<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

とらハSS投稿掲示板


[広告]


No.9605の一覧
[0] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~[Alto](2009/06/15 19:24)
[1] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第二話[Alto](2009/06/15 19:26)
[2] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第三話[Alto](2009/06/15 19:27)
[3] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第四話[Alto](2009/06/15 19:28)
[4] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第五話[Alto](2009/06/15 19:29)
[5] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第六話[Alto](2009/06/15 19:32)
[6] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第七話[Alto](2009/06/15 19:33)
[7] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第八話[Alto](2009/06/15 19:34)
[8] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第九話[Alto](2009/06/15 19:36)
[9] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第十話[Alto](2009/06/15 19:37)
[10] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第十一話[Alto](2009/06/15 19:39)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[9605] リリカルなのはAnother~Fucking Great!~ 第十一話
Name: Alto◆285b7a03 ID:b41f32f4 前を表示する
Date: 2009/06/15 19:39
<梟の目のヨーゼフ中佐>

我々に協力していた盗賊の連中が死に、同行していたジルヴィア少佐まで死に絶えた。
恐ろしき強さを誇る彼女、血塗れの、氷葬の、円卓の鬼神、マリア=エルンスト。

ああ、正直に言って私は彼女がとても憎い、私は彼女がとても怖い。
あらゆる意味で彼女が人とは思えない。
私の目に、彼女は人とは映らない。

「見ていたぞ、こいつの持つ秘宝の中から。」

果たして声は震えていなかったか。

彼女を囲んだ兵士の数は1200人、二個大隊分の戦力。
普通に考えてこの人数に勝てる筈もなく、また、如何に速く空を駆けようとも魔法からは逃げられまい。
だが、盗賊のリーダー、グレゴールが持っていた秘宝の中から見た彼女の強さは半端ではなかった。
今まで見てきたどのような生物よりも強かった。

「凄まじい強さだ。」

在り得ぬ強さだ。

「……だが、これで終わりだ血塗れのマリア。
 いや――」

故に、果たしてその言葉は宣告だったのだろうか。

「――円卓の鬼神!」

はたまた王に挑む愚者の宣言だったのだろうか。

私には分からない。
こんな事は、初めてだ。

ただ彼女は終始、千を超える敵に囲まれても、私が言葉を発しても。

円卓の鬼神は、その顔に如何なる色も見せる事はなかった。





リリカルなのはAnother~Fucking Great!~(現実→リリカルなのは TS)
第十一話 THE DEMON OF THE ROUND TABLE







<マリア少佐>

俺の脳内で、分割思考による現状把握が行われていた。
可能な限りの速度で俺は思考を回転させる。

俺は眼前の存在がどうしようもないほどに気に入らなかった。

目の前の彼は俺に終わりだと言った。
今此処で貴様は終わるのだと言った。
俺を一千の兵士で囲んでそう言った。

卑怯だ等とは言わない、言えない、意味の無い事だ。

だが、俺が終わり?今此処で、終わり?
此処が俺の終着点?

……巫山戯るな!!

俺は心の中で絶叫を上げた。
俺の在らん限りで絶叫を上げた。
幾千幾万にも内在する俺が、絶叫を上げた。

目の前の存在は俺の存在を否定するという。
ああ、当然だ、俺と彼は敵同士。
敵は殺す、当然だ。
だが、また当然の如くそんな戯言を認められる筈がない。
そんな宣告を認められる筈がない。

此処で、俺が終わる?巫山戯るなよ!?
俺が、貴様等に狩られる者?ああ巫山戯るな!
貴様等の認識不足を正してやろう。
俺がどういう存在か教えてやる。
俺はガルム、円卓の鬼神。
そう、俺が狩る者。
貴様等が、狩られる者だ。

≪聞こ…ま……聞こえまして?≫

とそこで突如俺に念話が届いた。
この周波数に合わせられてマルチタスクの速度にも合わせられるという事は。
味方であり、かなりの使い手であるということでもある。

そして、聞き覚えのある声でもある。

≪……誰だ?≫

≪お久しぶり、と言っても分からないでしょうね。
 ただ援軍の中隊指揮官とでも言って置きましょうか。≫

援軍、援軍か、成る程。
そう言えば王国軍の援軍は遅れてやってくると言っていた。
随分と遅れたもんだな全く。

その声で、俺は少し冷静になれた。

≪……そうか。≫

≪あら、素っ気無いですわね。
 ……そちらの状況は少尉達から聞きましたわ。
 ……持たせられます?≫

ふざけた問いだ、普通なら一分も持たんぞ。
故に、こう言わせて貰おう。

≪来なくても良い。
 少尉達だけで十分だ。≫

≪……ふふ、五分で参ります。≫

≪来るなら三分で来い。
 連中を横合いから、思い切り殴りつけろ。≫

俺のその言葉に、何時か会ったであろう彼女は糞真面目に答えた。

≪Yes, sir!≫

何処か笑いを含んではいたけれどな。
全くあれから成長した様で何より。
……まぁ何にしても、これで面白くなった。

「クックックッ。」

…………笑い声?

「クックックックックッ!」

「っ!奴を囲め!そして殺せ!」

……ああ、俺の笑い声か。

まぁしょうがないさ、これだけ面白いんだから。
ああ、しょうがないさ。








<梟の目のヨーゼフ中佐>

突如笑い始めた鬼神。
私は恐怖を感じ、包囲と攻撃を命じた。

部隊は的確に動き、攻撃をしながら奴をドーム状に囲んだ。
魔法を選べば下手に同士討ちをする心配もない。
そして、逃げられぬようバインドで拘束し、瞬時に結界も張り巡らせた。
抜け出そうとしてもその隙に奴は封殺される。
逃げ場はない。

奴は動けず、故に静かに防御魔法を展開。
それは、無駄な足掻きにしか見えない行為だった。
勇猛な雄叫びを上げながら放たれる兵士達の魔法を全て遮れるとは思えない。

鬼神に殺到する攻撃魔法。
或いはこの場にいた誰もが、奴の事を恐ろしいと感じたのかも知れない。
千を超える砲撃で、暫くの間轟音が円卓を埋め尽くした。
魔力による粉塵と舞い上げられた土埃が視界を隠す。

私の目は、攻撃の約半数が奴の防御魔法に阻まれたのを確認した。
恐るべき防御力。
撃ち落された砲撃は全て小さな氷の花へと変わっていった。

だがしかし、少なくとも約半数は奴に届いたのだ。

化け物の散り際には相応しいのかも知れない。
私はそんな事も考えていた。

それは誰の目にも明らかなオーバーキル。
人一人殺すには必要ないであろう攻撃の量。
障壁が間に合っても奴のそれでは高が知れる。
鬼神の魔力保有量が少ないという事実は、此処にいる誰もが知っている事だ。

誰もが、鬼神の死を確信していた。
かく言う私も確信していた。
幾百もの戦場を見てきた私の眼が確信していたのだ。
     とき
――その瞬間までは。

その瞬間、体中の皮膚が粟立つような魔力を感じた。
次の瞬間、藍色の極光が上空を薙ぎ払うように駆け抜けた。

まるで竜の砲火のような極光だ。
あの聖剣の威光を否定した悪夢のような極光だ。
もう、二度と放たれる筈のなかった極光だ。
粉塵を切裂きながら放たれたそれは。
上空にいた兵士、約三百人を瞬く間に塵へ帰した。

「クックックックッ。」

響く、押し殺したような少女の笑い声。
その声には何処か感情を感じなく、何処までも現実味に欠けていた。

「……在り得ない。」

思わず出たその言葉は掠れていて、的確に私の心情を物語っていた。
晴れた煙の先に、非現実的な存在が存在していたのだ。

聖剣は地に突き刺し、自らは両手に銃型デバイスを携えている。
銃口の下には、資料にはなかった手の平大の刃が付いていた。

「終わり?終わりだと?
 この私が?王国の番犬ガルムのマリア=エルンストが?」

その在りえざる存在は、鬼神は嘲笑うかのように声を発した。
当然の如く、普通の少女が発する言葉ではない。

皆、皆震えている。
近くで小刻みな音がして、私自身も震えている事に気がついた。
誰も彼もが奴の、鬼神の発する空気に呑まれてしまっている。

「舐めるなよ豚共!
 私が貴様等の様な汚らわしい豚に後れを取るとでも思うのか!?」

鬼神の裂帛の怒声が辺りに響き渡った。
奴にとって、正しく我々は人でないのか。
或いは、奴自身が人では無いのか。

「う、うおおおおぉぉーーっ!!」

次の瞬間、奴の怒声に触発された兵士の一人が雄叫びを上げながら奴に向かって突撃する。
それは恐怖からかはたまた誇りを汚されたからか、動けた事は賞賛に値するが……。
止めろ、と言う声は既に遅く。
やかまし
「五月蝿い!!
 豚が吼えるな!!」

彼は剣の一撃をデバイスに付いたナイフで止められ、もう片方のデバイスで首を刎ねられた。
悲鳴を上げる事も出来ず、二箇所の首から血を噴出しながら彼は死ぬ。

「私の眼前を豚が歩き!屑肉が軍団を成し戦列を組み前進をする!!
 王国の理法を外れ外道の法理を以って世の支配を企てる者を!
 王国軍(我々)が!ガルム(我々)が!!この私が許して措けるものか!!!

 貴様等は震えながらではなく、藁の様に死ぬのだ……!」

そして奴はそう宣言した。
奴はそれが当然であると言う様に、詠う様に宣言した。
眼前で腕を十字にクロスし、背筋を伸ばして銃を掲げるその姿。
血に塗れた腕の間から、恐ろしい青い瞳が覗いていた。

それは鮮烈に、我々の眼と脳裏に刻み付けられた。
そして、この場にいる誰もが思ったのだ。
あれは恐ろしいものだと、この場にいる誰もが。

……馬鹿げている……正に、馬鹿げた存在だ!
その思想もその在り方もその力も!何もかもが明らかに常軌を逸している!
私達の戦争は、こんなものを生み出したというのか!?
この少女の姿をした化け物を生み出したというのか!?
鬼神を!円卓の鬼神を!!

皆、奴へ向かって一歩踏み出す事を躊躇った。
あれが常軌を逸した存在だという事を理解出来る故に。

≪ふっくっ、ふ、ふふふ、ふふふふふふふ。≫

と、その時。
この場に似合わぬ笑い声が響いた。
年若い女の声だ。

広域念話か!
何処から!?

≪あっはっはっはっは!あの姿をご覧になって?あの言葉をお聞きになって?
 言った通りでしょう聞いた通りでしょう、見た通りでしょう?
 あれがガルム!あれがマリア=エルンスト!あの方こそが円卓の王!!≫

「中隊規模の敵影捕捉!……っ!逆方向からも小隊規模が二つ来ます!!」

っ!援軍!幾らなんでも早過ぎる、予め伏せて置いた兵士がいたのか!?
いや――――まさか!
ただの、時間稼ぎか!?
あの、行動の一つ一つも!
攻勢に、出なかったのも!

……ああ、そうだ何を考えていたのだ私は!
防がれる筈のない攻撃が防がれた?一瞬で兵士三百を持っていかれた?
思想が常軌を逸している?存在感が凶悪だった?
成る程恐ろしい。
だが!
もう一度バインドで拘束し攻撃を放てば討ち取れた筈!
結界で拘束しそれごと吹き飛ばせば討ち取れた筈!
討ち取れなかったとしても、少なく無い手傷は負わせられた筈!

謀られた!

鬼神を見れば、奴は魔力がある程度充填された聖剣を引き抜き掲げていた。
鉄仮面の表情は堪えきれぬといわんばかりに口端が歪んでいる。
罠に掛かった獲物を嘲笑っているのか、はたまたこれから始まる闘争に歓喜しているのか。

あの、化け物め!

私の内心での悪態何ぞ知らんとでも言うように奴は聖剣を発動。
聖剣はこれこそが我が主とでも言う様に強い輝きを放っている。
それは忌々しくも美しい。

そして聖剣から極光が走り、上空にいた兵士ごと結界を持っていかれた。

奴は開いた穴から凄まじいスピードで上空へ、そして――

≪横合いから思い切り―――≫

≪≪≪殴りつけろ!!(ますわよ!!)≫≫≫

高速で迫ってきた敵から我々に向かって、一斉射撃が開始された。
上空からも、鬼神の攻撃が降り注ぐ。

「総員防御体勢!!」

私は叫ぶも反応できたのはごく僅か。
この不意打ちで何割か持っていかれただろう。
相手の熟練度と兵の動揺を考えれば勝ち目は限りなく薄い。

だが、せめて鬼神だけでも……!

私は兵士に指示を与え、上空へと躍り出た。
悪いが彼等は生き残れないだろう。
きっと鬼神からは、逃げる事も叶わない。







<赤い燕のレオナルト中佐>

今回の作戦は間違いなく失敗だ。
元々気に入らぬ作戦だった故に失敗した事自体に憤りは感じない。
しかし、しかしだ!

私は上空の鬼神を忌々しげに見つめていた。
隙を衝いて攻撃をせねば此方が落とされてしまう事実もまた忌々しい。
奴は上空から狙撃して次々に我々の兵士を討ち取っていく。
あれの所為で帝国兵は行動が鈍くなっているのだ。

おのれ鬼神!あの化け物め!
あれだけ殺してまだ食い足りないというのか!

「あああ!!…がっ!?」

近づいてきた王国兵の一人を切り飛ばす。
こんな雑兵幾ら落としても意味は無い。
あの鬼神を落とさねば。
しかし、どうやって?真正面から行って勝てる相手なのか。
あの聖剣の威光すらも否定するような化け物に。

いや、或いは私も奴の強さに呑まれているのか。
呑まれているのだろうな、真忌々しい事に!

と、思案していると鬼神の方へ向かって高速で飛来する影が一つ。
不思議と、奴に害なすものには見えなかった。

あれは……?

っ!聖剣の鞘!?

まさか、奴が選ばれたというのか!?
聖剣の主に!

停止していたのは如何程の時間か、気づいた時には私は既に飛び出していた。
長らく現れなかった聖剣の主があんな小娘だという事実に憤慨したのだ。

確かに力はあるかも知れぬ、それは認めよう。
しかし、あのような異端の武器を使って敵を食らうような輩に聖剣が相応しいとは思えない!
我々騎士が間違っていると言うのか!?強さだけが正しいとでもいうのか!?

「鬼神ーーーーー!!」

奴に渾身の一撃を叩きつけ、しかし、奴の手にある聖剣にそれを阻まれた。
我を忘れた状態で此処まで辿り着けたのはある種の幸運で、普段の鍛錬の賜物だろう。

「この化け物め恥を知れ!貴様のような奴が聖剣の主だと言うのか!?
 恥を知れ!!!」

激昂して叫ぶ私、しかし、鬼神は唯冷静に返してきた。

「此処は円卓、死人に口無し。」

此処で私は我に返り、屈辱に顔を歪めた。

戦いは生きる力と生きる力のぶつかり合い。
少し冷静になった私は、奴にもまた誇るべき道があるのだという事に気づかされたのだ。

「くっ!?」

聖剣の鞘の攻撃を受けて僅かに後退する。
障壁が間に合わなければ今の一撃で終わっていた。

だが、なればこそ余計にこの化け物の存在を肯定する訳には行かない!







<マリア少佐>

此処まで綺麗に決まると流石に清々しい気分になる。
正直フレディ少佐からのプレゼント(盗品)がなけりゃ死んでたな!
防御魔法を封じ込めた氷塊も上手く機能するのが確認できたし上々だ。
多少の損失は考えていたんだが、王国軍の援軍が来たから大丈夫そうだしな。
それに、管理局の連中も良くやっている。
特にクロノはあの年で執務官になるだけあって並じゃない。
マルチタスクを使っての魔法制御はいっそ芸術と言っても良いくらいだ。

俺は、近寄ってきた敵の首を聖剣で切り飛ばしながら、そんな事を考えていた。
ナイフ付きバージョンのガーディアンM93Rの方が良かったが、聖剣を放り出す訳にはいかない。
まぁ、切れ味良いし扱い難いって事もないけどな、それに……。

俺の周囲を飛び回っていた物体から光が放たれ、近くにいた兵士を綺麗に撃ち抜いた。
分離したのか五つあり高速で飛び回るそれ。
攻撃或いはシールドを張っての防御とイージス並みの活躍をしてくれる。

………フィン○ァンネル?

うん、何か聖剣握ってたら行き成り下の方から飛び出してきた。
これって確か鞘だよな?鞘も盗まれてたの?いや、セットなんだから当然と言えば当然か。
だが、例の次元犯罪者の奴が使ってなかったから分からなかった。

……そういや聖剣に認められたものにしか扱えないんだったか?
だとしたら聖剣も余り目が利かないな……いや、目は無いが。
担い手に選ばれたのか?
正気かこの聖剣。

だがまぁ、役に立つ事は確か。

鞘は近寄ってくる敵をレーザーで次々に焼き払っていく。
敵の攻撃も易々と防ぎ……。

流石ロストロギア、とんでもないチートっぷりを発揮してくれる!

「鬼神ーーーーー!!」

おぉっと!?

「!」

調子に乗ってたら突撃してくる人影に気づかなかった。

その人物の速度が普通よりも遥かに速かったってのもあるんだけどな。

甲高い金属音が聖剣と衝突した物体の間で起きた。
此方の隙を衝いた真っ直ぐな斬撃、繰り出してきたのは指揮官らしき男。

いや、指揮官っぽい奴はもう一人いたはずだが……?

「この化け物め恥を知れ!貴様のような奴が聖剣の主だと言うのか!?
 恥を知れ!!!」

相手の男は激昂している、言っている事はもっともだ。
俺の様な奴が聖剣の主と言うのは如何にも可笑しい。

しかし、恥を知れというのならば俺はこう返そう。

「此処は円卓、死人に口無し。」

俺の言葉に相手の男は屈辱だと言わんばかりに顔を歪めた。

聖剣を切り払い、相手との距離をとる。

相手は……中佐か、厄介な。
聖剣もそう簡単に扱えるもんじゃない。
下手に撃てば味方に中るし僅かながらも硬直はある。

……なら。

「……行け。」

俺は聖剣の鞘に命じて男を攻撃させた。
聖剣のそれ程ではないとは言え十分な威力の高出力レーザーで相手は防御で手一杯になる。

「くっ!?」

敵はこの男だけじゃないが、此方の防御はイージスだけで十分……。

……が、この考えはどうやら甘かったようだ。
聖剣を持っていると言うアドバンテージに胡坐をかいてしまったか。

恐るべき速度と精密さ、完全なタイミングで俺に魔法が放たれたのだ。
イージスが反応するが威力を減衰させることしか出来ず。
それは俺に直撃した。

「っ、がっ!?」

殴られたように、眩暈がする。

俺に向かってきたそれは、着弾と同時に爆発した。
とっさの防御魔法は間に合ったが、衝撃で聖剣が手から零れ落ちる。

やってくれる!







<梟の目のヨーゼフ中佐>

やったか!?

私は少々離れた所から鬼神の隙を窺い続けていた。
そして、奴が聖剣の鞘をレオナルト中佐に向けた瞬間を狙い撃った。
一点の防御力で言えば奴の魔法よりも鞘のほうが遥かに厄介……。
……いや、鞘のお陰で奴の心に隙が出来たか。

魔力粉塵で奴がどの程度のダメージを受けたかは分からないが。
それの中から落ちてこないのならば奴はまだ生きている。

レオナルト中佐は聖剣の確保へと向かった。
ならば私が鬼神の相手をするまでだ。

私は魔力弾を二十生成、それらで守るように中心にでかいのを一つ生成した。

「死ね!円卓の鬼神!!」

私の叫び声と共に一斉に放たれるそれら。
違わず鬼神のいる所へと向かっていき……。

突如咲いた七枚の花弁を持つ氷の花に行くてを阻まれた。

っ!あれか!我々の攻撃を防いだのは!!

氷の花は弾丸を全て飲み込むと共に散っていった。
戦場とは思えぬほど美しい光景だ

…………しかし、その美しい光景の向こうから悪魔は来た。
その手には死を吐き出す鉄の獣。

「有象無象の区別無く、私の弾頭は許しはしない。」

獣は三度吼えた。

奴の攻撃はその全てが流星の如く。
迫り来るそれの速度と威力は計り知れない。

だが、要は中らなければ良いのだ。

私は奴の姿が見えたと同時に空を駆けていた。
確かに奴の攻撃は速度も威力も在る。
しかし、誘導性は無い。
元よりあの速度で誘導性を持たせることは至難の業。
真正面から中る愚を冒さなければ勝機は在る!

そして、予想通り弾丸は私に命中せず何処かへ飛んで行った。
中らぬ弾丸に意味は無い、接近戦で討ち果たす。

勝てる!

私はそう確信し、鬼神の周囲を徐々に距離を詰めながら回っていく。
接近しさえすれば此方にも勝機は此方にも十分に在る。
だと言うのに鬼神は全く動かない。

「……まさか接近戦を挑んでくる積りなのか?」

思わずそう声が漏れる。

だとすれば私も相当に舐められたものだ。

「上等だ!」

私は十分に距離を詰めたと確信し、一気に鬼神へと接近する。
彼我の距離は5メートル。

この距離まで詰めてしまえば奴が照準を合わせるより早く避ける事が出来る!

しかし、私のそんな考えを他所に鬼神はただ此方を見。

「せいぃやぁ!」

「……!」

私の剣撃を唯冷静に銃に付いた刃で受け止めた。
刃は氷を纏っており、その強度とリーチを補っているようだ。
そして何故か、もう一つの資料には無いデバイスは手放さない。

だが、そんなものは関係ない。

「殺ったぞ!」

私は勝利を確信し――

「……殺っていない、殺られたんだ。」

「後ろだ!ヨーゼフ中佐!」

――頭と胸と腹部に衝撃を感じ、闇に落ちた。





<赤い燕のレオナルト中佐>

ヨーゼフ中佐が落ちたか!

鬼神の放った攻撃はヨーゼフ中佐に回避されたかに思われた。
しかし、その勢いのまま円卓を駆け巡り再びヨーゼフ中佐に襲い掛かったのだ。
恐らくあいつの持っているデバイスはそれぞれがその魔法専用のデバイス。
一撃目は弾かれたのではなく弾かせたのだ。
中佐は攻撃に転じる為に障壁への注意を緩めた為に防げなかった。
注意を呼びかける声も気づいた時には既に遅く………。

忌々しい鬼神め!

だが、聖剣は今、私の手の中にある。
残念ながら私に担い手の資格は無いようだが……いや、ただ聖剣を解放するだけならば私にも出来る!
これで鬼神を討ち取れる!

が、しかし私のその行動は第三者の手によって阻まれた。

≪Blaze Cannon≫

決して低くはない威力の爆発魔法が私に襲い掛かった。
とっさに障壁を張るも、防ぎきれない。
障壁を抜けてきた分の魔力が削られる、そしてこの世界では見たことの無い魔法。

「管理局か!?」

非殺傷設定などと言うもので戦場を汚す痴れ者共の一員か!?

≪Stinger Snipe≫

返事は新たな攻撃だった。
魔法の担い手は背の低い黒髪の少年。

小癪な!

「破!!」

私は放たれたそれへ向かってデバイスを振るった。

が。

≪Break≫

私のデバイスがそれを切裂く前にその魔力球は爆発した。
衝撃で僅かに後退させられる。

「ぐっ!?おのれ!!」

「聖剣を渡して大人しく投降しろ。
 我々管理局は命まではとらない。
 が、戦場で落とされれば命の補償は仕切れない。」

目の前の小僧は淡々とそう告げてきた。
戦士を侮辱する言葉を淡々とそう告げてきた。
この私を侮辱する言葉と淡々とそう告げてきた!

「巫山戯るな!
 戦士を!この私を舐めるな!!」

私は前進に走る怒りの感情のままに斬りかかった。
しかし、感情に流されてしまったその一撃は容易く避けられる。

っ!心を落ち着けなければ!先程と言い今と言い今日の私は心を乱しすぎている!

「そうか。」

私は剣を振り切った先で振り返り。

「残念だ。
 ……折角だから僕からも一言言わせて貰おうか。」

先程とは違い、この怒りは確実に己の敗北であったと悟った。

≪Stinger Blade Execution Shift≫

奴の周りには百を超える剣の群れが展開されていて。

「管理局を舐めるな。」

それらは一斉に私へと襲い掛かってきた。

その恐るべき光景は恐るべき威力を持っていた
障壁はあっと言う間に削られて、私の意識と魔力は刈り取られた。

この借りは、必ず返す!
           ・・
薄れ行く意識の中、私が最期に思ったのはそんな事だった。

戦場に、次は無い。







<援軍・アルステーデ大尉>

……甘いわね、管理局とやらは。

私は、聖剣を確保した彼の背中を見ながら思った。
敵に止めを刺さないなんて味方の損失を増やすだけの行為。
まぁ、大した力も無い兵士ならば生かしておいて治療の手間をかけさせるなんて方法もあるけれど。

無論、彼が撃墜したレオナルト中佐には止めを刺してあります。
彼はその卓越した剣技と豊富な魔力保有量で恐れられていた存在ですから。
生かしておく理由はありませんわ。

私は視線を外して、戦場へと目を戻した。

でも、その恐るべき中佐を軽々と落としたあの執務官は只者じゃないですわ。
敵に油断や動揺があったのは動きを見ていても間違いありません。
しかし、それでも恐るべき使い手であることには変わりなく。
あそこまで見事に落とすにはあの精密な魔法構成と魔法制御でなければ無理であったでしょう。
不意打ちとその後の攻撃も私が見る限りでは完璧なタイミングでした。

管理局は確かに甘い、しかし、決して侮って良い相手ではないですわね。
あの鮮やかな手並みは方向性は違えどマリア少佐をも髣髴とさせるものでしたもの。
魔力保有量だけでは測れない技術を彼等は持っています。
油断や動揺は彼等相手には致命的でしょう。

だけれど、考えてみれば当然ですわね。
彼等は今まで殺さずに相手を制圧してきたのですから。
非殺傷設定があっても、それが如何に恐ろしいことかは考えなくても分かりますわ。

時空を管理する組織。
成る程、とんでもない連中ですわね。

と、戦いながらマルチタスクの一部を使ってそんな事を考えていると戦場に変化が。

マリア少佐が空を切裂きながら上空から舞い降りてきたのだ。
凄まじい加速。
それは周囲にいた兵士達が吹き飛ばされるほど。
帝国兵の反応は鈍く、少佐の動きは速い。

少佐が構えたデバイスから銃弾が吐き出され、それは兵士達を次々となぎ倒していく。
突撃した兵士はデバイスの刃で切裂かれ、或いは逸らされた先で銃弾の洗礼を浴びる。
弾丸が切れても、即座にマガジンが排出され、コートから新たなマガジンがセットされる。
銃声は鳴り止まず、銃弾は止まらない。

「それでどうした!それで終わりか!?
 さぁ掛かって来い!貴様等は豚か!?それとも人間か!?」

血肉と悲鳴が空を舞い、地へと落ちる。
現れてから一分も立たない間にあの空はマリア少佐の独壇場と化した。

その強さと姿は兵士達を見惚れさせ、所々で戦場を停滞させるほど凄まじかった。

マリア少佐は王都の王国軍からは余り好かれてはいない。
王国の情報操作とその異例の昇進速度への妬みだ。
戦場を知らぬ連中には特にそれが顕著に現れている

しかし、この姿を見た兵士は皆彼女を恐れ、彼女に憧れ、彼女の虜になるだろう。
少なくとも、私の周りにいる兵士達は皆少佐に見惚れている。
それに事実、サウスハンプトン付近及び戦場へ出ている兵士達から少佐は絶大な信頼を得ているのだ。

「ふふ、やはり少佐が一番素敵ですわね。」

でも、見惚れていないで戦闘を行わないといけませんわ。

少佐一人に仕事を任せるわけには行きませんもの。
それに折角初めての大規模戦闘なのですから、もう少しは活躍しておかないと。

私はヴァルキュリアを振るって近づいてきた兵士を切り捨てた。
マリア少佐の防御魔法を真似た魔力球による攻性迎撃魔法のお陰で処理がとても楽。
肉を切裂く感触にももう慣れた。

まぁ、こういった真似が出来るのは高性能なインテリジェントデバイスのお陰ですけれど。
専用デバイスを作るだけの技量がまだ私にないのが残念ですわ……
………いえ、そう言えばあの執務官の方はストレージデバイスでしたわね。
デバイスに頼りすぎるのも問題ですわ、懲りてないのかしら、私は。

防御を兵士に任せ、砲撃魔法で薙ぎ払う。
混乱の為か敵の攻撃には統一性がなく、討ち取り易い。
故に、余程油断しない限りは防御魔法が間に合う状況。

まぁあれだけ素敵なお姿を見せつけられた後の奇襲だったら、こんなものでしょうね。
指揮官の方々も早々に討ち取られてしまいましたし。

見れば他の方々も大分奮戦しておられる模様。

マリア少佐やあの執務官……確かクロノ執務官と仰ったかしらね。
あの二人は言うに及ばず。

あの執務官以外の武装局員の方々もガルム小隊にサポートされて上手くやっている。
ガルム小隊の方々は方々で武装局員を上手く使って攻撃を。

やはり、ガルムは共闘している部隊の能力を極限まで上げる。
あの方々が中隊にいるだけで生存率が上昇するのも納得ですわ。
そして、そのガルム小隊の威力を最大限生かせる人物がマリア少佐。

いずれにしても。

「……この戦場は、余り長続きしそうにありませんわね。」

私は、そう呟きながらまた一人撃ち落した。

この戦場はこの言葉通りに三十分も掛からずにその幕を下ろす事となる。







クロノ執務官からマリア少佐に聖剣とその鞘が手渡された。

既に場所は移しており、周りには血も死体も御座いません。
あの場は正に地獄でありましたわ。
私達中隊は多少ですが被害が出てしまいましたが、ガルム小隊と管理局の方々は共に被害無し。
管理局勢に被害が無いのはガルム小隊のお陰もあるとは言え、少々へこみますわね。

「……協力を感謝する。」

「……いえ、共に戦えて光栄でした。」

マリア少佐は相も変わらず無表情、対してクロノ執務官の表情はやはり何処か硬かった。
言葉も完全に上っ面だけと言うことは無いでしょうけれど、少なくともやはり人死には嫌なのでしょう。

それにしても、やはり聖剣はマリア少佐に似合いますわね。
……何故かと聞かれると困るのですが……聖剣も少佐を主と認めているからでしょうか?
少佐の手に渡った瞬間、少し輝いたようにも見えましたし……陽光を反射しただけかもしれませんけれどね。

「では、我々はこれで。」

「……ああ、素晴らしい腕だったぞクロノ執務官。」

マリア少佐の言葉に少し面食らったような表情をするクロノ執務官。
まぁ、マリア少佐がこんな風に人を褒めるなんて余り想像できませんわよね。
……少し、羨ましいですわ。

クロノ執務官は最後に少し苦笑のような表情を見せながら転送されていきました。
一緒に転送されていった武装局員の方々は何処か誇らしげでしたわね。
人望はあると言う事なのでしょうか。

あの方々が単に慣れていただけかも知れませんが、管理局の方々もこの戦場で中々どうしてやるものですわ。
非殺傷設定を使っているからといって誇りが無い訳ではないのでしょう。
ただ、我々とは少し在り方が違うだけで。

「アルステーデ大尉。」

「!あ、はい。」

そう言えば、この前会ったときは私のほうが階級が上でしたけれど、もう抜かれてしまいましたわね。
一応私も魔力保有量だけなら少佐級ですから、なれない事も無いのですけれど。

「貴君等も援軍感謝する。
 貴君等のお陰で損失を出さずに済んだ。」

言外に負けはしなかったと言う辺り何ともらしいですわね。
そして、それを実行するだけの力があるのは何とも魅力的ですわね。

「いいえ、私も貴女と共に戦えた事を誇りに思いますわ。」

本当に。
今日一緒に戦えただけでもあの時から訓練を積んだ甲斐がありましたわ。
…………もっとも、随分と置いていかれてしまった様ではありますけれど。

「そうか………。
 ……大尉、アルステーデ大尉。」

?何かしら?

「はい。」

「戦場へ、ようこそ。」

何とも不器用に、口端を歪める様な笑みを浮かべて言ったマリア少佐。

「……はい!」

その何とも不器用な歓迎の言葉が嬉しくて。
不覚にも、少々目から涙が零れてしまいました。
これは、余りにも酷い不意打ちでしょう?

周りの皆さんも微笑を浮かべていて、きっと、私も微笑んでいられたのでしょう。







<クロノ=ハラオウン執務官>

今回のような大規模な戦場と言うものは初めてだった。
人が沢山死んで、僕自身も何回か死を感じる場面があった。
人が死ぬ様を見るのが如何にも苦しくて、自分の死が如何にも怖くて。
しかし、これからも管理局員としてやっていく中でこのような事は何度かあるだろう。
非殺傷設定を使っているからと言ってそれは絶対ではない。
敵の死にも、味方の死にもある程度慣れなければ(……)ならない。
まぁ最後、少し不意打ちだったがマリア少佐に賞賛されたのは嬉しかったがな。
あれで少し気が晴れた僕は現金なのだろうか。
厳格そうな人だったからな、マリア少佐は。
あの言葉に偽りは無いのだろう。

≪クロノ、大丈夫?≫

と、シャワーを浴びてベットに横になりながら考えていた僕に、念話が届いた。
艦長……母さんからだ。

≪……大丈夫です、リンディ艦長。≫

母さんは厳しいんだか優しいんだか。
少なくとも、僕の進む道を尊重してくれてはいる。

≪そう、今日は余り無理をしないで休みなさいね。≫

≪了解しました。≫

このごく短い会話で念話は切れた。
母さんも暇ではない。
心配して話しかけてくれただけでも、十分だ。

エイミィは……戦闘の映像を見てショックを受けているって所かな。
まぁ、彼女の柔軟な思考なら直に立ち直るだろうけれど。
今回の戦闘は僕にとっても彼女にとっても、他の戦場を経験していない武装局員にとっても良い経験だった。
そうきっと、とても貴重な経験だった。

今日はきっと悪夢に魘されるのだろう。
そんな事を考えながら、僕は何時もよりも大分速い眠りへついた。
明日からはまた、頑張らなくてはならない。







<マリア少佐>

へ、へへ、真っ白だぜ畜生。
あれだ、戦場でハイになると何やらかすか分からないってこったな。
思い返せば今日は良く生きていたな!
畜生ニートになってやる!幼女を舐めんなよ!?

俺は、自室のソファーで横になってだらけていた。
今回みたいな大規模戦闘は俺自身初めてだったのだ。
まぁ、似たような感覚の戦いはあったけどな。

…………でも千人VS一人はないわ

ロンギヌスにバイヨネットにM93Rのブレード、仕舞いにはUSSRドラグノフ。
随分と新兵器を持ち込んだもんだ。

……ああ、あの中佐を落としたのがドラグノフな。
うん、魔弾の射手。
ただその敵だけを追尾するものだから完全じゃないけどな。
その代わり、一度に三発撃てるけど。
ロックしてる敵以外に当てないようにするのが一番難しかった。
この速度で制御するのは無理があるか……いや!いずれリップヴァーン中尉を完全再現するのだ!!
……残りはトランプ……は要らないからジャッカルとハルコンネンか。
糸?無理無理、てか実用性が伴ってなけりゃ死ぬ。
でも、上手く糸の強度と細さを調整すれば……駄目だぁ!本当に最近マッド化してきてやがる!

もう寝よ!よし決定!本当に疲れたし!
一通り実戦で扱えたしクロノと共闘できたし、大活躍したアルステーデ大尉等も此処に残留するらしいし!

万事OK!

はい、おやす「マリアちゃんお帰り!」「少佐大丈夫だったんですか!?少し怪我したって聞きましたけど!」み……

(畜生)
Jesus!

この後、お子様二人に(貴重な休憩時間を)美味しく頂かれました。







<ジルヴィア少佐>

…………む、朝か?

「朝じゃないよ、もうお昼だよ。」

「…………クリス?」

「うん、おそようジルヴィア。
 今度は逆だね。」

…………そうか、うむ、血塗れにやられて気絶していたのか。
辺りを見回してみると此処が病室だという事が分かる。
成る程、今度は逆だ。

「運ばれてきた時のジルヴィア面白かったよ?足跡とか沢山付いてて。
 心配するより先に笑っちゃったもん。」

…………酷い。
何か血塗れにやられてから容赦がなくなったような……気のせいか?
……いや、と言うか私が地面に放置された状態で戦闘があったのか!?よく生きてるな私!

「おや、目覚めたようですね。
 二日間寝てましたよ、貴女。」

「む、コリーナ。」

と、そこで花の入った花瓶を持っているコリーナが病室に入ってきた。
うん、将校だから個室なんだ。
こういう時は将校で良かったと……思えない。
必然的に怪我をしている時だからプラマイゼロだな!
糠喜び!……何か違う?

「ええ、コリーナですよ?
 貴女に置いていかれたコリーナ中尉です。」

「うっ……。」

笑顔だがコリーナの目は全く笑っていない。

「いや、だって、危ないし。」

「軍人が危険を冒さないで如何するのですか?」

ごもっとも。
だから睨まないでくれると嬉しい。

「全く。
 ……今の所血塗れと交戦した人間で生きているのはあなた方二人だけですよ?」

「それは、何とも幸運な。」

……グレゴールの奴はやはり死んだのか。
意外と、良い奴だったんだけどな。

「今回の交戦で彼女に討ち取られた人数は約400人。
 実に450の1の生存確率ですね。」

……400人、どれだけ人間止めれば気が済むんだ?

思わずそんな感想を持ってしまった私を誰が責められようか。
たった一人で戦術兵器並の活躍をしているのだ、血塗れは、いや……。

「……鬼神、か。」

「はい?」「え?」

私の呟きに、二人が反応する。

「いや、何。
 グレゴール……あの例の盗賊のリーダーの奴がな。
 最後に血塗れの事をそう呼んだのだ。」

「鬼神……円卓の鬼神ですか?
 交戦記録の音声にもありましたね。」

「……何か格好良いね。」

クリス、格好良いと言うのは少し可笑しいと思わないか?
コリーナもクリスに向けて少し可哀想な目を向けている。

「……何か馬鹿にしてない?」

鋭い…じゃなくて。

「い、いや、やはり言い得て妙の呼び名だと思うな。
 うん、格好良いんじゃないか!?」

「そっか、そうだよね。」

ふぅ、誤魔化せた。

「……まぁ、今回の事でマリア=エルンスト少佐は晴れて600億マルクの賞金首ですしね。
 それくらいの呼び名が丁度良いかも知れません。」

…………は?

「600億ーーーーーー!?」

ケーキ何個食べられる!?

「発動した聖剣の単独阻止に約千人の殺害。
 まぁ、殺害に関しては戦場では当たり前ですが。
 しょうがないと言えばしょうがないでしょう。
 今や血塗れ、いえ、円卓の鬼神は帝国最大の敵ですよ。
 王国内部でも危険視されているくらいですし。」

…………そうか、とりあえず……。

「生き残れて、良かったなぁ。」

「そうだねぇ~。」

私は思わず遠い目をして窓の外を見てしまった。
クリスは多分、のほほんとしている。



前を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.023690938949585