*注意!! 本編にあんまり関係無いので、あくまでネタとして読んでください!!!『ドラゴンライダーごっこ』居間のソファで横になり、無防備な姿を晒しているソルが昼寝をしている。そんな光景を眼の前にして、なのはは自分でも知らずに生唾を飲み込んだ。今日は聖王教会で仕事があったので、何時もの仲良しメンバーであるアリサの誘いを断って一人先に帰宅したのが五分前。ちなみに、フェイトとはやてとすずかは自分と違って今日は用事が無いのでバニングス邸に遊びに行った。家の中には、なのはと寝ているソルを除いて誰も居ない。皆それぞれの仕事か、用事だろう。大所帯である高町家において、家の中で誰かと二人っきりになれる機会なんぞそう多くない。相手が多忙を極めるソルであれば尚更だ。(こ、こ、これはまたとないチャンスなの!?)ドックンバックン心臓が跳ね回り、頭の中はすっかり自分の魔力光と同じピンクに染まり、顔や身体が興奮して熱くなるのを感じながら、なのはは口を開く。「あー、なんか暑いなー。それに疲れちゃったなー。わ、私もソファで仕事まで寝てようかなー」誰も聞いてる人物が居ないのに紡がれた言葉は、酷い棒読みだった。首に留めた制服のリボンを外しブレザーを脱ぎ捨て、Yシャツは下着が見えるくらいに胸元を開き、仰向けになって規則正しい呼吸をしているソルの上にスカートのままで跨る。「……む」「っ!」「うぅ……スー、スー」一瞬だけソルが寝苦しそうに呻いたが、それだけだった。数秒後には何事も無かったかのように穏やかな寝息を継続した。起きなかったことにホッと安堵の溜息を吐くと、なのははゆっくりと身体をソルに密着される。やがて彼の大きな胸元に顔埋めるように抱きつく。(はああああ……堪らない)レアスキル、”魔力供給”が魔導師にとって癒し効果があろうと無かろうと関係が無い。この世で誰よりも大切な人と触れ合っているのだから、心地良いという感覚以外にあり得ない。ソルから伝わってくるのは彼の体温、穏やかな呼吸音、匂い、そして優しいリズムを刻む心音。なのはにとって、ソルの心音というのは幼少の頃から寝る時に聞いていた子守唄のようなものだ。この音を聞くだけで心が安らぐのは今でも変わらない。しかし、最近はこれだけで満足出来なくなってきた。当時よりも心が成長したのか、それとも身体つきが大人になってきたからなのかは不明だ。平均よりも早い肉体の成長。明らかにこれはソルの魔力が影響していた。闇の書に蝕まれていたはやてが身体を不自由にしていたのとは全く逆。幼い頃から常に一定以上の魔力を供給され続けたことによって、他の同年代の友人と比べると成長が早い。中学生になってからは特にそれが顕著になっている。二次性徴も合わさっているからかもしれない。フェイトなんてつい先週、新しいサイズの下着を買っていたのを思い出す。自身の身体がソルの影響を受けている、そう考えるだけでなのはは嬉しくなってくる。もっと、もっと、それこそ二度と消えないように刻み付けて欲しい。自分がソルのものであるという証を。時折襲ってくる飢餓感にも似た衝動は、心の底からソルを求めている嘘偽り無い本心であると同時に、女の本能でもあった。「お兄ちゃん……」一度身体を起こし、妖艶な仕草で舌舐めずりをして、いただきます、と口の中で小さく唱え――「ただいまですぅ!!」「ただいまー!!」元気な子どもの声が二つ聞こえたことによって、なのはは動きを止める。ツヴァイとエリオが外から帰ってきたようだ。良いところで、と内心で舌打ちしつつ、ドタドタと足音を立てて近付いてくる気配に若干焦りながらその身をどかそうとして、ブラジャー丸見え状態だったのに気付いて慌ててボタンを留める。そんな風にモタモタしている間に二人が居間に入ってきてしまった。「あー!! なのはちゃんが父様にマウントポジション取ってます!! 喧嘩ですか!?」「え! そうなんですか? なのはさん、父さんと喧嘩してるんですか!?」「ち、ちが、違うの!! これは喧嘩じゃないの!! そもそもお兄ちゃん寝てるし!!」マウントポジション=殴り合い、という考えに至るツヴァイは色々とダメだと思う。「じゃあ、遊んでるんですか?」エリオの純粋な瞳になのはは返答に困った。「こ、これはね」「「これは?」」「ど、ドラゴンライダーごっこっていう遊びだよ」「「ドラゴンライダーごっこ?」」テンパった頭はこの場を凌ぐ為に勝手に口から出任せを言う。「ほら、お兄ちゃんって怒ると怖いでしょ? でも寝てる間は大人しいから、その、あの、なんて言ったらいいかよく自分でも分かってないけど、自分より強い存在を従えるとかそんな感じを楽しむ遊びというか、でも別に普段からお兄ちゃんを従えたいとか思ってた訳じゃ無くて、むしろ逆で――」「「???」」支離滅裂な言葉の羅列に子ども二人は首を傾げることしか出来なかったが、とりあえず”ドラゴンライダーごっこ”が相手に跨る遊びだというのは分かった。「なんかイマイチ言ってる意味が分からないですけど、エリオ、早速試してみるですぅ!!」「うんっ!!」居間に入ってきた時と同じようにしてドタドタと騒がしい足音を立てながら、ツヴァイとエリオは出て行ってしまった。「ほ」難は去った、部屋を後にする二人の後姿に安堵の溜息を吐く。が、そうは問屋が卸さなかった。「何あの二人に妙なこと吹き込んでんだ、なのは」怒気を孕んだ声が聞こえてしまい、なのはは全身から冷や汗をかいて視線を自分が跨っている人物に向ける。滅茶苦茶不機嫌な眼つきをしているソルが、真紅の瞳を鋭くさせて睨んできていた。「何時から起きてたの?」「今さっきだ……とりあえず降りろ、年頃の娘がはしたなく男に跨ってんじゃねぇ」「……はい」言われた通りに降りる。怒っている時のソルに逆らえば問答無用で焼き土下座だ。逆らう訳にはいかない。ソルはやれやれと溜息を吐くとソファに座り直し、なのはには床に正座するように命令し、彼女も大人しく従う。「何か申し開きはあるか? ツヴァイはぶっちゃけどうでもいい、あいつはもう手遅れだ……純粋無垢なエリオに妙なことを教えたことについてだな」と問われたので、十秒程度黙考してからこう答えた。「お兄ちゃん、騎乗位って嫌い?」「テメェ全っっ然反省してねぇだろ!!! つーか、何処で覚えたそんな言葉っ!?」焼き土下座が決定した瞬間である。そして、ソルは二度と居間で昼寝しないと心に誓ったのであった。数日後。「どうしてあんな風になっちまったんだ?」ナカジマ家のテーブルで舐めるように酒を飲みながら頭を抱えるソルの姿が。「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!! ク、クククク、アーーーーーーーーーーーッハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」「…………クイント、テメェさっきから笑い過ぎだぁぁっ!!」「何よー!? やる気ぃぃ!! 喧嘩なら買うわよ!!」「テメェが売ってんだろが……! 笑う以外にもっと違うリアクションあんだろ!?」「そんなものはこれっぽっちも無い!! ぶっちゃけ面白いからソルの家族にはもっと頑張って欲しいわ!!」「ぶっ殺す!!!」ドッタンバッタンと取っ組み合いをし始める二人の酔っ払い。「やめろお前ら!! いきなり殴り合い始めてんじゃねぇぇぇ!! 酒飲むか愚痴垂れるか話聞くかのどれかにしろってんだ!!!」必死になって止めるゲンヤだが二人は全く耳に入れず、足を止めての打ち合いに移行。両者は激しいパンチの応酬を繰り返し、殴られて顔を後方に弾かれながらも全く退かない。すぐに体勢を整え拳を振るう。そんな光景を目の当たりにして、スバルがギンガの服の裾を掴みながら問い掛ける。「ねぇギン姉、ソルさんってホントにお母さんと仲良いの? 何時も喧嘩してるように見えるんだけど」「あれは一種のコミュニケーションよ……ってあああああああっ!! お母さんの右クロスが決まったぁぁぁぁぁぁ!! ソルさんダウン!! 1!! 2!! おっとスリーカウント前にソルさん立ち上がった、試合続行の意思を見せる!! ボックス!!」困ったように苦笑したと思った途端に実況を始めるギンガは、なんだかんだ言ってこの状況を一番楽しんでいた。背徳の炎と魔法少女 空白期Ω 色々とバカなネタが詰め合わせ え? これ十五禁描写ある?『インモラルの炎』フェイトは自室で機嫌良く歌を唄いながら英語の勉強をしていた。ミッド語が英語に酷似しているおかげで、彼女にとって英語とはそう難しくない、得意科目とも言える存在である。何より分からない箇所はソルが教えてくれる。これで出来ないなんて口が裂けても言えない。母国語に似ているだけあって覚えやすい、文章構成が容易に分かる、だから歌を唄いながらの勉強など余裕だ。実は歌を唄っているのを聞かれるのが恥ずかしくて自室で勉強をしていたりする。他には、皆にはうるさくしてしまかも、と遠慮している部分もある。一曲唄い終えたそんな時、フェイトの眼を惹く単語を教材の中で見つけた。”moral”。”道徳”、”倫理”、といった意味を表す単語だ。「……モラル」口に出してからなんとなく気になったので、手元にあった電子辞書で意味を調べてみると、思った通りのことが記載されていた。なんとなくとはいえ、どうして気になったんだろう?疑問に思いながら記載されている文章を読んでいると、”moral”とは逆の意味を持つ”immoral”という言葉を見つける。これは”不道徳”、”倫理に反する”、そして”背徳”という意味を持つ。(あ、そっか)”moral”という単語が気になった理由は簡単。ソルの二つ名と全く逆の意味を持っていたからだ。(でも、どうして”背徳の炎”って呼ばれてたんだろう?)詳しくはよく知らないが、ソルをギアに変えた”あの男”が発端らしい。「背徳の炎……背徳……インモラル……インモラル?」ぶつぶつと独り言を呟いている内に、フェイトにとっては衝撃的な事実に気付いてしまう。「インモラルな、ソル?」それはとってもエッチな響きだった。「ソルが、インモラル……」ほわんほわんほわわ~ん何故か白衣姿で銀縁眼鏡を装備したソルがフェイトを冷たい視線で見下ろしている。『フェイト、お前は俺の何だ?』『……え? ソルにとって私は――』咄嗟に答えることが出来なかったフェイトに黒い鞭が振るわれた。『あうっ!!』痛いの一瞬だけ。間を置かず叩かれた部分は甘い痺れとなり、どうしようもない程にフェイトを疼かせる。『さっさと答えろ、このウスノロ』『私は、犬です』その答えに満足したのか、ソルは口元を三日月の形に歪めた。『なら俺はお前の何だ?』『ご主人様です!!』迷い無く答えるフェイトの頭をソルが優しく撫でる。『良い子だ、褒美をくれてやる。脱げ』『は、はい!!』おもむろにソルはズボンのチャックを――「フェイトー、ご飯だよー」アルフは夕飯の時間になっても居間に現れない主の様子を見に、フェイトの部屋の前までやってきてドアをノックしていた。だが、反応が無い。精神リンクも食事に呼ぶ前の十分程前から何故かぷっつり切れてしまっていて、現在のフェイトの状況が分からない。魔力は問題無く供給されているのであまり深く考えはしなかったが、もしかしてフェイトの心に何かあったのだろうか?「寝てんのかね? 入るよー」まあ、家の中で何かあるとは思えないし何かの間違いでしょ、と深く考えずにアルフは部屋に踏み込んだ。そこには、「フェ、フェイトォォォォ!?」机に突っ伏した状態で血に染まるフェイトの姿が。「一体何があったんだい!? そんなことより止血、ちち、治癒しなきゃ!! ソル!! ユーノ!! シャマル!! 誰でもいいから早くこっちに来ておくれ!!!」悲痛な声をアルフが上げてフェイトの身体を抱え上げ、母屋から何事かとソルを筆頭に家族皆が走ってくるというのに、「えへへ、ご主人様~」当の本人は蕩けた表情でうわ言を吐きながら伸びていた。結局フェイトは単なる鼻血だったらしいが、何が原因で意識を失うまで鼻血を出したのか分からず仕舞い。一応、病院にも連れて行って精密検査を受けたが無駄だったのだ。とりあえず大事を取って二、三日学校を休んで様子を見ることにした。フェイトの看病にはソルが立候補し、彼は学校を何時も通りサボり仕事はアインに代わってもらい家に居ることにする。「ごめんね、心配掛けて」「別に構やしねぇよ」謝罪の言葉に素っ気無く応えると、ベッドに腰掛け何時もの不敵な笑みを浮かべた。「仕事なんかより、お前の方が大切だ」「ソル……」申し訳無いと思うと同時に、フェイトの心の中を喜びが満たしていく。自分はこんなにも想われているんだ、それを実感するとこの気持ちを伝えたくて、ベッドに横になっていたフェイトは身体を起こして手をソルに伸ばした。応じるようにソルが手を出し、二人の指が絡まる。「何か食いたいもんとか飲みたいもんとか、欲しいもんは無ぇか?」父性溢れる優しい、穏やかな視線と口調で問うソル。対してフェイトは、「私、ソルが欲しい」はっきりと言い切った。沈黙が降りる。時計の秒針がカチッカチッと鳴っている音がやけに耳障りだ。「……」「……」「……あー、すまん、よく聞こえなかった。もっかいだけ、ゆっくり言ってくれ」「私は」「ああ」「ソルが」「ああ、俺が?」「欲しいの」「……」農家に向かって畑くれって言ってるようなもんである。ソルはフェイトと繋いだ手を離して頭を抱えようとしたが、ギュッと握られた細い指がそれを許してくれない。仕方が無いので残った方の手で額を覆うと頭痛を堪えた。「何を間違えた? どうしてこうなった……?」「ソル、ううん、私のご主人様」「ご主人様っ!?」「皆に迷惑を掛けてしまったこの卑しい犬に、罰をください」完全に起き上がってソルを押し倒そうとするフェイト。そんな彼女はソルにとって既に理解の範疇を飛び越した謎の生物と化していたのである。「お前マジで何があったんだ!? 変とかそういうレベルじゃ、だからちょっと待て、少しでもいいから落ち着け、つーかお前滅茶苦茶元気じゃねぇか!!」「で、なんでフェイトは壁に埋まったまま気絶してんの?」半眼で睨んでくるアルフから眼を逸らしながら、ソルはバツが悪そうに言い訳をした。「……いや、あんまりにも見事な気迫を放つもんだから、身の危険を感じてつい反射的に巴投げをしちまってだな」上下逆さまで標本のように壁ビターン状態で眼を回しているフェイトの姿を一瞥すると、アルフが怒鳴る。「なんでそのまましっぽりいかなかったんだい!!」「怒るとこそこじゃねぇだろ普通!!」数日後。「……何だってんだ畜生、どいつもこいつも俺が悪いみたいな言い方しやがって……」例によって例の如くナカジマ家。「プハハ、アハ、アハハハハハハッ!! やーいやーい甲斐性無しー!!」「テメェ調子に乗りやがって、こっちは切実に悩んでるってのに……ぶっ殺すぞクイント?」「なーにー? 私よく聞こえなーい、甲斐性無いと聞こえないのー」「ぶっ殺すっつったんだよ!!!」「しゃあっ!! 来なさい、返り討ちよ!!!」「またかお前らは!! 殴り合いがしたいなら最初っから酒なんて飲むんじゃねー!! 勿体無ぇだろーが!!!」「始まった始まった!! 録画、録画しなきゃ!! スバル、早く早く!!」「ギン姉、なんで私がカメラマンに? ていうかそのマイクは何?」「さあ、今日も始まりました酒の席で酔っ払いの殴り合いが。ナカジマ家のお母さんVS”背徳の炎”との魔法無しのガチンコバトル、今夜は一体どっちに軍配が上がるのでしょうか!?」ナカジマ家は今夜も近所迷惑になるくらいに騒がしかった。『構って欲しくて』ある日。「ソル、今日は魔法無しでの――」「ソルッ!! 俺と勝負しろ!!」シグナムがソルに駆け寄ろうとしたその時、横合いから神速を用いて飛び出した恭也が木刀を振りかざしてソルを襲う。木刀と木刀がぶつかり合う乾いた音が道場の中に響き渡る。「諦めの悪い坊やだ」「今日こそお前に勝つ!!!」「面白ぇ、やれるもんならやってみやがれ」鍔迫り合いをしながら火花を散らすソルと恭也は一旦距離を取ると、雄叫びを上げて相手に向かって突っ込んだ。「……恭也殿にソルを盗られた」ショボンと肩を落とし、シグナムは一人寂しく素振りをすることにした。次の日。「今日こそはソルと模擬戦を――」「父さん、一本付き合ってください、スタンエッジ!!」意気込むシグナムの視線の先で、いきなり雷の刃を飛ばしながらソルに迫るエリオが居た。「生意気言いやがって」とか何とか言いつつ、ソルは口元に笑みを浮かべ封炎剣を薙ぎ払い雷の刃を消し飛ばす。「お願いします!! ビークドライバー!!」「軽いな。攻撃ってのはこうやるんだよ!!」そのまま雷と炎を発生させながら二人は激しく衝突した。「……エリオにソルを盗られた」がっくりと項垂れると、シグナムはトボトボと歩き出し、とりあえずソルの代わりに模擬戦の相手になってくれる者を探すことにした。別の日。丁度ソルが手持ち無沙汰にしているらしいので、チャンスと思い声を掛けようと口を開いた瞬間、彼の前にリードを咥えた狼形態のザフィーラが現れた。「ん? ザフィーラ……散歩でも行くか」ソルの言葉にザフィーラは嬉しそうに尻尾をパタパタさせる。「久しぶりに全力で競争でもしないか?」「いいぜ、前みてぇに吠え面かかせてやるよ」「あの時はショックだったな、四本足が二本足に純粋な競走で負けたのだから。だが、今日は前のようにはいかん」「ハッ、吠えてろ」一人と一匹は、土煙を上げてあっという間に何処かへと走り去ってしまった。「……くっ、ザフィーラめ」ギリギリとシグナムは歯軋りをする破目に。これまた別の日。「そういえばさ、先週の遺跡調査の件なんだけど」「ああ、あれか」「ちょっと此処の部分で気になる点が――」ソルとユーノが話し込んでから既に四時間は経過している。その様子をパソコンで一人将棋をしながらチラチラと窺っていたシグナムは、いい加減にしろと声を大にして叫び出したかったが、仕事の話である以上口出し出来なかった。「おのれユーノ……男の癖にソルを独り占めにして」小さく紡がれたシグナムの怨嗟の声を聞いた者は居ない。またもや別の日。「ソル、良い豆が入ったんだ。店に出す前に試飲しないか?」「断る理由が無ぇな」台所に引っ込むと、二人はコーヒー豆について専門的な会話を楽しそうに始める。他の人間が入り込む余地は無い。「馬鹿な、まさか士郎殿まで……」ガガーンとショックを受けるシグナムはかなり被害妄想が入っていた。淑女同盟会議。「男性陣が邪魔する件について!!」ダンッ、と正座した状態で道場の床に拳を叩きつけるシグナムに他の皆は、あるあるあるある、と首をコクコク縦に振って同意を示す。「だいたいアイツは――」そこからはもう皆で愚痴や惚気、自慢話の嵐である。会議と銘打っているが、会議は会議でも井戸端会議であり、実質ストレスの捌け口だったりするのだ。「そもそもアイツには性欲が無いのか? 旅行に行った時の覗きは単なる罰ゲームと聞く」議論の内容が二転三転し、ついに前々から疑問に思っていたことをシグナムが吐き出す。「私もこの前迫ったら焼き土下座させられたしなぁ」「私は押し倒したら巴投げされた」「……その光景が容易に目に浮かぶわ」なのはとフェイトの発言にはやては遠い目をした。ちなみに、はやては夜討ちをする為に部屋に侵入しようして結界に阻まれ、クイーンに捕縛されてからバンディットリヴォルバーに見せかけた低空サイドワインダーをまともに食らって気を失い、朝まで眼を覚まさなかった経験がある。これはフェイトの時と同様に、はやてが放つ威圧感にビビッたソルが身の危険を感じ、戦闘者としての防衛本能を発動させて半ば本気で迎撃してしまった所為だ。当時のソルの心境は「またやっちまった……」。というか、男に迫る時に殺気染みた気配を纏っている女性陣が悪いのだが。その数日後に、ソルが何時も通りナカジマ家で酒飲みながら愚痴を垂れた後にクイントと殴り合いをしていたのは此処では関係無い。閑話休題。ギアも繁殖はするというので性欲はある筈なのだが、その片鱗を微塵も見せないとはどういうことなのか?不満たらたらな四人とは対照的に、アインとシャマルは余裕の笑みでフフフと笑っている。「聞いた、アイン? 私達以外全然ダメね」「そうだな。全くなってないな」「ソルくんって意外にロマンチストなのに、そのことを理解してないの? 無理やりなんて彼が嫌がるに決まってるじゃない」それ以前に気配をなんとかした方が良い。迎撃されるのがオチだから。「ああ。逆に言えばシチュエーションと雰囲気作りさえしっかりやれば良いところまで行けるというのに」「それに彼って慎ましい女性が好みなのよね」「心の繋がりの前に身体の繋がりを求めるなど、己の性欲を満たそうとしていると捉えられても仕方が無い」言いたい放題言ってるが、ツヴァイとエリオが高町家で暮らすようになるまで他の連中と同じ穴のムジナだったことをすっかり忘れ、自分達を棚の最上段に上げている。更に言えばこの場に慎ましい女性なんて居ない。居ないったら居ない。「聞いて。私この前にエリオと三人で出掛けた時に凄く良い雰囲気になって――」「うむ、私もツヴァイと三人で同衾した時に――」何やら勝者と敗者の間で大きな溝が出来てしまっていた。「うがああああああああああっ!! ズルイ、二人共ズルイで!! 羨ましいくらいに奥さんしとるやん!!」「まだ一線を越えた訳じゃ無い癖に偉そうにしないで欲しいの!!」「ていうか、子どもをダシにするのは卑怯だよ!!」「あの場に居たのがシャマルではなく私であれば、今頃……」はやてが喚き、なのはが唇を尖らせ、フェイトが指を差し、シグナムがなんてこったいと頭を抱えた。女達が夜の道場でギャーギャーと言い合いしていることを、話の中心人物であるソルは知らない。何故なら、丁度その時はツヴァイとエリオと三人で仲良くお風呂に入っていたからである。そしてある日。「何処行っちまった?」髪留めのゴムを無くしたらしいソルが、長い髪をそのままにキョロキョロと地下室を家捜ししていた。「探しているのはこれか?」そんなソルを見るに見かねてシグナムは先程床に転がっていたところを発見した髪留めのゴムを掲げる。「おう、それだそれ。悪ぃな」「私が結わえてやろう、此処に座れ」「別にそんなの自分で――」「いいから座れ」決して大きくはないが有無を言わせぬ口調のシグナムを訝しげに見つめた後、ソルは黙って言う通りに畳の上に座った。その背後にシグナムは回り込む。「……」「早くしろよ」「あ、ああ……」なかなか髪を結わえようとしないシグナムを促すと、彼女は何を思ったのか自分の髪を結わえている紐のようなリボンを外し、それを使ってソルの髪を結わえる。次に、彼女はソルの髪留めのゴムで自分の髪を結わえるのだった。「おい、これ」「私のリボンだ。今日みたいに無くすな、絶対にだ」「……」何処か切羽詰っているような空気を纏うシグナムの様子にソルは戸惑い、それ以上何も言えなくなってしまう。「なぁ、ソル」「ああン?」「私はお前に必要とされているか?」「は?」「答えてくれ」普段の凛々しい彼女とは打って変わってしおらしい態度に訳が分からず振り向こうとするが、彼女は顔を見られたくないのか背後からソルの両肩を手で掴み背中に額を当て顔を見られないようにする。「私は戦うことしか能の無い女だ。皆のような可愛げも無ければ、他に特別に突出したものがある訳でも無い。日常生活の面でも女らしく振舞うことが出来ず、ただ日々を過ごしている」ソルは黙って話を聞くことにした。「それに加えて、私唯一の”力”ですらお前には遠く及ばない」肩に置かれたシグナムの手が震えていた。それが悔しさなのか、悲しみなのか、他の何かなのかソルには判別がつかない。「時折不安になるんだ。私はシャマルのように補助に特化している訳でも無い、ザフィーラのように防御に優れている訳でも無い、ヴィータやアインのようなオールラウンダーでもない、ただ近距離で剣を振るうだけで……お前と同じ戦闘スタイルだからこそ不安なんだ」「何が言いたい?」「私は、著しく戦闘能力でお前に劣る私は、本当にお前の役に立っているのか? お前の傍に居ていいのか? 足手纏いだと思われていないか?」「……ったく、どうでもいいことで悩みやがって」盛大に溜息一つ吐くと、強引に振り向いてシグナムの襟首を掴み引き寄せる。「俺が何時、お前を必要としていないなんて言った?」割と本気で怒っているらしい自分に内心驚きつつ、ソルは言葉を重ねた。「忘れたのか? お前らヴォルケンリッターが管理局を辞める前に言ったろ、『背中を預ける』って。お前そん時なんつった? 『任せろ』ってはっきり答えたじゃねぇか」「だが私は――」「うるせぇ、俺の信頼を裏切るようなことを二度と言うんじゃねぇ。今度そんな弱音吐いたら問答無用で消し炭にするぞ」吐息がかかる至近距離でソルの真紅の瞳に睨まれて、シグナムは不安げに眼を細める。「ソルは、私が必要か?」「ああ」襟首を掴んだ手を離し躊躇わず答えると、彼女はソルの胸に飛び込んだ。他の皆と比べると普段からあまりソルに甘えようとしないシグナムだが、どうやらこの時ばかりは違うらしい。珍しく二人っきりだからかもしれない。しゃあねぇなぁ、と思いながら腕の中に居るシグナムの背中をポンポン叩く。「だいたい、なんでこんなこと考えるようになったんだよ」「……最近ソルと模擬戦してない」はあ~!? それだけかよ? と呆れていたら続きがあった。「それに、お前はエリオとツヴァイにばかり構い通しで、二人の子どもに便乗するようにシャマルとアインも一緒に……なのは達も何だかんだ言ってお前と一緒に過ごしている時間があるのに私だけ……おまけに男性陣には邪魔されるし」最後のだけ意味不明だったが、どうやら自分だけ除け者にされているような疎外感を感じていたらしい。言われてみれば、此処最近シグナムと時間を共有することはほとんど無かった。仕事でも家でも訓練でも。変形時間労働制の仕事三つを掛け持ちし――特に管理局から来る仕事は緊急で入る場合がある――同時に中学生でもあるソルはかなり不規則な生活リズムを送っているので、仕方が無いと言えば仕方が無いのかもしれないが。「お前さ、自分で思っている以上に女らしいぜ」「世辞など言うな、女らしくないというのは私が一番分かっているんだ」「んなこと無ぇって」顔を上げて頬を膨らませるシグナムが妙に可愛く見えてしまって、ソルは苦笑する。と、ソルの表情を見て何か勘違いしたのか、シグナムは顔を赤くして文句を言った。「何が可笑しい?」「可愛いお前が微笑ましくて、ついな」「っ!? う、嘘を吐くな!!」「くくくく」「笑うな、笑うな!!」「可愛いな、お前」「ううぅぅぅぅ~」トマトのようにますます顔を赤くして唸るシグナム。そんな風に二人でじゃれ合っていると、クイーンに緊急の通信が入った。『お楽しみ中に悪いんだけど、すぐに手を貸してくれないかしら? 厄介なことにとある管理世界でロストロギアを用いた無差別テロが発生したの』「ひゃあああああ!?」空間モニターに映し出されたレティの顔を認識した瞬間に、シグナムが可愛い悲鳴を上げながら弾かれたようにソルから離れる。「レレレレレティ提督、いい、いい今見た光景はなな内密に――」「やれやれ、休日出勤か」テンパって両腕を意味も無くわたわたと振り回すシグナムとは対照的に、ソルは何時もの不敵な笑みを浮かべると立ち上がってセットアップ。「すぐにそっちへ行く。俺とシグナムだけで十分だろ?」『ええ、お願いね。着いたら詳しい状況を伝えるわ』短いやり取りを終えて通信が切れる。「おいシグナム、何時までコタツの中に隠れてんだ、とっとと出て来い」羞恥のあまりにコタツの中に隠れてしまった彼女を、コタツごと引っ繰り返して無理やり出すとレヴァンティンを持たせてセットアップさせる。「しっかりしろ。お前には俺の背中を守ってもらうんだからよ」その言葉を聞いた瞬間、彼女は羞恥に頬を染める乙女から凛々しい戦士の顔になった。こういう切り替えの早さは流石に一流だな、とソルは舌を巻く。「……ああ、任せろ。我が名は夜天の魔導書のヴォルケンリッター、烈火の将シグナム。騎士の誇りと名に懸けて”背徳の炎”の背中は私が必ず守り抜く!!」この日以来、ソルは髪留めにシグナムからもらったリボンを、逆にシグナムはソルが使っていた何の色気も無いゴム製の髪留めを使うようになった。『誕生日のケーキ』ソルが高町家に来訪したその日をソルの誕生日としており、毎年翠屋では閉店後にささやかな誕生パーティが開かれることになっていた。高町家と八神家は勿論、月村家に加えてアリサまで居る。お誕生日おめでとう、という言葉と共に眼の前のケーキに立てられた蝋燭を吹き消すべきなんだろうが、ソルは顔を顰めたまま動かない。祝ってくれる気持ちはありがたいのだが、如何せん眼の前のケーキについて一言文句がある。「……蝋燭が多過ぎる」年齢の数を蝋燭に突き立てて火を着ける、これは通例だ。かと言ってソルの年齢に合わせて本当に二百本以上も蝋燭が突き立ててある誕生ケーキなど正気の沙汰ではない。見た目は最早誕生ケーキと呼称するよりも、ケーキを土台とした松明と呼称した方が良いに決まっている。「早く消せよ、食えねーだろ」「待て、消す消さない以前に突っ込むべき部分があんだろ?」「んなこたぁーいいから早く消せ!!」ヴィータが急かしてくるのでうんざりと返したが聞いてない。こめかみに汗を垂らしながら周囲を見渡すが、皆揃って無言で「早く消せ」と眼が訴えているではないか。色んな意味でいいのかこれで?思いっ切り肺に空気を溜めてから一気に吹き消すと、歓声と共に半端無い量の煙がもくもくもくもく立ち昇る。(常香炉みてぇだ)ボンヤリと煙が霧散して消える様を見届けながら、これがずっと続くのかと思うと嬉しいような、少し変えて欲しいような、微妙な心境になりつつ感慨に耽るソルだった。後書きついにやってしまった。やっちゃった、やっちゃったよ、って感じの作者です。予定ではあと二つくらい詰め込むつもりだったんですが、一話一話が予想以上に長くなってしまったので、今回はこの辺で。以前のエリオ初登場話時にシャマル無双だったので彼女はお休み。今回お送りしたのは、なのは、フェイト、シグナムの三人でした。アインはまたの機会に。はやては面白いのが浮かばなかったので誰かネタプリーズ(結構切実)。他のキャラのも読みたいという方が居るのであればネタプリーズwww以下、作品解説。『ドラゴンライダーごっこ』一発ネタ。誰かにやらせたかっただけですwwwこの影響を受けてエリオは凄腕のドラゴンライダーに、とかなんとか考え付いた作者は間違い無く頭沸いてます。『インモラルの炎』これも一発ネタ。フェイトが作中で歌っている曲はSTSでの挿入歌です。ええ、あの神曲です。声優ネタでもあります。感想版で早い段階でご指摘をいただいたので、心苦しいですが歌詞部分を削除しました。今更白状しますと、”A`s編の最終決戦vol.22のソルがギアに変身するシーンからvol.23のナパームデスが決まるまで”はこの神曲をイメージしています。歌い出しのサビがギアになることを指し示し、変身、一番のサビ部分が”ギアの力”やソルを意味していて――といった感じで脳内で妄想爆発状態で執筆していました。執筆中はこの曲をエンドレスループで聞いていましたよwwwていうか、聴けば聴く程この曲って最終決戦に相応しいんですよね……流石STSで一番熱いシーンで挿入されていた歌だけのことはある。歌詞と照らし合わせながら戦闘シーンを妄想していただければA`s編が深まるかも?ていうか、なのはの曲の歌詞って原作の内容に凄く合ってると思うのは私だけ?そんな神曲をこんな馬鹿なネタで披露することになってごめんなさい。聴いたことない人は是非聞いてみましょう。『構って欲しくて』副題は間違い無く「乙女シグナム」。↑の二つと同じで、書いている内に何故か非常に長くなってしまった一発ネタ。まあ、書いてて楽しかったからいいんですけど……『誕生日のケーキ』↑の三つが空白期内であるのに対して、この作品だけ時系列はA`s編終了後の春。ソルのだいたいの実年齢が分かった後、ということです。これこそ私が書きたかった一発ネタ、と言わんばかりの短さ。本来なら↑の三つもこれと同じくらいの長さになる筈だったのに、どうしてこうなった?皆さん、こんな話が読みたいとか、こいつとの絡みを書けとか、ソル以外の面子の話が読みたい、と思いましたらドシドシネタ提供してくれて構いません。ではまた次回!!