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No.1002の一覧
[0] 召喚 カレイドルビー[SK](2006/04/01 22:20)
[1] 第一話 「召喚 カレイドルビー」[SK](2006/04/01 22:26)
[2] 第二話 「傍若無人、蟲殺し」[SK](2006/04/03 23:24)
[3] 第三話 「ルビーとアーチャー」[SK](2006/04/10 22:21)
[4] 第四話 「一般生徒 衛宮士郎」[SK](2006/04/10 22:20)
[5] 第五話 「VSバーサーカー」[SK](2006/04/22 23:20)
[6] 第六話 「マスター殺し」[SK](2006/04/22 23:06)
[7] 第七話 「戦うマスター」[SK](2006/04/27 00:05)
[8] 第八話 「VSバーサーカー (二戦目)」 前半[SK](2006/05/01 00:40)
[9] 第八話 「VSバーサーカー (二戦目)」 後半[SK](2006/05/14 00:26)
[10] カレイドルビー 第九話 「柳洞寺攻略戦」[SK](2006/05/14 00:02)
[11] カレイドルビー 第十話 「イレギュラー」[SK](2006/11/05 00:10)
[12] カレイドルビー 第十一話 「柳洞寺最終戦 ルビーの章」[SK](2006/11/05 00:19)
[13] カレイドルビー 第十二話 「柳洞寺最終戦 サクラの章」[SK](2006/11/05 00:28)
[14] カレイドルビー 第十三話 「柳洞寺最終戦 最終章」[SK](2006/11/05 00:36)
[15] カレイドルビー エピローグ 「魔術師 間桐桜」[SK](2006/11/05 00:45)
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[1002] 第三話 「ルビーとアーチャー」
Name: SK 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/04/10 22:21
「覚えてないもの」
 と彼女は笑い、
「――――――――へぇ、そうなの」
 と彼女も笑った。


   カレイドルビー 第三話 「ルビーとアーチャー」

 ここで、私のサーヴァントであるルビーさんについて少しだけお話をしようと思う。
 真っ黒のドレスに赤い瞳。武器は持たず、得物は宝石。そして名乗りは魔法少女のカレイドルビー。
 武器として使用する宝石には魔力がこもり、その魔力はおそらくCからBランク。魔術師としては破格だが、サーヴァントとしては少し弱いだろうか。
 ちなみに料理は中華が得手で、時々私の代わりに料理を作る。ヒマなときは兄さんをからかって、真剣なときは……まだ、見たことがない。
 いままでマキリの修練を行っていた時間に、ルビーさん自ら間桐桜に魔術を教え、兄さんはそれを見ている。初日に兄さんがルビーさんに何か言っていたようだが、反対に叩きのめされていたようだった。

 そして、ルビーさんは私から片時も離れない。
 彼女はどんなに頼んでも私のそばを片時も離れなかった。学校や外出はもちろん、夜寝るときも、お風呂も着替えもトイレでさえも、彼女は絶対に私から目を離そうとしなかったのだ。
 ただひとつ心配だった点として、衛宮先輩宅への訪問があったが、これにもルビーさんは同行するといって聞かなかった。
 幸い、先輩も、先輩の家にはってある結界もルビーさんを感知することは出来なかった。
 衛宮の前主である衛宮切嗣の残した結界さえ突破できればルビーさんが衛宮先輩に悟られるということはない。
  さすがにお風呂やトイレに関しては私も抗議をしたが、ルビーさんは決して納得しなかった。
 そのとき、ごめんなさい、ごめんなさいとルビーさんが私に向かってまとわりつくことを謝罪するので、私はやはり許してしまったのだが……

 そう、彼女はまるで何かを恐れるように私から目を離すことを嫌っていた。
 ただ、それはよく考えれば当然なのかもしれなかった。アサシンが襲ってくることを恐れたのかもしれないし、衛宮先輩の家で突然サーヴァントに襲われることを危惧したのかもしれないし、ただ単にサーヴァントとはそういうものなのかもしれない。

 それが私が初めて見る、ただ人間味が殺されたサーヴァントだったら、納得できるものなのかもしれないし、サーヴァントを人間と捕らえ恥ずかしがることそのものが愚かなのかもしれない。
 だけど、ルビーさんをただの使い魔と割り切れなどというのは、兄さんですら口に出さないくらい不可能なことだった。

   ◆

 ある日、弓道部の朝練を終え校舎に向かう途中、遠坂先輩に出会った。もちろん学校内で生徒同士がであっただけだ。珍しいことなど何もない。
 昨日だってその前だって遠坂先輩のことは見かけたし、昨日などは遠坂先輩じきじきに弓道場まで足を運んでいた。もっともそれは美綴先輩とおしゃべりをしていただけで、私に用があったわけでもなかったのだが、それでも遠坂先輩と会うなどいうということはそれほど特記すべき出来事ではないはずだった。
 そう、

 その背後に、赤い外套をまとったサーヴァントをつれてさえいなければ。

 最初に、弓道場の入り口近くに立っていた遠坂先輩に気づいたのはルビーさんだった。
「桜。遠坂凛の後ろ。赤い英霊がくっついてるわ。私のときに呼び出したやつと同じサーヴァントね。クラスはアーチャー。遠距離も中距離も接近戦も、おまけにある程度の魔術と家事までたしなむブラウニーみたいなやつよ。あいつに本気でこられたら私じゃ一分持たないと思う」
 ルビーさんは弓道場の陰に佇んでいた遠坂先輩をその視界に納めると、私に言った。

 霊体化したサーヴァントは私では見ることは出来ない。
 だから私は遠坂先輩に目を向けた。
 同時に先輩も私を見る。
 当然だ。
 ルビーさんがそのアーチャーのサーヴァントを見れたように、そのサーヴァントにもルビーさんが見えているはずである。
 もっともルビーさんが私の後ろに控えているというのは、遠坂先輩はあの日からずっと気づいていたことなのだろうけど。

 私と遠坂先輩が見つめあう。
 くいっ、と遠坂先輩があごを横手に向けた。その先には弓道場の裏手。雑木林がある。
 私は先輩の意図を了解し、軽くうなずいた。
 先輩がそれを見るとすたすたと歩いていく。私もそれに続いた。

「桜。どう見る?」
「ルビーさんのお考えは?」
「んー、いくら私を倒そうって言うんでも、このタイミングでってのはないわね。かといって話し合いってのもよくわからない……」
「そうですね。次は会うときは敵同士だっておっしゃってましたし、遠坂先輩」
「でも明らかに私たちを待ってたわよ、あの小娘。宣戦布告とか? サーヴァントを呼び出したから今日から戦いを始めましょうとか」
「んー、ありえない気もしますけど。遠坂先輩ならありえなくもない気もします」
「私ながらそんな甘いこといったら引っ叩いていいわよ。私が許すから」
「ルビーさん……」

 歩きながら、ルビーさんと念話で相談する。
 だが雑木林まではほんの数十歩。結論はでなかった。

 雑木林につくと遠坂先輩は消音の結界を張り巡らせた。
 後ろでルビーさんが反応したのがわかった。
 私も思わず身構える。
 結界の意図はなんなのか?
 その意図は外の中での出来事を漏らさないようにするという以外に考えられなかった。

「へえ、もしかしてやる気なのかしら? 私ってこんなに好戦的だったっけ?」
「いえ、わかりません」

 念話で対応を練る。
 だが、先輩はそんなことはまったく気にせずに私の方を向いた。
 そして、

「アーチャー」

 自らのサーヴァントを呼び出した。
 ふわりと、古風な装備をした男性が現界した。魔力で編まれた人の形をしながら人を超越した人の御霊。
 筋肉質な身体を鎧と外套で覆っている。
 赤い外套は一級の対魔術装備。武器は持っていないようだった。
 そしてその目はあきれたように己がマスターを見つめていた。

 アーチャーが口を開く。
「で、マスター。彼女が君の言っていた間桐桜のサーヴァントかね」
「ええ、言ったとおりアーチャーがいなくても片手で捻れそうなやつでしょ」
 私たちを前にしてあまりにのんきな会話を始める。

「言うじゃない半人前」
 ルビーさんが現界する。
「それとアーチャー。一応久しぶりって言っとくわ」
 ふん、と遠坂先輩が鼻を鳴らした。
「やっぱあんたは覚えてるのね」
「まあ、顔とクラスくらいはね」
 ルビーさんが肩をすくめる。

「で、何のようなの遠坂凛」
 その目が言外にここでやる気なのかを聞いていた。
 だが、それを、

「まあ一応ね。桜のサーヴァントとしてあんたにあっちゃったわけだから、私のサーヴァントのことも見せておくのが筋かなって」

 遠坂先輩はあまりに簡単に否定した。
 なんでもないことのようにそういった遠坂先輩の台詞に私とルビーさんは絶句した。遠坂先輩の思考を宿しているはずのルビーさんですら、その言葉は予想外だったようだ。
 戦闘とか策略とかそういうことを考え続けて、この場所まで来たというのに、
 結界を張り、気持ちを落ち着け、戦闘も辞さない覚悟を固めたところだったというのに、
 彼女はその気概で、そのすべてをあまりに軽々と打ち破っていた。

「どうしたのよ?」
 本当に困惑したように遠坂先輩が首をかしげる。
 本当に困惑して、本気で首をかしげている。
 後ろでアーチャーのサーヴァントが嘆息するのにも、私とルビーさんが驚いている理由も、本当に理解できていない。

 ああ、と息を吐く。
 それがあまりに予想外で、
 それはあまりに遠坂先輩らしかったから、

「…………っくっくくく……あははははは」

 私は思いがけず大笑いをしてしまった。

   ◆

「ごめんなさい」
 私の笑いにたいそう気分を害したように、真っ赤になった遠坂先輩は顔を背けた。
「くっ、アーチャーといい桜といい……」
 ぶつぶつと遠坂先輩がつぶやく。

「まあ気持ちはわからないでもないけどね」
「同感だな」
 サーヴァント二人が同意する。

「うっさいわよ。あんたら」
「……で話はなんなのよ。まさかほんとにアーチャーの顔見せ?」
「ええ、いったでしょ。アンフェアなことは嫌いなの。私は遠坂凛だから――でもまあ本題もまたべつにあるわ。」
「遠坂は常に優雅なれ。だっけ? まああんたの勝手だけどね」
「ふん、家訓を忘れてるようじゃああんたも高が知れてるわね」
 また、喧嘩腰になりそうだったのであわてて仲裁に入る。

 私がルビーさんを制止したと同時に、遠坂先輩はアーチャーさんによって止められていた。
「凛、気持ちはわかるがもう少し落ち着きたまえ」
「くっ、わかってるわよ」
 アーチャーさんの言葉に遠坂先輩が苛立ちを押し殺して返事をした。

 その対応をルビーさんは鼻で笑う。
「桜。私は大丈夫よ。あいつと違って大人だからね」
「そういう台詞を遠坂先輩に聞こえるようにおっしゃってる時点で大人じゃありません」

   ◆

 そんなこんなをしているうちに予鈴が鳴りはじめる。
 すっかり忘却していたが、この場は学園内で今は朝の授業の前だった。

 遠坂先輩がその予鈴に顔を手で覆う。
「あー、もう。話をさっさと終わらせる気だったのに……」
「あんたの無駄口のせいね」
 ルビーさんが言って、
「あんたのチョッカイのせいでしょうがっ!」
 遠坂先輩が怒鳴った。
「……凛」
「…………ルビーさん」
「ちっ、わかってるわ。――じゃあ桜、続きは……そうね、お昼じゃあ人目もあって何かとまずいでしょうから、放課後に。……そう。今日の放課後屋上で、そこで続きの話をすることにしましょ」

 ルビーさんにちらりを目配せをし、軽くうなずく。
 それを確認して、遠坂先輩は「それじゃ」と一言だけ言い放ち踵を返す。

 そして、遠坂先輩は歩き去る。
 アーチャーさんがあきれたように頭を振り、その身を虚空に溶け込ませる。
 私には視認できないがルビーさんは見えているだろう。きっと遠坂先輩の後ろについたはずである。
 それを見ながらルビーさんは呟いた。

「で、結局その話の内容ってのはなんなのよ。遠坂凛」
「……なんでしょうね」

 残念ながらそれは遠坂先輩にしか答えられない呟きだった。


   ◆


「本当は桜も敵になるわけだし、こういうことはしたくないんだけどさ。やっぱりあまりにも厄介じゃない? だから、こうして話を聞きたいわけ」
 放課後。
 遠坂先輩は屋上についた私たちに開口一番そういった。

「あんっ? どういうことだよ遠坂?」
 私から話を聞いてついてきた兄さんが言う。
 兄さんが同席することに非常にいやな顔を見せた遠坂先輩が、さらに不機嫌に口を開く。
「んー、ルビー。あんた“覚えて”いるんでしょう?」
「…………まあ、イエスね」
 ルビーさんが頷く。

「アーチャーからも聞いたけど、生前の記憶ってのは磨耗して詳細な記憶は残らないらしいわね。……だけどすべてを忘れるなんてこともありえないはずよ。まして聖杯戦争レベルの出来事ならまるっきり覚えてないってこともないでしょ?」
「ふーん、敵方の情報をよこせって?」
 ルビーさんが当然の質問をする。

「はんっ、そんな眉唾もんいらないわ。あんた自身も召喚されてなかったそうじゃない。そんなの聞いて策を組んだら足元を逆にすくわれる。参考にしようがないわよ」
 だが遠坂先輩はそう言い放つと腕を組んだまま顔を背けた。
 どうみても言い出しにくいことがあって、それを誤魔化しているように見えた。

「ちっ、なんなんだよ遠坂。いいたいことがあるならさっさといえばいいじゃんか」
 ぎろりと先輩の瞳が兄さんを射抜く。
 だがそれで覚悟が決まったのか、遠坂先輩は言葉を続けた。
「……情報。あんたの記憶がほしい」
「いらないって言ったばっかりじゃない」
 あきれたようにルビーさんが言う。
「違うわ。敵じゃない。“アーチャー”のことよ」
「…………」
 なぜかルビーさんが黙った。

「? どういうことですか、遠坂先輩」
「なに言ってるんだよ遠坂」
 だが私たちの質問には答えずに遠坂先輩はルビーさんを見つめ続ける。

 数秒たって、ルビーさんはあきれたような息を吐いた。
「……なるほどね。そうか、まったく変なところできっちりしてる――――じゃあ、あなたのアーチャーも記憶がないのね?」
「ええ、あんた知ってるんでしょ。ちょっとこれが厄介でね。宝具も使えないって言うんじゃ話にならない。あなた知ってるんでしょ? 対価は払うわ」

「なにいってるんだよお前ら?」
 兄さんの疑問に追従してルビーさんを見る。
 ルビーさんは軽く遠坂先輩に目配せをした後、口を開いた。
「召喚のミスでね。遠坂凛のサーヴァントはその身に真名を記録していなかったのよ」

「…………」
 今まで黙っていたアーチャーのサーヴァントが無言のままこちらを見た。
 その目は鋭くルビーさんを睨みつけている。
 だが、その鷹の眼光を浴びながらもルビーさんは軽々しく肩をすくめた。
「悪いけど覚えてないわ」

「…………」
 ギリッと歯軋り。
 遠坂先輩の目が鋭くなる。
「ふんっ、いえないわけでも覚えてないってわけでもないわ。そんな眼されても答えられない。だってマジで知らないのよ」
「――――どういうこと」
「アーチャーは真名を思い出す前に死んだから」

   ◆

 無言で遠坂先輩とルビーさんがにらみ合う。
 私はどうしても腑に落ちず、その二人の間に割って入った。
「あの、一ついいですか?」
 ちらりと二人がこちらを見た。
「あの、アーチャーさんが真名を思い出せない状態なんですか?」
 遠坂先輩がにがり顔でうなずく。
「でも、それでなんでルビーさんに真名を聞いているのでしょうか?」

「……どういうことだよ、桜。思い出せないから知ってるはずのお前の遠坂に聞きにきてるんだろ。わざわざ敵だって宣言したおれたちを捕まえてまでさ」
「えっ……いえ、兄さんそれは違うと――――」
「なんだよ、僕が間違っているって言うのかっ!」
 兄さんが声を荒げる。
「――いえ、兄さん。召喚の影響を受けてサーヴァントの記憶に障害が生じることはありえるかもしれませんが、マスターがサーヴァントについて情報を持たないということはありえないです」
 私は兄さんを怒らせないようにいう。

 兄さんは私の言葉を聞いて、その内容を了解した。
「ああ、そういうことか。そりゃそうだな。なかなかやるじゃん、桜。そうだよ、召喚の媒体をサーヴァントに叩き込めばいいだけの話じゃんか。それで思い出せないって言うんなら桜の遠坂に聞いたところで意味ないだろ」

 苦虫を噛み潰したような遠坂先輩の顔。
「わかんないのよ」
 はあ、と兄さんが大げさに仰け反る。
 ルビーさんが口端で笑いながらこちらに顔を向ける。
「……まあこれは私もだったけどさ。遠坂凛は媒体なしで召喚したのよね。桜みたいに本来の媒体を超えて私が召喚されたわけでもなし。――――完全に媒体なしでやったわけ。だから推測も出来ないの」

「ええ、そういうこと」
 それを遠坂先輩がしぶしぶと肯定した。
「媒体を用意されなかったんですか?」
 あきれたような響きが混じってしまった。それを敏感に感じ取ったのか遠坂先輩は少しだけ頬を染めて私に向かう。
「いや、何か用意されてると思ってギリギリまで探したんだけどね。結局見つからなくて……」
 あはは、と乾いた笑いをするがその言い訳はどう考えても逆効果だった。

「聖杯戦争のための準備をされていなかったのですか?」
 時間は十年もあったのだ。
「いや、してた。というより聖杯戦争に向けて残されてた遺産の解読をしてたのよ。でその結果でてきたのが媒体じゃなくて、こいつだったってわけ」
 遠坂先輩がコートのポケットからペンダントを取り出した。

 スウ、とルビーさんの気配に真剣みが増したのを感じ取る。
 それは、とんでもない魔力を秘めた紅の宝石だった。
「私も魔術師になったときから宝石を用意してるけど、こいつはそんなもんじゃないわ。たぶんうまく使えば宝具クラスだと思う。まあこれはこれでいい物を残してくれたというべきね」
 一つ苦笑すると遠坂先輩はそれをしまった。

「……一つ聞くけど、それ使う予定はあるの?」
 なぜかルビーさんがそんなことを質問した。
「あるっていうか、たぶん聖杯戦争で使うことになると思うけど? もともとそれように残されたもんだし、出し惜しんで勝てると思ってないわよ」
 困惑したように遠坂先輩がいう。

「ああ、切り札に設定してるってことか」
「そりゃそうでしょ。……待って、ルビー。あんたも持ってたんじゃないの?」
「――――そうね。持っていたと思う。でも何に使ったかは覚えてないみたい。――――なるほど、昔の私がなんに使ったのかしらないけれど、“なんてもったいない”ことを」
 軽く記憶を探るように頭を振ってからルビーさんはいった。

「そう。まあ別にいいけど。で、遺産の解読に時間をかけすぎてね。媒体も用意できずに期限もやばくなっちゃったから媒体なしで召喚することになったのよ」
 それで、代償にアーチャーの記憶がないってわけ。と遠坂先輩は苦々しく笑った。
 媒体を持たずに召喚を行うという遠坂先輩の行動にもあきれてしまったが、それでもなお召喚をなしえてしまう技量に驚愕した。

 だが、マキリに培われた知識でも、無媒体による召喚は情報がない。
「サーヴァントとのパスが通っていることで、夢を通して英霊の過去を共感できるという話を聞いたことがあります」
「ああ、それね。それは知ってる……でも、未熟とかよっぽど精神が消耗してるとかでもない限りサーヴァントの意識が逆流するようなことはないわ。出来たところでそれは運任せだし、趣味じゃない」
 遠坂先輩が断言する。

 通常、意味もなく人の過去を暴くような魔術師はいない。サーヴァントに対しても同じことだ。もともと同じ人である。
 それに聖杯戦争のサーヴァントに対して、パスを介してを意識を覗くということは同時にサーヴァントからもこちらへの介入を許してしまうということもあり、通常の魔術師は嫌煙する。

 そもそもサーヴァントの過去を知ることにメリットがない。
 まあどちらにしろ、よほどの条件がそろわなければサーヴァントの影響など受けはしない。眠っているときに多少の影響を受けるが、特に特別な状態でもなければそれは本当にただの夢だ。

 遠坂先輩は未熟や精神の消耗から制御が外れるといったが、それもまた可能性としてはほぼゼロ。
 パスの制御など初歩の初歩。マスター側の意識の混濁や、サーヴァント側の霊体の消滅を招くような傷による暴走、もしくはパスのつなげ方も知らないような魔術師でもなければ使い魔との制御が外れることはありえまい。
 そして、サーヴァントがそのような傷を負うということは聖杯戦争においては死を意味し、そこまで未熟な魔術師はサーヴァントどころかこの遠坂凛が守護をする冬木の地に踏み入れることも出来はしないはずである。

「そうですね。それに無理やりサーヴァントの記憶をたどるというのもやはり無理だと思います」
「でしょうね。強固といってもパスはパスだし、そもそも絶対にサーヴァント側の防壁がかかる。……やっぱり夢から推測するしかないかな」
 遠坂先輩はそういいながらアーチャーさんの腕を軽く叩いた。
 だが、それはアーチャーさんのせいではない。魔術的な技術でアーチャーさんの防壁を破ろうとしてもそれはサーヴァントという存在格に阻まれる。
 その状態で意識をパスからたどるのはとても無理だろう。

「くそっ。絶対いけると思ったんだけどなあ」
 遠坂先輩が悔しがる。アーチャーさんの真名をルビーさんから聞きだすことを当てにしていたのだろう。
 兄さんや私、ルビーさんの前で召喚失敗という自分のミスを暴露しながらも、なんら有益なものが得られなかったことに落胆していた。

「いや、そうでもないだろう」
 ため息をはいていた遠坂先輩に向かって、アーチャーさんが言った。
「なによ。アーチャー」
「ルビーとやらの言葉だ。私が真名を思い出す前に殺されたと。……これでも宝具なしでそれなりに戦える自信はあるが、敵は?」
「聖杯戦争ってのは宝具戦でしょ? まあいいけどさ。――――でもアーチャー? 敵の情報はなしじゃなかったっけ?」
「ふっ、それは君と凛との約束だろう。なに、無様に負ける気はないが、君の言葉は限りなく未来を近似する。ここで見栄を張ることもなかろう」
 アーチャーさんが苦笑した。

「……そうね。OK、教えましょう。――――アーチャー。あいつが負けたのは私のせい。倒したのはバーサーカーのサーヴァントで、私が命じたのは肉弾戦の足止めだったの」
「随分詳しく覚えてるじゃない。それに足止めって聖杯戦争じゃそんな状況ありえないでしょ」
 遠坂先輩の言葉に同意する。たった一つのコマが負けたら終わりの聖杯戦争で、そのコマを使って敵の足を止めてどうするのだ。
 サーヴァントを捨て駒に、己だけが逃げるというのも遠坂先輩からは遠すぎる。

「まあ、詳しいことは省くわ。覚えているのは……私の勝手でしょ。――――そうね、アーチャー。言えなかったことを言っておく。あなたは最強のサーヴァントだった。ハズレなんていってごめんなさい」
 ずっと謝りたかったことなの。とルビーさんはつぶやいた。
 それに数瞬ポカンとした後、アーチャーさんは笑いながら頷いた。
「ああ、同じアーチャーのよしみだ。受け取ろう」

 アーチャーさんの笑いを見ながら、ルビーさんも口元を緩めた。
「……もしかして、こっちの私もいったのかしら」
「ああ、これは後悔させてやる必要はなくなったかな?」
「はっ、冗談。私はまだあなたの力を見てないもの。――――でもそうね、たしかに役に立つ情報かも。よくわからないけどあんたのアーチャーはバーサーカーにやられたってことか。記憶がないままってのなら当たり前かもね。どんなやつよ? 宝具とかマスターとかは覚えてないの?」
「なんだ遠坂凛。やっぱりあんたも聞くんじゃないの」
「ここまでいったら話しなさいよ。まさか出し惜しみする気?」
「まあいいけど。どっちみちそこまでは覚えてないわ」

「…………」
「肝心なところで役立たずって顔してるけど、相手がバーサーカーだって記憶があっただけでも僥倖だって思っときなさいよね」
 思えるわけないでしょうが、と遠坂先輩は毒づいた。

「ふーん、じゃあ結局どうするんだ?」
 話を聞いていた兄さんがいう。
「……そうね。もう貴方たちには用はないわ。明日からはほんとに敵同士。私たちはこれから新都に出ることにするわ。見回りも兼ねて街の状況を見に行てくる」
 遠坂先輩が答えた。
 それは新都の意識混濁事件のことを指しているのだろう。

「ふーん、おい桜の遠坂。僕らはどうするんだよ」
「えー、桜は? 従うけど」
 何か考え込んでいたルビーさんが私にいう。
「えっと……」
 本音を言えば、遠坂先輩についていって新都の状況を見に行きたいけど、きっとそれは馴れ合いだと怒られるだろう。
 まあ無駄に動くこともない。遠坂先輩が明日から敵といったからには明日からは戦いが始まるのだ。
 今日は帰ったほうがいいだろう。
 少し考え、私は意見を口にしようとし――――

「俺と殺りあうってのはどうだい、お嬢ちゃん?」

 ――――その言葉を、槍の戦士にさえぎられた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

 三話でした。セイバールートとか桜ルート見るとどう見ても弓凛が成立するように見えるんですが、駄目ですか? 私は実は士郎よりアーチャーが好きだったりします。
 まあというわけでルビーはほのかにアーチャーラブです。格付けとして、桜への愛情度が100だとするとアーチャーへは3くらい。ちなみに慎二は生前の経験から0.1から0.2くらい・・・・・・かな? ちなみに英霊として器に登録されているルビーさんの記憶に残っているだけでも普通より十分すごいことなので、+0.1の慎二もまあ相当のもんなんだろうと思っといてください。
 なのでルビーがアーチャーのことに関してだけ覚えていたのは、後悔の念からというより強い思い出からです。というわけでバーサーカーについてとかそういうのは全部忘却。原作のアーチャーも黒いタコのことは知っていても、聖杯戦争に関わってくることは知らなかったみたいですしね。

 それと、人気があるのかどうなのか。人気投票ではカレイドルビーに吸収合体された人工天然精霊マジカルルビーは出てきません。さすがにギャグで固有結界使うやつなんで・・・というかあんなの入れたらシリアスで行くつもりなのに話が崩壊してします。


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