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No.9605の一覧
[0] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~[Alto](2009/06/15 19:24)
[1] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第二話[Alto](2009/06/15 19:26)
[2] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第三話[Alto](2009/06/15 19:27)
[3] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第四話[Alto](2009/06/15 19:28)
[4] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第五話[Alto](2009/06/15 19:29)
[5] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第六話[Alto](2009/06/15 19:32)
[6] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第七話[Alto](2009/06/15 19:33)
[7] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第八話[Alto](2009/06/15 19:34)
[8] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第九話[Alto](2009/06/15 19:36)
[9] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第十話[Alto](2009/06/15 19:37)
[10] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第十一話[Alto](2009/06/15 19:39)
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[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第八話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/06/15 19:34
<インゴベルト少佐>

音を超えた世界より、戦場へ舞い降りたるは一人の少女。

「神の御前にて我誓いを立てん。」

その口に紡がれるのは誓いの言葉。

「誠の誓いを、重大なる誓いを、恐ろしき誓いを。」

その手に紡がれるのは敵対者の死。

「神の御前にて我恐ろしき誓いを立てん。」

その瞳はまるで氷の如く。

「王国の主に犬の如く仕えん。」

手に持つ鋼が三度吼えるたびに。

「街も城下も一掃し、敵の悪人どもを悉く噛み殺さん。」

また一人一人と我等は撃ち落されていく。

「勅命ならば我が命を捧げん。」

此方の攻撃は走る流星に撃ち落され。

「民の偉大なる王国のためならば――――」

既に残るは私と彼女と少女のみ。

「―――Amen.」

金色の髪を煌かせ、羽織った黒衣を翻す。
まるで舞台の役者のようで、しかしその眼光が否定する。
今この時この円卓で、きっとこの化け物は生誕の産声を上げたのだ。

――嗚呼、この場恐ろしきかなTerribilis est locus iste。

主よ、我等を憐れみ給えMiserere nobis Domine。





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第八話 円卓







<マリア大尉>

五倍と言う戦力比を覆す。
これはお互いの数が多くなればなるほどに難しくなる。
単位が万ならば、一人の英雄が百人殺しても焼け石に水だ。
しかし、今回はその限りではなく数は高々百の単位。
俺は対集団戦が大の得意であり、小隊連中はガルムの名に冠する者達なのだ。

……とは言え、まぁ馬鹿正直に相手をしてやることも無いだろう。
質の差で補えど数の差と言う脅威は消え去っては居ないのだから。

「……超長距離狙撃、ですかい?」

「……そうだ。」

俺の言葉にアントニウス少尉が多少訝しげな顔をしたが、直にニヤリと笑った。

「了解しやした、大尉が出来ると仰るのなら出来るんでしょう。」

ちっ、男前め……頼りになるぜ。

「先ず、私が超高速飛行で接近、2~3マイル程の距離で狙撃を開始する。」

俺の言った距離の非常識さに全員が一瞬固まるが、直に再び耳を傾けてくる。
まぁ、最低でも三kmスナイパーに挑戦な訳だから当然か。
だが、可能だ。

「先ず、長距離攻撃の手段だが……これを使う。」

そう言って俺はSPAS12とは逆方向の腕のブレスレットに手を伸ばした。
ちなみに、スパスは右、今回のは左側だ。

一瞬光に包まれ……現れたそのデバイスに皆一様に息を呑む。

「ま、マリア大尉、何すかそれ……。」

「アンチマテリアルライフル(対物狙撃銃)。」

「…………。」

質問したカール上等兵はそれが聞きたいんじゃねぇよと言った顔をした。
うん、その気持ちはとても分かるがそんな顔しなくても良いじゃん。

対物狙撃銃ステアーIWS2000。
全長1800mm、重量約18kg、口径15.2mm、総弾数5+1。
正に現代現実版馬鹿と冗談が総動員。

つぅかぶっちゃけ俺の身長よりでけぇ。

「試作品だが、使用に耐えうるだけの威力と安全性はある。」

こいつの威力を想像したのだろう、小隊連中の喉がごくりと鳴った。
命中率の面で言えばまだまだ不安が残るんだがな。
今回の相手は数が多い、恐らくは大丈夫だろう。

「そしてもう一つ。」

今度はアンクレットが光を放ち始めた。

……このデバイスは足がふっ飛びゃ使えんからな。

光が収まると、そこには膝の部分まである鋼鉄製のブーツ。

「……こいつの名前はAL-37FUだ。」

「……そいつぁ飛行補助用デバイスで?」

今度はブルーノ軍曹がそう質問してきた。

「……ああ、燃料はギリギリまで魔力を圧縮して作った特製弾丸。
 一応予備の専用マガジンも持ってきたが……まぁ今回は使わんだろう。
 超音速での飛行が可能になるが……当然の如く急制動を行えば体に負担が掛かる。
 こいつもまだ試作段階を抜け出してはいない。」

つぅか超音速飛行中にブラックアウトとかしたら洒落になんないから、バラバラになるから。
……当然の事だが実際のAL-37FU程の性能は有していない。
その設計は参考にさせてもらったけどな。

「私に関しては以上だ、貴様等には敵中隊の背後に回ってもらう。」

「!……なるほど、こいつぁ随分贅沢で、攻撃的な囮ですねぇ。」

アントニウス少尉が再びニヤリと笑って言った。
俺も努めてニヤリと笑いながら返す。

「しかも唯の囮ではないぞ。
 そのまま私も背後から強襲して、豚共を一匹残らず食らい尽くす。」

「狙撃、囮、隠密強襲、仕舞いにゃ挟撃ときた。
 なるほど、こりゃぁ少人数故に可能な作戦だ。
 ……まぁ、3マイルスナイプや音速飛行何ざマリア大尉にしか出来やせんがね。」

そう、少人数故の行軍速度と隠密性あっての作戦だ。
俺のスキルにかなり頼ってはいるが、現状で一番の作戦だろう。
敵がとち狂って突っ込んできたら?まぁこいつの速度を見てそうは思わないだろうが……。
ケツ捲くって逃げるさ、どうせ追い付けやしないんだから。

俺は一つ頷いて、作戦の開始を合図する。

「ガルム小隊の指揮は一時的に副官のアントニウス少尉に任せる。
 元祖ガルム小隊の実力を私に見せてくれ。
 では、作戦開始!」

【Aye!aye!!sir!!!】

さてさて、敵さんを天国までぶっ飛ばしてやりますかね。







ブリテン絶対防衛戦略空域B7R。
唯上空から眺めるだけならば中々に壮大な景色だ。
だが、此処では昔から多くの血が流されてきた。
この円卓の戦いで生き残る事は強さの証明であると言う。
……此処は何時でも戦いの最前線であるのだ。


……風が強いな。

雲の流れるスピードは一見緩やかだが、その実中々速い。
吹き抜ける風は何処か戦場の装いで、お世辞にも爽やかとは言えなかった。

「……行くか。」

作戦開始時刻だ。
此方は既に長距離スコープで敵を補足している。
…………レーダーに頼りすぎるのもある意味問題だな。

俺は少し浮かび上がって対物狙撃銃型デバイスとAL-37FUを起動。
……筋力を強化してもIWS2000は重く、だがそれが逆に大きな安心感となる。

「Who dares wins…….」

先ずは自分の限界に挑んでやろうじゃぁないか。

……痛いのはやなんだけどな。

これから戦場へ行くと言うのに随分と気楽な事を考えながら、俺は空へと上がった。
我ながら随分と図太くなったものである。

………それにしてもなのはとか、良くスカートで空を飛べるよなぁ。

うん、馬鹿になった訳じゃないと思いたい。



狙撃とは本来もっと厳しい条件下で行われる。
無論、何事にも例外は付き物であるのだが、大方それで間違ってはいない筈だ。
まぁ、戦場である此処ならば今のような状況下での狙撃も少なくないかもしれないが。
……いや、どちらかと言えばこれはただの射撃なのか。
狙撃は狙撃だが、狙撃と言うにはスマートではないかも知れない。

……一応狙い撃つが、余りにも大雑把過ぎる。
射線に入ったもの全てを薙ぎ倒すのはやはり、なぁ?

超音速で飛行を続けた俺は、あっと言う間に射程圏内までやってきた。
此処からなら彼等の顔も良く見える。
……見えてしまう。

俺はスコープを覗き込み、体を地と平行にした状態で飛行を続け―――

「Huic ergo parce Deus.(願わくは主よ、彼の者を憐れみ給え。)」

――撃った。

ショットガンのそれすら比べ物にならないほどの轟音が響き渡り、弾丸が空を駆ける。
2000m/sOverで駆け抜ける氷の死神は、迷わず敵兵に食らいついた。
当たったその場から彼ら若しくは彼女らはミンチになる。

……うん、あと少しで敵中隊まで2マイル半と言った所で俺は、超長距離『射撃』を開始したんだよ?

……何故結局射撃なのか?………当たらねぇからだよ!!
全く狙い撃ててねぇよ俺!

先ず指揮官っぽいおっさんを仕留めようとしたんだが、見事に左に逸れて外れ。
続けてもう二発程撃ったんだが、それもかなりの距離を逸れてしまった、畜生。
いや、敵兵に食らいついただけでもマシか……途中で曲がったから真っ直ぐにとは言えないが。
何か近くに居た俺より少し年上くらいの女の子ごと殺っちまおうと思ったのに。
近くで顔見る前に殺したほうが罪悪感が少ないのになぁ……。

そうこうしている内に連中はあっと言う間に散開。
恐らく彼は優秀な指揮官であり、彼等は優秀な歴戦の兵士達なのだろう。
真正面から行っていたら危なかったかもしれない。

ちっ!優秀な敵は二番目に嫌いな存在だぜ。

予想通り全速力で後退し始めた敵中隊。
彼等には悪いが逃がす訳には行かない。
此処で彼等を逃がすような事をすれば、俺はハロルド大佐等にとっての一番厄介な敵になる。

絶対的優位な状況で銃を突きつけてチェック、相手を殺してチェックメイトだ。
チェックで済ませる奴は戦場じゃぁ大抵死ぬ。
……寧ろ後ろから撃たれてもきっと文句は言えないんだろう。
少なくとも、俺はそう思っている。
……人間性に憧れる俺は、しかし何処までも人間性を恐れている。
人間とは正に狂気の生き物であり、人間性とは正に狂気の産物であるからだ。
理性と本能の狭間に狂気と言うものは生まれるのだろう。

……いや、今は関係ないか。

俺の体は既に追撃を始めており、既に敵を攻撃し始めている。
長年の訓練と戦場での経験の賜物だ。
……誇っても、良いのだろう。

撃つ度に轟音が走り、反動による衝撃が襲い掛かって来る。
銃底が当たっている部分は恐らく既に内出血している事だろう。
試作段階の為もあるが、この銃の反動は魔法でも殺しきれない。
……まぁ、AL-37FUによるバリアジャケット強化効果が完璧でないのもあるだろうが。
音速で飛ぶ際に、自前の防御力では心許ないのだ。
そういう意味で言えばこのデバイスは今の俺には過ぎたものだな。
…………開発したのも扱えるのも今の所俺しか居ないんだが。

「…………ん?」

引き金を引いても弾が出ず、予備のマガジンも既に無い。

……げっ!バカスカ撃ち過ぎて弾切れちまった!
やっべぇ、こいつの弾作るのにかなり魔力使うからなぁ……。
新しく作るにしても多少の時間と大量の弾丸が……。

内面の悩みや考えを、表に微塵も出さないと言う特技をデフォルトで身につけてしまっている俺は。
無表情で飛行を続けながら悩み、しかし時間が無いとさっさと行動する事にした。
弾丸は後で作れば良いのだ。

新たな弾丸を作ろうとイージスに手を伸ばした所で……。
狙い澄ましたかのように小隊の連中がレーダーに出現した。
高度な隠密魔法を使って隠れていたのだろう。
その存在は敵の中隊にも欠片も伝わらなかったに違いない。
ガルム小隊にはそういった魔法のスペシャリストが多く居るようだ。

「……頼もしい限りだ。」

全くな。
精々、あいつ等の足を引っ張らないように頑張るとしますか。

仮にも連中の小隊長である俺が、遅れをとる訳にはいかない。
俺はIWS2000を待機状態に戻し、ガーディアンを構えながら加速した。
まぁ、どちらもガーディアンシリーズではあるのだが。

……そうだな、景気良く誓いの言葉でも謡って行くかな?
別名罪悪感誤魔化しの歌だけど。


そんな感じで突っ込んでいった俺なのだが、やはり少女は殺せなかった。
指揮官が生き残っているのは俺の攻撃を防いだからなんだけどな。

……彼女の階級は…少尉、か







<インゴベルト少佐>

やってきた化け物は、人形めいた美しさを持つ少女だった。

その余りに異質な存在に圧倒されると共に、私は何処か物悲しかった。
……一体何が彼女を化け物へと変えたのか。
或いは、彼女を化け物と見るこの目と脳が化け物なのか。
……少なくとも彼女はクリスティーナ少尉を殺してはいない。

……―しかし、その目は氷の様に冷たく殺意を秘め、その顔は人形の様に完全な無表情だ。
それに、彼女が私の中隊に大打撃を与えた事は紛れも無い事実。

……やはり、私は悲しかった。
これもまた、戦争……っ!

そんな感慨に耽る間もなく、敵対者である彼女は襲い掛かってきた。
デバイスから、彼女の魔力光であろう私と同じ藍色と共に弾丸が走ってくる。
彼女の攻撃は人間の可視速度の範囲を超えていた。

……成る程、一撃一撃は高位魔導師にとって軽くとも、数を撃てば障壁は削れる。
反撃のし様も無いほどに撃てば、或いは何もさせずに殺すことも出来るだろう。
……そして低位魔導師にとって、その弾丸は三連射でも致死に足る。
彼女は恐らくこの戦争において、最も多くを殺せる人間だ。

豪雨の如き攻撃を、障壁を張って防ぐ私。

……だが、まだ甘い。
彼女が生まれたての化け物ならば、私でも殺せるはずだ。

私はより強固な障壁を更に一枚追加して、少女に向かって突撃した。
私の行動が少々予想外だったのか、少し目を見開く彼女が居て――何処か私は安心した。

此処で仕留めて見せよう、この幼い化け物を。

嘗て呼ばれた移動要塞の名に懸けて。

「雄雄おおおおおーーーーーーーーーーー!!」

進む進む弾丸の豪雨を防ぎつつ。
破られた障壁の下には新たな障壁、その下にも更に障壁を作り出す。

一枚一枚は並だが、重ねる事でこれを鉄壁の守りとする!

これこそが移動要塞と言われた私の守りである。
……もっとも、もう錆び付きかけて久しい名であるのだが。

少女は接近の不利を悟ったか後退しようとする―――

――逃がさん!!

少女の行動を読み取り、彼女の足をバインドで拘束した。

このまま接近して叩き斬る!

私は手に持つ両刃剣型デバイスを握り締めた。
長年に渡って使ってきたそれは、既に己の手足の様に感じることが出来る。

しかし、彼女は相変わらずの無表情で即座に反撃に移ってきた。
……まるで長年良く訓練された歴戦の兵士のような判断力だ。

彼我の距離は後、五メートル。

彼女の右手に似合わぬ大きさのデバイスが出現した。

それを見た私は、障壁を更に張り腕を顔の前に持ってきて攻撃に備える。

無骨なデザインのそれは、轟音と共に凶悪な弾丸を吐き出した。

「っぐぁ!」

轟音は九度続き、衝撃もまた九度続いた。
僅かに見えたその光景と、障壁全体が軋む事から散弾である事が伺える。
恐るべきはその威力、何よりその速射性。

凶悪な外見を裏切らない攻撃方法だ。
未だ嘗てこのような攻撃は受けた事が無い。
やはり彼女は此処で討ち取らねばならぬ。

障壁を超えて伝わってくる衝撃が、私にその感想を抱かせた。

――だがしかし、伝わってくるのはその衝撃のみである。

最後少々障壁を抜けてきた散弾もあったが、私の比較的強固なバリアジャケットに阻まれた。
傷は無く、痛みも無い。

勝った!

私はそう思い、腕をどけ彼女を見―――その手に握られた巨大な氷の大剣に目を剥いた。

既にバインドは断ち切られている。

っ!だが!
どんなに巨大な武器も扱いきれなければ意味の無い事!!

「雄雄ぉ!!!」

私は渾身の力を込めて切りかかり、しかし、彼女はそれを受け止めた。

「破ぁ!!」

連続して、切りかかる。
されど彼女は捌く捌く、私の様に流れるような動きではない。
無骨に、されど的確にその大剣を振るってきた。

っ!なるほど、彼女はかなりの経験を積んでいる戦士である。
武器に大剣を選んだのはリーチの差をカバーする為。
氷で出来たそれは鋼よりも遥かに軽く振るうに易い。
攻撃に転じないのは隙を生じさせない為。
技量の差があったとしても防ぐだけならば行うに易い。

そして彼女の目的は――。

「足止めと時間稼ぎか!!」

彼女は自分達の仲間が此処へ来るのを待っているだろう。
成る程その方法ならば危険は少ない、だがしかし、うちの連中はそう簡単にはやられはしな……っ!?

その時私の眼に入ってきたのは彼女のバリアジャケットについている部隊章。
赤い犬が鎖を噛み千切らんとしているデザイン。

ガルム小隊だと!?
くそっ!彼等が相手ならば連中には荷が重い!!
ガルムの隊長が代わったと言うのは本当だったのか!?

しかも、見たところ上手く機能しているようだ。
成る程彼女ならば彼等を率いる事が出来ても不思議ではない。

彼女が彼等のサポートに、彼等が彼女のサポートに回ったとすれば、恐ろしい。
彼女の多彩な攻撃能力に私の攻撃を紙一重で避ける機動性、ともすれば音を超え逃げる事も簡単なのだろう。
更に現れたときに使い、今も先程から彼女を補助している防御魔法。
今の様に二手に分かれていてもそれぞれがこの威力、同時に行動すれば一体どうなるのか。

「っ――!」

思わず背筋が粟立った。
彼等一個小隊は、損害を考えねば一個大隊であろうと殲滅できる。
そんな冗談ともつかない考えが浮かび上がってきたのだ。

何れにせよ、彼女に時間稼ぎをさせる訳にはいかず。
私は此処で足止めされているわけにはいかない。

彼女は相変わらずの無表情、私の攻撃を防ぎつつ氷の様な眼差しを向けてきている。
そこには何の動揺の欠片も無い

果たして私はこれに勝ち、ドリス中尉達を救う事が出来るのか。
いや、勝たねばならぬ、救わねばならぬ。
例え彼女が非情でなくともクリスティーナ少尉の安全が確定された訳でもない。

私は剣撃に、更なる力と思いを込めた。







<ドリス中尉>

此方は急造なれど歴戦兵の二個小隊、敵は一個小隊此方の半分の戦力だ。

……普通ならば負ける筈が無い、私もそう思っていた。

だが、蓋を開けてみれば…。

「へへ、大尉も随分派手にやっているようだな。
 小隊の場所も見切ってた見たいだし、流石だぜ。」

「ちげぇねぇ!
 隠密魔法には自信があったんだがなぁ……自信なくしそうだぜ!」

「はははは、見たか?大尉の登場シーン。
 思わずおったちまいそうだったぜ。」

【ドぐされ変態!地獄へ落ちろ!】

「おぉおお!?タンマタンマ!援護プリーズ!!」

相手は軽口を叩き、あまつさえ遊ぶ余裕があるほどだ……。
……否、遊びに見えてあれは罠か。
現に今も、討ち取れると孤立した彼に飛び掛った兵士が三人、遠距離攻撃で殺されてしまった。
他を相手していると見せてその実何人かに余裕を持たせていたのだ。
普段ならば引っ掛からなかったかもしれないが……皆怒りに飲まれていた。

敵の統制は恐ろしいほどに取れている、まるで彼等で一つの強大な生物の様に。
行動の一つ一つが罠である可能性など恐ろしすぎる。
……私には、攻撃しながら注意を呼びかけるぐらいしか出来なかった。

これが、ガルム小隊。

彼等が着ているバリアジャケットには、鎖を噛んだ真紅の犬が描かれた部隊章。
王国の番犬、帝国で最も恐れられている小隊……。

曰く、一斉攻撃を最低限の人数で防ぎ、統制の取れた動きで敵を討ち取る。
曰く、状況を読み取り、その場で最良の動きをする。
曰く、彼等はガルム小隊と呼ばれるようになってから一度も戦死者を出していない。

正に言うに易し行うに難し、彼等の非常識さは実際に体験してみなければ分からなかった。
あんな動きが出来る部隊が存在するとは。

くっ!王国の馬鹿共が後方へ下げたんじゃなかったのか!?

そう言う情報は以前から聞いていた。
何でも連中に新たな小隊長が来るとか来ないとか。
あの時は思わず北部基地全体が沸いたものだ。
…………しかし………。

っ!……彼等の指揮官は……あの更に非常識な存在か!!

超音速で空を駆け、3マイルスナイプで敵を攻撃する……幼女。
ちらりと見れば件の幼女、中隊長と接近戦まで繰り広げている。
一体何処まで化け物だ。
私がもし、何も知らずに他人からあれの事を聞けば、私はそいつが薬でもキメてると判断する。

……ああ、生き残ってもあれの事を報告すれば私も薬中か…。
母さん達が持ってくる縁談、受けとけば良かったかなぁ……っていやいや、そんな事を考えている場合ではない。
三十路前でも心は二十歳……だから違う!

ゴホン!……この部隊の指揮官を潰せばまだは事態は好転するかもしれない。
無論あの化け物ではない
先程囮をしていた彼……。

「少尉、少尉の指揮下で行動するのも随分久しぶりですねぇ、衰えちゃ居ませんか?」

「ばっきゃろう、俺がそう簡単に衰えるかってんだ。
 しかも、此処は俺達の庭(円卓)だぜ?」

「はは、ちげぇねぇや。」

確か、名前はアントニウス少尉だった筈。
下級将校だと言うのにその名前は敵味方問わず広まっていて。
敵からは恐れられ、味方からは尊敬されている。

これは実戦だと言うのに、未だ軽口を叩きながら戦い続けている彼と彼等。
成る程確かに並ではない。
忌々しい事に、恐ろしい事に、彼等は未だ一人も落とされていないのだ。
情報は紛う事無く真実である事が証明された。

……………ああ、本当に、畏敬の念を覚えざるを得ないな。
だがしかし、ただで負けてやる訳にも行かないのだ。

「…………エドガル少尉。」

「……中尉?」

戦闘中に突然呼ばれ、彼は怪訝な顔をした。

「お前の方が、指揮は得意だったな?」

私がそう言うと、私が何をするつもりなのか分かったのだろう。
エドガル少尉の顔が歪んだ。

「――中尉!」

「後は、頼んだ。
 生き残ったら、母と妹にすまないと伝えておいてくれ。」

そう言って、私は彼のアントニウス少尉に向かって突撃した。
指揮官としてはある意味下策かも知れない、しかし、現状ではこれが最良であると判断したのだ。
無論唯で殺せるなどとは思っていない、刺し違えてでも仕留めてみせる!

私は僅かな隙を見つけて一気に加速。
接近戦ならば、そうそうと遅れを取りはしない。

音速、までとは流石に行かないが。
空を切る速度で駆け抜けた。

後僅か、剣を振りかぶりつつアントニウス少尉目掛けて私は迫る。
この一撃は間違いなく私の生涯で最高の一撃だった。

アントニウス少尉が僅かに目を見開き、私が殺ったと確信して―――

――しかし、私の剣撃は三重の障壁に遮られ、私の体は彼の放った魔法に貫かれた。

恐らくは……障壁は味方の援護、私を撃ち抜いた魔法に関しては恐るべき早業としか良い様がない。

……遠距離プロテクションを、こんなに素早く展開できるとは。

鈍い水気を含んだ咳と共に、口から血が流れ出すのが分かる。
エドガル少尉と、皆の私を呼ぶ声が聞こえた。

…………そんなに大声で呼ぶな、恥かしいじゃないか。
……ああ、視界が、だんだんと暗くなってきた。

ああ、死ぬんだと何となく実感できた。
何処か他人事のような思考に思わず苦笑が漏れる。
無論、悔しくない筈が無い。
中隊の連中は恐らく皆地獄で再会することになる。

「……じゃぁな、次生まれ変わったら戦場以外で会おうぜ。
 今のは久々に肝が冷えた。」

……何処か、同じく苦笑したような声が聞こえた。
彼の声なのだろう……味方を信じて反撃に転じた男が良く言う。
良い男だ、こんな男と戦場以外で出会えていれば……。

……いや、成る程強い訳だ、私には此処まで信頼している仲間は居なかった。
友好な関係は築けていたと思うが、最後は今の様に自分の力に頼っていた。
……ガルム小隊はそれ一個で、文字通り一つの大きな個体なのだろう。
そして、彼等の新たな指揮官は恐らくそれに加わってはいない……。
一個小隊を形作って入るが、その実彼等はツーマンセルと同じ状態。
……最後だというのに何を考えているんだか。
まるでこの世の真理に気づいたような思考をして……。

空中から落ちていく最中、何処か遠く轟音が聞こえた。
何となく、悔しいが、少佐の死を感じた。
彼には妹共々世話になった故に、弔いを出来ない事がどうしようもなく悲しい。

……ああ、ジルヴィア、こんな至らない姉で済まなかった……な。

私の記憶は此処で永遠に途絶えてしまった。







<マリア大尉>

ありえん!このおっさんショットガンの九連射を防ぎやがった!!
行き成りバインドされた時もマジびびったし!
今も一撃防ぐたびに動揺し捲くりよ!
俺初めてだよ!?こんな高速接近戦闘!
本来の使い方じゃないとは言え、AL-37FUのスピードについてくるとかこのおっさん何!?

俺は今、件のおっさんの剣撃を防ぎながら心の中で絶叫していた。

ショットガン連射中にイージスから出した弾丸で作った大剣。
偽・フォースエッジを振るいながらおっさんの動きを見極める。
おっさんの攻撃は重く、だがしかし、超圧縮した魔力で出来た氷の大剣は壊れない。

うん、前に冗談で考えてた奴なんだけど役に立ったな。
…………弾丸の消費量が半端なかったけどなぁ!!

つぅかこのおっさん速い硬い上手いと三拍子揃ってやがる!

うん、こんなおっさんとのタイマン何てマジありえんと現在絶賛時間稼ぎ&足止め中であります。

AL-37FUを使えば逃げれん事無いと思うんだが、それだと小隊連中が危ない。
いっそ合流しようかとも考えたけど、下手すりゃダメージがでかすぎる。

多分連中なら大丈夫だと思うけど、心配だなぁ……。
全滅とかしてないよなぁ。

「破!!」

と、そんな事を考えている間にもおっさんは鬼の形相で剣撃を繰り出してくる。

こえぇ!おっさんこえぇ!!
何幼女に本気で掛かって来てんの!?
いや、ここ戦場だけどさ!

イージスと大剣併用してやっとやっとって如何よ!?
……さっきみたいに離れれば……いやぁ、それこそさっきみたいに接近されるのが落ちか。

それに先ず弾がなぁ~ショットガンの方は自動的に既に装填されてるけど、うん、唯消費して終わりだろ。
何度も繰り返せば抜けるかも知んないけど、弾丸を消費しすぎるのは正直不味い。

さてはて、如何したものか。

マルチタスクを使用しながら考える。

う~ん、IWS2000の弾丸さえ作れればななぁ……。
でも、そんな事してる間に確実にやられちまう。
イージス一個減らして凌ぎきれるかが問題。

弾丸、弾丸がなぁ。
さっき他の弾丸イージスから取り出して作っときゃ良かったか。
……うん?ああ、イージスを改良してマガジン突っ込めば弾が補充されるようにしたんだ。
まぁ、散弾とかは撃ち出せないけどな。
処理が半端ないから下手に使用領域増やせんのよ。

……ああ、そうだ、弾丸。
う~ん、そんなでっかい弾丸突然作れるわけ…な……い?

その時、俺の目に入ったのは俺が振るっている大剣。
使用弾丸数凡そ100発、追加でかなりの魔力も込めてある。

おぉ!あるじゃん!

ええっと、15.2mm弾丸は通常弾丸50発分の魔力で出来てるから半分以上いらんな。
……あの時弾丸生成してぶっ放せば良かったか?……いや、避けられただろうなぁ。
逆に言えば、半分以上は敵の足止めに使えるわけだ。

と、くれば……ん~無理に弾丸にしなくともいいんじゃ……?

何れにせよ少し時間が必要だな。







<インゴベルト少佐>

私は剣を振るい続けた、だが、未だ彼女はそれを完璧に防ぎ続けている。
武器の差はあれどこの年齢にしてみれば正に異常。
此処まで来ると彼女は王国の魔道兵器であるとしたほうが寧ろ納得できる。

と、そこで突如彼女が動いた。

足に履いている飛行補助用デバイスであろうブーツを使い、煌く圧縮魔力を噴射しながら後退したのだ。

「っ!」

逃がしてなるものかと剣を振るうが、紙一重で空を斬った。

一瞬の隙を衝かれてしまったか!

逃げられると思いきや、彼女は私の前方十メートルで制止していた。
ただ、静かに氷の大剣を右手に持ちながら。

「王国、ガルム小隊隊長マリア=エルンスト大尉だ。」

なんと、まさか名乗りとは。
何かの罠……?
いや、此処は名乗り返さねばなるまい。
何れにせよ、私は未だ攻めきれずにいる。

「帝国、インディゴ中隊隊長インゴベルト=シュトックハウゼン少佐。」

インディゴ中隊と言うところで彼女の眉が少々動いた。
私の事を知っているのか。

「藍鷺……か。」

これはまた、古い呼び名を持ってきたものだ。

私は驚きと共に思わず苦笑してしまった。

彼女がどうやってその呼び名を知ったのかは分からない。
帝国がまだ、誇りに満ち満ちていた頃、優雅に空を舞えた私はそう呼ばれていた。
だがしかし、帝国が誇りを失ってからはその優雅さを捨てざるおえなかったのだ
今ではもう、その呼び名を知っているのは極僅かな人間のみ。

「そういう君はエルンスト夫妻の子供、か。
 成る程、その強さも少しは納得がいったよ。」

少しは、な。
エルンスト夫妻の子供と言うだけで、彼女の強さを全て説明しきれるとは思えない。

……彼女の強さには何処か拭いきれない泥臭さを感じる。

「…………次で、勝負を決めよう。」

ほぅ……成る程、だが悪くは無い。

だが当然の如く、彼女は何かを仕掛けてくるだろう……正々堂々の決闘ではないのだから。
この類の勝負は所謂彼女にとってのホームグラウンド的なものになる。
一体どんな隠し玉が飛び出してくるか分からない。
今までの戦闘で彼女の異質さは十分に分かっている。

だがその隠し玉を食い破れれば、或いはまだ中隊を助ける時間があるやも知れん。
……そう、賭けに出るのも悪くは無い。

「良いだろう。」

「ふっ……まるで昨日の……。」

「何?」

突如何事かを呟いた彼女、私の問いかけに唯いいやと返した。
昨日何かあったのか。

お互いに持ち手の位置は米神辺り。
私は剣を天に向けるように構え、彼女は大剣を私に向けるように構えた。
……何となくだが、お互いの在り方を表した構えのような気がした。

……一際強い、風が吹いた。
これが合図となる。

瞬間、お互い弾けるように前へと出た。

面白い、真正面から来るか!!

彼我の距離はあっと言う間に縮まるだろう。
私はリーチで負けている。

故に一撃を防ぎ、二撃目で決める!

障壁は三重に張ってある。
並大抵の一撃ではこれを破る事は叶わない。
……彼女の持つであろう、長距離射撃用のデバイスならば破れるかもしれない。
が、彼女はそれらしきものを持っては居らず。

後、五メートル。
彼女の間合いまであと少しのところ――

――だがしかし、此処でありえざる筈の轟音が響いた。

…………な、に?

ゴフッと音を立てて口から血が溢れてくる。
私の三重の障壁は抜かれ、体は傷つけられたのだ。

ありえない、何故?

やっとやっとで飛行魔法を維持し続け、見る。

彼女は大剣を突き出した格好のまま、しかし、その手に大剣は存在しておらず。
私の胸から生えているのは彼女が持っていた大剣の刀身。
……更に良く見てみれば彼女の手は酷く傷ついている。

…………成る程、刀身を弾丸に見立てたか。

銃弾もどきとは言え、まさか剣で死ねるとは思っても見なかった。
……随分と、皮肉なものだ

すまない、ドリス君、ジルヴィア君、そして中隊諸君。
私はクリスティーナ少尉を守りきれなかったようだ……あの世で会おう。
願わくは彼等と彼女が非情の人でない事を……少尉の無事を。

氷の眼差しを感じながら、私の思考はそこで終わった。







<マリア大尉>

手ぇいっつぅ~。

俺は氷の大剣を撃ち出した両手を見ながら悪態をついた。
まぁ、元々はデバイス無しでも扱える魔法だったんだ。
扱えるとは思ったけど、まさか此処まで反動が酷いとは。
爆散した氷の破片で体も幾らか傷ついたし。

う~ん、改造しただけとは言え急造の魔法は使うもんじゃないなぁ。

珠のお肌が傷ついたってな。
治癒魔法使えば簡単に後も残らず治るだろうけど。

「少佐ぁ!」

突如声が響いた。
先程殺し損ねた少女の声だろう。

彼女は既に死んでいるインゴベルト少佐の体を懸命に支えている。
……この高度から落ちればバラバラだろうからある意味少佐は助かったか、死んでるけど。

ゆっくりと高度を下げて行く彼女。
俺も後を追おうかと考えて、そこで小隊連中の事を思い出した。

≪マリア大尉~こっちは終わりましたぜ。≫

ん?おぉ、無事だったか。

ナイスタイミングでアントニウス少尉からの念話だった。
ん~何故か念話でも声に感情が宿り難い。

≪此方も……まぁ、終わったようなものだ
 被害は?≫

≪ダメージゼロっす。
 ……ああ、カール上等兵がケツにへろへろの魔法食らった以外は。≫

思わず笑った。
戦場に笑いを提供してくれるとは。

≪流石だな、カール上等兵は。≫

≪いや全く。≫

アントニウス少尉も笑いを堪え切れない様子。
だが俺は、そこで笑いを止めて言った。

≪……敵指揮官のインゴベルト少佐は仕留めた。
 だが、遺体に縋り付いている奴が一人居る。
 俺はそいつを始末してからそちらへ向かう、暫く待機していろ、警戒は怠るな。≫

≪……インゴベルト少佐だったんですか…流石……。
 いや、それよりも大尉お一人で大丈夫で?≫

≪ケツ捲くって逃げるぐらいは私でも出来るぞ、少尉。≫

まぁ、そういう事を言ってるんじゃない事は分かるんだが。

≪……そうですかい、じゃぁお気をつけて。≫

≪ああ。≫

念話を切り、俺は彼女を追って行った。







<クリスティーナ少尉>

少佐が!少佐が死んじゃった!殺されちゃった!

私は少佐の遺体に縋り付いて泣き叫ぶ事しか出来ない。

「何時も何時も優しくしてくれて、あんなに良い人だったのに何で!」

「戦争だからだ。」

私の叫びに、帰ってくるはずの無い返事が返ってきた。

そこには、私にとってとても怖くてとても憎い人が居た。

「貴女は…!」

「マリアだ、マリア=エルンスト。」

静かに名乗る彼女は、私に手に持つデバイスの銃口を静かに向けていた。
嘗て魔法が存在していなかった頃に使用されていた銃。
それを更に洗練したもの。

「ひっ!?」

その銃と氷のような眼差しを見て、私も殺されてしまうのかと悟ってしまった。
思わず、悲鳴が漏れてしまう。
私よりも幼い彼女が人間ではない何かに思えた。

「っ!これが、戦争だって言うの!?」

それでも、気を確り持って睨み返しながら言った。

だが、私は何を言っている、とも同時に思う。
私も既に殺人者なのだ。
それでも言ってしまったのは私の弱さなのだろう。
彼女はきっと、唯短く一言そうだと……

「違う。」

だがしかし、響いた声は予想と違って更に短く。

「え?」

「これもまた、戦争だ。」

氷の眼差しの彼女、しかし良く見れば銃を持つ手は小刻みに震え……。

「貴女は……。」

初めと同じ言葉、しかしそこに込められた思いも意味も違う。
瞬間、彼女の瞳に光がともったような気がして―――彼女の指に力が込められた。

何処か遠い発砲音。

ああ、彼女もまた人間だったのだ。
そんな当たり前の事に漸く気づく。
必死に覚悟をして人を殺し、戦争を終わらせる為に戦争へと身を投じる。

……私はきっと、この人に最後の覚悟を決めさせてしまったのだ。

薄れ行く意識の中、私はそう思った。

「Kyrie eleison.(主よ、この魂を憐れみ給え。)」

そして最後に聞いた声は、そんな優しい声だった。







<アントニウス少尉>

マリア大尉が戻ってきた。
恐らく殺してきたのは、スコープで確認した時に見つけた少女。
インゴベルト少佐の直隣に居たから間違いないだろう。
此方の死体に彼女は居なかった。

大尉は相変わらずの無表情、しかし、何処か悲しげな影が見え隠れする。

「大尉、大丈夫ですかい?
 随分時間がかかったようですが……。」

「……問題ない。
 ……彼等を弔ってきただけだ。」

弔い、か。
戦場で態々そんな事をするなんて、如何にも大尉はお優しすぎるぜ。
危ういが、小隊の皆は大尉のそんな所にも惹かれている。

「基地へ帰るぞ、戻りが遅かったら怒られてしまう。」

大尉が、冗談めかしてそう言った。

「そうですねぇ、ハロルド大佐のお叱りは怖そうだ。」

俺もそれに乗る事にした。

全く、大尉に気を使われて如何すると言うのだ。

大尉は小隊を引き連れて空へと浮かび上がり、唯一度、戦場を振り返って詠った。

「Requiem aeternam dona eis,Domine:(主よ、永遠の休息を彼等に与え、)

 et lux perpetua luceat eis.(絶えざる光を彼等の上に照らし給え。)

 Te decet hymnus,Deus,in Sion,(神よ、主への称讃を相応しく詠うのは、シオンに置いてである。)

 et tibi redetur votum in jerusalem:(エルサレムでは、主に生贄を捧げる。)

 exaudi orationem meam,ad te omnis caro veniet.(全ての肉体の向うべき主よ。我等の祈りを聞き給え。)

 Requiem aeternam dona eis,Domine:(主よ、永遠の休息をかれらに与え、)

 et lux perpetua luceat eis.(絶えざる光を彼等の上に照らし給え。)」

聞いた事も無い歌、何処の言葉かも分からない歌だ。
しかし、意味は分かる。
何処か皮肉気に、何処か優し気に、何処までも悲し気に。
鎮魂の歌は円卓の空に響いていった。







<ハロルド大佐>

「大佐、ガルム小隊敵中隊を殲滅したそうです。」

「…そうか、連絡ご苦労。」

何処か興奮した様子の通信班長にそう告げて戦場に目を戻す。
此方の戦闘ももう少しで終わるだろう。
敵大隊は我々の数を見誤り、愚かにも唯突っ込んできた。
事前に情報を掴んでいた我々は伏兵を置き、タイミングを計って突撃させるだけで事足りた。
無論、不確定要素があったときの為に戦力はある程度待機させてあったが。

「あ、あの。」

「ん?まだ何かあるのか?」

先程の通信班長はまだ居た。
小隊で中隊を殲滅した事は、まぁ確かに恐るべき戦果ではあるが。
状況は違えど前ガルム小隊でも同じ様な戦果は上げていただろうに。

「いえ、ガルム小隊が撃破した中隊はインディゴ中隊でした。」

「……インディゴ中隊、だと?」

インディゴ中隊。
率いているのは藍鷺、移動要塞、堅実なると言った様々な二つ名を持っている歴戦兵士、インゴベルト少佐だ。
私は彼と戦った事もあるし、偶然入手した彼の戦闘記録も見た事がある。
移動要塞の戦い方は何処までも凄まじく、藍鷺の戦い方は何処までも優雅だった。
堅実なると言うのは上手く兵士を扱うようになってからの彼の呼び名だ。
自分にも兵士にも無理をさせずに戦うその姿は、多くの指揮官にとっての一つの目標だった。
その彼が落とされた。

その事実は私にとっても少なからぬ衝撃だった。

成る程、この通信班長が興奮するのも仕方が無い。
間違いなく両国を揺るがすニュースである。
ガルム僅か一個小隊がインディゴ一個中隊を撃破、か。

……全く、本当にマリア大尉はやってくれるな。

敵がインディゴを捨て駒にしたのにも呆れたが、それ以上だ。
此処まで来ると少しは自重しろと言いたくなる。

インディゴ一個中隊は二個中隊に匹敵すると言われていた。
ならばガルムは何なのか。

……まぁ良い、今日は彼等を精々盛大に祝ってやるとしようか。
此方での戦勝もあわせて祝えば盛大なものになるだろう。
無論、警戒を怠る訳にはいかないがな。




この日、基地の皆は盛大に騒いだ。
久々の大戦果だった故の戦勝祝い。
これで暫くの間大規模な戦闘は起きない筈だ。

……途中、マリア大尉が酔って脱ぎだすと言うハプニングがあったが置いておく。
同じく酔ったアンナ中尉がマリア大尉に襲い掛かったのも置いておく。
二人に酒を飲ませた馬鹿(イリーナ大尉)にはトイレ掃除三週間を命じておいた。
……最近胃薬の量が多くなっているような気がするな。







<五日後・????>

…………光が見える。

今まで暗い暗い闇の中を揺蕩って居た私。
そこに突然光が現れると言う変化が起きた。

……一体何が。

「………!………!」

誰かが呼ぶ声が聞こえる。

「……ス!…リ…!」

もう少し、寝かせて欲しいのになぁ。

「ジ……ア少……!駄………よ!」

「で…!ク…スが!」

良く聞いてみれば何処か心配そうな、それでいて聞き覚えの在る声だ。
私は気になって、光の方へ手を伸ばす。

「クリス!!」

瞬間、目に入ってきたのは白い白い天井。

「クリス!良かった!」

「ジルヴィア……?
 あれ、私……。」

「お前は生き残ったんだよ!
 敵が弔いの為か、お前の体を綺麗に凍らせていったお陰で!」

…………そっか。
……ふふ。
……そっかぁ……。

「クリス……?
 何で笑ってるんだ?」

「……ふふふ、意外と……うっかりさんなのかなぁ。」

「く、くくくクリス!?大丈夫か!?
 医者だ!脳の医者を呼べぇ!!」

ジルヴィア、私それは流石に失礼だと思うの。

先程から脳裏に、私が最期だと思った瞬間の光景が思い浮かぶ。

…………憎くて、怖いあの人。
それで居て、何処か優しいあの人。

「…………また、会えるかなぁ……。」

会えると、良いな。

「医者だぁ!!医者を呼べぇ!!」

「静かにして下さい、少佐!
 さっきから軍医の方が……あ、すみません、直に黙らせますので。」

「ジルヴィア、五月蝿い。」

台無しだから、ね?ガーンじゃなくて。

心配してくれるのは嬉しいけど、せめてもう少し静かにしてくれないかなぁ。
……まぁ、ジルヴィアの良い所でもあるんだけど……。

死の淵から戻ってきた私を向かえたのは、優秀だけど落ち着きの無い友人だった。
これもまた、運命と言うものなのかも知れない。

ただ、私が戦場に立つ事はきっともう……無いだろう。



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