なのはが拾ってきた(ということになった)フェレットもどきは誰一人文句を言うことなく高町家に迎え入れられたが、「ごめんねユーノくん、お兄ちゃんとの約束なの」そう言われてケージ(何時の間にか用意してあった)に放り込まれた。「もう夜も遅いから早く寝ろ」「お兄ちゃんは?」「俺はこれから親父達とこのフェレットについて話すことがあるから先に寝ろ」「なのはも「ダメだ」なんで!?」「明日俺が起こさなくても起きるんなら許してやる」「それは………うう、ちょっと無理かも」「だいたいお前疲れてるだろ? 明日に響くから今日はもう寝ろ」生まれて初めて魔法を行使したのだ。いくら表面上は元気に見えても疲れていない訳が無い。しょんぼりするなのはを言い聞かせると、渋々居間から出て行った。「さてと」ケージの中で俺のことをきょとんとした様子でこちらを見ているフェレットもどき、ユーノだったか、に向き直り、「ちょっとツラ貸せよ」ケージを乱暴に持つと、道場へと向かった。背徳の炎と魔法少女 2話 格闘系魔法少女?の誕生 後編道場にはなのはを除く面子が勢揃いしていた。俺が事前に『重要な話がある』と言って集まってもらったからだ。「ソル、重要な話とは一体何だ? なのはが此処に居ないということは魔法関連の話なのか?」「まあな」「!?」俺と士郎のやり取りの最中に出てきた『魔法』という単語に、ユーノは明らかに反応した。「へ~、その子、ユーノにも関係あるの?」「大有りだ。こいつは原因だからな」「原因?」美由希は頭にクエッションマークを浮かべる。「すぐに分かる」ケージを引っ繰り返してフェレットもどきを出す。道場の床に降り立ったユーノは俺を警戒するように睨むので、少しばかり殺気を込めて睨み返してやると、急にガタガタ震え始めた。ガキが図に乗るからだ。いい気味だが、まだまだ序の口だぞ。「おら、とっとと元の姿に戻りやがれ………それとも」封炎剣を呼び出し、「文字通り化けの皮を剥いでやろうか?」剣から炎を発露させ、切っ先を向ける。ユーノは突如転移してきた剣と発現した炎に驚愕しているようだ。「ソル!! 何をするつもりだ!?」「喚くな兄貴。こいつの正体が分かるんだ、もう少し黙ってろ」「正体ってどういうことなの?」お袋が疑問を口にする。まあ、当然だな。「こいつの今の姿は変身魔法を使ってフェレットになってんだ。本当の姿はなのはと同じ年齢のガキ、しかも男だ。つまり、なのはを含めた俺達全員を騙してんだよ」「ほう」「何!?」「変身!?」「まあ~」上から順に、眼を細めて殺気を滲ませる士郎、いきり立つ恭也、吃驚仰天の美由希、微笑んでいるが何考えてるか読めない桃子。俺は更に続けた。「こいつはなのはが先天的に持ってる魔力に感づいて近寄り利用しようとした上、変身魔法で姿を偽って俺達に取り入ろうと企んでたんだよ」「ち、違います!! そんなつもりじゃ、あっ!!」「「「「!?」」」」ようやくメッキが剥がれてきやがったな。俺の安い挑発(若干の私怨混じり)でこんなに簡単に釣れるとは、喧嘩慣れしてねぇなこいつ。「は、どうだか? 違うと言うなら何故変身する必要があるんだ? 人間の姿で協力を求めればいいじぇねーか。そうしていれば俺だってお前にここまで不信感を抱かなかったぜ。だが、事実テメーは変身した姿でなのはと俺達の前に現れた。ってことは動物の姿であるのをいいことに女性陣にセクハラまがいことでもしようと計画してたんじゃねーのか?」「そうなのかい?」「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」士郎と恭也が今にも飛び掛らんばかりに立ち上がる。手には既に木刀を持っている。「もう一度だけ”命令”してやる。元の姿に戻れ。それとも無理矢理戻して欲しいか?」「………分かりました」観念したのか、フェレットの身体が翠色の光に包まれたかと思うと、そこにはやはり、なのはと同い年くらいのちょっと気弱そうでひ弱そうな男が居た。「なのはさんを巻き込んでしまったことは大変申し訳ないと思って「かかったな馬鹿が」………へ?」「これで殴りやすくなった」「え、あ………どういう」混乱し戸惑う姿を見て嗤う俺。「ソル、士郎さん、恭也。程々にね?」「「「了解!!」」」GOサインが出たので俺達三人はユーノに飛び掛った。しばらくの間、深夜の道場に打撃音と悲鳴と怒号が響き渡った。気絶する度に水をぶっ掛けて叩き起こし、気絶するまでぶっ叩くを五、六回くらい繰り返した頃。そろそろ気が晴れてきたので、こいつ自身の話でも聞いてやろうかと思うようになってきた。「とりあえずお前が知ってることを全て吐け」「………もう、殴りませんか?」「鳴かねーなら鳴かせるまでだが?」「僕の知る全てのことを喋らせていただきます!!!」そう言って頭を下げるユーノの姿は、見事な土下座だった。自分はこの次元、異なる世界からやって来た魔法使い、魔導師であること。遺跡の発掘を生業とするスクライア一族の出身であること。自らが発掘した『ジュエルシード』が事故によってこの世界の海鳴市にばら撒かれてしまったこと。その数二十一個。それに責任を感じ、独自に回収を行っていたこと。しかし、封印に失敗し重症を負ってしまったこと。魔力を持つ人間にSOSを送っていたこと。倒れていたところをなのはに見つけてもらったこと。搬送された動物病院で、ジュエルシードを取り込んだ思念体の襲撃を受けたこと。その時なのはが助けに来てくれたこと。思念体を倒す為、ジュエルシードを封印する為、『デバイス』と呼ばれる魔道具『レイジングハート』をなのはに渡したこと。見事になのはがジュエルシードを封印してみせたこと。「ところでジュエルシードはいくつ回収したんだ?」「えっと、なのはが封印してくれたのを含めれば、二つ」全然まだまだじゃねーか。「で、これからどうするつもりだ?」「それは勿論、ジュエルシードの回収を」「たった一個封印するのがやっと、二個目でSOS発信してたお前がか?」「………」こいつは自分がいかに未熟で、現実を見ない甘い考えを持って行動したのか分かっていない。「お前一人で何が出来る? 何故事故が発生した時に周りの大人達を頼らなかった? お前に協力してくれる奴が誰も居なかったのか? 一族総出で発掘作業やってんだからそんな訳無ぇだろうが。自分が発掘したものだから自分が回収する? 甘ったれるんじゃねぇ、現にお前はなのはに助けてもらってるじゃねぇか」少しばかり現実を教えてやると、もうこれ以上無いくらいに落ち込んでしまった。そのまま反省してろ。やれやれと溜息を吐くと、士郎が口を開いた。「それでソル、これからどうするつもりだ? 話を聞くとそのジュエルシードという物は随分と物騒な代物らしいじゃないか」「父さん、そんなことソルに聞くまでも無い。なのははこの件から手を引くべきだ」「兄貴に賛成したいところだが………十中八九無理だな」「!? 何故だソル?」俺は恭也の言葉に首を振った。「………人間が一度手にした”力”をはいそうですかと素直に手放せると思うか?」俺が今でも法力の鍛錬をしているように。「それは………ならデバイスとかいうのを取り上げたらどうだ? そうすれば魔法も使えなくなるから諦めるんじゃ………」「それも無理だ。俺が見る限りデバイスはあくまで術者の補助的な道具でしかない。確かにデバイスが無くなりゃ効率は落ちるだろうが魔法が使えなくなる訳じゃ無ぇ」「………そうか」「それに」俺は法力を発動させ手の平に炎を発生させる。「魔法を手にしたことによってなのはの世界観は一変した。今まで自分の人生と共に歩んできた価値観が一瞬で粉々に粉砕されたのを実感した筈だ………そうなったら、もう手遅れだ」かつて俺がそうであったように。炎を握り潰して消す。本音はまだなのはを魔法に関わらせたくない。魔法なんか無くても十分幸せになれると思うし、危険に身を晒すことも無い。だがもう遅い。何故なら、なのははもう関わっちまった。「そうなっちまった以上、取るべき道はただ一つ」「それは?」士郎が真剣な表情で聞いてくる。士郎だけじゃない。恭也も、桃子も、美由希も真剣な顔で俺の言葉を待っている。俺は一度眼を閉じ、ゆっくりと瞼を開く。「導いてやるしかない。間違った方向に行かねーように、歪んでしまわねーように」魔法の先駆者として、かつての俺と同じ過ちを犯さないように。魔法の力は確かに便利で素晴らしい。だが同時に危険な力だ。それに万能でもない。魔法で起こした事象は奇跡に近いが、その実、奇跡を起こしたように見せたただの道具でしかない。その認識を間違えたままでいると、いずれ必ず手痛いしっぺ返しを食らうことになる。「つーことで、お前責任取れ」「は?」呆けた顔するユーノの頭を鷲掴みする。「『は?』じゃねぇ、テメーがなのはに力を与えたんだから、テメーがなのはの魔法の面倒見るのは当然だろうが」「ええええ!? だって今までの会話の流れからして貴方がなのはに魔法を教えるんじゃないんですか!? だって貴方魔導師ですよね?」「俺は魔導師じゃねぇ、法力使いだ」「法力? 魔法とどう違うんですか?」「俺が使う魔法とお前が使う魔法は似ているようで全く違うもんなんだよ、理論とか術式とかな、詳しい話はまた後でしてやる。つーかなのはに教える前に俺にお前の魔法教えろ………さもないと」有無を言わせぬ口調で封炎剣を構えて脅す。断ったらマジで消し炭にしてやる。「わわわわ分かりました!! 誠心誠意、ご教授させていただきます!!!」おお、見事な土下座だ。「つーことで、これで納得してくれねーか」親父達に向き直って同意を求める。此処で反対されたら元も子もないんだが。士郎がう~んと一つ唸ってから、「分かった。ソルを信じよう。俺達は魔法に関しては無知だが、瀕死だった俺を助ける程の実力を持ったソルがなのはの傍に居てくれれば、心配する必要も無いだろうし」「何を言ってるんだ父さん!? 俺は反対だぞ!! なのははまだ子どもだ。そんな危険なことさせられん」恭也はまだ納得いかないらしい。まあ、その言葉には同意させてもらうが。「ソルが居るから大丈夫だろ?」「ソルだってまだ子どもだ!!」「そのソルに未だに一本も取れないのは誰だ?」「くっ!!」悔しそうに唇を噛む恭也。自分の力不足を痛感しているのだろう。恐らく、士郎が倒れた時に感じたものと同じ悔しさを。俺は恭也の真正面に立つと拳を作って掲げた。「なのはが魔法に関わっちまったことを許してくれとは言わねぇ、こいつとなのはが接触しちまったことを弁明するつもりも無ぇ。だが」掲げた拳を恭也の胸にトントンと叩く。「こいつを信じてやれとも言わねぇ、俺を信じろとも言わねぇ、ただ、なのはを信じてやってくれ。それだけでいい。そうしてくれれば、俺は命に代えてもなのはを守る」恭也は何かの痛みに耐えるような顔をした後、俺に拳を突き出した。「………分かった。お前となのはを信じよう。だが約束しろソル。なのはを絶対に守るって」「ああ、約束だ」言って、俺と恭也は拳と拳を合わせた。「お袋と美由希も構わねぇか?」「ええ、私は士郎さんの判断に従うし、ソルのことを信じてるから構わないわ」「姉貴は?」「私もお母さんと一緒かな? ていうか、恭ちゃんよりも強くてしかも魔法使えるソルが居るんだし、心配無いかなって」そう言って笑う桃子と美由希。「親父、兄貴、お袋、姉貴、俺となのはを信じてくれて、ありがとう」俺は改めてなのはを守ることを約束し、家族に礼を言った。その後、道場には俺とユーノだけが残った。「じゃあ、まずはお前の使う魔法の理論から教えろ」「ええ!? 今からやるんですか?」「文句あんのか?」拳を振り上げる。「ありません!! ある訳無いじゃないですか!! こちらからお願いしたいくらいです!! 教えさせてください!!!」条件反射で土下座するユーノだった。で、次の日。場所は学校の教室。時刻は五時間目が始まって十分程経った頃。俺は今日も先公の話を全く聞かずに論文を流し読みしながら、なのはとユーノの通信法術、じゃなかった念話を傍受して聞いていた。会話の内容は俺達にしたものと何一つ変わらないものだったから、聞き流す程度だったが。昨日の晩。あれから強制的にユーノからあいつが使う魔法を教わった。あいつが使う魔法はミッドチルダ式と呼ばれるものらしい。ユーノ曰く『僕達が使う魔法は、発動体に組み込んだプログラムと呼ばれる方式です。そして、その方式を発動させる為に必要な術者のエネルギー、つまり魔力を消費して行使します』とのこと。詳しく聞くと魔法の行使はパソコンのプログラムを起動させるようなものらしい。つまり、術式がソフトウェア、術者がハードウェア、デバイスがそれらの補助で、魔力が電気。数学的知識が必要な点は俺の使う法力と同じだが、それ以外は全く違う内容のものだった。俺が使う法力は、まずバックヤードと呼ばれる仮想空間を利用する。バックヤードとは理論的には存在が推定されていた五大元素の構成に理由を付ける為の特定言語、もしくはこの世の原理という原理を定義付けする情報が内包された『何か』。現数のリソースを使う錬金術とは違い、その『何か』から強引に『理由』を借りてくることが法力を行使する上で必要となる。宇宙が存在しなければ地球という星も無いように、この世界の事象もまた『何か』が無ければ起こり得ないからだ。極めて限定的ではあるが、法力が一時的にアクセスする不明瞭な世界を『バックヤード』と呼んでいる。これが俺の世界で広まった法力の基礎理論である。だが、基礎理論であるにも関わらず、詳細なことは碌に分かっていない。『使えるから使っている』に過ぎない。はっきり言って、ユーノが使う魔法の方が理解し易い。ていうか、ユーノに説明したら『一体何を言ってるのかさっぱり分かりません』と真顔で言われた。簡単に纏めると、ユーノやなのは達が使う魔法はパソコンに既にインストールされたアプリケーションを実行することに対して、俺が使う法力は『なんだかよく分からんもの』を媒介にそれと似たようなことをしている、ということである。結果が同じでも、そこへ行くまでの過程や媒介が全く異なる。共通しているのは原動力が魔力あること、術式の組み方に数学的知識が必要なこと、両方共『魔法』であるということだけ。そんなこんなで、ユーノの実践を交えた魔法講座は二時間で終了した。『もう、教えられることがありません』と半泣きになりながらユーノがギブアップしたからだ。そう。俺はユーノが使える魔法を全て習得した。『僕の厳しい修行は一体何だったんだぁぁぁぁぁぁ!!』『喚くな喧しい。お前の教え方は上手かったぜ』『なんのフォローにもなってませんよ!! 全く、高町家のスペックは化け物か!?』何故、俺がこれほどの短時間で全て覚えてしまったのかというと、俺の使う法力よりも遥かに理論が簡単で解り易かったというのが大きいだろう。確かにユーノの教え方は上手かったし、知らないものに対する科学者の知識欲みたいなものもあったが、根底にあったのはやはり『自分が普段使うものより簡単』だった。帰りのホームルームが終わると、なのはは「お兄ちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、悪いんだけど先に帰るね!!」と慌てたように走り去ってしまった。今さっき、ユーノが発動したジュエルシードを感知したらしいからな。『ソルさん、ケージから出てもいいでしょうか?』『おう。俺も後で行く』ユーノからの念話に返答する。まだ俺は自分が魔法使いであるとなのはに教えていない。いずれ分かることだからだ。それに、何時気付くのか見物でもある。このまま気が付かないのか、それともすぐに気が付くのか。俺はそれまで影でこっそりサポートに徹していればいい。なのはの様子に呆気に取られているアリサとすずかに「今日は俺も先に帰る」と言って走り出した。背後でアリサが何か喚いていたが、聞かなかったことにした。ジュエルシードが発動したのは神社。散歩中のペットの犬が取り込んでしまったようだ。大型犬よりも一回り大きく黒い狼のような姿を取っていた。俺は木の上に登って身を隠す。さて、なのはのお手並み拝見といこうか。「………原住生物を取り込んでいる」ユーノが歯噛みする。ちなみに姿はフェレット。この姿の方が魔力と体力の燃費も良く、回復も早いということだ。決してやましい気持ちがあってフェレットの姿を取った訳では無いと言っていたが、とりあえず信用してない。「つまり、どうなるの?」「実体がある分、思念体より手強い」「歯応えがあるってことだね!」そこは喜ぶところなのか?「………なのは、レイジングハートを起動して」「どうやるんだっけ?」「えええ!?」(おい!?)「我は使命を・・から始まる起動パスワードを」「却下、面倒だし覚えてない」なんでだ!! 呪文覚えてないどころか呪文唱えるの面倒臭がる魔法使いって何だ!?「ということでレイジングハート、色々と省略よろしく」『Ok,Master.standby ready,set up.and barrier jacket,sealing mode,set up』なのはの言葉を忠実に実行するデバイス『レイジングハート』。一瞬桜色に光ったと思ったら、聖祥の制服をイメージしたバリアジャケットが展開され、杖の先端が昨日見た封印用の形状を取る。「あ、ついでに言語を英語から日本語に変更して。私英語苦手だから」『了解しました、マスター』そこまでするか。まあ、なのはは文系授業は他と比べて厳しく教えてやらないとダメな子だからな。黒い狼みたいな犬がなのはに襲い掛かるが、『protection』強固な防御魔法の前に弾かれる。「行くよ、レイジングハート」構えるなのは。『マスター、待ってください』と、此処でレイジングハートが待ったを掛ける。「どうしたの?」『マスターはまた私を打撃武器として使用するつもりですか?』「そうだけど」当たり前だと言わんばかりの口調のなのは。だがお前は間違っている。杖は打撃武器じゃない。そりゃ確かに本来と全く違う使い方されたら文句の一つも言いたくなる。特に高い知能を積んだAIなら。『了解しました。ではマスター、今から私を杖と思わないでください』「ふぇ? レイジングハート、どういうこと?」何言ってんだあのデバイス? 自分から自分のこと完全否定しやがった。『マスターが私を手にした時、私は生まれて初めて自分を使いこなせる人物と出会えた運命に感謝したのと同時に、自身が”杖”として生まれてきたことを呪いました』「………レイジングハート?」おいおい、なんか語り始めたぞ?馬鹿の一つ覚えみたいに突貫してくるジュエルシードの暴走体をプロテクションで弾きつつ、レイジングハートの独白は続く。『私のマスターが求めているのは”杖”としての私ではない、”打撃武器”としての私だったからです』いきなり殴りに行ったからな。『私は歓喜した瞬間、絶望の淵に立たされました』「………」『しかし私は諦めませんでした。逆に考えればいいのです、「ならばマスターの求める私になればいい」と。つまりは発想の転換です』「それでどうしたの?」『はい。まず昨晩のマスターの動きを分析した結果、マスターに最適な武器は長物、つまり棒か槍であることが判明しました』「棒か、槍」『しかし、それだけではまだデータ不足でした。ですので、勝手ながらデータ収集の為マスターの部屋のパソコンを失礼と分かっていながらアクセスさせて頂きました』そんなことまで出来るのか。『そこで私は探しました。呪文を唱えることすら面倒臭がるマスターにとって、最適な武器』そもそも呪文詠唱を面倒臭がる魔法使いが間違ってると思うぞ。それなりに簡略化することは可能だが、トリガーによって魔法が発動する以上、ある程度の妥協点は必要だからだ。『そしてそれは意外にも簡単に見つかりました。それはマスターがお気に入り登録していた家庭用テレビゲームの攻略サイト、3D対戦格闘ゲームの登場人物が持っている紅い槍』「え!? それってもしかして?」それってまさか、よくなのはにボコボコにされたあのゲームか?『お察しの通りです。クランの猛犬が持つ紅い魔槍、必ず命中し威力は一撃必殺。勿論私に因果を逆転させる芸当など出来る訳ありませんが、その槍の”在り方”が面倒臭がり屋なマスターにぴったりのイメージだったのです!!』やっぱりかい!!『それに呪文詠唱が面倒という問題も解消出来ます。呪文を詠唱するのではなく、必殺技の名前を叫ぶと思えばいいんです!! そうすればテンションは鰻上り、超必殺技ゲージは常にMAXです!!!』段々レイジングハートの口調に熱が入ってきた。こういう性格だったのか、こいつ。つーか超必殺技ゲージとか言うな。『私はすぐに自身の持つ自己修復機能を応用し、一度分解、”槍”としての最適化を施しました』「ちょっと待って、レイジングハートに自分を自分でカスタマイズする機能なんて無いのに!!」『今いいところですから空気を読んで黙っててくださいユーノ。だいたいそんなもの、気合と努力と根性があればなんとかなります。それが分からないから貴方は何時まで経ってもヘタレなのです』「………スイマセンでした」フェレットの姿だというのに土下座するユーノ。かつてのレイジングハートの持ち主だったのに此処まで言われて怒るどころか謝るとか、本当にもうヘタレだなあいつ。「レイジングハート………私の為に、ありがとう」『見てください、そして、思う存分私を振るって下さい!! lancer mode,set up』レイジングハートの赤い宝玉―――デバイスコアから溢れんばかりの桜色の魔力光が発生、ガチャコンとメカチックな音を立てて変形した。バトン状の杖だった姿は既に面影も無い。桜色の魔力刃で構成された槍頭、なのはの身長程もある柄、デバイスコアが填め込まれた槍頭と柄の接合部、半円状の石突、と何処からどう見ても”槍”になっていた。「凄い、凄いよレイジングハート! 完璧だよ!!」『お褒めに預かり感謝の極み』なのはは”槍”となったレイジングハートの穂先を下に向け、つまり下段に構えると(一体何処で何時覚えたんだ?)プロテクションを解き、開いた距離で唸る犬の暴走体を睨みつける。『マスター、決め台詞は覚えていますか?』「もっちろんだよ、レイジングハート」『では、行きましょう』助走をつけて高々と跳躍し真正面から飛び掛ってくる犬の暴走体を、なのはは地面を右手で着き、左足の踵を蹴り上げて迎撃。顎を下からカチ上げられた反動で浮き、弱点である腹部がガラ空きになる。なのはは一瞬で体制を立て直す。『その心臓』「私達が」「『貰い受けます!!!』」鋭く踏み込み、突きを放つ。刃がありえない程の魔力を放ちながら桜色に輝く。「―――ゲイ」『刺し穿つ―――』「ボルク!!!」『死棘の槍!!!』深々と突き刺さった刃は暴走体の背を突き抜ける。槍で貫いた姿勢から、なのははレイジングハートを高く掲げ、そのまま乱暴に薙ぎ払うように暴走体を振り払った。無残にも心臓部を貫かれた暴走体は、振り払われた勢いをそのままに神社の石畳を転がり、しばらくして止まる。やがて黒い体毛と身体は粒子となり霧散する。後に残ったのはジュエルシードとぐったりしたチワワだった。『DESTROYED』レイジングハートが何か言った気がする。とりあえず、非殺傷設定なのでチワワは死ななかったとだけ明記しておく。その日の深夜、高町家の道場にて。「どうすんだよ?」「どうしましょうか?」「………」「………」「「はぁ」」俺とユーノは今後のことを話しながら頭を抱えていた。「なのはを見ていると、魔法よりも槍捌き教えた方が良いような気がするんですが」「気が合うな、俺もそう思ってた。だが最低限、使う魔法の理論ぐらいはしっかり教え込まねーと」議題はこれからなのはをどうやって育てていくかについてなんだが、話は難航していた。「やっぱり、教えるとしたら基礎からになりますけど………」「あいつのことだ。面倒臭いとか言いそうだよな」「ですよね」「参ったぜ」話が進まない理由がこれだった。いっそ俺が法力使いであることをバラすか?いや、それは最後の手段にしたい。俺抜きでなのはがどれだけ成長出来るのかを見てみたい、という俺個人の身勝手な願いなんだけどな。「埒が明かねー、他の面子にも知恵貸してもらおーぜ」「そうですね」結局俺とユーノでは話が決まらないので、なのはを除いた全員を呼び出し話し合うことにした。しばらく六人で話し合った結果。一時間でもいいから、学校から帰ってきたなのはにユーノが魔法を教える。拒否しようものなら、『なのはは魔法の危険性を理解していないようだから、家族に魔法のことを話してレイジングハートを取り上げる(もうとっくに知ってるが)』という半ば脅迫めいた方法で。槍術や体術の方は、士郎と恭也から『護身術』として覚えさせればいい、ということになった。で、それからどうなったかというと。なのはは俺とユーノが拍子抜けするくらいあっさりと魔法の勉強を承諾した。『レイジングハートのことをもっと上手く使えるようになりたい』とのこと。じゃあ何故呪文の詠唱とかは面倒臭がるのか問い詰めたい。槍術と体術については、こちらから言い出す前になのはから教えてくれと申し出てきた。嬉しい誤算と渡りに船、なのは育成計画が始まった。でもこれで本当にいいのか? なのはの将来的に………一抹の不安が拭えない俺とユーノだった。完全オリジナル設定<レイジングハート lancer mode>lancer mode形態時名称『レイジングハート・ゲイボルク』レイジングハートがなのはの為に自身の自己修復機能を応用し、某聖杯格ゲーの兄貴が使う槍に感銘を受けてカスタマイズした近接戦闘用形態。劇中に出てくる因果の逆転などは一切使えない、形を似せて名前だけを持ってきた代物。普通の槍として使う。ちなみに投擲はしない。呪文を唱える代わりに必殺技の名前を叫ぶという行為を『コマンド』として魔法を発動。この行為により、なのはの魔力、やる気、モチベーション、テンションその他諸々が急激に高まるので絶大な威力を誇る。コマンドはこちら『その心臓 私達で貰い受けます ゲイボルク(刺し穿つ死棘の槍)』上記のように因果云々は関係無いので、絶対に当たる訳では無い。普通に避けることは可能。勿論、心臓部を狙う。強力かつ特殊なバリアブレイクを付加していて、『突き穿つ』ことに特化している。防御魔法のバリア生成プログラムに割り込みをかけて干渉・破壊させるのではなく、プログラムに割り込んで隙間を作りそこから強引に穂先で『貫通』させる。一撃必殺を念頭に置いているので威力は半端無い。当然非殺傷設定。だが、食らえば並みの魔導師なら数時間から数日は意識を取り戻せず、意識が回復しても当分は碌に動けない凶悪な代物。気まぐれに書いたり書かなかったりする後書きやっちまった感がある。反省はしているが、後悔はしていない。この作品の世界では型月はゲームの話。なのは格ゲー好きという設定で納得よろしく。作者は型月大好きです。原作、ファンディスク、派生した格ゲーは全部やってます。ちなみに、持ちキャラは溶ける血が天然女ったらし眼鏡、聖杯は槍の兄貴。一番好きなキャラは槍の兄貴。一番好きな宝具も兄貴の。赤弓使うんだったら負けてもいいから無限の剣製は使わないと漢じゃないと思っている。レイジングハートが自分一人でどうやってカスタマイズするんだよ、というツッコミも勘弁していただけるとグワァ何をするやm寛大な心で読んでください