう少し節操を持ちなさいよ」
「お前には言われたくないな、遠坂」
「あんたら桜が倒れてるってのにバカな話してんじゃないわよ」
 ルビーが本気で声を荒げた。

 桜の顔を覗き込む。青い顔をしていたが、いまは息も穏やかだった。
「ふんっ。信じられないって顔してたぞ、こいつ。いきなり気絶なんて何様のつもりだよ」
「何様かどうかはともかくあんたよりは上位ね、慎二。今の間桐家の序列は私と桜で最後にあんただから」
 桜がただ眠っているだけだということを確認した英霊の遠坂が軽口を叩く。
 だが流石に青い顔のままぐったりと力を抜く桜の姿を見て真剣な顔をして、
「アーチャーに遠坂凛。私たちはもう帰るわ。桜も寝かせてあげたい。一応こっちで説明だけはしとくから」
 本家の遠坂に向かってそう言った。

「――――そう。そうしてもらえると助かるわ」
「そう。じゃあね。――――ほら慎二。桜を背負いなさい」
 ちっ、と舌打ちをする。何様のつもりだこいつは。
「なにいってるんだよ。何で僕がそんなことしなきゃいけないんだ」
「あんた喚くにしてももう少し考えてからにしなさいよね。途中で襲われたらあんたが戦う気?」
「――っ! くそっ、桜のやつ、面倒ばっかりかけやがって」
 しぶしぶと桜を背負う。

「じゃあねルビー。桜のことは任せるわ。……明日からは敵同士だしね」
 遠坂が帰ろうとする僕たちに向けてそういった。
「――――いえ」
 それを聞くとルビーは少しだけ立ち止まり。
「たぶんそうはならないと思うけどね」
 とだけ口にした。

 Interlude out 間桐慎二

   ◆

 眼が覚めると、場面はすでに間桐邸へと移っていた。
 肝心な場面で眠っていた私には文句の言いようがない。
 黙ってルビーさんと兄さんから事の顛末を聞いていた。

「では、やっぱり衛宮先輩は……」
「ええ、遠坂凛が“治した”みたい。宝石を使ったとか言ってたし、ちょっと借りが出来たかもね」
「あっ? どういうことだよ。それ」
「? 桜って衛宮士郎に惚れてるんじゃないの?」
「ル、ルビーさんっ!?」
「……ああ、あほくさ。そういう意味か」

 まあいいじゃない、とルビーさんは笑う。

「でもまあ、ちょっとだけ指針が出来たかも」
「なんのですか?」
「たぶん今夜よ。七騎のサーヴァントがそろうのは」
「――――それは、」

 召喚した日に聞いていた。
 ここ数日言われていた。
 つまりそれは、

「先輩が?」
「今日衛宮が呼び出すってことか?」
「ええ、さっき思い出した。たぶん遠坂凛がサポートするのかな? きっかけはわかんないけど、それが今日だってことだけはなんとなく」
「遠坂先輩がサポートというのは?」
「学校に衛宮士郎を置いてきたって言ったでしょ? 遠坂凛も魔術師なら記憶を消してほうっておくなんてことをしないで事情の一つでも聞くんじゃない? で衛宮士郎なら聖杯戦争を知れば傍観してはいられないでしょ」

 違和感。

 ルビーさんの言葉に何か決定的な見落としを感じた。

「……どういうことでしょうか? 衛宮先輩はランサーに衰弱死を装われていたんですよね? 魔術の残り香なんてまったくないように見えましたけど……」
「? 桜こそなに言ってるのよ。さっき説明したじゃない。あなたが倒れちゃったし、遠坂凛も戦う気がなかったみたいだから、私たちは衛宮士郎と遠坂凛をおいて帰ったんだって。そもそも衛宮士郎を見る限り、遠坂凛のサポートでもなけりゃあ参加は出来ないわよ」
「ちっ、衛宮が魔術師ってのは気に食わないけど、この遠坂の言うとおりだろ。衛宮一人で召喚なんてできるもんか」
 その瞬間会話の齟齬に気づいた。

「っ!? 違います。遠坂先輩は衛宮先輩が魔術師だってことを知らないんです」

 はっ? とルビーさんと兄さんが間の抜けた声を上げる。
「――。マジ? うそ……それだと」
 一瞬で状況を理解してルビーさんがつぶやく。
 衛宮先輩が魔術師だと知っているのと、一般人だと思ったままというので、その対応は大きく異なる。
 一般人には説明の機会が与えられない。衛宮先輩はただの生徒として遠坂の魔術師に処理される。

「? なにあせってるんだよ二人とも。知らないなら知らないで、衛宮の記憶消してほうっておくんじゃないのか?」
 違う。そもそも、衛宮先輩の姿を見たのは私たちだけではないのだ。
「衛宮先輩はランサーに狙われています。遠坂先輩があれだけ優先して先輩を追ったのも、おそらくすでに遠坂先輩が衛宮先輩を治癒したことも知られているでしょう。……敵から見れはひどい隙です。ランサーとそのマスターはきっと遠坂先輩がただその矜持のみを持って助けたなどとは思いません。絶対に衛宮先輩をアーチャーのマスターの急所である可能性を考えるはずです」
「遠坂凛が衛宮士郎を一般人として処理したと考えると、」
「外傷がない衛宮先輩をかくまうとは思えません。記憶を消して学校にそのまま放置していると考えるべきです」

「そうかっ! それでそのまま遠坂がいなくなれば」
「はい。ランサーが衛宮先輩を再度狙いに来るでしょう。そこで記憶を失った一般人を見るだけなら遠坂先輩の性格を考慮してただ助けただけだと理解できるでしょうが、そこで衛宮先輩が魔術師だということになればきっとランサーは容赦しない。――――そして、」
「衛宮の屋敷は結界が張られている。――あいつが偵察にきたら衛宮士郎に気休めにもならない警告を送り、侵入者であるサーヴァントに屋敷の主が魔術師であることを告げるでしょうね」

「ランサーが結界に気づかない可能性もありますけど」
「楽観ね桜。だとしてもランサーは殺すわよ、あいつと殺りあった私から言わせてもらえばね。一般人だろうとあいつらには関係ない。遠坂凛の援護でもなければ衛宮士郎は殺される。くそっ、私のときと流れが狂ってるのか……遠坂凛が衛宮士郎にホントに気づかないとするとちょっとやばい」
 その断定に決心を固める。

「ルビーさん、兄さん」
「――――ええ、了解。衛宮邸に急ぎましょう」
「くそっ、衛宮の癖に迷惑ばっかりかけやがって」

   ◆

 だが、衛宮先輩の家に着くと、すでにそこは無人だった。
 人の気配がない。だが、あせる私や兄さんとは裏腹にルビーさんはその屋敷を見るとその表情を落ち着けた。

「……?」
 ルビーさんが首をかしげる。
 ハアハア、と息を切らせる私と兄さんを尻目に、ルビーさんが動きを止める。
 私は鍵を取り出して、中に入りますか、と聞いたけれどルビーさんは首を振った。

「――――あせる必要はないみたいね」
「えっ?」
「召喚が起こったみたい。前後一時間ってところね。たぶん衛宮士郎のだわ」

 それはつまり――――
「衛宮先輩が?」
「たぶんね。戦闘の残滓もある。衛宮士郎のサーヴァントじゃなきゃここで戦闘は起こんないでしょ」
 予想通りって言うべきかしら。とルビーさんがつぶやく。

 兄さんが土塀をける。
「なんだよそれっ。くそっ、面倒ばっかりかけさせやがって、なかにいるのか?」
 ルビーさんは眉根を寄せる。
「うーん、いないみたい。サーヴァントの気配もないしね。マスターの気配はわりと隠蔽可能だけど、この距離でマジにサーヴァントを対象に索敵かければアサシンでもない限り感知できるわ」
 ルビーさんは胸を張ってそういった。

「でも予定が狂ったわね。どこいったのかしら? アーチャーの気配はないけど、あいつは呼ばれてかなりたってるし、残滓がない。来てたのかどうかはちょっとわかんないわ……でもタイミング的に絶妙ね。衛宮士郎には幸運の女神でもついてのるかしら」
「はあ……」
 先輩が生きているというルビーさんの言に安心するが、ルビーさん自身はこの夜おこったことを正確に読み取れないことに不満を抱いていた。確かに先輩がサーヴァントを呼び出したというのなら、それはどのような経緯だったのかがさっぱりわからない。

「でも、いまここにいないってのは何ででしょうね? 戦いにでも行ったのかしら」
 衛宮士郎ってそんなに好戦的だったっけ? とルビーさんが口にする。
「そんなわけないだろ」
 兄さんがその言葉に口を挟んだ。
「衛宮はたぶん戦うだろうけど、あいつのことだから自分から戦いにとかは行かないと思うぜ」
 街で無差別殺人してるサーヴァントでもいりゃあ話は別だけどな。と兄さんは笑った。
 だんだんといつもの調子を取り戻してきた兄さんと同様、衛宮先輩が生きていることを実感し、安心感が胸を包む。
 衛宮先輩がこれで完全に聖杯戦争にかかわってしまったことが悲しかったが、これはルビーさんからもいわれていたことだ。

「うーん、衛宮士郎についてはあんま覚えてないのよねえ……、桜の意見は?」
「あっ……私も先輩は敵を探しにとかはないと思うんですけど、見回り、って言うんですか? そういうことをしにいってる可能性はありますよね」
「ふむ、座布団一枚」
「間違ってるぞ、それ」
 兄さんが突っ込む。
「うーん、でも巡回かあ……ありえなくもなさそうだけど、そうしたら合流はちょっと無理ね。どっちいったかわかんないし。……帰る?」
 ルビーさんが言う。

「いいじゃん、ここまで来たんだ。僕らも歩き回ればいい」
「あんたほんとに幸せなやつね。桜やあんたと一緒じゃ戦うのは危なすぎるわ。特にあんたは邪魔なだけ。というか、桜を巻き込んだら焼き殺すわよ」
「ル、ルビーさん」
 あまりに遠慮のない言葉に驚くが、兄さんは反論しなかった。

「まあいいか、じゃあ第二案」
「ん? なんだよ」
「遠坂凛に会いに行きましょう」
 ルビーさんが言った。腕を組んだまま片腕を上げ、ピンと指を立てる。
「……遠坂のところか。戦う気かよ」
「えっ……戦うんですか? でも、それは……」
 私は思わず口を挟んだ。
 遠坂先輩とは出来れば戦いたくない。
 というよりもおそらく戦ったら負けるからだ。

 遠坂先輩は掛け値なしに強い。
 先ほど、ルビーさんが兄さんに向かってマスターが邪魔なだけといったが、それは私や兄さんのように明確な戦闘技能やサポートを行う技量を持っていない人物の場合だ。
 令呪はサーヴァントを律するためにある。マスターはそれを用いサーヴァントを使役する。と聖杯戦争のしきたりは言っているがそれはあまり正しくない。

 令呪の名目は、逆らえばサーヴァントを自害させるという枷を持って機能する。だが、実際はそんな令呪は使用されない。
 なぜならサーヴァントとは気質がマスターに似たものが呼ばれるからだ。
 令呪に念じるだけで殺せるといっても、サーヴァントが反逆する気なら、マスターに欠片も隙を開けずに殺すことなんて簡単である。

 だが実際サーヴァントが主を殺すことはほとんどない。
 マスターとサーヴァントの“気があう”からだ。
 善たるマスターからは、そのサーヴァントの中でも善たる属性を持ち、歪んだマスターからは歪んだ性質を伴って召喚される。そして、善同士、歪んだ同士協力し合ってことをなす。
 遠坂先輩の領分だが、平行世界からの同一人物間の選別に近い。
 だからマスター殺しなど、令呪を奪った元来の持ち主でないマスターか、よほど召喚の媒体に依存した分不相応なサーヴァントでもない限りありえない。

 ただ、敵のサーヴァントを奪った場合は説明をするまでもないだろうが、正規の召喚でも、たとえば歪みを持ったマスターが、歪む可能性がありえない英霊を召喚しようとすれば、それは召喚の失敗か、もしくはマスター自身と属性の会わないサーヴァントの召喚となる。
 この場合、サーヴァントを信じてはいけない。いつ反逆されるかもわからないし、サーヴァント自身も不満のあるマスターに対し、そのタイミングを計るだろう。

 まあ、召喚と同時に令呪でマスター殺しに枷をかけるとか、そのサーヴァントが殺傷能力に乏しいキャスターで、尚且つ魔力を制限されているとか、マスター自身が己の令呪からパスを通してサーヴァントを律することが出来るほどに優れているなどの例外がない限り、分不相応なサーヴァントを召喚すれば召喚と同時に殺されてもおかしくはない。

 だが、遠坂先輩のサーヴァント。遠坂凛がマスターとして不足など、そんなことありえるはずもない。
 媒体がなかろうが、あのサーヴァントについてつい数時間前にルビーさんがいっていた。
 それは最強のサーヴァントであると。
 それを疑うことはない。ただ己の技量のみで召喚をなしえたのならば、逆に媒体による補正を受けていないと考えられる。それならば、遠坂凛のサーヴァントが最強でないなんてことこそがありえない。

 そして反面に私が呼び出したルビーさんは、サーヴァントとしてはそれほど強いわけでもない。
 彼女の技は、今世界の遠坂先輩より洗練されている。だがそれはあくまで魔術師としてだ。騎士たる他のサーヴァントや神代の魔術師とは戦えない。

 基本的に遠坂凛の魔術は、媒体とする宝石に頼った魔術である。
 もちろん宝石は自分の魔力を長い年月をかけて蓄積させていくわけだが、遠坂先輩が幼少よりためたものならばおそらくBやうまく使えばAランクにすら届くだろう。それはルビーさんの扱う魔術と同レベルだ。もちろんルビーさんだって数を明かしてはくれないけれど宝石には限りがあるらしい。
 サーヴァントとしての宝具ではなく有限の奥の手といった扱いのようだった。

 つまりストック。これさえあれば人間たる枠にくくられる遠坂先輩や、サーヴァントとして特別秀でたところのないルビーさんもAランクの魔術を連発できるほどの異能を見せることができるが、ストックがなくなれば普通の魔術師と変わらないだろう。
 またこれは、ストックの宝石の質の範囲で遠坂先輩とルビーさんがほぼ互角だといっていいということでもある。

 そして、私たちはルビーさんがカードのエースだというのに、遠坂先輩にはさらにサーヴァントがついている。
 おそらく先輩はサポートに回るだろう。令呪による援護から、魔術によるサポートまで、彼女にこなせないわけがない。

 だから、どう考えても、
「ええ、そうね。悔しいけど、アーチャーと正面戦ったら負けるのはわたしたちなのよね」
 というわけだ。

 ルビーさんの苦笑いを見て、兄さんが声を荒げる。
「くっ、なんだよ。じゃあどうするんだっ!」
「まあ、お話? ほら、忘れたの慎二?」
 ルビーさんが兄さんにウインクをする。
「――――ちっ、まあ僕はそれでもいいけどね。遠坂に借りを作るのも悪くないし……でも手は見つかったのかよ?」
「あんたもいたでしょ。今日のあれよ。遠坂凛の協力が要るわ。帰ったとか言ってたし、遠坂低にいるはずよ。あいつがミスった衛宮士郎のことで恩をきせれば、殺しあわなくてもいけると思う」
 ルビーさんが答える。
 兄さんはそれを聞くと、ふんっとそっぽを向いてしまった。

「……えっと?」
 私だけが取り残されたような感覚。
 だが、ルビーさんは笑いながら「こっちの話よ」と私の疑問を打ち切った。

「まあ、いきなり攻撃されないことを祈るだけね。これで七騎そろっちゃったってことだから、正式に聖杯戦争が始まったって身構えててもおかしくない。顔も割れてるし、こっちを確認していきなり命を狙った攻撃ってことはないでしょうけど、遠坂凛のサーヴァントはアーチャーだからね……威嚇だろうと、いきなり撃たれたりしたら笑えないなあ……」
 ルビーさんが言った。

 私はそれを聞いてふと思いついたことがあった。
「あのルビーさん」
 遠坂先輩の家へ向かおうとしている兄さんとルビーさんに声をかける。
「んっ? なに桜」
「あの、衛宮先輩なんですが、教会へいったという可能性はないでしょうか? 先輩も教会に魔術関係の神父様がいらっしゃることはご存知でしょうし、参加の登録か、聖杯戦争についてを調べにいっていてもおかしくないかと……」
「桜、偉いっ! それ採るわ」
 ルビーさんが私の言葉を遮って叫んだ。

「ふーん、桜にしては冴えてるじゃんか」
 兄さんが頷く。
「呼び出して一時間もしないで索敵よりも、よっぽどありえるわ。教会か――――えーと、確か監督役の代行者だかがいるのよね。――――陰険な女だっけ?」
 ルビーさんは言った。

「いえ、言峰神父は男性ですけど……覚えていらっしゃらないんですか?」
「そんなことどうでもいいだろ。どうするんだよ、遠坂?」
「まあ、最終的な目的は遠坂凛に会うことだけど、衛宮士郎からでも構わない。同盟組むなら遠坂凛より簡単そうだし、衛宮士郎を懐柔すればアーチャーたちとの交渉も楽でしょうしね。――よしっ、帰りぎわを強襲しましょ」

 それじゃ。とルビーさんは黒いドレスを翻して歩き出した。

   ◆

 Interlude 衛宮士郎

 教会からの帰り道。
「いいわ、これ以上の忠告は本当に感情移入になっちゃうから言わない。せいぜい気をつけなさい。いくらセイバーが優れているからって、マスターであるあなたがやられちゃったらそれまでなんだから」
 そういい捨てると、遠坂は俺たちに背を向ける。

 それは完全に忠告だったが、苦笑いだけをして言葉を受け取る。
 俺の笑いを聞いても遠坂はもう反応しなかった。
 その視線はすでに俺とセイバーからははなれ、ただ新都を見つめている。
 馴れ合いは最後だと遠坂の背中が言っていた。
 それをみて、俺は遠坂が自分のためにどれだけ本来は必要のない行為に時間を費やしてくれていたのかを思い出した。

「ああ、じゃあな遠坂。また明日」
 感謝のかわりに俺はその背中に声をかけた。
「……宣戦布告のつもり? ってそんなわけないか。セイバー、あんた帰ったらマスターとじっくりお話しすることを進めるわ」
 呆れたような遠坂の声。

「……ええアーチャーのマスター。私も丁度そう思っていたところです。それではまた“次の機会”に」
 セイバーの言葉に「ええ、そうね」と遠坂はつぶやくと、最初の一歩を踏み出して、

「……」
 その場でその足を止めてしまった。

「……」
「……」
「……」

 そして、俺も、セイバーも、アーチャーですらも同様に足を止めざるを得なかった。
 理由は明白。なぜ今まで気づかないでいられたのか。
 遠坂凛の視線の先。
 そこにありえざるものがいた。
 そう、

「ねえ、お話は終わり?」

 俺たちに向かい、そう呟く少女とともに、あまりに異形のサーヴァントが立っていた。

 Interlude out 衛宮士郎


―――――――――――――――――――――――――――――――――

 本話で初インタルードにして、終わりまでにすでに三つ。これから先はチョコチョコ入ってくると思います。
 桜たちが思いっきり誤解する話です。ルビーがいるからってそんなに先は読めませんよ、ということで。また、士郎が教会に魔術師関係の神父がいると知っているという点も桜の誤解ですね。令呪の解釈についても今後の展開に関わってくるので設定を明確にしておきたいということで、入れさせてもらいました。
 桜の意見です、といって逃げられるのが一人称のいいところ。一応アーチャーがキャスターを裏切るところや、ファンブックのサーヴァントが召喚主に依存するというネタを絡めて組み立ててみました。受け入れてもらえるでしょうか? 
 次はもう5話ですね。そろそろ解説的な話は控えていきたいところです。
前話最後でランサーが思わせぶりなことを言いつつ今回は戦闘シーンはゼロだったので、次回はホンのちょっとは戦ってもらいたいと思います。


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