いやぁ、お久しぶり?
あれから一週間が経ちましたよ。
小隊の連中とも中々仲良くやれているのが現状。
書類作成とかは割りと得意だし……シールズの標語パクッてつけたのは不味かったかな。
しかしあれだ、そんなの急に思いつかんでしょ?
後、存在をアピールする為に変てこな式に出たりとか変な事やらされたけど。
割と効果はあったようだ。
俺よりも少し上くらいの年齢の連中がちらほらと。
まぁ、今の所俺には何の関係も無いけどな。
リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第三話 初任務及び初邂逅
<ミーティングルーム>
此処は第十六小隊が使うミーティングルームだ。
大規模な作戦以外は此処で会議が行われる。
現在、アントニウス少尉が次の任務について説明を行っている。
ちなみに、戦闘が想定される任務はこれが初めてだ。
何か戦争被害が会った所へ救援活動へ行ったりと。
「今回の任務はブリテン王国内部に侵入したと思われる小隊を叩くというものだ。
恐らく奴等は我が軍の武器庫を狙うと思われる。
小隊長が入れ替わってから初の任務だ、心して当たれ。」
恐らく態と進入させたのだろうと思われる。
敵の規模及び位置、敵の狙いまで分かっているなんてありえん。
余程良い指揮官が行動したのかはたまた偶然が重なってたまたまこうなったのか。
「中尉、何かお言葉を。」
うぇ!?
……まぁ、それが普通か。
う~ん、まぁ皮肉気なキャラが定着してそうだし、それでいくか。
唯でさえ俺は子供なんだから舐められたら不味いし。
「……今回の任務は過保護なご老人方が態々用意してくれたものだ。
まぁ、多少の被害を考えれば小隊規模を確実に仕留められるゆえにそこまで酷いものではないがな。
……この任務をしくじれば間違いなく笑われ者だぞ?連中を一匹残らず踏み潰してやれ。」
はっはっは、無表情故にか何か貫禄と言うか何と言うか、そう言うのが出てるみたい。
加えて口から出てくる声は自分でもビックリな無感情さ。
『了解!!』
気合の入った返答に俺は一つ頷いた後、付け足す。
「後、私よりも仕留めた数が少なかったものは覚悟しろ。
連中は糞重い質量兵器なんぞ持ちこんどらんからな。
処女の私に負けるようなお嬢様はいないだろう?」
『死力を尽くします中尉殿!』
よっしゃ決まったぜ!……決まったよな?
「では、少尉。」
私が言うと少尉は頷いて解散を命じる。
時間はあまり無いゆえにさっさと準備するとしようかな。
<アントニウス少尉>
今日は中尉の初任務とも言って良い日なのだが、やはりと言うか何と言うか中尉は全くの自然体。
今日までの一週間で中尉の人柄や能力などは大体分かった。
基本的に中尉は自分に厳しい人物のよう。
軍隊の基本は完璧に守っている。
普通の軍人なら当たり前だが中尉が九歳である事を考えると思わず苦笑してしまう。
初日でイメージを払拭し、次の日からも厳格な態度を取り続ける。
良くもまぁあんなに無表情でいられるものだ。
……今の所分かっている唯一の欠点と言えば必要ないことを喋るのが苦手と言うことか。
後、他人に少し甘い所もあるようで、案の定泣きついてきたアンナ中尉にアドバイスをしたりしていた。
お陰で彼女も何とかやっていけてしまっている様子。
先ず、当初の軍から追い出すと言う目的は達成不可能だろう。
何だかんだで個人の意見を尊重するタイプでもあるようだ。
能力の方も今の所申し分ないと言って良い。
今までのは簡単な任務だったが、何か不測の事態が起こっても的確に対処していた。
これも確り勉強しているものならば出来る事だろうが、中尉の年齢を考えれば十二分に及第点以上と言える。
あの『抜き撃ち』とやらを見る限りでは戦闘の方も期待して良いだろう。
相手を攻撃するのを躊躇う性格とも思えない。
頭の方も大変宜しいようで、書類は流れるように片付けてしまうし、冗談で頼んだ小隊の標語まで作ってしまった。
【唯一安らかなる日は、過ぎ去った昨日のみ】
現実を見て皮肉も効いているこの標語は人気である。
中尉がどのような気持ちを持ってこれを考えたのかは分からないが…………中尉は本当に九歳か?……今更か。
冷静に作戦の内容を検討したりと、まぁなんとも末恐ろしい、つぅか現状でも恐ろしい人である。
「小隊整列!これより作戦行動に移る!!」
『了解!』
中尉が命令をすると全員が声を張り上げる。
中尉の声は九歳児とは思えない張りのある声だ。
しかし、そこに感情は無い。
「デバイス起動!
ポイントC2へ移動開始!」
小隊全員が一つの生き物の様に動き出した。
<マリア>
うわ~初の実戦、こえぇなぁ。
俺達は今、作戦区域である王国周辺の森林地帯にきている。
木漏れ日がある故にまだましなのだが、周囲の影の存在も手伝って如何にも緊張感が拭えない。
「……流石中尉はこれから初の実戦でもうろたえませんな。」
うっせぇ馬鹿!お前の目は節穴か!……と言いたい所だけれどこの表情筋が悪いんだよね、はい。
アントニウス少尉、頼むぜ?
「……そうでもないさ。
頼りにしている。」
「ははっ、中尉にそんな可愛げがあるわけ無いでしょう。
ま、中尉のような美少女に頼られるのに悪い気はしませんがね。」
うっわ、こいつ最悪。
……まぁ、ホントに頼りになるんだけどな?
この前も建物が崩れて慌てて適当に指示を出したのを良いように解釈してくれたし。
ま、戦場に関しては少尉以上に詳しいんだけどな。
あくまで知識だけだけど。
「そろそろ見えてきますぜ。
敵さんは此方を補足してはいないでしょうが。」
「……だろうな。」
サーチャーなんかも見当たらないし。
発見されるのを恐れているのか。
何にせよ奇襲には最適だ。
防がれる心配も無い。
何せ相手方は罠にかかった獲物なのだから。
「……よし、私が先ず狙撃する。
私の射撃ならば気づかれる前に何人かやれるだろう。
銃撃と同時に出られるように他の連中を待機させておけ。」
「了解、頼みましたぜ。」
デバイスは既に俺の手の中にある。
既にお気づきだろうが俺のデバイスは『銃』だ
魔法維持で作成した弾丸を吐き出す為の銃。
火薬の代わりに魔力を爆発させ、鉛玉の代わりに氷の弾丸を吐き出し、空薬莢の代わりに圧縮魔力の残滓を排出する。
威力は通常の状態でも恐ろしいもので、ライフルを超える1000m/sと言う弾速をはじき出す。
装填されているマガジンは40発入るロングマガジン。
他にも通常サイズの20発マガジンや、機関銃のように次々に弾薬が配給されるベルトリンク(弾帯)もある。
カートリッジシステムと違って使用者に負担がかからないと言う利点があり、非常に便利。
正し、デメリットも存在する。
一つは俺以外には弾丸を生成することが出来ない為、弾丸の生成に時間と魔力を取られる事。
もう一つは管理局連中にほぼ間違いなく質量兵器だと難癖付けられるだろう事だ。
後者は俺としては知ったこっちゃないんだがな。
……余談だがこの世界にはカートリッジシステムは無いらしい。
まぁつまり、低ランク魔道師が高ランク魔道師に勝つ方法が無い、と。
氷弾に追加で魔力を込めても俺の魔力保有量では破れないだろうなぁ……。
銃のデザインはベレッタM93R。
イタリア政府が対テロ目的でピエトロ・ベレッタ社に製作を依頼したM92の改良版。
もっとも、俺のは三点バーストは勿論フルオートも付いているから完璧に外見だけだけどな。
ちなみに二挺ある。
二挺拳銃はロマンだぜ?…使わないけどさ。
「…………。」
静かに狙いを定める。
この弾丸は速度の所為で誘導性があまり宜しくない。
……まぁ、普通の銃に比べたら遥かに良いんだけど。
狙撃を申し出たのはより安全に任務を遂行する目的もある。
しかし、それ以上に人を殺すと言う事に対して耐性を得る為と言うのも大きい。
殺す覚悟をよりスムーズに行うためと言う訳だ。
客観的に見れば全く以って俺と言う奴はどうしようもないが、これも生きる為だ。
ある意味熱心なキリスト教徒でもある俺では神を恨めなんて言えない。
故に。
恨む時間は
「与えない。」
定まった照準、俺は引き金を引いた。
連続した火薬の炸裂音、銃腔内の空気と音が打ち出された破裂音。
銃口が一気に無数の弾丸を吐き出し、弾丸が空を切裂く。
音速を遥かに超えた弾丸は、勿論殺傷設定で敵兵に食らいついた。
俺の殺意を以って吐き出された弾丸は、しかし無感情に唯敵を殲滅する。
肉が潰れる音と同時に兵士たちの体に穴が開き、或いは千切れ飛ぶ。
遠めに見る光景でも俺は吐き気が込み上げて来るのを我慢するのに必死だ。
この動かない表情とまともに言葉を発しない口が今はありがたい。
皮肉にも銃弾と俺の外面のあり方は似ているのだ。
「突撃!敵はそんなに残っちゃいねぇぞ!
……中尉、大丈夫ですかい?」
「……ああ、問題ない、行こうか。
…………上官が後ろでのんびりしている訳にも行くまい。」
はは、こういう時こそフレンドリーに話しかけられないものかね?
お堅い言葉じゃ気分が滅入っちまう。
「お供しますぜ、行きやしょう。」
「……ああ……中々、良い男じゃないか少尉。」
少尉の豆鉄砲食らったような顔が可笑しくて、少しだけ気が晴れた。
<アントニウス少尉>
作戦は無事に終わった。
初任務は見事に成功、しかし、中尉は今此処には居ない。
あの後、無理にでも下がらせておくべきだったか。
あの年で狙撃とは言え多数の命を奪った後に、更に戦闘で命を奪えば当然の如く心に酷く傷を負う。
まぁ、お陰と言うか、小隊の被害は非常に軽微であり、死傷者は出なかった。
中尉の戦いはまるで機械の様に正確で、的確で、強かった。
戦闘中は眉一つ動かしていなかった。
心強く感じると共に、どうしても寂しさが胸に去来した。
あの年で、少女が人を殺す。
しかも、鋼の意思を持って氷の殺意を抱き、だ。
彼女のような優秀な軍人が現れたという事は、軍人として喜ぶべき事だ。
彼女のような優秀な軍人が現れたという事は、大人として恥ずべき事だ。
勝手な言い草かもしれないがこれはそうであるだろう。
戦争が起こるのはしょうがない事かもしれないが、それを長引かせるのはしょうもない愚行だ。
「……中尉、大丈夫かね。」
面倒見の良いブルーノ軍曹が心配そうに言う。
口は開かないが他の連中も似たような気持ちだろう。
「……中尉なら、きっと大丈夫なんだろうさ。
残念な事だが、中尉が此処にいない理由は負傷じゃないんだからな。
非常に残念な事だが、中尉はとても強いからな。」
中尉は作戦中一切弱音を吐かず弱みも見せなかった。
しかし、作戦終了と共に便所へ駆け込んで吐いた。
まだ短い付き合いだが、あの中尉が嘔吐が理由とは言え眼を濡らした事はある種の衝撃を俺たちに与えた。
そして、休むように言われすまないと言って自室へ戻っていった中尉に更に衝撃を受けた。
まぁ、当然と言えば当然なのかもしれない、初陣と言う奴だ。
ただ、その当然さを彼女のような存在が経験しているという事実が、どうしようもなく堪らなかった。
「なぁ、中尉の様子見にいかねぇか?」
「……ブルーノ、心配なのは分かるが幾らなんでもそれは失礼だろ?
中尉も女の子だぜ?」
「女の子だから、心配なんじゃねぇか。」
ブルーノの言葉に、俺は溜息を吐いた。
ああ、だが確かに……。
「少し、様子を見に行ってみるとするか。」
<マリア>
ああ、まだ吐き気がする。
書類作成は少尉が代行してくれるというので、まぁそれは安心なんだが。
いや~、やっぱ人殺しは精神的にきついわ。
はははっ、思い出したら……うぇっぷ、また吐き気が。
緊張の所為で、任務中は吐き気とか大丈夫だったんだけどなぁ。
まぁ、その緊張の所為で戦闘中は慌てながら目に付いた敵を撃ってただけだったけどな。
何度味方誤射をしそうになった事か。
つぅか味方を撃ちそうになって慌てて逸らした先に敵がいたとか俺ってラッキー?
……ま、まぁ今回は無事生き残れた事だし、良しとするべきか。
べ、別にうっかり味方の頭撃ち抜きそうになったの誤魔化してんじゃないからな!?
……でも、やっぱきついわ。
何か精神的支えっつぅか何か無いかなぁ……。
…………ああ、あれは自己暗示に良いかもしれない。
一つ息を落ち着けて、デバイスを起動。
バリアジャケットは着ず、二挺の拳銃を眼前に構え、詠唱する。
「…………これこそ我が銃
銃は数あれど我がものは一つ
これぞ我が最良の友
我が命
我、銃を制すなり、我が命を制す如く
我なくて、銃は役立たず
銃なくて、我は役立たず
我的確に銃を撃つなり
我を殺さんとする敵よりも、勇猛に撃つなり
撃たれる前に必ず撃つなり
神にかけて我これを誓う
我と我が銃は祖国を守護する者なり
我らは敵には征服者
我が命には救世主
敵が滅び――――平和が来るその日までかくあるべし、Amen(エイメン)」
…………。
…………ふぅ、流石はハートマン軍曹流石は海兵隊ってとこか。
歴戦の勇士の勇気を少し分けてもらえたかな。
……吐き気はまだ残るけど。
……もう、休むか。
明日も早い。
それでは。
「おやすみ、お嬢様。」
<アントニウス少尉>
俺達は中尉の部屋の前から元いた場所へ戻る途中だ。
「……心配、要らなかったな。」
「……ああ、誇り高い人だ。」
俺達となんて、きっと比べるべくも無いくらいに誇り高い。
初めは九歳児の中尉なんてと思ったが……。
「あの人になら、着いて行っても良いな。
普通の新任将校よりもあらゆる意味で、優秀だ。」
「ああ、そうだな。」
<一ヵ月後・マリア・戦闘中>
あの作戦で実力が評価されたのか、俺達の小隊はあれから忙しい毎日を送っていた。
もっとも、消耗の激しい前線には送られてないけどな。
連日連夜の任務は鍛えているとは言えこのちっこい体にはきついものがある。
アンナも、先任将校の人に助けられて何とかやっているらしい。
ただ、彼女は人を殺してから数日間眠れぬ夜を過したそうだ。
……俺は思いっきり爆睡したんだがな!
流石だぜハートマン軍曹、寝る前には何時もお世話になっている。
まぁ、実際はそんなに余裕があるわけじゃない。
この前も血塗れのまま基地内を歩いて思いっきり嫌な顔されたし。
少し年が上の女の子にひっ!?とか悲鳴を上げられた時は思わず顔が引きつりましたよ。
余程怖かったのかその子はその場で気絶した…………涙が出そう、(体だけは)女の子だもん。
下らない事を考えてる間にも戦闘は行われている。
かく言う俺も少々疲れで現実逃避気味だが確り動いている。
訓練の賜物か。
魔法を撃とうとしていた奴に向かって銃を撃つ。
魔力が生み出す衝撃と炸裂音を後に飛び出した氷弾は、敵兵の頭蓋を砕く。
自分の身にかかる衝撃は、通常かなりのものになる筈だが、そこは魔法、衝撃を吸収する術式を組んである。
……最近では人を殺しても何も思わなくなったなぁ。
うぅ、汚れちまったよ。
てな感じで冗談も言えるようになったし。
何て事考えていたら敵の一斉射撃だ。
本来ならヤバイ、が。
俺の周りを飛んでいた氷弾が突如飛び出して敵の魔法を全て打ち落とした。
空対空迎撃用攻性魔法イージスだ。
この魔法はイージス艦からヒントを得て製作した俺のオリジナル……名前は攻性防壁からもとってるけど。
腰についている専用デバイスが自動的に氷弾を排出、ある程度操作補助をしてくれる為、非常に便利だ。
……俺の家って結構金持ちだからなぁ、材料さえあれば自分でデバイス組めるし。
この魔法がある故に、この小隊では未だに負傷者が出ていない。
……勿論うちの小隊の連中がかなり優秀であるというのもあるんだけどな。
お偉いさん方も簡単に俺に死んでもらっちゃ困るって訳か。
逃げ出そうとしていた敵兵を背後から撃って殺す。
逃がしたら殺されるのはこっちの方だ。
「中尉!敵の小隊が全滅致しました!」
アントニウス少尉が報告してくる。
彼、ホントに頼りになるんだよなぁ。
前の時と同じく適当に指示を出したら良いように解釈してくれるしな!
後、例のゲロ吐き事件も小隊に口止めして黙っててくれたし。
嫌だよ?ゲボ子なんて渾名。
いや、意味違うけどさ。
「此方の被害は?」
「カール上等兵が右腕を負傷いたしましたが大事ありません!
現在フランク伍長が応急処置をしています!」
む、カール上等兵が?
あいつも良い奴だ、この前砂糖が切れた時にダッシュで買ってきてくれた。
「……そうか、ご苦労。
各自警戒だけは怠らぬようにしておけ。
……私は暫く此処にいる。」
敵さんが何処に居るとも限らないからな。
さっさと帰りたいよ、ホント。
……少し休も。
「はっ!失礼します。」
そう言って駆けていく少尉。
戦闘があった初任務の頃からかな、やけに俺の事を敬ってくるんだよ、皆。
もっとフレンドリーな方が俺としては嬉しいんだが……ああ、俺の顔じゃ無理か。
何ともまぁ憎らしいこの表情筋と口!これで顔が不細工だったらやってけねぇよホント。
一時此方側が押されていた戦場は管理局の登場で此方側が押し返している。
流石と言うか何と言うか管理局の連中は強い。
戦場でちらりと見かけた執務官、クロノ=ハラオウン。
これが余裕のある時だったら飛び上がって原作キャラに会えた事を喜んだんだけど、戦場だったしな。
まぁ、とにかく強いのなんのって。
慌てながら目に付いた先から銃で撃ってるだけの俺と違って魔法を自在に操って一人も殺さずに勝っちまうんですぜ?あ
りえん。
……精神年齢三十路近くの俺ってかなりへたれ?いや、何かこの体になってから成長する気配あんまないけどさ。
おろ?思わず涙が……。
俺は慌てて涙を拭って周囲を見た。
よし、誰も見てない!
突然泣き出すなんてきしょい真似したくないしな、しちゃったけど!
……ああ、一度クロノとかと話してみたいなぁ~。
お喋りなんて俺の柄じゃないけど。
潤いが無いよ、潤いが。
ほら、このくらいの年だったら外で元気に駆け回って鬼ごっことかかくれんぼとか……。
「ふ………………。
この年で、かくれんぼか……。」
ああ、思わず笑っちまうぜ。
アンナちゃんとしたかくれんぼは楽しかったけどな。
あの笑顔に癒される俺!!
……あ~かくれんぼして~~~。
「……すまないな、見る積りは無かったんだが。」
うぇ!?
誰ですか!?
突如聞こえた声の先、そこにいたのは。
……少し涙の所為で見えにくいけど。
「……管理局執務官、クロノ=ハラオウン。」
わぁお、奇遇だね?噂をすれば影?原作キャラにとうとう遭遇?てか見たな?
パニクって思わず何時もより不機嫌な声になっちまったぜ。
「っ……。」
俺の声を聞くと同時にクロノの顔が引きつった。
そんなに怖いか?幼女だぜ、俺。
……まぁ、これだけは言っておいてやろうじゃないか。
涙を拭って言い放つ。
「…………変態。」
クロノの顔が見事に歪んだ。
蛆虫を見るかのような目で言うのがポイントだ!
<クロノ=ハラオウン>
…………見てはいけないものを見てしまったか?
僕は今、木の陰に隠れている。
王国で噂のマリア中尉が率いる小隊が此処に居ると聞いたので挨拶でもしにいこうと思ったんだが。
そこで見たのは目の前にある死体に目を落として涙を浮かべている彼女。
やばいと思って直に隠れたから、恐らくは見つかってはいないと思う。
僅か九歳、指揮の時のみ僅かに開く口から的確な指示を飛ばし、自らも恐るべき強さで敵を討ち次々に戦果を上げていく
天才少女。
彼女は眉一つ動かさず敵を撃ち殺し、唯の一度の動揺もした事がないという。
僕より三歳も下の少女がこんな風に言われているのを気にならないわけが無い。
そんな子を戦争に借り出す国に憤りを覚えそうになったが、管理局も人の事を言えたわけじゃないと思い直す。
無論、管理局は非殺傷設定を使用しているし、行き成りこんな戦場を経験させたりはしないのだが。
と、少し混乱している脳で現状の解決にほぼ関係ないそんな事を考えていると。
「ふ………………。」
ん?笑ったのか?
「この年で、かくれんぼか……。」
!気づかれた!?
っ……噂はあながち嘘でもないようだ。
此方の位置が分かっているかどうかは分からないが人が居る気配を感じ取ったのだろう。
僕は、観念して出て行く事にした。
僕が出て行くと彼女は、まだ涙に濡れている瞳を細めて口を開いた。
…………顔立ちが整っているだけに涙目で睨まれるのは怖い。
「……管理局執務官、クロノ=ハラオウン。」
彼女の眼光に不機嫌そうな声色をプラスされれば思わず顔も引きつるというものだ。
しかも此方の名前を知っていらっしゃる、洒落にならん。
そして、涙を拭った彼女の次の一言で止めを刺された。
「…………変態。」
その言葉と蔑む様な視線に思わず泣きそうになった僕を誰が責められようか。
<主人公、クロノ、第三者の複合視点・{}=主人公 【】=クロノ 何もなし=地の文>
「……で、何のようだ、変態。」
未だ不機嫌な様子のマリア。
端から見たその姿は一見隙だらけに見えるが。
その鋭い眼光がそれを否定している。
思わず気圧されてしまうクロノ。
{あれか?また勧誘か?人の情けないところ見といてんな事言ったらしばくぞ!
……嘘ですごめんなさい、つぅか管理局の執務官に勝てるわけねぇ。
…………ちょっと噂に聞いたけど十一歳で管理局の執務官になったとかありえねぇよ。}
「い、いや、貴女が此処にいると聞いて是非一度会ってみたいと。
あの、本当に覗く気はなくてだな。」
しどろもどろの弁解に、マリアの目が細められた。
その何もかも見通しそうな感情の無い機械のような瞳。
それを向けられているクロノは先程から背中に嫌な汗が流れている。
【怒ってる?……よな。
っ!……一見隙だらけだがあの目、攻撃の意思ありと見れば恐らく即座に迎撃してくる。】
「……態々私に?管理局は実に暇なようだな。
羨ましい限りだ。」
クロノに鋭さを増した眼光と共に辛辣な言葉を吐きかけるマリア。
感情は表に出ていない、しかしその様子は不機嫌な心情を雄弁に語っていた。
誇り高い兵士に対して物見遊山できた等とは失言であったようだ。
{こちとら死ぬ気で戦場駆け回ってるってのにマジで羨ましいぞこんチッキショウ!
今日だけで何回死にかけたと思ってやがる!蹴躓いたり偶々しゃがんだりして助かったけど!?
戦争終わったら絶対管理局行ってやる!!}
「っ!いや、任務で偶々此処の近くにきていたんだ。
先程も言ったが貴女がいるとブリテン王国の兵士から聞いてな。
……有名な貴女に会いに来たと言う訳だ。」
一瞬の動揺を悟らせないように直に捲し立てるクロノ、ここら辺は流石である。
【……管理局にあまり良い感情を持っていない?
……使用するデバイスは異質なれど彼女は戦士である事に誇りを持っていると聞いたな。
非殺傷設定を使う管理局は良く思わないと言うことか。
…………艦長からは出来るのなら管理局へ引き抜くように言われたが……無理そうだな。
一先ず礼儀を重んじるこの国の兵士を相手にする時と同じ要領で接するべきか。】
「既に知っているようだが僕は管理局執務官クロノ=ハラオウン。
お会い出来て光栄だ、マリア=エルンスト中尉。」
クロノは、マリアの機嫌を取る為に自分から一度名乗りなおし、続けて礼をしながら言う。
「…………。
……此方こそお会いできて光栄だな……クロノ=ハラオウン執務官。」
管理局の執務官を試そうというのか、マリアはゆっくりと口を開いた。
その様子は彼女が頭脳面においても優秀である事を悟らせる。
{えっ!?何?俺ってそんなに有名なわけ?
いや~照れるなぁ、クロノも何か礼儀正しいし……第一印象悪いけど結構良い奴かな?
まぁ、原作見る限りかなりのお人よしではあるみたいだが。
こっちも褒めておいてやろ。}
「……弱冠十一歳にして執務官の試験を合格、現在十二歳にしてアースラの切り札と呼ばれるほどだとか…?
艦の提督も執務官殿の母親だそうだな………味覚が壊滅的らしいが。」
ゆっくりとクロノについての情報を語るマリア。
事前に管理局についての情報を調べていたのか。
「……―光栄だな、中尉のような有名な魔道師に知っていただけているとは。」
数瞬返事が遅れたが然したる動揺もせずに返すクロノ。
じっとマリアを観察する。
【これだけ知っているという事は多少の興味はもたれているのか?
まぁ、今此処に来ている管理局員の中で一番年下なのは僕だが。
……それにしても母さんの味覚障害(僕は言い過ぎとは思わない)まで知っているとは。】
しかし、それきりマリアは何かを考えているのか何も答えず動きもしない。
「………………。」
{いや、褒められると嬉しいな、原作キャラにだと尚更。
ははははは、それにしても俺が有名か…………有名?……(戦時中有名=敵に狙われる)……駄目じゃん!?
やばいやばいやばいやばい!どうする!?}
寡黙なその姿は美しい容姿と厳格な雰囲気が相まって、立っているだけでも一つの絵画の様に見える。
落ち着き払った雰囲気は年不相応に、しかし、目を引き付ける何かがある様にも見える。
「…………。」
【……少し落ち着いて見てみると綺麗な子だな。】
と、そんな感じでしばらく時間が過ぎて行ったのだが。
「中尉!」
アントニウス少尉の登場でそれは終わりを告げた。
「カール上等兵の応急処置が終了いたしました!
何時でも移動できます!」
「…………。」
{やべぇよ、マジでどうしよう?
……いや、待てよ?態々俺みたいなの狙うか?
いや、でも、士気の低下を狙うのなら倒しやすそうな俺を狙いそう!
まじやべぇ……鬱だ……。}
「中尉?……っ、涙…?」
マリアが何も言わずに涙を流したのを見た少尉。
【……ん?何か不味くないか!?】
「おいコラてめぇ!中尉に何しやがった!?」
「い、いや誤解!……お、おい!中尉も彼に何か言ってくれ!!」
そのクロノの要請に考え込んでいる(自身の死活問題に悩む)マリアは。
{ああ゛!?今それどころじゃねぇンだよアホ!
……ちっ、ああ~クロノが何かだっけ?
う~んクロノは……あっ変態だ。}
「……そいつは、変態だ。」
不機嫌そうに涙を拭いながら言うマリアを見て、神は死んだと言うような表情をするクロノ。
【まだ、怒っていたのか!?
…くっ、女性は扱いが難しいとエイミィは言っていたが……!
見かけによらず根に持つタイプか?】
「おぉい!小隊集合!!
中尉を泣かせた変態野郎がいるぞぉ!!」
周囲に響く少尉の怒号。
「ええ!?」
「何だって!?」「中尉に悪戯した変態野郎!?」「何ぃ!?中尉に悪戯!?」「くそっ!野郎許さねぇ!!」
クロノの耳に次々と物騒な言葉が聞こえてくる。
しかも途中で情報に乱れが生じたようで悪化していた。
【や、やばい!途轍もなくやばい状況だ!!
……逃げよう!】
暫し考え込んだ後身を翻して逃げるクロノ。
アントニウス少尉が一瞬硬直するほど見事な逃げだ。
「あ!変態が逃げやがったぞ!!」
「逃がすなぁ!!」「捕まえてぶっ殺してやる!!」「タマ切り取ってグズの家系を絶ってやる!」
【今日は!厄日だ!!間違いなく厄日だ!!一体僕が何をした!?】
{何か周りが五月蝿いような……。
ま、良いか…そう、それよりも少しでも生き残る可能性を上げなければ!!}
こんな感じで二人の邂逅は終わりを告げた。
<ブリテン王国第十六小隊宿舎談話室・第三者視点>
「……中尉、本当に何も無かったんですかい?
(中尉はこう言ってるがあの涙はただ事じゃなかったぜ!)」
「ああ、何も問題は無かった(心配性だな、少尉は。
いや、本当に良い人だなぁ。)。」
お互い微妙に勘違いをしている二人。
「そうですかい……(あの野郎今度会ったらとっちめてやる!)。」
「…………(腹減った。)。」
クロノの受難は暫く続きそうである。
<アースラ艦内・ブリッジ>
王国のそれとは比べ物にならない技術力によって造られた船、アースラ。
その様相は内外共に洗練されていて美しささえ感じられるものであるが、今は如何でも良い。
「クロノ、ちょっと。」
「……何ですか、艦長。」
何処か疲れた風のクロノにアースラ艦長リンディが声をかけた。
普段の彼であったのならば嫌な予感を感じて少々身構えるくらいはしたであろうが、現在はそんな余裕も無いらしい。
……まぁ、どちらにしろ避けえぬ運命ではあるようだが。
「クロノが王国のマリア=エルンスト中尉にセクハラしたって報告が来てるんだけど?」
「!?」
思わずびくりとしてしまうクロノ。
屈強な兵士たちに追いかけられた経験はどうやら一生の思い出(トラウマ)と化しているらしい。
「えぇ~!?クロノ君サイテー。」
モニターを見つめながらキーボードで操作をしていたエイミィ。
後ろを振り向きながらクロノを罵倒した。
先程の出来事で精神ライフがゼロに近かったクロノにはきつそうである。
「ちょっ、エイミィ!?」
「少し、お話しましょうか?……お茶を飲みながら(ボソッ)。」
追い討ちをかけるようにリンディの死刑宣告……止めか。
「ち、違っ!…ってお茶!?」
「育て方間違ったのかしら……。」
「クロノのへんた~い。」
ブリッジにいる全員の視線がクロノに集中。
『ひそひそ…クロノ執務官が…ひそひそ…むっつりすけべ…。』
「話を聞けぇーーーーーーーーーーーーーー!!」
彼の受難は既に続きが始まっていたようである。
引きずられていった彼がどうなったかは言うまでもなく分かる事である。