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No.1002の一覧
[0] 召喚 カレイドルビー[SK](2006/04/01 22:20)
[1] 第一話 「召喚 カレイドルビー」[SK](2006/04/01 22:26)
[2] 第二話 「傍若無人、蟲殺し」[SK](2006/04/03 23:24)
[3] 第三話 「ルビーとアーチャー」[SK](2006/04/10 22:21)
[4] 第四話 「一般生徒 衛宮士郎」[SK](2006/04/10 22:20)
[5] 第五話 「VSバーサーカー」[SK](2006/04/22 23:20)
[6] 第六話 「マスター殺し」[SK](2006/04/22 23:06)
[7] 第七話 「戦うマスター」[SK](2006/04/27 00:05)
[8] 第八話 「VSバーサーカー (二戦目)」 前半[SK](2006/05/01 00:40)
[9] 第八話 「VSバーサーカー (二戦目)」 後半[SK](2006/05/14 00:26)
[10] カレイドルビー 第九話 「柳洞寺攻略戦」[SK](2006/05/14 00:02)
[11] カレイドルビー 第十話 「イレギュラー」[SK](2006/11/05 00:10)
[12] カレイドルビー 第十一話 「柳洞寺最終戦 ルビーの章」[SK](2006/11/05 00:19)
[13] カレイドルビー 第十二話 「柳洞寺最終戦 サクラの章」[SK](2006/11/05 00:28)
[14] カレイドルビー 第十三話 「柳洞寺最終戦 最終章」[SK](2006/11/05 00:36)
[15] カレイドルビー エピローグ 「魔術師 間桐桜」[SK](2006/11/05 00:45)
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[1002] カレイドルビー 第十二話 「柳洞寺最終戦 サクラの章」
Name: SK 前を表示する / 次を表示する
Date: 2006/11/05 00:28
「止めてください」
 ヤリナサイ
「助けてください」
 コロシナサイ
「許してください」
ナラ ワタシガ
「こんなことしたくない」
 アナタニ カワッテアゲマショウ


   カレイドルビー 第十二話 「柳洞寺最終戦 サクラの章」


 Interlude ルビー

 安心してと桜が微笑み、それがこの世の悪を具現する合図となった。
 それは、私の操る泥より百倍も稚拙さでありながら、千倍の層となった泥の群。
 敗北と死の象徴が、アーチャーたちに向かって流れていく。
 操っていては到達できない操泥の奥義。泥と同化しているという証明書。

「アーチャー!」
「承知っ!」
 刀剣、技術で防げるものではない。アーチャーは一息で遠坂凛を抱え上げ、一足で泥から距離をとる。
 同様に衛宮君を抱え上げたセイバーがアーチャーの横まで飛び退る。

 舌打ちを堪えるようにアーチャーが遠坂凛に問いかける。
「凛。あれは」
「ええ、そうね。逆流か汚染か。ちっ……桜っ、ルビーっ!」
 遠坂凛が大声を張り上げるが返事ができない。
 私に返事をするヒマはない。
 桜は完全に正気を失っている。
 それでいてその思考に乱れがないことがやっかいだ。

 ゆっくりと桜が視線を私たちに向けて奔らせる。
 その目の濁りが、間桐桜の内包するものの恐ろしさを伝えてくる。

「……桜、なにやってるの?」
 桜に声をかける。
「なにって? わからないんですかルビーさん。手助けです。私はルビーさんのマスターですから」
「……すぐにその泥を引っ込めなさい。それは、ダメ。本当に貴女には相性が悪すぎる」
 桜に向かって手を伸ばす。だがそれは桜の前に漂う泥に阻まれる。
 伸ばした手を拒絶したことに自分自身ですら気づいては居ないだろう桜は、困惑を湛えた瞳のまま私と自分の間に漂う泥を見た。

「悪すぎる? ちがいますよ、これは“良すぎる”っていうんです」
 だからこそだ。とは言えはしない。
 すでに、泥は桜の影のみならず、彼女の令呪からすら染み出していた。
 先ほど、私が桜をこちらに呼んだときの、そのままに。
 くそ、抜けているにもほどがある。
 桜がずっと耐えていたことを誰よりも知っていたはずなのに。
 この可能性を考えていなかったなんてマヌケにもほどがある。
 私はまた自分のミスで桜を苦しめていることを自覚する。

「それは、呪いの泥よ。そんなものを使っていれば、あなたの魂が汚される」
「……でも、これなら勝てますよ? これじゃなきゃ勝てません。ルビーさん負けそうだったじゃないですか。私のために勝ってくれるといったのに。私のためにここにいると言ったのに」
 その言葉に間桐桜のサーヴァントとして後ずさる。
「私は腐っても澱んでも、どれだけ磨耗しようと遠坂凛よ。だから、泥に自らを汚染させては戦えない」
「それで負けたとしてもですか?」
「ええ、そうよ」
「それで殺されたとしてもですか?」
「ええ、そうよ」

 じゃあ。と桜が微笑んで。

「それで、約束をたがえても?」
「……」
 予想してしかる言葉だったはずなのに、私はその言葉に含まれる悲しみの響きに返事を返すことができなかった。

「助けてくれるといったのに。救ってくれるといったのに。貴女も私を見捨てるのですか?」
「違う」
 そんなこと思っているはずがない。
 私が桜を見捨てるなど、そんなことは有り得ない。

「貴女は先輩たちに負けました。最初から全力じゃなかったから」
 それはアレでも勝てると思ったからだ。
 遠坂凛が私の前で宝石を掲げるその瞬間まで、私は自分の勝ちを信じていた。

「本当ですか?」
 信じていた。じゃなきゃ、負けるはずがない。

「本当ですか?」
 ……本当に?

「本当ですか?」
 負けるとわかっていたのなら、勝つために、私はその身を泥に浸していたのだろうか?

「本当ですか?」
 それはきっと無理だった。
 絶対に黒化衝動で反転しない自信がない以上、私は世界と桜を天秤にかけることなんてできなかった。
 私は桜より世界が大切だと断言しておきながら、最後の最後で世界より桜を選ぶこともできない半端者。

「ねえ、ルビーさん」
 私は桜を救うため、私は私のまま手を尽くし、今回はそれが届かなかった。
 それはこの世界のマトウサクラへの裏切りだ。

「それはホントに本当ですか?」
 世界のためだろうと私が桜を殺せないように、きっと私は桜のために世界だって殺せない。
 中途半端。どっちつかず。二兎追って一兎も得ることのないその矜持。
 絶対の覚悟を持っていたのに、それを避けようとして、最後まで桜を選ぶことができなかった。
 まだ大丈夫と言い訳して、できるなら世界も残したいなんて甘い思考で私は桜を見捨てていたのと同じ道を歩んでいた。

 その思いを自らの内に宿らせて、私は私の罪深さを自覚する。
 負けたら終わりなのは桜だけで、自分はいくらでもチャンスがあると? いつの日か、宝石剣による間桐桜の救済を願えばそれで全てが終わりだと?
 負ければ、この世界の間桐桜は救えない。そんなことは大前提だったはずなのに。

「ねえ、ルビーさん。この泥を浴びてから私は頭がとっても冴えてます。ルビーさん、わかるんです、私には。そう――――」

“あなたが、このままではきっと負けてしまうということが”

「ねえルビーさん、皆を置いて言峰神父のところに向かったのはなぜですか?」
 それは、先に泥を確保したいから。

「ねえルビーさん。追いついた皆にまず降伏をよびかけたのはなぜですか?」
 それは、無駄な戦いは避けたいから

「ねえルビーさん。貴女は私と世界、どっちが大切なんですか?」
 あなたは選べる人ですか? と言外に訴える桜の問い。

 呪いの泥が逆流する。桜に流れた泥が令呪を通して再度私を汚染する。
 マッチポンプ。桜が私から引き出した泥の逆流で、私が汚染されれば世話はない。
 ガクリと力が抜けひざをつく。手を見れば真っ黒で、足元を見ればもう先ほどから泥だらけ。

「くっ、桜! 正気に――――」
 宝石を掲げ、善の安定と呪いの抵抗をつかさどるガーネットを打ち出そうと手を掲げ、

「“動かないで”」

 それは桜の腕で泥にまみれる令呪によって止められた。
 ガクリと、石化したように動きが止まる。
「――――あっ、は。……んっ」
 対魔力などゼロに等しい私にはそれは絶対の法則だ。私の動きはその言葉に縫いとめられる。
 動くな、という短期の呪いを解こうともがく私に桜は笑う。
「話し合いの前に手を出すなんて野蛮です。ルビーさんらしくもありませんよ。決断できないルビーさんが私を止めるなんてできません。答えられないなら黙っててくださいね。私は世界より貴女を選びたい。私は世界より貴女を選べるから。――――ごめんなさい。でも、しょうがないでしょう? 私は先輩たちとはちがうから」

 私は、私の幸せを望みます。

 にこやかに、まるで夕食のメニューを奏でるように、桜が私に微笑んだ。
「だからルビーさん。貴女は私が全てを終わらせるまで待っていてください。――――そう、ほんのちょっとだけ」
 それが最後。
 だんだんと令呪の縛りが消えていく。「動くな」なんていう刹那の行動を律する令呪なら当然だ。
 だが私のあせりは消えはしない。
 消えていく縛り、解けていく拘束。だがそれでも間に合うはずがない。
 このマトウサクラに令呪による拘束なんて必要ない。
 だってほら。彼女には絶対の檻がある。

 パン、頭の中で音がなり、令呪の縛りがゆっくり解ける。
 そして、私が桜に向かって掲げていた宝石が輝いて、私が桜に向かって駆けていた状態そのままに。

 何一つ起こることはなく。
 令呪の縛りから開放されるとほぼ同時、私の体はあっけなく泥の中に埋没した。

 Interlude out ルビー


   ◆◆◆


「じゃあ、貴方たちは死んでください」

 轟。と大気が泥の力に震えるような音を出す。
 私の力に世界が怯えて声を出す。

 泥で編まれた天蓋が空を隠し、呪いで編まれた世界が先輩たちに向かっていく。
 力が溢れる。
 私の力だ。
 泥が私に浸っている。私が泥に浸ってる。
 剣を構えるセイバーさんも、弓を構えるアーチャーさんも、衛宮先輩も遠坂先輩も怖くない。
 私はいま絶対だ。

 意図せずに笑いが洩れる。
 天蓋からは魂を殺す槍が振り、大地からは魂を溶かす水が湧く。
 それをセイバーさんの聖剣が打ち払うが、そんなもので間に合うはずがない。

 聖剣で消し飛んだ泥が一息で元に戻り、セイバーさんを飲み込もうと襲い掛かる。
 それがアーチャーさんの矢が防ぎ、さらに続く泥の波を遠坂先輩が宝石を純魔力として解放し、なんとか耐える。

「――――桜っ、あんた」

 遠坂先輩が何か言ってる。
 セイバーさんが叫び声をあげている。
 どういうつもりなのかしら、とそんな滑稽な姿に笑みが洩れる。
 あの程度の泥を三人がかりでどうにか防いだくらいで勝機を見出したつもりだと?

 後ろに居た衛宮先輩が自殺志願者のようにかけだそうとして、それを二人で止めながら、彼女達が、衛宮先輩が私に向かって何事かを叫んでいた。
 そんな三人を尻目にアーチャーさんが矢を撃つが、その閃光のごとき一撃をポチャンという静かな音と、小さな小さな波紋だけを残し泥の壁が受け止める。

「ふふふふふ」
 馬鹿みたい馬鹿みたい罵迦みたい。もう貴女たちは私に殺される以外に道はない。
 私はすでに殺すことを許容した呪いの女。
 衛宮先輩の叫びも耳に届かず、遠坂先輩の怒号も聞こえない。
 戦いの使者たるセイバーさんも、先ほど私に何かしらの概念矢を放ったアーチャーさんも、攻撃も追撃も反撃もせずに私を苦渋の瞳で睨むだけ。
 なに、あれ?
 片頬が自然と上がる。

「わかってないなあ」
 私はすでに貴方たちに敵と宣告してるのだ。

 愚かなセイバー。
 愚直にマスターに従う剣の騎士。
 民を見捨てられない王に意味はない。
 許すことしかできなくなった王に価値はない。
 貴女だけはだめなのに。衛宮士郎の美しさを美しいと感じても、それをうらやましいと思うことは許されない。
 前回この泥をその聖剣で吹き飛ばしたブリテンの竜の王。聖剣を抜き騎士の王。
 自分の心を信じられずに、自分の歩んだ道すら信じられずにいるのがその揺れる瞳に見えている。性を偽る疑念の王。偽りを背負った王が民から信頼を得られるものか。答えを持たず、答えを出せず、偽りの答えにすがっている愚かな王。
 後悔を抱えし、マスターと相反するサーヴァント。そんなものが、私とルビーさんにかなうはずがない。

 敵だと宣言した相手に、殺したくないと口にする衛宮士郎。
 戦いがあり、殺し合う。その中ですら善を妄信する狂信者。
 現実より心情を優先させる夢の住人。
 イリヤスフィールをかばい、敵に情けをかける人として生きる魔術使い。
 それを美しいと思った。
 それを私は愛しいと思った。
 だけど、彼の理念は回りの人間を汚染する。
 ルビーさんが言ったように、アーチャーさんが危惧したように、
 彼は自分の信念を押し付ける。
 魔術使いが魔術師に人の道を説く愚かさを彼は知らない、気づけない。
 ねえ、先輩。
 あなたが何を言おうとなにをしようとそれはあなたの問題だけど。
 全て納得済みのルールの下で聖杯戦争という名の殺し合いをしているマスターに貴方が口を出す権利なんてないんです。
 貴方のことは好きだけど。
 貴方のことがとてもとても好きだったけど、
 でも、ルビーさんを選んだ私には、貴方を選ぶことはできません。
 そして、つまりそういうことで。
 許容できない貴方との決別が、殺すしかないなんて、とっても皮肉、と笑いが洩れる。
 だから、私をきっと殺せない貴方では、私とルビーさんの敵じゃない。

 思い返す。
 目撃者を追ったランサーを止めようとした遠坂凛。
 魔術師であり魔術師でなく、冷徹であれと念じていながら甘さを抜くことのできない半端もの。
 貴女はきっとできもしない契約を口にする。彼女はためらわず私を世界のためなら殺せるといえるだろう。そうして、最後には自分の心と相反する心と誓いにその身を死へと朽ち果てさせる。どっちつかずの甘い魔術師。
 口先で冷徹を気取っても、貴女は所詮魔術師にはなれないただの人。
 ねえ、先輩。
 何度アーチャーさんに戒めを口にされました?
 何度アーチャーさんに魔術師の心得を口にされました?
 貴女はきっとそれにわかっていると答えたでしょう。当然だと口に出したのでしょう。
 だけどアーチャーさんの危惧は当たり前。貴女は常に戒めを受けなければ人なんて殺せない。どちらかを選べといわれても選べない。
 だから、結局貴女は私を殺せない。甘さに付け込むようで嫌だけど、甘さに付け込まないなんて馬鹿な行為を許容するのはもっとヤダ。
 貴女はルビーさんには及ばない。
 だから私に殺される。
 貴女みたいなのに従うアーチャーのサーヴァントともども私が殺す

 すでに私がこの泥を受諾している以上、この先は決まってる。
 泥の中身が教えてくれた。
 私はあの人たちとは違うのだって。
 全てを救うなんて妄想に取り付かれて、一兎も得ることのできないなんて愚を冒さないために。
 私に、望むもの以外を切り捨てるその道を。

   ◆

 泥をとばす。空を覆うような泥を、地を埋め尽くすような泥をたたきつける。
 こんな力を制御するなんてルビーさんでもなきゃ不可能だ。まして私はすでに制御するための理性すらこの泥にまみれてる。
 だけど、そんなこと必要ない。
 だってこれなら。たたきつければ私の勝ちだ。

 私はもう、ルビーさんだけいればいい。
 制御も何もなく泥を持ち上げて、前方に流し込む。

「凛、いけるかっ!?」
「っ! 手はありません。士郎、宝具を使います」
 それをみて、アーチャーさんが何事か呪を紡ぎ、セイバーさんが剣を光らせる。
「無理。囲まれちゃってるわ、アーチャー、道をあけれるっ?」
「ダメだ、セイバーの剣だけでは止められん。切り裂いた泥を私が防がねば意味がない、セイバー良いな。凛、君が道を開けろ!」
「セイバー、大丈夫なのか!? 宝具なんて撃ったら……」
「やらねばここで全滅です。やるしか道はありません! シロウはリンのサポートを」

 二人のサーヴァントに破竹の勢いで魔力が装填されていく。なけなしの魔力を振り絞り私の一撃に耐えようともがいてる。
 だが、そんなものに意味はない。
 これを防いでも意味はない。
 ここから逃げても次はない。
 本気でこんなばかげた津波に立ち向かおうとする彼等は滑稽だ。

 私の後ろには無限の魔力が渦巻いている。
 だからほら。

「ねえ、逃げることなんて考えてるヒマありますか?」
 私は第一波の泥を防ごうとしている彼らに向かい、背後に十七層の泥の波を掲げてみせる。

 ギリと歯を噛む音が聞こえるような形相で、セイバーさんとアーチャーさんが私を睨む。
 遠坂先輩が宝玉の結界を編むさまが滑稽だった。
 津波に傘をさす様な真似をしてどうするのか。
 衛宮先輩は先輩で、まだ私に何事か叫んでる。
 泥の叫びでかき消され、それはまったく聞こえなかったが、きっとそう――――やめろとかナントカ……そういうくだらないことに違いない。
 可笑しさがこみ上げる。

「あは、あはははは――――」

 あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは

 やっぱり、力は重要だ。夢を適えるのに力が必要なのは当たり前だ。
 じゃあ、

“ミンナ、シンジャエ”

 泥が、手を失った魔術師たちを殺そうと天に向かって伸びていく。


   ◆◆◆


 Interlude 間桐慎二

 僕は走る衛宮の姿を見る。
 僕は戦う遠坂の姿を見る。
 僕は弓を構えるアーチャーの姿を見る。
 僕は剣を構えるセイバーの姿を見る。

 それが、桜を止めるための行動だということを僕はしっている。

 衛宮なんて負けてしまえばいいと思っていた。
 遠坂なんて負けてしまえばいいと思っていた。
 それが死ぬことだと知っていたはずなのに。
 それは、あいつらが殺されることだと知っていたはずなのに。

 衛宮が貧乏くじを引いて一人で弓道場の掃除をやっていたとき、僕はアイツは面白いやつだと思った。
 魔術師だと知っても、あいつとは仲良くやっていけると思ってた。

 それがだんだん狂い始めて、僕はあいつを疎ましく思うようになっていた。
 桜のサーヴァントが言っていた。
 衛宮士郎が魔術を使えるということを植えつけて、コンプレックスを刺激して、それはマキリ臓硯がそうなるように仕組んだと。
 バカバカしいと笑ってやった。
 だって当然じゃないか。

 そんなこと“わからないほうが”どうかしてるってもんだろう。

 仕向けられようがどうしようが衛宮を嫌ったのは僕自身だ。
 それをいまさら全部あの僕をゴミのように扱ったお爺様のせいにして、それで全てを丸く治めるなんてできっこない。
 これは僕の話であって、お爺様だろうが誰だろうが責任を持ってかれるのは不愉快だ。

 僕は聖杯戦争を知って、衛宮が死ぬだろうと思ってた。それを許容していたのだ。
 あんな甘いやつが生き残れるはずがない。人質取れば絶対勝てるほどにわかりやすいその心。敵に情けをかけるような甘い心。
 そいつが生き残れるなんてよっぽど上手く負けなきゃダメだ。しかもあいつは敗退したところで首を突っ込むほどのバカなんだから。
 勝利なんて夢の夢。上手く負けられればお慰み。
 ほら、こんな思考をしていた僕に責任がないなんてお笑いだ。

 僕の目の前で、桜が狂った。
 僕が昔あいつをぶっ壊したときとは別物の、魂の汚染。魂の変異。
 アイツが殺すと口にする。あいつはそんな言葉をどんなにボロボロにされたって口にしなかったって言うのに。

 アイツの我慢強さは狂人並みだ。僕がボロボロにした張本人の一味だからよくわかる。アイツは普通なら狂っちまうようなことにずっと背を丸めて耐えていて、それでも一度も責任を誰にも押し付けなかったお人好しだ。
 間違ってもあんなことを口にするようなやつじゃない。
 それなのに、いま僕の目の前でアイツが「死んじまえ」なんて口にする。
 小学生が言うように。中学生が呟くように。高校生が腹の中で唱えるように。
 誰だってそんなことを思ってる。僕だって口にした。だけどそれは戯言で、戯言でもそんなことを口にしないなんて潔癖は、アイツや衛宮士郎くらいのもんだろう?

 だけどアイツはずっと自虐的に泣いていた。自分が悪いと泣いているアイツの姿にイライラしていた僕だからよくわかる。
 そんなバカが、ホントに本気で真面目な声を絶対の意思で、自分のもっとも大切に想っていたはずのあの二人にむかって「しんじまえ」?

 そんなのおかしいだろ。ありえねえ。
 あいつはわかってるはずなんだ。
 十八層の泥がかつての桜の思い人と、かつての桜の姉の体を消しとばそうとするのを見て、僕はやっと気づいていた。
 僕はぜんぜんわかっちゃいなかった。
 衛宮が生き残れるわけないだろう、なんてせせら笑って、僕が死ぬなんて想像もしてなくて、なんて愚か。

 くそったれ。と毒づいた。
 衛宮のバカの言葉がよみがえる。
 あんな馬鹿げたやつだけど、魔術師にはなれっこないバカだけど。
 きっと、衛宮は正しいんだ。
 死んだら終わりだ。アイツがバカみたいに聖杯戦争でぶっていた善論は、人の死を許容しないものだけだった。
 遠坂だって、魔術師の癖に躊躇ばっかりしていたあの行動は、人の死に関わるものばかりだった。

 死んだら終わりだと叫ぶ衛宮の声を思い出す。そりゃそうだ。死んだ人間を戻すなんて魔法使いの技だろう。
 それを僕は本当の意味ではわかってなかった。
 死ねなんて簡単に口にしていた僕こそわかってはいなかった。
 次は殺す次は殺すって、絶対にその決心を鈍らせないよう自分に言い聞かせていた遠坂のように、
 殺すのはダメだと涙を流す、バカで愚直で能無しの魔術使いの衛宮のように。
 いまこの瞬間まで僕は魔術師の振りをしていただけだった。知りながら許容しようとしていた遠坂のようにでもなく、知ってそれを否定した衛宮のようでもなく。
 知った振りをして終わってた。

 衛宮だろうとお爺様だろうと死んでしまったらもう終わり。
 許容できるやつもいるだろう。
 許容せざるを得ないやつもいるだろう。
 だけど、桜はダメだ。
 あいつはよわっちくて、単純で、お人よしで、ただ黙って耐えてばかりいるようなやつだ。
 あいつは潰れちまうに決まってる。
 ルビーがいるんだ。あいつがこんなばかげた泥から抜け出すなんてのは絶対だけど、それまでに心がぶっ壊れちまえば意味はない。
 いくらルビーだって、壊れた心を戻せるとは限らない。

 くそっ、本当に貧乏くじだ。
 僕は立つ。もともと外傷なんてゼロなんだ。ただ一人傷一つないのに、誰一人気にしていなかった普通人。
 だけど、それでも――――僕は桜の兄貴なんだ。

 ――――くそったれ。ふざけやがって。やっぱり、あいつは、本当に僕がいないとダメダメだ。

 重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なって重なった泥の層が、一斉に打ち出されようとするその直前、
「さくらぁあああああぁぁああ!」
 僕は背を向けている桜に飛びつくように駆け寄って、その肩を掴み振り向かせる。
 くそっ、僕まで正気じゃない。
 だけどバカを妹に持った責任をはたすため、
 僕は桜に最後の一線を越えさせないためだけに、自分の命を賭けてやる。

   ◆

「ぐ、あぁぁあ……」
 ジュウと肉の焼けるような音がして、僕の腕が黒く染まる。物理的な炎ではない、魂が焼け焦げているのだということに伝播するように染まっていく腕を見て気づく。
「……えっ、兄さん?」

 そして僕が、サクラに向かい口を開こうとしたその瞬間、
「さくら、ちょっと待――――」
 それを遮るようにドンッ、と腹に響く音がする。
 えっ、と吐息を漏らし腹を見れば、桜の影が僕の腹を貫いていた。外傷はないが慰めにもならないほど真っ黒な泥が僕を汚す。
 思ったよりもこいつの頭は澱んでやがる。
 全身が弛緩し、口から胃液と血が逆流するのを自覚しながら今日まだ食事を取ってないのは正解だったと頭の片隅で呟いた。
 一拍後。とんでもない痛みで目の前が真っ赤に染まる。腕が厚い腹が痛い。
 ジワリと足に温かみが感じられた。小便でも洩れたんだろうと想いながら、僕は桜の顔を見た。
 無理やりに再度口をひらこうと、

「桜、おま――――」
「邪魔しないでください」

 ドン、ドンと今度は二発。桜の足元から伸びた影が僕のヒザを貫いた。
 人の話くらい聞けよ、このバカが。
「うぎっ……痛っつ。げ、がぁはあ」
 それだけ喋れたのが奇蹟だろう。
 喉からこみ上げるものを吐き出す。喉の奥から逆流した胃液はどす黒い血を含んでいた。
 概念の泥が実際に肉体に影響を与えている。
 足の神経が遮断される。ガクリとヒザを突き、そのまま桜に蹴りを入れられて仰向けに倒れこんだ。

「バカじゃないですか? 兄さんごときが私を倒せるはずなんて有り得ません。そんなこともわからないなんてホントに愚図です。……散々私にひどいことしておいて、ルビーさんのおかげで、ちょっと改心してたから私が油断するとでも想ってたんですか? それともあれですか? 私をどうにかして、泥をどうにかして、皆を助けてハッピーエンド。そんな夢は小学生で卒業したほうがいいですよ。それで自分が許されるとでも思っていたんですか? くだらないくだらないくだらない死ねばいい。………………罰は罪の対価として存在しますが、許しは罰の対価として払われるものではありません。貴方は絶対許されない。ほらっ、ビクビク動いてオシッコ漏らして無様ですね。私の気持ちがわかりました? それが報いです。それが罪です。それが罰です。あとは死んで清算されて終わりです」
 バカな勘違いをした桜が何事かほざいてる。だけど僕にはそれを理解するだけの理性は残っていない。
 痛い痛い痛すぎる。
 やってられるかクソヤロウ。
 体が勝手に痙攣を起こす。バカみたいに痛い。痛い痛い痛い、やばすぎる。
 辛すぎて気絶してきつすぎて叩き起こされる。ああ、戦いなんて最低だ。
 聖杯のためだろうとこんな思いをするなんて、どいつもこいつも魔術師ってのはイカれてやがる。
 自分の体がゼンマイ式のおもちゃのようにビクビクと動くのがグチャグチャに混乱した頭で少しばかり面白い。

 グリ、と桜が僕の足を踏む。
「ぐあっ。……ギ、げはあぁあ」
 グシャリ、なんて音が耳ではなく体を通して伝わった。
 運動部の癖にどんくさいやつだった桜は、そのまま僕の右足首を踏み潰した。
 すでに許容量を超えていかれちまった頭が、その感触を伝えてきた。
 痛みより気持ち悪さで僕は血反吐を撒き散らす。
 体が勝手にもがくが桜はその足をどけなかった。
 そのままグリグリと踏みつけると、アイツは笑う。

「兄さん、なんてどうでもいいんです。ちょっとでも躊躇すると思いましたか? 魔術師でもないくせに、人を殺す力もないくせにお仲間のつもりですか? 貴方はルビーさんが良く笑いかけていたから生かしておいただけです。ルビーさんが貴方を認めていたから殺さなかっただけです。ルビーさんがこちら側だと判断したから見逃していただけです。少しだって私は貴方を大切だなんて想っていません。貴方なんていつ死んだってかまわない。泥に飲み込ませて五分刻みで永遠に苦しめてあげましょう。このまま体中の骨を砕いて死ぬまで遊んで差し上げます――――私は兄さんを殺すのなんてぜんぜん平気。ぜんぜんちょっともほんの少しだって気にならない、平気平気平気平気平気平気平気平気平気平気平気平気平気平気平気平気へいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいきへいき、へいき、へいき、へいき、へいき、へいき、へいき、へいき、へいき、へい――――」

 言いながら、桜は僕の体を踏みつける。足が折れ腕が折れ、きっと内臓が破裂して、意識が吹っ飛ぶと同時に痛みに覚醒する地獄の中、僕は桜に向かって笑ってやった。
 それは筋肉の弛緩によるただの現象だったけど、僕は僕を笑う桜に向かって嘲笑する。
 声なんてもうだせない。満足に息を吐くことすらできないような状態だ。
 だけどそんなことはどうでもいい。
 悔しさも悲しさも感じない。
 だってこれは当たり前で。

 これは僕の予定のままだ。

 ざまあみろと思考する。
 この桜はあいつらを殺せない。
 正気が戻ったあとを覚えてろ。
 戻ったときに、百万言ついやして謝ったって許さない。

 桜じゃないお前はもう退場だ。
 世界を牛耳るような泥を味方につけたなんて言ったって――――

 ――――やっぱりこいつは大バカだ。

 なあ、あんたもそう思うだろ?

「気にしていない、だと? ――――まったく」
 僕を踏みつける桜の背後から、そいつのあきれるような声がする。
「――――なっ!?」
 桜が目を見開いて後ろを振り向く。
 バカが。
 僕に気を取られ、たった十五秒前のことを忘れてやがる。
 笑えるくらいの間抜けぶりだぜ、なあ桜。

「――――それが固執でなくてなんなのだ、サクラ」

 思考が極端に寄りやすいマヌケの背後。すでに衛宮のサーヴァントがその剣を振るってる。
 桜の癖に粋がるからだ。ざまあみろ。
 僕はもう一度、このバカに笑ってやってから、その意識を埋没させた。

 Interlude out 間桐慎二


   ◆◆◆


 Interlude セイバー

 サクラの放った泥の津波は、彼女が後ろに現れたシンジに目を向けたとたんに力を失い、その勢いを全て殺されたように地に落ちた。
 ザバンと地面に落ちた泥が跳ね、それが収まったときにはサクラは我々に完全に後ろを向けていた。

 私はその光景を見て反射的に地を蹴っていた。
 柳洞寺、境内裏。そこは狭いといっても桜との戦闘によりすでに森が削れて更地荒野が広がり、彼女と我々の距離は剣士の間合いには程遠い。戸惑う暇などありはしない。
 私は私の直感に従ってこれを罠ではなく好機とみて地を蹴った。

 サクラまでの道を直進して走りぬける。大地に残る大きな沼の前ギリギリで宙に飛ぶ。
 迂回などしているヒマはない。これは千載一遇。最後のチャンス。
 だがその沼は軽く見ても数十メートルは広がっている。ランサーではあるまいし、ここまで消耗した体では飛び越えられはしないだろう。
 が、予想通り、泥に足をつく瞬間、曲芸じみたタイミングで足元に矢がはえた。それを台にさらに飛ぶ。
 一歩を踏み込んだ瞬間にグニャリと曲がり、形を失って霧とかす。それは魔力に編まれた魔術を振るう弓兵の鉄矢である。
 さらに数メートル飛んだ先にもう三本。それを蹴って対岸に。ここまでの工程は完全無音。
 アーチャーの矢は私が踏み越えた瞬間に消えていく。鉄の硬度をギリギリ保つただの棒。
 アーチャーは強がっていたが、彼にはすでに魔力がない。ただでさえ彼はその剣製に数十秒の時間を使う。おそらく、彼は桜を打ち抜こうと貯めていた魔力を私の足場を作る矢に回したのだろう。
 私の意を汲み取った彼に感謝の言葉を心の中で呟きながら、私は走る。

 バーサーカー戦での剣群を思い返せば、アーチャーにはこの場をナントカできる宝具があるのかもしれない。だが、彼にそれをここでやれというのは無理だろう。この場で彼の剣製を待つ時間はない。
 私は剣を構え、同時に風王結界を開放してゆく。
 死ぬか生きるかわからない。その程度には手加減をしても良い。
 だが、再起不能になる程度にはダメージをおってもらう。

 私は心を固めながらマトウサクラに向かって駆けていく。
 ここで我々が負ければこの町は消え去るだろう。この時代にいる“専門家”がどの程度のものなのかは知らないが、サクラがこのまま暴走すれば、この町とマトウサクラ本人が消されることは確実だ。

 病的にシンジをののしり続けるサクラに向かって口を開く。
 彼女が驚愕の表情でこちらを向き、反射的に泥を展開しようとするがそんなものは遅すぎる。
 自動展開されていた泥がアーチャーの矢で吹き飛んで、泥の破片は風王結界に飛ばされる。
 障害は何もない。
 刃風をなびかせ我が愛剣を一閃させる。
 躊躇なく、私は彼女の腕を切断した。

「きゃあ――――ッ!」
 刃音も残さず軌跡も見せず、一瞬で令呪の刻まれた腕を切りとばす。
 くるくると腕が空を舞い、私は桜の腕の切断面を凝視する。

「くっ……」
 苦汁が洩れる。甘さからでも、しくじりからでもなく
 ルビーの泥を、令呪を通して継承したのを見て取っての行動だったが、やはり想定が甘かった。
 サクラはすでにその泥を体の一部として扱っている。
 ルビーから泥を引き出したことで、令呪とルビーとの間に泥専用の流れができていたのだろう。パスからルビーに進入し、逆にルビーを汚染したのがその証左。
 すでに泥の管理権が移っている。

 桜の腕は血の変わりに泥を吐き、その傷口を覆っていた。
 サクラが戦いの素人なのは確実だ。そのサクラが痛みに動けなくなるということもなく、傷ついた腕をそのままに憎悪の瞳を向けてくる。
 神経系まで汚染されていると判断し、私は再度剣を下段に構えた。

「あ、あ…………令呪、が」
 令呪とはサーヴァントを律するとともに、そのサーヴァントとの唯一つの絆である。
 それを絶たれたことが、ルビーにあれほど固執していた桜の衝撃はいかほどのものなのか。
 よくもやってくれた、とサクラの瞳が語りかけ、その口からは怨叫が吐き出される。
 だが、この距離で大砲のごとき技を持ったところで意味はない。
 この距離に来た時点で私の勝ちだ。
 攻撃の意を汲み取り、発動する泥は、意と同時に振るわれる我が剣より五拍は遅い。
 サクラはそんなことにも気づけない。怒りのままに泥を生み、私に向かって打ち出そうという意思でその瞳が染まってる。
 一瞬の逡巡に一拍の遅延、サクラを殺すという決断に三拍の停滞。
 そして間に合わなくなるその境。
 私はそれを許容せよと自分自身に言い聞かせる。

 その決断に苦渋が洩れる。
 汚染源を切り取り、それでなお汚染されたマトウサクラを止められなかった以上、すでに道はほかにない。
 アーチャーの矢を待つことも、ルビーの復活を待つヒマもない。
 決断への意思の曖昧さとは裏腹に、幾多の戦場で人を切った私の剣が鈍ることはない。
 私は数多の戦いで部下を殺させた、部下に殺させ、己の手を血に染めている王である。
 ただ、シロウに、サクラに申し訳ないという気休めだけを心に宿し、
 私は泥ごとサクラを断つ剣を振り下ろし――――

「――――やめろっ! セイバー!!」

 その一撃が彼女を切り裂く直前に、シロウに刻まれし契約の呪に止められた。

 Interlude out セイバー


   ◆◆◆


 アーチャーが鬼のような顔を背後に向ける。
 セイバーさんが停止した刀身に目を見開く。
 遠坂先輩だって、おんなじだ。信じられないって顔をして隣にたつその人物の顔を見る。

「この、馬鹿者が――――ッ!」

 アーチャーさんが叫びながら矢を放つ。
 歪な刀身を持った魔剣は、セイバーさんの剣よりもずっと遅れて吹き上がった私の泥に飲み込まれ、相殺されて泥と一緒に消え去った。

 そして最後のチャンスをつぶした張本人。
 衛宮先輩が私に向かって、何かを叫ぶ。

 やめろ。
 あはははは、それさっきも聞きました。

 桜、やめろ。
 あはははは、どうしてですか?

 やめるんだ。
 あはははははは、ねえ、先輩。貴方さっきからバカみたい。

 サクラ、なにをしてるんだ。
 そして、私は堪えきれない笑みを浮かべ、その愚考をあざ笑う。

 あはははははははははははははは。まったく、知ってはいたことだけど、あの人はどこまでも見苦しく足掻くのか。
 次善すら切り捨てて最善しか求めぬその思考。

「――――――なんて、愚か」
「くっ!?」

 やっとのことで令呪の縛りから開放されたセイバーさんが後ろに飛ぶ。
 だが、それは遅すぎる。
 だって、私の泥は私から飛び出るだけじゃない。
 彼女は私の泥を飛び越えてここにやってきたのだ。
 だから、彼女は私の前に立った時点ですでに私を殺すか、殺されるかしか道はない。
 つまり私を殺すことを禁じられれば、それは彼女の死と同義。

「逃げちゃ、ダメです」

 セイバーさんを取り囲むように泥の壁を呼び出した。
 セイバーさんが飛び越えた泥の沼を立ち上げて、檻で取り囲むようにセイバーさんの周囲を泥の柱で囲んでみせる。
 腕を切り取られたことで制御が鈍い。
 それでも、私になじんだ泥は十分に私の想いに答えてくれた。

「逃げられないですよ、セイバーさん」
「…………」

 せっかく私が、きょろきょろと打開策を探ってるセイバーさんを徒労から解消してあげようと声をかけてみたが、残念ながらセイバーさんは無言だった。
 アーチャーさんはバカの一つ覚えみたいに魔力を充填し、矢を錬る準備。
 遠坂先輩も衛宮先輩も、もうわかりそうなものなのに、懲りずに何かしらの馬鹿げた投降を呼びかけている。
 でもそんなものは全部無駄。
 兄さんは後ろで死にかけだ。ルビーさんがいやに気にしていた弓騎士も消えかけで、そんな弓矢じゃ私の泥は敗れない。剣の騎士なんてすでに死んだようなものだろう? 先輩たちに至っては私にたてつこうなど論外だ。

「千載一遇のチャンスって言うのは、二回も続かないものですよ。あきらめたほうがいいんじゃないですか、セイバーさん」
 くすくすと堪えきれず笑いが洩れる。
 外装の復元すら満足に行えていないようなセイバーさんは、それでも諦めてはいなかった。
 返事さえしない、恐れのカケラもないその瞳がひどく癇に障る。

「マスターに裏切られるなんて滑稽ですね。無様すぎますよ、セイバーさん」
「……シロウへの侮辱は許さない」
 私の言葉に反応し、セイバーさんはこちらに眼を向ける。だが、その内容は絶望でも懇願でも駆け引きですらなく、ただ私の言葉への反論だった。

「貴女が失敗したのは先輩のせいですけど?」
「違う。私の未熟のせいだろう。シロウがサクラを殺せないことは知っていたはずだった」
「わかったようなことをいうんですね……」
「気に障ったか、サクラ。だがこれはサクラこそが知っているはずのことだ」
 セイバーが平然と言う。
 その言葉に反論しようとして、私はいつの間にか歯をかみ締めていることに気づいた。
 声が出ない。
 聞くな、耳を傾けるな、すぐ殺せ、時間を空けるな、なにをやってる、機を逃すな。私の奥から真っ黒に彩られた声が響く。

「サクラ。貴女がいま感じている衝動、思考は偽りだ。ルビーが貴女にやめよといった意味を考えなさい。ルビーが貴女のいまの行いを是とすると思っているのですか?」
「…………」
「貴女の行為が最もルビーを傷つける。気づいていないはずがない。気づけぬはずがないでしょう。冷静になりなさい。貴女はまだ決定的に外れてしまったわけではない。彼も我々もまだ生きているしやり直せる。投降すれば危害は加えない。リンとルビー、それにアーチャーならばその呪いを解くこともでき――――」

 ガツンと、頭が揺さぶられた。
 何か私の奥の奥からおかしなものが這いでようともがいてる。

 ■■■。■■ろ。や■ろ。
 正■に戻■。
 ルビ■■■の■スタ■■して正気■■■。
 ■■んか■■■■■■■■。
 ■■■■■。
 ■■■。
 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■。

 だがそんなものは半秒にも満たずに消えて、
 バチリ、とエラーが修正される。
 だがそれでも、私は何か言いようのない不快感に襲われて、この気分の元凶であるセイバーさんを睨みつけた。

「…………るさいなあ」
「むっ? サクラ、なにを……」
「貴女は、うるさい」
「なっ、サクラ!?」
 私の心に反応し、地に広がる泥がジワリと浮き出る。

 それを見て、セイバーさんが剣を構える。
 やっぱりだ。騙されてなんかやるもんか。
「…………なあんだ。やっぱり、そういうことですか、時間稼ぎってわけですね、セイバーさん、先輩が令呪なんか使っちゃうもんだから、縛りが完全に解けるまで私を惑わそうとするなんて」
「サクラッ! 貴女は本気でそのような――――」
 図星を指されてセイバーさんが憤る。
 腰を落とし、妄言を語る愚を悟って、剣を構えて私を見る。

 危なかった。
 バカバカしくて愚劣で卑怯でくだらない戯言だけど、一瞬とはいえ動揺してしまった自分を恥じる。
 ルビーさんルビーさんとこのサーヴァントがうるさいから、少しばかり気を取られた。
 あいつが行ったのは時間稼ぎ。
 だからあいつの言葉は全部うそ。
 だから、ルビーさんが悲しむなんてのも、やっぱり嘘だ。

 危なかった、危なかった、あぶなかった、あぶなかった。あと少しで騙されてしまうところだった。とワタシの奥から声がする。
「残念でしたね、セイバーさん。ルビーさんを侮辱した罪を償いなさい。令呪なんか狙って私とルビーさんを切り離したつもりですか。彼女と私もいまだってこの子が繋げていてくれるんです。それは切っても切れない絆で、貴女の剣なんかじゃ絶対に絶てないような本当のものなんです。殺して終わりにする気だったけど、貴女は殺してなんてあげません。貴女のやったことをキチンと懺悔できるよう、じっくりといたぶって、じっくりとなぶって泥で汚染して私のペットみたいにしてあげますから」

 ルビーさんがやったように泥を飛ばす。それをギリギリで弾き飛ばし、セイバーのサーヴァントが後ずさった。
 泥は切り飛ばされるとともにその剣の刀身にへばりつき、ジュワジュワと心地よい音を上げている。
「くっ……」
「あら、こんなのでもう手いっぱいなんですか?」
 ポンッポンッ、と泥を浮かべる。制御に力をさけばルビーさんの真似事くらいはできるのだ。まあルビーさんにはとてもじゃないが、かなわないものだけど。
 それでも、この死にぞこないには十分だろう。
「ほおら、さっさと逃げないと当たっちゃいますよ、セイバーさん」

 私は、その球体化した泥をセイバーのサーヴァントにとばしながら、微笑んだ。
「――――さあ豚みたいに這いずりなさい」


   ◆◆◆


 Interlude セイバー

 泥の弾丸が飛んでくる。
 遅い。数も一度に三を超えることはなく、直線しか描かないその泥は、互いの連携すらなく、まるで児戯の延長だ。
 ルビーなら、十倍の速度で百倍の量で千倍の狡猾さをもって放てるだろう。

「くっ!?」
 しかし、それでいて、その泥はいまの私には十分すぎるほどの脅威だった。
 ルビーの放った泥が乾泥ならば、サクラの泥は湿泥だ。
 ただ稚拙でありながら、その泥は泥と同化した者しか放てない侵食の呪いがルビーの放ったものの万倍の濃度でつまっている。

 右足を狙う一撃を飛んでかわし、次いで上体をそらして残りを避ける。
 着地と同時に横に飛ぶ。一瞬前までいた地面が黒く染まった。

「ふふふ、粘りますね。往生際が悪いです、ほんと無様」

 桜の言葉を無視して、私は泥を避け続ける。
 魔力はすでに現界にギリギリの量しか残っていない。
 極力避けているが、どうしても剣で打ち払わねばならないものもあり、一合ごとに、恐ろしいほどの重さを持った泥により、私の魔力は削り取られるように減少していた。
 すでに私の魔力残量は聖剣を発動すらできないほどに弱まっている。
 このままではジリ貧である。
 私は内心を押し隠し、サクラの攻撃を、いつか終焉を向かえる死の一歩手前を装ってギリギリでかわし続けた。

“セイバー、聞こえるか?”

“ええシロウ”

“……さっきは悪かった。でも――――”

“謝罪は結構です。あなたの頑固さはわかっていますから”

 このような場だというのに思わず苦笑が洩れた。
 シロウの横にはリンがいた。きっと彼女が私の言うべきことを代弁してくれたに決まっている。
 シロウが私の言葉に口ごもったのとほぼ同時に、彼の思念が大きく乱れた。
 パスを通し、念話で呼びかけるが要領を得ない返事をするシロウに換わり、思わぬ人物からの声が私の耳に届く。
 それは遠坂凛の声だった。

“セイバー、聞こえる?”

“リン?”

“簡易だけど、シロウとパスをつなげさせてもらったわ。だけどこんな半人前を経由してだから、こっちから思いっきり干渉してもあなたに声を届けるので精一杯。魔力はほとんど送れそうにないわ。どれくらい持つ?”

“――――サクラがこのまま同じ手を打ち続けてもせいぜい二分。それに……”

“でしょうね。了解。アーチャーは貴女と違って私からの魔力供給があるからもう少しすれば宝具も放てるわ。逆転は無理でも突破口を開けるはず。悪いけど、もうちょっと頑張って”

“任されましょう。十分すぎる”

“それと…………サクラを殺そうとしたことは間違ってないわ。いけると思ったら躊躇しないで”

 リンが言わなくてよいことをわざわざ口にした。
 それは決心を伝えたかったのか、それとも私への免罪か。
 その言葉を伝えられた瞬間にシロウの意識が混線する。
 どちらが正しく、どちらが間違っているのか。
 どちらも正しく、どちらも間違っているのか。
 それは、今は関係のないことだ。
 私は返事をせず、剣を構える。

 背後を見るほどの余裕はないが、アーチャーが魔力を高めていく。サクラに気取られる恐れがあるが、ここは耐えるしかないだろう。
 どの道、いまのサクラは泥による影響下で思考が狭窄ぎみだ。きっかけさえ与えなければこのまま持つ。

 魔弾が飛ぶ。
 私は思考を脇にそらせるのをやめて、マトウサクラの放つ泥弾を、髪一房を代償にしてかわして見せた。

   ◆

 決め手などいくらでもあったのだ。
 ルビーが離反すると言った際、マトウサクラの処遇をなあなあで済ませるなんてことをしなければ。
 前アーチャーとの戦闘時、ルビーの挙動に気を配ってさえいれば。
 ルビーとの戦闘で、サクラの心に気を配ってさえいれば。
 サクラとの戦闘で、いや前夜だろうと前日だろうといつだって良かった。ただ事前にシロウと聖杯戦争のあり方について矛盾を抱えたまま終われるなんて幻想を持たずに話し合ってさえいれば。
 そして先ほど、甘さを見せず初太刀で彼女の命を刈り取れば。
 切っ掛けなどというものはひどく些細なものなのが普通だが、ここまで重なるとは、運がない。

「いや、ここまでしくじり続けて、いまだ全員が残っていることの幸運を見るべきか」

 一人ごちながら泥を避ける。
 しかし刻一刻と劣勢になっていることは否めない。
 もともとサクラの泥捌きが稚拙だったのは、純粋に戦闘になれていないから。
 どのような愚図でも同じ行動が通じないとわかっていてそれを繰り返し続けるものがいるだろうか。
 ましてサクラは愚図ではない。彼女だんだんと、ゆっくりながらも確実にその攻撃に鋭さを加えてきた。

 能力に依存するため、制御される泥の数は変わらない。それは同時に四つを越えることはなく、人の早さを凌駕することもない。泥と同化しようがそれは魔力の操作能力の問題だ。
 だが泥との親和性により変動する一撃一撃の威力だけが際限なくが上がっていき、制御の甘さが時間とともに消えていく。
 私に届かないとわかればその手は二度と使わない。私が飛んで避けなければならないような状態に、剣を使って泥をはじかなければならない状態に、と追い込まれる。
 一撃で終わらせる攻撃の中に、消耗を狙うものが混じり、それが的確に瀕死の私からさらに魔力を削っていく。
 それを私の勘と経験の差でなんとか防ぎ、かわしていく。

 そうして、演者である私にとって、永遠に等しいほどの演舞が終わる。
 何事もいつか終わりがある。
 終焉の幕引きがアーチャーか私かサクラかの違いだけ。
 終わりの始まりは私が一撃を受けたその瞬間。

 ドン、という衝撃が体に響く。
「っ!」
 思わず舌打ちした。
 一撃が幕を引くこの戦い。
 私の消耗とサクラの躁泥技の力が逆転し、私の膝が地についた。

「ああ、やっと捕まえました」
 サクラが笑みを浮かべる。
 たった四度、魔力の塊を剣ではじいただけで、それまでのあまりの魔力の消耗からか、一瞬現界へのリンクが途切れかけ、私が魔力をかき集めるその隙を逃さず、足が黒い影に埋まっていた。

「ぐっ……」
 泥が登る。まずい。足を切って脱出しようが後が続かない。
 一瞬のミスによる戦いの途切れは明確な終わりを示していた。

「大丈夫ですよ。私が魔力を注ぎ込んであげますから」
「……笑えないな、ごめんこうむる」
「そうですか、きっとすぐに気も変わりますけどね。私の靴をなめ上げるくらい調教して、さっきの言葉を謝らせて上げます」
 泥の侵食が始まるが、それを待つ気はないないようだ。
 足を侵され動きの取れない私に向かい、サクラは魔弾を掲げて見せた。
 動きの取れぬ身、装甲どころか現界ギリギリの残存魔力でどこまで防げるか、と剣を構える。

“セイバー!”

“シロウ。申し訳ありません、不覚を取りました”

“衛宮君、貴女が突貫してどうなる問題でもないでしょっ。アーチャーっ!”

“遠坂、早く!”

 シロウの激昂が聞こえる。
 それに対してリンは説得というよりも駄々をこねる子供に癇癪を収めることを懇願するような口調で戒める。
 続いて、リンからアーチャーが宝具を放てるまであと一分との声が届く。

“持たせられる?”

“天にでも祈るしかありませんね”

 サクラの気まぐれに期待すればいけるだろうかと考えて、あまりの甘さに苦笑する。

“足掻いては見ますが、私はここで敗退でしょう。だが、それでもその程度なら私の意志がサクラに支配下に置かれるよりもはやいはずです。リン、シロウ。貴方たちはこの機を――――”

 そこで自然に言葉が途切れる。
 私の視線の先で、マトウサクラがその瞳をこちらに向けている。
 リンたちと無言のまま念話をかわしていたワタシをじっと見つめるサクラの視線。それに私の直感が警鐘を響かせる。
 ――――これはまずい、と。

“リン! アーチャーに矢を放て、と!”

“な、なにいってるの、剣じゃなくて呪具なのよ? 不完全じゃあ三割だって期待できない”

“ですが、このままでは”

 その三割すら届かない。
 私がそのことを彼らに伝えようとして、その言葉を送るのとほぼ同時。

「セイバーさん。まだ、諦めていませんね」

 マトウサクラの声が響く。
 まずいまずいまずい。これはまずい。
 リンたちも気づく。
 だがアーチャーは矢を撃たず、リンたちもこちらに駆け出そうとはしなかった。
 ただ絶望とともにその光景を見守るだけ。

「ふふふふ、気づかないと思いました? 気づいてないと思いました?」

 心底嬉しそうな桜の声。他者の絶望を喜びとする、マトウサクラには有り得ないはず思考体系を疑問にすら思えていない。
 瞬間、爆音が背後から響いて、私はとっさにサクラに背を向けるという愚行を犯すことを許容して背後を見た。
 苦虫を噛み潰したようなアーチャーの視線と一瞬だけ視線が合って、そのまま弓を構えていたアーチャーも、シロウを抱きしめるようにしていたリンの姿も泥の壁に遮られた。
 私とシロウたちを区切っていた泥の柱、泥の沼が大きく広がる。

 私が先ほど飛び越えた泥の沼。そう、マトウサクラに戦いを挑むため、走ったときから知っていたはずだったその存在。
 厚い厚い泥の壁。
 それが私の背後で蠢いている。

 それはあまりに恐ろしい。
 世界を遮断するほどの汚染された純魔力。
 向こうからこちら、こちらから向こうへの干渉どころではない。
 我々とサクラを取り囲むように広がった泥はすでに結界。宝具の域だ。
 私はいまさらながらに彼女の制御するものの恐ろしさを思い知る。

「……泥が」

「ええ、これならアーチャーさんも破れません。お忘れですか? 私にはルビーさんのような制御はできないけれど」

 ただその出力においてはそれ以上。
 ルビーが最初に見せた世界を覆う泥の膜。それをサクラは技巧を使わず、ただ力のみで再現した。

 サクラの顔は消耗している。さすがにこれほどの泥を、同化しているとはいえ継承権をルビーから奪っただけの身で操るほうがおかしいのだ。
 肘から消えた左腕を胸に抱き、蒼白の顔で私に笑う。
 だが私のほうもすでに動きが取れるような状態ではない。泥の侵食はもはやヒザを超えて腰を過ぎ去り腹の一部まで進んでいる。すでに剣をもって害された肉体を削ることも不可能だ。
 時間稼ぎで得をするのはサクラも一緒だったということか、と苦々しい笑いが洩れる。

「奇蹟は二度も続きませんよ」
 サクラはこれ見よがしに、気絶しているマトウシンジに目を向けて、その半死の体躯にむかい泥を流す。
 小さな波がシンジの体を包み込み、浅瀬から消えるようにゆっくりと引いていったその後に、マトウシンジの体は消えていた。

 それを、無表情に見つめ、ほんの少しだけ黙ったあとに何かを吹っ切ろうとするようなため息を漏らしたことに、サクラは気づいていたのだろうか。
 失った腕をもう片方の腕で、きつくきつく握り締めていることにも気づいていない貴女が、本当にシンジを失ったことに心を揺らしていないといえるのか。
 だが、そんなことを聞くヒマなどは当然なく、

「もうこれなら万全でしょう。ああ、結果はわかってましたけど、こんな手間取るなんて驚きですね。でも、やっと勝てました」

 顔色ともその体が示す無意識の行動とも裏腹に、口調だけは狂気に満ちた彼女が私に向かってそういった。
 それに対して口を開こうとした私を待つなんてことがあるはずもなく。
 サクラは私に向かい三発の魔弾を繰り出した。

 Interlude out セイバー



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